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SCAPIN-677と竹島――ポツダム宣言受諾後の行政権の一時停止(AI作成)

第1 行政権の一時停止とは何か

内閣官房は,終戦後の竹島について,日本の「行政権の一時停止」という見出しを設け,昭和21年1月29日のSCAPIN-677によって日本が行政権を行使する範囲から除外されたと説明している。
ここで問題となるのは,日本政府の行政活動が全国で止まったという意味ではなく,占領下で,特定の地域について日本政府による権限行使が停止されたということである(内閣官房「終戦・占領開始」SCAPIN-677第1項・第3項)。

また,「一時停止」という説明を,指令に終了日が書かれていたという意味で読むことはできない。
同指令には領土帰属の最終決定を留保する条項があり,その後には地域別の変更も行われたが,停止措置そのものに一律の終了期限は記されていない。
行政権の制限,その後の変更及び領土帰属の最終的決定は,区別して読む必要がある。

降伏後も日本の行政機構は存続した。
降伏文書は,官吏に原則として非戦闘的職務の継続を命じる一方,天皇及び日本政府の統治権限を連合国最高司令官の制限の下に置いた。
米国の占領基本指令も,日本の政府機構を通じた権限行使を基本としていた(JCS1380/15第4項・第5項)。
この統治方式の経緯は,日本が直接軍政を免れた経緯を扱う記事で説明している。

第2 SCAPIN-677の条文と「一時」の意味

1 行政範囲からの除外と全8項の構造

SCAPIN-677は,連合国最高司令官から日本政府に出された指令の一つである。
SCAPIN-677の原画像は全2頁であり,内容は次の8項から成る。
表は逐語訳ではなく,各項の主要な働きを示したものである。

主な内容
第1項この指令でいう日本の外にある地域及びその住民等について,日本政府による政府上・行政上の権限の行使及びその企てを停止するよう命じる。
第2項日本国外の官吏・職員その他の人との通信を制限する。ただし,司令部の許可や,許可された海運・通信・気象業務の通常運営には例外がある。
第3項指令の目的上の「日本」の範囲を定める。本州等の四主要島及び一定の隣接小島を含め,竹島・鬱陵島・済州島,伊豆諸島等を除外する。
第4項委任統治諸島,満州,台湾・澎湖諸島,朝鮮,樺太等を,日本政府の政府上・行政上の管轄から除外される地域として,さらに掲げる。
第5項この「日本」の定義を,別段の定めがない限り,その後の司令部の指令等にも適用する。
第6項この指令を,ポツダム宣言第8項にいう小島の最終的決定に関する連合国の政策を示すものと解釈してはならないとする。
第7項日本国外に関係する機能を持つ日本政府の機関について,組織・人員等の報告を求める。
第8項これらの機関の記録を保存し,司令部による検査を可能にするよう求める。

竹島の除外は第3項(a)に記載されている。
しかし,第1項の権限行使の停止だけでなく,第2項の通信,第5項の後続指令への適用,第7項・第8項の組織と記録の処理まで読むと,この文書が占領中の行政運営を具体的に区分する指令であったことが分かる。

2 最終決定の留保と明示の終了期限の不在

ポツダム宣言第8項は,日本の主権が及ぶ範囲として本州,北海道,九州及び四国を挙げ,その他の小島について連合国側の決定に委ねていた。
SCAPIN-677第6項は,その小島の最終的決定と,この行政上の区分を結び付けて確定的に理解することを禁じている。
第8項と講和条約による領土処理の全体像は,ポツダム宣言第8項の意味を扱う記事を参照されたい。

したがって,SCAPIN-677によって竹島に対する日本政府の行政権行使が制限されたことと,この指令で竹島の領土帰属が最終的に決まったことは,同じではない。
他方,第6項は行政上の制限そのものを無効にする規定でもない。
「一時停止」は,終了日を引用した表現ではなく,こうした占領上の措置と最終的な領土処理との関係を説明する表現として理解するのが適切である。

第3 起草記録に現れる選挙準備と行政範囲

1 選挙準備をめぐる日本政府の要請とGHQの検討

行政範囲を明確にする必要は,選挙準備にも関係していた。
昭和20年10月29日の終戦連絡中央事務局文書CLO第401号には,船舶の航行が禁じられている地域で衆議院議員選挙を準備・実施するため,投票箱の輸送や通信等の便宜を求める日本側の要請が記録されている(60コマ~61コマ)。
同年12月24日のGHQ民政局長の覚書も,選挙準備と行政管轄の確定を関連付けつつ,これを最終的な領土決定と区別していた(144コマ~145コマ,文書2頁の第Ⅲ部)。

昭和21年1月5日の民政局の検討文書には,行政上の分離が日本の主権の最終的決定に影響しないという趣旨の説明がある(18コマ,第Ⅱ部第5項)。
これらの記録からは,選挙を含む行政実務のために管轄範囲を明確化し,領土の最終処理とは区別しようとした検討過程を読み取ることができる。
ただし,選挙準備だけが発令の理由であったことや,竹島を個別に列挙した理由まで,この記録から確定することはできない。

