第1 日本の不動産を外国人が購入する場合の結論
1 通常の住宅・宅地には外国人だけを対象とする一般的な取得禁止がないこと
令和8年8月25日現在,日本では,外国人又は外国法人であることだけを理由として,通常の住宅・宅地の所有権取得を一律に禁止し,又は一般的な事前許可に服させる現行制度はない。
外国人土地法は現行法であるが,それ自体が特定の取得を直接禁止するのではなく,相互主義又は国防上必要な地区に関する制限を命令へ委任する法律であり,現在,取得制限を実働させる命令は確認できない。
もっとも,外国人が日本の不動産を自由に買えるという結論は,届出,土地の用途・所在地による規制,登記,税務及び本人確認が不要であることを意味しない。
特に,非居住者による取得には外為法上の取得後報告があり,重要施設周辺,農地,森林又は一定規模以上の土地には別の制度が適用される。
2 国籍,居住地,法人支配及び物件区分を分けて判断すること
法令上の「外国人」は一つの概念ではない。
外国人土地法は国籍・法人属性,外為法は居住者・非居住者,重要土地等調査法は土地等の所在地と利用,犯罪収益移転防止法は本人及び実質的支配者の確認をそれぞれ問題とする。
したがって,購入可否と手続を判断するときは,①自然人の国籍・住所・在留状況・居住者性,②法人の設立準拠法・本店・代表権・実質的支配,③住宅・事業用地・農地・森林等の物件区分,④重要施設,国境離島等及び都市計画区域との位置関係,⑤売主が居住者か非居住者かを分けて確認する必要がある。
会社を日本で設立した場合でも,外国支配法人を別に捕捉する制度では,国内法人であることだけで確認が終わるわけではない。
3 この記事の比較範囲
この記事は,日本の購入手続,規制及び主な税金を説明した上で,OECD加盟38か国の通常住宅,一般土地,農地・森林及び安全保障上重要な土地に対する制度を比較するものである。
基準日は令和8年8月25日であり,税率,区域指定,州法及び例外は改正され得るため,個別の取引では契約前に再確認を要する。
OECDのFDI Regulatory Restrictiveness Indexの規制データベースは,外国資本に差別的な法令上の措置を比較する資料である。
国家安全保障審査,国籍中立の土地利用規制,地方税及び州法を完全には収録しないため,データベースに土地取得措置がない国を「無規制」とは評価していない。
第2 日本で不動産を購入する手続
1 契約前に確認する取得主体,物件及び売主
最初に,取得名義人を自然人又は法人のどちらにするかを確定し,本人確認書類,住所証明,法人の設立・代表権証明及び実質的支配者情報を準備する。
日本の住民票を提出できない外国自然人では,本国官憲,領事又は公証人等が作成した住所証明書若しくは宣誓供述書等が問題となり,外国法人では設立国の登記事項,代表権及び署名を証する書面等が問題となる。
次に,登記事項証明書,公図,地積測量図,建物図面,都市計画,接道,賃貸借,抵当権等を調査するとともに,農地,地域森林計画対象民有林,国土利用計画法上の一定規模の土地又は重要土地等調査法上の区域でないかを確認する。
所在地・用途による規制は国籍にかかわらず適用されるものが多く,通常住宅を購入できるという一般論だけでは物件の適法性を判断できない。
売主が非居住者又は外国法人であるときは,買主側に譲渡代金の源泉徴収義務が生じ得る。
売主の住民票上の住所だけでなく,生活の本拠,国外での生活状況及び決済口座等から居住者性を確認することが重要である。
2 売買契約,決済及び登記
宅地建物取引業者が媒介又は売主となる取引では,重要事項説明書と売買契約書により,権利関係,法令上の制限,代金,手付,解除,契約不適合責任,租税公課の精算及び引渡条件を確認する。
契約書を外国語化しても,法の適用に関する通則法13条により,不動産に関する物権等は所在地法によるため,日本語正文との優先関係及び用語の対応を定める必要がある。
決済では,残代金支払,所有権移転登記に必要な書類の授受,鍵の引渡し及び固定資産税等の精算を同時に行うのが通常である。
海外送金を用いる場合は,送金日数,銀行のマネー・ローンダリング確認,為替変動及び着金確認を踏まえ,決済日前に資金経路を確定する必要がある。
所有権移転登記では,外国に住所を有する所有権登記名義人の国内連絡先が登記事項となり,国内連絡先がない場合はその旨を証する情報を提出する。
