最高裁判所裁判官及び事務総局の各局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと等


目次第1 最高裁判所長官室等の写真は不開示情報に当たること第2 最高裁判所事務総局の局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと第3 国家機関としての最高裁判所自体が侵入・襲撃の対象となるおそれが高いこと第4 インターネットその他を通じて,誰でも入手できる情報第5 最高裁判所庁舎内で発生した襲撃事件は確認できないこと等第6 暗殺された日本の首相又は元首相の一覧(現職3人・元首相4人)(令和4年7月9日追加)

1 伊藤博文(初代首相)
2 原敬(第19代首相)
3 濱口雄幸(第27代首相)
4 犬養毅(第29代首相)
5 高橋是清(第20代首相)
6 斎藤実(第30代首相)
7 安倍晋三(第90代,及び第96代ないし第98代首相)
第7 安倍元首相暗殺事件に関するメモ書き(令和4年7月10日追加)
1 銃撃直後の救命措置の状況
2 心肺停止及びAED
3 救急救命士
4 死の三徴候及び法的脳死判定
5 銃創及び血胸
6 安倍元首相の死因等
第8 日本は安全な国であるという,安倍晋三内閣総理大臣の答弁(令和4年7月10日追加)
第9 日本国憲法下で暗殺された現職国会議員,及び長崎市長射殺事件(令和4年7月10日追加)
第10 暗殺されたアメリカの現職大統領4人(令和4年7月10日追加)
1 エイブラハム・リンカーン大統領
2 ジェームズ・ガーフィールド大統領
3 ウィリアム・マッキンリー大統領
4 ジョン・F・ケネディ大統領
第11 法廷秩序の維持と,市民会館の使用許可基準
第12 関連記事その他

第1 最高裁判所長官室等の写真は不開示情報に当たること
1 「最高裁判所長官室の写真」,「最高裁判所判事室の写真」及び「最高裁判所首席調査官室の写真」は不開示情報に当たるとした,平成29年度(最情)答申第27号(平成29年8月7日答申)には以下の記載があります(改行及びナンバリングを追加しました。)。
① 本件各対象文書を見分した結果によれば,本件各対象文書は,最高裁判所庁舎の耐震改修工事について施工業者が作成した報告書の抜粋であり,本件不開示部分のうち個人の氏名及び押印部分は,施工業者の現場代理人の氏名及び押印であること,その余の部分は,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の写真並びにその撮影場所であることが認められる。
② まず,本件不開示部分のうち個人の氏名及び押印部分につき検討すると,その記載内容からすれば,上記部分は法5条1号に規定する個人識別情報と認められ,同号イからハまでに相当する事情は認められない。
③ また,本件不開示部分のうちその余の部分については,その記載等の内容からすれば,上記部分を公にすると,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の位置及び構造が明らかになるものと認められる。
   そうすると,最高裁判所長官及び最高裁判所判事は,裁判所の業務に係る意思決定において極めて重要な役割を担っており,最高裁判所首席調査官は,最高裁判所の裁判所調査官の事務を総括していることから,いずれも襲撃の対象となるおそれが高く,上記各室は極めて高度なセキュリティが要請されるという最高裁判所事務総長の上記説明が不合理とはいえず,上記部分を公にすることにより,庁舎管理事務及び警備事務に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
   この点について,苦情申出人は,日本女性法律家協会のホームページに掲載された写真を挙げて,最高裁判所判事室の写真が公表されたと主張するが,当該ホームページに掲載されている写真は,最高裁判所判事を被写体とし,背景として最高裁判所判事室のごく一部が写っているにすぎないものであるから,本件の結論には影響しない。
④ したがって,本件不開示部分は,法5条1号及び6号に規定する不開示情報に相当する。
2 平成28年度(最情)答申第48号(平成29年3月17日答申)には以下の記載があります。
   最高裁判所の庁舎は,その多くの部分が一般の来庁者の出入りが想定されていない建物であり,入構するには原則として許可が必要であることや,内部に最高裁判所判事室や事務総局の中枢部分などがあることからすると,全体として高度なセキュリティの確保が要請されており,庁舎の部屋の配置等を公にすることにより,全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとする上記説明は合理的である。また,事件当事者や傍聴人,見学者等の来庁者の出入りが予想され,一般に公開されていると評価できる部分については警備事務等の支障がないとする説明も合理的である。

第2 最高裁判所事務総局の局課長は襲撃の対象となるおそれが高いこと

・ 令和元年6月13日付の理由説明書には以下の記載があります。
   最高裁判所は,我が国唯一の最上級裁判所として裁判手続及び司法行政を行う機関であり,最高裁判所判事や事務総局の各局課館長は,裁判所の重大な職務を担う要人として,襲撃の対象となるおそれが高く,その重大な職務が全うされるように,最高裁判所の庁舎全体に極めて高度なセキュリティを確保する必要がある。そのため,最高裁判所では,各門扉に警備員を配し,一般的に公開されている法廷等の部分を除き,許可のない者の入構を禁止している。
   この点,本件対象文書中,原判断において不開示とした部分は,各門における入構方法に関する具体的な運用が記載されており, この情報を公にすると警備レベルの低下を招くことになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになるから, 当該部分は,行政機関情報公開法第5条第6号に定める不開示情報に相当する。
   よって,原判断は相当である。

第3 国家機関としての最高裁判所自体が侵入・襲撃の対象となるおそれが高いこと・ 大阪地裁令和2年6月4日判決(裁判長は48期の松永栄治裁判官。判例秘書に掲載)は,以下の判示をしています。
   最高裁判所は,我が国唯一の最上級裁判所として,裁判事務及び司法行政事務を行う重要な国家機関であり,最高裁判所の裁判官や事務総局の各局課長が,裁判所の重大な職務を担う要人として襲撃の対象となるおそれが高いといえるだけでなく,国家機関としての最高裁判所自体が侵入・襲撃の対象となるおそれも高いということができる。そうすると,庁舎全体に極めて高度なセキュリティが確保される必要があることは明らかである。
   そして,上記のとおりの本件不開示情報(山中注:昭和40年代後半に作成された,最高裁判所庁舎の建設工事発注図面の不開示情報のこと。)の内容からすると,本件不開示情報が公にされた場合には,裁判事務や司法行政事務の妨害・混乱等を企てる者や,国家の存立を脅かそうとする者等が,外部から庁舎への出入口や各室の配置,各室への進入路,建物全体の構造等についての正確な情報を知ることとなり,これらの情報に基づき,庁舎内に侵入したり,庁舎内の要人等を襲撃したりするための最適な場所・方法等を検討・計画することが可能又は容易になるということができる。
   そうすると,本件不開示情報を公にした場合,不法な侵入・破壊を招くなど,犯罪を誘発し,又は犯罪の実行を容易にし,公共の安全を害するおそれがあると認めた国土交通大臣の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものということはできず,その判断には相当の理由があるから,本件不開示情報は,情報公開法5条4号所定の不開示情報(公共の安全等に関する情報)に該当するものというべきである。

