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採用内定取消し・試用期間・本採用拒否の判例法理―三菱樹脂事件,大日本印刷事件及び下級審裁判例の法律事務所への射程(AI作成)

第1 最初に区別すべき三つの段階

1 採用選考中,採用内定後及び試用開始後を分ける

採用をめぐる紛争では,①労働契約が成立する前の不採用,②採用内定によって労働契約が成立した後の内定取消し,③試用を目的とする労働契約が始まった後の本採用拒否を分ける必要がある。
同じ「採用しない」という言葉が用いられても,契約締結前の選考と,成立済みの労働契約を終了させる行為とでは,法的な出発点が異なる。

採用内定によって労働契約が成立したかは,内定通知の名称だけでなく,募集,応募,採用通知,誓約書,入所予定日,労働条件及びその後に別の契約締結行為が予定されていたかによって判断される。
試用期間も,通常は労働契約が成立した後に適格性を観察する期間であり,本採用拒否を新規の不採用と同じように扱うことはできない。

2 この記事の結論

採用内定取消し又は本採用拒否の適法性は,「能力が足りない」,「協調性がない」,「自走できない」等の抽象的な人物評価だけでは決まらない。
採用時に何を職務要件として示したか,問題となる事実をいつ知ることができたか,実際にどの業務をどの程度観察したか,指示・教育・支援が十分であったか,本人に説明及び改善の機会を与えたか,より軽い対応が可能でなかったかを具体的に検討する必要がある。

判例秘書で全文を確認した裁判例を比較すると,職務上の成果物,誤り,報告,指示への対応及び改善経過が具体的に立証された事案と,短い観察期間,伝聞的な悪評又は使用者側の指示不足に依拠した事案との違いが重要である。
法律事務所でも,期限管理,起案,法令・判例調査,依頼者対応,守秘,所内連携等を観察可能な行動へ分解し,採用時の説明から試用期間中の記録まで一貫させる必要がある。

第2 三菱樹脂事件が示した試用期間の法理

1 本採用拒否は留保解約権の行使である

最高裁判所大法廷昭和48年12月12日判決(昭和43年(オ)第932号,民集27巻11号1536頁,三菱樹脂事件)は,当該事案の試用契約を,労働契約の成立と同時に雇用の効力が確定する一方,試用期間中に不適格と認めた場合の解約権を留保した労働契約と捉えた。
したがって,本採用拒否は,契約締結前の不採用ではなく,成立した労働契約について留保された解約権を行使する解雇に当たる。

試用の趣旨は,採否決定時には十分に調査できない資質,性格,能力その他の適格性を,採用後の調査又は観察によって判断することにある。
そのため,通常の解雇より広い範囲で解約権の行使が認められ得るが,無制限ではない。

2 客観的合理性と社会通念上の相当性が必要である

同判決は,採用後の調査又は試用期間中の勤務状態等により,当初知ることができず,又は知ることを期待できない事実を知った場合に,その事実に照らして引き続き雇用することが相当でないと判断することが,解約権留保の趣旨及び目的から客観的に相当と認められるときに解約権を行使できるとした。
判決は,留保解約権の行使について,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当として是認できることを要求している。

法律事務所でいえば,採用前に確認できた単なる印象を後から言い換えるだけでは足りず,入所後のどの業務で,どのような事実が新たに分かり,職務又は依頼者への影響がどの程度であったかを示す必要がある。
もっとも,最高裁判決は本採用拒否を最終的に有効と確定したものではなく,原判決を破棄して東京高等裁判所へ差し戻した判決である。

3 思想・信条に関する判示と現在の採用実務を分ける

三菱樹脂事件は,学生運動歴等に関する身上書及び面接回答をめぐって,私企業の採用の自由,憲法の私人間効力及び労働基準法3条の適用範囲を判示した歴史的事件でもある。
しかし,昭和48年当時の判示を,現在の採用担当者が思想・信条その他の職務と関係のない情報を自由に収集できる根拠として用いるべきではない。

現在は,職業安定法5条の5により,求職者等の個人情報は業務目的の達成に必要な範囲内で目的を明らかにして収集することが原則とされ,厚生労働省は本人の適性及び能力に基づく公正な採用選考を求めている。
本籍,家族,宗教,支持政党,人生観,労働組合活動等を把握しないという現在の行政指針及び個別法上の差別禁止と,三菱樹脂事件の歴史的判示は,時間層を分けて理解する必要がある。

