第1 個別建物の一致率を示す表ではない
国税庁の「建物の標準的な建築価額表」は,建築年と構造に応じた全国の工事費予定額を基礎とする表である。
個々の建物について,完成後の支払額と何%一致するかを示した精度検証の結果ではない(国税庁の表,注1・注2)。
予定額と実施額の違いを知る参考として,国土交通省の建築工事費調査がある。
令和6年分の層別単価補正率を百分率に直すと,実施単価が予定単価を約7.86%~13.14%上回る数値となるが,これは国税庁の表の個別建物に対する誤差率ではない。
本記事では,令和8年9月14日を基準に,この数値の意味と,譲渡所得の計算における表の位置付けを説明する(国土交通省「建築工事費調査の概要(令和6年分)」,PDF3頁)。
第2 標準的な建築価額は何を計算した金額か
表の単価は,国土交通省の建築着工統計にある構造別の工事費予定額を,床面積の合計で割って算出される。
完成後の工事費の平均ではなく,また,各建物の単価を単純平均した数字でもない(国税庁の表,注1)。
例えば,令和5年建築の木造・木骨モルタル造の欄は,1㎡当たり204.1千円である。
床面積100㎡の建物を仮定すれば,表による計算額は20万4100円×100㎡=2041万円となるが,これはその建物に実際に2041万円を支払ったことを証明するものではない。
この単独表の最終掲載年は,令和8年9月14日の確認時点では令和5年であり,現在の新築見積額を直接示す数字として読むこともできない。
国税庁の計算表では,建築年に対応する単価に床面積を掛け,購入時に中古建物であった場合は,建築から購入までに減価した額を差し引く。
さらに,譲渡所得の計算に用いる建物の取得費は,こうして求めた取得価額から売却時までの償却費相当額を差し引くため,表の単価を掛けた金額と売却時の取得費を区別することになる(令和7年分「譲渡所得の申告のしかた」参考2,冊子29頁・PDF1頁)。
第3 予定単価と実施単価の差を示す統計
1 令和6年分の調査対象と単価補正率
国土交通省の建築工事費調査は,着工時に把握した建築物について,完成後の工事実施額と床面積を調べるものである。
令和6年分では調査票を9369棟に郵送して6443棟から回収し,審査・照会を経て,完成建築物5942棟と中止・未着工155棟を集計している(調査結果の公表,調査概要,PDF1頁~2頁)。
次の表は,同調査が公表する単価補正率と,それを「予定単価に対して何%高いか」に換算したものである。
右端の数値は,(単価補正率-1)×100により本記事で計算し,小数第3位を四捨五入した(調査概要PDF3頁)。
| 調査の層 | 単価補正率 | 予定単価に対する上昇率 |
|---|---|---|
| 木造・1億円未満 | 1.08107 | 8.11% |
| 木造・1億円以上 | 1.09804 | 9.80% |
| 非木造・1億円未満 | 1.12850 | 12.85% |
| 非木造・1億円以上20億円未満 | 1.13135 | 13.14% |
| 非木造・20億円以上 | 1.07861 | 7.86% |
木造の20億円以上の層は回収数が少ないため,1億円以上20億円未満の層と統合されている。
また,調査概要は,中止・未着工を含む調査データの工事費予定額と工事実施額について,それぞれ対応する床面積の合計で割った単価を求め,実施単価を予定単価で割って補正率を算出すると説明している(同PDF2頁~3頁)。
2 この数値を個別建物へ読み替えられない理由
(1) 集計単価の差と個別建物の誤差
単価補正率は,金額と床面積をそれぞれ合計して求めた単価の比率である。
各建物の誤差率の平均,誤差の最大値・最小値,又は一定の誤差内に収まる建物の割合ではなく,個々の建物が同じ程度だけ高くなることを示すものでもない。
したがって,上表の約7.86%~13.14%を「この範囲に誤差が収まる」という意味で用いることはできない。
(2) 対象年と構造区分の違い
国税庁の表は各年の建築着工統計を基礎とするのに対し,ここで取り上げた調査は令和6年完成の建築物等を集計しており,同じ年に着工した建物だけの集計ではない。