2 発令後の会談記録が示す行政措置としての説明

発令後の昭和21年2月13日には,行政の分離をめぐる日本側と司令部側の会談が行われた。
外務省の会談記録には,SCAPIN-677が領土問題ではなく行政上の措置であるとの司令部側の説明が記されている(掲載PDF2頁,原資料番号0155)。

もっとも,これは当時の日本側が作成した記録であり,司令部側が署名した共同議事録ではない。
指令第6項と整合する同時代の説明を伝える資料として位置付けられるが,この記録自体を領土帰属についての連合国の最終合意とみることはできない。

第4 行政権の再開と竹島への接近禁止の改廃

1 伊豆諸島等と北緯29度以北の南西諸島

SCAPIN-677による行政範囲は,その後も固定されたままではなかった。
昭和21年3月22日のSCAPIN-841は,伊豆諸島及び孀婦岩を含む同岩以北の南方諸島について,最高司令官の権限の下で,日本政府による政府上・行政上の管轄を再開するよう命じた。
同指令第4項にも,最終的な領土決定に関する政策を示すものと解釈してはならないという留保がある。

昭和26年12月5日のSCAPIN-677/1は,北緯29度以北の南西諸島について,日本政府による政府上・行政上の管轄を最高司令官の権限の下で再開するよう命じた。
南西諸島全体を一括して扱った措置ではなく,対象地域を区切った変更である。
このような個別の変更も,行政範囲の設定と領土帰属の最終的処理を分けて理解する手掛かりになる。

2 SCAPIN-1033の12マイル接近禁止と昭和24年の廃止

SCAPIN-677とは別に,日本の漁業等を認める区域を定めたのが,昭和21年6月22日のSCAPIN-1033である。
同指令第3項(b)は,日本の船舶及び人員が竹島に12マイルより近づくことや,同島と接触することを禁じていた。
第5項には,国の管轄,国際的な境界又は漁業権についての連合国の最終政策を示すものではないという留保がある。

このSCAPIN-1033は,昭和24年9月19日のSCAPIN-2046第2項により,SCAPIN-1033/1とともに明示的に廃止された。
したがって,昭和21年の12マイル接近禁止が,同じ指令のまま昭和27年まで存続したと説明するのは正確ではない。

もっとも,後継のSCAPIN-2046も新たな操業区域と条件を定めている。
第4項は,許可区域内にある日本の行政下にない陸地へ,日本船舶が3マイルより近づくことを禁じている。
乗組員の上陸・住民との接触も,重大な緊急事態があり,かつ現地当局の事前許可を得た場合を除いて禁止され,第6項には最終政策の留保がある。
この一般条項だけから,昭和24年以降は竹島の周囲3マイルまで自由に接近できたと結論付けることはできず,操業区域の指定や他の適用規制も合わせて検討する必要がある。

3 昭和27年4月25日の後継規制の廃止

昭和27年4月25日の「日本の漁業及び捕鯨の許可区域」に関する覚書第2項は,SCAPIN-2046,SCAPIN-2050,SCAPIN-2050/1及びSCAPIN-2097を廃止した。
この日付は,平和条約が発効した同月28日とは異なる。
竹島への接近禁止を検討するときは,昭和21年の規制,昭和24年の指令交替,昭和27年4月25日の後継規制の廃止という順序を追う必要がある。

第5 平和条約の発効とSCAPIN-677の失効

1 日本政府の失効説明と平和条約の規定

外務省は,平和条約の発効により,行政権停止の指令等も必然的に効力を失ったと説明している(外務省「竹島問題に関するQ&A」問6・補足2)。
これは日本政府の法的見解であり,前節で挙げたSCAPIN-2046等の明示的な廃止文書とは,根拠の示され方が異なる。

日本国との平和条約の公布原本第1条(b)は,日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認している。
他方,第3条は,南西諸島の一部等について,信託統治の提案・可決までの間の米国による行政・立法・司法上の権限行使を定めている(原本2頁・4頁)。
したがって,講和による主権回復を説明する場合にも,占領中に行政上分離された全地域で,同じ日に同じ内容の日本の行政権が再開したと一般化することはできない。

2 平和条約19条(d)を根拠とする存続説

研究文献には,平和条約第19条(d)による占領当局の行為の有効性の承認や,SCAPIN-677を明示的に取り消す規定が条約にないことなどから,同指令の効力の存続を論じるものがある。
この論文はSCAPIN-677第6項の留保自体にも言及しており,留保条項を知らずに議論していると評するのは適切ではない(竹島・独島問題と米国の対応に関する研究論文,103頁・119頁~120頁)。

