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民事裁判における証拠の目的外使用禁止――導入検討の経緯と予想される影響(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 報道の内容と検討の時点

共同通信は,2026年8月21日,法務省が民事訴訟法の見直しを法制審議会に諮問する方向で検討していると報じた。

焦点は,民事裁判に提出された証拠を裁判外の目的で利用できる現行制度を変更し,刑事裁判の証拠に適用されている「目的外使用」の禁止を,民事裁判にも導入するか否かにある。

同記事は,背景として,検察官から違法な取調べを受けたとする元被告らによる国家賠償請求訴訟において,事情聴取の様子が報道機関などを通じて公開されるケースが増えていることを挙げている。

そのうえで,制度が実現すれば外部検証が困難になるという懸念と,証拠提出のハードルが下がるという期待の両方に触れている。

本記事は,AIを用いてこの報道の背景事情,現行法の到達点,直近の類似の立法例及びこれに対する反応,並びに外国法制を調査し,論評するものである。

法務省・法制審議会の公式サイトを2026年8月22日時点で確認したところ,民事訴訟の証拠使用制限に関する部会は設置されておらず,正式な諮問文も公表されていない。

したがって,本記事が扱う制度は,なお検討の初期段階にあるものであり,具体的な条文案や施行時期は明らかになっていない。

2 この記事の範囲

この記事では,まず民事訴訟記録の閲覧に関する現行法の原則を確認する。

そのうえで,今回の検討の契機となったとみられる具体的な出来事,法務省の下部組織である研究会がすでに示していた関連する制度提案を取り上げる。

さらに,ほぼ同時期に成立した刑事再審手続の改正をめぐって現に生じている対立を取り上げる。

刑事再審手続の改正は,民事訴訟の見直しとは別の手続で成立した別個の法律である。もっとも,「証拠の目的外使用を一律に禁止することの当否」という同じ論点をめぐって,賛否双方の主張がすでに具体的な形で示されており,民事訴訟の議論の行方を考えるうえで参考になる。

最後に,同種の制度を持つ外国法制を確認し,この議論が民事訴訟の証拠公開原則に対して投げかけている問いを整理する。

個別の事件について,捜査や裁判所の判断の当否そのものを論評することは,この記事の目的ではない。

第2 訴訟記録は「何人も」閲覧できるという現行法の原則

1 民訴法91条・91条の2による公開原則

民事訴訟法91条1項は,紙媒体等の非電磁的訴訟記録について,「何人も,裁判所書記官に対し,……その閲覧を請求することができる」と定める。

令和4年の民事訴訟法改正で新設された91条の2第1項も,電磁的訴訟記録について同じく「何人も」閲覧を請求できるとしている。

訴訟の当事者であるかどうかを問わず,第三者が広く閲覧できるのがこの制度の骨格であり,令和4年改正後の現行法においても維持されている原則である。

謄写や複写は当事者又は利害関係を疎明した第三者に限られるが,閲覧そのものは何人にも開かれている。

民事記録の閲覧・謄写の手続の詳細は,「民事事件記録の閲覧・謄写」で扱っている。

この公開原則は,憲法82条が定める裁判公開の原則を徹底したものと位置付けられている。

昭和23年の民事訴訟法改正で,訴訟記録の閲覧が当事者及び利害関係のある第三者に限られていた旧規定が改められ,何人も閲覧できる制度になった経緯がある。

家事事件手続法や非訟事件手続法が当事者にも裁判所の許可を要求しているのとは対照的である。

2 92条による例外は私生活の重大な秘密と営業秘密に限られる

民事訴訟法92条1項は,訴訟記録中に①当事者の私生活についての重大な秘密が記載され,第三者の閲覧により当事者の社会生活に著しい支障を生ずるおそれがある場合,又は②当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法2条6項)が記載されている場合に限り,当事者の申立てにより,閲覧等の請求権者を当事者に限定できると定める。

制限の対象は訴訟記録全部ではなく,秘密が記載された部分に限られる。

この規定の運用が限定的であることは,最高裁判所第一小法廷令和6年7月8日決定(令和4年(マ)第246号)でも示されている。

この決定は,営業秘密該当性の疎明が不十分であるとして,閲覧等制限の申立てを全員一致で退けたものである。

深山卓也裁判官の補足意見は,92条が91条の公開原則の重大な例外であるから保護すべき秘密は必要最小限に限定されるべきであるとし,営業秘密に該当するというためには秘密管理性・有用性・非公然性の3要件を個別に疎明する必要があると指摘した。

