成年後見人がマイナンバーカードを管理する際は,カード本体と2種類の電子証明書を区別し,本人が使う機能と受診時に提示する書類を確認することが出発点となる。
電子証明書を更新する手続と,資格確認書によって受診を続ける方法を把握した上で,本人の意向や生活状況に応じて管理方法を選ぶ。
本記事は,令和8年9月4日現在の公表資料に基づき,国内に居住する成年被後見人のマイナンバーカードを扱う。
成年後見人が法定代理人として行う手続を対象とし,保佐・補助・任意後見の個別の代理権に基づく手続は別に検討する。
第1 カードと2種類の電子証明書を区別する
1 用途と暗証番号の違い
マイナンバーカードには,署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書を搭載できる。
大阪市の電子証明書の案内と東淀川区の暗証番号の案内による用途の違いは,次のとおりである。
| 対象 | 主な用途 | 暗証番号・確認事項 |
|---|---|---|
| カード本体 | 券面による本人確認 | カード自体の有効期限を確認する |
| 利用者証明用電子証明書 | マイナポータルへのログイン,コンビニ交付,マイナ保険証 | 数字4桁。顔認証マイナンバーカードでは設定しない |
| 署名用電子証明書 | 電子申請等で電子文書に署名する | 大文字の英字と数字を組み合わせた6~16文字 |
数字4桁の暗証番号には,利用者証明用のほか,住民基本台帳用及び券面事項入力補助用もある。
同じ4桁であることだけでは用途を特定できないため,窓口に相談する際は,どの暗証番号が分からないのかを伝える。
2 期限はカード本体と別に確認する
J-LISの更新案内によれば,電子証明書の有効期限は原則として発行後5回目の誕生日であり,満了まで3か月未満となった日から満了日までに更新した場合は,発行後6回目の誕生日までとなる。
ただし,J-LISのFAQが示すカード自体の有効期限等による上限もあるため,一律に「発行日から5年間」と計算せず,実際の期限を確認する。
デジタル庁の案内では,カード本体の期限は券面に印字され,電子証明書の期限は券面に記入する扱いとされている。
電子証明書の記入がない場合は,カード本体の印字された期限で代用せず,市区町村窓口で確認する方法を検討する。
第2 後見開始・住所変更で何が変わるか
1 署名用の発行と既存証明書の失効は別問題である
大阪市は,成年被後見人には署名用電子証明書を原則として発行しないと案内している。
一方,公的個人認証法15条・34条の失効事由には,後見開始そのものは独立した事由として列挙されていない。
したがって,発行に関する取扱いから,既存の証明書が後見開始だけで当然に失効すると結論付けることはできない。
署名用の発行について,横浜市は,原則不発行としつつ,本人と法定代理人が一緒に窓口で申請した場合に限り発行すると説明している。
これに対し,川崎市の案内は,成年被後見人には発行できないという表現を用いている。
案内の記載に差があるため,横浜市の説明を全国共通の受付条件とせず,申請先へ本人の来庁可否と必要な利用目的を伝えて確認する。
2 通常の住所変更と転入手続の未了を分ける
J-LISのFAQは,氏名・住所等の変更により署名用電子証明書は失効するが,利用者証明用電子証明書はその変更だけでは失効しないと説明している。
法的には,署名用について,公的個人認証法12条・15条により,所定の変更を受けた機構の失効情報の記録が失効に結び付く。
利用者証明用も,転出届を出した後,転入届を行わずに転出予定日から30日を経過した場合などは別の失効事由となる(同法31条・34条)。
施設入所に伴って住所を移す際は,通常の住所変更による影響と,転入・カード継続利用の手続が済んでいるかを分けて確認する。
第3 成年後見人による更新と暗証番号の再設定
1 受付開始日と通知書の有無を確認する
J-LISは,有効期間の満了日まで3か月未満となった日から更新できると案内している。
大阪市の詳細な案内では,例えば有効期限が6月15日の場合,3月16日から更新可能である。
月末等には別の計算例も示されているため,単純に90日前と考えず,受付開始日を確認する。
有効期限通知書が手元になくても,更新手続は可能である。
また,電子証明書の期限を過ぎても,新しい電子証明書の発行を受けることができるため,有効なカード本体を持って行う手続を窓口に確認する。
カード本体も期限切れの場合は,電子証明書だけの更新と同じ手続ではない(J-LIS,大阪市)。
2 法定代理人の手続として持ち物を確認する
横浜市は,成年被後見人の利用者証明用電子証明書の新規発行・更新には,法定代理人による申請が必要であるとしている。
東大阪市が成年後見人による更新の持ち物として示すのは,①本人のマイナンバーカード,②法定代理人の所定の顔写真付き本人確認書類,③発行から3か月以内の登記事項証明書等の代理権確認書類である。
これらは各市の案内であり,任意代理人用の照会書兼回答書だけを用意すれば足りると考えず,申請先の法定代理人向け条件を確認する。
暗証番号が不明な場合は,再設定も必要になることを予約・照会時に伝える。
大阪市東淀川区の再設定案内では,成年被後見人本人の来庁は必須ではない一方,本人のカード以外の本人確認書類や,法定代理人の追加の本人確認書類も必要とされている。
