第1 死亡直後は端末の保管と携帯会社への連絡を並行する
被相続人のスマホについて,本記事では,端末と関連資料を保管しながら,携帯会社への連絡を早めに進めることを初動の基本とする。
初期化でデータを失う危険がある一方,契約を放置すれば料金が増え続けることもあるためである。
死亡直後に確認したい事項は,次のとおりである。
①端末の所在,電源・ロックの状態及び保管者を記録する。
②推測したパスコードの入力や初期化を先に行わない。
③携帯会社に死亡の事実を伝え,解約・承継の方法と料金への影響を確認する。
④写真等の保存,財産・債務調査,回線及び別契約の解約を分けて検討する。
⑤相続放棄を検討している場合は,売却,資金移動,料金の支払又は名義承継の前に法的影響を確認する。
以下は,令和8年8月30日現在の日本法及び各社の公開案内に基づく一般的な初動の説明である。
個々の端末の解除可能性や契約の承継可否は,機種,設定,契約及び相続関係によって異なる。
第2 初期化と推測入力を避け,端末の状態を記録する
1 端末と関連資料の保管
スマホ本体のほか,契約書類,購入時の箱,充電器及び本人が残したアカウント関係の書類をまとめて保管することが考えられる。
発見した日時,機種,電源・ロックの状態,既に行った操作を記録しておけば,メーカーや弁護士への相談で事情を説明しやすくなる。
既に画面を開ける場合でも,必要な情報を閲覧・保存する権限と範囲を確かめ,設定変更,アプリの追加,売却等を急がない方がよい。
端末を手元に置いていることと,保存データや契約を自由に利用・処分できることは別だからである。
2 ロック解除とデータ消去の違い
Appleの故人アカウント案内によれば,パスコードで保護された端末は,消去しないままパスコード解除の支援を受けることはできない。
また,iPhoneユーザガイドには,パスコードの誤入力が10回続くとデータを消去する設定が説明されている。
全てのiPhoneで必ず消去されるという意味ではないが,設定が不明なまま推測入力を繰り返すことは避けたい。
同ガイドでは,iPhoneの電源投入・再起動後はパスコードが必要とされている。
本記事では,データの保存方法を確認する前に,不要な再起動や更新を行わない方針を基本とする。
ただし,電源を入れたままにすれば解除可能な状態が必ず維持されるものではなく,故障等のある端末の通電を一律に勧めるものでもない。
GoogleのAndroidヘルプは,ロック解除ができない場合の通常の対応としてデータ消去を案内している。
これは再び使える端末にするための対応であり,保存済みデータを取り出す方法とは異なる。
同ヘルプには古いAndroidの例外もあるため,全機種で同じ扱いとせず,機種・OS・バックアップの有無を確認することになる。
第3 回線の解約・承継と別契約の請求を分ける
1 携帯会社別の手続の入口
携帯会社への連絡と,回線をいつ解約するかの判断は分けて進められる。
まず契約ブランドを特定し,死亡時の窓口に,解約・承継の方法,手続までの料金及び利用できなくなるサービスを問い合わせるのがよい。
| 携帯会社 | 公式案内の入口 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| ドコモ | 死亡による解約・死亡による承継 | 店舗手続が基本であるが,ahamo等は別の案内がある。 |
| au・UQ mobile | 契約者が亡くなった場合の手続 | 店舗での承継・解約と,本人・死亡・家族関係を確認する書類が案内されている。 |
| ソフトバンク | 死亡時の解約手続 | ショップでの手続であり,申請者に応じた書類を確認する。 |
| 楽天モバイル | 契約者の逝去による解約 | Rakuten最強プラン等は郵送手続であり,旧ドコモ回線・au回線とは方法が異なる。 |
死亡を確認できる書類,手続をする人の本人確認書類,相続・家族関係の書類等は,各社の案内に従って準備する。
上表は必要書類の完全な一覧ではなく,SIM等が見当たらない場合や契約ブランドが不明な場合も,先に窓口で確認するとよい。
2 SMS認証,サブスク及び端末代金の確認
電話番号を廃止する前に,その番号がSMS認証等に使われている契約と,各契約先の相続人向けの手続を確認しておくことが考えられる。
もっとも,SMSを受信できることは故人の名義で自由にログインしてよい根拠にはならず,相続手続にSMSが必ず必要であるとも限らない。