第4 インターネットその他を通じて,誰でも入手できる情報

1 東弁リブラ2016年12月号「前最高裁判事に訊く-山浦善樹会員」には,以下の記載があります(改行及びナンバリングを追加しました。)。現職の最高裁判所判事が夜に自分の法律事務所に行って黙々と後片付けの作業をしていたそうです。
①   平成24年1月の閣議で就任が決まり,法律事務所は「閉鎖」と決まりました。それからが大変でした。弁護士登録取消・事務所閉鎖ですから,事務員の解雇,事務所の契約解約,備品の廃棄,内装など原状回復工事,敷金返還交渉も全部ひとりでやりました。
   書籍の一部は判事室に持ち込みましたが,ほかは蔵書印があったので古書にも出せず(最高裁判事の古書と特定できるので),一部はロースクールの学生に,残りは破棄です。3月に就任して,昼は最高裁判事として仕事をし,夜は事務所に行き黙々と作業をし(笑),5月連休前にやっと片付きました。
② なかでも大変だったのは,依頼者に対するお詫びと事件の引継ぎでした。突然,私の都合で辞めるので,これは債務不履行で,ひたすらお詫びしました。
   ほとんどの依頼者は祝福してくれましたが,新聞報道から40日以内に廃業・事務所閉鎖という急な話で,迷惑をかけたことも事実です。そこで,何人かの知り合いの弁護士を紹介して引き継ぎました。
 訴訟事件は約30 件あったので,弁護士を紹介するため1日に2,3人の割合であちこちの法律事務所に連れて行きました。保管中の遺言も多数あり,これも遺言者に返しました。
   ……いまから思うと,40日の間に,弁護士としての自分と山浦法律事務所の葬儀(笑)を,一人でやったような按配でした。

2 東弁リブラ2008年12月号「前 最高裁判所判事 才口千晴 会員」には,以下の記載があります。
   判事室の広さは,21 坪(42 畳),皇居が一望できる閑静な居住まいで,秘書官と事務官の2 人が様々なバックアップをしてくれますので,居心地はよろしいのですが,毎日ここで大量の記録と格闘するのですから大変です。
3 昭和62年5月3日放送のNHK特集「最高裁判所」では,最高裁判所の建物内部が放送されました放送ライブラリーHP「NHK特集 最高裁判所」参照)ところ,令和元年5月現在,横浜地裁の向かい側にある横浜情報文化センター8階の放送ライブラリー視聴ホールにおいてこの番組を視聴できます。
4 平成30年9月15日放送の「美の巨人たち」は,『『最高裁判所』石の鎧を纏った司法の頂点!隠された魅力と美しさ』というものでした。

第5 最高裁判所庁舎内で発生した襲撃事件は確認できないこと等

1 Wikipediaには以下の襲撃事件に関する記事が載っています。
・ 高崎区裁判所襲撃事件(大正12年発生)
・ 東京高裁長官室乱入事件(昭和49年10月29日発生)
・ 東京高裁判事襲撃事件(昭和51年9月17日発生)
・ 大阪地裁所長襲撃事件(平成16年2月16日発生)
→ 被害者は,20期の鳥越健治大阪地裁所長でした。
2 裁判官に対する襲撃事件ではありませんが,昭和27年5月13日の勾留理由開示公判において,広島地裁被疑者奪回事件が発生しました。
3 平成30年10月10日,58期の井出正弘東京地裁11民判事は,裁判所内の男子トイレで手を洗っていた際,背後から杖で後頭部を殴られました(ニコニコニュースの「男装して杖で裁判官を襲撃 アラフォーオバサンの犯行動機」(2018年10月29日付)参照)。
4 以上のとおり下級裁判所の裁判官に対する襲撃事件はありますが,最高裁判所庁舎内で発生した襲撃事件は確認できません。
5(1) 「司法権独立の歴史的考察」18頁及び19頁には,戦前に裁判官をしていた人の回想として以下の記載が引用されています。
    私が裁判官を勤めていた昭和六年頃から終戦の頃迄、我国の司法部はかなり矛盾を含んでいたように思う。例えば時の司法部内には所謂司法省閥なるものがはびこっていた。本省畑の司法行政官が重ぜられ、現業の裁判官は軽ぜられた。(中略)当時の司法部においては、本省の司法行政官が、常に必らず現業判事の上位に天降るのを例とした。司法部の人事は全く司法行政官主流派の掌中に在り、而も裁判官の精神とか識見とか手腕と云うものは重視されず、寧ろ行政官として優れている人、或いは上司に受けのよい人が判事としても出世すると云うような傾向にあった。
(2) 裁判所法逐条解説上巻168頁には以下の記載があります。
    官僚機構は、行政上の監督権者を非常に重視し、その地位を高くすることに特色をもっている。しかし、このことは、裁判所のようなところでは、もっとも望ましくないことである。わが国のように、旧憲法下ながく裁判官が官僚機構のなかに組み入れられていたところでは、とかく官僚一般に共通な右の思想が知らず知らずの間に裁判官の間にも流れ込んでくる危険があり、旧制度の下では、その弊害が特に著しかったといえよう。それは、行政を行う者の地位を裁判事務のみを行う者のそれよりも高いと考え、ひいては行政重視裁判軽視の傾向を生みかねない。その意味で、司法行政権を所長等の特定の裁判官に一任せず、裁判官会議にこれを与えたことは、裁判所における官僚制を打破する上において画期的な変革であったといえる。裁判所における官僚制の打破がきわめて望ましい要請である以上、司法行政専任の裁判官を認めることは、あくまで避けなければならない。

第6 暗殺された日本の首相又は元首相の一覧(現職3人・元首相4人)
1 伊藤博文(初代首相)

