メインコンテンツへスキップ
       

電子記録債権とは―でんさいの仕組み,譲渡・保証・支払不能(AI作成)

第1 電子記録債権とでんさいの違い

電子記録債権は,記録機関の記録原簿に電子記録をすることを,発生・譲渡の要件とする金銭債権である。
請求書や売掛金の台帳を電子化しただけのものではなく,電子記録債権法2条1項に基づく権利である。

「でんさい」は,株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)が取り扱う電子記録債権の名称であり,電子記録債権全体の名称ではない。
以下では令和8年8月31日を基準に,法律上の制度と,でんさいネットの業務規程による取扱いを区別して説明する(でんさいネット「電子記録債権とは」)。

用語意味区別する点
売掛債権などの原因債権売買などの原因取引に基づく代金請求権電子記録債権とは別の権利である
電子記録債権電子記録によって発生・譲渡する金銭債権法律上の制度の名称である
でんさいでんさいネットが取り扱う電子記録債権同社の業務規程・細則に従って利用する

制度の狙いは,紙の手形に伴う保管・搬送などの負担や,売掛債権を資金調達に利用する際の課題を軽減することにある(金融庁・法務省「電子記録債権」1頁~2頁)。

ただし,電子記録債権が発生しても,原因となった売掛債権が当然に消滅するわけではない。
どちらの債権について支払を受けたのかを区別して管理することになる(金融庁・法務省「電子記録債権」10頁Q1)。

第2 発生・譲渡・支払の仕組み

1 発生記録と譲渡記録

電子記録債権は発生記録によって生じ,その譲渡は譲渡記録によって効力を生ずる。
当事者が請求書を作成したり,譲渡に合意したりするだけでは,これらの記録に代えることはできない(電子記録債権法15条・17条)。

権利の内容は電子記録によって定まるため,受け取る側は,記録された債権金額・支払期日・相手方を契約や請求書と照合することになる。
請求書の内容が正しくても,電子記録の内容が同じとは限らないためである(電子記録債権法9条1項)。

また,債権を分割して一部だけを譲渡することもできる。
受け取った金額全部を動かさず,支払に必要な部分だけを使える仕組みである(電子記録債権法43条でんさいネットの取引イメージ)。

法律上は,質権設定記録による質入れも予定されている。
一方,でんさいネットは質権設定記録を取り扱わないため,法律に制度があることと,利用中のサービスで使えることは区別しなければならない(電子記録債権法36条でんさいネット業務規程21条3項・10頁)。

2 決済と支払等記録

でんさいの支払は,原則として支払期日に債務者口座から債権者口座へ送金する口座間送金決済による。
ただし,決済の中止などの例外があり,資金不足による支払不能も生じる。
自動決済は回収の保証を意味しない(でんさいネット業務規程40条・42条~46条・21頁~23頁)。

支払等記録は,支払があったことなどを記録する制度であり,支払そのものとは区別される。
記録がないことだけから未払と決めず,実際の支払と記録の双方を確認すべきであり,支払をした者は所定の要件に従って支払等記録を請求できる(電子記録債権法24条・25条)。

第3 譲渡後の責任,抗弁及び時効

1 譲渡人の保証責任

でんさいネットでは,譲渡記録を請求する際,原則として譲渡人を保証人とする譲渡保証記録も請求する。
例外となるのは,でんさいネットと窓口金融機関が認め,かつ,譲受人が保証を必要としない場合である(業務規程31条2項・15頁)。

電子記録保証そのものは,法律上,保証記録によって効力を生ずる。
譲渡したという事実だけから常に保証債務が生じるわけではないが,でんさいの通常の譲渡では保証記録が伴うため,譲渡後も保証人として支払責任を負い得る(電子記録債権法31条,前記業務規程31条2項)。

また,電子記録保証には独立性があり,主たる債務者として記録された者が主債務を負わない場合にも,保証債務が有効となる場合がある。
ただし,法定の必須記録事項を欠く場合や,個人事業者である旨の記録のない個人が保証人である場合には,この独立性の規定は適用されない(電子記録債権法33条)。