3 刑事訴訟法にはすでに「目的外使用」を禁じる規定がある

これに対し,刑事訴訟法には,検察官が被告人・弁護人に開示した証拠の目的外使用を禁じる規定が既に存在する。

281条の4は,被告人又は弁護人が,検察官から開示を受けた証拠の複製等を,当該被告事件の審理その他281条の4第1項各号に列挙された関連手続以外の目的で,人に交付し,提示し,又は電気通信回線を通じて提供してはならないと定める。

281条の5は,これに違反した被告人を1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処し,対価を得る目的で違反した弁護人についても同様とすると定める。

民事訴訟には,このような一律の目的外使用禁止規定は存在しない。

証拠として提出された文書や録音・録画が,訴訟の終了後にどのように利用されるかを直接に規律する規定がないため,訴訟記録の公開原則とあいまって,訴訟に提出された証拠が報道機関等の手に渡ることを止める手立てが乏しいのが現状である。

今回検討されているのは,この差を埋め,刑事訴訟法と同様の規律を民事訴訟にも及ぼすことの当否である。

第3 法務省が民事訴訟法の見直しを検討する契機

1 国家賠償請求訴訟での取調べ映像の法廷再生

今回の報道が背景として挙げる「検察官から違法な取調べを受けたとする元被告らによる国家賠償請求訴訟」に直接符合する事案として,太陽光関連会社テクノシステムの社長である生田尚之氏が国を相手に提起した国家賠償請求訴訟が挙げられる。

生田氏は,金融機関から融資金をだまし取ったとする詐欺及び会社法上の特別背任の罪で2021年5月に逮捕・起訴され,2026年3月13日,東京地方裁判所から懲役11年の判決を受けた。

同判決は,生田氏の刑事責任を認める一方で,東京地方検察庁特別捜査部の検事による取調べについて,「説得や追及の域を逸脱した発言がなされており,不相当と言わざるを得ない」と述べ,取調べの手法そのものは問題視した。

生田氏は,黙秘権を行使した自分に対し,担当検事から41日間・約205時間にわたって「検察庁を敵視するということは反社会的勢力と同じだ」などと威圧する発言を受けたと主張し,同検事を刑事告訴した。

もっとも2026年3月30日,東京高等検察庁は嫌疑不十分で不起訴とした。同年6月24日,裁判所は付審判請求を認容し,同検事は特別公務員暴行陵虐罪の被告人として刑事責任を問われる立場になっている。

生田氏はまた,国に対しても約1100万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起している。

同訴訟の2026年8月10日の期日では,取調べの録画映像のうち原告側が違法と主張する58場面・約70分が実際に法廷で再生され,共同通信・時事通信・日本経済新聞など複数の報道機関が大きく報じた。

原告代理人の河津博史弁護士は,後述する法務省の内部方針について,「検察の不適切な取り調べの実態を国民に知られないようにする趣旨と見られても仕方がない。国民の知る権利を著しく軽視している」と批判している。

有罪・無罪の帰趨にかかわらず,取調べの手法自体の適否が刑事裁判・別件の刑事手続・国家賠償請求訴訟という複数の手続で並行して審理されている点に,この事案の特徴がある。

2 法務省が示していた内部方針

共同通信は,2026年5月24日,法務省が全国の法務局に対し,検察官を被告とする国家賠償請求訴訟に関する内部方針を発出していたと報じた。

この方針は,取調べの録音・録画データを国家賠償請求訴訟の証拠として提出する際には,報道機関への提供を禁止する誓約書を求めること,民事訴訟法92条に基づく閲覧制限を申し立てること,証拠調べを公開の法廷ではなく非公開の弁論準備手続で行うよう裁判所に求めることを検討するよう促す内容であったとされる。

