最高裁判所裁判官及び事務総局の各局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと等

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目次
1 最高裁判所長官室等の写真は不開示情報に当たること
2 最高裁判所事務総局の局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと
3 国家機関としての最高裁判所自体が侵入・襲撃の対象となるおそれが高いこと
4 インターネットその他を通じて,誰でも入手できる情報
5 最高裁判所庁舎内で発生した襲撃事件は確認できないこと
6 関連記事その他

1 最高裁判所長官室等の写真は不開示情報に当たること
(1) 「最高裁判所長官室の写真」,「最高裁判所判事室の写真」及び「最高裁判所首席調査官室の写真」は不開示情報に当たるとした,平成29年度(最情)答申第27号(平成29年8月7日答申)には以下の記載があります(改行及びナンバリングを追加しました。)。
① 本件各対象文書を見分した結果によれば,本件各対象文書は,最高裁判所庁舎の耐震改修工事について施工業者が作成した報告書の抜粋であり,本件不開示部分のうち個人の氏名及び押印部分は,施工業者の現場代理人の氏名及び押印であること,その余の部分は,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の写真並びにその撮影場所であることが認められる。
② まず,本件不開示部分のうち個人の氏名及び押印部分につき検討すると,その記載内容からすれば,上記部分は法5条1号に規定する個人識別情報と認められ,同号イからハまでに相当する事情は認められない。
③ また,本件不開示部分のうちその余の部分については,その記載等の内容からすれば,上記部分を公にすると,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の位置及び構造が明らかになるものと認められる。
   そうすると,最高裁判所長官及び最高裁判所判事は,裁判所の業務に係る意思決定において極めて重要な役割を担っており,最高裁判所首席調査官は,最高裁判所の裁判所調査官の事務を総括していることから,いずれも襲撃の対象となるおそれが高く,上記各室は極めて高度なセキュリティが要請されるという最高裁判所事務総長の上記説明が不合理とはいえず,上記部分を公にすることにより,庁舎管理事務及び警備事務に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
   この点について,苦情申出人は,日本女性法律家協会のホームページに掲載された写真を挙げて,最高裁判所判事室の写真が公表されたと主張するが,当該ホームページに掲載されている写真は,最高裁判所判事を被写体とし,背景として最高裁判所判事室のごく一部が写っているにすぎないものであるから,本件の結論には影響しない。
④ したがって,本件不開示部分は,法5条1号及び6号に規定する不開示情報に相当する。
(2) 平成28年度(最情)答申第48号(平成29年3月17日答申)には以下の記載があります。
   最高裁判所の庁舎は,その多くの部分が一般の来庁者の出入りが想定されていない建物であり,入構するには原則として許可が必要であることや,内部に最高裁判所判事室や事務総局の中枢部分などがあることからすると,全体として高度なセキュリティの確保が要請されており,庁舎の部屋の配置等を公にすることにより,全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとする上記説明は合理的である。また,事件当事者や傍聴人,見学者等の来庁者の出入りが予想され,一般に公開されていると評価できる部分については警備事務等の支障がないとする説明も合理的である。

2 最高裁判所事務総局の局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと
・ 令和元年6月13日付の理由説明書には以下の記載があります。
   最高裁判所は,我が国唯一の最上級裁判所として裁判手続及び司法行政を行う機関であり,最高裁判所判事や事務総局の各局課館長は,裁判所の重大な職務を担う要人として,襲撃の対象となるおそれが高く,その重大な職務が全うされるように,最高裁判所の庁舎全体に極めて高度なセキュリティを確保する必要がある。そのため,最高裁判所では,各門扉に警備員を配し,一般的に公開されている法廷等の部分を除き,許可のない者の入構を禁止している。
   この点,本件対象文書中,原判断において不開示とした部分は,各門における入構方法に関する具体的な運用が記載されており, この情報を公にすると警備レベルの低下を招くことになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになるから, 当該部分は,行政機関情報公開法第5条第6号に定める不開示情報に相当する。
   よって,原判断は相当である。

