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サンフランシスコ平和条約と旧日米安保条約の違い|占領終了後も米軍が駐留した根拠(AI作成)

第1 平和条約と旧安保条約は何が違うか

1 戦争状態の終了と米軍駐留の権利

サンフランシスコ平和条約は,日本と条約当事国との戦争状態の終了や日本の主権の承認を定めた条約である。
これに対し,旧日米安保条約は,講和後の日本国内及びその附近に米軍を配備する権利などを定めた,日米間の別の条約である。
平和条約第6条(a)が別の協定に基づく外国軍隊の駐留を認める余地を残していたため,占領の終了と米軍駐留の継続は,条約の構造上両立する(平和条約第1条・第6条旧安保条約第1条)。

旧安保条約の前文は,武装を解除された日本が,講和発効時に自衛権を行使する有効な手段を持たないとの認識を示していた。
その上で,日本が防衛のための暫定措置として米軍の維持を希望するという形で,駐留の理由を説明している。
これは条約前文に示された説明であり,締結に至る外交交渉や国内の政治的評価のすべてを表すものではない。

本記事では,平和条約,旧安保条約,日米行政協定の関係を出発点に,昭和35年の新安保条約・日米地位協定への移行と,砂川事件判決が示した判断の範囲を説明する。
個々の基地の土地使用,騒音,環境問題又は刑事裁判権の適法性は,駐留の一般的な根拠とは別の問題である。

2 署名日と発効日を比較する

平和条約と旧安保条約の署名日は,いずれも昭和26年9月8日である。
しかし,署名の日に占領が終了したわけではなく,両条約が効力を生じたのは昭和27年4月28日であった。
関連する5文書の署名日と発効日は,次のとおりである。

文書署名日発効日主な役割
サンフランシスコ平和条約昭和26年9月8日昭和27年4月28日(最初の発効)戦争状態の終了,主権承認,占領軍撤退等
旧日米安保条約昭和26年9月8日昭和27年4月28日講和後の米軍配備の権利等
日米行政協定昭和27年2月28日昭和27年4月28日旧安保に基づく配備の具体的条件
新日米安保条約昭和35年1月19日昭和35年6月23日武力攻撃への対処,施設・区域の使用等
日米地位協定昭和35年1月19日昭和35年6月23日新安保に基づく施設・区域の使用及び米軍の地位

平和条約の発効日は,国連の登録情報に記録されている。
ただし,同条約第23条(a)は,最初の発効後に批准した国との関係では,その国が批准書を寄託した日に効力を生じる仕組みを定めている。

旧安保条約は,第5条に基づき,ワシントンで批准書を交換した日に発効した(旧安保条約の登録情報国連条約集第136巻216頁)。
同じ発効日であっても,平和条約の批准書寄託と旧安保条約の批准書交換は,異なる手続である。

行政協定の署名日と発効の仕組みは,同協定第27条及び署名欄に示されている。

新安保条約の署名日は外務省掲載の条約末尾に示されている。
地位協定の署名・発効日は国連の登録情報で確認できる。
新安保条約も地位協定と同日に発効したことは,地位協定の発効注記に記載されている。

第2 占領軍の撤退と米軍駐留が両立した根拠

1 平和条約第6条(a)の本文とただし書

平和条約第6条(a)は,連合国のすべての占領軍が,条約発効後なるべく速やかに,遅くとも90日以内に日本から撤退しなければならないと定める。
その一方で,同項ただし書は,日本と一又は二以上の連合国との二国間又は多数国間の協定に基づく,あるいはその結果としての外国軍隊の駐とん・駐留を妨げないと定めている。
したがって,90日以内の撤退という部分だけを取り出し,講和後の外国軍隊の駐留がすべて禁止されたと読むことはできない。

2 旧安保条約第1条と行政協定への接続

旧安保条約第1条は,平和条約及び旧安保条約の発効と同時に,米国の陸軍・空軍・海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を日本が許与し,米国がこれを受諾すると定めた。
平和条約第6条(a)ただし書が認めた別協定による駐留を,日米間で具体化したのが,この規定である。

配備の条件については,旧安保条約第3条が,両政府間の行政協定で決定すると定めた。
このため,本記事では,平和条約を占領軍撤退と別協定による駐留の関係を定める文書,旧安保条約を駐留権を定める文書,行政協定を配備条件を具体化する文書として整理する。
法的な根拠の切替えは,部隊がすべて一度国外へ撤退してから再入国することを意味しない。