第3 大日本印刷事件及びオプト事件が示す内定取消しの限界

1 採用内定による契約成立は事実関係から判断する

最高裁判所第二小法廷昭和54年7月20日判決(昭和52年(オ)第94号,民集33巻5号582頁,大日本印刷事件)は,当該企業の採用手続の下で,採用内定により,就労開始日を始期とし,所定の内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと判断した。
もっとも,すべての内定又はオファーで同じ時点に労働契約が成立するという意味ではなく,通知内容と後続手続を個別に確認する必要がある。

2 既に知っていた印象を後から取消事由にできない

大日本印刷事件は,内定取消事由を,内定当時に知ることができず,知ることも期待できない事実であって,それを理由とする取消しが解約権留保の趣旨及び目的に照らして客観的に合理的で,社会通念上相当と是認できるものに限定した。
同事件では,採用当初から把握し得た応募者の印象が取消しの中心的理由とされたため,内定取消しは認められなかった。

法律事務所でも,面接時に分かっていた話し方,慎重さ又は経歴を,内定後に「積極性がない」,「自走できない」と評価し直すだけでは,内定後に判明した新たな事実とはいえない。
内定前に行うリファレンスチェックは,候補者の同意,照会項目の職務関連性,情報の正確性及び候補者の説明機会を確保し,採用判断を確定する前に完了させることが望ましい。

3 伝聞的な悪評だけで内定を取り消さない

東京地方裁判所平成16年6月23日判決(平成15年(ワ)第18903号,判例タイムズ1163号226頁,オプトエレクトロニクス事件)は,中途採用者について,前職関係者から得た協調性等に関する伝聞的情報を重視して採用内定を取り消した事案を扱った。
判決は,内定後に新たな具体的事実が判明したとはいえず,噂の裏付けも十分でなかったこと等から取消しを無効とし,未払賃金等のほか慰謝料請求の一部を認めた。

この裁判例からは,照会者の地位又は発言の強さと,情報内容の信用性を区別すべきことが分かる。
候補者に不利益な情報については,誰が,どの場面を直接経験し,どの行動を見たのか,他の資料と整合するか,本人に説明を求めたかを確認する必要がある。

第4 神戸弘陵学園事件が示す有期契約と試用期間の区別

1 適性評価のための期間は試用期間と解され得る

最高裁判所第三小法廷平成2年6月5日判決(平成元年(オ)第854号,民集44巻4号668頁,神戸弘陵学園事件)は,新規採用の際に設けた期間の趣旨及び目的が労働者の適性を評価・判断することにある場合,期間満了によって労働契約が当然に終了する旨の明確な合意等の特段の事情がない限り,その期間を契約の存続期間ではなく試用期間と解するのが相当であるとした。
同判決も,期間満了による雇用終了の有効性を最終的に確定したものではなく,原判決を破棄して差し戻した判決である。

2 契約書の名称だけで当然終了にはならない

「まず6か月の有期契約とし,適性があれば正社員にする」という設計でも,募集時及び面接時の説明,契約書に署名した時期,長期雇用を期待させる発言,期間を定めた業務上の理由並びに実際の更新運用によっては,無期労働契約に付された試用期間と評価され得る。
有期契約の中に別の試用期間を設けた場合,試用期間中の終了は有期契約の期間途中の解雇となるため,労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」も問題となる。

法律事務所で有期契約を利用するときは,契約の満了日,試用評価の期間,満了後の更新可能性及び無期契約への移行条件を別々に書く必要がある。
「本採用」という一語に,試用終了,同じ有期契約の継続,契約更新及び無期契約への移行を混在させてはならない。

第5 下級審裁判例にみる能力・協調性評価

1 EC委員会駐日代表部事件―具体的な成果物と指示対応

東京地方裁判所昭和57年5月31日判決(判例秘書L03730167,EC委員会駐日代表部事件)は,相応の職位及び能力を期待された中途採用者について,英文作成・編集上の具体的な誤り,調査方法,指示への対応及び同僚との協働等を検討し,本採用拒否を有効とした。
抽象的な人物印象ではなく,担当業務の成果物及び指示後の対応が具体的に認定された点に実務上の意味がある。

もっとも,同事件は昭和57年の外国機関における専門的職務の事案であり,現在の一般的な事務職員又は若手弁護士へ結論をそのまま移すことはできない。
採用時に合意した職位,専門性,裁量,報酬及び教育を予定した範囲を合わせて比較する必要がある。

