第1 条件変更を断っただけで契約終了になるわけではない
定年後再雇用の契約更新時に,会社が勤務日数や賃金を引き下げる条件を提案することは,一律に禁止されていない。
しかし,労働者がその提案に同意しなかったという理由だけで,会社が従前の条件による更新を自由に拒絶できるわけではない。
変更の合意が成立するかという問題と,労働契約法19条によって雇止めが制限されるかという問題を分けて考える必要がある。
週5日勤務を週3日に減らし,月給を日数に比例して減らす場合も,日給・時給が変わらないことだけでは結論は決まらない。
西田通商事件では,このような変更を拒否した労働者の雇止めが無効とされた一方,東光高岳事件では,事情の異なる条件変更の提案について更新拒絶が有効とされている。
本記事は,令和8年8月31日現在の法令と確認できた裁判例に基づき,民間企業の定年後の有期再雇用契約を更新する場面を扱う。
定年直後に初めて再雇用契約を結ぶ場面や,勤務日数の最低保証がない変動シフトについては前提が異なるため,まず契約上の日数・時間・賃金を確認する。
第2 契約途中の変更・更新拒絶・変更への同意を分ける
1 契約途中では勤務表だけを変えても足りない
労働契約法8条は,労使の合意による労働条件の変更を認めている。
契約上,週5日勤務と月給が定められている場合に,会社が勤務表を週3日に書き換えただけで,契約上の日数と賃金も当然に変更されたことにはならない。
同意のない就業規則による不利益変更は,同法9条の原則と10条の例外に従って判断する。
10条では,変更後の就業規則の周知に加え,不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性,労働組合等との交渉状況その他の事情に照らした合理性が問題となる。
就業規則の変更によっては変更しないと個別に合意した条件には,同条ただし書の検討も残る。
また,同法12条により,就業規則の基準に達しない条件を定めた個別契約は,その部分について無効となり,就業規則の基準による。
したがって,会社と本人が合意したかだけでなく,適用される再雇用規程・賃金規程との関係も確認する。
2 更新時には労働契約法19条の要件を確認する
更新時に新条件で合意できなかった場合は,労働者の旧条件による更新申込みを会社が拒絶してよいかが問題となる。
労働契約法19条による保護を検討する順序は,次のとおりである。
①反復更新の実態から雇止めを無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合(1号),又は更新への期待に合理的な理由がある場合(2号)に当たるか。
②労働者が,契約満了日までに更新を申し込み,又は満了後遅滞なく有期契約の締結を申し込んだか。
③会社の拒絶が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないか。
これらの要件を満たすと,会社は「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」とされる。
更新期待があるだけで旧条件の更新が決まるわけではないが,新条件を提示しただけで同条の適用を避けられるわけでもない。
更新期待・不更新条項・無期転換の一般的な説明は,有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルールを参照されたい。
3 署名があっても同意の経緯を確認する
最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決(平成25年(受)第2595号,山梨県民信用組合事件)は,不利益変更への同意について,労働者の自由意思に基づくと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるかを慎重に判断すべきであるとした。
不利益の内容・程度,同意に至る経緯,事前の情報提供や説明等が問題となる。
これは退職金の変更に関する破棄差戻し判決であり,再雇用契約への署名を一律に無効としたものではない。
再雇用の更新でも,署名の有無に加え,変更後の勤務日数・年収・賞与が説明されたか,検討の機会があったか,異議や留保をどのように伝えたかを確認することが考えられる。
第3 結論が分かれた西田通商事件と東光高岳事件
1 西田通商事件――週5日から週3日への変更と雇止め無効