外国人の氏名についてはローマ字氏名,外国法人については設立準拠法国等の情報も登記手続で問題となる。
3 取得後の外為法報告と登記後の管理
令和8年4月1日以後,非居住者が日本の不動産そのものを取得した場合,取得目的,面積,価額及び売主の居住地を問わず,原則として取得日から20日以内に,日本銀行を経由して財務大臣へ報告する。
売買だけでなく,相続,遺贈,贈与その他の無償取得も含まれる。
土地の賃借権等の「権利」の取得には,本人・親族・従業員の居住,非営利事業又は本人の事務所のための取得という限定的な報告例外が残る。
これに対し,建物を含む不動産そのものの取得には,これらの用途例外は適用されない。
令和8年4月1日以後,所有権登記名義人の氏名・名称又は住所の変更登記は,変更日から2年以内に申請する必要がある。
海外居住者については住民基本台帳情報による職権更新の対象にならないため,住所変更を自ら管理する必要がある。
第3 土地の所在地・用途によって適用される規制
1 外国人土地法と重要土地等調査法
外国人土地法1条・2条は,日本人又は日本法人の土地権利取得を制限する国の国民・法人について,同様の制限を命令で定める仕組みを置く。
同法4条・5条も,国防上必要な地区における土地権利取得の禁止・制限を命令へ委任するが,基準日現在,これらを実働させる命令は確認できない。
重要土地等調査法は,重要施設の敷地周囲おおむね1000m及び国境離島等を注視区域として指定し,土地・建物の利用状況を調査する制度である。
重要施設等の機能を阻害する利用が認められると,内閣総理大臣は利用中止等を勧告し,又は命令できる。
特別注視区域では,一筆の土地又は一棟の建物が200m²以上で,所有権等を移転する契約を締結するとき,売主と買主の双方が契約前に届け出る。
この制度は国籍中立であり,内閣府の説明によれば,適法に届出をしたこと自体により契約が禁止されるものではない。
2 大規模土地,農地及び森林
国土利用計画法23条は,市街化区域2000m²以上,その他の都市計画区域5000m²以上,都市計画区域外10000m²以上の土地売買等について,原則として権利取得者に契約後2週間以内の届出を求める。
令和8年の様式改正では,取得者の国籍,外国法人の代表者・役員及び議決権等に関する項目が拡張された。
農地法3条による農地の権利移転は,原則として農業委員会の許可を要する。
制度は国籍だけで許否を決めるのではなく,農地を適正に利用する能力,耕作の実態その他の法定要件を審査するため,居住地が国外にある取得者は現実の利用体制を具体的に示す必要がある。
森林法10条の7の2は,地域森林計画の対象となる民有林の新所有者に市町村長への届出を求める。
国土利用計画法の届出をした場合は重複届出を要しないが,通常の宅地と同じ手続で終わるとは限らない。
3 本人確認と実質的支配者の把握
犯罪収益移転防止法4条により,宅地建物取引業者等の特定事業者は,本人特定事項,取引目的,職業・事業内容及び法人の実質的支配者を確認する。
同法6条は確認記録の作成を,同法7条は取引記録等の作成・保存を定め,保存期間はいずれも原則7年である。
外国人であること自体は疑わしい取引を意味しない。
もっとも,外国法人,多層の持株会社,信託又は代理人を用いる取引では,名義人だけでなく資金の出所,送金経路及び最終的な支配者を説明できる資料が必要となる。
第4 購入・保有・賃貸・売却に関する主な税金
1 購入時と保有中の税金
土地の売買による所有権移転登記の登録免許税は,令和12年3月31日までの軽減税率が適用される場合,固定資産税評価額の1.5%であり,建物は原則2%である。
一定の住宅用家屋は0.3%,相続による移転は0.4%,抵当権設定は原則0.4%であり,各軽減には床面積,築年又は期限等の要件がある。
不動産取得税は,令和9年3月31日まで,土地・住宅について3%,非住宅建物について4%である。
同日まで宅地等の課税標準を2分の1とする特例があるが,住宅控除その他の軽減は物件・用途及び自治体の確認を要する。
固定資産税の標準税率は1.4%であり,市街化区域では都市計画税が課され得る。
東京都23区の都市計画税率は0.3%であるが,実際の税率,免税点及び軽減は所在地の地方団体で確認する必要がある。
土地の譲渡は消費税の非課税取引である。
