第1 最初に確認する休職の根拠と就業の可否
社員から療養を要する診断書が提出されたときは,休職の必要性と,会社の制度上いつから休職にするかを分けて確認することが重要である。
本記事では,民間企業の使用者が休職開始時に確認する事項を,①就業規則,②具体的な就労能力,③業務上の傷病の可能性,④休職通知,⑤金銭負担,⑥連絡と復職の準備の順に整理する。
令和8年8月31日現在,労働施策総合推進法27条の3に基づく治療と就業の両立支援措置は,同年4月1日から事業主の努力義務となっている。
同時に適用された厚生労働省の治療と就業の両立支援指針は,長期休業の開始前に,賃金を含む制度,休業可能期間及び復帰手順を本人に説明する流れを示している。
この努力義務は,希望どおりの有給休職を一律に認める義務ではない。
他方,労働契約法5条の安全配慮義務は別に問題となるため,努力義務だから個別の健康上の危険に対応しなくてよいということにもならない。
第2 就業規則と休職開始日の確認
1 会社の規程と本人の適用条件
厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)16頁は,休職の定義,期間の制限及び復職等について労働基準法に定めはないと説明している。
したがって,同モデルの空欄を埋めた期間が法律上の標準になるわけではなく,まず自社の就業規則,雇用契約及び適用対象を確認する。
労働契約法7条は,合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合の契約内容への取込みを定めている。
実務上は,休職事由,必要な欠勤日数,勤続期間による違い,申請又は命令の手続,休職期間及び再休職時の通算規定を確認し,今回の事実がどの条項に該当するかを記録しておくのが適切である。
東京高裁平成7年8月30日判決(平成6年(ネ)第2275号・富国生命事件)は,復職後に約3か月通常勤務をしていた社員について,未治癒で症状が再燃する可能性があるだけでは当該規則の休職事由に当たらないとして,会社の控訴を棄却した。
この判決は当該就業規則と勤務状況についての判断であり,病気なら休職させられるとも,本人が働きたいと言えば必ず就業させるとも述べていない。
2 年休・欠勤・休職の日付を分ける
診断書の作成日,療養を要するとされた期間の初日,実際の欠勤開始日及び就業規則上の休職開始日は,同じとは限らない。
本記事では,年休の申出と残日数,欠勤期間の算定方法,休職への移行条件を別々に確認し,開始日と満了予定日を計算する手順を勧める。
労働基準法39条5項は,原則として労働者の請求する時季に年休を与える仕組みを定めている。
病気による欠勤を自動的に年休へ振り替えたり,年休を全て消化した日を当然の休職開始日としたりせず,本人の申出と適用規程を確認することが必要である。
第3 診断書と具体的な仕事を照合する
1 医師に伝える仕事と尋ねる事項
治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)は,仕事の情報を主治医に伝えて意見を得た上で,産業医等の意見,本人の意向及び職場の状況を踏まえて事業主が判断する流れを示している。
産業医等がいない場合は主治医から提供された情報を参考とするのであって,会社だけで医学的な判断を代行するという意味ではない。
「療養を要する」「就労可能」との記載だけでは判断に必要な情報が不足する場合,本記事では次の事項を確認することを提案する。
質問は休職又は就業のどちらかへ誘導せず,実際の作業と実施可能な配慮を示した上で行う。
| 確認する事項 | 医師に伝える情報・尋ねる内容 |
|---|---|
| ①作業内容と負荷 | 実際の作業,作業時間,反復の程度,通勤,安全上の危険を伝える。 |
| ②可能な勤務の条件 | 通常勤務,時間短縮,作業の変更等について,就業の可否と必要な条件を尋ねる。 |
| ③制限の程度と期間 | 時間・作業量等の制限と,その制限を続ける期間を分けて尋ねる。 |
| ④再評価の時期 | 次に判断を見直す時期と,症状が変化した場合の対応を確認する。 |
例えば,残業時間の上限が示されていても,その制限がいつまで続くかは別の情報である。
同指針5(4)が措置の内容と実施時期・期間を分けて示していることを踏まえ,制限の内容だけでなく,見直しの予定も記録しておくのが適切である。
2 他の業務への配置可能性
最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決(平成7年(オ)第1230号・片山組事件)は,職種等を限定しない契約について,現に命じられた業務を十分にできなくても,現実に配置される可能性のある他の業務を遂行でき,その提供を申し出ている場合には,契約に沿った労務提供があるとした。
