第1 チャプター11と民事再生の違いが分かる比較表
チャプター11(Chapter 11)は,米国法典第11編の第11章に基づく倒産手続である。
日本の民事再生と同様に,債務者が経営を続けながら債務を整理する仕組みを備えるが,担保権者や株主を計画に取り込む方法,新規融資の保護,債権者の議決要件に大きな違いがある。
したがって,「米国版の民事再生」と理解するだけでは,担保の実行や売掛金の回収について判断を誤るおそれがある。
本記事は,令和8年8月31日を基準日として,一般事業会社の通常のチャプター11と,日本の法人企業の民事再生を比較する。
小規模企業向けのサブチャプターⅤは第9で説明し,個人再生,金融機関等の業種別特則及びステーブルコイン発行者の特則は対象外とする。
米国法令・判決に関する日本語の訳語は仮訳である。
基本となる法令は,米国法典第11編と民事再生法であり,以下の米国法の条番号は,特に断らない限り同編の条番号を指す。
| 比較事項 | 米国の通常のチャプター11 | 日本の民事再生 |
|---|---|---|
| 経営権 | 原則として債務者が経営を継続する | 原則として再生債務者が業務・財産を管理する |
| 申立て直後の保護 | 原則として申立てにより自動停止が生じる | 開始前は保全処分・中止命令等を用いる |
| 担保権の実行 | 自動停止の対象となり,計画による変更も問題となる | 別除権として手続外での行使が原則である |
| 新規融資 | 超優先権や,一定の条件下で既存担保に優先する担保を付けられる | 共益債権による保護が中心であり,既存担保への優先とは異なる |
| 債権者の関与 | 通常は無担保債権者委員会が組織される | 裁判所が債権者委員会の関与を承認する制度がある |
| 契約の整理 | 裁判所の承認を受けた引受け・履行拒絶等による | 双方未履行の双務契約について解除・履行を選択する |
| 事業売却 | 計画前の売却と,計画に基づく売却・分配がある | 重要な事業譲渡には裁判所の許可を要する |
| 議決の単位 | 権利内容に応じたクラスごとに投票する | 通常は再生債権者全体で決議し,約定劣後債権には特則がある |
| 賛成額の基本要件 | 投票した認容債権額の3分の2以上 | 議決権総額の2分の1以上 |
| 賛成の頭数の基本要件 | 投票した認容債権数の過半数 | 出席又は法定の方法で投票した議決権者の過半数 |
| 反対者の扱い | 一定の要件で反対クラスを拘束する認可がある | 可決・認可した計画で反対者も拘束されるが,米国と同じクラス制度ではない |
| 株主・保証人 | 株主の権利も計画の対象となるが,第三者の免責には限界がある | 株式処理の特則がある一方,計画は保証人等への権利に影響しない |
| 小規模企業 | サブチャプターⅤ等の特則がある | 法人の通常再生と個人再生は制度を分けて考える |
| 国外での効力 | 外国での承認・援助手続等が問題となる | 外国倒産処理手続の承認援助制度がある |
この表は基本構造の比較であり,実際の権利行使には,各条文の例外と当該事件の裁判所命令が関係する。
特に,担保があること,法律上の優先順位が高いこと,現実に資金が支払われることは,それぞれ異なる問題である。
第2 申立ての条件と経営権
1 申立ての条件と開始の時点
米国では,米国内に住所,事業所又は財産等を有することなど,債務者となる資格が問題となる(109条)。
任意申立ては事件を開始させ,同時に救済命令に相当する効力である「order for relief」を生じさせる(301条)。
一定の債権者による非任意申立てもあるが,資格,債権者数,債務の不払等について別の要件が定められている(303条)。
日本では,破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合,又は事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期の債務を弁済できない場合に,債務者が再生手続開始を申し立てられる(民事再生法21条1項)。
債権者が申し立てられるのは前者の場合であり,申立て後には裁判所の開始判断がある。
また,再生計画の作成・可決・認可の見込みがないことが明らかな場合等には,申立てが棄却される(同法25条)。
2 DIPと裁判所・債権者による監督
DIP(Debtor in Possession)とは,債務者が財産を保持し,管理・経営を続ける形をいう。
米国では,DIPが原則として管財人に準じた権限と義務を負い,事業を継続できるが,詐欺,不正又は著しい経営上の失敗等があれば管財人の選任が問題となる(1104条,1107条,1108条)。
