第1 国選弁護人の報酬及び費用の根拠
1 法テラスと国選契約弁護士との契約
日本司法支援センター(法テラス)は,国の委託に基づき,国選弁護人候補の指名及び裁判所への通知を行い,選任された国選契約弁護士に国選弁護人の事務を取り扱わせる(総合法律支援法30条1項6号)。
国選弁護人に支給される報酬及び費用は,法務大臣の認可を受けた契約約款及びその一部をなす報酬・費用の算定基準により定まる(同法36条)。
本記事は,令和8年9月7日現在の制度を対象とし,法テラスの国選弁護関連業務の解説及びFAQ(令和8年8月改訂版),国選弁護報酬基準一覧表(令和6年4月1日改定)及び国選弁護人契約約款を基礎資料とする。
令和8年8月改訂版の解説及びFAQは,令和8年3月までに認可された契約約款の変更に対応した資料である。
2 被告人の訴訟費用負担とは別の問題であること
法テラスが国選弁護人へ支給する報酬及び費用の算定と,刑の言渡しを受けた被告人が刑事訴訟法181条等により訴訟費用を負担するかどうかは,別の問題である。
本記事は前者,すなわち国選契約弁護士が法テラスへ報告及び請求をする場合の算定を扱う。
第2 算定基準と弁護活動の関係
1 客観的な指標による類型的な算定
法テラスのFAQは,国選弁護報酬について,国選弁護活動の自主性及び独立性と財政規律の双方を確保するため,報酬算定者の裁量をできる限り排除し,客観的な指標に基づく類型的かつ画一的な算定を行う仕組みであると説明している。
そのため,実際に必要であった活動のすべてが個別の報酬項目又は費用項目として評価されるわけではなく,算定基準に明記されていない活動を柔軟な解釈又は類推によって支給対象へ加えることも予定されていない。
2 支給対象外であることと活動が不要であることは同じでないこと
法律事務取扱規程4条14号は,国選契約弁護士に対し,被疑者及び被告人等の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努めることを求め,同条15号は,身体拘束を受けている被疑者及び被告人等について,必要な接見等の機会の確保及び身体拘束からの解放に努めることを求めている。
したがって,ある活動が独立の報酬項目又は費用項目になっていないことから,直ちにその活動が弁護人の職務として不要であるとはいえない。
報酬・費用の「請求レイヤー」と,被疑者又は被告人の権利を守るために必要な活動を判断する「弁護活動レイヤー」は区別して管理する必要がある。
第3 被疑者国選弁護事件の接見等
1 接見等合計と基準接見回数
被疑者国選弁護事件の通常報酬は,接見,電話交通及び準接見を客観的な労力指標として算定される。
接見1回は1ポイント,電話交通1回及び準接見1回はそれぞれ0.5ポイントとして接見等合計を計算するが,同じ日に複数回の接見等をしても原則として1回として扱われる。
基準接見回数は,初回の接見等の日から処分日等までの被疑者弁護期間に応じ,次のとおり定まる。
| 被疑者弁護期間 | 基準接見回数 |
|---|---|
| 4日以下 | 1回 |
| 5日~8日 | 2回 |
| 9日~12日 | 3回 |
| 13日~16日 | 4回 |
| 17日~20日 | 5回 |
| 21日~25日 | 6回 |
2 通常報酬の算定
接見等合計が基準接見回数以上である場合の基礎報酬は,原則として「2万円×(基準接見回数-1)+2万6400円」で算定される。
接見等合計が基準接見回数未満である場合,又は電話交通若しくは準接見を含む場合には,算定基準所定の別の算式が用いられる。
接見等合計が基準接見回数を超えた場合には,多数回接見加算報酬が設けられている。
加算額は,超過分が0.5ポイントで5000円,1ポイントで1万円,1.5ポイントで1万3000円,2ポイントで1万6000円であり,2ポイントを超える部分は0.5ポイントごとに2000円が加算されるが,算定上限がある。
したがって,「一定回数を超えた後は接見1回ごとに一律1万6000円」という仕組みではない。
3 接見資料
被疑者国選弁護事件で接見に基づく報酬を請求するには,原則として各接見について接見資料を提出する必要がある。
法テラスの国選手続の流れも,接見が行われたことの疎明資料として接見資料が必要であると明記している。
接見資料が取得できなかった場合に事実証明書で補うことのできる場面は例外である。