国民生活センターは,携帯回線の解約後も別のサブスク契約の請求が続いた相談例を紹介している(「デジタル終活」資料2頁)。
回線と,動画配信,セキュリティソフト,クラウド等の契約を別々に確認し,何が同時に終了し,何に個別の解約が必要かを整理したい。
同センターは,ID等が不明でも,事業者を特定できれば遺族から解約できる場合が多いと案内している(同資料3頁)。
ログインできないという理由だけで請求を放置せず,契約先へ死亡時の手続を問い合わせる方法がある。
ドコモの死亡解約の案内では,端末の分割残額があれば解約後も支払が続くとされている。
ただし,誰が債務を負担するかは,相続放棄等を含めて別途検討する問題である(ドコモの解約時の注意事項)。
回線を承継する場合も,各サービスが一緒に移るとは限らない。
ドコモはdアカウントやdポイント等をそのまま引き継げない旨を案内する一方,d払い残高の現金バリューについては払戻しも説明しているため,回線の承継可否と払戻しの可否は別々に確認したい(ドコモの承継時の注意事項)。
第4 Apple・Googleのデータ請求は端末解除とは別である
1 Appleの故人アカウント管理連絡先等
故人が生前に「故人アカウント管理連絡先」を指定していた可能性がある場合は,指定された人とアクセスキーの所在を確認する。
Appleは,この経路での申請にアクセスキーと死亡を確認する書類を必要としている(故人アカウント管理連絡先の案内)。
その指定がない場合にも法的書類を用いる経路が案内されており,日本では裁判所命令に代わる書類や手続が認められる場合がある。
最初から裁判所命令が必須と決めつけず,Appleへ確認することになる(Appleの申請案内)。
ただし,故人アカウント管理連絡先が取得できるデータにも制限があり,iCloudキーチェーンの情報は対象外とされる。
相続手続をすれば全てのパスワードが分かるわけではなく,端末のパスコード解除とも別の手続である。
申請経路と対象データは,Appleアカウントの相続手続で詳しく説明している。
2 Googleのデータ請求と閉鎖の順序
Googleは,故人のアカウントについて,閉鎖,資金に関する請求,データ取得の申請を分けている。
パスワード等のログイン情報は提供せず,内容を提供するかどうかは審査により判断すると案内している(Googleの故人アカウント申請案内)。
Googleの英語版案内では,閉鎖を選択すると,後から内容の引渡しを求める請求を処理できない旨が説明されている。
データが必要な場合は,閉鎖申請を先に行わず,データ請求の経路を確認したい(Account Closure Requests)。
日本語のデータ取得申請画面には,請求が承認された場合に米国で発行される裁判所命令を取得するという条件が表示されている。
Appleの日本向けの取扱いとは異なるため,まずGoogleの審査と指示を確認し,別の事業者の条件を流用しないことが大切である。
各申請の違いは,Googleアカウントの相続手続で説明している。
第5 相続放棄を考えている場合とアクセス権限の注意点
1 財産調査,処分及び放棄後の保管
民法915条2項は,相続の承認又は放棄をする前に財産調査をすることを認めている。
スマホが調査の手掛かりになる場合にも,調査の目的と,実際に行う操作の内容を分けて確認することになる。
これに対し,民法921条1号は相続財産の処分を法定単純承認の事由とし,保存行為等を除外している。
保管や契約先の確認と,端末の売却,故人の資金の移転等を区別して扱い,相続放棄を検討する場合は処分前に確認したい。
ただし,携帯回線の解約や料金の支払が常に単純承認に当たるとまではいえない。
本記事では,対象契約,行為の目的,支払原資,得られる利益等を確認して個別に判断するものと整理する。
受付方法も各社で異なり,auは相続放棄をした場合にも家族に解約手続への協力を求める一方,楽天モバイルは相続放棄人からの死亡解約申請を受け付けないと案内している(au,楽天モバイル)。
これらは各社の受付方法の説明であり,あらゆる解約行為について相続放棄への影響がないと保証するものではない。
相続人が数人ある場合,相続財産は共有に属する(民法898条)。
そのため,手元で保管している一人が端末を自己の物として売却する前に,他の相続人との関係を確認したい。
相続放棄をした人でも,放棄時に相続財産を現に占有している場合には,相続人又は相続財産清算人へ引き渡すまでの保存義務が定められている(民法940条1項)。
