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永住許可の要件――素行・独立生計・国益(居住年数10年)の基準と令和8年8月公表の改定案(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

「永住者」は,出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)別表第二に定める在留資格の一つであり,在留活動及び在留期間の制限がない,日本の在留資格制度の中で最も安定した法的地位である。

この在留資格を取得するための永住許可は,入管法22条2項が定める素行要件,独立生計要件及び国益要件(このうち居住年数要件を含む。)のいずれにも適合し,かつ法務大臣がその者の永住を日本国の利益に合すると認めたときに限り与えられる。

本記事は,令和8年8月22日現在で確認できる入管法の条文,出入国在留管理庁が公表する「永住許可に関するガイドライン」(令和8年2月24日改訂)及び内部審査基準である「入国・在留審査要領」,国会審議の内容並びに関連する裁判例に基づき,現行の許可要件を整理するとともに,同庁が令和8年8月4日に公表した改定案の内容を扱う。

出入国在留管理庁は,令和8年8月4日,永住許可の要件を大幅に見直す「永住許可に関するガイドライン改定案」と,永住者の在留資格を取り消す場合の運用指針となる「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」を同時に公表し,意見公募手続(パブリックコメント)を実施している。

改定案は令和8年9月4日0時に意見募集を締め切り,施行は令和9年4月1日以降の申請からを予定しているものであって,本記事の作成時点ではいずれも確定していない。

本記事では,現行の要件(第3から第6まで)と,確定していない改定案の内容(第7)を明確に区別して記載する。改定案の内容を現行の要件であるかのように理解しないよう注意されたい。

第2 「永住者」と「特別永住者」の違い

入管法上の「永住者」は,本記事が扱う22条の永住許可を法務大臣から受けた者を指す。

これに対し,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成3年法律第71号。以下「入管特例法」という。)が定める「特別永住者」は,第二次世界大戦終結前から引き続き日本に居住する朝鮮半島出身者及び台湾出身者並びにその子孫を対象とする別枠の制度であり,入管法2条の2第1項にいう「他の法律に特別の規定がある場合」に該当するため,入管法別表第二の「永住者」には当たらない。

永住者と特別永住者とでは,退去強制事由の範囲,再入国許可の有効期間,指紋採取の要否等に差異があり,特別永住者の制度沿革及び在日韓国・朝鮮人の国籍・地域表示との関係は,在日韓国・朝鮮人及び台湾関係者の国籍・地域表示と在留上の地位で扱っている。

本記事が対象とするのは,入管法22条の永住許可を受けて「永住者」となる場合の要件であり,特別永住者の許可要件(そもそも許可という概念を経ない点を含む。)は対象としない。

第3 永住許可の法律上の要件――入管法22条2項

1 条文と3要件の全体像

入管法22条2項は,永住許可の要件を次のとおり定めている。「法務大臣は,その者が次の各号のいずれにも適合し,かつ,その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り,これを許可することができる。ただし,その者が日本人,永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合にあつては次の各号のいずれにも適合することを要せず,国際連合難民高等弁務官事務所その他の国際機関が保護の必要性を認めた者で法務省令で定める要件に該当するものである場合にあつては第二号に適合することを要しない。一 素行が善良であること。二 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること。」(e-Gov法令検索,令和8年6月14日施行版)。

条文の文言上,永住許可の要件は①素行が善良であること(素行要件),②独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(独立生計要件),③その者の永住が日本国の利益に合すると認められること(国益要件)の3つに整理される。

①及び②は日本人,永住者又は特別永住者の配偶者若しくは子である場合には適合を要せず,②は国際機関が保護の必要性を認めた者で法務省令の定める要件に該当する者(難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けている者を含む。入管法61条の2の11参照)についても適合を要しない。

2 素行要件

出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」(令和8年2月24日改訂。以下「現行ガイドライン」という。)は,素行要件について「法律を遵守し日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること」と説明する。

内部審査基準である「入国・在留審査要領」第12編第27節は,これをさらに具体化し,①日本国の法令に違反して拘禁刑(懲役,禁錮を含む。)又は罰金に処せられたことがある者(ただし,刑の消滅の規定の適用を受ける者,執行猶予の言渡しを取り消されることなくその期間を経過した者,復権により資格が回復した者はこれに該当しないものとして扱う。),②少年法による保護処分(少年法24条1項1号・3号等)が継続中の者,③日常生活又は社会生活において違法行為又は風紀を乱す行為を繰り返し行う等,素行善良と認められない特段の事情がある者,のいずれにも該当しないことを求めている。

