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休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)

第1 試し出勤で最初に区別すべきこと

1 この記事の対象と結論

本記事は,私傷病で休職中の社員が正式な復職決定の前に行う模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤について,令和8年9月1日現在の法令及び公表資料に基づき,給与,最低賃金,労災・通勤災害並びに傷病手当金の取扱いを整理するものである。
短時間勤務等による正式な復職後は通常の就労であり,休職中の試し出勤とは区別する。

「試し出勤」という名称だけで無給か有給か,労災保険が適用されるか,又は傷病手当金が支給されるかが決まるわけではない。
使用者の指示の有無,行った作業の内容,会社の事業への有用性,時間及び場所の拘束,賃金又は報酬の有無,主治医等の意見並びに制度の目的を具体的に確認する必要がある。

2 模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は,正式な職場復帰決定前の取組を,①図書館やデイケア等で軽作業を行う模擬出勤,②自宅から職場付近まで移動して帰宅する通勤訓練,③本来の職場等へ試験的に継続して出勤する試し出勤に分けている。
この区別は,会社施設へ入ったかどうかだけでなく,実際の業務を行ったかを検討する出発点となる。

職場に滞在しても,私物の読書や体調記録だけで,使用者が業務上の指示をせず,成果を会社が利用しない場合は,労務提供に当たらないことがある。
反対に,資料作成,電話対応,データ入力,顧客対応又は同僚の業務補助等を命じ,通常業務の一部として成果を受け取る場合は,「訓練」と呼んでいても労務提供と評価される可能性が高くなる。

第2 制度の法的位置付けと実施手順

1 令和8年4月からの法定指針

労働施策総合推進法27条の3第1項は,治療を受ける労働者について,事業主が相談対応の体制整備その他の必要な措置を講ずる努力義務を定めている。
同条2項に基づく「治療と就業の両立支援指針」は令和8年4月1日から適用され,試し出勤制度を,長期間休業した労働者の円滑な職場復帰を支援するため,勤務時間又は勤務日数を短縮して試し出勤等を行う自主的な勤務制度と位置付けている。

同指針は,支援を労働者本人の申出から始めることを基本とし,事業主が措置を一方的に判断しないこと,主治医及び産業医等の意見を踏まえること,本人の同意を得た上で必要な健康情報を共有することを求めている。
試し出勤も,会社が一方的に命じる適性試験ではなく,治療と就業の両立を支える個別の計画として実施するのが適切である。

2 開始前に書面で決める事項

本記事では,試し出勤の制度根拠を就業規則等で定め,個々の社員については開始前に実施計画を作成する形を基本とする。
私傷病休職の開始時の取扱いは,私傷病休職の開始時に使用者が確認すべき事項で整理している。

実施計画では,①目的,②開始日及び終了予定日,③出勤日,滞在時間及び場所,④行う活動と禁止する業務,⑤指揮命令者,⑥給与,交通費及び社会保険上の取扱い,⑦事故時の連絡及び受診手順,⑧主治医又は産業医等の意見,⑨健康情報を扱う者の範囲,⑩中止基準,⑪評価日,⑫正式な復職判断とは別手続であることを明確にする。
実施中に予定外の業務を依頼した場合は,その時点から労働時間,賃金,災害補償及び傷病手当金への影響を再検討する必要がある。

第3 給与と最低賃金

1 実際の労務提供がない場合

模擬出勤又は通勤訓練として,社員が任意に生活リズムや通勤可能性を確認するだけで,会社の指揮命令下における作業を行わない場合は,その時間について当然に賃金請求権が発生するとは限らない。
もっとも,就業規則,労働契約又は実施計画で手当,交通費その他の支給を約束したときは,その定めに従うことになる。

無給で行う場合は,会社の利益となる仕事をさせないことを実際の運用でも徹底しなければならない。
名称だけを「リハビリ」「見学」又は「試し」としながら,通常業務の一部を割り当てる運用は,無給とする根拠にはならない。

2 実際の労務提供がある場合

使用者が作業を具体的に指示し,又は会社がその成果を業務に利用するなど,社員が使用者の指揮命令下で労務を提供したと評価される時間には,賃金を支払う必要がある。
対象時間を記録し,労働基準法24条に従って賃金を支払うほか,労働時間,休憩及び安全衛生に関する規制も検討することになる。

厚生労働省の平成24年の手引きも,使用者が作業を指示し,又は作業内容が業務に当たる場合には,労働基準法等が適用される場合があり,賃金等について合理的な処遇を行うべきであるとしている。
実際に仕事をさせる予定があるなら,無給の休職を維持したまま曖昧に運用せず,担当業務,時間及び賃金を明示した有給の仕組みとするのが安全である。

3 最低賃金と従前の契約賃金は別の問題である

労務提供がある場合,最低賃金法4条により,適用される最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
通勤手当は最低賃金との比較に算入されないため,基本的な賃金部分で最低賃金額を満たすかを確認する。

最低賃金法7条の減額特例は,都道府県労働局長の許可を受けた場合に限られる。
同条の「試の使用期間中の者」は採用後の試用期間に関する区分であり,休職者の「試し出勤」という名称だけで減額特例が適用されるものではない。

最低賃金は賃金の下限であって,従前の契約賃金を最低賃金額まで当然に引き下げる規定ではない。
所定労働時間を短縮した結果として月額が減る場合と,時間単価又は賃金水準そのものを下げる場合を区別し,後者については労働者との合意又は合理的な就業規則変更等の根拠を確認する必要がある。

第4 労災と通勤災害

1 職場で事故が起きた場合

試し出勤中に実際の業務を行い,使用者の指揮命令下で負傷した場合は,業務災害として労災保険給付の対象となる可能性がある。
休職扱い又は無給という社内上の表示だけで,労災保険法上の判断が決まるものではない。