横浜地裁令和6年6月27日判決(令和4年(ワ)第1403号,労働判例1346号17頁)は,定年後の再雇用者に対し,週5日・基本賃金月額20万0998円から,週3日・月額12万0599円への変更が提案された事案である。
労働者は旧条件での更新を求めたが,会社は契約を更新しなかった。
裁判所HP未掲載であり,判例秘書で判決本文を確認した。
裁判所は,再雇用に関する規程,契約内容,更新の経過等から,雇用継続への合理的期待を認めた。
契約書に,更新時には個別合意の上で労働条件を変更することがあると記載されていても,合意できなければ当然に契約が終了するとは扱わなかった。
日給・時間給に換算した賃金単価は変わらなかったが,裁判所は,月額約12万円で家計を維持することや,空いた曜日に別の仕事を確保することの難しさを考慮した。
会社の業績悪化についても,雇止め後に別の労働者を再雇用し,役員報酬を増額した事情や,本人が売上げに直結しない業務にも従事していた事情を検討し,提示条件を不合理と判断した。
結論として,雇止めを無効とし,旧条件による契約の更新を認め,労働者の地位確認及び未払賃金の請求を認容した。
ただし,鈴悠法律事務所の事件紹介には控訴後和解と記載されており,本判決の判断がそのまま確定したと扱うことはできない。
2 東光高岳事件――更新期待を認めた上で更新拒絶を有効とした例
東京高裁令和6年10月17日判決(令和6年(ネ)第2731号,労働判例1323号5頁)は,定年後再雇用の契約満了と吸収合併が重なり,存続会社の制度に合わせた条件変更が提案された事案である。
提案には,週4日から週5日に勤務を増やしながら基本賃金を約15%減らす案と,週4日勤務のまま賃金を月額換算で約51%減らす案があり,業務内容を修正した案も提示された。
裁判所HP未掲載であり,判例秘書及び掲載誌の判決本文を確認した。
高裁は,労働契約法19条2号の更新期待は,同一条件での更新への期待に限らず,条件変更を伴う更新への期待も含むとした。
その上で,65歳までの継続雇用を原則とする規程等から更新期待を認め,労働者の旧条件による更新申込みを会社が拒絶したと判断した。
もっとも,高裁は,従前と同一の条件で更新されるとの期待に合理的理由があるとは認め難いとした。
被吸収会社の経営悪化,存続会社の再雇用者との条件統一の必要性,他の再雇用者の同意,担当事業からの撤退予定,事前説明と複数案の提示等を検討し,存続会社自体の業績が堅調であることや大幅な減額も考慮した上で,更新拒絶を有効として控訴を棄却した。
原審の東京地裁令和6年4月25日判決(令和4年(ワ)第6348号,労働判例1318号27頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により確認)は,19条2号の更新期待を同一条件によるものに限定していたが,高裁はこの限定を採用していない。
また,高裁判決は約51%の減額を一般的に許容したものでも,低い条件の契約が本人の同意なしに成立するとしたものでもない。
3 二つの判決から確認できる比較の視点
本記事では,両判決の分岐を,次の資料を比較する際の視点として整理する。
いずれも個別の事情を組み合わせた判断であり,一つの事情があれば必ず有効・無効になるという基準ではない。
| 比較する事項 | 確認する内容 |
|---|---|
| 更新への期待 | 再雇用規程,旧条件の継続についての説明,更新の実績 |
| 変更の必要性 | 業務量,担当事業の存廃,人員配置,経営状況と他者処遇の整合 |
| 本人の不利益 | 勤務日数,月収・年収,固定手当,賞与,他の仕事との両立可能性 |
| 提案と協議 | 代替案,職務内容の調整,説明時期,検討の機会,回答の経過 |
第4 65歳までの雇用確保と同一労働同一賃金との関係
1 65歳までの雇用確保は旧賃金の当然の保障とは異なる
高年齢者雇用安定法9条は,65歳未満の定年を定める事業主に,定年の引上げ,継続雇用制度の導入又は定年制の廃止のいずれかを求める。
この制度義務だけから,旧賃金と同額の個別契約が当然に成立するとはいえない。
厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&AのQ1-7・Q1-8も,合理的裁量の範囲内での条件提示や,勤務日数・時間の弾力的な設定を認める説明をしている。
ただし,雇用関係法令の遵守と十分な話合いを前提としており,既存契約の変更や労働契約法19条の適用を不要とする説明ではない。
