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高額所得者の婚姻費用(AI作成)

第1 この記事が扱う場面

1 対象とする問い

義務者又は権利者の収入が,標準的な算定表が想定する上限額を超えている場合に,婚姻費用をどのように計算するかを扱う。
標準的な算定表の基本的な読み方,及び住宅ローン・私立学校の学費・高額医療費といった他の特別事情の扱いは別記事に譲り,本記事では,収入額そのものが上限を超える場面に絞って説明する。

2 本記事で扱わない事項

婚姻費用算定表そのものの読み方,基礎収入割合,生活費指数の意味等は,「婚姻費用算定表の見方,計算方法と特別事情(AI作成)」で説明している。
同記事は上限を超える場合の考え方についても簡潔に触れているが,本記事は,その先にある,具体的な計算方法の違い,どの方法をどの収入水準で用いるべきかという整理,及び裁判例に基づく実例に絞って掘り下げる。
高額所得者の養育費については,婚姻費用と扱いが異なる部分があるため,第9で必要な範囲に絞って触れる。

第2 標準算定方式の上限額

現行(令和元年版)の標準的算定方式が公表する算定表は,給与所得者については義務者の年収2000万円・権利者の年収1000万円を,自営業者については義務者の所得1567万円・権利者の所得763万円を,それぞれ表の上限としている。
総収入がこの上限を超える場合,公租公課,職業費,特別経費のいずれの割合も上限額以下の場合と同じであるとは限らないため,算定表をそのまま外挿して用いることはできず,別途の算定方法が問題になる。

第3 上限を超える場合の算定方法の全体像

上限を超える場合の算定方法は,大きく分けて,標準的算定方式を修正するなどして利用する方法と,同居中及び現在の生活状況から算定する方法とに分かれる。
前者はさらに,①算定表の上限額をそのまま採用する方法,②基礎収入の割合を修正する方法,③基礎収入の算定に当たり貯蓄率を別途控除する方法の3つに分けられる。
どの方法が確立した唯一の基準というわけではなく,実務では複数の方法が併存している。

以下,第4から第6で,各方法の内容を具体的な裁判例とともに紹介する。

第4 上限額をそのまま採用する方法

収入が上限額をわずかに超えるに過ぎない場合に用いられる方法で,上限を超える部分は資産形成に充てられているとみて,上限額を総収入とみなして計算する。

大阪高等裁判所平成17年12月19日決定(平成17年(ラ)第966号,裁判所HP未掲載)は,歯科クリニックを経営する夫の年額報酬が2880万円という事案で,「2000万円を超える部分については,むしろ,資産形成に充てるとみることもできるから,離婚の際の財産分与として清算するのが相当」とし,上限額の限度で総収入と認めて試算した婚姻費用額の範囲内であるとして,月額37万円の原審の分担額を相当とした。

大阪家庭裁判所平成22年1月25日審判(裁判所HP未掲載,抗告審:大阪高等裁判所平成22年3月19日決定〔平成22年(ラ)第221号〕で抗告棄却)は,夫の役員報酬が年額2895万円(上限から約900万円を超える程度)という事案で,「上限額を採用するのが相当」として,標準的算定表により月額35万円とした。

第5 基礎収入の割合を修正する方法・貯蓄率を控除する方法

1 基礎収入の割合を修正する方法

基礎収入を算定し,これを生活費指数で按分するという従来の方式を維持しつつ,基礎収入の割合自体を,上限に該当する割合より若干低く修正する方法である。
高額所得者は,職業費・特別経費の収入に占める割合が低くなる一方,公租公課の割合が高くなり,かつ,貯蓄や資産形成に回る部分が大きくなることを理由とする。

