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相続した不動産を売却したときの譲渡所得-取得費・特例・遺産分割(AI作成)

第1 相続後の売却で確認すること

相続した土地や建物を売却するときは,相続税とは別に,売却による譲渡所得の計算が問題となる。
通常の相続では,被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐため,相続時の評価額より安く売れても譲渡益が生じることがあり,相続直後の売却でも長期譲渡所得となることがある(所得税法9条1項17号・33条・60条)。

本記事は,令和8年9月4日現在の法令を基準として,個人が相続した国内の土地・建物を令和8年中に売却する場合を説明する。
通常の相続を中心に,取得費の確認,相続税の取得費加算,空き家の特別控除及び遺産分割との関係を扱い,限定承認については通常の相続と異なる点を示す。
不動産業者の商品としての不動産や法人の取引は対象としない。

第2 譲渡所得と税率の基本

1 売却代金から控除するもの

土地・建物の譲渡所得は,給与所得などと分けて課税される。
基本となる計算は,売却収入から取得費と譲渡費用を差し引き,適用できる特別控除があれば更に控除するというものである(租税特別措置法31条・32条)。

課税譲渡所得金額=譲渡収入金額-取得費-譲渡費用-適用できる特別控除額

土地・建物の分離課税では,総合課税の譲渡所得における50万円の特別控除や,長期譲渡所得の2分の1を所得に算入する計算をそのまま用いることはできない。
また,譲渡損失が生じても,居住用財産の一定の特例等を除き,給与所得など他の所得との損益通算はできない(同法31条・32条)。

2 被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐ

通常の相続では,被相続人が土地・建物を購入した際の取得費を引き継ぐ。
相続税の評価額や相続時の時価に置き換える制度ではなく,建物については被相続人の所有期間を含めた減価償却の調整も行う(所得税法38条・60条国税庁「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。

長期・短期の区分でも,被相続人の取得時期を引き継ぎ,売却した年の1月1日における所有期間で判断する。
したがって,相続してから5年待つことが一律に必要となるわけではない。

3 令和8年分の基本税率

売却年の1月1日における所有期間区分所得税復興特別所得税住民税合計
5年を超える長期譲渡所得15%所得税額の2.1%5%20.315%
5年以下短期譲渡所得30%所得税額の2.1%9%39.63%

表は軽減税率等を適用しない場合の基本税率である。
復興特別所得税は譲渡所得そのものの2.1%ではなく,所得税額に対して計算する(国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」同「短期譲渡所得の税額の計算」復興財源確保法13条)。

第3 取得費と譲渡費用を確認する

1 取得費が分からない場合の5%の取扱い

取得費が分からない場合には,譲渡収入金額の5%を概算取得費とする取扱いがある。
実際の取得費が5%を下回る場合も5%を用いることができるが,契約書が見つからないというだけで,購入代金を裏付ける他の資料の有無まで確認できたことにはならない(国税庁「取得費が分からないとき」)。

法令上の概算取得費の規定は昭和27年12月31日以前取得の土地・建物等を対象とし,昭和28年1月1日以後の取得についても同様に取り扱うことを国税庁の通達が示している。
本記事では,売買契約書のほか,決済資料,借入関係資料,売主側の保存資料等を確認した上で,実額と概算取得費を比較することを提案する(租税特別措置法31条の4同法関係通達31の4-1)。

取得費の推計については,国税不服審判所平成12年11月16日裁決が当該事案の市街地価格指数等による推計の合理性を認めた一方,同平成29年12月13日裁決は,売主作成の土地台帳から相続土地の実際の購入代金を認定した。
前者は相続事案ではなく,いずれも個別の証拠関係に基づく裁決であるから,価格指数による推計が常に認められるという意味ではない。

2 建物の減価と相続登記費用

建物の取得費は,購入代金等から減価償却費又は減価償却費相当額を控除して計算する。
自宅などの非業務用建物でも調整が必要であり,古い建物の購入代金を全額そのまま控除することはできない(所得税法38条2項所得税法施行令85条)。