課税事業者が事業として建物を譲渡するときは建物部分が原則10%の課税対象となる一方,個人が生活用資産を売る取引等では同じ結論になるとは限らない。
以上の登録免許税,不動産取得税,固定資産税及び都市計画税には,通常,外国人買主であることだけを理由とする全国一律の加算税率はない。
課税標準と軽減要件が異なるため,売買代金に税率を単純に掛けた金額を取得費用とは扱えない。
2 売主が非居住者である場合の10.21%源泉徴収
非居住者又は外国法人から日本国内の土地・建物を購入し,譲渡対価を支払う者は,原則として支払額の10.21%を源泉徴収し,税務署へ納付する。
個人が自己又は親族の居住用として購入し,譲渡対価が1億円以下である場合には例外がある。
これは外国人買主に対する取得税ではなく,非居住者等である売主の所得税を買主が代金支払時に徴収する制度である。
源泉徴収をせずに代金全額を支払うと,買主が納税告知及び不納付加算税等を受ける可能性があるため,契約前に売主の居住者性と代金支払方法を確認する必要がある。
3 賃貸,売却及び納税管理人
日本国内の不動産賃料を非居住者又は外国法人へ支払う者は,原則として20.42%を源泉徴収する。
個人が自己又は親族の居住用として借りる場合は例外である。
非居住者が日本の不動産を賃貸又は売却したときは,日本の所得税申告が必要となり得る。
国外に住所・居所を移す場合は納税管理人の届出を検討し,租税条約,日本法上の居住性,必要経費,譲渡所得の取得費及び保有期間を個別に確認する必要がある。
第5 OECD加盟38か国の取得規制
1 4つの制度類型
第1の類型は,住宅需給を理由として外国人・非居住者による既存住宅等を原則禁止し,又は強い許可制に置く制度であり,豪州,カナダ,ニュージーランド及びスイスが代表例である。
第2の類型は,第三国人の一般的な許可又は相互主義を求める制度であり,オーストリア,デンマーク,ハンガリー,アイスランド,イタリア,ポーランド及びトルコ等が含まれる。
第3の類型は,通常の都市住宅の取得は認めつつ,農地,森林,海岸,国境,島嶼又は軍事施設周辺に許可・禁止を置く制度である。
第4の類型は,外国人だけを対象とする通常都市不動産の取得規制よりも,登記,実質的支配者の開示,マネー・ローンダリング対策及び安全保障審査を中心とする制度である。
EU・EEA市民を国内者と同等に扱い,第三国人だけを許可制にする国が多いため,日本人が購入する場合は「外国人も購入可能」という一般的な説明だけでは足りない。
現地法人を設立しても外国支配法人として再捕捉される場合があり,住宅の取得が可能でも農地又は敏感区域では結論が逆転する。
2 38か国の比較表
| 国 | 類型 | 通常住宅・都市不動産 | 主な例外・追加規制 |
|---|---|---|---|
| 豪州 | 住宅需給型 | 外国人の住宅用地は価額を問わず原則事前通知を要し,令和7年4月1日から令和11年6月30日まで既存住宅は原則取得できない。 | 新築住宅・新規供給用地は条件付きで取得可能であり,取得後の登録も要する。 |
| オーストリア | 一般許可型 | 第三国人の取得は州法による許可が中心である。 | EU・EEA市民は原則として国内者と同等であり,州ごとに要件が異なる。 |
| ベルギー | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 計画,環境,AML及び投資審査等の一般制度は別である。 |
| カナダ | 住宅需給型 | 連邦法は非カナダ人による一定の都市住宅の取得を令和9年1月1日まで原則禁止する。 | 対象地域・建物・例外を確認し,州の取得時加算税も別に判定する。 |
| チリ | 敏感土地型 | 通常都市不動産には一般的な外国人取得禁止を確認しない。 | 国有地について国境10km,海岸5km等の制限がある。 |
| コロンビア | 敏感土地型 | 通常都市不動産は原則取得可能とされる。 | 国境,海岸及び島嶼について外国人の制限があるが,現行統合条文と運用は個別確認を要する。 |
| コスタリカ | 敏感土地型 | 通常の私有都市不動産には一般禁止を確認しない。 | 海岸のmaritime-terrestrial zoneは所有権とコンセッションを区別し,外国人には居住歴等の制約がある。 |
| チェコ | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 農地,文化財,安全保障及び一般税制は別である。 |