経営権が維持されることは,従前と同じ自由な経営が保障されることを意味しない。
日本でも,再生債務者は原則として業務遂行権と財産の管理処分権を有し,債権者に対して公平かつ誠実に手続を進める義務を負う(民事再生法38条)。
裁判所は借財等を許可の対象とすることができ,監督委員の同意を要する行為を定める監督命令や,法人の管理処分が失当な場合等に管財人を選任する管理命令の制度もある(同法41条,54条,64条)。
債権者による関与にも違いがある。
米国の通常のチャプター11には,United States Trusteeによる無担保債権者委員会の選任と,その調査・計画交渉等に関する規定がある一方,日本では裁判所が債権者委員会の手続関与を承認する仕組みが採られている(1102条・1103条,民事再生法117条)。
第3 取立ての停止と担保権
1 米国のオートマティック・ステイ
米国では,原則として申立てにより,開始前の債権の取立て,訴訟の開始・続行,財産に対する執行,担保権実行及び相殺等が自動的に停止される(362条(a))。
これがオートマティック・ステイであり,担保権者も原則としてその対象となるため,担保を持つ債権者が単独で事業資産を処分することを抑える仕組みとして働く。
ただし,刑事手続や一定の行政上の規制権限の行使等には例外がある(362条(b))。
また,担保価値についての適切な保護が不足する場合等には,利害関係人が停止の解除等を求められる(同条(d),361条)。
自動停止は担保権の消滅ではなく,その実行を制限しつつ,保護や解除の条件を裁判所で調整する制度である。
2 日本の中止命令と別除権
日本では,申立てがあったというだけで米国と同じ範囲の自動停止が生じるわけではない。
開始前には個別の中止命令や包括的禁止命令等が問題となり,開始決定後には再生債権に基づく強制執行等が制限される(民事再生法26条,27条,39条)。
抵当権等の担保権は,原則として別除権として再生手続によらず行使できる(民事再生法53条)。
担保権実行手続の中止命令もあるが,再生債権者一般の利益に適合し,競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないこと等が要件となる(同法31条)。
したがって,日本の再生会社が工場等を使い続けるには,担保権者との調整が大きな意味を持つ。
3 担保価値と事業に必要な資産の確保
米国では,担保付債権は原則として担保価値の範囲で担保付として扱われ,不足部分は無担保部分となる(506条(a))。
もっとも,一定の債権について全額を担保付として扱う選択を認める1111条(b)の特則があり,単純に帳簿上の担保額だけで計画上の扱いを決めることはできない。
担保権の及ぶ現金等であるキャッシュ・コラテラルを米国の債務者が使用するには,権利者の同意又は裁判所の許可を要する(363条(c)(2))。
売上金が手元にあるとしても,その全額を自由に運転資金へ回せるとは限らず,権利者の保護が問題となる。
日本では,別除権者の再生手続への参加は,原則として担保による回収ができない不足額について認められる(民事再生法88条)。
また,事業の継続に欠くことのできない財産については,価額に相当する金銭の納付等によって担保権を消滅させる許可制度があり,担保権者には価額決定を求める機会が保障される(同法148条~150条)。
これは,担保権者への価値の手当てをせずに担保を取り上げる制度ではない。
第4 DIPファイナンスと優先順位
1 米国の融資保護と既存担保に優先する融資
米国の364条は,再生中の資金調達について,通常の管理費用として扱う無担保融資,それでは調達できない場合の優先権や担保を伴う融資等を定める。
ここでいう管理費用(administrative expenses)は,手続や財団の維持に関係する法律上の債権分類であり,日本の行政機関へ納める費用という意味ではない。
既存担保と同順位又はそれに優先する担保を新規融資に付ける場合には,他の方法では融資を得られないことと,既存の担保権者の利益が適切に保護されることが要件となる(364条(d))。
新たな資金を供給するだけで既存担保を当然に追い越せるわけではなく,資金需要と既存権利の保護を併せて審査する仕組みである。
2 日本の共益債権と開始前後の区別
日本では,開始後に再生債務者等がした借入れ等による請求権は,共益債権となる(民事再生法119条5号)。
共益債権は再生手続によらず随時弁済され,再生債権に先立つが,そのことから既存の抵当権等に優先する担保権が当然に生じるわけではない(同法121条)。
個々の借入れに裁判所の許可や監督委員の同意を要するかは,41条・54条による命令も関係する。