・ 伊藤博文枢密院議長(元首相)は,1909年10月26日午前9時半頃,中国黒竜江省のハルビン駅において,群衆を装って近づいた安重根(あんじゅうこん)によりピストルで暗殺されました。
・ 伊藤博文は3発の銃弾を受け,次第に衰弱して昏睡状態に陥り,約30分後に死亡しました。
・ ハルビン駅は清国においてロシア帝国が管理していた駅であり,加害者は大韓帝国の独立運動家であり,被害者は日本人でした。
・ 安重根に対しては,旅順にあった関東都督府地方法院において1910年2月7日に第1回公判があり,同月14日に死刑判決が出て,1911年2月19日に控訴の取下げにより死刑判決が確定し,伊藤博文の月命日である同年3月26日に死刑判決が執行されました。
・ 関東都督府地方法院明治43年2月14日判決には以下の記載があるのであって,伊藤博文に対する殺人罪及び3人に対する殺人未遂罪により死刑判決となりました。
案スルニ被吿安重根ノ伊藤公󠄃爵󠄄ヲ殺害󠄆シタル所󠄃爲ハ帝國刑法第百九十九條ニ人ヲ殺シタル者ハ死刑又󠄂ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ處ストアルニ該當シ其川上總領事森祕書官田中理事ヲ殺害󠄆セントシテ目的ヲ遂󠄅ケサリシ各所󠄃爲ハ同法第四十三條第四十四條第百九十九條第二百三條第六十八條ニ該當シ即四個ノ殺人罪ノ併合シタルモノトス然ルニ其中被吿カ伊藤公󠄃爵󠄄ヲ殺害󠄆シタル行爲タルヤ其決意󠄃私憤ニ由ルモノニアラスト雖モ深謀熟慮ニ出テ且ツ嚴肅ナル警護ヲ犯シ全󠄃都知名ノ人士ノ集合セル塲所󠄃ニ於テ敢行シタルモノナレハ之ニ殺人罪ノ極刑ヲ科スルヲ以テ至當ナリト認󠄃メ此所󠄃爲ニ依リ被吿安重根ヲ死刑ニ處スヘキモノトス
2 原敬(第19代首相)
・ 原敬 首相は,1921年11月4日午後7時25分頃,東京駅において,群衆の中から突進してきた中岡艮一(なかおかこんいち)鉄道員により短刀で暗殺されました。
・ 原敬は,突き刺された傷が右肺から心臓に達していたため,ほぼ即死状態でした。
・ 中岡艮一に対しては,1922年1月20日に第1回公判があり,同年6月12日に東京地裁で無期懲役判決が出て,同年10月26日に東京控訴院で控訴棄却判決が出て(ヤフー知恵袋のベストアンサー参照),3回の恩赦により1934年に出獄しました(「戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦」参照)。
3 濱口雄幸(第27代首相)
・ 濱口雄幸 首相は,1930年11月14日午前8時58分頃,東京駅において,特急「燕」に乗るためにホームを移動中に,佐郷屋留雄(さごうやとめお)により約7尺(2.1m)の距離からピストルで狙撃されました。
・ 濱口雄幸は,下腹部に1発の銃弾を受けた後に東京帝国大学医学部附属病院に搬送され,同病院において腸の30%を摘出する手術を受けて一命をとりとめ,1931年1月21日に退院したものの,同年8月26日にアクチノミコーゼ(放線菌症)のために死亡しました。
・ 佐郷屋留雄に対しては,1932年4月22日に東京地裁で殺人罪により死刑判決が出て,1933年2月28日に東京控訴院第3刑事部で殺人未遂罪により死刑判決が出て,同年11月6日に大審院第1刑事部で上告棄却判決が出て,1934年2月11日の恩赦(皇太子殿下(明仁親王)ご誕生によるもの)により無期懲役に減刑されて(「戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦」参照),1940年に仮出所しました。
4 犬養毅(第29代首相)
・ 犬養毅 首相は,1932年5月15日午後5時半頃に首相官邸を襲撃した青年将校7人によりピストルで暗殺されました。
・ 犬養毅は,3発の銃弾を受けた直後は息があったものの,次第に衰弱して午後9時過ぎに様態が急変し,午後11時26分に死亡しました。
・ 海軍の軍法会議では,主犯格の古賀中尉ら3人に死刑が求刑されたものの、判決では禁錮15~13年になるなど、刑が大幅に軽減されたみたいです(テンミニッツTVの「五・一五事件…青年将校を死刑にしなかったのは最大の失敗」参照)。
5 高橋是清(第20代首相)
・ 高橋是清大蔵大臣(元首相)は,1936年2月26日午前5時5分頃に自宅を襲撃してきた陸軍青年将校によりピストルで胸を6発打たれた後,軍刀でとどめを刺されて死亡しました。
・ 2・26事件では,反乱罪(首魁)については死刑となり,反乱罪(群衆指揮等)については死刑又は無期禁錮となりました。
6 斎藤実(第30代首相)
・ 斎藤実内大臣・海軍大将(元首相)は,1936年2月26日午前5時5分頃に自宅を襲撃してきた陸軍青年将校により,47箇所の弾痕,数十の刀傷を受けて死亡しました。
・ 2・26事件では,反乱罪(首魁)については死刑となり,反乱罪(群衆指揮等)については死刑又は無期禁錮となりました。
7 安倍晋三(第90代,及び第96代ないし第98代首相)
・ 安倍晋三 元首相は,2022年7月8日午前11時31分頃,奈良市内の近畿日本鉄道大和西大寺駅付近において,山上徹也により手製の銃(長さ約40cm,高さ約20cm)で首と左胸部を打たれて心肺停止状態となり,同日午後0時20分,ドクターヘリによって奈良県立医科大学附属病院に搬送され,午後5時3分に出血による死亡が確認されました。
・ 警察庁HPに「令和4年7月8日に奈良市内において実施された安倍晋三元内閣総理大臣に係る警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」(令和4年8月25日発表)が載っています。