同記事は,違法性を問われる立場にある国が重要証拠の公開範囲を過度に絞れば,捜査の在り方を検証する際の障壁になりかねないという懸念にも言及していた。

この内部方針は,法律による一律の規律ではなく,現行法の枠内での運用上の対応にとどまるものである。

今回報道された法制審議会への諮問検討は,これをより体系的な立法によって手当てしようとする動きに当たるとみられる。

3 検察の捜査を違法と認めた国家賠償請求訴訟の広がり

検察官の捜査の適法性が国家賠償請求訴訟で正面から争われ,違法性が認定される事案は,テクノシステムの事案に限らない。

横浜市の噴霧乾燥機メーカーである大川原化工機の役員3名が,生物兵器に転用可能な機器を無許可で輸出したとして2020年3月に逮捕・起訴され,2021年7月に検察官が公訴を取り消した事件がある。

この事件では,役員側が提起した国家賠償請求訴訟において,東京地方裁判所が2023年12月27日,警視庁公安部の捜査及び検察官の勾留請求・公訴提起を違法と認定して約1億6200万円の支払を命じた。

東京高等裁判所も2025年5月28日,違法性の判断を維持したうえで賠償額を約1億6600万円に増額する判決を言い渡した。国・都のいずれも上告せず,同年6月11日の期限経過により判決が確定している。

この事件で身柄を拘束された役員の1人は,胃がんの診断を受けながら保釈が繰り返し認められないまま,起訴取消しを待たずに死亡した。関与した裁判官の氏名等は,「大川原化工機事件の身体拘束を判断した裁判官44名」で整理している。

このように,検察官の捜査の適法性が国家賠償請求訴訟を通じて事後的に検証される事案が積み重なっていることが,証拠の取扱いをめぐる議論の土壌になっているとみられる。

第4 商事法務研究会報告書が示していた「秘密保持命令」の構想

1 研究会報告書の位置付け

法務省の検討に先立ち,公益社団法人商事法務研究会に設置された「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」(座長・畑瑞穂東京大学大学院法学政治学研究科教授)は,2026年2月,証拠収集手続の拡充を中心とする報告書を公表した。

同研究会は令和3年2月に検討を開始し,法曹三者連絡協議会が令和4年3月にまとめた「民事訴訟法制に関する検討事項」を踏まえて審議を重ねてきた。

報告書自体が,多くの項目について「引き続き検討することとしてはどうか」という提案の域にとどまるものであることを明記している。

同報告書は,訴えの提起前の証拠収集,訴状送達前の被告情報取得,当事者照会の実効性強化,「文書提出命令」における自己利用文書の除外事由の見直し,専門的知見を持つ第三者からの意見募集制度の新設と並んで,当事者等の秘密の保護のための新たな制度を提案していた。

2 秘密保持命令の要件と効果

同報告書が示す秘密保持命令の構想は,当事者又は第三者の私生活についての重大な秘密,あるいは当事者又は第三者が保有する営業秘密が,準備書面や取り調べられるべき証拠に含まれることの疎明があった場合に,当事者の申立てにより,裁判所が決定で,当該情報を訴訟追行の目的以外で使用し,又は命令を受けた者以外に開示することを禁止できるというものである。

違反に対する制裁については,特許法105条の4及び200条の3,不正競争防止法10条及び21条3項6号が定める秘密保持命令(5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金)を参考例として挙げつつ,過料にとどめるべきだという意見も併記されている。

同報告書は,この提案が憲法82条の定める裁判公開原則との関係で慎重な検討を要することを自認しており,対象を私生活の重大な秘密と営業秘密に限定する枠組みを採っている。

3 8月21日の報道が伝える内容との異同

もっとも,2026年8月21日の報道が伝える検討内容は,刑事訴訟法の目的外使用禁止規定を参考例として挙げており,対象を私生活の重大な秘密や営業秘密に限定せずに証拠一般を広く対象とする規律を念頭に置いているようにも読める。

これに対し,商事法務研究会報告書の秘密保持命令は,対象を限定したうえで当事者の申立てを要件とする個別審査型の制度である。

両者が同一の構想を指しているのか,報告書の提案を土台にしつつこれを上回る規律が別途検討されているのかは,2026年8月22日時点で公表されている情報からは明らかではない。

