第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない
「1個買うと1個無料」は,景品表示法が一律に禁止する販売方法ではない。
同じ対価で同じ商品を追加する場合には,正常な商慣習に照らして値引きと認められ,景品規制の対象外となることがある。
ただし,商品の同一性,追加数量,提供方法などによって結論が変わり,景品に当たらなくても「無料」などの広告表示の適否は別に問題となる。
本記事は,令和8年8月31日現在の日本の景品表示法について,一般的な小売販売を中心に説明するものである。
特定企業のキャンペーンの適法性を判定するものではない。
景品類とは,顧客を誘引するため,事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して相手方に提供する経済上の利益で,内閣総理大臣が指定するものをいう(景品表示法2条3項)。
もっとも,景品類の指定告示1項は,正常な商慣習に照らして値引きと認められる利益を景品類から除外している。
| 区分 | 判断の中心 | 景品規制との関係 |
|---|---|---|
| 値引き・増量値引き | 対価を下げるものか,同じ対価で同一商品を追加するものか | 正常な商慣習に照らして値引きと認められれば,景品類に含まれない |
| セット販売 | 複数の商品を組み合わせて販売することが明らかか | 原則として取引に付随する提供ではない。ただし,景品と認識される提供方法などは別である |
| 景品の提供 | 購入などの取引に付随して経済上の利益を提供するものか | 提供方法に応じた上限や適用除外を確認する |
この区別は,消費者庁が公表する指定告示の運用基準4(5)・6に具体化されている。
不当表示や法執行を含む制度全体については,景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)を参照されたい。
第2 同じ商品を追加する「増量値引き」の条件
1 「1個購入して1個追加」への当てはめ
消費者庁の景品に関するQ&A・Q43は,同じ商品を5個購入した者に,もう1個をもれなく提供する例を説明している。
同じ対価で同一商品を追加することが,取引通念上妥当と認められる基準に従うのであれば,値引きとして景品規制の対象外になるという説明である。
この一般基準からは,同じ商品を1個購入するともう1個受け取れる企画も,増量値引きに当たる余地があると考えられる。
ただし,Q43は「5個購入して1個追加」という設例への回答であり,「1個購入して1個追加」の全てを無条件に認めたものではない。
また,「正常な商慣習」は,現に広く行われているという事実だけを意味するものではなく,取引内容,利益の内容,提供方法などを踏まえて判断される(同Q&A・Q36)。
2 同じ値段なら同一商品といえるか
消費者庁Q&A・Q44は,様々な靴下を1組300円でワゴン販売し,4組購入すると同じワゴンから1組追加できる例を挙げている。
このように,販売方法によって各商品の個性が薄れ,消費者が実質的に同一の商品と認識すると考えられる場合も,増量値引きとなり得るという説明である。
これに対し,同じ300円でも,ワゴン内で販売されていない特定シリーズの靴下を追加する場合は,実質的に同一とはいえないと説明している。
したがって,価格が等しいことだけでは足りず,商品の種類と販売方法を併せて見ることになる。
3 購入数を超える追加や抽選は別に扱う
Q43は,購入数量等より多く追加する場合には,通常,取引通念上妥当とは認められないと考えられ,景品類として総付景品規制の対象になると説明している。
「1個購入して2個を追加する」企画を,同じ商品だからという理由だけで増量値引きとすることはできない。
他方,数量以外の条件もあるため,「追加数が購入数以下なら必ず対象外」という逆の結論も導けない。
指定告示の運用基準6(4)イ(PDF4頁~5頁)は,同一商品の追加であっても,懸賞による場合や,同じ企画で別の景品との選択を認める場合を,値引きの除外対象とはしていない。
同じ商品を確実に追加する企画と,「同じ商品が抽選で当たる」企画では,取扱いが異なるのである。
第3 無料引換券・割引券とセット販売