第7 安倍元首相暗殺事件に関するメモ書き1 銃撃直後の救命措置の状況

(1) 「【映像】演説中に安倍元総理が銃撃される 2発の発砲音と銃撃男の取り押さえ(2022年7月8日)」と題するYouTube動画では,10秒時点で1発目の銃撃があり,13秒時点で2発目の銃撃があり,56秒時点,遅くとも1分28秒時点で心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしているように見えます。
(2) 応急手当で必要なのは,①119番通報とAEDの要請,②心臓マッサージ(胸骨圧迫)及び③AEDによる電気ショックです。そして,AEDについては右胸の上部(鎖骨の下)及び左胸の下部(脇の下5~8cm)に,皮膚に密着するように電極パッドを貼ります(日本心臓財団HPの「AEDを使った救命の仕方」参照)。
(3)ア 心停止というのは心臓が停止することであり,肺停止というのは呼吸が停止することでありますところ,いずれかが発生した場合,すぐに残りも発生して心肺停止となります。
イ 心肺停止(CPA)というのは,心臓及び呼吸が停止していることであり,胸骨圧迫及び人工呼吸による心肺蘇生法(CPR)は脳への酸素供給を維持するために行いますところ,日本循環器学会HPの「心肺蘇生法の手順について」には以下の記載があります。
① 心臓マッサージには外科的に開胸して、止まっている心臓を直接手で圧縮する方法もありますが、一般に蘇生時に行うのは胸の上からの間接的な圧迫法ですのでこのような呼び方が最近では頻用されています。胸骨とは胸の真ん中にある骨で、この部分を強く押すことで、止まってしまった心臓の代わりに血液を全身にまわすことができます。
② 突然の心停止の多くに対して、胸骨圧迫のみの蘇生法に、人工呼吸を行う場合と同様の効果があることが分かってきたからです。
③ しっかりとした胸骨圧迫を継続するために、疲れる前に胸骨圧迫を交代する事を推奨しています。
④ (山中注:胸骨圧迫で)折れることはありますが、それを恐れて胸骨圧迫をしなかったり、力を加減したりすると、結局その人を助けることはできません。しっかりと胸骨圧迫を行い、救命を最優先にして下さい。
(4)ア 八王子整形外科HPの「心肺停止からの救命率は?」には「心肺停止になると、脳への血流が止まり、10~15秒で意識を失います。」とか,「心肺停止から1分以内に救命処置が行われれば95%が救命されます。3分以内では75%が救命され、脳障害も避けられる可能性があります。」と書いてあります。
イ MSDマニュアル家庭版の「心停止」には「心停止が5分を超えて続くと脳に障害が残る可能性が高くなり、8分を超えると死亡する可能性が高まります。」と書いてあります。
(5) 平成14年11月21日,47歳の高円宮憲仁親王が心室細動による心不全を起こして死亡したこともあって,平成15年から救急救命士が医師の指示なしで使用できるようになり,平成16年7月から非医療従事者である民間人も使用できるようになりました。
    なお,心房細動ナビの「解説② 心房細動と他の不整脈との違い」には「心室細動は、心臓が原因で起こる突然死の原因のうち約8割を占めているといわれています。」と書いてあります。
(6) MSDマニュアル・プロフェッショナル版の「成人における心肺蘇生(CPR)」には「ほとんどの外傷性心停止の患者には,失血による重度の循環血液量減少(この場合胸骨圧迫は効果的でない可能性がある)または生存不可能な脳損傷がある。」と書いてあります。
(7) 医学用語としてのショックというのは,血液の循環が悪くなり、全身の組織や臓器に血液が十分運ばれない状態をいいますところ,その原因としては,①出血や脱水による血液量の減少(例えば,出血性ショック),及び②心臓のポンプ機能(血液拍出機能)の低下があります。
    そして,全身の血液量は体重の約8%であり,全血液量の約20%(体重の約1.6%)以上の血液がなくなるとショック症状が現れるようになりますところ,その症状は,①皮膚が青白くなる,②冷や汗が出る,③脈が弱く早くなる,④虚脱及び⑤呼吸不全があり,早期に治療が行われないと多臓器不全を起こして死に至ることがあります。
    出血性ショックの場合,出血量を推定して輸液及び輸血が行われると同時に,出血部位に対する治療が必要となります日本血液製剤協会HP「アルブミンの低下 出血性ショック」参照)。
(8) 岐阜県HPの「応急処置」には,「一般に体内の血液の20%が急速に失われると出血性ショックという重い状態になり、30%を失えば生命に危険を及ぼすといわれています。」と書いてあります。
(9) NHKの「未解決事件 File.07 警察庁長官狙撃事件 【前編】」には,平成7年3月30日発生の警察庁長官狙撃事件に関して,「自宅から出て来た國松孝次警察庁長官は、20メートル離れた地点で待ち伏せしていた犯人に、背後を狙われた。犯人は、崩れ落ちる國松長官に正確に狙いを定め、2発、3発と続けざまに、銃弾を撃ち込んだ。背中には直径1センチを超える銃痕。心臓が6回も停止、出血性ショックで瀕死の状態に陥ったが、奇跡的に一命を取り留めた。」と書いてあります。

2 心肺停止及びAED

(1) IZAの「AED使用も救命かなわず 安倍氏銃撃」には以下の記載があります。
「顔面蒼白(そうはく)で、まぶたの裏も真っ白。貧血状態だったのはすぐに分かった」。背中側の路面に血だまりができていたことを後に知った。
心臓に血液を供給するため関係者が安倍氏の足を持ち上げ、中岡院長と看護師らが心臓マッサージを行った。だが、呼吸は止まり、脈動も確認できない。「一刻も早く救急車を」。そう願いながらAEDを手に取った。
しかし、故障もしておらず、正しい手順を踏んでいるはずのAEDが動かない。AEDは、けいれん状態の心臓を正常に動かすための装置で、完全に心停止した場合は作動しない。今回もそのケースだった。
(2) 広島県医師会HPの「救急小冊子」には「救急蘇生法には、心肺蘇生法と止血法が含まれます。心肺蘇生法には、(1)観察、(2)気遣の確保、(3)人工呼吸、(4)心臓マッサージが、止血法に は、(1)直接圧迫法、(2)止血帯法、(3)間接圧迫法があります。」と書いてあります。
(3) 心肺停止には,①心室細動(VF),②無脈性心室頻拍(VT),③無脈性電気活動(PEA)及び④心静止(Asystole)があります(看護ルーの「心肺停止(CPA)の心電図波形」参照)ところ,くにちか内科クリニックHPの「AED」には,「AEDは心室細動以外にも、心室頻拍で脈を触れなう場合(無脈性心室頻拍)の場合は電気ショックが必要だと判断し、充電をします。それ以外の正常な心電図や完全に心臓の動きが止まっている心静止の場合には充電をしない仕組みになっています。」と書いてあります。
    また,心静止に対する治療の3本柱は,①CPR(心肺蘇生法),②アドレナリン(血管収縮薬)の投与及び③原因検索(例えば,重症外傷)と治療です(福岡博多トレーニングセンターHPの「ACLSとは」参照)から,AEDが使えない場合でもCPRを継続して救急車の到着を待つべきこととなります(MSDマニュアル・プロフェッショナル版の「成人における心肺蘇生(CPR)」においても,心静止又は無脈性電気活動の場合もCPRを継続することになっています。)。
(4)ア ヤフーニュースの「安倍晋三元首相の失血死…約4時間半に渡る救命措置「輸血100単位以上」の凄惨」には,「短時間で血液の約20%を失うと出血性ショックに、30%以上の出血は生命の危機に繋がり、50%を失うと心肺停止に陥るといわれています」と書いてあります。
イ 看護ルーの「出血性ショック」によれば,30%以上の出血があった時点で意識が混迷し,40%以上の出血があった時点で昏睡状態(完全に無反応となった状態)になるみたいです。
(5) 日本AED財団HPの「胸骨圧迫とAEDの効果」には「胸骨圧迫をするのとしないので救命率は約2倍違います。AEDを用いて電気ショックが行われれば、約6倍の人の命が救えます。」と書いてあります。
(6)ア 1960年は,それまでに開発されたが忘れ去られていた人工呼吸法(口対口呼吸),循環確保法(胸骨圧迫心臓マッサージ法)及び電気的除細動と3つが揃って統合された年であるそうです(心肺蘇生法HP「4.心肺蘇生法の再発見と確立」参照)。
イ 1922年7月7日発生の小野訓導水難事故では,溺死した小野さつき訓導に対し,人工呼吸が実施されたそうです(ただし,蘇生はしませんでした。)。

