第1 提出済みの訴状は訂正申立書等で補う
mintsで提出した訴状に誤記や記載漏れがある場合,提出済みの申立内容を利用者自身が画面上で書き換えることはできない。
裁判所のmintsでよくある問合せ・PDF6頁は,訂正申立書等のファイルを別途提出し,詳細は新規申立てをした裁判所へ問い合わせるよう案内している。
最初に確認するのは,①まだ提出前か,②提出後であれば事件番号が付いているか,③変更内容が誤記訂正で足りるか,の三点である。
別の人を被告にし直す場合や請求内容を変更する場合には,書面の表題を「訴状訂正申立書」とするだけでは,必要な手続や法的要件を満たしたことにならない。
本記事は,令和8年8月30日現在の法令と裁判所資料に基づき,新法適用事件の第一審を中心に説明する。
令和8年5月21日の全面施行前に開始された旧法適用事件には電子提出できる書面の範囲に制限があり,現在mintsを利用していることだけで,本記事の提出方法を適用できるわけではない(準備の手引43頁~44頁)。
操作説明には令和8年7月15日改訂の操作マニュアル2.3版を用い,FAQについては,同年4月時点の質問・回答一覧として公表されている資料を参照する。
新規申立て全体の入力方法は,mintsで訴訟を提起する方法で説明している。
第2 誤記訂正・当事者の取り違え・訴えの変更を分ける
1 何を直すのかを特定する
民事訴訟法134条2項は,当事者及び法定代理人,請求の趣旨及び原因を訴状の必要記載事項としている。
次の表は,訂正書を作る前に確認する事項を,本記事で整理したものである。
| 誤り・不足 | 最初に確認する事項 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 同一の被告の住所・氏名の誤記 | 訴えの相手自体は変わらないか | 訂正箇所と正しい表示を明示する |
| 契約相手とは別の法人を被告にした | 当初の訴状全体から誰を被告としていたか | 単なる表示訂正で処理できるかを別途検討する |
| 請求金額や請求の対象を変える | 誤記なのか,請求の拡張・追加等なのか | 訴えの変更等の手続を検討する |
| 請求原因の記載漏れ | 既存の請求の説明を補うのか,別の請求を加えるのか | 補充する事実と元の記載との関係を示す |
| 委任状等の添付漏れ | 不足する資料と提出経路 | 不足資料を提出し,訴状本文の訂正要否は別に判断する |
| 別事件の資料・秘密情報を誤添付 | 誤ったファイルと情報の範囲 | 裁判所への連絡と消去等の対応を優先する |
例えば,被告としている会社は同じで,住所の番地だけを誤記した場合と,契約相手とは別の会社を被告にした場合は区別する。
後者では,当初の訴状の当事者表示だけでなく,請求の趣旨・原因等を照合して当事者を確定する問題があり,「会社名の訂正」と呼べば済むとはいえない。
2 請求の変更には別の要件がある
民事訴訟法143条1項によれば,請求又は請求の原因の変更は,請求の基礎に変更がない限り,口頭弁論の終結まで行うことができる。
ただし,著しく訴訟手続を遅滞させることとなる場合には許されない。
同条2項・3項は,請求の変更をする場合の書面と,相手方への送達を定めている。
新法事件では,同法132条の10第1項に従った電子提出が,同条2項により書面等による申立て等として扱われる。
金額の変更でも,数字の転記を直す場合と,請求していなかった金額を新たに請求する場合とでは検討が異なる。
請求の趣旨・原因,計算書及び訂正理由を照合し,請求変更に当たる場合の提出先や追加手数料は,mintsで反訴・訴えの変更をする方法に従って別途確認する。
第3 提出前・立件前・関連付け後の提出方法
1 提出前であれば入力と添付を直す
「未提出(一時保存)」は,入力内容や添付ファイルを保存した状態であって,裁判所への提出完了ではない。
まだ提出していなければ,入力内容と添付ファイルを修正し,申立書のプレビューに加えて,各添付PDFを個別に確認してから提出する。
FAQのPDF6頁によると,申立書のプレビューには添付ファイル自体は表示されない。
添付書類一覧に表示されていても,灰色表示のままであればアップロードできていないため,訴状の続紙や別紙が実際に添付されているかを確認する。
2 提出後で事件番号が分からなければ受付番号で連絡する
操作マニュアル52頁~54頁では,新規申立ては提出直後に「提出中」となり,処理後に「提出済」,受理日及び受付番号が表示される。
提出済みの申立書をダウンロードすると,受付番号と受理日時を確認できる。
受付番号は新規申立て時にシステムが付ける番号であり,裁判所が立件時に付ける事件番号とは異なる。
FAQのPDF6頁は,事件番号が付く前は受付番号,付いた後は事件番号を伝えて問い合わせるよう案内している。