1 後日の無料引換券と金額割引券は区別する
増量値引きは,商品をその場で渡す場合に限られない。
指定告示の運用基準6(3)ウ(PDF4頁)及び消費者庁Q&A・Q43は,コーヒーを5回購入するとコーヒー1杯の無料券を受け取れる例も挙げている。
ただし,同運用基準は,コーヒーの購入に対してジュースの無料券を提供する場合を,同一商品の追加とは扱っていない。
一方,別の商品に使える券が全て景品になるわけでもない。
消費者庁Q&A・Q47は,商品Aの購入者に,自店で商品Bを購入する際の金額割引券を提供する場合について,取引通念上妥当な基準に従えば値引きとなると説明している。
特定の商品そのものを渡す無料引換券なのか,自店で支払う代金を減らす割引券なのかという,券の機能の違いを確認することになる。
2 セット販売は「購入特典」と何が違うか
消費者庁Q&A・Q29は,複数の商品を組み合わせて販売することが明らかな場合などは,原則として取引に付随する提供に当たらないと説明している。
例えば,商品Aと商品Bを当初から一つの組合せとして総額を示して販売する場合は,BをAの購入特典として渡す場合と異なる。
ただし,同Q&Aは,別の商品が抽選で当たる場合や,景品として受け取ると認識される方法で提供する場合を区別している。
「商品Bプレゼント」「商品B無料」などは,そのような提供方法の例として挙げられており,企画に「セット」という名称を付けるだけでは,景品規制の対象外にはならない。
本記事では,セット販売として取引への付随性が否定されるかという問題と,正常な商慣習に照らして値引きに当たるかという問題を区別する。
そのため,同じ商品の無料追加については,「無料」という言葉だけで景品と決めず,第2の増量値引きの条件も検討することになる。
第4 景品に当たる場合の上限と価額
1 一般の総付景品は200円又は取引価額の20%が上限
購入者にもれなく提供する景品など,懸賞によらない景品は,一般に総付景品と呼ばれる。
一般の総付景品の上限は,総付景品の制限告示1項及び消費者庁Q&A・Q109・Q110によれば,次のとおりである。
①取引価額が1,000円未満の場合は,200円。
②取引価額が1,000円以上の場合は,取引価額の20%。
同告示は,この金額以内であっても,正常な商慣習に照らして適当と認められる限度を超えてはならないとしている。
また,同告示2項の適用除外や特定業種の告示があるため,数値だけで全ての企画の適法性が決まるわけではない。
適用除外の例として,消費者庁Q&A・Q49は,値引きと景品のどちらにも使えるポイントを景品類とした上で,自店での値引きに使用する場合には,正常な商慣習に照らして適当であれば総付景品規制が適用されないと説明している。
これは自己の取引に用いる割引証票についての同告示2項3号によるものであり,「景品類ではない」ことと「景品類だが上限規制の適用除外になる」ことは別である。
総付景品の上限見直しの検討状況と,現在の上限・業界提案・施行日の区別については,総付景品の上限見直し――決まったことと,まだ決まっていないこと(AI作成)を参照されたい。
2 仕入値ではなく通常の購入価格で比較する
景品類の価額の算定基準1(PDF1頁)は,市販品の景品価額を,受け取る人が通常購入するときの価格で算定するとしている。
事業者が安く仕入れたという理由だけで,その仕入額を景品価額にできるわけではない。
非売品についても,同基準は,入手価格や類似品の市価などから,通常購入するとすればいくらになるかを算定するとしている。
非売品だから0円という扱いにはならない。
購入額に応じて景品を提供する小売企画では,その購入額が取引価額となる。
また,通常,景品を得るために必要な取引の最低額が基準となり,取引価額と景品価額はいずれも消費税込みで確認する(消費者庁Q&A・Q59~Q61・Q76・Q77)。
次の表は説明用の架空例であり,金額は全て税込みである。
景品に当たる例では,一般の総付景品規制が適用され,適用除外がないものとする。
| 販売方法 | 景品規制上の検討 |
|---|---|
| 1,000円の商品を購入し,同じ対価で同一商品をもう1個受け取る | 増量値引きの条件を満たすなら,景品価額200円の上限を当てはめる場面ではない |