制度の沿革や雇用確保措置については,高年齢者雇用安定法に関するメモ書きで扱っている。
2 本人の前年との比較と通常の労働者との比較は別である
本人の前年の契約条件を維持できるかという問題と,通常の労働者との待遇差が不合理かという問題は,比較対象が異なる。
短時間・有期雇用労働法8条では,基本給・賞与・手当等の待遇ごとに,その性質・目的に照らして職務内容,責任,配置変更の範囲その他の事情を考慮する。
職務内容と,雇用関係が続く全期間における職務・配置の変更範囲が同一と見込まれる場合には,同法9条の差別的取扱い禁止も問題となる。
最高裁令和5年7月20日第一小法廷判決(令和4年(受)第1293号,名古屋自動車学校事件)は,基本給・賞与の性質・目的や労使交渉の検討が不十分であるとして,該当部分を破棄差戻しとした。
旧労働契約法20条の待遇差に関する判決であって,「定年前の6割以上なら適法」という一般基準や,19条による契約更新の結論を示したものではない。
賃金水準と差戻審を含む裁判例の検討は,業務内容が変わらない定年後再雇用社員の賃金水準の目安を参照されたい。
なお,厚生労働省が公表した同一労働同一賃金関係の改正は,令和8年10月1日から施行・適用され,本記事の基準日には未施行・未適用である。
同日以降の説明方法や制度点検については,改正同一労働同一賃金ガイドラインに基づく企業対応で扱っている。
第5 労働者が更新前に行う確認と記録
1 旧条件での更新希望と就労意思を伝える
更新を求める場合には,単に新契約書への署名を拒むだけでなく,継続就労を希望すること,同意できない変更部分,求める更新条件を明確にすることが考えられる。
例えば,旧条件で働き続ける意思がある場合は,「現在の週5日勤務・月給の条件で契約更新を申し込み,引き続き勤務することを希望しますが,提示された週3日勤務・減額条件には同意していません」という趣旨を,契約内容に合わせて伝え,送付・到達を確認できる記録を残す方法がある。
これは法定の書式ではなく,更新申込みと変更への不同意を区別して記録するための例である。
既に署名した場合や,異議を留めて新条件で勤務する場合は,合意の範囲が別途問題となるため,この文言を送るだけで旧条件が維持されるとはいえない。
出勤を止めることや退職を示唆することを一律に勧めるものでもない。
契約満了日が迫っている場合は,労働契約法19条の申込みの時期を先に確認する。
満了後の「遅滞なく」を一定の日数に置き換えて待つことは避け,既に満了している場合も速やかに申込みの有無と対応を検討する。
2 手元の資料を先にそろえ,説明を求める
労働者側の初期確認では,適法に保有・取得できる次の資料を優先する。
会社の財務資料や他人の給与資料が当然に入手できることを前提とせず,まず交付済みの文書と自分の勤務記録から争点を絞る。
| 資料 | 確認する事実 | 入手・保存上の留意点 |
|---|---|---|
| 今回と過去の契約書・労働条件通知書 | 満了日,保証日数,賃金,更新基準 | 手元の各版を残し,未交付分は会社へ交付を求める |
| 再雇用規程・賃金規程 | 更新年齢,条件決定方法,最低基準 | 閲覧・交付された版と改定時期を確認する |
| 変更案・メール・面談記録 | 提案理由,更新申込み,拒絶,異議 | 日時・相手・発言を記録し,元の文書も保存する |
| 給与・賞与明細,勤務表・業務記録 | 日数減と単価減,実際の仕事・責任 | 取得できる自分の記録を確保し,第三者情報は必要範囲に絞る |
通常の労働者との待遇差が問題となる場合は,短時間・有期雇用労働法14条2項・3項により,待遇差の内容・理由等の説明を求めることができ,その求めを理由とする不利益取扱いは禁止される。
比較対象者,基本給や手当の目的,職務・責任の差を具体的に質問する方法があるが,同条は会社の全資料について無制限の開示請求権を定めたものではない。
社内記録は随時更新され,後から同じ版を確認できないことがあるため,交付資料や適法に閲覧できる資料の保存方法を早めに確認する。
無断アクセスや関係のない第三者情報の持出しを行わず,会社だけが保有する資料は,必要な事実を特定した上で説明・任意提出を求めることから検討する。
3 就労を拒まれた期間の賃金と時効を確認する
旧条件の契約が存続・更新しているのに会社が就労を受け入れない場合は,民法536条2項による賃金請求が問題となる。
本人の就労意思・能力,会社の受領拒否の事情,他で働いて得た利益等を確認する必要があり,働いていないという理由だけで賃金が必ず失われるわけではない。