立件や事件情報への関連付けが済む前に訂正が必要となった場合は,提出先裁判所に受付番号を伝え,訂正する内容と提出方法を確認する。
事件一覧にまだ表示されないことだけで未提出と判断して,同じ訴状を新規申立てとして重ねて送信しない。
3 関連付け後は対象事件の記録一覧から提出方法を確認する
事件情報への関連付け後は,対象事件の記録一覧から書類を提出できる。
ただし,最高裁判所事務総局民事局の準備の手引40頁~41頁の対応表には,「訴状訂正申立書」の独立した行はなく,具体的なファイル種別をこの表だけから一律に決めることはできない。
同表は「訴えの変更申立て」を「主張」としているが,これをすべての誤記訂正にそのまま当てはめるのは適切でない。
訂正内容を担当部・係に伝え,既存事件の記録一覧から提出することと,選択するファイル種別を確認する。
提出経路が確認できた後の基本操作は,操作マニュアル65頁~68頁によると,次のとおりである。
「記録外」へのアップロードは正式な提出にはならないため,訂正書の正式提出に代えない。
①対象事件を開き,提出期限が設定された該当項目,又は「提出期限のないファイル」を選ぶ。
②確認したファイル種別を選び,訂正書のPDFを選択して「追加」を押す。
③提出対象の一覧を確認して「提出」を押し,確認画面で「OK」を押す。
④ウイルススキャン等の処理後,新着情報と対象事件の記録一覧を確認する。
提出用PDFはA3又はA4サイズとし,ファイル名は拡張子を含め100文字以内にする。
パスワード付きファイルはアップロードできない(操作マニュアル6頁・65頁~66頁)。
第4 訴状訂正申立書の記載例
1 訂正箇所・訂正前・訂正後を対応させる
東京簡易裁判所が公開する訴状訂正申立書の書式には,事件番号,当事者,提出日,宛先,訂正する項目及び訂正内容の欄がある。
当事者の表示,請求の趣旨,請求の原因等から訂正対象を選び,本文又は別紙に訂正内容を書く構成であり,記載要素を確認する参考になる。
次は,同一の被告会社の本店所在地について,番地だけを誤記したという仮定で本記事が作成した例である。
会社の同一性,代表者及び請求内容は変わらず,元の当事者目録の該当箇所も確認できているものとする。
訴状訂正申立書
令和8年(ワ)第○○号 売買代金請求事件
原告 ○○株式会社
被告 △△株式会社
令和8年○月○日
○○地方裁判所民事第○部○係 御中
原告訴訟代理人弁護士 ○○○○令和8年○月○日提出の訴状について,添付した当事者目録1頁の被告の本店所在地を,次のとおり訂正する。
訂正理由は番地の転記誤りであり,被告会社及び請求内容を変更するものではない。訂正前:大阪市○○区○○一丁目2番3号
訂正後:大阪市○○区○○一丁目2番8号
この例は全国統一のmints専用様式ではなく,宛先,事件番号,書面名及び記載内容は実際の事件に合わせる。
事件番号がまだ付いていない場合は,受付番号等による事件の特定方法を提出先裁判所に確認する。
参照した東京簡裁の書式には押印欄があるが,裁判所の「民事訴訟で使う書式」は,mintsによる申立てでは書式への押印は不要としている。
この案内は,訴訟委任状その他の添付資料について,その作成方法や原本確認まで一律に不要とするものではない。
2 訂正箇所が多い場合と請求原因を補う場合
訂正箇所が複数ある場合は,対象のファイル名,頁,見出し,項目又は行を特定した対照表を作ることが考えられる。
同じ文言が複数ある場合やPDFと本文で頁番号が異なる場合も,どの箇所を直すかを読み手が特定できる表示にする。
訂正後の全文を別紙にする場合でも,どの訴状のどの部分を訂正するのか,変更箇所はどこかを明示する。
元の訴状とは別の完成版だけを添付し,両者の関係を説明しない方法は,変更の範囲が分かりにくい。
請求原因の記載を補う場合には,追加する段落だけでなく,既存の記載を残すのか,特定の段落を置き換えるのかを明らかにする。
例えば,「訴状3頁『請求の原因』第2項の末尾に,次の記載を加える。」という形で場所を特定することが考えられるが,追加内容が別の請求に及ぶときは,訴えの変更に当たるかを先に検討する。
第5 裁判所から補正を求められた場合
1 補正対象と期限を確認する
民事訴訟法137条1項・2項によれば,訴状が同法134条2項に違反する場合,裁判長は相当の期間を定めて不備の補正を命じ,原告が補正しないときは命令で訴状を却下しなければならない。
却下命令に対しては,同条3項により即時抗告をすることができる。
実務上の対応としては,裁判所からの連絡を受けた際に,①補正を求められた箇所,②提出する書類,③期限,④提出場所・ファイル種別を確認して記録するとよい。
電話等による連絡についても,その内容と正式な補正命令の有無を確認し,「画面に期限が出ていないから期限はない」と判断しない。