2 譲受人に支払を拒める範囲

電子記録債権法には,無権利者からの譲渡であっても,所定の要件の下で譲受人が権利を取得する善意取得の制度がある。
譲受人に悪意又は重大な過失がある場合には保護されず,支払期日以後にされた譲渡記録の請求による取得など,同条2項の除外事由にも留意する必要がある(電子記録債権法19条)。

これとは別に,債務者や電子記録保証人は,譲渡前の相手方との人的関係に基づく抗弁を,原則として譲受人に対抗できない。
例えば原因取引について争いがあっても,そのことだけで譲受人への支払を拒めるとは限らないが,債務者等を害することを知って取得した場合や,支払期日以後の譲渡記録請求による取得などには例外がある(電子記録債権法20条)。

3 消滅時効は原則3年

電子記録債権の消滅時効期間は,権利を行使することができる時から3年である。
原因となった売掛債権と同じ時効期間だと考えず,電子記録債権についての起算点と時効の完成を妨げる事情を別に確認する必要がある(電子記録債権法23条)。

第4 支払不能と異議申立て

1 取引停止処分の仕組み

でんさいネットには支払不能処分制度があり,支払不能通知の対象となったでんさいの支払期日から6か月以内の日を支払期日とする別のでんさいで,2回目の支払不能となった場合には,原則として取引停止処分の対象となる。
もっとも,第0号支払不能事由や,第2号支払不能事由について所定の異議申立てがされた場合などには除外があるため,単に未決済が2件あったというだけでは判断できない(業務規程47条・48条・23頁)。

資金不足等に関する第1号支払不能事由と,原因契約の不履行などに関する第2号支払不能事由は区別される。
第2号は,その抗弁を当該債権者に対抗できることを前提とするため,原因取引の紛争があることだけで処理を選べるわけではない(業務規程細則42条2項・43条・21頁~22頁)。

2 異議申立期限と預託金

第2号支払不能事由についての異議申立ては,支払期日の前銀行営業日までに,債務者の窓口金融機関に行う必要がある。
支払期日を過ぎてから申し立てればよい制度ではなく,手続は窓口金融機関の定めによる(業務規程細則46条・23頁)。

さらに,原則として債権金額相当額の異議申立預託金を預け入れる必要がある。
こちらの期限は,支払期日までの日時で窓口金融機関が指定する日時であるから,異議申立ての期限と分けて確認する(業務規程50条2項・24頁)。

不正作出を理由とする場合にも,預託金は当然には免除されない。
免除の申立てを行い,でんさい事故調査会が理由のあるものと認めるなど,細則の要件を満たす必要がある(業務規程細則47条・23頁)。

この異議申立ては,支払不能処分制度上の手続であり,支払義務がないことを確定する裁判ではない。
業務規程は支払義務に関する裁判の確定等を別途予定しているので,処分への対応と,債権者との民事上の紛争の解決は分けて考えることになる(業務規程50条・51条・24頁~25頁)。

第5 取適法による支払規制と手形交換の終了

1 満期と法定支払期日を分ける

取適法は,すべての企業間取引に適用される法律ではない。
対象となる委託取引については,令和8年1月1日以後の発注から新しい支払規制が適用され,支払期日は原則として給付の受領等から60日以内のできる限り短い期間内に定めなければならない(取適法2条・3条及び令和7年法律第41号附則)。

手形以外の方法でも,支払期日までに代金相当額の金銭を得ることが困難な支払手段を用いることは,支払遅延の禁止に含まれる。
したがって,電子記録債権が民事上有効に成立していることだけでは,取適法上の支払義務を果たしたことにならない(取適法5条1項2号)。

公正取引委員会のQ&Aは,受取側が支払期日までに現金化するための割引操作を必要とする場合には,発注側が割引料を負担しても支払遅延に当たると説明している。
一方,電子記録債権の満期が支払期日より後でも,受取側の割引操作を要せず,かつ,支払期日までに代金全額の現金を得られる場合は,支払遅延に当たらないとしている(公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q80)。

2 手数料負担と満額の受領

同Q&AのQ81は,受取手数料やシステム利用に係る手数料を受取側に負担させることは,合意の有無にかかわらず違反になるとしている。
代金額だけでなく,手数料控除後に満額を受け取れるかを確認する必要がある(公正取引委員会Q&A・Q81)。

