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閉会中の衆議院解散は可能か―昭和54年の内閣法制局長官答弁と先例(AIリライト)

第1 結論

1 閉会中解散の法的可能性

国会の閉会中であっても衆議院を解散することは理論上可能である,というのが昭和54年3月19日に示された内閣法制局長官の見解であり,現在も多数説は同様の立場であると説明されている。

もっとも,日本国憲法施行後,令和8年1月23日までに行われた27回の衆議院解散は,すべて国会の会期中に行われた。閉会中解散の実例はなく,閉会中解散を否定的に捉える見解や,会期中の国会審議によって総選挙の争点を明確にすることを重視する見解もある。したがって,閉会中解散については,政府が法的可能性を認めていること,実際には会期中解散の慣行が続いていること,個別の解散権行使には憲法上又は政治上の限界が問題となり得ることを区別する必要がある。

2 「閉会中」と「本会議が開かれていない時」の違い

本記事にいう「閉会中」とは,国会の会期外を意味する。これに対し,国会の会期中であっても,衆議院本会議が開かれていない日時はある。

昭和27年8月28日,昭和55年5月19日及び昭和61年6月2日の解散は,いずれも本会議が開かれていない時点で行われたが,国会の会期中であった。これらは閉会中解散の先例ではなく,閉会中解散を仮定した場合の詔書伝達方法を考える際の参考となる先例である。

第2 昭和54年3月19日の内閣法制局長官答弁

1 答弁が行われた会議と経緯

本件答弁は,衆議院ではなく,第87回国会参議院決算委員会第3号(昭和54年3月19日)におけるものである。質問者は秦豊参議院議員であり,答弁者は真田秀夫内閣法制局長官であった。

発端は,田中六助内閣官房長官が,同月15日の記者会見で,国会開会中でなければ解散できないとの断定には検討の余地があるという趣旨の発言をしたことであった。秦議員は,閉会中解散を妨げるものがないとする法的根拠を質問し,真田長官が答弁した。

2 閉会中解散を理論上可能とした理由

真田長官は,発言番号297の答弁で,衆議院の解散は内閣の助言と承認によって天皇が行う国事行為であり,解散の時期について憲法上の明文の制約はないと説明した。その上で,当時調査した学説について,「理論上は国会の閉会中でも衆議院の解散は可能である」とするものがほとんどであると述べた。

他方で,真田長官は,明治憲法以来,議会又は国会の閉会中に現実に衆議院が解散された例はないとも述べた。したがって,この答弁は,法的可能性と先例の不存在を同時に示したものである。

3 閉会中解散を仮定した伝達手続

秦議員は,閉会中で衆議院本会議場に議員がいない場合,どのような形式で解散を伝達するのかを質問した。これに対し,真田長官は,発言番号299の答弁で,閉会中解散には前例がないため,仮定の問題として説明すると断った。

真田長官は,本会議が開かれていない時点で行われた解散の先例に準じ,内閣から事務総長を通じて議長に解散詔書を届け,議長が各会派の代表者に伝える手続になるであろうと説明した。これは確定した閉会中解散手続を述べたものではなく,既存の先例から予想される手続を示した答弁である。

4 正式照会ではなかったことと憲法69条の説明

秦議員が検討の契機を尋ねたところ,真田長官は,発言番号301の答弁で,内閣官房側から正式又は文書による照会を受けたわけではないと説明した。衆議院予算委員会で内閣官房長官と隣り合わせに座っていた際,質疑の途中で話題となり,従来から持っていた見解を伝えたという経緯であった。

また,真田長官は,閉会中解散を認めない場合,会期末近くに内閣不信任決議が可決されたとき,憲法69条が予定する10日以内の総辞職又は解散という選択ができなくなると指摘した。この説明は,閉会中解散一般の独立した根拠というより,会期末の不信任決議という場面で閉会中解散を否定することの不都合を示したものと理解するのが相当である。

第3 制憲議会における金森徳次郎国務大臣の答弁

1 理論上の可能性と慎重な運用

昭和21年7月20日の第90回帝国議会衆議院帝国憲法改正案委員会で,原健三郎委員は,議会の開会中でない時に解散できるかを質問した。金森徳次郎国務大臣は,発言番号9の答弁で,理論的には解散できると述べた。

もっとも,金森国務大臣は,実際には従来と同様に政府が用心深く行動し,議会が開かれていない間に解散することはないのではないかとも述べた。この答弁は,法的可能性を認めながら,現実の運用には慎重さを求めるものであった。