最高裁は,他業務への配置可能性を十分に検討しなかった原判決を破棄し,差し戻している。
実務上は,契約上の職種限定,本人の能力・経験,企業の規模及び実際の配置・異動の状況を確認し,元の仕事ができないという理由だけで検討を終えないことが重要である。
ただし,同判決から,存在しない仕事を常に新設する義務まで導くことはできない。
障害者である労働者については,障害者雇用促進法36条の3の措置も検討対象となるが,過重な負担となる場合の例外がある。
具体的職務についての能力と行政上の認定の区別は,障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力の記事で説明している。
3 本人が受診等に応じない場合
本人が受診や追加の情報提供に応じない場合も,本記事では,確認の目的,不足している事項及び規程上の根拠を示し,より限定した確認方法を検討する手順を勧める。
精神的不調による欠勤が疑われるときは,直ちに懲戒の問題として処理しないことが重要である。
最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(平成23年(受)第903号・日本ヒューレット・パッカード事件)は,当該精神的不調の下での欠勤について,健康診断や治療・休職等の検討を経ずに行った諭旨退職を,懲戒事由を欠くものとして無効とした。
この判決は,あらゆる受診拒否や欠勤を免責する判断ではなく,当該欠勤の原因・経緯と会社の対応を踏まえたものである。
なお,労働安全衛生法68条及び同規則61条による就業禁止は,病気一般を対象とするものではなく,規則に定める疾病等に該当するかが問題となる。
同規則による就業禁止には,あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴く必要があり,安全確保の措置を検討することと,無給休職の根拠・期間を決めることは分けて考えるべきである。
4 医療情報の取得と共有の範囲
病歴は,個人情報保護法2条3項の要配慮個人情報に当たり,同法20条2項により,その取得には原則としてあらかじめ本人の同意を要する。
法令に基づく取得等の例外はあるが,休職を検討しているという理由だけで全ての診療情報を取得できるわけではない。
厚生労働省の心身の状態に関する情報の取扱指針6頁~7頁は,本人が自発的に提出した情報について医療機関へ直接照会する場合,別途本人の同意が必要であるとしている。
診断書の提出を,主治医への無制限の照会に同意したものとして扱わず,照会先,目的及び質問範囲を明らかにするのが適切である。
労働安全衛生法104条は,心身の情報の収集・保管・使用を健康確保に必要な範囲にとどめ,適正に管理することを求めている。
実務上は,詳細な医学情報を取り扱う者と,現場で勤務上の配慮を実施する者を区別し,上司や同僚には業務上必要な措置の情報に絞って共有する方法が適切である。
第4 業務上の傷病の可能性を確認する
会社の書類に「私傷病」と記載したことだけで,労災保険上の業務起因性が決まるわけではない。
労働基準法19条は,業務上の傷病による療養休業中とその後30日間について,例外を除いて解雇を制限しているため,私傷病休職の規程を適用する前提を確認する必要がある。
精神障害について,厚生労働省の心理的負荷による精神障害の認定基準は,業務による心理的負荷,業務外の負荷及び個体側要因を所定の基準に従って検討する仕組みである。
私生活上の事情や既往症があることだけで業務起因性を否定せず,発病又は悪化の時期,勤務時間,職場での出来事及び医学的評価を確認することが重要である。
労災保険法施行規則23条2項は,保険給付に必要な証明を求められた事業主に,速やかな証明を義務付けている。
本記事では,証明欄の対象となる事実について,把握している事項,不明な事項及び争いのある事項を分け,業務起因性への異論があることを理由に一律に証明を拒まない対応を勧める。
第5 休職通知で伝える事項
治療と就業の両立支援指針5(5)アは,長期休業の開始前に,制度,賃金,手続,休業可能期間及び職場復帰の手順を説明する対応を示している。
本記事では,説明の食い違いを防ぐため,次の事項を通知書又は説明書にまとめ,本人に交付した内容と日付を残す方法を提案する。
| 項目 | 通知・説明する内容 |
|---|---|
| ①根拠と開始日 | 適用する規程,休職事由,休職開始日及びその算定の基礎。 |
| ②期間 | 満了予定日,延長の有無と条件,再休職時の通算方法。 |