3 独立生計要件

現行ガイドラインは,独立生計要件について「日常生活において公共の負担にならず,その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること」と説明する。

審査要領によれば,この要件は申請人本人が単独で充足している必要はなく,配偶者等とともに構成する世帯単位で見て安定した生活を続けることができると認められる場合には適合するものとして扱われ,収入だけでなく預貯金や不動産等の資産を有している場合にもこれに適合するものとして扱われる。

確認の対象となる期間は,申請時の直近5年間が原則であるが,高度専門職ポイントが一定点数以上の者等については1年から3年に短縮される特例がある(第4で扱う特例とは別に,独立生計要件・国益要件の確認対象期間についても短縮の定めがある。)。

国民年金への在日外国人の加入自体は昭和57年1月1日以降認められており,その経緯は在日外国人への社会保障法令の適用で扱っている。

4 国益要件と居住年数(原則10年在留)

国益要件は,条文上「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」という抽象的な文言にとどまるため,現行ガイドラインが考慮要素を5つに整理して示している。

①原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし,このうち,就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。

②罰金刑や拘禁刑などを受けていないこと,並びに公的義務(納税,公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに入管法に定める届出等の義務)を適正に履行していること。申請時点で納税又は納付が済んでいたとしても,当初の期限内に履行されていない場合は,原則として消極的に評価される。

③現に有している在留資格について,出入国管理及び難民認定法施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間をもって在留していること。

④現に有している在留資格について,法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること。⑤公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと。

このうち④は,令和6年11月18日改定版の審査要領には存在しなかった考慮要素であり,令和8年2月24日の改訂で新たに加えられたものである。

第4 居住年数要件の特例

現行ガイドラインは,原則10年在留という居住年数要件について,次の8類型の特例を定めている。

①日本人,永住者及び特別永住者の配偶者の場合,実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し,かつ,引き続き1年以上本邦に在留していること。その実子等の場合は1年以上本邦に継続して在留していること。

②「定住者」の在留資格で5年以上継続して本邦に在留していること。③難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けた者の場合,認定後5年以上継続して本邦に在留していること。

④外交,社会,経済,文化等の分野において我が国への貢献があると認められる者で,5年以上本邦に在留していること。具体的な貢献の類型は「『我が国への貢献』に関するガイドライン」〔平成29年4月26日改定〕が,国際機関等から権威ある賞を受けた者,日本政府から国民栄誉賞や勲章等を受けた者,日本の大学の教授等として概ね3年以上教育活動に従事した者等を例示する。

⑤地域再生法(平成17年法律第24号)に基づき認定された地域再生計画の区域内に所在する公私の機関において特定活動告示36号又は37号のいずれかに該当する活動を行い,我が国への貢献があると認められる者の場合,3年以上継続して本邦に在留していること。

⑥高度専門職省令のポイント計算で70点以上を有している者であって,その点数を維持して3年以上継続して本邦に在留していること(永住許可申請日の3年前の時点を基準とする算定でも足りる。)。⑦同ポイント計算で80点以上を有している者であって,その点数を維持して1年以上継続して本邦に在留していること(同じく1年前の時点を基準とする算定でも足りる。)。

⑧特別高度人材の基準を定める省令に規定する基準に該当する者であって,1年以上継続して本邦に在留していること。

なお,令和9年3月31日までの間は,在留期間「3年」を有する場合であっても前記③の「最長の在留期間をもって在留している」ものとして扱う経過措置が置かれている。

第5 永住許可に関するガイドラインの位置付けと改定履歴

永住許可に関するガイドラインは,法律の委任を受けた命令ではなく,出入国在留管理庁が永住許可の審査に当たって考慮すべき事項についての基本的な考え方を示す行政上の指針である。

同庁は令和6年改正法の国会審議において,ガイドラインは「入管庁が最終的に法の執行において混乱等が生じることのないよう,法の解釈指針を可能な限り明確化していくために策定するものですので,永住者や他の機関である地方自治体,税務署及び裁判所の判断を一義的に拘束するような効力を有するものではない」と説明している(令和6年6月11日参議院法務委員会,出入国在留管理庁次長答弁)。

ガイドラインは平成18年3月31日に策定されて以来,複数回にわたり改定されており,弁護士ドットコムライブラリー収録の実務書には令和元年5月31日改定版を引用するものがあるほか,出入国在留管理庁が内部審査基準として用いる「入国・在留審査要領」第12編第27節には令和6年11月18日改定版の内容が転載されている。