2 現実の機会は理論より狭いこと

金森国務大臣は,発言番号11の答弁で,解散は政治的に多方面を考慮して実行すべき重大な行為であるため,現実の解散機会は理論上の範囲より狭くなると説明した。さらに,解散後最初の国会を召集しないまま再度解散することは,新憲法上起こり得ないと述べた。制憲議会の答弁も,解散時期に明文の限定がないことだけから,内閣がいつでも無制約に解散できるとの結論を導いてはいない。

第4 憲法上の根拠と現在の政府見解

1 日本国憲法の規定

日本国憲法7条3号は,天皇が内閣の助言と承認により行う国事行為として,衆議院の解散を定める。憲法69条は,衆議院が内閣不信任決議を可決し,又は信任決議を否決したとき,10日以内に衆議院が解散されない限り,内閣が総辞職しなければならないと定める。

憲法54条1項は,解散の日から40日以内の総選挙と,選挙の日から30日以内の国会召集を定める。同条2項は,衆議院が解散されたときは参議院も同時に閉会することを定め,憲法70条は,総選挙後に初めて国会が召集されたときは内閣が総辞職しなければならないと定める。

これらの条文には,解散を国会の会期中に限るとの明文はない。ただし,解散権の実質的な根拠を憲法7条に求めるか,憲法69条の場合に限定するかという問題と,会期外という時期に解散できるかという問題は,別の論点である。

2 平成30年の政府答弁

政府は,平成30年5月11日の答弁書で,内閣が実質的に衆議院の解散を決定する権限の法的根拠は憲法7条であるとの立場を示した。また,内閣が解散を決定することを憲法上制約する規定はなく,いかなる場合に解散するかは内閣が政治的責任で決すべきであると答弁した。

もっとも,これは政府の憲法解釈である。政府自身も,平成27年10月6日の答弁書で,行政府の憲法解釈が国会及び裁判所を法的に拘束するものではないと説明している。

第5 解散の先例と解散詔書の伝達

1 令和8年1月23日までの全27例

衆議院憲法審査会事務局の「衆議院の解散」に関する資料(衆憲資第104号)18頁~21頁は,日本国憲法施行後,令和6年10月9日までに行われた26回の解散を整理し,閉会中解散の実例はないとしている。その後,第220回国会の召集日である令和8年1月23日,衆議院本会議は午後1時2分に開会し,午後1時4分に解散詔書が朗読された。この第27回目の解散も会期中であり,令和8年1月23日までに閉会中解散の実例はない。

2 本会議が開かれていない時点での3例

昭和27年8月28日の解散,昭和55年5月19日の解散及び昭和61年6月2日の解散では,解散時に本会議が開かれていなかった。そのため,議長応接室に各会派の代表者を集め,解散詔書が朗読された。

もっとも,3例はいずれも国会の会期中である。特に昭和61年6月2日の解散は国会召集日に本会議を開くに至らないまま行われたものであり,「本会議が開かれていないこと」と「国会が閉会中であること」は一致しない。

昭和55年5月19日の衆議院解散を含む記録映像は,次のとおりである。

昭和61年6月2日の衆議院解散を含む記録映像は,次のとおりである。

3 解散詔書の作成と伝達

衆憲資第104号18頁~19頁によれば,衆議院の解散については,内閣が閣議決定を行い,内閣の助言と承認に基づく天皇の国事行為として解散詔書が発せられる。解散詔書には御名御璽がなされ,内閣総理大臣が副署する。

衆議院が会議中であれば,議長は直ちに議事を中止して解散詔書を朗読する。会議が開かれていない日に伝達された場合は,議長応接室で各会派の代表者に朗読し,衆議院公報でも各議員に通知するのが先例である。

閉会中解散については先例がない。したがって,真田長官の答弁は,この本会議未開会時の先例に準じた伝達方法を予想したものであり,実施例によって確立した閉会中解散手続を説明したものではない。

第6 学説と会期中解散の慣行

1 多数説と閉会中解散に慎重な見解

長谷部恭男『憲法 第8版』(新世社,2022年)407頁~407頁は,国会の閉会中又は休会中であっても衆議院を解散できるとするのが多数説であると説明する一方,現実の解散はすべて議会又は国会の会期中に行われてきたと指摘する。すなわち,多数説の示す法的可能性と,先例として確立している運用の範囲は同じではない。