労働基準法26条の平均賃金60%以上の休業手当は,使用者の責に帰すべき事由による休業についての最低保障である。
この60%を,民法上請求できる賃金の上限と混同しない。
賃金請求権は,退職手当を除き,労働基準法115条・附則143条3項により,当分の間,行使できる時から3年間で時効にかかる。
月々の支払日を確認し,損害賠償として請求する場合の期間制限や,時効の完成猶予・更新は別に検討する。
交渉中というだけで期限の確認を後回しにしない。
第6 会社側の提案準備と,交渉・手続へ進む判断
会社側では,日数・賃金を減らす理由を,実際の業務量,人員配置,経営資料等に対応させ,旧条件を続けられない理由と代替案を検討することが考えられる。
月給だけでなく年収・賞与・固定手当への影響を示し,本人の希望を聞いた上で,提示した案,検討の機会及び回答内容を記録する。
「他の再雇用者も同意した」「日数に比例している」という説明だけで判断を終えない。
雇止めを予定する場合は,有期労働契約の締結,更新,雇止め等に関する基準2条・3条の予告・理由証明も確認する。
3回以上更新した契約,又は雇入れから1年を超えて継続勤務している者の契約については,あらかじめ不更新が明示されているものを除き,少なくとも満了日の30日前の予告と,対象労働者の請求に応じた理由証明書の遅滞ない交付が求められる。
予告をしたことだけで,19条の実体的な要件を満たすわけではない。
労使いずれの側でも,初期資料と説明を照合し,どの事実が判明すれば見通しが変わるかを絞ってから,追加調査や労働審判・訴訟を検討することが考えられる。
保証日数,更新申込み又は変更の必要性が資料で確認できない段階では,勝敗を断定して手続を勧めず,費用・時間,請求可能額,就労継続の希望を踏まえて交渉案を比較する。
会社側でも,変更理由と資料の食い違いを解消できない場合は,雇止めの決定を急がず,条件案と協議の進め方を再検討する。
第7 出典・参考資料
1 法令・告示
①労働契約法8条~10条・12条・19条(e-Gov法令検索)。
②高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条(e-Gov法令検索)。
③短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条・9条・14条(e-Gov法令検索)。
④労働基準法26条・115条・附則143条3項(e-Gov法令検索)。
⑤民法536条2項(e-Gov法令検索)。
⑥厚生労働省告示「有期労働契約の締結,更新,雇止め等に関する基準」2条・3条(平成15年厚生労働省告示第357号,令和5年厚生労働省告示第114号による改正後)。
2 裁判例
①横浜地方裁判所令和6年6月27日判決(令和4年(ワ)第1403号,労働判例1346号17頁,西田通商事件。裁判所HP未掲載。判例秘書L07951166により判決本文を確認)。
②東京高等裁判所令和6年10月17日判決(令和6年(ネ)第2731号,労働判例1323号5頁,東光高岳事件。裁判所HP未掲載。判例秘書L07920432及び掲載誌の判決本文8頁~13頁を確認)。
③東京地方裁判所令和6年4月25日判決(令和4年(ワ)第6348号,労働判例1318号27頁,東光高岳事件原審。裁判所HP未掲載。判例秘書L07930085により該当判示を確認)。
④最高裁判所第二小法廷平成28年2月19日判決(平成25年(受)第2595号,山梨県民信用組合事件。判決7頁~9頁,PDFも同頁,裁判所ウェブサイト)。
⑤最高裁判所第一小法廷令和5年7月20日判決(令和4年(受)第1293号,名古屋自動車学校事件。判決5頁~7頁,PDFも同頁,裁判所ウェブサイト)。
3 所管行政機関のQ&A・改正案内
①厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」Q1-7・Q1-8(令和7年3月31日更新)。
②厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」(令和8年4月28日公布,同年10月1日施行・適用の案内)。
4 法律事務所の事件紹介
①鈴木悠太・鈴悠法律事務所「Case670 定年後再雇用の労働条件変更に同意しなかったためにされた雇止めが無効とされた事案・西田通商事件」(令和8年4月7日)。
控訴後和解との紹介に限って参照し,和解条件の原記録は確認していない。