法制審議会への正式な諮問がなされ,部会資料が公表された段階で,対象範囲や要件の具体的な設計を改めて確認する必要がある。

第5 先行する刑事再審手続の改正が示す対立の構造

1 再審法改正が導入した目的外使用の罰則

民事訴訟の議論とは別の手続で成立した法律ではあるが,2026年7月17日,刑事訴訟法の再審に関する規定を見直す改正法が参議院本会議で可決・成立した。

1948年の現行刑事訴訟法制定以来初めてとなる再審手続の見直しであり,裁判所による再審請求審の審理の規律化,再審請求に関与した裁判官の除斥,一定の要件のもとでの検察官に対する証拠提出命令の義務化,検察官による再審開始決定への抗告の原則禁止とあわせて,再審請求手続で開示された証拠を再審の手続又はその準備以外の目的で使用することを禁じ,違反した場合に1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金を科す規定が新設された。

この罰則の水準は,前述した281条の5が被告人に科す罰則と同じである。

2 袴田事件の再審無罪を支えた市民の検証活動

この規定への反対論が具体的な根拠として繰り返し挙げているのが,2024年9月に再審無罪が確定した袴田巌さんの事件である。

静岡県で1966年に発生した一家4人強盗殺人事件の証拠とされた「みそ漬け」の衣類について,浜松市の主婦である藤原よし江さんが,1年以上みそに漬かっていたはずの血痕の色が鮮明に残っているという検察の主張に疑問を持った。

自宅で酢やみそなど10種類の液体に自らの血液を漬ける実験を行ったところ,酸性の液体では血液が短期間で黒く変色する傾向を見いだした。

この気付きが,40年以上にわたって同事件を支援してきた山崎俊樹さんらによる本格的な味噌漬け実験や,被害者宅の裏木戸を実際に通り抜けられるかどうかの検証実験へと発展し,弁護団による専門家鑑定を経て,再審開始,そして無罪の確定につながった。

これらの活動は,確定記録や開示された証拠が支援者や市民と共有されたことによって可能になったものである。

日弁連やジャーナリズムの一部は,証拠の目的外使用を一律に禁止する規定が既に存在していれば,このような市民による独立した検証活動自体が制約されていた可能性があると指摘している。

3 日弁連・日本新聞協会が示した懸念

日本弁護士連合会は,2026年7月17日付けの会長声明(会長・松田純一)において,再審法改正を1948年以来初の見直しとして意義を認める一方,目的外使用禁止規定については,「弊害の有無・程度を問うことなく,全ての証拠について一律に使用を禁止するのは過度の制約」であるとし,再審請求人が支援者や報道機関に証拠を提供することをためらわせるおそれがあると指摘した。

日本新聞協会は,2026年5月27日付けの声明「再審制度見直しをめぐる刑事訴訟法改正案に対する声明」において,目的外使用の禁止に「改めて反対する」との立場を示した。

同協会は,2026年1月の法案検討段階でも同趣旨の懸念を伝えていたが,罰則付きの規定が政府提出法案に盛り込まれたことを受けて声明を再度発表したものである。

同声明は,「報道機関は,憲法が保障する表現の自由と国民の知る権利に奉仕する公共的使命を負っている」としたうえで,罰則付きの禁止規定によって「報道機関への情報提供を一律に制限し,取材・報道活動を阻害することは認められない」と述べ,提供の萎縮が生じれば「国民が再審事件の問題点を知る機会が損なわれる」ことを危惧するとしている。

第6 証拠の目的外使用制限をめぐる外国法制

1 アメリカ――「正当な事由」による個別審査

アメリカの連邦民事訴訟規則26条(c)は,当事者の申立てと裁判所による「正当な事由」(good cause)の認定に基づき,開示された情報の利用・開示を制限する保護命令を発することができると定める。

連邦最高裁判所は,Seattle Times Co. v. Rhinehart判決(467 U.S. 20,1984年)において,正当な事由に基づく保護命令は憲法修正1条(表現の自由)に反しないと全員一致で判示した。

同判決の要点は,保護命令の効力がディスカバリーを通じて得られた情報に限られ,同一の情報を独自の取材によって別途入手した場合の公表までは制限しないという点にある。

フロリダ州は,製造物責任など公衆の安全にかかわる情報の隠蔽を目的とする秘密保持契約や裁判所命令を無効とする州法(フロリダ州法69.081条)を設けており,個別審査による調整と,安全にかかわる情報を保護の対象外とする規律とが併存している。