現行ガイドラインである令和8年2月24日改訂版は,同月の改訂により国益要件に前記第3の4④(上陸許可基準等への適合)を新設した点で,令和6年11月版から実質的な変更が加えられている。

入国・在留審査要領そのものは,出入国在留管理庁が保有する行政文書の開示請求により入手された令和8年4月時点の文書を,出入国在留管理庁作成の「入国・在留審査要領」(令和8年4月の開示文書)で公開しているので,第27節の原文を確認したい場合はそちらを参照されたい。

第6 永住者の在留資格が取り消される場合

1 現行の取消事由

永住者の在留資格をもって在留する外国人であっても,入管法22条の4第1項各号に掲げる事実のいずれかが判明したときは,法務大臣により在留資格を取り消される。

同項の各号のうち,別表第一の在留資格者に限定されず永住者にも適用されるのは,偽り不正の手段による上陸許可等の取得(1号から4号まで)と,中長期在留者の住居地届出義務違反(8号から10号まで)である。8号は新たに中長期在留者となった者が上陸許可等を受けた日から90日以内に住居地の届出をしないこと,9号は届出住居地から退去した日から90日以内に新住居地の届出をしないこと,10号は虚偽の住居地を届け出たことを取消事由とする(e-Gov法令検索,令和8年6月14日施行版。以下,本節で扱う条文はいずれも同版に基づく現行条文である。)。

これに対し,同項5号から7号までが定める在留資格該当活動の不履行等は,条文上「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者」に限定されており,永住者には適用されない。

2 令和6年改正法による新設事由

出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第60号。令和6年6月21日公布)は,永住者の在留資格の取消事由として,前記1の各号とは別に,入管法22条の4第1項に新8号(「この法律に規定する義務を遵守せず,又は故意に公租公課の支払をしないこと」)及び新9号(刑法の窃盗,詐欺,恐喝,殺人等の一定の犯罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の危険運転致死傷等,法定の一定の犯罪により拘禁刑に処せられたこと)を追加する。この改正部分の施行日は令和9年4月1日である。

同改正法の成立に当たり,衆議院法務委員会(令和6年5月17日,第213回国会法務委員会第20号)及び参議院法務委員会(令和6年6月13日)は,ほぼ同一の文言による附帯決議を行っており,「永住者に対する永住許可の取消及び職権による在留資格の変更を行おうとする場合には,既に我が国に定住している永住者の利益を不当に侵害することのないよう,定着性及び法令違反の悪質性等の個別事情を厳正に判断するとともに,具体的な事例についてのガイドラインを作成し周知するなど,特に慎重な運用に努めること」を求めている。

出入国在留管理庁「永住許可制度の適正化Q&A」によれば,新8号の「義務を遵守せず」は,うっかり在留カードを携帯しなかった場合や更新申請を失念した場合を取消しの対象とするものではなく,「故意に公租公課の支払をしないこと」も,支払義務を認識しながらあえて支払わない悪質な場合に限られ,病気や失業等でやむを得ず支払えない場合は対象としない。

新9号の犯罪も故意犯に限られ,過失運転致死傷罪や道路交通法違反,罰金刑は対象とならない。

同庁は,令和6年改正法の衆議院修正により追加された附則25条(新8号のうち公租公課不払いの適用に当たり,従前の支払状況及び現在の生活状況その他当該外国人の置かれている状況に十分配慮するものとする旨の規定)を踏まえ,慎重に運用する方針を示している。

3 取消しに代わる職権による在留資格の変更

令和6年改正法により新設される入管法22条の6は,新8号又は新9号の事実が判明したことにより取消しをしようとする場合について,「当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き」,法務大臣が職権で永住者以外の在留資格への変更を許可するものとする,と定めている。

出入国在留管理庁は,多くの場合「定住者」への変更を想定しており,職権変更後に永住許可の要件を再び満たせば,改めて永住許可を受けることも可能であるとしている。

他方,前記1で述べた現行の住居地届出義務違反(改正後は10号から12号にスライドする。)については,この22条の6による救済の対象とされていない。

あわせて新設される入管法62条の2は,国又は地方公共団体の職員が職務の遂行に当たって取消事由に該当すると思料する外国人を知ったときに出入国在留管理庁へ通報することができる旨を定めるが,この通報は義務ではなく任意のものである。

第7 令和8年8月公表の改定案――何が変わろうとしているか

出入国在留管理庁は,令和8年1月23日の外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議が決定した「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を踏まえ,令和8年8月4日,「永住許可に関するガイドライン改定案」を公表した。

