第1 結論
朝鮮関係者と台湾関係者の日本国籍喪失日は同じではない。
本記事の基準日は令和8年8月29日である。
朝鮮関係者については日本国との平和条約が発効した昭和27年4月28日、台湾関係者については日本国と中華民国との間の平和条約が発効した同年8月5日が、それぞれ日本国籍喪失の基準日とされている。
もっとも、実際の個人については、戦前の戸籍上の帰属、終戦後の在留状況、婚姻・認知・養子縁組、国籍取得・喪失及び日本への帰化を確認する必要がある。
第2 戦前の戸籍と日本国籍
日本の統治下にあった朝鮮及び台湾の出身者は日本国籍を有していたが、内地の戸籍とは別の朝鮮戸籍又は台湾戸籍に編製されていた。
そのため、同じ日本国籍を有していた時期でも、戸籍上の所属、身分関係法及び戸籍事務は一様ではなかった。
戦後の国籍処理を理解するには、国籍だけでなく、どの戸籍に属していたかを確認する必要がある。
第3 外国人登録令は国籍喪失を定めたものではない
昭和22年5月2日に施行された外国人登録令は、その適用について、朝鮮人及び一定の台湾人を当分の間外国人とみなした。
しかし、この「外国人とみなす」という規定は外国人登録制度を適用するためのものであり、その施行日に日本国籍を喪失させる規定ではなかった。
最高裁大法廷昭和36年4月5日判決(昭和30年(オ)第890号、民集15巻4号657頁)も、外国人登録令上外国人とみなされたことと実体国籍を区別している。
したがって、昭和22年5月2日を一律の日本国籍喪失日とすることはできない。
第4 朝鮮関係者の日本国籍喪失
日本国との平和条約は昭和27年4月28日に発効した。
政府の戸籍実務は、同年4月19日付民事甲第438号法務府民事局長通達により、平和条約発効に伴う朝鮮人及び台湾人の国籍・戸籍の取扱いを示した。
朝鮮関係者については、平和条約発効により日本が朝鮮の独立を承認したことに伴い、朝鮮戸籍に属していた人は原則として同日に日本国籍を喪失したものと扱われている。
最高裁第一小法廷平成10年3月12日判決(平成6年(行ツ)第109号、民集52巻2号342頁)も、平和条約発効に伴う朝鮮関係者の日本国籍喪失を前提として判断している。
この国籍喪失は、本人が昭和27年に「韓国籍」又は「朝鮮籍」を選択する届出をしたかどうかによって決まる制度ではなかった。
第5 台湾関係者の日本国籍喪失
台湾については、日本国との平和条約により日本が領有権を放棄した後、日本国と中華民国との間の平和条約が昭和27年8月5日に発効した。
最高裁大法廷昭和37年12月5日判決(昭和33年(あ)第2109号、刑集16巻12号1661頁)は、台湾人の日本国籍喪失について、日華平和条約の発効日を基準として判断している。
したがって、台湾関係者について朝鮮関係者と同じ昭和27年4月28日を一律の国籍喪失日とすることはできない。
第6 昭和27年通達の位置付け
昭和27年4月19日付民事甲第438号通達は、平和条約発効後の朝鮮人及び台湾人に関する戸籍事務の処理を示す重要な行政資料である。
もっとも、通達だけを切り離して読むのではなく、平和条約、日華平和条約、当時の戸籍制度及び最高裁判例と併せて理解する必要がある。
通達の表現を現在の「韓国」「朝鮮」「台湾」という国籍・地域表示にそのまま置き換えることも適切ではない。
第7 個別事案で確認すべき事項
個別の国籍を判断するときは、①終戦前の戸籍上の所属、②昭和20年9月2日以降の日本での在留、③婚姻・認知・養子縁組等による戸籍変動、④外国国籍の取得・喪失、⑤日本への帰化、⑥過去の外国人登録及び現在の在留記録を時系列で確認する必要がある。
国籍・地域欄の表示は重要な手掛かりであるが、「韓国」「朝鮮」「台湾」の表示だけで昭和27年当時の国籍を確定することはできない。
現在の表示と在留上の地位については、在日韓国・朝鮮人及び台湾関係者の国籍・地域表示と在留上の地位を参照されたい。
第8 出典
① 国立公文書館デジタルアーカイブ「平和条約の発効に伴う朝鮮人台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理について」
② 衆議院「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律」(昭和27年法律第126号)