| デンマーク | 一般許可型 | 永久居住又は過去5年の継続居住等がない者は原則として許可を要する。 | EU・EEAの条約上の取得,別荘及び農地には別ルールがある。 |
| エストニア | 敏感土地型 | 通常住宅には一般的な外国人取得禁止を確認しない。 | 農林地の第三国人取得は地方許可等を要し,国防区域では非EEA・英国者等の取得を禁止する。 |
| フィンランド | 敏感土地型 | 非EU・EEA者等は国防省の許可を要する。 | 安全保障上の脅威国を対象とする絶対的な取得障壁と,無許可取得後の処分手続がある。 |
| フランス | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 農地SAFER,都市計画及び投資審査等は別である。 |
| ドイツ | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 農地取引,自治体先買権及び州別の不動産取得税等は別である。 |
| ギリシャ | 敏感土地型 | 通常地域には一般的な外国人取得禁止を確認しない。 | 国境地域等では第三国人の取得・権利設定に解除又は許可手続がある。 |
| ハンガリー | 一般許可型 | 非EU・EEA等の外国自然人・法人が非農林不動産を取得するときは行政許可を要する。 | 農地・森林にはより厳格な別制度がある。 |
| アイスランド | 一般許可型 | 居住又は法定権利要件を満たさない者は大臣許可を要する。 | 農地及び事業との関連について追加要件がある。 |
| アイルランド | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 計画,農地,AML及び印紙税等は別である。 |
| イスラエル | 国有地承認型 | 私有地とIsrael Landsを区別する必要がある。 | 外国人・外国支配法人によるIsrael Landsの取得はIsrael Land Councilの承認対象となる。 |
| イタリア | 相互主義型 | EU・EEA市民,一定の居住者及び難民等を除き,相互主義の確認が中心となる。 | 公証,登記及び農地等の一般規制は別である。 |
| 日本 | 取得後把握型 | 通常住宅・宅地について外国人だけを対象とする一般的な禁止・許可制はない。 | 非居住者の20日以内報告,重要土地,農地,森林及び大規模土地の制度がある。 |
| 韓国 | 敏感土地型 | 外国人は取得報告を要し,相続・競売等による取得には6か月以内の報告がある。 | 軍事施設,文化財,自然保護及び島嶼等の区域では契約前許可を要する。 |
| ラトビア | 敏感土地型 | 通常都市不動産と農地の取得制度を分けて判断する。 | 農地には資格,利用及び地方自治体手続があり,OECD Code対象者等の区分もある。 |
| リトアニア | 敏感土地型 | 欧州・大西洋統合基準を満たす外国主体は一定の非農地を取得できる。 | 農地,森林,内水及び保護地域等には憲法・法律上の制限がある。 |
| ルクセンブルク | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 計画,AML,投資審査及び一般税制は別である。 |
| メキシコ | 制限区域型 | 国境100km・海岸50kmの制限区域外ではCalvo条項の合意及び許可・届出が中心である。 | 制限区域内の住宅用不動産は銀行信託,非住宅用はメキシコ法人と届出を用いる。 |
| オランダ | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 自治体の自己居住・賃貸規制,投資審査及び移転税等は別である。 |
| ニュージーランド | 住宅需給型 | overseas personは既存住宅及びresidential landを原則取得できない。 | 通常居住者等の例外があり,令和8年には一定の投資家ビザ保持者が500万NZドル超の住宅について同意を得る経路が設けられた。 |
| ノルウェー | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | concession,農地,自治体の居住義務及び安全保障法は別である。 |