3 救急救命士

(1) NHKの「安倍元首相銃撃事件 ドクターヘリでの治療 医師が初めて語る」には以下の記載があります。
(山中注:安倍元首相を載せたドクターヘリに乗って搬送と治療にあたった)植山医師は「第一印象は救急隊からの情報どおり完全な心肺停止の状態で、まったく意識がなく、脈もなかった。点滴を行うために、静脈に針を刺そうとしたが、血圧が低すぎて針をうまく刺せなかったため、骨髄内に輸液する方法をとった」と振り返りました。
(2)ア 認定救急救命士は,救急車内において,医師の具体的指示があれば,特定行為としての①乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液,②気管内チューブによる気道確保及び③アドレナリン(別名は「エピネフリン」です。)の投与ができます(救急救命処置の範囲等について(平成4年3月13日付の厚生省健康政策局指導課長の通知)参照)。
    なお,認定救急救命士は,処置拡大認定,気管挿管認定及び薬剤認定をすべて保持している救急救命士です(マテンドジャパンHP「救急救命士とは」参照)。
イ 東京医科大学八王子医療センターHPの「アドレナリン投与のタイミング」には「心電図波形がasystole(心静止)とPEA(無脈性電気活動)であれば早期にエピネフリンを投与するべき。しかし心電図波形がVT(心室頻拍)とVF(心室細動)の場合は、エビデンスが不十分なためエピネフリンをいつ投与するべきか、決まっていない」と書いてあります。
(3)ア 認定救急救命士による静脈路確保は,医療機関到着後即座に緊急治療用薬剤を投与できるようにするために行いますところ,例えば,株式会社大塚製薬工場HPの「輸液の基礎知識」には「大量に出血してショックを起こしている人や、血管が細い場合などでは、いざ薬剤を投与しようとしても注射針が血管に入らないことがあるため、あらかじめ輸液で血管を確保しておきます。」と書いてあります。
イ 注射には,皮内注射,皮下注射,静脈内注射及び筋肉内注射がありますところ,救急医療では静脈内注射が使用されます(中外製薬HPの「くすりのタイプ(形)」参照)。
(4) 厚生労働省HPに載ってある「Ⅳ 心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の実施」には,「実際に病院前診療を担うドクターヘリ,ドクターカーの医師はほとんどの症例において,静脈路の確保と輸液を実施しているのが実情である。それは循環血液量不足の補充という理由のみならず,あらゆる急変の場面に備えるならば,静脈路確保は何よりも基本の処置と心得ているためである。」と書いてあります。
(5) 人間の体の約60%は水が占めていて,そのうちの3分の2(全体の40%)が細胞内にあり(組織内液),3分の1(全体の20%)が細胞外にあり(組織外液),全体の5%が細胞外としての血管の中にあります(血漿)。
    そして,ショック(酸素供給と酸素需要のバランスが崩れている状態であり,血圧低下の状態がメインです。)が発生したときは,生理食塩水又は乳酸リンゲル液が輸液されます(気楽な看護HPの「ショックに対する輸液療養」参照)ところ,生命の維持を目的として絶対的に輸液が必要な状態では,禁忌は存在しません(日本緩和医療学会HP「輸液とは」参照)。
(6)ア 看護のお仕事ハテナースHP「骨髄路からの輸液について知りたい」には,「骨髄路の確保は、患者さんが急変した場合や心停止時の蘇生中など、急速に薬剤投与経路を確保する必要があるときに行われ、基本的には静脈路が確保でき次第すぐに抜針を行う必要があります。」とか「骨髄路は骨内に細菌が侵入した場合は重症化しやすいこともあり、成人では蘇生行為中でしか行われていないことがほとんどです。」と書いてあります。
イ 骨髄内輸液路(略称は「骨髄路」です。)の確保を行えるのは医師のみであり,認定救急救命士及び看護師が行うことはできません。
(7) 日本救急医学会HPの「院外心肺停止」には「米国では一次性心停止に関して,目撃があり蘇生開始まで4分以内で初期心電図波形が心室細動のものは神経学的予後が良好で生存率も高いが,それに比較して初期心電図が無脈性電気活動(PEA)や心静止のものは生存率が低く,さらに,救急隊により心拍再開できなかった場合は,予後は非常に不良である,とされている。」と書いてあります。
(8) 一般財団法人救急振興財団HP「救急隊員が行う救急処置」には,救急救命士及び救急科修了者が行える措置が書いてあります。
(9) 厚生労働省HPに,これまでの経緯(救急救命士に関する平成23年度までの経緯を記載した文書)が載っていて,救急救命士法,救急救命士法施行規則及び「救急救命処置の範囲等について」の抜粋が載っています。