国税庁は,業務用以外の土地・建物について,相続時の登記費用等を実額の取得費に含める取扱いを示している。
ただし,5%の概算取得費を用いる場合には,相続登記費用等を更に加えることはできない(国税庁「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。

3 売却費用と遺産分割の弁護士費用

売却に直接要した仲介手数料,売主が負担した売買契約書の印紙代,売却のための建物取壊し費用等は,譲渡費用となり得る。
これに対し,通常の修繕費や固定資産税など,維持・管理のための費用は譲渡費用とは区別される(国税庁「譲渡費用となるもの」)。

東京高裁平成23年4月14日判決は,遺産分割手続に要した弁護士報酬について,その事案における不動産の取得費にも譲渡費用にも該当しないと判断した。
遺産分割を資産の取得行為ではないと捉えたことが理由であり,弁護士への委任が通常必要かどうかだけで付随費用を判断する基準は,相当でないとしている(判決写し7頁~9頁)。

これに対し,馬渕泰至は,遺産分割を相続による資産取得から切り離す高裁の論理に疑問を示している。
これは個人の判例批評であり,高裁の結論と同じものではない(馬渕泰至「譲渡所得課税における遺産分割にかかる弁護士費用の取得費該当性について」,青山ビジネスロー・レビュー3巻2号,平成26年3月,116頁~119頁)。

また,国税庁の所得税基本通達38-2は,取得に関して争いのある資産の所有権等を確保するため,直接要した訴訟費用等を取得費に含める取扱いを示している。
弁護士費用という名称だけで判断せず,依頼した業務が遺産分割,権利の取得又は売却のいずれに対応するのかを区別することになる(所得税基本通達38-2)。

第4 相続税の取得費加算

1 対象者と売却期限

相続又は遺贈により取得した財産を売却した場合,その取得者に相続税が課されているなどの要件を満たせば,相続税の一定額を取得費に加算できる。
対象となる期間は,相続開始の日の翌日から,相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までである(租税特別措置法39条1項国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)。

一般に「相続から3年10か月以内」と説明されるが,実際の期限はその相続の申告期限を基に確認する。
他の相続人に相続税が課されていても,売却する本人に相続税が課されていなければ,そのことだけで本人の取得費加算が認められるわけではない。

2 加算額の計算と上限

基本となる計算は,次のとおりである(租税特別措置法39条同法施行令25条の16)。

加算額=売却した本人の調整後の相続税額×売却財産の相続税評価額÷本人の債務控除前の相続税課税価格

分母は,相続人全員の遺産総額ではなく,売却した本人について計算する債務控除前の課税価格であり,法令上算入する贈与財産等も関係する。
また,ここで用いる相続税額には法定の調整があるため,実際に納付した額を無条件にそのまま代入するのではなく,所定の計算明細書によって算定する。

加算額は譲渡財産ごとに計算し,その財産について取得費加算と特別控除を適用する前の譲渡益が上限となる。
この特例は相続登記費用等とは別の制度であり,5%の概算取得費を用いた場合にも,取得費加算の要件を満たすかを別途検討する(国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)。

3 申告における適用手続

適用を受けるには,申告書への適用の記載や所定の計算明細書等の添付が必要である。
所得税の申告期限後に相続税の期限内申告をした一定の場合には,その相続税申告書を提出した日の翌日から2か月以内の更正の請求という特則があるが,申告後いつでも自由に適用を選び直せるという制度ではない(租税特別措置法39条2項~5項)。

第5 相続した空き家の特別控除

1 対象となる家屋と相続人

被相続人の居住用家屋とその敷地等を相続又は遺贈により取得し,一定の要件で売却した場合には,譲渡所得から原則として最高3,000万円を控除できる。
令和6年1月1日以後の譲渡では,対象家屋と敷地等を取得した相続人の数が3人以上の場合,各人の控除限度額は2,000万円となる(租税特別措置法35条3項・4項国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)。

対象家屋の主な条件は,①昭和56年5月31日以前に建築されたこと,②区分所有建物でないこと,③原則として相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったことである。
特例を受ける本人が対象家屋と敷地等の双方を相続等で取得していることも必要であり,親が住んでいた家を売るという事情だけでは足りない。