| ③金銭 | 給与の取扱い,傷病手当金の申請手順,社会保険料の本人負担分の支払方法。 |
| ④連絡 | 担当窓口,連絡方法,予定する連絡時期,病状により連絡が難しい場合の相談方法。 |
| ⑤復職 | 復職を申し出る時期,必要な資料,医師の意見を踏まえた判断の手順。 |
| ⑥満了時の取扱い | 適用規程の内容と,復職の可否を判断するための確認事項。 |
満了時の退職条項を説明することと,将来の退職扱いの有効性を確定することは別である。
実務上は,開始時の通知だけで結論を固定せず,満了時の状態と適用規程,現実的な配置可能性を改めて確認し,解雇による場合は労働契約法16条等の規制を検討する必要がある。
第6 給与・傷病手当金・社会保険料
1 無給扱いと休業手当を区別する
私傷病のため労務を提供できず,契約上も有給とする定めがない場合,原則として賃金は発生しない。
もっとも,民法536条の帰責性の問題があるため,会社が就労を拒否している場面を,当然に同じ無給扱いにすることはできない。
労働基準法26条は,使用者の責めに帰すべき事由による休業について,平均賃金の60%以上の休業手当を定めている。
会社が休職を命じたという形式だけで支給の有無は決まらず,休業の実質的な理由を確認する必要があり,民法上の賃金請求が成立する場合の額を当然に60%へ減らす規定でもない。
2 傷病手当金の申請と時効
健康保険法99条は,被保険者が療養のため労務に服することができない場合,連続する3日間の待期を経た4日目以降の対象日について傷病手当金を支給する仕組みを定めている。
協会けんぽの案内では,待期には年次有給休暇や公休日も含まれるとされており,会社が休職と呼ぶ期間の初日から数えるとは限らない。
1日当たりの額は,原則として,支給開始月以前の直近の継続した12か月間の標準報酬月額の平均額を30で除した額の3分の2である。
加入期間が12か月未満の場合には別の算定規定があり,端数処理もあるため,単純に現在の手取り給与の3分の2として案内しないことが重要である。
健康保険法108条により,報酬を受けられる期間は傷病手当金との調整が行われ,報酬額が傷病手当金より少なければ差額支給の対象となる。
したがって,給与が少しでも出れば必ず全額不支給になるとは限らず,年休を含め,対象日ごとの給与の取扱いを正確に確認する。
同一の傷病についての支給期間は,支給開始日から通算して1年6か月であり,会社の休職可能期間とは別である。
実務上は,休職制度が終了する日と給付が終了する日を,別々に説明することが重要である。
健康保険法193条及び協会けんぽのFAQ問2によれば,傷病手当金は労務不能であった日ごとにその翌日から2年で時効となる。
このため,休職の終了まで申請を待つ運用は避け,対象期間の勤務・給与の記録を確認して申請を進めるのが適切である。
健康保険法施行規則84条は,申請に必要な療養担当者の意見と,労務に服さなかった期間や報酬等についての事業主の証明を定めている。
実務上は,本人,医療機関及び会社の担当部分を開始時に説明し,勤務・給与の記録に基づいて申請書を作成できる体制を整えるのが適切である。
3 社会保険料と立替金の精算
使用関係と被保険者資格が続く場合,無給の私傷病休職という理由だけで健康保険料や厚生年金保険料が免除されるわけではない。
健康保険法161条及び厚生年金保険法82条による事業主の納付義務と,本人が負担する部分の支払方法を分けて確認する必要がある。
本記事では,給与から控除できない本人負担分について,対象月,額,支払期限,振込等の方法及び会社が立て替える場合の精算方法を,休職開始時に説明することを勧める。
加入制度や保険料の基本は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用の記事で説明している。
復職後の給与や賞与から過去の立替金を控除する場合は,労働基準法24条の賃金全額払の原則と,法令又は労使協定に基づく控除の範囲を確認する必要がある。
健康保険法167条と厚生年金保険法84条が一定の保険料控除を認めていることから,過去の立替残高の全部を後日の賞与から当然に控除できると考えてはならない。
最高裁平成2年11月26日第二小法廷判決(昭和63年(オ)第4号・日新製鋼事件)は,相殺への同意について,自由意思に基づくと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在することを求め,その認定は厳格かつ慎重に行うべきものとした。
実務上は,署名や「自由意思による」との文言だけで適法と判断せず,立替額・既払額,説明内容,選択肢及び合意の経緯を確認することが重要である。