そこで,平和条約第19条(d)の文言を確認すると,占領期間中の占領当局の指令に基づく行為・不作為等の有効性を承認し,それらに起因する連合国国民の民事上・刑事上の責任を追及しないという規定である(原本27頁,PDF15頁)。
過去の占領措置によって生じた法律関係の扱いを定める点と,個々の指令が講和後も将来に向かって命令として存続するかという点は,区別して検討すべき問題である。

本記事では,第19条(d)による過去の行為等の有効性の承認だけから,SCAPIN-677が期間の定めなく存続するとまではいえないと考える。
まして,最終的な領土決定を留保した指令が,この承認によって領土帰属を確定する文書に変わるとは直ちに導けない。
これは条約と指令の文言に基づく分析であり,国際裁判による確定判断を紹介するものではない。

第6 竹島の領有権について指令から分かる範囲

韓国政府は,SCAPIN-677による日本の行政範囲からの除外を,独島が韓国領であるとする説明の一部に位置付けている。
その説明は同指令だけに依拠するものではなく,カイロ宣言や平和条約の解釈にも及ぶ(韓国外交部の独島FAQ,問11~問13)。
平和条約第2条(a)は,朝鮮の独立承認と日本の権利放棄に際して済州島,巨文島及び鬱陵島を挙げているが,竹島の名称は記載していない。
韓国政府は,列挙が朝鮮の島々のすべてを網羅していない以上,竹島の記載がないことだけで韓国領から外れたとはいえないと説明している。

SCAPIN-677の読み方にも,両方向の推論の限界がある。
行政範囲からの除外だけで最終的な領土帰属を決めることは,第6項の留保と整合しない。
しかし,この留保があることだけで,日本への帰属が積極的に確定するわけでもない。
また,竹島が第4項の「朝鮮」と別の第3項(a)に記載されていることを根拠に帰属を決めようとしても,鬱陵島・済州島も同じ第3項(a)に掲げられているため,項目の分け方だけでは決め手にならない。

講和準備中の昭和26年8月10日付けラスク書簡では,米国は,竹島を日本の放棄対象に明記する韓国側の要求を受け入れなかった(掲載PDF1頁~2頁)。
これは当時の米国の立場を示す重要な資料であるが,この二国間の書簡だけを,連合国全体の合意又は国際裁判による領有権の判断と同一視することはできない。
竹島の帰属を論じるには,SCAPIN-677による占領中の行政措置と,講和条約の解釈及びそのほかの歴史資料を,それぞれの役割に即して検討する必要がある。

第7 出典・参考資料

1 条約

日本国との平和条約の公布原本
昭和27年条約第5号。
国立公文書館所蔵。
第1条~第3条・第19条(d),原本2頁~4頁・27頁。

2 宣言・占領指令・当時の記録

ポツダム宣言及び降伏文書
昭和20年7月26日・同年9月2日。
国立国会図書館掲載の転記。
ポツダム宣言は第8項,降伏文書は官吏の職務継続及び統治権限に関する部分。

対日占領管理のための基本指令(JCS1380/15)
昭和20年11月3日。
国立国会図書館掲載。
第4項・第5項。

SCAPIN-677
昭和21年1月29日。
国立国会図書館所蔵の原画像,全2頁・第1項~第8項。

SCAPIN-841及びSCAPIN-677/1
昭和21年3月22日・昭和26年12月5日。
国立国会図書館所蔵の原画像,各1頁。

SCAPIN-1033及びSCAPIN-2046
昭和21年6月22日・昭和24年9月19日。
国立国会図書館所蔵の原画像,各2頁。

日本の漁業及び捕鯨の許可区域に関する覚書
昭和27年4月25日。
文書番号AG 800.217 (25 Apr 52) DS。
国立国会図書館所蔵の原画像,1頁・第2項。

終戦連絡中央事務局文書CLO第401号GHQ民政局長の覚書及び民政局の検討文書
昭和20年10月29日,同年12月24日及び昭和21年1月5日。
国立国会図書館所蔵の行政分離関係資料中,60コマ~61コマ,144コマ~145コマ及び17コマ~19コマ。

行政の分離に関する司令部側との会談
昭和21年2月13日。
外務省作成。
内閣官房資料ポータル掲載,PDF2頁・原資料番号0155。

ラスク書簡
昭和26年8月10日。
米国国務省から韓国大使に宛てた書簡。
内閣官房資料ポータル掲載,PDF1頁~2頁。

3 政府の説明

終戦・占領開始
内閣官房。
「行政権の一時停止」の説明。

竹島問題に関するQ&A
外務省。
問6・補足2。

独島FAQ
韓国外交部。
問11~問13。

4 研究文献

The U.S. and the Territorial Dispute on Dokdo/Takeshima between Japan and Korea, 1945–1954
Hong Nack Kim,International Journal of Korean Studies,第13巻第2号,2009年,97頁~127頁。
本文で扱ったのは103頁及び119頁~120頁の議論である。

SCAPIN-677をめぐる諸問題
藤井賢二,島根県ウェブ竹島問題研究所,令和5年8月30日。
起草資料及び行政範囲の分類をめぐる検討を参照した。