2 ライトスタッフ事件―短い観察期間と使用者側の対応

東京地方裁判所平成24年8月23日判決(平成23年(ワ)第14265号,労働判例1061号28頁,ライトスタッフ事件)は,中途採用の保険営業職について,本採用拒否の有効性を判断した。
裁判所は,能力及び積極性を問題とした理由について,実働約13日の営業活動を中心とする短い観察では客観的合理性がないと評価した。

休暇等の報告に関する問題には合理性を認め得る部分があったが,使用者側の強い圧力,対立を深めた対応,配置等の代替策及び改善可能性も含めて社会通念上の相当性を否定し,本採用拒否を無効とした。
合理的な理由が一つ見つかれば直ちに解雇全体が有効となるのではなく,経過及び対応の相当性を総合評価する必要があることを示している。

3 246設計事件―指示不足と改善経過

東京地方裁判所平成27年1月28日判決(判例秘書L07030135,246設計事件)は,採用後の最初の成果物及び業務の進め方に問題があったものの,使用者側の指示が十分でなかったこと,修正後の成果物が完成したこと,その後の成果物に大きな問題がなかったこと,遅延又は損害が十分に立証されなかったこと等から,本採用拒否を無効とした。
経験者に対しても,事務所固有の様式,完成水準,確認先及び提出期限を具体的に示す必要がある。

最初の失敗は重要な評価資料になり得るが,その後に指示内容を理解して修正できたかも,同じ程度に重要である。
使用者が評価すべき事項を伝えず,改善可能性を確かめないまま結論を急ぐと,能力不足の立証だけでなく,社会通念上の相当性にも影響する。

4 三事件を比較した実務上の軸

三事件の比較から,①採用時に示した職務及び水準,②観察期間と担当件数,③問題となる成果物又は行動,④指示及び教育の内容,⑤本人の説明,⑥修正後の成果,⑦依頼者又は業務への具体的影響,⑧配置・期間延長その他の代替策を分けて記録する必要がある。
「即戦力」という言葉は,職務及び水準を具体化する代わりにはならない。

第6 法律事務所の採用評価への射程

1 直接の法律事務所事案は確認できていない

判例秘書で「法律事務所 AND 本採用拒否」及び「弁護士法人 AND 本採用拒否」を検索した範囲では,使用者が法律事務所又は弁護士法人である本採用拒否の直接事案は確認できなかった。
したがって,前記裁判例を法律事務所へ適用する部分は,職務の共通性と相違を明示した類推的な検討である。

法律事務所には,弁護士の職務上の独立,守秘義務,利益相反,裁判上の期限及び依頼者への説明責任という固有の条件がある。
一般企業の売上,営業件数又は社内協調に関する評価をそのまま移すのではなく,法律事務の品質及び権限構造へ翻訳する必要がある。

2 「自走性」は権限の境界を守る能力として評価する

法律事務所における自走性は,何でも独断で決めることではない。
資料の整理,争点候補の抽出,法令・裁判例の検索及び起案の下書き等の可逆的な作業を進める一方,依頼者への確定的助言,裁判所又は相手方への提出・送信,期限設定,守秘情報の外部入力及び事件方針の変更は,権限者へ必要な材料とともに確認する能力を意味する。

評価記録では,「確認が多い」ではなく,何を確認し,確認前にどの資料を調べ,どの選択肢と推奨案を示したかを書く。
反対に,確認しなかったことを評価するときは,どの権限又はリスクを見落とし,どの具体的影響が生じたかを書く必要がある。

3 起案能力は完成物と修正過程の双方で見る

起案の評価では,誤字又は形式だけでなく,依頼目的,事実と証拠の対応,法令・判例の一次資料確認,反対事実の処理,期限及び読み手に応じた説明を確認する。
最初の草稿が不十分であっても,指摘を理解し,根拠へ戻って修正し,同じ誤りを繰り返さなくなったかを記録する。

事務所固有の書式及び好みを説明しないまま,完成形との違いをすべて能力不足と評価してはならない。
他方,明確な指示と複数回の具体的な指導の後も,重要な事実又は期限を繰り返し見落とし,依頼者の利益に具体的な危険を生じさせた場合は,職務適格性との関連が強くなる。