接見日,施設,接見した弁護士及び資料の有無を事件ごとに記録し,終了時にまとめて確認するのではなく,接見の都度保存する運用が安全である。
第4 勾留に関する準抗告等と身柄釈放
1 5万円の特別成果加算
被疑者国選弁護事件では,国選弁護人自身が所定の申立てを行い,その申立てが認容され,被疑者が現実に釈放された場合,特別成果加算報酬として5万円が加算される。
対象となるのは,①勾留決定に対する準抗告により勾留決定が取り消されて勾留請求が却下され,被疑者が釈放された場合,②勾留期間延長決定に対する準抗告により同決定が取り消されて延長請求が却下され,被疑者が釈放された場合及び③勾留取消しの申立てが認容され,被疑者が釈放された場合である。
単に勾留期間延長決定に対する準抗告によって延長期間が短縮された場合は,算定基準所定の成果に当たらず,この加算の対象とならない。
結果を証明する決定書その他の資料を報告書に添付する必要がある。
2 早期釈放と接見報酬との関係
被疑者弁護期間が短くなると基準接見回数も少なくなるため,早期釈放によって接見等を基礎とする通常報酬が低くなる場面は,算式上あり得る。
他方で,準抗告等により所定の成果を得た場合には5万円の特別成果加算があるから,個別事件の総報酬は,実際の接見回数,弁護期間及び成果要件を当てはめなければ計算できない。
準抗告の成功率について公的統計を確認しないまま,期待報酬を一律に数千円と評価することはできない。
第5 被告人国選弁護事件と保釈
1 被告人国選弁護報酬の構造
被告人国選弁護事件の通常報酬は,裁判所の種類,単独事件又は合議事件の別,公判前整理手続の有無,公判期日等の回数及び実質審理時間等に応じて算定される。
被疑者国選から引き続き被告人国選を担当する場合には,所定の継続減算がある。
無罪,一部無罪,縮小認定,示談等及び保釈等には,算定基準所定の要件を満たす場合の特別成果加算がある。
縮小認定等は,単に求刑より軽い刑が言い渡されたというだけではなく,算定基準が定める犯罪事実の認定又は刑の減免等の要件を満たす必要がある。
2 保釈等の加算
即決裁判事件以外の勾留被告人について,国選弁護人自身が所定の申立てを行い,勾留取消し又は保釈許可等の裁判を得て,被告人が現実に釈放されたときは,保釈等の特別成果加算報酬として1万円が加算される。
保釈許可決定を得ても,保釈保証金が納付されず,被告人が現実に釈放されなかった場合は結果要件を満たさず,加算されない。
同一審級で2回以上の保釈等があっても,加算は1回限りである。
第6 記録謄写費用
1 原則
国選弁護人が謄写した記録が200枚を超える場合,原則として「(謄写枚数-200枚)×20円」の定額で記録謄写費用が算定される。
1枚当たり20円を超える額を現に支払った場合は,「(謄写枚数-200枚)×40円」を上限とする実費額による。
デジタルカメラ等で撮影した場合及び事務所で印刷した場合も,上記の算定方法の対象となる。
カラー記録は,カラー謄写1枚を2枚として換算する。
2 200枚以下でも費用が算定される場合
否認事件,法定刑に死刑がある事件,公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件,記録が2000枚を超える事件及び第1回公判前に公訴棄却等で終了した事件については,算定基準所定の要件を満たすとき,200枚以下の部分を含めて記録謄写費用が算定される。
同じ事件記録を重ねて謄写した場合は,原則として1回分に限られるが,複数選任事件等には例外がある。
第7 遠距離接見等加算報酬と交通費
1 加算報酬と費用償還の区別
遠距離接見等については,移動時間等を評価する加算報酬と,現実の移動費用を償還する交通費を区別する必要がある。
加算報酬は,所定の遠距離移動を伴う接見等について,距離に応じて1回4000円又は8000円が加算される。
交通費は,近距離の交通費が基礎報酬で賄われることを前提として,遠距離移動について支給される。
原則は,事務所所在地を管轄する最寄簡裁から目的地までの直線距離を基準とする定額方式である。
2 実額方式と証拠資料
現実の移動が通常の経路及び方法によるものであり,現に支払った交通費が定額方式の額を超える場合には,例外的に実額方式が用いられる。
実費を請求する場合は,領収書,利用証明書その他の支払額を疎明する資料が必要である。
