遺言無効確認請求訴訟では、遺言によって利益を受ける相続人若しくは受遺者又は遺言執行者が被告の候補となる。
もっとも、誰を被告にすべきかは、遺言の内容、執行の進行状況及び遺言無効確認以外に求める請求から逆算して決める必要がある。
第1 基本的な考え方
被告とすべき者は、当該遺言の有効性について原告と対立し、確認判決によって原告の法律上の不安・危険を除去できる者である。
そのため、遺言書に名前がある者を機械的に全員被告とするのではなく、誰が遺言の有効性を主張し、誰に遺言による権利又は権限が帰属しているかを確認する必要がある。
第2 相続人及び受遺者
遺言によって法定相続分を超える財産を取得する相続人又は遺贈を受ける者は、遺言の有効性について直接の利害を有するため、通常、被告の候補となる。
ただし、確認判決だけで紛争が終わらず、既にされた登記の抹消又は金銭の返還を求める必要がある場合は、その給付義務を負う者を相手方とする必要がある。
第3 遺言執行者
民法1012条は、遺言執行者が遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めている。
最高裁昭和31年9月18日判決(昭和29年(オ)第875号)は、相続人が遺言執行者を被告として遺言の無効を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求めることができる旨を判示した。
したがって、遺言執行が終わっておらず、遺言執行者の権限と原告の権利が対立する場合、遺言執行者は被告の候補となる。
第4 遺言執行後の登記を争う場合
最高裁昭和51年7月19日判決(昭和51年(オ)第17号)は、遺贈の目的不動産について受遺者名義の所有権移転登記等が既にされた場合、抹消登記手続請求の相手方は遺言執行者ではなく受遺者であるとした。
遺言執行が終わった部分については、遺言執行者だけを被告としても、登記又は財産の返還という最終的な目的を達成できないことがある。
また、最高裁平成10年2月27日判決(平成7年(オ)第1993号)は、特定の相続人に不動産を相続させる遺言がある事案で賃借権確認を求める場合、特段の事情がない限り、遺言執行者ではなく当該相続人を被告とすべきであるとした。
最高裁平成11年12月16日判決(平成10年(オ)第1499号、民集53巻9号1989頁)は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がある場合に、他の相続人が相続開始後に自己名義の所有権移転登記をした事案について、遺言執行者が抹消登記手続だけでなく、当該特定の相続人への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続も求めることができるとした。
したがって、遺言執行者を被告とするか、遺言執行者が原告となる給付請求を想定するかは、遺言執行の進行状況と、判決後に必要となる登記手続を踏まえて検討する必要がある。
第5 相続人全員を被告にする必要があるか
最高裁昭和56年9月11日判決(昭和54年(オ)第1208号)は、相続分及び遺産分割方法を指定した遺言の無効確認の訴えは固有必要的共同訴訟ではない旨を判示した。
したがって、この種の遺言無効確認請求訴訟では、相続人全員を必ず当事者にしなければならないとは限らない。
もっとも、訴訟当事者でない者との関係を含めて紛争を一回的に解決できるかは別問題である。
遺言の内容、相続人及び受遺者の主張並びに判決後に予定する手続を踏まえて、共同被告とすべき範囲を検討する必要がある。
田村洋三=小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟―遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル』(日本加除出版、2020年)284頁は、相続人又は受遺者を被告とする遺言無効確認請求訴訟と、遺言執行者を当事者とする同訴訟との関係を、類似必要的共同訴訟であると説明している。
もっとも、相続人全員を必ず共同被告にしなければならないという問題と、同じ遺言の有効性をめぐって相続人・受遺者と遺言執行者が別々の訴訟当事者となった場合の問題は区別する必要がある。
第6 被告を決める前の確認事項
①遺言によって利益を受ける者を特定する必要がある。
②遺言執行者が選任され、その任務が継続しているかを確認する必要がある。
③不動産登記、預貯金の解約その他の遺言執行が既に行われたかを確認する必要がある。
④遺言無効確認だけでなく、登記抹消、所有権確認又は返還請求を併合する必要があるかを確認する必要がある。
⑤判決の効力を誰との間に及ぼす必要があるかを確認する必要がある。
第7 関連記事
④遺言無効確認請求訴訟は何年かかるか―審理期間の資料・長期化要因・併合事件
⑤遺言無効確認請求訴訟の確認の利益―生前提訴・特別縁故者・後の遺言・登記後の扱い
第8 出典
①民法1012条(e-Gov法令検索)
②最高裁昭和31年9月18日判決(昭和29年(オ)第875号)
③最高裁昭和51年7月19日判決(昭和51年(オ)第17号)
④最高裁昭和56年9月11日判決(昭和54年(オ)第1208号)
⑤最高裁平成10年2月27日判決(平成7年(オ)第1993号)
⑥最高裁平成11年12月16日判決(平成10年(オ)第1499号、民集53巻9号1989頁)
⑦田村洋三=小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟―遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル』(日本加除出版、2020年)284頁