4 協調性は異論の有無ではなく業務行動で見る

判例又は方針への異論,問題点の指摘及び追加確認は,法律実務に必要なことがある。
「協調性がない」という評価は,異論を述べたこと自体ではなく,根拠を確認したか,相手の説明を聞いたか,決定後に適法な指示を実行したか,必要な引継ぎ及び情報共有をしたか,依頼者又は同僚への具体的影響があったかに分解する必要がある。

第7 採用から本採用判断までの記録方法

1 募集前に職務要件と評価尺度を決める

募集前に,①担当する事件又は事務,②必須資格及び経験,③入所後に教育する事項,④本人が判断できる範囲,⑤弁護士又は管理者への確認を要する事項,⑥成果物の品質及び期限,⑦試用期間中の評価時期を具体化する。
「即戦力」,「カルチャーフィット」又は「自走できる人」だけを基準にしない。

2 内定前に確認できる事項を後回しにしない

資格,職歴,就労資格,勤務条件及び担当予定業務等,採用判断に重要な事項は,適法かつ職務に必要な範囲で内定前に確認する。
内定後の調査は,内定時に知ることができなかった事実を確認するための例外的な工程であり,面接時の印象を補強する材料探しにしてはならない。

3 試用開始時に期待と支援を共有する

試用開始時に,評価項目,評価者,中間面談日,本採用判断日,教育担当者及び利用できる書式・システムを本人へ示す。
採用時に説明した職務と,試用中に評価する業務を一致させる。

4 事実,指導,本人の説明及び改善を一組で残す

評価記録は,①日時及び業務,②与えた指示及び資料,③本人の行動及び成果物,④業務への影響,⑤指導及び支援,⑥本人の説明,⑦期限後の改善を一組として残す。
抽象的な評価語だけの記録は避け,評価者によって基準が変わっていないかも点検する。

5 本採用拒否前により軽い対応を検討する

本採用拒否を決める前に,追加指導,担当範囲の明確化,配置変更,評価期間の適法な延長その他の対応で問題を解消できないかを検討する。
延長には就業規則又は契約上の根拠,延長理由,評価項目及び終期が必要であり,判断の単なる先送りにしてはならない。

第8 関連記事

中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務(AI作成)では,募集表示,採用情報,内定,試用期間,外国人採用等を含む中途採用の全体像を整理している。
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労働基準法に関するメモ書き(AIリライト)では,採用内定,試用期間及び本採用拒否を含む労働法の基本事項をまとめている。

第9 出典・確認状況

1 判例秘書で全文を確認した裁判例

①最高裁判所大法廷昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件,判例秘書L02810216)。
②最高裁判所第二小法廷昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件,判例秘書L03410098)。
③最高裁判所第三小法廷平成2年6月5日判決(神戸弘陵学園事件,判例秘書L04510043)。
④東京地方裁判所平成16年6月23日判決(オプトエレクトロニクス事件,判例秘書L05932618)。
⑤東京地方裁判所昭和57年5月31日判決(EC委員会駐日代表部事件,判例秘書L03730167)。
⑥東京地方裁判所平成24年8月23日判決(ライトスタッフ事件,判例秘書L06730485)。
⑦東京地方裁判所平成27年1月28日判決(246設計事件,判例秘書L07030135)。

2 裁判所及び厚生労働省の公開資料

裁判所ウェブサイト「三菱樹脂事件」
裁判所ウェブサイト「大日本印刷事件」
裁判所ウェブサイト「神戸弘陵学園事件」
裁判所ウェブサイト掲載のオプトエレクトロニクス事件判決PDF
裁判所ウェブサイト掲載のライトスタッフ事件判決PDF
厚生労働省「採用の自由」
厚生労働省「試用期間」
厚生労働省「公正な採用選考の基本」

3 法令

e-Gov法令検索「労働契約法」(16条から19条まで)。
e-Gov法令検索「職業安定法」(5条の5)。
e-Gov法令検索「労働基準法」(20条及び21条)。

4 調査範囲の限界

判例秘書における「試用期間」,「試用期間 AND 本採用」,「能力 AND 中途採用」並びに法律事務所又は弁護士法人と本採用拒否を組み合わせた検索結果を基礎に,代表的な裁判例の全文を確認した。
検索語及びデータベース収録範囲には限界があるため,本記事は裁判例の網羅を保証するものではなく,個別事件では当事者,契約書,職務,時期及び請求内容に応じて追加調査が必要である。