3 国家機関としての最高裁判所自体が侵入・襲撃の対象となるおそれが高いこと
・ 大阪地裁令和2年6月4日判決(裁判長は48期の松永栄治裁判官。判例秘書に掲載)は,以下の判示をしています。
   最高裁判所は,我が国唯一の最上級裁判所として,裁判事務及び司法行政事務を行う重要な国家機関であり,最高裁判所の裁判官や事務総局の各局課長が,裁判所の重大な職務を担う要人として襲撃の対象となるおそれが高いといえるだけでなく,国家機関としての最高裁判所自体が侵入・襲撃の対象となるおそれも高いということができる。そうすると,庁舎全体に極めて高度なセキュリティが確保される必要があることは明らかである。
   そして,上記のとおりの本件不開示情報(山中注:昭和40年代後半に作成された,最高裁判所庁舎の建設工事発注図面の不開示情報のこと。)の内容からすると,本件不開示情報が公にされた場合には,裁判事務や司法行政事務の妨害・混乱等を企てる者や,国家の存立を脅かそうとする者等が,外部から庁舎への出入口や各室の配置,各室への進入路,建物全体の構造等についての正確な情報を知ることとなり,これらの情報に基づき,庁舎内に侵入したり,庁舎内の要人等を襲撃したりするための最適な場所・方法等を検討・計画することが可能又は容易になるということができる。
   そうすると,本件不開示情報を公にした場合,不法な侵入・破壊を招くなど,犯罪を誘発し,又は犯罪の実行を容易にし,公共の安全を害するおそれがあると認めた国土交通大臣の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものということはできず,その判断には相当の理由があるから,本件不開示情報は,情報公開法5条4号所定の不開示情報(公共の安全等に関する情報)に該当するものというべきである。

4 インターネットその他を通じて,誰でも入手できる情報
(1) 東弁リブラ2016年12月号「前最高裁判事に訊く-山浦善樹会員」には,以下の記載があります(改行及びナンバリングを追加しました。)。現職の最高裁判所判事が夜に自分の法律事務所に行って黙々と後片付けの作業をしていたそうです。
①   平成24年1月の閣議で就任が決まり,法律事務所は「閉鎖」と決まりました。それからが大変でした。弁護士登録取消・事務所閉鎖ですから,事務員の解雇,事務所の契約解約,備品の廃棄,内装など原状回復工事,敷金返還交渉も全部ひとりでやりました。
   書籍の一部は判事室に持ち込みましたが,ほかは蔵書印があったので古書にも出せず(最高裁判事の古書と特定できるので),一部はロースクールの学生に,残りは破棄です。3月に就任して,昼は最高裁判事として仕事をし,夜は事務所に行き黙々と作業をし(笑),5月連休前にやっと片付きました。
② なかでも大変だったのは,依頼者に対するお詫びと事件の引継ぎでした。突然,私の都合で辞めるので,これは債務不履行で,ひたすらお詫びしました。
   ほとんどの依頼者は祝福してくれましたが,新聞報道から40日以内に廃業・事務所閉鎖という急な話で,迷惑をかけたことも事実です。そこで,何人かの知り合いの弁護士を紹介して引き継ぎました。
 訴訟事件は約30 件あったので,弁護士を紹介するため1日に2,3人の割合であちこちの法律事務所に連れて行きました。保管中の遺言も多数あり,これも遺言者に返しました。
   ……いまから思うと,40日の間に,弁護士としての自分と山浦法律事務所の葬儀(笑)を,一人でやったような按配でした。

(2) 東弁リブラ2008年12月号「前 最高裁判所判事 才口千晴 会員」には,以下の記載があります。
   判事室の広さは,21 坪(42 畳),皇居が一望できる閑静な居住まいで,秘書官と事務官の2 人が様々なバックアップをしてくれますので,居心地はよろしいのですが,毎日ここで大量の記録と格闘するのですから大変です。
(3) 昭和62年5月3日放送のNHK特集「最高裁判所」では,最高裁判所の建物内部が放送されました放送ライブラリーHP「NHK特集 最高裁判所」参照)ところ,令和元年5月現在,横浜地裁の向かい側にある横浜情報文化センター8階の放送ライブラリー視聴ホールにおいてこの番組を視聴できます。
(4) 平成30年9月15日放送の「美の巨人たち」は,『『最高裁判所』石の鎧を纏った司法の頂点!隠された魅力と美しさ』というものでした。