これに対し,申立て後であっても開始決定前の借入れ等には,事業の継続に欠くことのできない行為について,裁判所の許可等により共益債権とする120条の制度がある。
開始前と開始後では共益債権となる根拠が異なるため,「再生中の融資はすべて120条の許可によって優先される」とまとめるのは正確ではない。
日米いずれの融資保護も,営業継続に必要な資金を確保するための仕組みである。
ただし,米国の管理費用・超優先権・担保の各制度と,日本の共益債権とでは,対象となる債権と優先関係が一致しない。
第5 契約の継続・終了と事業売却
1 米国の契約引受けと履行拒絶
米国では,双方に未履行の義務が残る契約等について,裁判所の承認を受けた引受け又は履行拒絶が問題となる(365条(a))。
債務不履行のある契約を引き受ける場合には,不履行の治癒等や将来の履行についての十分な保証が問題となり,契約の性質等による引受け・譲渡の制限もある(同条(b)(c))。
履行拒絶(rejection)は,契約上の相手方の権利をすべて遡って消すものではない。
米国最高裁2019年5月20日判決(Mission Product Holdings, Inc. v. Tempnology, LLC,No. 17-1657)は,商標ライセンス契約の履行拒絶について,契約違反としての効果を認めつつ,通常の契約違反によって失われない相手方の権利まで消滅させる解釈を否定した。
法廷意見8頁~12頁によるものであり,個々の契約内容や適用される倒産法以外の法による権利の範囲まで,一律に保障したものではない。
また,倒産手続の開始等だけを理由とする契約終了条項の効力は,原則として制限されるが,法律上の例外がある(365条(e))。
相手方が契約を継続したくないと考えても,倒産条項,既存の不履行及び履行拒絶の効果を区別して検討することになる。
2 日本の双方未履行契約と倒産解除特約
日本では,再生手続開始時に双方が履行を完了していない双務契約について,再生債務者等が解除又は履行を選択できる(民事再生法49条1項)。
相手方が相当の期間を定めて確答を催告し,期間内に確答がなければ,解除権を放棄したものとみなされるのであり,解除したものとみなされるのではない(同条2項)。
履行を選択した場合の相手方の請求権は共益債権となるが,労働協約には同条の適用除外がある(同条3項・4項)。
最高裁平成20年12月16日第三小法廷判決(平成19年(受)第1030号,民集62巻10号2561頁)は,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について,再生手続開始の申立てを解除事由とする特約の効力を否定した。
貸主側が申立てを理由とする解除の有効性を主張した事案に関する判断であり,判決本文3頁~4頁がその理由を示している。
もっとも,同判決から,あらゆる契約の解除が禁止されると一般化することはできない。
同判決の補足意見6頁~7頁も,リース料不払による解除や,保全処分・別除権実行との関係を区別して論じており,申立てを理由とする解除特約の問題と,別の不履行に基づく権利行使とは分けて考えることになる。
3 計画前の事業売却と清算型の出口
米国では,通常の営業範囲外の財産売却について,通知及び審理の機会を経る363条(b)の仕組みがある。
担保等の負担を切り離した売却には同条(f)の条件があり,一定の担保財産の売却では,担保付債権を代金に充てて入札するクレジット・ビッドも問題となる(同条(k))。
また,再建計画には財産の売却と代金の分配を定めることもできる(1123条)。
したがって,チャプター11を利用することは,従前の会社・経営陣・株主をすべて維持することと同義ではなく,事業の承継と元の会社の清算を組み合わせる出口も含む。
日本でも,開始後の事業の全部又は重要な一部の譲渡には裁判所の許可を要する(民事再生法42条)。
事業をスポンサー等へ承継させる場合には,事業を継続する主体と,再生債権の弁済義務を負う主体を区別すると,取引先に及ぶ影響を理解しやすい。
第6 取引債権の回収と届出
1 従前の売掛金と開始後の取引
米国では,開始後に財団を維持するため現実に必要な費用等が,管理費用として扱われる(503条(b)(1))。
また,開始前20日以内に,通常の営業過程で販売され,債務者が受領した物品の価値については,管理費用とする特則がある(同条(b)(9))。
後者は単に「請求書が20日以内に発行された債権」や「20日以内のサービス代金」全般を意味するものではない。
日本では,従前の一般の売掛金は通常,再生債権として計画に従った弁済の対象となり,計画外の弁済は原則として制限される(民事再生法85条1項)。