| ポーランド | 一般許可型 | 外国人は内務大臣の許可を要するのが原則である。 | 独立住戸,一定の永住歴等の例外があり,EEA・スイスは広く免除されるが,国境地域・農地には追加制限がある。 |
| ポルトガル | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 農地,海岸,計画及びIMT・印紙税等は別である。 |
| スロバキア | 都市透明・農地規制型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 農地取得法に外国関連措置があり,現行適用範囲は物件ごとの確認を要する。 |
| スロベニア | 相互主義型 | EU・OECD・EFTA加盟国の国民・法人は相互主義決定なしに取得できる。 | その他の国は憲法68条及び相互主義の確認を要する。 |
| スペイン | 敏感土地型 | 通常地域には一般的な外国人取得禁止を確認しない。 | 軍事上のrestricted access zoneでは国防当局の許可を要する場合がある。 |
| スウェーデン | 透明性型 | OECDの令和6年データは通常都市不動産について外国差別的な土地措置を記録していない。 | 農地,安全保障,計画及び一般税制は別である。 |
| スイス | 一般許可型 | 外国非居住者・外国支配法人はLex Kollerに基づく州許可を要するのが原則である。 | 主居住,別荘及び商業用の恒久的事業所等で要件・例外が異なり,州・自治体の枠もある。 |
| トルコ | 国籍・区域型 | 対象国籍の自然人は取得でき,居住許可は取得要件ではない。 | 原則30ha,地区私有地10%の上限と軍事・安全保障区域の制限があり,法人には別ルールがある。 |
| 英国 | 透明性型 | 一般的な外国人住宅取得禁止はない。 | 海外法人登録と実質的支配者開示,一定取引の国家安全保障審査及び非居住者向けSDLT加算がある。 |
| 米国 | 連邦・州併存型 | 連邦法には一般的な外国人住宅取得禁止がないが,州法は農地,国籍,外国政府又は居住性を基準として急増している。 | CFIUSが軍事施設等に近い不動産取引を審査し,外国人の農地保有にはAFIDA報告がある。 |
3 外国人・非居住者に固有の取得時税加算
| 国・地域 | 制度 | 基準日現在の加算 |
|---|---|---|
| 豪州・ニューサウスウェールズ州 | surcharge purchaser duty | 9% |
| カナダ・オンタリオ州 | Non-Resident Speculation Tax | 25% |
| カナダ・ブリティッシュコロンビア州の指定地域 | additional property transfer tax | 20% |
| 英国・イングランド及び北アイルランド | 非居住者の住宅SDLT surcharge | 2%ポイント |
これらは全国共通税とは限らず,非居住者,外国人,外国受託者又は外国支配法人等の定義も制度ごとに異なる。
日本の購入税制と比較するときは,通常の移転税率に加えて課される外国人・非居住者固有の加算だけを分けて見る必要がある。
第6 住宅取得を強く制限する4か国
1 豪州,カナダ及びニュージーランド
豪州政府の住宅用地案内によれば,外国人による住宅用地投資は価額を問わず事前審査の対象となる。
令和7年4月1日から令和11年6月30日まで,既存住宅の取得は限定的な例外を除いて原則禁止される一方,新築住宅又は住宅供給を増やす更地は条件付きで取得できる。
カナダの連邦法は,非カナダ人による一定のcensus metropolitan area又はcensus agglomeration内の住宅取得を禁止し,カナダ財務省は期限を令和9年1月1日まで延長した。
対象は主として3戸以下の建物及び区分所有住宅であり,一時居住者等の例外と州税を別に確認する必要がある。
ニュージーランド土地情報庁は,overseas personが住宅又はresidential landを購入することを原則として認めていない。
もっとも,residence class visaを持つ通常居住者等の例外があり,令和8年には一定の投資家ビザ保持者が500万NZドルを超える住宅について同意を得る経路が追加された。
2 スイスのLex Koller