福岡高等裁判所平成26年6月30日決定(判例時報2250号25頁)は,総収入6171万6840円(給与所得+雑所得)の事案で,基礎収入割合を27%とした。

2 貯蓄率を控除する方法

基礎収入の算定において,公租公課,職業費,特別経費のほかに,貯蓄率を別途控除する方法である。

神戸家庭裁判所尼崎支部平成19年10月5日審判(裁判所HP未掲載,抗告審:大阪高等裁判所平成20年1月23日決定で抗告棄却)は,夫の総収入が3900万0659円という事案で,職業費18.92%,特別経費16.40%,所得税・住民税・社会保険料を実額で控除した上,可処分所得の18.8%を貯蓄相当分として控除して基礎収入を算定した。
抗告審は,一定の貯蓄率も考慮した上で算定表に準じた按分方式を採用した原審の判断を,それなりの合理性を有するとして是認した。

大阪高等裁判所平成20年6月9日決定(平成20年(ラ)第419号,裁判所HP未掲載)は,夫の事業所得等の合計が4855万円余という事案で,「高額所得者の場合には,可処分所得のすべてを生活費に充てるのではなく,一定の割合を貯蓄に回すことが考えられる」として,総務省統計局の家計調査年報が示す総世帯の平均貯蓄率21.2%を採用し,可処分所得に乗じて得た貯蓄相当額を控除して基礎収入を算定した。

東京高等裁判所平成28年9月14日決定(判例タイムズ1436号113頁,裁判所HP未掲載)は,給与収入に不動産収入・配当収入を換算した合計約3940万円という事案で,職業費及び特別経費は年収2000万円以下の場合と同じ標準的な割合を採用しつつ,これとは別に,年収2000万円程度の者の平均的な貯蓄額との差額のみを追加の貯蓄分(可処分所得の7%)として控除した。
特別経費の統計的割合に既に一定の貯蓄的要素が織り込まれていることを踏まえ,貯蓄分を二重に控除しないよう配慮した計算例である。

第6 同居中の生活レベル等から算定する方法

収入が上限を大きく超える場合(億単位の収入や,生活状況が標準的な世帯と著しく異なる場合等)には,標準的算定方式を修正して用いることも難しくなる。
この場合は,同居中の生活レベル,生活費の支出状況及び現在の権利者の生活費支出状況から,必要分を加え,浪費部分を除くなどして,相当な婚姻費用を裁量で算定する方法による。

大阪高等裁判所平成20年5月13日決定(平成20年(ラ)第385号,裁判所HP未掲載)は,内科医院を開業する夫の総所得金額が5264万円という事案で,標準的算定方式に基づいて算定することは適当でないとし,同居していた時期の収入額・支出額,夫が現実に負担していた生活費の額(月額50万円)を一応の基準としつつ,別居後の事情も総合考慮して,婚姻費用分担額を月額40万円とした。

第7 収入水準に応じた使い分け

高額所得者といっても,標準的算定方式の上限をわずかに超える程度の者から,はるかに高額の所得者まで様々であり,これを単一の方法で処理することは基本的に無理がある。
収入が上限額を500万円程度超えるに過ぎない場合は,前記第4(上限額を採用する方法)が合理性を持つとされる。

収入がこれを超える場合(億の単位であったり,生活状況が標準的な世帯と著しく異なる場合を除く)は,前記第5(基礎収入割合の修正又は貯蓄率の控除)が合理性を持つとされる。
両者の違いはそれほど大きくない。
収入が億の単位であったり,生活状況が標準的な世帯と著しく異なる場合は,前記第6(同居中の生活レベル等から算定する方法)による。

基礎収入割合の修正又は貯蓄率控除の方法による場合,公租公課は実額又は税法等から算出した額により,職業費は標準的な統計をそのまま使用してよいが,特別経費は当事者による差が大きいため同居中及び現在の生活状況等から適切な額を検討すべきとされる。
貯蓄については,収入2000万円以下の世帯でもされているから,控除するのはこれを上回る部分に限られる。

同居中の生活レベル等から算定する方法による場合でも,標準的算定方式で特別経費として考慮された費目(住居費,教育費,社会活動費用等)は考慮を要する。
浪費部分は婚姻費用に含められないが,その地位からみておかしくない娯楽費用は浪費とまではいえない。