中小企業者の保護や少額債権等について例外的な弁済を許可する制度もあるが,「重要な取引先だから従前の債権をすべて優先して払える」という一般則ではない(同法85条2項以下)。
一方,共益債権や一般優先債権は,再生手続によらず随時弁済される(民事再生法121条・122条)。
米国の重要取引先への例外的な支払について,福岡真之介「米国チャプター11の概要と対応策」(2025年6月24日号2頁~4頁)は,事業継続に不可欠な取引先への支払を認める実務や,優先的な債権でも現実の未払リスクがあることを説明している。
これは執筆者による実務解説であり,「重要取引先」という名称だけで法律上の優先順位や支払が自動的に保障されることを示すものではない。
2 債権届出と期限を逃した場合
米国では,債務者の提出した一覧に,争いがなく,条件付でなく,金額が確定した債権として記載されていれば,届出をしたものとみなす規定がある(1111条(a))。
これに対し,未記載の債権や,争いあり・条件付・金額不確定とされた債権については届出が問題となり,裁判所が期限を定める(連邦倒産手続規則3003(b)(c))。
届出を要する債権について期限を守らなければ,議決や分配で債権者として扱われないおそれがあるため,通知を受け取っただけで足りると判断するのは危険である。
日本の債権届出も,裁判所の定める期間内に行うのが基本である(民事再生法34条・94条)。
責めに帰することができない事由がある場合の追完や,知れている未届債権の認否・失権に関する特則はあるが,届出を省略しても常に同じ権利を行使できるわけではない(同法95条,101条3項,181条)。
3 相殺と既払金の返還請求
米国では,相殺権を一定の範囲で保存する553条と,相殺の実行を自動停止の対象とする362条(a)(7)が併存する。
相殺の実体的な要件を満たすことと,その時点で相殺を実行してよいことを分けて判断する構造である。
日本では,債権届出期間内に相殺に適する状態となること等が相殺の要件となり,債務負担や債権取得の時期・事情による禁止もある(民事再生法92条~93条の2)。
相互に請求書が存在するというだけで判断せず,債権債務の相手方,発生原因,弁済期及び取得経緯を確認することが実務上の検討となる。
米国では,開始前の偏頗的な移転について,通常は90日,内部者に関係する場合は1年という期間を含む複数の要件が定められ,通常の取引,同時交換,新規価値の提供等に関する抗弁もある(547条)。
したがって,開始前90日以内の入金がすべて返還対象になるわけではない。
詐害的な移転等を扱う548条の原則2年の期間も,州法等を含むすべての返還請求の限界を示すものではない。
日本にも詐害行為や偏頗行為の否認制度がある(民事再生法127条・127条の3)。
駆込みで回収した債権ほど安全という関係にはなく,回収時期と債務者の状態,取引の内容,受領者の認識等に応じて返還請求のリスクが変わる。
第7 再建計画・再生計画の可決と認可
1 計画案を提出する者と期限
米国の通常事件では,order for reliefから原則120日間,債務者が計画案提出を独占する(1121条)。
同意獲得に関係する原則180日の期間もあり,独占期間を延長する場合の上限は,同じ起算点から提出について18か月,同意獲得について20か月である。
「120日に加えてさらに18か月延長できる」という計算ではなく,小規模事業事件等には別の特則がある。
開始後の計画への投票勧誘は,原則として裁判所の承認を受けた開示資料を前提とする(1125条)。
申立て前に同意を集める方式についても規定があるが,その同意が手続内で有効となるための要件があるため,通常の開始後の勧誘と区別することになる(1125条(g),1126条(b))。
日本では,再生債務者等が裁判所の定める期間内に計画案を提出するほか,届出再生債権者にも計画案提出の制度がある(民事再生法163条)。
米国の通常事件の120日という期間を,日本の再生計画案の提出期限に置き換えることはできない。
2 米国のクラス別投票と日本の議決要件
米国では,実質的に同様の権利を基準として債権等をクラスに分け,原則としてクラスごとに計画への賛否を判断する(1122条・1126条)。
債権クラスの基本的な可決要件は,実際に賛否の投票をした認容債権について,①金額で3分の2以上,②債権数で過半数の賛成である(1126条(c))。
権利を変更されないクラスは同意したものとみなされ,何も受け取らないクラスは同意しなかったものとみなされる(同条(f)(g))。
日本の基本的な可決要件は,①出席した議決権者又は法定の方法で投票した議決権者の過半数の同意,②議決権総額の2分の1以上を有する者の同意である(民事再生法172条の3第1項)。