以下の内容はいずれも改定案の段階にとどまり,本記事の作成時点で確定した制度ではない。

1 独立生計要件の見直し案

改定案は,独立生計要件の考慮要素として,申請者の属する世帯の世帯年収の額が,世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に継続して達しているかを新たに掲げる。

世帯年収は,住居及び家計を共にする者の年収を合算した額とし,家族滞在等の就労を目的としない在留資格で在留する同居者が資格外活動許可により得た収入は合算しない。

扶養する親族は国外に居住する者を含めて世帯人数に加算し,世帯人数が5人以上の場合は生活費等の増加額分を年収水準に加算する。

年金についても,申請時点までの加入状況等から推計される将来の受給見込額が,日本人世帯の平均収入水準で30年間厚生年金に加入した場合の受給見込額(受給年金水準)に達しているかを考慮要素とし,これに達しない場合であっても,年齢に応じた基準額の金融資産(補填資産)を有すると認められるときは,受給見込額が受給年金水準に達しているものとして扱う。

2 国益要件に追加される新要素

改定案は,国益要件の考慮要素を現行の5項目から11項目に細分化する。主な追加要素は次のとおりである。

①法に規定する義務の遵守及び公租公課の支払。現行ガイドラインの記載を明文化するもので,前記第3の4②に相当する要素を独立させた項目である。

②日本語能力。「日本語教育の参照枠」(令和3年10月12日文化審議会国語分科会報告)が定める熟達度のうちB1相当レベル以上の日本語能力を有していることを考慮要素とするが,高度人材外国人及びその家族,日本での初等・中等教育を通算6年以上受けた者,永住者の実子(養育する親がB1相当以上の日本語能力を有し,かつ子が本邦で出生した場合に限る。)等は対象としない。

③我が国の制度・ルール等への理解。出入国在留管理庁長官が指定する方法により,「生活・就労ガイドブック」記載事項を中心とした理解を確認する。

④学齢期の子の就学。学齢期(義務教育の期間)にある子を養育する申請者又は申請者自身が学齢期にある場合,その子又は申請者本人が小学校又は中学校に通学していることを考慮要素とする。

⑤10年在留の実質化。申請時点から過去10年以内に,合理的な理由なく1回の出国で半年以上不在とした期間がある場合,又は通算して2年6か月以上不在とした場合は,原則として消極的に評価する。

3 居住年数特例の厳格化

改定案は,前記第4で述べた配偶者及び実子等に関する特例についても,実体を伴った婚姻生活の継続期間を3年以上から5年以上に,引き続きの在留期間を1年以上から3年以上に,それぞれ延長するとしている(実子等についても1年以上から3年以上に延長される。)。

他方,定住者,難民等,特区・地域再生計画貢献者,高度専門職,特別高度人材に関する各特例の年数要件自体は,改定案においても維持されている。

「我が国への貢献」に関するガイドラインは,改定案の内容に統合される形で廃止が予定されている。

4 意見募集の期間と施行予定

永住許可に関するガイドライン改定案(案件番号315000140)及び同時に公表された「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」(案件番号315000141)は,いずれも令和8年8月4日12時0分から令和8年9月4日0時0分までを意見募集期間とする意見公募手続に付されている。

改定案は「本ガイドラインの改定は令和9年4月1日以降の申請から適用します」とした上で,独立生計要件の収入に関する項目及び国益要件の公共の負担に関する項目については,改定日から6か月前の日以降の申請であって改定日に申請中である案件にも適用するとしている。

したがって,令和9年4月1日より前に申請する場合であっても,改定日の6か月前以降に申請し,かつ改定日の時点で審査が継続している案件は,一部の考慮要素について改定後の基準が適用され得る。

第8 永住許可の判断が争われた裁判例

1 東京高等裁判所平成19年7月17日判決

東京高等裁判所平成19年7月17日判決(平成19年(行コ)第25号,永住不許可処分取消請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)は,長野地方裁判所での敗訴(平成17年(行ウ)第17号)を経て控訴されたものであり,入管法22条2項の3要件を正面から扱った,裁判所ウェブサイトで確認できる数少ない永住不許可処分取消しの裁判例である。

控訴人は,日系人としての「定住者」の在留資格で約10年在留したペルー国籍の女性であり,法務大臣は,控訴人が永住許可申請の際に血縁上の兄でない人物を「兄」として親族関係の資料を提出した疑いがあること,及び控訴人夫婦が正社員として勤務しながら厚生年金等の社会保険に加入せず国民健康保険のみに加入していたことを理由として不許可とした。