業務を行わない見学又は滞在中の事故は,活動の目的,会社の指示,場所及び時間の管理,施設との関係等を踏まえて個別に判断される。
制度開始前に,労働保険の加入・保険料・労災給付・雇用保険の手続及び労災保険の給付内容も参照し,事故報告,医療機関の受診及び請求手続の担当者を決めておくのが適切である。

2 通勤訓練中の事故

労災保険法7条は,通勤災害の前提となる通勤を,就業に関して住居と就業場所との間等を合理的な経路及び方法で移動することと定めている。
そのため,休職中に職場付近まで移動したという事実だけで通勤災害になるわけではなく,その移動が「就業に関して」行われたと評価できるかが問題となる。

会社が日時及び経路を指定したか,職場で労務を提供する予定があったか,単なる自主的な訓練かという事情によって結論が異なり得る。
労災保険の対象外となる場合も想定し,会社加入の傷害保険等の補償範囲を確認するとともに,通勤訓練中の事故について誰が医療費等を負担するかを実施計画で明らかにしておくことが考えられる。

第5 傷病手当金

1 出勤した事実だけで直ちに支給が止まるわけではない

健康保険法99条1項は,療養のため労務に服することができない期間を傷病手当金の対象としている。
労務不能かどうかは,出勤の有無だけでなく,従前の業務内容,実際に行った作業,作業時間,報酬額,症状及び医師の意見等を総合して保険者が判断する。

厚生労働省の平成15年通知及び最高裁昭和49年5月30日第一小法廷判決は,本来の業務に代わる比較的軽微な労務に就き,相当額の報酬を得ている場合は労務不能に当たらない一方,本来の業務の代替ではない一時的で軽微な労務に就いたことだけで直ちに労務不能を否定すべきではないという考え方を示している。
社会保険審査会令和3年7月30日裁決も,数日の出勤と短時間の軽微な事務作業があった事案で,医師の所見や本来業務との関係等を踏まえ,具体的事情の下で労務不能を認めているが,少しの出勤なら常に支給されるという一般則を示したものではない。

2 労務不能の判断と報酬による調整を分ける

第一段階は,実際の活動を踏まえて健康保険法99条1項の労務不能に該当するかという受給要件の判断である。
第二段階は,労務不能に該当しても報酬の全部又は一部を受けられる期間について,同法108条1項により不支給又は差額支給とする金額調整である。

したがって,「無給なら傷病手当金が必ず出る」又は「給与を1円でも支払えば全額止まる」という整理はいずれも正確ではない。
協会けんぽも,医師の意見,従前の業務内容その他の条件によって労務不能を判断し,給与が一部支給されるときは法令上の調整を行うと説明している。

3 申請時に会社が残す記録

傷病手当金の申請では,社会保険の給付と手続も参照し,会社は試し出勤の各日について,出退勤時刻,行った活動,指示者,成果物の有無,給与及び手当の対象期間を事実どおり記録する必要がある。
「出勤したが仕事はしていない」というだけでは判断資料として不十分であり,主治医には従前業務と試し出勤の活動内容を区別して伝えることが望ましい。

傷病手当金の支給可否を決めるのは保険者であるから,申請前に会社が支給を保証することはできない。
実施計画と実際の活動が変わったときは,加入する健康保険の保険者へ具体的事情を示して確認し,申請書の事業主証明と勤怠・賃金台帳を一致させることが重要である。

第6 就業規則と個別計画の点検事項

1 制度規程に置く基本事項

就業規則又は職場復帰支援規程には,①対象者,②申出方法,③主治医・産業医等の関与,④実施可否の決定者,⑤標準期間,⑥活動の範囲,⑦給与・交通費,⑧勤怠記録,⑨労災その他の補償,⑩健康情報の取扱い,⑪中止・延長基準,⑫正式な復職判断との関係を定めることが考えられる。
規程では全社共通の枠組みを示し,疾病,職務及び回復状況に応じた具体的条件は個別の実施計画で定める。

2 実施中に越えてはならない境界

無給の訓練として開始した場合は,管理職が善意で仕事を頼むことも含め,会社業務を行わせない運用が必要である。
実際の業務が必要になったときは,そのまま続行せず,有給の試し勤務又は短時間勤務として条件を再設定し,労働時間,最低賃金,労災及び傷病手当金への影響を確認する。

体調悪化,医師の意見の変更,予定外の業務,時間超過又は事故が生じたときは,試し出勤を中止して再評価する。
試し出勤を長期化させて通常業務の代替にせず,あらかじめ定めた評価日に,終了,条件変更又は正式な復職手続への移行を決めることが適切である。

第7 出典・参考資料

1 法令・告示

e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」27条の3
e-Gov法令検索「労働基準法」9条,11条,24条
e-Gov法令検索「最低賃金法」4条,7条
e-Gov法令検索「労働契約法」8条~12条
e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」7条
e-Gov法令検索「健康保険法」99条,108条

2 裁判例・行政裁決

最高裁昭和49年5月30日第一小法廷判決・昭和42年(行ツ)第98号・民集28巻4号551頁(裁判所HP,PDF5頁~6頁)
社会保険審査会令和3年7月30日裁決・令和2年(健)第880号(厚生労働省,PDF1頁~3頁)

3 法令に基づく指針

厚生労働省告示第28号「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日告示,令和8年4月1日適用)

4 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月改訂,試し出勤制度等はPDF19頁~20頁)
厚生労働省「資格喪失後の継続給付に係る関係通知の廃止及び『健康保険法第98条第1項及び第99条第1項の規定の解釈運用』について」(平成15年2月25日)
厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」

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