第3 旧日米安保条約の全5条とその限界

1 各条の役割と終了条件

旧安保条約は,前文と全5条から成る。
国連条約集の日本語文・英語文に基づく各条の要旨は,次のとおりである。

条文定めた内容条文上の限定
第1条日本国内及びその附近への米軍配備の権利と使用目的日本防衛だけでなく,極東の国際平和・安全への寄与を含む
第2条米国の事前同意のない第三国への基地・駐兵等の権利の許与を制限第1条の権利が行使されている間の規定である
第3条配備を規律する条件を両政府間の行政協定で決定平和条約第3条の島しょ施政権とは別の規定である
第4条国連等による十分な安全保障措置が効力を生じたと両政府が認める場合の失効日米両政府の認定を要する
第5条批准及びワシントンでの批准書交換による発効署名だけで効力が生じる仕組みではない

第4条には,現行安保条約第10条のように,一方の当事国が終了の意思を通告して一定期間後に終了させる規定はなかった。
もっとも,旧条約が永久に終了できなかったという意味ではなく,実際には,新安保条約第9条により,新条約の発効と同時に効力を失った。

2 内乱・騒じょう鎮圧の援助には条件があった

旧安保条約第1条は,外部からの武力攻撃に対する日本の安全への寄与に,国内の大規模な内乱・騒じょうを鎮圧するための援助を含めていた。
ただし,対象は外部の国による教唆又は干渉で引き起こされたものであり,援助は日本政府の明示の要請に応じて与えられるという条件が付いていた。
米軍が自らの判断だけで日本国内のあらゆる騒じょうに介入できた,という説明では,これらの条件が抜け落ちる。

3 防衛義務の明文と政府解釈を分ける

旧安保条約第1条は,米軍を日本の安全等に寄与するために使用することができるという書き方であり,現行安保条約第5条に相当する,共通の危険に対処するため行動する旨の明文は置かれていない。
しかし,明文の書き方が異なることから,旧条約に米国の対日防衛義務が一切存在しなかったと直ちに断定することはできない。

平成15年5月28日の参議院特別委員会における政府参考人答弁は,旧条約について防衛義務がなかったとは考えていないというのが当時の政府見解であり,新条約ではその義務をより明確にするため交渉したと説明している。
同答弁は,英語の助動詞の強弱だけでなく,当事国が法的義務を負う意図を持っていたかを重視する。
これは平成15年の答弁による説明であるから,条文の形式を比較する問題と,旧条約から防衛義務を読み取る政府解釈の問題を区別して読む必要がある。

第4 日米行政協定が定めた配備条件

1 施設・区域の使用と返還

日米行政協定第2条第1項は,旧安保条約第1条の目的を遂行するために必要な施設・区域の使用を認めた。
発効日までに未合意の個々の施設・区域については,第26条の合同委員会を通じて両政府が協定する仕組みであった。

同条第3項は,協定の目的のために必要でなくなった施設・区域を日本へ返還することも定めていた。
したがって,駐留の一般的な根拠があることと,ある施設をいつまでも同じ条件で使用できることは,同じ問題ではない。

2 国会承認をめぐる砂川事件判決の判断

日本国憲法第73条第3号は,条約の締結について,事前に,時宜によっては事後に国会の承認を経ることを求める。
旧行政協定は独立した国会承認を経ておらず,そのことが憲法上問題とならないかが争われた。

最高裁判所大法廷昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号,刑集13巻13号3225頁)の多数意見は,行政協定を,国会承認済みの旧安保条約第3条の委任の範囲内と認めた。
その上で,独立した国会承認がないことを理由に違憲無効とはしなかった(判決PDF5頁)。
これは当該行政協定についての判断であり,国際約束なら内容を問わず国会承認が不要になるという一般原則ではない。

第5 昭和35年の新安保条約・地位協定への移行

1 旧安保条約と行政協定は別々の規定で失効した

新安保条約第9条は,新条約の発効と同時に旧安保条約が効力を失うと定める。
これに基づき,昭和35年6月23日に旧条約から新条約へ移行した。

行政協定については,日米地位協定第26条第2項が,同協定の発効時に,改正を含む旧行政協定が終了すると定めた。
「旧安保条約から新安保条約へ」と「行政協定から地位協定へ」は,関係するが別々の文書の移行である。

2 現在の駐留根拠と施設使用の継続

現行安保条約第6条は,日本の安全及び極東の国際平和・安全の維持に寄与するため,米軍による日本国内の施設・区域の使用を認める。
その使用及び米軍の地位を具体化するのが日米地位協定であり,外務省の制度説明は,同協定を国会承認条約と位置付けている。

地位協定第2条第1項(b)は,行政協定の終了時に米国が使用していた施設・区域を,新制度の下で両政府間の合意があったものとみなす。
この規定は,法的な文書が変更されても,施設の使用が継続し得ることを示している。