金額要件の分母は,投票した者の議決権額の合計ではなく,議決権総額である。
もっとも,約定劣後再生債権とそれ以外の再生債権を分けて決議する場合には,同条2項以下の特則がある。
3 同じ債権構成でも結論が変わる計算例
以下は議決要件を比べるための独自の仮定例であり,実在の事件の結果ではない。
米国では一つの債権クラス,日本では通常の再生債権者全体を想定し,各債権者が一つの認容債権・議決権を有し,投票から除外される者や約定劣後債権はないものとする。
| 仮定 | 米国の基本要件 | 日本の基本要件 |
|---|---|---|
| 例1:総額1000万円・10者。6者が計600万円を投票し,そのうち4者・400万円が賛成。残り4者は欠席し投票しない | 金額400÷600=3分の2。頭数4÷6=3分の2。双方を満たす | 頭数4÷6は過半数だが,金額400÷1000=40%で不足する |
| 例2:総額1000万円・10者全員が投票し,6者・600万円が賛成 | 頭数は過半数だが,金額600÷1000=60%で3分の2に届かない | 頭数は過半数,金額は60%であり,双方を満たす |
例1と例2から分かるのは,日米のどちらかが常に可決しやすいという関係ではないことである。
なお,米国で一つのクラスが基本要件を満たしたことや,日本で計画案が可決されたことは,そのまま計画全体の認可を意味しない。
4 反対者を拘束する認可とクラムダウン
米国の認可には,反対する債権者等についての清算価値の保障や,計画の実行可能性等の要件がある(1129条(a))。
すべてのクラスが同意しなくても,不公正な差別がなく,反対クラスに対して公正かつ衡平であること等の条件の下で認可する制度が,通常のクラムダウンである(同条(b))。
この場合も,全クラスの同意という要件以外の認可要件が原則として残り,権利を変更されるクラスがある場合の,内部者の同意を除いた少なくとも一つの当該クラスの同意等が問題となる。
担保付債権のクラスについては,担保の保持と現在価値の保障等,法定の保護方法が定められている(1129条(b)(2)(A))。
無担保債権の反対クラスについては,全額弁済しないのに劣後する株主等が従前の権利を理由として財産を受け取ることを制限する,絶対優先原則が問題となる(同条(b)(2)(B))。
これを,合意のある計画やサブチャプターⅤを含むすべての計画に,一律に当てはめることはできない。
日本でも,計画上の権利変更には平等原則とその例外があり,裁判所は違法性,遂行可能性,不正な成立,再生債権者の一般の利益等を審査する(民事再生法155条・174条)。
また,約定劣後債権とそれ以外を分けて決議した場合に,一方の同意が得られなくても,権利保護条項を定めて認可する174条の2の特則がある。
しかし,これは米国のように各種の担保権クラスを広く計画へ組み込み,反対クラスを拘束する制度と同じではない。
第8 株主・保証人・第三者への影響
1 旧株主の持分と債務者の免責
米国の認可計画は,法定の範囲で不同意の債権者や株主等も拘束し,債務者の免責を生じさせる(1141条)。
もっとも,清算型の法人等について免責を認めない特則があり,旧株主の持分についても計画と絶対優先原則等の検討を要する。
事業が存続するという発表から,旧株式の価値まで維持されると推測することはできない。
日本でも,債務超過会社の株式の取得等を再生計画に定める特則がある(民事再生法166条)。
認可決定の確定によって計画の効力と免責が生じるが,その具体的内容は計画や法律により認められた権利に従う(同法176条~178条)。
2 保証人と第三者の免責
日本の再生計画は,再生債権者が保証人その他の共同債務者に対して有する権利や,第三者の提供した担保に影響を及ぼさない(民事再生法177条2項)。
したがって,主たる債務者の再生計画で債権が減額されることから,保証人への請求も同じ割合で当然に減額されるとはいえない。
米国について,米国最高裁2024年6月27日判決(Harrington v. Purdue Pharma L.P.,No. 23-124)は,債務者でない者に対する請求を,請求権者の同意なく実質的に免責する計画条項について,一般的な授権を否定した。
同判決の法廷意見19頁~20頁は判断の範囲を限定しており,同意に基づくリリースの要件,全額弁済される計画,既に履行が進んだ計画の巻戻し等を一括して判断したものではない。
また,石綿事件に関する524条(g)の特別な授権も区別されている。
同判決の反対意見は,被害者への補償資金を確保することや,個別の権利行使によって集団的解決が困難になる問題を重視していた(反対意見1頁~4頁,14頁~18頁)。