同判決は,控訴人が当該人物を真実の兄と信じて資料を作成・提出したものであり虚偽と知りながら提出したとは認め難いこと,社会保険への加入義務は雇用主側にあり従業員側の不加入のみを理由に過大な不利益評価をするのは相当でないことを指摘し,控訴人の兄姉ら(先に永住許可を得た者)も同様の事情にあったのに永住許可を得ている点を平等原則の観点から問題視した上で,法務大臣の判断は「その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したもの」として不許可処分を取り消した。

同判決は,永住許可の許否判断が法務大臣の広範な裁量に服することを前提としつつ,その裁量にも限界があることを示した事例判断であり,平成17年当時の処分及び平成18年3月版のガイドラインを前提とするものである点に留意する必要がある。

2 マクリーン事件の位置付け

最高裁判所大法廷昭和53年10月4日判決(昭和50年(行ツ)第120号,民集32巻7号1223頁,裁判所ウェブサイト)は,アメリカ合衆国籍の英語教師が在留期間の更新を申請したところ,無届転職やベトナム反戦運動等の政治活動を消極的な事情として考慮されて不許可とされた事案について,出入国管理令(当時)下での在留期間更新の許否が法務大臣の広範な裁量に委ねられていることを示した判例である。

同判決は「永住者」の在留資格や入管法22条の永住許可そのものを判断したものではないが,外国人の在留に関する法務大臣の裁量の広範性という一般法理を確立した基本判例として,永住許可の裁量統制が問題となる場面でも引用される。

前記第8の1の東京高等裁判所判決も,この法理を前提とした裁量統制の枠組みに立って判断している。

第9 審査要領が示す実務上の留意点

出入国在留管理庁の審査要領は,永住許可の審査実務に関して次の点を留意事項として挙げている。

①在留資格の変更による永住許可申請については,他の在留資格変更許可申請と異なり在留期間の特例が適用されず,現に有する在留期間が経過すると住民基本台帳から抹消されるため,出入国在留管理庁は在留期間が経過する前に許否の処分を行うよう進行管理を行うとしている。

②「家族滞在」の在留資格をもって在留する子の扶養者についてのみ永住を許可する場合,当該子は在留資格該当性を失うため,「定住者」等への在留資格変更許可を受ける必要が生じ得るが,子が成人に達している場合等,該当する在留資格が存在しないことがあるため,扶養者についてのみ永住を許可する際には子の在留資格の変更の可否も併せて検討するとされている。

③永住者の在留資格から他の在留資格への変更申請は,永住者の在留資格が活動及び在留期限の制限のない地位であることを説明した上で,変更を希望する合理的な理由があり,かつ変更先の在留資格の許可要件に適合する限り,許可して差し支えないものとされている。

④出生等の事由により永住者の子として永住許可の要件を満たす者(入管法22条2項ただし書に該当する者)が在留資格を取得する場合(同法22条の2),その処分は出生等の事由が生じた日から60日以内に行わなければならない。

出典・参考資料

1 法令

出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)22条,22条の2,22条の4,22条の5,22条の6,24条,61条の2の11,62条の2(e-Gov法令検索,令和8年6月14日施行版及び施行日選択機能による令和9年4月1日施行版)
②出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第60号,令和6年6月21日公布)

2 裁判例

東京高等裁判所平成19年7月17日判決(平成19年(行コ)第25号,永住不許可処分取消請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所大法廷昭和53年10月4日判決(昭和50年(行ツ)第120号,民集32巻7号1223頁,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

永住許可に関するガイドライン(令和8年2月24日改訂)(出入国在留管理庁)
我が国への貢献があると認められる者への永住許可のガイドライン(平成29年4月26日改定)(出入国在留管理庁)
永住許可制度の適正化Q&A(出入国在留管理庁)
「永住者」の適正化に係るパブリック・コメントの実施について(出入国在留管理庁)
永住許可に関するガイドライン改定案に係る意見募集について(案件番号315000140,令和8年8月4日公示,e-Govパブリック・コメント)
永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案に係る意見募集について(案件番号315000141,令和8年8月4日公示,e-Govパブリック・コメント)
⑦出入国在留管理庁「出入国在留管理政策懇談会資料① 第7回会合(永住許可制度の適正化について)」(令和7年9月29日)
出入国在留管理庁作成の「入国・在留審査要領」(令和8年4月の開示文書)第12編第27節(山中弁護士ブログ)
第213回国会衆議院法務委員会第20号(令和6年5月17日,国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑩参議院法務委員会「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(令和6年6月13日,参議院ウェブサイト,PDF)