第1 自賠責保険審議会とは
1 金融庁に置かれる法定の審議会
自賠責保険審議会の正式名称は「自動車損害賠償責任保険審議会」であり,自動車損害賠償保障法31条に基づいて金融庁に置かれる審議会である。
本記事では,令和8年9月14日を調査基準日として,現行法上の役割,委員構成,開催時期,公表資料の読み方及び令和8年11月から適用される新しい基準料率を整理する。
2 個別の保険金請求を審査する機関ではないこと
審議会が扱うのは,基準料率,保険会社の算出方法書・普通保険約款の認可,共済規程等に関する行政庁の同意など,制度全体に関する行政上の事項である。
交通事故ごとの後遺障害等級,損害額又は保険金支払の当否を審査する機関ではなく,これらの個別問題と審議会の制度上の役割は区別する必要がある。
第2 審議会が基準料率について果たす役割
1 保険料率に適用される二つの基準
自動車損害賠償保障法25条は,自賠責保険の保険料率について,能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内で,できる限り低いものであることを求めている。
また,損害保険料率算出団体に関する法律8条は,料率団体が算出する基準料率について,合理的かつ妥当であり,不当に差別的でないことを求めており,自賠責保険の基準料率は両方の基準に適合する必要がある。
2 算出,届出,諮問及び適合性審査
(1) 損害保険料率算出機構による算出と届出
損害保険料率算出団体に関する法律9条の3によれば,料率団体は,基準料率を算出したとき,純保険料率,付加保険料率,算出方法その他の事項を記載した書類を添えて内閣総理大臣に届け出る。
自賠責保険については,損害保険料率算出機構が毎年度の収支状況などを検証し,改定が必要と判断した場合に新しい基準料率を算出して届け出ている。
(2) 審議会への諮問と行政庁の審査
自動車損害賠償保障法33条は,同法28条に定める処分や基準料率の適合性審査期間の短縮などについて,内閣総理大臣が審議会に諮らなければならない場合を定めている。
したがって,審議会は改定内容を調査審議して答申するが,基準料率を算出して届け出る主体は損害保険料率算出機構であり,法定基準への適合性を審査する行政庁の手続も別に存在する。
3 各保険会社で保険料に差が生じにくい理由
自賠責保険については,自動車損害賠償保障法26条の2により,通常の基準料率を中心とする範囲料率ではなく,基準料率そのものを使用する仕組みとされている。
国土交通省の制度説明も,自賠責保険の保険料は保険会社による違いがないと説明しており,任意保険のように契約先ごとの価格を比較する性質の保険ではない。
第3 委員構成と会議の成立
1 13人の委員の内訳
自動車損害賠償責任保険審議会令1条及び2条によれば,審議会は13人の委員で組織され,その内訳は,①学識経験のある者7人,②自動車交通又は自動車事故に関し深い知識及び経験を有する者3人,③保険業に関し深い知識及び経験を有する者3人である。
委員は,内閣総理大臣が国土交通大臣の同意を得て任命し,任期は2年で,再任が可能な非常勤の職である。
2 特別委員と令和8年4月30日現在の名簿
特別の事項を調査審議させる必要があるときは,審議会に特別委員を置くことができ,特別委員は学識経験のある者から金融庁長官が任命する。
金融庁が公表した令和8年4月30日現在の名簿では,13人の委員に加えて8人の特別委員が掲載されている。
この名簿からは,法令上の委員定数と,特別の調査審議のために置かれる特別委員とを区別して確認できる。
3 会長,定足数,議決及び庶務
会長は委員の互選により選ばれ,会議を開いて議決するには委員の過半数の出席を要し,議事は出席委員の過半数で決する。
可否同数の場合は会長が決し,令和8年8月7日施行の現行審議会令では,庶務を金融庁資産運用・保険監督局保険課が処理する。
第4 開催時期と次回日程の確認方法
1 開催日は法律で1月に固定されていないこと
国土交通省の制度説明は,損害保険料率算出機構による料率検証結果が例年1月に審議会へ報告されるとしているが,法令は開催月又は開催日を固定していない。
実際の開催日は,①第148回が令和6年1月19日,②第149回が同年6月4日,③第150回が令和7年1月10日,④第151回が同月17日,⑤第152回が令和8年4月17日,⑥第153回が同月30日であり,必要な審議事項に応じて1月以外にも開催されている。
2 次回の日程は金融庁の二つのページで確認すること
過去の開催日,議事次第,配付資料,議事要旨,議事録及び答申は,金融庁の「自動車損害賠償責任保険審議会」一覧ページから確認できる。
将来の日程は金融庁の「今後開催される予定の審議会・研究会等」ページで公表されるが,令和8年9月14日の確認時点では,自賠責保険審議会の次回開催日は掲載されていない。
第5 令和8年11月の保険料改定
1 第152回で示された引上げの方向性
令和8年4月17日の第152回審議会では,令和7年度の料率検証結果が報告され,令和8年11月から収入と支出が見合う料率水準へ引き上げることが適当であるとの方向性が示された。
金融庁の開催結果によれば,令和7年度末の滞留資金残高が令和4年度末の約7240億円から約5215億円へ減少したこと,保険金支払単価の増加,賃金・物価の上昇による社費及び代理店手数料の増加が理由として挙げられている。
2 第153回の答申と適合性審査
令和8年4月30日の第153回審議会では,損害保険料率算出機構が届け出た新しい基準料率を同年11月から適用することについて答申がされ,全車種平均の引上げ率は現行基準料率比6.2%とされた。
損害保険料率算出機構は,同日に新しい基準料率を金融庁長官へ届け出,金融庁による適合性審査は同年5月21日に終了したと公表している。
3 代表的な24か月契約の改定額