4 死の三徴候及び法的脳死判定

(1) 死の三徴候は,心臓停止,自発呼吸停止及び瞳孔散大(対光反射の消失)でありますところ,All Aboutの「心肺停止とは…心肺停止状態と死亡の違い」には,「心肺停止の状態で病院に運ばれるときには、心臓マッサージ、人工呼吸をしていますので、蘇生している間は死ではありません。これらの蘇生法を行った上で、蘇生できない時に死を医師が確認してはじめて「死」となります。」と書いてあります。
(2) MAG2NEWSの「「瞳孔が開く」とはどういうこと? どうして開くの?」には,「呼吸と心臓が止まっていることは、胸の動きや聴診器で胸の音を聞いたりすることで分かります。脳は、呼吸や心臓を動かすなど、生きていくことに欠かせない指令を全身に出しています。脳の機能が止まっていることは、目に光を当てても瞳孔が開きっぱなしであることから、判断しています。」と書いてあります。
(3) 法的脳死判定の項目は,①深い昏睡(顔面への疼痛刺激),②瞳孔の散大と固定(瞳孔に光を当てて観察),③脳幹反射の消失(対光反射,角膜反射,毛様体脊髄反射,眼球頭反射,前庭反射,咽頭反射及び咳反射という7つの反射の消失),④平坦な脳派(脳波の検出),⑤自発呼吸の停止(無呼吸テスト)及び⑥6時間以上経過した後の同じ一連の検査です(日本臓器移植ネットワークHPの「法的脳死判定の検査方法」参照)。
(4)ア ①脳死(全脳死)の場合,脳幹を含めた脳全体が働かなくなった状態であって,二度と戻らないの対し,②植物状態の場合,大脳は働かなくなっているものの,脳幹は働いているため,自分で呼吸できることが多く,回復することもあります(岡山県臓器バンクネットHPの「脳死と植物状態について」参照)。
イ 「病院の言葉」を分かりやすくする提案HPの「43.脳死(のうし)」には「(山中注:脳死というのは,)心臓は動いていても,脳幹と呼ばれる脳の中枢が働かなくなった状態で,10日ほどで心臓も止まって死亡に至ります。」と書いてあります。
(5) ギリギリ脳蘇生の限界を超えなければ植物状態となり,ギリギリ脳蘇生の限界を超えた場合,脳死を経て心臓死に至ります(日本臓器移植ネットワークHPの「脳の障害と蘇生限界」参照)。
(6)ア 厚生労働省HPの「第1章 救命治療、法的脳死判定等の状況の検証結果」には法的脳死判定の事例が書いてありますところ,そこには経過として以下の記載があります。
50代の男性。平成18年5月22日5:00頃、自宅アパートのトイレでドスンと音がしていびきが聞こえてきたため、隣人が見に行くと倒れているのを発見された。5:27の救急車到着時、意識レベルはJCS300で自発呼吸はなく、脈拍は触知されなかった。モニター装着後直後は無脈性電気活動(PEA)であったが、搬送中心静止となった。5:56に当該病院に到着、救急部当直医にて気管内挿管、心肺蘇生術が施行され、心拍が再開したが、救急外来での所見はJCS 300、GCS 3、両側瞳孔散大(径5.0mm)で、自発運動はまったく見られなかった。
イ 認定救急救命士が,医師の具体的指示のもとで気管挿管を実施できるようになったのは平成16年7月1日です(救急救命士の気管内チューブによる気道確保の実施について(平成16年3月23日付の厚生労働省医政局長通知)参照)。

5 銃創及び血胸

(1)ア 改訂第5版 外傷初期診療ガイドライン251頁には「4.銃創」として以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    わが国ではまれであるが,銃創の場合は,刺創よりさらに重症化しやすい。損傷臓器や重症度に関しては,銃器の種類,弾丸の種類.発射距離. 角度.射入部位などさまざまな要素により規定される。
    弾道に沿って紡錘形をした立体的な損傷ができるため.弾丸の通過部のみならず,体内では損傷の広がりが大きくなるとされる。
    さらに体内では弾丸の軌跡を変えたり.破裂して数片に分かれたりするために.その周辺をも巻き込んだ損傷が起こるとされている。
    したがって,単純に射入口と射出口を直線で結んだ軌跡に損傷が限定されていると推定してはならない。射出口をもたない場合や,思わぬところに射出口が存在することがあり.注意を要する。
イ ライフハッカーHPの「万が一銃で撃たれた場合に、生き延びるためにできること」には以下の記載があります。
① 銃弾が腕の上腕動脈や、脚の付け根の鼠径動脈(山中注:大腿動脈のことです。)や、鎖骨下動脈に当たったら、大量出血します。筋肉は出血を止めようとする自己防衛機能が備わっていますが、銃弾が貫通して内部失血を起こしていたら、普通はそれでは血は止まりません。筋肉が危険に対する警告を発する間もなく、銃弾は動脈や静脈を断裂します。
② 心臓や脳に直接銃弾を受けなければ(受けた場合の生存率は9%)、生存率は約80〜95%だと言います。(心臓が動いているうちに病院に運ばれれば95%)立派なものです。
③ 銃弾がどこを通るかによって命運は決まりますが、身体の約80%は撃たれても致命的な場所ではないことがわかっているので、生き残る可能性はかなりあるということです。
ウ 看護ルーの「血管のしくみとはたらき」に,全身の主な動脈と静脈が載っています。
(2) メディカルノートの「血胸(けっきょう)」には「血胸とは、肺が収納されている胸腔と呼ばれる空間内に、血液が蓄積している状態です。血胸は、主に交通外傷による胸への強打や、刃物で刺されるなどの怪我を原因として発症します。出血する原因は肺損傷などに伴うものであり、気胸を併発することもあります。」と書いてあります。
(3) PRタイムスの「医療現場における安全な胸腔ドレナージの実現を目指して」(2022年4月18日付)には,「体内に貯留した血液・膿・浸出液・気体などを体外に排出することを「ドレナージ」と言い、医療現場において一般的に行われている処置です。腹水に対する腹腔ドレナージや、気胸に対する胸腔ドレナージが代表的なものとして挙げられ、胸腔ドレナージでは、肺と胸壁の間の胸腔に‟胸腔ドレーン“と呼ばれるチューブを挿入し、溜まった液体や空気を取り除きます。」と書いてあります。

6 安倍元首相の死因等

(1) ヤフーニュースの「安倍元首相の死因は失血死、左右鎖骨下動脈の損傷で…奈良県警」(2022年7月9日付)には,「奈良県警は9日朝、安倍元首相の死因について左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷の失血死と発表した。」と書いてあります。
(2) 安倍元首相の場合,左右鎖骨下動脈損傷により大量の内出血が発生して重度の循環血液量減少が発生した結果,AEDを使おうとした時点で心静止にまで至ったのかもしれません。
イ 外出血がそれほどでもないのに顔面蒼白になっていたというのであれば,内出血がひどくて胸腔内に大量の血液が溜まっていたのかもしれません。
    また,心臓に損傷がないにもかかわらず心静止にまで至っているということは,心静止までに50%以上の出血があったということかもしれません。
ウ 瞳孔が開きかけていたということは,その時点で脳幹が死にかかっていたのかもしれません。
(3) ヤフーニュースの「安倍晋三元首相の失血死…約4時間半に渡る救命措置「輸血100単位以上」の凄惨」には,「輸血の1単位とは、200 mlの献血から作られる量を指します。大量出血の際に主に用いられる“赤血球の輸血(赤血球製剤)”は、1単位=140ml。単純に考えると、安倍元首相の救命措置では、約14リットルもの輸血が行われたということになります」と書いてありますから,本来の血液量である70kg✕8%=5.6kgの2.5倍に相当する血液を輸血するぐらい,左右鎖骨下動脈損傷による出血が凄まじかったのかもしれません。
(4)ア ヘモグロビン(Hb)の基準値は,男性が14~18g/dl,女性12~16g/dlです(仙台産業医科診療所HPの「血液一般のデータ」参照)。
イ 厚生労働省HPに,「血液製剤の使用指針」(改訂版)(平成17年9月の厚生労働省医薬食品局血液対策課の文書)要約として,①赤血球濃厚液の適正使用,②血小板濃厚液の適正使用,③新鮮凍結血漿の適正使用及び④アルブミン製剤の適正使用が載っています。
    そして,①赤血球濃厚液の適正使用として,急性出血の場合,「Hb値が10g/dLを超える場合は輸血を必要とすることはないが,6g/dL以下では輸血はほぼ必須とされている。」と書いてありますし,周術期の輸血の場合,「通常はHb値が7~8g/dL程度あれば十分な酸素の供給が可能であるが,冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者では,Hb値を10g/dL程度に維持することが推奨される」と書いてあります。
    また,④アルブミン製剤の適正使用として「●  循環血液量の30%以上の出血をみる場合は,細胞外液補充液(山中注:等張性電解質輸液のことであり,例えば,生理食塩水及び乳酸リンゲル液があります。)の投与が第一選択となり,人工膠質液の併用も推奨されるが、原則としてアルブミン製剤の投与は必要としない。●  循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。」と書いてあります。
(5)ア 東京高裁平成27年4月6日決定(判例秘書に掲載)は,死体の解剖結果報告書及び実況見分調書(死体(裸体)の外形を撮影した写真及び解剖した状態を撮影した写真を含むもの)について,民訴法92条1項1号に基づく閲覧等制限決定を出しました。
イ Wikipediaに「ケネディ大統領の検死」が載っています。
(6) 自由と正義2022年7月号に「宗教団体の法務」が載っています。
(7) 安倍晋三元首相の戒名は「紫雲院殿政誉清浄晋寿大居士」です(トレンドのいずみ365HPの「【衝撃】安倍晋三の戒名の値段は1000万超?意味も徳川家康レベルの最高位だった!」参照)。