これは暗証番号の再設定の条件であり,署名用電子証明書の新規発行における本人同行の条件とは区別する。
第4 電子証明書が期限切れになったときの受診
1 期限満了後の取扱いには期間と機能の制限がある
デジタル庁のFAQ(Q5・Q9)によれば,電子証明書の有効期限満了日が属する月の末日から3か月間は,引き続きマイナ保険証として利用できる。
この間に医療機関が確認できるのは保険資格情報であり,診療情報・薬剤情報は確認できない。
例えば令和8年9月に電子証明書が満了する場合,当該取扱いの終期は同年12月31日となる。
これは電子証明書自体の有効期間が延長されるという意味ではない。
カード本体の期限切れや,他の原因による失効にも同じ猶予があると考えず,本人のカードと保険資格の状態を確認する。
2 資格確認書の交付対象と到達を確認する
厚生労働省の資格確認書の案内では,当分の間,電子証明書の有効期限が切れた人等には,申請によらず資格確認書を交付するとされている。
また,マイナ保険証での受診に介助等の配慮が必要な高齢者・障害のある人等は,申請による交付の対象であり,法定代理人や介助者等による代理申請も可能である。
交付対象であることと,受診日に有効な書類が手元にあることは別であるため,保険者に送付先・交付状況・有効期限を確認する。
大阪府後期高齢者医療広域連合は,令和9年7月31日までは,マイナ保険証の保有の有無にかかわらず資格確認書を交付すると案内している。
これは大阪府の後期高齢者医療の取扱いであり,他の医療保険へそのまま広げることはできない。
3 顔認証マイナンバーカードも選択肢となる
大阪市の案内によれば,顔認証マイナンバーカードは,暗証番号を設定せず,健康保険証利用時の本人確認を顔認証又は目視確認によって行うカードである。
券面による本人確認と,利用登録を済ませた上での健康保険証利用はできるが,マイナポータルへのログイン,コンビニ交付等の暗証番号を要するサービスは利用できない。
暗証番号の管理が難しい場合の選択肢であるが,電子証明書やカードの期限管理まで不要になるものではない。
第5 後見人と施設で管理方法を決める
1 本人の意向・利用目的・受診手段を記録する
民法858条は,後見事務における本人の意思の尊重と,心身の状態及び生活状況への配慮を定めている。
また,同法869条が準用する644条により,後見人は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う。
本記事では,管理方針を決める際に,①本人の意向,②実際に使うサービス,③カード・電子証明書・資格確認書の各期限,④受診時に提示する書類,⑤保管担当者と次回の確認日を記録することを提案する。
資格確認書を使う場合も,マイナポータル等の利用が必要かを別に検討し,更新を行うかどうかの理由を残す。
これらの条文から全件一律の電子証明書更新義務を直ちに導くことも,資格確認書さえあれば不更新について常に責任を免れるとすることも適切ではない。
2 カードの預かりと暗証番号の共有を分ける
厚生労働省保険局の「要配慮者の資格確認書の申請等に関する説明動画」の資料8頁(PDF実頁9頁)は,入所契約や預かり証等の合意に基づき,施設がマイナンバーカードを管理できると説明している。
資格確認書についても,従来の保険証と同様に施設等で管理できるとされている。
同資料は,暗証番号を法定代理人以外に知らせることは原則として適当でないとした上で,施設がカードを預かる際に暗証番号まで管理することは求めていないと説明する。
暗証番号を施設が管理していなくても,受診時には目視確認による受付が可能であり,利用登録を解除せず資格確認書の交付を受ける方法も示されている。
この説明を踏まえ,本記事では,施設との間で預かる物,保管場所,受診時の持出し・返却方法,紛失時の連絡先及び更新担当者を具体的に決めることを提案する。
カードを預ける合意と暗証番号を共有する必要性を別々に検討し,施設の預かりだけで管理上の検討を終えないことが実務上の要点である。
第6 出典
1 法令
①電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律12条・15条・31条・34条
②民法644条・858条・869条
2 国・発行主体・保険者の説明資料
①デジタル庁「マイナンバーカードおよび電子証明書の有効期限・更新」Q1・Q4・Q5・Q9・Q15
②J-LIS「更新手続きについて」
③J-LIS「電子証明書に関するご質問」
④厚生労働省「資格確認書について(マイナ保険証を使わない場合の受診方法)」
⑤厚生労働省保険局「要配慮者の資格確認書の申請等に関する説明動画」の資料8頁(PDF実頁9頁)
⑥大阪府後期高齢者医療広域連合「資格確認書等」
3 自治体の手続案内
①大阪市「公的個人認証サービスに係る『電子証明書』の交付」
②横浜市「15歳未満や成年被後見人の電子証明書の新規発行・更新はどのように手続きをすればいいですか」
③東大阪市「有効期限の到来による電子証明書の更新手続き」
④大阪市東淀川区「マイナンバーカードの暗証番号について」
⑤大阪市「顔認証マイナンバーカードについて」
⑥川崎市「公的個人認証サービス(電子証明書)の御案内」
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医療行為への同意については,「成年後見人の医療行為の同意(AI作成)」を参照されたい。