2 ドイツ――秘密保持命令の民事訴訟一般への拡大

ドイツでは,2019年施行の営業秘密保護法(Gesetz zum Schutz von Geschäftsgeheimnissen)が,EU指令2016/943号の国内法化として,手続関与者に対し裁判所が指定した秘密情報の訴訟外利用・開示を禁止できる制度を導入した。日本の特許法105条の4に類似する制度である。

さらに,2025年4月1日に施行された改正民事訴訟法(ZPO)273a条は,この秘密保護の枠組みを,労働裁判を含む民事訴訟一般に拡大した。

従来の非公開規定と異なり,公益との比較衡量を要件としない点に特色があるとされ,日本で検討されている制度の設計を考えるうえで参考になる直近の立法例である。

第7 この議論が問いかけているもの

1 証拠の公開性が果たしてきた役割

民事訴訟記録が何人にも公開されているという原則は,単に情報公開の理念にとどまらず,捜査機関や行政の行為の適法性が裁判所でどのように審理されているかを,当事者以外の市民や報道機関が検証する手段としても機能してきた。

テクノシステムの訴訟における取調べ映像の法廷再生が広く報じられたことや,大川原化工機事件の国家賠償請求訴訟の確定判決が捜査の違法性を認めたことが社会的な関心を集めたことは,いずれもこの機能が現に働いている例といえる。

2 対抗利益としてのプライバシー・営業秘密の保護

他方で,商事法務研究会報告書が指摘するとおり,私生活の重大な秘密や営業秘密を含む証拠の提出を当事者がためらう事例が現に存在することも事実であり,秘密の保護を欠くことが訴訟における真実解明を妨げている面もある。

アメリカやドイツの制度が示すように,秘密の保護と情報の公開性とをどのように調整するかという論点自体は,日本に固有のものではなく,主要国が共通して直面してきた課題である。

3 現時点の到達点

2026年8月22日時点で,法制審議会への正式な諮問はまだなされておらず,対象となる証拠の範囲や規律の具体的な内容も公表されていない。

過去の法制審議会の実例(平成14年の会社法制定に向けた諮問)では,諮問から答申までに約3年を要しており,仮に諮問がなされたとしても,実際の法改正や施行までには相当の期間を要すると見込まれる。

もっとも,ほぼ同じ論点をめぐって成立した刑事再審手続の改正には,日弁連や日本新聞協会からすでに具体的な反対論が示されている。

民事訴訟の検討が具体化した段階でも,証拠の公開性が果たしてきた役割と,プライバシー・営業秘密の保護という対抗利益とを,どのように調整するかが,同じ構図で改めて議論されることになると考えられる。

出典・参考資料

1 法令

民事訴訟法(平成8年法律第109号)91条,91条の2,92条(e-Gov法令検索)
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)281条の4,281条の5(e-Gov法令検索)
特許法(昭和34年法律第121号)105条の4,200条の3(e-Gov法令検索)
不正競争防止法(平成5年法律第47号)10条,21条3項6号(e-Gov法令検索)

2 裁判例

最高裁判所第一小法廷令和6年7月8日決定(令和4年(マ)第246号,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会 報告書」(令和8年2月,公益社団法人商事法務研究会)
日本弁護士連合会「刑事訴訟法の一部を改正する法律の成立に当たっての会長声明」(2026年7月17日)
日本新聞協会「再審制度見直しをめぐる刑事訴訟法改正案に対する声明」(2026年5月27日)

4 報道

「民事裁判の証拠使用に制限 法制審諮問を法務省検討」(共同通信,2026年8月21日)
「取り調べ映像の『閲覧制限』推奨 検察への国賠訴訟巡り法務省通知」(共同通信配信・信濃毎日新聞デジタル,2026年5月24日)
「証拠の『目的外使用』禁じる新規定で誰が得をする? 袴田さん冤罪事件では証拠の『矛盾』を主婦が見つけた」(東京新聞デジタル,2026年5月3日)
「再審法改正/法制審が証拠の目的外使用禁止を検討,『袴田事件』支援者に聞く『証拠』の取扱いと市民の司法参加」(刑事弁護オアシス)
「大川原化工機への『捜査は違法』 二審も東京都と国に賠償命令」(日本経済新聞,2025年5月28日)

5 文献

①小坂井久編『取調べの可視化 その理論と実践――刑事司法の歴史的転換点を超えて』(現代人文社,2024年)474頁,484頁,487頁~488頁