スイス連邦司法局によれば,外国非居住者及び外国支配のスイス法人による不動産取得は,Lex Kollerに基づき州の許可を要するのが原則である。
もっとも,商業,製造又はサービス業の恒久的事業所として用いる不動産等には例外があり,主居住,別荘及び賃貸住宅では要件が異なる。
この制度では,国籍だけでなく居住地,法人支配,物件用途及び州・自治体の枠が結論を左右する。
したがって,「外国人はスイスの不動産を買えない」という一文では制度を正確に表せない。
第7 取得規制と源泉徴収をめぐる裁判例
1 日本の非居住者売主への代金支払
東京高裁平成23年8月3日判決(平成23年(行コ)第117号,税務訴訟資料261号順号11727)は,非居住者への国内不動産譲渡対価について支払者に源泉徴収義務を負わせる制度が憲法13条・29条に反しないと判断した。
判決は,徴収確保,支払者と取引との密接な関係,受給者への求償等を考慮しており,買主が外国人か日本人かではなく,売主への支払が源泉徴収対象かを問題とする。
東京地裁平成28年5月19日判決(平成26年(行ウ)第114号,税務訴訟資料266号順号12856)及び東京高裁平成28年12月1日判決(平成28年(行コ)第219号)は,売主の生活状況,国内滞在日数及び国外口座への送金等から非居住者性を認定した。
住民票等に国内住所の記載があっても,買主が確認義務を尽くしたことにはならないとした点が,決済実務上重要である。
2 EUの資本移動の自由と比例原則
EU司法裁判所は,不動産許可,農地政策,居住義務又は権利消滅が資本移動の自由を制限する場合,公益目的と手段の比例性を審査している。
主要な判決は次のとおりである。
| 判決 | 事件番号・判決日 | 到達点 |
|---|---|---|
| Konle | C-302/97・1999年6月1日 | 土地政策目的を考慮し得るが,差別的又は過度な事前許可は許されない。 |
| Reisch and Others | C-515/99,C-519/99~C-524/99及びC-526/99~C-540/99・2002年3月5日 | 土地取得の宣言・許可制度を資本移動と比例性の観点から審査した。 |
| Ospelt and Schlössle Weissenberg | C-452/01・2003年9月23日 | 農業維持は正当な目的となり得るが,取得者本人の耕作だけを絶対視できない。 |
| Burtscher | C-213/04・2005年12月1日 | 取得後の宣言遅延に取引の当然無効を結び付ける制裁は過度である。 |
| Festersen | C-370/05・2007年1月25日 | 農地取得者への固定的な居住義務は目的に比して過度である。 |
| SEGRO and Horváth | C-52/16及びC-113/16・2018年3月6日 | 外国関連取得者の農地用益権を法定消滅させる措置を資本移動の自由に反するとした。 |
| Commission v Hungary | C-235/17・2019年5月21日 | 補償のない農地用益権消滅はTFEU63条とEU基本権憲章17条に反するとした。 |
これらの判決は,すべての外国人土地規制を否定するものではない。
土地政策,農業共同体又は投機抑制等の目的を前提としても,国籍差別,許可裁量,居住義務,当然無効及び無補償消滅が必要かつ相当かを個別に問うものである。
3 米国のAlien Land Lawsと現在の州法訴訟
Terrace v. Thompson, 263 U.S. 197(1923年11月12日判決)は,当時のワシントン州Alien Land Lawによる一定の外国人の土地所有・賃借制限を合憲とした旧判例である。
その後,Oyama v. California, 332 U.S. 633(1948年1月19日判決)は米国市民である子に不利な差別的推定の適用を平等保護に反するとし,Fujii v. State, 38 Cal.2d 718(1952年4月17日判決)はCalifornia Alien Land Lawを修正14条の平等保護に反するとした。
Shen v. Simpson, 158 F.4th 1227(11th Cir. 2025,2025年11月4日判決)は,フロリダ州法による特定の中国関係者の不動産取得禁止,登録及び宣誓供述義務に対する予備的差止めを扱った。