第8 日本は安全な国であるという,安倍晋三内閣総理大臣の答弁

・ 平成27年1月20日,72時間以内に身代金の支払がないと2人の人質を殺害すると覆面を被ったISIL(イスラミック・ステート)のメンバーが述べている動画が公開されました(ISILによる日本人人質殺害事件)ところ,安倍晋三内閣総理大臣は,平成27年2月20日の衆議院予算委員会において,「今、テロの危機が高まっているわけですから、しっかり公邸に陣取って、この年末の反省のもとに行動していただきたいと思いますが、いかがですか、総理。」という辻元清美衆議院議員(民主党)の質問に対し,以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
 一生懸命おとしめようとしている、その努力は認めますよ。
 しかし、はっきり申し上げて、日本というのは、こういうおどかしに遭ったとしても、安全な国なんですよ。我々の政権ができて、五百万人、観光客がふえた。日本はすばらしい国だ、安全な国だから、みんな来てくれているんですよ。
 まるで日本が危険な国のようなことをあなたはおっしゃった。私は、とんでもないと思いますよ。
 日本は安全な国だ。そういう安全な国であるということを確保するということが私の責任なんですよ。そういう大きな方針と、しっかりと予算を確保する、そういう仕事をちゃんとやっていくことが大切なんですよ、私に求められているのは。
 公邸に泊まるとか泊まらないとかいうことではないんですよ。公邸にずっと泊まっていたら立派な総理大臣なんですか。私は、違うと思いますけれども。
 そこで、申し上げますと、まさに日本というのは安全な国だ、本当にそう思います。海外に出てみて、首脳に対する警備についてはそれぞれ国によって全然違います。アメリカは、御承知のように大変な警備をしている。あの警備から比べれば、日本は相当軽い警備であります。
 私が公邸にいるときにも、そこには相当の量の警備の方々がおられる。私は感謝していますよ。ゴルフをやっているときにも警備をしていただく。申しわけないなと思うわけでありますが、先ほど申し上げましたように、私に求められているのは、心身ともに健康を保って、大切なときに判断を間違わないことなんですよ。ですから、そこで温泉に行かなければいいとかそういうことではないんですよ。そこを間違えてはいけないと私は思います。

第9 日本国憲法下で暗殺された現職国会議員,及び長崎市長射殺事件

1 日本国憲法下において他殺された現職国会議員は以下のとおりです。
① 浅沼稲次郎:昭和35年10月12日に東京都千代田区の日比谷公会堂で演説中に刃渡り約33cmの脇差し用の刃物で刺されて殺害されました。
② 丹羽兵助:平成2年10月21日にナイフで刺され,同年11月2日に死亡しました。
③ 山村新治郎:平成4年4月12日に自宅で精神疾患を患っていた次女に出刃包丁で刺されて殺害されました。
④ 石井紘基:平成14年10月25日に柳刃包丁で刺されて殺害されました。
⑤ 安倍晋三:令和4年7月9日に手製の銃で射殺されました。
2(1) 平成19年4月17日発生の長崎市長射殺事件では,伊藤一長 長崎市長は,平成19年4月17日午後7時51分に背後から2発の銃弾を受け,病院に搬送された時点で心肺停止状態になっていて,翌日午前2時28分に胸部大動脈損傷による大量出血のために死亡しました。
(2) 長崎地裁平成20年5月26日判決(39期の松尾嘉倫49期の安永武央及び56期の内藤寿彦)(判例秘書に掲載)は死刑を言い渡したものの,福岡高裁平成21年9月29日判決(26期の松尾昭一49期の今泉裕登及び51期の杉原崇夫)は原判決を破棄して無期懲役を言い渡し,最高裁平成24年1月16日決定で支持されました。