5 最高裁判所庁舎内で発生した襲撃事件は確認できないこと
(1) Wikipediaには以下の襲撃事件に関する記事が載っています。
・ 高崎区裁判所襲撃事件(大正12年発生)
・ 東京高裁長官室乱入事件(昭和49年10月29日発生)
・ 東京高裁判事襲撃事件(昭和51年9月17日発生)
・ 大阪地裁所長襲撃事件(平成16年2月16日発生)
→ 被害者は,20期の鳥越健治大阪地裁所長でした。
(2) 裁判官に対する襲撃事件ではありませんが,昭和27年5月13日の勾留理由開示公判において,広島地裁被疑者奪回事件が発生しました。
(3) 平成30年10月10日,58期の井出正弘東京地裁11民判事は,裁判所内の男子トイレで手を洗っていた際,背後から杖で後頭部を殴られました(ニコニコニュースの「男装して杖で裁判官を襲撃 アラフォーオバサンの犯行動機」(2018年10月29日付)参照)。
(4) 以上のとおり下級裁判所の裁判官に対する襲撃事件はありますが,最高裁判所庁舎内で発生した襲撃事件は確認できません。

6 関連記事その他
(1) 裁判所法逐条解説上巻168頁には以下の記載があります。
   官僚機構は、行政上の監督権者を非常に重視し、その地位を高くすることに特色をもっている。しかし、このことは、裁判所のようなところでは、もっとも望ましくないことである。わが国のように、旧憲法下ながく裁判官が官僚機構のなかに組み入れられていたところでは、とかく官僚一般に共通な右の思想が知らず知らずの間に裁判官の間にも流れ込んでくる危険があり、旧制度の下では、その弊害が特に著しかったといえよう。それは、行政を行う者の地位を裁判事務のみを行う者のそれよりも高いと考え、ひいては行政重視裁判軽視の傾向を生みかねない。その意味で、司法行政権を所長等の特定の裁判官に一任せず、裁判官会議にこれを与えたことは、裁判所における官僚制を打破する上において画期的な変革であったといえる。裁判所における官僚制の打破がきわめて望ましい要請である以上、司法行政専任の裁判官を認めることは、あくまで避けなければならない。
(2) 法曹時報5巻1号(昭和28年1月発行)に掲載されている「法廷秩序維持問題」(筆者は田中耕太郎最高裁判所長官)6頁には以下の記載があります。
    我が国における法廷の状態は、とくに特定の思想的傾向を帯びた事件又はかかる思想的傾向の者に関する事件の審理について、特別の立法的措置(山中注:法廷等の秩序維持に関する法律の制定)を必要とするにいたった。かような事件についての公開の法廷の情況は誠に遺憾なものがあった。傍聴人や被告人被疑者等の拍手喝采、喧騒、怒号、罵り等は往々裁判長の訴訟指揮を不可能ならしめる程度に達したこと新聞の報道や、もっと具体的には情況の録音によって明瞭である。さらに裁判官の命令や係員の制止を無視して暴力を振い、係員を傷害し建物や施設を破壊するがごとき事態も再三ならず発生するにいたった。しかも法廷のかような状態は、多くの場合に「法廷闘争」として指導され、計画的組織的に準備し遂行されているところから来ているものと推定しても誤りないのである。

(3) 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例(昭和38年泉佐野市条例第27号)7条1号の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは,右会館における集会の自由を保障することの重要性よりも,右会館で集会が開かれることによって,人の生命,身体又は財産が侵害され,公共の安全が損なわれる危険を回避し,防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり,その危険性の程度としては,単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず,明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であり,そう解する限り,このような規制は、憲法21条及び地方自治法244条に違反しません(最高裁平成7年3月7日判決)。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長
 下級裁判所の裁判官会議から権限を委任された機関

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