第8 婚姻費用の月額に上限があるかという論点

高額所得者の婚姻費用をめぐっては,婚姻費用の性格(あくまで生活費であり従前の贅沢な生活をそのまま保障しようとするものではない)からすると,よほどの事情がない限り,婚姻費用の額が月額100万円を超えることはないとする見解がある。

これに対しては,実務経験上,同居中に配偶者に月額100万円を超える生活費を交付している例は少なくなく,婚姻費用の額が月額100万円を超えることはないと決めつけることはできないとする見解もある。
どちらか一方が確立した結論というわけではない。

第9 養育費との違い

養育費については,婚姻費用と異なり,その性質上,基本的に算定表の上限額を上限とするのが多数とされる。
これに批判的な見解もある。
生活費としての養育費(子の監護費用)は,義務者の収入に対応して無制限に増加するものではないという理解に基づく。

もっとも,子の海外留学等,両親の地位,経歴,子の意思等から妥当な特別の事情があり,義務者もこれに応じて然るべき場合には,上限を超える加算をすることも可能とされる。
婚姻費用(夫婦双方の生活費を含む)には,このような月額の上限を設ける多数説は見当たらない。

第10 確認順序

高額所得者の婚姻費用を検討する場合,おおむね次の順序で確認することになる。
①自分又は相手方の収入が,現行の算定表の上限額(給与所得者2000万円,自営業者1567万円)を超えているかを確認する(第2)。
②上限をどの程度超えているかを把握する。500万円程度か,それ以上か,億単位かによって,合理的な算定方法の見当が変わる(第7)。
③超過の程度に応じて,上限額を採用する方法,基礎収入割合又は貯蓄率を修正する方法,同居中の生活レベルから算定する方法のいずれが問題になり得るかを検討する(第4から第6)。
④同居中に実際に交付されていた生活費の額や従前の生活水準を裏付ける資料(振込記録,通帳,クレジットカード明細等)を確認しておく(第6,第7)。
⑤婚姻費用の月額に確立した上限があるという考え方は確立していないため,「月額100万円が上限」等の数字だけで結論を決めつけない(第8)。

出典

1 法令

①民法(明治29年法律第89号)760条(婚姻費用の分担)――第2から第7までの根拠(e-Gov法令検索)。

2 裁判例

裁判所公表の標準的算定方式・算定表(令和元年版)のうち,婚姻費用・夫婦のみの表(表10)を確認した。
以下の裁判例は,いずれも裁判所HPには掲載されておらず,松本哲泓(弁護士・元大阪高等裁判所部総括判事)『婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-』(新日本法規,2018年)137頁~146頁が引用する決定・審判の説示に基づく(福岡高等裁判所平成26年6月30日決定を除く)。
同書は,大阪高等裁判所家事抗告事件集中部(第9民事部)における事例研究会の報告をまとめたものであり,各裁判例について,裁判所名・裁判年月日・事件番号又は掲載誌を明示した上で,理由中の説示を引用符付きで引用している。

①大阪高等裁判所平成17年12月19日決定(平成17年(ラ)第966号)
②大阪家庭裁判所平成22年1月25日審判・抗告審大阪高等裁判所平成22年3月19日決定(平成22年(ラ)第221号)
③福岡高等裁判所平成26年6月30日決定(判例時報2250号25頁)
④神戸家庭裁判所尼崎支部平成19年10月5日審判・抗告審大阪高等裁判所平成20年1月23日決定
⑤大阪高等裁判所平成20年6月9日決定(平成20年(ラ)第419号)
⑥東京高等裁判所平成28年9月14日決定(判例タイムズ1436号113頁)
⑦大阪高等裁判所平成20年5月13日決定(平成20年(ラ)第385号)

3 文献

①松本哲泓(弁護士・元大阪高等裁判所部総括判事)『婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-』(新日本法規,2018年)137頁~146頁

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