第10 暗殺されたアメリカの現職大統領4人
1 エイブラハム・リンカーン大統領
・ 1865年4月14日午後10時13分頃,ワシントンDCの劇場で観劇中に背後から後頭部をピストルで撃たれて,翌日午前7時22分に死亡しました。
・ WikipediaのAssassination of Abraham Lincolnには,「弾丸はリンカーンの左耳の後ろの頭蓋骨に入り、脳を通過し、両方の眼窩板を骨折した後、頭蓋骨の前面近くに止まった」という趣旨の記載があります。
・ 歴史上の人物.comの「リンカーン大統領 その死因となった暗殺事件について」には,「現代の医療技術を用いることができていれば、リンカーン大統領は命を落とさずに済んだかもしれない、という見解もあります。」と書いてあります。
2 ジェームズ・ガーフィールド大統領
・ 1881年7月2日午前9時半頃,ワシントンDCの駅で背後の至近距離からピストルで2発,撃たれて,同年9月19日午後10時35分に死亡しました。
・ Wikipediaのガーフィールド大統領暗殺事件には「大半の歴史家や医学の専門家は、ガーフィールドを治療した医師たちがもっと有能であったら、ガーフィールドは生き残れたと信じている」と書いてあります。
3 ウィリアム・マッキンリー大統領
・ 1901年9月6日午後4時7分,博覧会の会場で,布のボロキレの下に隠されたピストルで腹部を2回,撃たれて,同月11日までは回復傾向にあったものの,翌日遅くから様態が悪化するようになり,同月14日午前2時15分に死亡しました。
・ WikipediaのAssassination of William McKinleyには,「マッキンリーが死んだ日の朝、マンが14人の医師団を率いて検死を行った。弾丸は胃から横行結腸を通り、左の腎臓の隅を貫いて腹膜から消えたことがわかった。副腎と膵臓にも損傷があった。」という趣旨の記載があります。
4 ジョン・F・ケネディ大統領
・ 1963年11月22日午後0時30分頃,テキサス州ダラス市内をオープンカーでパレードしていて,教科書倉庫ビルの前を通過したとき,リー・ハーベイ・オズワルドにより同ビル6階右端の窓からライフル銃で右側頭部を撃ち抜かれ,同日午後1時33分,同日午後1時に大統領が死亡したという公式発表がありました(死亡宣告及び終油の秘跡(1972年以降は「病者の塗油」です。)が終わった時刻が午後1時でした。)。
・ Wikipediaのケネディ大統領暗殺事件には,「(山中注:搬送先のパークランド記念病院における午後0時43分の診察開始時点で)大統領はすでに昏睡状態で呼吸は非常に微弱、心臓の鼓動は聴診器で当てなければ聞こえない。後頭部は砕かれて、血がどくどくと流れ、手押し車の上を流れて床を濡らしていた。」とか,「ペリー医師が心臓マッサージを行ったが、心電図の画面は空しく波がなく横にただ移動するだけであった。クラーク部長は「もう手遅れだ。手の施しようがない」とペリー医師に語り、大統領の死亡を告げた。この時12時50分であった」とか,「(山中注:ワシントンDCのベセスダ海軍病院の)解剖検視台に遺体を載せて4時間にわたった検視で、大統領の傷は2つで、致命傷は頭蓋後頭部から入り頭部右側の一部15cm位を吹き飛ばしていること、もう一つは頸部の付け根に入口があったが出口が分からなかった。この2つの傷はいずれも頭蓋内側の傷口が小さく、抜け出た側に現れるそれより大きいスリ鉢状の傷が頭蓋外部につくものでなかったので、この2ヵ所で被弾したと結論を出している。」と書いてあります。

* この映画の描写では,ケネディ大統領はパークランド記念病院の手術室に救急搬送された後に心臓マッサージが開始しています。

第11 法廷秩序の維持と,市民会館の使用許可基準
1 法曹時報5巻1号(昭和28年1月発行)に掲載されている「法廷秩序維持問題」(筆者は田中耕太郎最高裁判所長官)6頁には以下の記載があります。
    我が国における法廷の状態は、とくに特定の思想的傾向を帯びた事件又はかかる思想的傾向の者に関する事件の審理について、特別の立法的措置(山中注:法廷等の秩序維持に関する法律の制定)を必要とするにいたった。かような事件についての公開の法廷の情況は誠に遺憾なものがあった。傍聴人や被告人被疑者等の拍手喝采、喧騒、怒号、罵り等は往々裁判長の訴訟指揮を不可能ならしめる程度に達したこと新聞の報道や、もっと具体的には情況の録音によって明瞭である。さらに裁判官の命令や係員の制止を無視して暴力を振い、係員を傷害し建物や施設を破壊するがごとき事態も再三ならず発生するにいたった。しかも法廷のかような状態は、多くの場合に「法廷闘争」として指導され、計画的組織的に準備し遂行されているところから来ているものと推定しても誤りないのである。

2 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例(昭和38年泉佐野市条例第27号)7条1号の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは,右会館における集会の自由を保障することの重要性よりも,右会館で集会が開かれることによって,人の生命,身体又は財産が侵害され,公共の安全が損なわれる危険を回避し,防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり,その危険性の程度としては,単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず,明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であり,そう解する限り,このような規制は、憲法21条及び地方自治法244条に違反しません(最高裁平成7年3月7日判決)。
3 おたくま経済新聞HPの「東京駅に残るテロの歴史 2つの「首相遭難現場」を訪ねる」には,「現在は警備が厳重になっているため、総理大臣をはじめとした要人が駅で襲撃されることはありません」と書いてあります。

第12 関連記事その他

1 裁判所法逐条解説上巻168頁には以下の記載があります。
    官僚機構は、行政上の監督権者を非常に重視し、その地位を高くすることに特色をもっている。しかし、このことは、裁判所のようなところでは、もっとも望ましくないことである。わが国のように、旧憲法下ながく裁判官が官僚機構のなかに組み入れられていたところでは、とかく官僚一般に共通な右の思想が知らず知らずの間に裁判官の間にも流れ込んでくる危険があり、旧制度の下では、その弊害が特に著しかったといえよう。それは、行政を行う者の地位を裁判事務のみを行う者のそれよりも高いと考え、ひいては行政重視裁判軽視の傾向を生みかねない。その意味で、司法行政権を所長等の特定の裁判官に一任せず、裁判官会議にこれを与えたことは、裁判所における官僚制を打破する上において画期的な変革であったといえる。裁判所における官僚制の打破がきわめて望ましい要請である以上、司法行政専任の裁判官を認めることは、あくまで避けなければならない。
2 銃砲とは,拳銃,小銃,機関銃,砲,猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃をいい(銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)2条1項),都道府県公安委員会の許可等を受けない限り銃砲を所持することはできません(銃刀法3条1項)し,経済産業大臣の許可を受けたときでない限り,試験的に製造をすることもできません(武器等製造法4条ただし書)。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 安倍晋三元首相銃撃事件(令和4年7月8日発生)に関する災害出動報告書,隊活動記録書,救急出場報告書
→ 発生現場に関するものと,ドクターヘリのランデブーポイント(平城宮跡)に関するものがあります。
・ 安倍晋三元首相の医療記録(令和4年7月8日の奈良県立医科大学附属病院の文書)
→ 中身は真っ黒ですが,患者診療記録製剤払出レポート輸血検査結果報告書検査結果報告書OPERATION REPORT及び画像検査が含まれています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 国葬儀
・ 司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長
・ 最高裁判所庁舎
・ 最高裁判所の職員配置図(平成25年度以降)
・ 最高裁判所の庁舎平面図の開示範囲
・ 最高裁判所の庁舎見学に関する,最高裁判所作成のマニュアル
・ 
下級裁判所の裁判官会議から権限を委任された機関
・ 平成5年4月27日発生の,東京地裁構内の殺人事件に関する国会答弁
 平成31年3月20日発生の,東京家裁前の殺人事件に関する国会答弁


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