新しい基準料率は,保険期間の始期が令和8年11月1日以後となる契約に適用される。
離島以外の地域で沖縄県を除く24か月契約の例は,①自家用乗用自動車が1万7650円から1万8560円へ,②検査対象軽自動車が1万7540円から1万8660円へ,③一般原動機付自転車が8560円から9630円へ改定される。
第6 公表資料の読み方
1 同じ会議について複数の資料がある理由
(1) 開催結果と配付資料
金融庁の「開催結果」は,審議の結論と主要数値を短く確認するための資料であり,「配付資料」は,料率検証,収支見通し,諮問事項などの計算根拠や説明内容を確認するための資料である。
改定率だけを知る場合は開催結果で足りるが,その理由や前提を確かめる場合は配付資料まで遡る必要がある。
(2) 議事録と答申
「議事録」は委員と関係機関の発言,質問及び回答を確認する資料であり,「答申」は諮問に対する審議会の正式な結論を記載した文書である。
委員の発言を審議会全体の結論として扱わず,最終的な結論は答申又は開催結果と照合する必要がある。
2 契約に適用される金額の確認先
車種,地域及び保険期間ごとの金額は,金融庁の答申だけでなく,損害保険料率算出機構が公表する基準料率表で確認するのが分かりやすい。
なお,保険料率の問題と,事故後の保険金等の支払基準は別であり,後者については自賠責保険の支払基準及び令和2年4月1日以降の支払基準で整理している。
第7 制度の沿革
1 昭和30年の制度発足時
昭和30年法律第97号として制定された当初の自動車損害賠償保障法は,審議会を大蔵省に置き,委員11人で組織するものとしていた。
当時の内訳は政府職員4人,学識経験者3人,自動車交通又は自動車事故に関する者2人,保険業に関する者2人であり,旧32条は重要事項の調査審議と関係行政庁への申出を定めていた。
2 平成12年答申と平成14年施行の制度改革
平成12年6月28日の答申は,政府再保険制度を廃止する方向,保険金支払の適正化,無保険車対策及び運用益の使途など,その後の制度改革に関わる事項を示した。
平成14年4月1日施行の改正では,保険金等の支払に関する情報提供,紛争処理機関による紛争処理などが導入され,現在は旧32条が削除されて,33条が特定の行政処分等に関する諮問を定めている。
第8 出典
1 法令
①自動車損害賠償保障法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000097
②損害保険料率算出団体に関する法律(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000193
③自動車損害賠償責任保険審議会令(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/412CO0000000264
2 金融庁の審議会資料
①自動車損害賠償責任保険審議会 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_zidousya/zid_base.html
②今後開催される予定の審議会・研究会等 https://www.fsa.go.jp/singi/
③第152回・第153回自動車損害賠償責任保険審議会の開催結果 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_zidousya/kekka/20260430.html
④第153回自動車損害賠償責任保険審議会議事録 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_zidousya/gijiroku/20260430.html
⑤自賠責保険審議会答申(令和8年4月30日) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_zidousya/tosin/20260430.pdf
⑥自動車損害賠償責任保険審議会委員名簿(令和8年4月30日現在) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_zidousya/meibo/meibo_20260430.pdf
3 基準料率及び制度説明
①損害保険料率算出機構「自賠責保険基準料率」 https://www.giroj.or.jp/ratemaking/cali/
②損害保険料率算出機構「自賠責保険基準料率の届出について」(令和8年4月30日) https://www.giroj.or.jp/ratemaking/cali/pdf/202604_announcement.pdf
③国土交通省「自賠責保険料はどのように決まっているの?」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/other_info/funding/index.html
4 沿革資料
①衆議院「自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)」制定時条文 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/02219550729097.htm
②自動車損害賠償責任保険審議会「今後の自賠責保険のあり方について」(平成12年6月28日) https://www.fsa.go.jp/p_fsa/news/newsj/f-20000628-1.html
③国土交通省「自動車損害賠償保障制度の改正に伴う自賠責保険金等支払適正化の措置等の実施について」 https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/116/82000285/82000285.html