タクシー代は常に支給されないわけではないが,徒歩移動の困難性,公共交通機関の有無及び運行本数等に照らして通常の経路及び方法といえる必要がある。
単にバスの待ち時間を避けるためにタクシーを利用したというだけでは,実額方式が認められないことが多いと法テラスのFAQは説明している。
1回の移動で複数の国選事件の目的地を回った場合は,交通費の按分が必要であり,按分を要する事件があること自体の報告を欠くと,後日の減額又は返金につながり得る。
第8 通訳人費用
1 国選弁護人と通訳人との契約
日本語に通じない被疑者又は被告人との接見等のため国選弁護人が通訳人を依頼した場合,通訳人は国選弁護人との契約に基づいて通訳業務を行う。
国選弁護人は通訳人へ通訳料等を支払い,又は支払義務を負った上で,法テラスへ通訳人費用を請求することになる。
法テラスから支給される額は,国選弁護人が通訳人に支払った額又は請求された額のうち,法テラスの通訳料基準の範囲内である。
基準を超える約定をした場合,超過分まで当然に償還されるわけではない。
2 通訳料基準の主な金額
現行の法テラス掲載資料では,1日当たり最初の30分以内の通訳料は8380円,30分を超える部分は10分に達するごとに1047円とされている。
待機手当は20分に達するごとに1047円であり,1日当たり4188円が上限である。
公共交通機関による交通費,通訳のための移動が往復100キロメートル以上である場合の遠距離移動手当4190円及び振込手数料等についても,所定の範囲で算定される。
インターネット上の実務家記事には「10万円を超えれば中間払いになる」との記載があるが,本記事の基準日現在,この金額基準を現行の法テラス公式資料で確認できていないため,確定的な取扱いとしては記載しない。
第9 診断書,受診費用及び私的鑑定
訴訟準備費用として算定されるのは,診断書の作成料,弁護士会照会の手数料,行政庁へ提出する証明書の発行手数料等,算定基準に列挙された費目であり,原則として合計3万円の範囲内で実費が支給される。
医療機関の受診費用それ自体は上記の列挙に含まれていないため,診断書作成料が支給対象であることから受診費用も当然に支給されるとはいえない。
私的鑑定の費用は,法テラスのFAQ上,費用算定の対象外とされている。
もっとも,費用が支給されないことと,個別事件で医学的知見又は鑑定が不要であることは同じではないため,必要性と費用負担を別々に検討することになる。
第10 事件終了から14営業日以内の報告及び請求
1 事件終了日
国選弁護人は,活動終了から14営業日以内に,報告書を提出して事件終了の報告及び報酬・費用の請求をする必要がある。
被疑者段階の終了事由には起訴,家庭裁判所送致及び釈放等があり,被告人段階の終了事由には判決宣告,公訴棄却及び解任等がある。
上訴期間が満了した日ではなく,判決宣告日が被告人国選の活動終了日となる。
被疑者国選から引き続き被告人国選を担当する場合も,被疑者段階が終わった時点で被疑者国選の報告及び請求を別に行う必要がある。
2 営業日の数え方と期限徒過
14営業日の計算では,土曜日,日曜日,国民の祝日,1月2日及び3日並びに12月29日から31日までを除く。
報告書又は資料の提出が遅れた場合,報酬又は費用の一部又は全部が支給されないことがある。
期限後に新たな報酬・費用項目を追加することは原則としてできず,法テラスが個々の不足を当然に照会又は補正依頼してくれる仕組みでもない。
入院又は災害等の客観的にやむを得ない事情がある場合を除き,多忙,失念又は事務所内の引継ぎ不足だけで期限徒過が救済されるとは限らない。
3 支払日
令和8年4月1日以後に請求可能となった事件は,報酬・費用の額が確定した日の翌月5日又は20日が原則的な支払日である。
請求日から60日を経過する日の方が早く到来する場合は,その日が支払日となる。
第11 算定結果に対する不服申立て
法テラスの算定に異議があるときは,契約約款所定の不服申立てにより再算定を求めることができる。
再算定は,申立てで指摘した項目だけを機械的に増額する手続ではなく,「報酬及び費用を再度算定」する手続である。
再算定の過程で別の誤算定が発見された場合は,契約弁護士に有利か不利かを問わず是正される。
再算定によって不利益に変更された部分については,その部分に限って改めて不服を申し立てることができるとFAQは説明している。
第12 釈放後の復路交通費を支給対象外とした裁判例