3 現行条約の防衛義務と終了通告

現行安保条約第5条は,日本の施政の下にある領域での,いずれか一方に対する武力攻撃について,各自の憲法上の規定及び手続に従い,共通の危険に対処するため行動することを宣言する。
場所,攻撃の対象及び憲法上の手続という条件があるため,世界中のあらゆる攻撃について自動的に参戦する規定とはいえない。

第10条ただし書は,条約発効から10年後以降,いずれか一方が終了の意思を通告でき,通告の1年後に条約が終了すると定める。
10年の経過だけで自動的に失効する仕組みではない。

第6 砂川事件判決が判断したことと射程

1 最高裁の主文は破棄差戻しである

砂川事件の最高裁判決は,検察官の上告に基づいて原判決を破棄し,事件を東京地方裁判所へ差し戻した。
米軍施設内への立入りに関する刑事事件であるが,最高裁がこの判決で直ちに被告人らに有罪の刑を言い渡したわけではない(判決の主文及び多数意見)。

最高裁判決が紹介する原審の判断は,米軍駐留が憲法第9条第2項に違反することを前提に,刑事特別法第2条を憲法第31条違反で無効とするものであった。
以下では,これに対する最高裁多数意見の理由を,戦力の判断と条約の司法審査に分けて説明する。

2 戦力の判断と司法審査の判断は異なる

多数意見2頁・4頁は,日本が主体となって指揮権・管理権を行使できる戦力と,外国軍隊とを区別した。
その上で,日本が指揮権・管理権を持たない駐留米軍は,憲法第9条第2項の戦力に当たらないとした。
ただし,自衛のための日本自身の戦力保持が許されるかという問題は別として論じており,自衛隊や集団的自衛権をめぐる現在のすべての憲法問題を判断したものではない。

多数意見4頁~5頁は,旧安保条約が高度の政治性を有することを理由に,一見極めて明白に違憲無効と認められない限り,裁判所の司法審査権の範囲外にあるとした。
そして,当該条約及び米軍駐留について,そのような明白な違憲無効とは認めなかった。
条約の司法審査に関するこの判断を,個々の基地の土地使用,騒音被害又は刑事手続まで一律に司法審査から除外したものと一般化することはできない。

第7 沖縄等の施政権と基地使用を区別する

平和条約発効後の沖縄・奄美・小笠原等には,平和条約第3条による別の制度が設けられていた。
同条は,対象島しょについて,所定の国連信託統治の提案及び可決まで,米国が行政・立法・司法上の権力を行使することを認める。
これは,安保条約に基づき施設・区域を軍隊が使用することとは,権限の対象が異なる。

そのため,昭和27年4月28日に日本のすべての地域で同じ形の統治が回復したと説明するのは正確でない。
島しょの施政権の返還と,個々の米軍施設の返還も区別する必要がある。

関連する論点は,次の記事で扱っている。
①平和条約全体の構造:サンフランシスコ平和条約の署名・発効,主権回復及び全27条の法的構造
②占領の方式と終了までの経緯:日本はなぜ直接軍政を免れたのか
③講和方式の背景:サンフランシスコ講和が多数国講和になった理由
④現在の基地制度と個別の裁判類型:在日米軍基地の法的根拠,施設数,日米地位協定及び主要裁判例

第8 出典

1 法令・条約

①外務省掲載「日本国との平和条約」第1条,第3条,第6条及び第23条(昭和26年9月8日署名)。

②「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(昭和26年9月8日署名)。
国連条約集第136巻213頁~218頁(日本語文はPDF229頁~231頁,英語文はPDF232頁・234頁)。
国立公文書館の公布原本書下しも参照。

③「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」(昭和27年2月28日署名)。
国連条約集第208巻308頁,342頁~344頁(英語本文のPDF314頁・348頁・350頁,第2条,第26条,第27条及び署名欄)。

④外務省掲載「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」第5条,第6条,第9条,第10条及び署名欄(昭和35年1月19日署名)。

⑤「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(昭和35年1月19日署名)。
国連条約集第373巻248頁~250頁,290頁~292頁(英語抜粋PDF2頁~3頁・23頁~24頁,第2条,第26条,発効注記及び署名欄)。

日本国憲法第9条,第31条及び第73条第3号(e-Gov法令検索)。

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号,刑集13巻13号3225頁,裁判所ウェブサイト)。
参照箇所は,裁判所公開PDF1頁~6頁の主文及び多数意見である。

3 条約登録情報・国会会議録

①国連条約集の登録情報:平和条約・登録番号1832旧安保条約・登録番号1835日米地位協定・登録番号5321(署名・発効の記録)。
第156回国会参議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会第8号(平成15年5月28日),政府参考人答弁・発言217

4 所管行政機関の制度説明

外務省「日米地位協定関連」(令和8年6月25日表示)冒頭の協定の性質に関する説明。