同条は補正期間を全国一律の日数では定めていないため,個別に指定された期間を確認する。
間に合わない事情が判明したときは期限前に担当部・係へ連絡し,期間についてどのような手続が必要かを確認するが,連絡しただけで期間が延びたと扱わない。
2 手数料未納への対応は別の条文である
現行の民事訴訟法137条の2第1項は,訴え提起の手数料が納付されない場合,裁判所書記官が相当の期間を定めて納付を命じる処分をするものとしている。
定められた手続を経ても命じられた手数料を納付しない場合の訴状却下は,同条6項の問題となる。
したがって,請求の記載を訂正することと,手数料を納付することは別々に処理する。
訂正書を提出しただけで未納が解消するわけではなく,金額確認,納付期限及び不納付時の手続は,mintsの手数料をPay-easyで納付する方法を参照されたい。
3 添付漏れと誤添付を区別する
準備の手引40頁によれば,訴訟委任状は,訴え提起と同時なら新規申立てフォームの「添付書類」,後から提出する場合は記録一覧の「その他」から提出する。
委任状の添付漏れであれば,不足する委任状の提出と,訴状本文に訂正を要する箇所があるかを分けて確認する。
一方,同手引12頁は,証拠について,新規申立て時にはアップロードせず,立件・関連付け後に記録一覧から提出する運用を説明している。
訴状に関係する資料をすべて同じ意味の「添付漏れ」と扱わず,訴状の続紙,委任状等及び証拠を区別する。
誤った添付ファイルは利用者自身では削除できず,正しい訂正書を追加しても旧ファイルの消去に代わるものではない。
別事件の資料や秘密情報を含む場合の連絡・消去・再提出は,mintsで誤アップロードした場合で説明している。
第6 時効・出訴期間と提出後の確認
1 訂正すれば必ず当初の提訴時に遡るわけではない
民事訴訟法132条の10第3項は,電子申立て等の事項が裁判所のファイルに記録された時に到達したものとみなす。
手元で訂正書を作成した時や,一時保存した時を提出時点と取り違えない。
同法147条は,訴えの提起又は請求変更書面の裁判所への提出の時に,時効の完成猶予又は法律上の期間遵守に必要な裁判上の請求があったものとする旨を定めている。
新たな請求や別の被告に関わる変更では,当初の訴状で誰に対するどの請求がされていたかを確認する必要があり,「訂正」という名称だけで当初の提訴時の効果を保証することはできない。
提出後は,実際に提出されたファイルを開き,訂正箇所・訂正前後・別紙の欠落がないかを確認し,提出状況の記録とともに保存することが考えられる。
請求変更の書面には前記のとおり送達が必要であるから,mintsにアップロード通知が出たことだけで,相手方への送達まで完了したとは判断しない。
2 取消訴訟の被告の誤りには特別な救済がある
行政事件の取消訴訟では,行政事件訴訟法11条によって被告とすべき者を確認する。
処分行政庁の表示を直す問題と,被告とすべき国又は公共団体等を誤った問題を区別する。
同法15条1項は,故意又は重大な過失によらず被告とすべき者を誤った場合,原告の申立てにより,裁判所が決定で被告変更を許すことができると定める。
この決定があった場合,同条3項により,出訴期間の遵守については,新たな被告に対する訴えを最初の提訴時に提起したものとみなす。
これは要件と裁判所の決定を伴う救済であり,単にmintsへ訂正書を提出すれば生ずる効果ではない。
一般の民事事件の当事者変更や時効について,同じ扱いをそのまま当てはめることもできない。
第7 出典
1 法令
①e-Gov法令検索「民事訴訟法」(令和8年8月30日現在,132条の10,134条,137条,137条の2,143条,147条)。
②e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(同日現在,11条,15条)。
2 裁判所の運用資料・操作説明・書式
①最高裁判所事務総局民事局「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」(令和8年6月19日版,3頁,12頁,40頁~41頁,43頁~44頁,資料頁とPDF頁は同じ)。
②裁判所「民事裁判書類電子提出システム 操作マニュアル ~当事者ユーザ編~」(2.3版,令和8年7月15日改訂,6頁,52頁~54頁,65頁~68頁,本記事のマニュアル頁は冊子頁であり,PDFビューアでは3頁を加えた位置)。
③裁判所「mintsでよくある問合せ」(令和8年4月時点のチャットボットの質問・回答一覧,頁表記なし,PDF1頁・6頁・9頁,同資料はその後の回答の追加・修正に対応しない旨を明記)。
④東京簡易裁判所「訴状訂正申立書」(発行日記載なし,1枚,PDF1頁)。
⑤裁判所「民事訴訟で使う書式」(mintsによる申立ての押印についての案内,令和8年8月30日閲覧)。