札幌地裁平成30年8月17日判決(平成29年(ワ)第1534号,国選弁護費用請求事件)は,被疑者の釈放後,受入先施設まで同行した国選弁護人が支出した復路交通費7850円の請求を棄却した。
同判決は,当時の算定基準にいう国選弁護人に選任された事件に関する遠距離移動は,国選弁護人選任の効力が及んでいる間に行われたものに限られ,被疑者の釈放後の復路移動は支給対象にならないと判断した。
他方で,同判決は,受入先までの同行が釈放の条件とされていたため,実質的には国選弁護人としての活動を義務付けられたものと評価できるとして,約款又は算定基準を変更してこの活動を評価することが望ましいと付言した。
この判決は,当時の約款及び算定基準を対象とする地方裁判所判決であり,現在の個別請求については現行基準への当てはめが必要である。
また,本記事の調査では同判決の控訴審及び確定状況を判例秘書で確認できていない。
第13 実務家記事から得られる問題提起とその限界
「辞めよう国選弁護」は,接見回数を中心とする被疑者国選報酬,早期の身柄解放,謄写費,交通費,通訳費,保釈及び私的鑑定費用等について,国選弁護を多く担当する弁護士の経験と制度評価を対談形式で示している。
同記事からは,報酬基準が弁護活動へ与えるインセンティブを,個々の単価だけでなく,期限,証拠資料及び支給対象外費用まで含めて検討する必要があるという問題意識を得られる。
もっとも,同記事及び同記事が引用する平成26年の「国選弁護事件で稼ぐ方法」は,実務家による経験,評価及び皮肉を含む二次資料であり,現行制度の一次資料ではない。
例えば,タクシー代は一律に支給対象外ではなく,現行FAQは通常の経路及び方法に当たる場合の実額算定を認めている。
また,接見回数と報酬の関係,身柄釈放加算5万円,保釈等加算1万円,200枚を超える謄写費用,私的鑑定費用の不支給等は現行公式資料で対応関係を確認できる一方,準抗告認容率約6分の1,期待報酬約3000円及び通訳費用10万円超の中間払基準は,本記事の調査で一次資料による裏付けを得ていない。
第14 報酬・費用請求の確認事項
事件終了時には,少なくとも次の事項を確認する必要がある。
①被疑者国選と被告人国選を別事件として終了日及び期限を管理しているか。
②接見資料,電話交通及び準接見の記録がそろっているか。
③準抗告,勾留取消し,保釈及び示談等について,活動要件と結果要件の双方を証明する資料があるか。
④謄写枚数,カラー枚数,支払単価及び同一記録の重複謄写の有無を確認したか。
⑤遠距離移動について定額方式と実額方式を区別し,領収書及び経路資料を保存したか。
⑥通訳人との契約額,実施時間,待機時間,交通費及び支払資料を保存したか。
⑦事件終了から14営業日以内に,請求する全項目及び添付資料を提出したか。
⑧算定結果を請求内容と照合し,不服申立てをする場合は再算定が全体へ及び得ることを確認したか。
第15 出典
①e-Gov法令検索・総合法律支援法30条,33条及び36条並びにe-Gov法令検索・刑事訴訟法181条
②法テラス「国選 手続の流れ」
③法テラス「国選弁護関連業務の解説」(2026年8月改訂版)8頁~33頁
④法テラス「国選弁護報酬及び費用についての基本的な説明(FAQ)」(2026年8月改訂版)3頁~35頁
⑤法テラス「国選弁護報酬基準一覧表」(令和6年4月1日改定)1頁~4頁
⑥法テラス「国選弁護人契約弁護士のしおり」(2026年3月30日版)1頁~4頁
⑦法テラス「国選弁護人の事務に関する契約約款」(令和8年4月1日施行)
⑧法テラス「法律事務取扱規程」(令和8年3月25日変更認可)4条
⑨法テラス「国選弁護人契約・国選付添人契約弁護士のしおり(通訳事件編)」(2019年10月改訂版)
⑩法テラス「法テラスの通訳料基準」(2019年10月改定版)及び「国選弁護における通訳料基準」(2019年10月1日施行)
⑪法テラス「接見資料の提出及び事実証明書の交付請求における留意点」及び「接見資料等に関するQ&A」(令和3年3月版)
⑫札幌地裁平成30年8月17日判決(平成29年(ワ)第1534号,国選弁護費用請求事件)
⑬弁護士ノースライムチャンネル「辞めよう国選弁護」(令和6年12月6日。実務家の経験及び評価を示す二次資料)
⑭刑裁サイ太のゴ3ネタブログ「国選弁護事件で稼ぐ方法」(平成26年5月8日)及び「国選弁護報酬について本気出して考えてみた」(平成30年2月26日。いずれも制度批評を示す二次資料)