これに対し,辻村みよ子『憲法 第7版』(日本評論社,2021年)424頁~424頁は,同じ理由による再度の解散や国会閉会中の解散は従来否定的に捉えられてきたと説明し,内閣又は多数派の地位維持だけを目的とする解散等にも否定的な評価を示す。この見解は,解散時期を限定する明文の有無とは別に,解散の目的及び態様から限界を検討するものである。

2 国会審議を経ることの民主的意義

木下智史・伊藤建『基本憲法Ⅱ 総論・統治』(日本評論社,2025年)111頁~111頁は,解散が国会の会期中に行われてきた慣行について,国会審議を通じて総選挙の争点を明確にし,総選挙を国民の政治意思表明の場として機能させる意義があると評価する。この見解によれば,会期中解散の慣行は,単なる手続上の便宜ではない。閉会中解散の法的可能性を認めるとしても,国会審議を経ずに解散することの民主的正当性は,別途検討される必要がある。

第7 苫米地事件判決と司法審査

最高裁昭和35年6月8日大法廷判決・民集14巻7号1206頁(昭和30年(オ)第96号)は,昭和27年8月28日の解散が違憲無効であるとの主張を前提とした歳費請求事件について判断した。最高裁判所の多数意見は,衆議院の解散は国家統治の基本に関する高度に政治性のある行為であり,その法律上の有効無効は,訴訟の前提問題として主張された場合も裁判所の審査権の外にあると判示した。

多数意見は,憲法69条の場合でない解散を憲法7条に基づいて行えるか,内閣の助言と承認が適法であったかについて,実体的な憲法判断を示したものではない。これらの点に踏み込んで憲法7条に基づく解散を肯定したのは同判決中の個別意見であり,多数意見が憲法7条解散の合憲性を実体判断したと理解するのは正確でない。

また,解散の効力が司法審査の対象とならないことと,解散権に憲法上の限界がないことは同じではない。判決は,最終的な政治的評価が国民に委ねられることを強調している。

第8 解散手続をめぐる近時の議員立法

第217回国会には,衆議院の解散に係る手続等に関する法律案(第217回国会衆法第51号)が提出された。同法案は,憲法69条所定の場合を除き,内閣が解散予定日と解散理由を予定日の10日前までに衆議院へ通知すること等を内容とするものであった。

同法案は成立していない。第220回国会の審査経過によれば,令和8年1月23日に議院運営委員会へ付託された後,同日の衆議院解散によって審査未了となった。

したがって,10日前通知は現行法上の手続ではない。ただし,同法案は,解散権の法的根拠とは別に,解散理由の説明と行使過程の透明性を確保しようとする近時の立法提案として参考になる。

第9 関連記事

① 衆議院の解散

② 衆議院の解散は司法審査の対象とならないこと

③ 日本国憲法下の衆議院の解散一覧(令和6年解散まで)

④ 衆議院の解散に関する内閣答弁書

⑤ 内閣法制局の長官,次長,部長,総務主幹及び参事官

第10 出典・参考資料

1 法令

① 日本国憲法(e-Gov法令検索)7条,54条,69条及び70条

2 国会会議録・政府答弁書

① 第90回帝国議会衆議院帝国憲法改正案委員会第18回(昭和21年7月20日)発言番号9及び11

② 第87回国会参議院決算委員会第3号(昭和54年3月19日)発言番号294~301

③ 内閣参質189第349号(平成27年10月6日)

④ 内閣衆質196第256号(平成30年5月11日)

3 裁判例

① 最高裁昭和35年6月8日大法廷判決・民集14巻7号1206頁(昭和30年(オ)第96号)

4 衆議院資料

① 衆議院憲法審査会事務局「衆議院の解散」に関する資料(衆憲資第104号,令和7年5月)資料18頁~21頁(PDF22頁~25頁)

② 第220回国会衆議院本会議議事経過(令和8年1月23日)

③ 衆議院の解散に係る手続等に関する法律案要綱(第217回国会衆法第51号)及び第220回国会における審査経過

5 文献

① 長谷部恭男『憲法 第8版』(新世社,2022年)407頁~407頁

② 辻村みよ子『憲法 第7版』(日本評論社,2021年)424頁~424頁

③ 木下智史・伊藤建『基本憲法Ⅱ 総論・統治』(日本評論社,2025年)111頁~111頁