被相続人が老人ホーム等に入所していた場合でも,入所前の居住状況,要介護認定等,施設の種類及び入所後の家屋の使用状況などの要件を満たせば対象となる。
入所していたという事情だけで適用の可否を決めることはできない(国税庁「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」)。

2 売却期限と耐震改修・取壊し

売却は,相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに行う必要があり,現行制度の適用期限である令和9年12月31日も超えることはできない。
相続税の取得費加算の期限とは計算方法が異なる(租税特別措置法35条3項)。

売却方法には,耐震基準を満たす家屋と敷地等を売る方法,家屋を取り壊して敷地等を売る方法のほか,令和6年以後の譲渡について,売却後の翌年2月15日までに耐震改修又は家屋の全部の取壊し等を行う方法がある。
家屋・敷地等の相続後の事業利用,貸付け又は居住の有無,取壊し後の敷地の利用状況にも条件があるため,改修・解体の時期だけで判断することはできない(国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」適用要件)。

3 1億円の判定と他の特例との関係

売却代金は1億円以下であることが必要であり,共有持分を売る場合や他の相続人が別に売却する場合には,所定の範囲でその代金を合算して判定する。
合算の対象には,相続開始から本人の対象売却日の3年後の年末までに行われる,一体であった家屋・敷地等の売却が含まれる。
自分の受取額だけで判定せず,関連する売却についての相互通知や,後日の売却によって1億円を超えた場合の4か月以内の修正申告・納付も確認することになる(租税特別措置法35条6項~9項)。

同じ譲渡資産について,空き家の特別控除と相続税の取得費加算を併用することはできない。
また,親子など特別の関係がある者への売却や,同じ被相続人から取得した対象家屋等についての過去の適用歴にも制限がある(国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」適用要件)。

相続人自身がその家屋に居住していた場合は,本人の居住用財産についての3,000万円特別控除を別途検討する。
こちらは空き家の特別控除とは要件が異なり,それぞれの要件を満たせば取得費加算との併用の余地もあるが,特例のためだけに一時的に入居した場合などは対象とならない(租税特別措置法35条1項・3項及び39条国税庁「マイホームを売ったときの特例」)。

第6 特例を比較する計算例

相続人の一人が売却する財産について,譲渡収入5,000万円,減価償却調整後の取得費1,000万円,譲渡費用200万円と仮定する。
取得費加算の計算に用いる本人の調整後の相続税額が600万円,売却財産の相続税評価額が3,000万円,本人の債務控除前の課税価格が6,000万円であれば,加算額は600万円×3,000万円÷6,000万円=300万円となる。

選択する計算課税譲渡所得金額
特例を適用しない5,000万円-1,000万円-200万円=3,800万円
取得費加算を適用する3,800万円-300万円=3,500万円
空き家の3,000万円控除を適用する3,800万円-3,000万円=800万円

これは本記事の仮定例であり,各特例の他の要件を満たし,空き家控除の上限が3,000万円である場合を比較したものである。
同じ資産に両特例を重ねて差し引く計算はしておらず,実際には取得費加算額,各相続人の控除限度額及び適用期限をそろえて比較する。

第7 遺産分割の方法による違い

1 換価分割では誰の所得となるか

遺産を売却して代金を分ける換価分割では,売却前に分割割合が決まっていれば,国税庁はその割合に応じた譲渡所得の申告をする取扱いを示している。
分割割合が未確定のまま売却した場合は原則として法定相続分によるが,所得税の申告期限までに代金を合意した割合で分割し,相続人全員がその割合で申告したときは,その計算を認めるとしている(国税庁「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求,修正申告等」)。

他方,申告期限後に別の割合で代金を分けたことは,更正の請求の事由にはならないとされている。
分割手続の選択については遺産相続における共有状態の解消も参照されたい。