| 1,000円の商品Aを購入し,通常購入価格1,000円の別商品Bを景品として受け取る | 上限は1,000円×20%=200円であり,景品価額1,000円は上限を超える |
| 150円の商品Aを購入し,通常購入価格150円の別商品Bを景品として受け取る | 景品価額150円は上限200円以内である。ただし,金額以外の条件も満たすという意味ではない |
第5 「無料」「半額」の広告表示は別に判断する
景品表示法5条2号は,価格その他の取引条件について,実際のもの又は同種・類似の商品等を供給する他の事業者のものより著しく有利であると一般消費者に誤認される表示を規制する。
禁止されるのは,そのうち,不当に顧客を誘引し,一般消費者の自主的かつ合理的な選択を妨げるおそれがあると認められるものである。
景品に当たらない増量値引きでも,この表示規制の検討は残る。
消費者庁が公表する価格表示についての考え方(3頁~5頁)は,表示全体から受ける印象を踏まえ,販売価格,対象商品の範囲,適用される顧客の条件などを正確に示す必要があると説明している。
例えば,一部の商品や会員だけが対象である場合や,追加商品を受け取るために別料金がかかる場合には,それらの条件を含む広告全体が判断対象となる。
計算上,1個1,000円の商品を1,000円で2個受け取れば,1個当たりの負担は500円となる。
しかし,支払総額は0円ではなく,「追加の1個に別料金がかからない」ことと「買物全体が無料」であることは異なる。
また,単価が半分になるという計算だけで「半額」表示が適法になるわけではなく,比較する価格が実際のものか,商品の内容や適用条件が揃っているかも問題となる。
個別の企画に当てはめる際,本記事では,確認事項として次の点を挙げる。
これらは法令・行政基準を具体的な企画に照らすための項目であり,行政機関がそのまま列挙したチェックリストではない。
①購入商品と追加商品の種類,販売方法及び通常の販売価格。
②支払総額,購入数量及び追加数量。
③抽選や別の景品との選択の有無。
④引換券・割引券の内容,対象店舗,購入対象期間及び引換期間。
⑤目立つ広告文と適用条件を合わせた表示全体の内容。
個別業種については,該当する業種別告示や公正競争規約も検討の対象となる(総付景品の制限告示備考,指定告示の運用基準6(2))。
また,本記事は不当廉売などの別法令上の問題まで判定するものではなく,独占禁止法の基本的な位置付けについては,不公正な取引方法に関する実務メモ(AIリライト)を参照されたい。
第6 出典
1 法令・告示
①e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法」(昭和37年法律第134号)2条3項・4条・5条2号。
②不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件(昭和37年6月30日公正取引委員会告示第3号,平成21年8月28日改正)1項,PDF1頁。
③一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限(昭和52年3月1日公正取引委員会告示第5号,平成28年4月1日内閣府告示第123号による改正)1項・2項・備考,PDF1頁。
2 行政機関の通達・価格表示の解説
①景品類等の指定の告示の運用基準について(昭和52年4月1日公正取引委員会事務局長通達第7号,令和6年4月18日消費者庁長官決定による改正)4(5)・6,PDF3頁~5頁。
②景品類の価額の算定基準について(昭和53年11月30日公正取引委員会事務局長通達第9号)1,PDF1頁。
③不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(平成12年6月30日公正取引委員会公表,平成28年4月1日消費者庁改定)第2及び第3の販売価格・適用条件の説明,3頁~5頁(PDFも同頁)。
3 消費者庁のQ&A
①景品に関するQ&A「景品類とは」Q29。
②景品に関するQ&A「景品類ではないもの」Q36・Q43・Q44・Q47・Q49。
③景品に関するQ&A「総付景品について」Q109・Q110。
④景品に関するQ&A「景品規制について」Q59~Q61・Q76・Q77(いずれも令和8年8月31日掲載版)。