第7 休職中の連絡と復職の準備
治療と就業の両立支援指針5(5)イは,あらかじめ定めた方法で本人と連絡を取り,状況,治療の経過及び今後の見込みを確認するとともに,相談窓口を明確にすることが重要であるとしている。
厚生労働省の職場復帰支援の手引き12頁~13頁も踏まえると,連絡の頻度は一律に毎週又は毎月と決めるのではなく,医師の意見や本人の負担に応じて調整するのが適切である。
本記事では,休職開始時に,次の連絡予定日,窓口,診断書等を更新する必要が生じた場合の連絡方法及び復職申出の手順を確認しておくことを勧める。
本人が連絡しにくい状態となった場合に誰へ相談するかも決めておけば,療養への配慮と必要な事務手続を両立させやすい。
同指針5(5)エ~(8)は,復帰後の配慮と状況に応じた見直しも示している。
休職開始時には復職後の働き方を確定できなくても,通院,勤務時間,作業の制限及び再評価の方法を後に検討することを説明し,「通常勤務に戻る」という名称だけで必要な配慮まで終了させないことが重要である。
第8 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索「労働契約法」5条,7条,16条
②e-Gov法令検索「労働基準法」19条,24条,26条,39条
③e-Gov法令検索「民法」536条
④e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」27条の3
⑤e-Gov法令検索「労働安全衛生法」68条,104条及び同規則61条
⑥e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」2条,20条
⑦e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」36条の3
⑧e-Gov法令検索「健康保険法」99条,108条,161条,167条,193条及び同施行規則84条
⑨e-Gov法令検索「厚生年金保険法」82条,84条
⑩e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」23条
2 裁判例
①東京高裁平成7年8月30日判決・平成6年(ネ)第2275号(富国生命事件)。
判決本文PDF1頁~3頁。
②最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決・平成7年(オ)第1230号・集民188号1頁(片山組事件)。
判決本文4頁~5頁。
③最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決・平成23年(受)第903号・集民240号237頁(日本ヒューレット・パッカード事件)。
判決本文1頁~2頁。
④最高裁平成2年11月26日第二小法廷判決・昭和63年(オ)第4号・民集44巻8号1085頁(日新製鋼事件)。
判決本文1頁,5頁。
3 法令に基づく指針
①厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号,同年4月1日適用)。
特に3(8),5(1)~(5),5(7)~(8)。
②厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(令和4年3月31日改正)2,3。
直接照会時の同意について6頁~7頁。
4 公的な解説・行政資料
①厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版)16頁。
規程例と解説であり,各社の就業規則そのものではない。
②厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年6月11日基発0611第1号・雇均発0611第1号)第1の1(2),第2の1(2)。
両立支援の努力義務の施行日。
③厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月改訂)12頁~13頁(PDF14頁~15頁)。
④厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)第2,第4の3,第5。
本文1頁,7頁~9頁(PDF2頁,8頁~10頁)。
⑤厚生労働省掲載・厚生省保険局長回答「休職と被保険者資格について」(昭和26年3月9日保文発第619号)。
使用関係が存続する休職期間中の健康保険料に関する照会回答。
⑥全国健康保険協会「傷病手当金」及び「健康保険給付について」問2。
給付条件,待期及び時効に関する保険者の案内。