したがって,放棄したという理由だけで,保管中の端末を直ちに捨ててよいとはいえない。
2 パスワードが分かっても利用権限は別に確認する
民法896条は,被相続人の財産上の権利義務の承継を定め,一身に専属するものを除いている。
この原則だけで,全てのサービスの利用資格やデータへのアクセス権限がそのまま移るとは断定できない。
本記事では,不正アクセス禁止法2条・3条について,通信回線を通じたアクセス,アクセス制御,他人の識別符号,承諾等の要件を分けて確認する。
端末内の閲覧とオンラインサービスへのログインを一括して適法又は違法と断定せず,正規の相続・死亡時の窓口で利用権限を確認したい。
第6 スマホが開かない場合の調査と相談
1 郵便物・通帳・カード明細から調べる
東京弁護士会ウェブサイトの法律相談Q&Aは,端末にアクセスできない場合に,郵便物,銀行通帳の履歴,クレジットカード明細から調べる方法を紹介している(インターネット関連・相続関連のQ&A)。
これらを手掛かりに契約先を特定し,各事業者に照会する方法があるが,明細等に見当たらないことは財産や契約がないことの証明ではない。
調査先を広げる際は,被相続人の財産を調べる方法も参照されたい。
相続の承認又は放棄に関する熟慮期間は,原則として,自己のために相続開始があったことを知った時から3か月であり,家庭裁判所による伸長の制度もある(民法915条1項)。
端末のロック解除だけを待って期間を費やさず,紙の資料や事業者への照会による調査を並行したい。
2 専門的な調査へ進む条件
本記事では,まず手元の資料と公式窓口で確認し,それでも取得できない重要な情報が特定できた段階で,専門的な調査の必要性を検討する順序を基本とする。
相談時には,①取得したい情報,②端末の状態と操作履歴,③契約・アカウント,④相続関係と相続放棄の方針を整理するとよい。
有料の復旧作業や裁判手続を検討する場合も,その手段で何が分かれば判断が変わるのかを先に確かめたい。
費用,期間,消去の危険,申請・閲覧権限及び成功しない可能性を確認し,必要な情報が別の資料で得られるなら,高負担の手段を急がない方針が考えられる。
取得対象や権限が定まらない段階では,追加の操作・調査をいったん控え,端末はメーカー等に,権限・相続放棄・財産処分は弁護士に確認するのがよい。
個別の契約や端末の状態が不明なまま,データ取得の成功や相続放棄への影響を保証することはできない。
第7 出典
1 法令
①e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)896条,898条,915条,921条及び940条。
②e-Gov法令検索「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(平成11年法律第128号)2条及び3条。
2 消費者相談機関の注意喚起
国民生活センター「今から考えておきたい『デジタル終活』-スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために-」(令和6年11月20日)1頁~3頁(資料上の頁とPDF頁は一致する)。
3 事業者の技術・手続案内
①Apple「亡くなったご家族のApple Accountへのアクセスを申請する」(令和8年8月24日公開)。
②Apple「Apple Accountの故人アカウント管理連絡先を追加する方法」(令和8年4月16日公開)。
③Apple「iPhoneでパスコードを設定する」(iOS 26版)。
④Google「Android デバイスのロックを解除できない」。
⑤Google「故人のアカウントに関するリクエストを送信する」日本語版(初期案内及びデータ取得選択後の条件)。
⑥Google「Submit a request regarding a deceased user's account」英語版(Account Closure Requests)。
⑦NTTドコモ「ご契約者の死亡による解約」。
⑧NTTドコモ「ご契約者の死亡による承継」。
⑨au「契約者が亡くなった場合の手続きについて知りたい」。
⑩ソフトバンク死亡時の解約に関するFAQ(番号10560)。
⑪楽天モバイル「契約者が逝去したため回線を解約したいのですが,どうすればよいですか?」。
4 職能団体サイトの法律相談Q&A
東京弁護士会ウェブサイト「インターネット関連|法律相談一覧」の「相続関連」(端末にアクセスできない場合の金融資産の調査に関するQ&A)。