この対立は制度の利害調整の難しさを示すが,記事で説明する法廷意見の結論と,反対意見が求めた柔軟な解決とは区別して理解することになる。
第9 小規模企業向けのサブチャプターⅤ
サブチャプターⅤ(Subchapter V)は,チャプター11の内部に置かれた小規模事業債務者向けの特則である。
利用には資格と選択が必要であり,101条(51D)の債務額基準は,2025年4月1日以降に開始する事件について342万4000米ドルに改定されている(金額改定告示,90 FR 8941頁~8942頁)。
ただし,債務額だけで資格が決まるのではなく,事業債務の割合,関連会社,上場会社等についての条件もある。
同手続では管財人が原則として選任されるが,その役割には合意形成の促進等が含まれ,債務者が経営を続けることと両立する(1183条・1184条)。
計画案を提出できるのは債務者であり,原則としてorder for reliefから90日以内に提出するが,法定の条件を満たす延長がある(1189条)。
開示書や公式の債権者委員会は原則として省略される一方,裁判所が別の扱いを命じる場合がある(1181条)。
非合意の計画認可については,3年から5年の将来の可処分所得又は同等の価値を充てること等を含む独自の要件があり,通常の絶対優先原則をそのまま適用する構造ではない(1191条)。
債務額の基準だけを見て,「小さな会社なら簡単に債務を切り捨てられる」と理解することはできない。
第10 期間・費用と再生に失敗した場合
1 手続の終結と弁済の完了
計画案の提出期限,計画認可までの期間,裁判所手続の終結時期,債権者への弁済完了時期は,それぞれ異なる。
米国の120日という独占期間は事件全体の標準所要日数ではなく,日本の計画弁済期限も認可までの期間を意味しない。
日本では,計画上の弁済期限は原則として認可決定の確定から10年以内とされる(民事再生法155条3項)。
また,監督命令のある事件の終結については,計画遂行又は認可決定確定後3年の経過等に関する規定があるが,この3年はすべての民事再生事件の平均処理期間ではない(同法188条)。
2 米国の四半期手数料
米国のUnited States Trustee Programに属する,サブチャプターⅤ以外のチャプター11については,四半期ごとの支出額に応じた手数料がある。
米国司法省の料金表による,2026年4月1日から2030年12月31日までの区分は次のとおりである。
| 四半期の支出額(米ドル) | 四半期手数料 |
|---|---|
| 0~6万2624 | 250米ドル |
| 6万2625~99万9999 | 支出額の0.4% |
| 100万~2777万7722 | 支出額の0.9% |
| 2777万7723以上 | 25万米ドル |
料率変更は公法第119-76号4条・6条に基づき,適用事件の規定には公法第119-75号5018条による修正がある。
この手数料は弁護士・財務アドバイザー等の報酬を含む総費用ではなく,日本の予納金等とそのまま総額比較できる数値でもない。
個別事件の費用を比較する場合は,対象企業の規模,係争の有無,手続期間及び専門家の業務範囲をそろえることが,本記事としての検討上の提案である。
3 再建できない場合の清算への移行
米国には,一定の理由がある場合に,債権者等の利益を踏まえてチャプター7への移行又は事件の却下等を行う制度がある(1112条)。
チャプター11の申立てが受け付けられたことは,資金調達や計画認可の成功を保障しない。
日本でも,計画案の作成・可決の見込みや計画の遂行見込みを失った場合等には,再生手続の廃止が問題となり,一定の条件の下で破産手続に移行する(民事再生法191条,194条,250条)。
廃止から破産への移行には法定の条件があり,あらゆる再生手続の終了が自動的な破産を意味するわけではない。
第11 日本企業の利用と国境を越える効力
1 日本での外国倒産手続の承認援助
米国法上の資格を満たすかは,企業の国籍だけで決まらず,米国内の事業所・財産等との関係も問題となる(109条)。
ただし,米国でチャプター11が開始したというだけで,日本国内でも同じ範囲の執行禁止や権利変更が当然に実現するわけではない。
日本には,外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく承認・援助の制度があり,承認援助事件は東京地方裁判所の専属管轄である(同法4条)。
外国手続国における住所・営業所等の要件や公序等を審査した上で,裁判所は承認を援助処分の基礎とし,中止命令,処分・弁済の禁止,強制執行等の禁止などの援助処分を命じることができる(同法2条,17条,21条,25条,26条,28条)。