構造区分も,国税庁の表の木造・木骨モルタル造,鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄筋コンクリート造,鉄骨造という区分と,工事費調査の木造・非木造という区分とでは異なる。
このため,例えば過去の鉄筋コンクリート造の表単価へ令和6年分の非木造の補正率を掛けても,その建物の実額を検証した計算にはならない(国税庁の表,調査概要PDF1頁~3頁)。
第4 税務上の利用と実額との照合
1 表を使う場合と使わない場合
国税庁は,土地と建物を一括で取得し,契約上それぞれの価額が区分されていないなど,建物の取得価額が不明な場合に,土地・建物の価額を区分する一方法としてこの表を示している。
他方,①契約書等に土地と建物の価額が区分して記載されている場合,②建物に係る消費税額から建物価額を把握できる場合には,この表を使用しないと明記している(国税庁の表,注2)。
表から大きな金額が出たという理由だけで,資料で把握できる建物価額を置き換える取扱いではない。
また,この注記は土地と建物の価額の区分を説明したものであり,土地建物の購入総額まで不明な場合に,どのような推計でも認めるという説明ではない。
2 東京地裁が認めた按分方法としての合理性
東京地裁平成25年5月30日判決は,購入時に土地と建物の価額が区分されていなかった事案について,この表を基に建物部分の取得価額を算定する合理性を認めた。
裁判所は,基礎となる建築統計年報の客観的合理性に加え,国税庁がこの計算方法を案内していることや,納税者間の公平という観点を検討している(判決94頁~96頁・PDF同頁)。
ここで判断されたのは,当該事案における取得価額の算定方法の合理性である。
個々の建物の工事代金と表の計算額を多数照合し,統計的な一致率や誤差の範囲を認定したものではない。
税務上の按分方法として合理性が認められることと,実際の建築費にどれだけ近いかが検証されていることは,分けて理解する必要がある。
3 個別の実額と比べるときの条件
国土交通省の用語解説では,工事費予定額は建築工事の予定額であり,主体工事費と建築設備工事費を含むとされている。
したがって,土地代や別の費用も含む購入総額を,建物工事の単価から計算した金額とそのまま比較しても,表の精度を測ったことにはならない(建築着工統計調査「用語の解説」,冊子9頁・PDF10頁)。
本記事では,実額との比較に当たり,①建築年・構造・床面積,②工事契約の対象と追加工事の有無,③比較する金額に含まれる費用,④新築時の工事費か中古購入時の建物価額か,をそろえて確認することを提案する。
その上で生じた差は,まずその建物と表の計算額との差として扱い,一件の結果から全国の建物の一致率へ一般化しないことが,この表を読む際の基本となる。
第5 関連記事
相続した土地・建物を売却する場合の取得費,減価償却及び特例の全体像については,相続した不動産を売却したときの譲渡所得-取得費・特例・遺産分割を参照されたい。
地価公示,路線価,家賃及び建築費など,目的の異なる不動産の数字を調べる入口については,家賃相場・土地価格相場等の情報を参照されたい。
第6 出典
1 国税庁の申告案内・解説資料
①国税庁「建物の標準的な建築価額表」,PDF1頁,注1・注2及び令和5年の欄(公表日表示なし,令和8年9月14日確認)。
②国税庁「令和7年分 譲渡所得の申告のしかた・参考2」,冊子29頁・PDF1頁。
2 国土交通省の統計・統計解説
①国土交通省「建築工事費調査(令和6年分)の調査結果について」,令和7年9月30日公表。
②国土交通省「建築工事費調査の概要(令和6年分)」,同日公表,PDF1頁~3頁(資料内の頁番号表示なし)。
③国土交通省「建築着工統計調査・用語の解説」,冊子9頁・PDF10頁(公表日表示なし,令和8年9月14日確認)。
3 裁判例
東京地裁平成25年5月30日判決(平成21年(行ウ)第310号・第316号,平成22年(行ウ)第60号,税務訴訟資料263号103・順号12227,裁判所ウェブサイト)。
参照箇所は判決1頁及び94頁~96頁(PDF同頁)であり,国税庁掲載の税務訴訟資料1頁には確定と表示されている。