2 代償分割の代償金は取得費となるか

一人の相続人が不動産を取得し,他の相続人に金銭を支払う代償分割について,国税庁の所得税基本通達38-7は,支払った代償金をその不動産の取得費に加算しないとしている。
そのため,後の売却代金から代償金を差し引いた手残り額と,税務上の譲渡所得とは一致しないことがある(所得税基本通達38-7)。

また,代償債務を金銭で支払う代わりに,相続人が従前から所有していた不動産を移転して履行する場合には,その履行時の時価による譲渡として取り扱われる。
代償金の支払条件などの民事上の検討は,遺産分割における代償分割を参照されたい(所得税基本通達33-1の5)。

3 限定承認は通常の相続と区別する

限定承認では,被相続人側で,相続時の時価によるみなし譲渡課税が問題となり,相続人側の取得費もその時価を基礎とする。
さらに,このみなし譲渡規定の適用を受けた資産は相続税の取得費加算の対象から除かれるため,通常の相続の計算をそのまま当てはめることはできない(所得税法59条1項1号・60条4項租税特別措置法39条7項)。

第8 売却時期と申告書類

1 契約日と引渡日を分けて確認する

国税庁の所得税基本通達36-12は,譲渡所得の収入時期を原則として引渡日とし,契約の効力発生日によって申告する取扱いも認めている。
被相続人が売買契約を締結した後,引渡し前に死亡した事案についても,相続人が引渡日基準で申告する場合に取得費加算を認める質疑応答事例がある(所得税基本通達36-12国税庁「相続開始時点で売買契約中であった不動産の譲渡についての相続税額の取得費加算の特例の適用」)。

令和8年分の所得税の通常の確定申告期限は,令和9年3月15日である。
これとは別に,被相続人の所得について申告を要する場合の準確定申告は,原則として相続開始を知った日の翌日から4か月以内となる(所得税法120条・124条・125条)。

2 特例の資料を売却前からそろえる

空き家の特別控除では,譲渡所得の内訳書のほか,家屋の建築時期や取得関係を示す資料,市区町村長の被相続人居住用家屋等確認書,売買代金を示す書類,売却方法に応じた耐震又は取壊しの証明等が必要となる。
市区町村の確認書だけで全ての税務上の要件が証明されるわけではなく,控除によって税額が生じない場合でも,特例を受けるための申告手続を省くことはできない(国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」提出書類)。

本記事では,売却前の確認順序として,①被相続人の取得資料と建物の減価,②誰が売却し誰が代金を取得するか,③各特例の要件と期限,④工事・確認書・申告書類の日程,の順に整理することを提案する。
遺産分割の協議では,売却代金の配分と各相続人の譲渡所得税負担を分けて試算し,共同相続人による別の売却が空き家特例に及ぼす影響も確認することになる。

第9 出典・参考資料

1 法令

所得税法9条,33条,38条,59条,60条,120条,124条及び125条。
所得税法施行令85条。
租税特別措置法31条,31条の4,32条,35条及び39条。
租税特別措置法施行令25条の16。
東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条。

2 裁判例・裁決

東京高裁平成23年4月14日判決(平成22年(行コ)第190号,税務訴訟資料261号78・順号11668)。
裁判所HP未掲載であり,本記事では国税庁が公表する判決写しを参照した。
同写しでは事件番号が非表示のため,事件番号は下記馬渕論文109頁による。

国税不服審判所平成12年11月16日裁決(裁決事例集60集208頁)。
国税不服審判所平成29年12月13日裁決(裁決事例集109集)。

3 国税庁の通達・解説・質疑応答

①所得税基本通達33-1の536-1238-2及び38-7
②租税特別措置法関係通達31の4-1
③タックスアンサーNo.3208No.3211No.3255No.3258No.3267No.3270No.3302No.3306及びNo.3307
④質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求,修正申告等」及び「相続開始時点で売買契約中であった不動産の譲渡についての相続税額の取得費加算の特例の適用」

4 文献

馬渕泰至「譲渡所得課税における遺産分割にかかる弁護士費用の取得費該当性について」,『青山ビジネスロー・レビュー』3巻2号(平成26年3月)109頁~119頁。