米国内に財産を有するという米国側の利用資格と,日本で外国手続の承認を得る要件は同一ではない。
2 米国のチャプター15との違い
チャプター15は,外国倒産手続を米国で承認・援助するための章であり,米国で再建計画を進めるチャプター11と役割が異なる(1501条以下)。
外国主手続かどうかの判断には債務者の主たる利益の中心地が関係し,外国主手続の承認には米国内の財産等に関する自動停止等の効果が結び付くほか,追加の援助処分もある(1517条,1520条,1521条)。
個別企業の案件を読む場合は,申立法人,手続国,各国での承認及び計画の実施状況を分けると理解しやすい。
日本企業に関係する個別案件については,マレリのチャプター11手続の状況も参照されたい。
第12 取引先が申し立てたときの確認事項
取引先の申立てを知った場合,本記事では,まず次の事項を一枚の管理表に整理することを提案する。
これは個別事件の命令を代替するものではなく,届出や異議の期限を逃さず,適用される法令を特定するための確認事項である。
①契約書・請求書に記載された取引法人と,実際の申立法人が一致するか。
②未払債権を,発生原因・物品の受領日・金額・担保・保証の有無に応じて区分できるか。
③債権届出,計画への投票,異議及び契約に関する応答の期限が,どの命令・通知に定められているか。
④回収,相殺,供給停止又は解除が,法律や当該事件の命令によって制限されていないか。
⑤融資,現金使用,重要取引先への支払又は事業売却について,申立書だけでなく,実際に発令された命令があるか。
⑥今後の取引主体,支払条件及び弁済原資が,従前の未払債権の処理と区別されているか。
米国では自動停止が回収行為を制限し,日本でも届出期間や相殺の要件等が権利行使を左右する。
海外からの郵便を待つことや,相手方の「営業は継続する」という説明だけを根拠に,期限の確認や新規取引の条件設定を先送りすることは避けたい。
関連する国内の制度については,早期事業再生法の概要,個別の実務論点については倒産関係のメモを参照されたい。
これらの制度・論点を,チャプター11又は民事再生そのものと混同せず,どの手続が実際に利用されているかを確認することが出発点となる。
第13 出典
1 法令・裁判所規則・金額改定告示
①民事再生法(平成11年法律第225号)(e-Gov法令検索)。
②外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成12年法律第129号)(e-Gov法令検索)。
③米国法典第11編・2024年版(米国政府出版局)。
条文の位置は本文中の条番号を参照。
④公法第119-76号4条・6条及び公法第119-75号5018条(米国政府出版局,2026年の四半期手数料に関する改正)。
⑤連邦倒産手続規則・2025年12月1日版(米国裁判所,規則3003,本文49頁~50頁)。
⑥倒産関係金額の改定告示(米国裁判所事務局,2025年2月4日,90 FR 8941頁~8942頁)。
2 裁判例
①最高裁平成20年12月16日第三小法廷判決(平成19年(受)第1030号,民集62巻10号2561頁)。
判決理由は公表PDF3頁~4頁,補足意見は6頁~7頁。
②米国最高裁2019年5月20日判決(Mission Product Holdings, Inc. v. Tempnology, LLC,No. 17-1657)。
主に法廷意見8頁~12頁。
頁は意見書の印刷頁である。
③米国最高裁2024年6月27日判決(Harrington v. Purdue Pharma L.P.,No. 23-124)。
主に法廷意見15頁・19頁~20頁,反対意見1頁~4頁・14頁~18頁。
頁は各意見書の印刷頁である。
3 司法機関・行政機関による制度説明
①Chapter 11 — Bankruptcy Basics(米国裁判所による制度説明)。
②Chapter 11 Quarterly Fees(米国司法省United States Trustee Programによる手数料説明。
本文の料金表は2026年4月1日から2030年12月31日までの区分)。
4 執筆者による実務解説
福岡真之介「米国チャプター11の概要と対応策」(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業,事業再生・倒産ニューズレター,2025年6月24日号,2頁~4頁)。
本文の重要取引先への支払等に関する記述は,法令そのものではなく,同執筆者による実務解説として引用・参照している。