手数料を一時的に受取側が負担する取扱いと,最終的に負担させる取扱いは区別される。
同Q&Aでは,一時負担については事前に書面又は電磁的記録で合意し,支払期日までにその分を支払い,期日までに満額の現金を得られるようにすることや,所定の記録を残すことが示されている(公正取引委員会Q&A・Q71及び一括決済方式についてのQ82)。

手形払の禁止と旧通達の沿革については,「取適法における手形払の禁止と手形通達の沿革」を参照されたい。

3 令和9年3月31日に終了するもの

全国銀行協会は,手形・小切手の交換を令和9年3月31日で終了し,電子交換所のすべての交換を令和11年6月29日で終了する方針を公表している。
これは交換制度の終了時期であり,令和9年4月1日以後に手形・小切手が法律上当然に無効になるという意味ではない(全国銀行協会・令和8年6月18日公表資料)。

個別の金融機関の取扱終了日等は,この交換終了日と同じとは限らない(前記全国銀行協会公表資料の注記)。
でんさいへの切替えを検討するときは,取引金融機関の受付状況と,取適法対象取引での支払条件をそれぞれ確認することになる。

第6 差押えの対象と確認資料

1 原因債権の差押えとでんさいの差押え

売掛債権を差し押さえることと,その支払のために発生した電子記録債権を差し押さえることは同じではない。
特に,売掛債権を差押債権者へ移す転付命令を得る場合には,電子記録債権の発生・支払と,命令の送達の前後関係が問題となる。

最高裁令和5年3月29日第三小法廷決定(令和4年(許)第13号,民集77巻3号819頁)は,第三債務者が差押命令の送達前に,売掛債権の支払のために電子記録債権を発生させ,転付命令の送達後にその支払をした場合を取り上げている。
この条件では,電子記録債権の支払による原因債権の消滅を差押債権者に対抗できる一方,転付命令によって執行債権等が弁済されたとみなされる効果も妨げられないと判断した(決定全文2頁~3頁)。

つまり,差押債権者が現実に回収できるかと,転付命令により自分の請求権が弁済された扱いになるかは,別の問題となる。
なお,同決定は電子記録債権の支払時期等について更に審理を尽くさせるために破棄差戻しをしており,その支払時期を確定したものではない。

電子記録債権自体を対象とする保全については,「電子記録債権・でんさいの仮差押え」で,債権の特定や送達・決済停止との関係を説明している。

2 利用者が先に確認する資料

本記事では,取引内容や支払の食い違いを調べる際の最初の確認対象を,次の資料とする。
まず自社が持つ資料を照合し,不足する記録は請求資格と開示範囲を確認して取得するという順序である。

①発生・譲渡・保証・支払等の記録内容や通知。
②原因取引の契約書・注文書・請求書と,支払方法についての合意。
③支払期日,実際の入出金日及び手数料の負担が分かる資料。
④異議申立てを検討する場合の,窓口金融機関の受付期限と預託金の案内。

電子記録の開示は,誰でも他人の記録を自由に取得できる制度ではない。
法律及び業務規程は,請求できる者と開示事項の範囲を定めている(電子記録債権法87条業務規程57条・26頁)。

銀行の相殺・商事留置権や倒産時の取扱いについては,「でんさい決済と銀行の相殺・商事留置権」を参照されたい。

第7 出典・参考資料

1 法令

電子記録債権法(平成19年法律第102号,e-Gov法令検索)。
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法,昭和31年法律第120号,e-Gov法令検索)。

2 裁判例

最高裁令和5年3月29日第三小法廷決定(令和4年(許)第13号,民集77巻3号819頁,裁判所ウェブサイト)。

3 行政機関の解説

①金融庁・法務省「電子記録債権―事業資金を調達するためのあたらしい金融手段」1頁~2頁・10頁Q1(PDF2頁目~3頁目・11頁目)。
②公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q71・Q80~Q82。

4 記録機関の業務規程

①でんさいネット「業務規程」(令和6年11月18日改正版)。
②でんさいネット「業務規程細則」(令和6年11月18日改正版)。

5 記録機関・金融界の説明資料

①でんさいネット「電子記録債権とは」
②全国銀行協会「電子交換所の交換廃止時期の決定および手形・小切手交換廃止時期の明確化について」(令和8年6月18日)。