第11巡回区多数意見は購入禁止部分について原告らのstandingを否定し,他の部分について本案勝訴可能性を認めなかったのであり,購入禁止の本案合憲性を全面的に確定した判決ではない。
第8 令和8年の日本の制度変更と今後の検討
1 取得禁止より取得者情報の把握を強める現行制度
日本では,令和6年4月から外国住所,国内連絡先,外国法人の設立準拠法国及びローマ字氏名等の登記情報が整備された。
令和8年には,外為法の非居住者による不動産取得報告が実物不動産全般へ拡張され,国土利用計画法の届出様式にも国籍,外国法人の役員及び議決権等の項目が追加された。
これらは,通常住宅を外国人一般の許可制に変えたものではない。
現行制度の重心は,取得者・実質的支配者情報の把握,重要土地の利用監視及び非居住者取引の報告にある。
2 新たな許可・事前届出制は政策検討段階であること
政府が令和8年1月23日に決定した総合対策は,外国人による土地取得について,新たな許可制又は事前届出制を令和8年度中に検討する方針を示した。
これは基準日現在の現行法上の購入要件ではなく,将来の制度設計に関する方針である。
政府資料は,全国の外国人による土地所有を,名義人の国籍,居住地,外国支配及び実質的支配者まで含めて完全に把握するデータベースがないことも示している。
外国人所有率の数値を比較するときは,登記名義人の国籍だけを数えたのか,非居住者又は外国支配法人まで含めたのかを確認する必要がある。
第9 日本で購入するときの確認事項
1 契約前の確認事項
①買主について,国籍,住所,在留状況,外為法上の居住者性,法人の設立地・代表権・実質的支配者及び登記用証明書を確認する。
②物件について,登記,境界,接道,都市計画,賃貸借,抵当権,重要土地の区域,大規模土地,農地及び森林の該当性を確認する。
③売主について,居住者性を客観的資料で確認し,10.21%源泉徴収の要否を契約と決済方法に反映する。
2 契約・決済後の確認事項
①契約書の正文,代金送金,為替,銀行審査,租税公課の精算,所有権移転登記及び国内連絡先を準備する。
②特別注視区域は200m²以上の契約前届出,国土利用計画法は一定規模以上の契約後2週間以内届出,外為法は非居住者の取得後20日以内報告を区別する。
③地域森林計画対象民有林の届出,賃貸時の源泉徴収・確定申告,納税管理人及び所有者住所変更後2年以内の登記を管理する。
不動産を所有するだけでは,日本の在留資格を取得できない。
事業用不動産を購入して事業を行う場合でも,「経営・管理」の在留資格の事業規模・実体等の要件を別に満たす必要がある。
第10 出典・参考資料
1 法令
①外国人土地法1条・2条・4条・5条
②外国為替及び外国貿易法20条10号・55条の3第1項12号
③重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律5条・9条・13条・23条・25条~28条
④国土利用計画法23条,農地法3条,森林法10条の7の2
⑤犯罪による収益の移転防止に関する法律4条・6条・7条
⑥法の適用に関する通則法13条,宅地建物取引業法35条・37条
⑦不動産登記規則156条の5・156条の6・158条の31
2 裁判例
①東京高裁平成23年8月3日判決,平成23年(行コ)第117号,税務訴訟資料261号順号11727
②東京地裁平成28年5月19日判決,平成26年(行ウ)第114号,税務訴訟資料266号順号12856,及び東京高裁平成28年12月1日判決,平成28年(行コ)第219号
③EU司法裁判所のKonle,Reisch and Others,Ospelt,Burtscher,Festersen,SEGRO and Horváth及びCommission v Hungary
④米国連邦最高裁のTerrace v. Thompson及びOyama v. California,カリフォルニア州最高裁のFujii v. State,第11巡回区控訴裁判所のShen v. Simpson
3 行政資料・統計
①財務省「非居住者による不動産等の取得」,同「よくある質問」及び日本銀行「外為法に関する手続き」
②内閣府「重要土地等調査法」,同「特別注視区域における届出」及び同「よくある質問」
③国土交通省「国土利用計画法施行規則の一部改正」(令和8年2月2日)並びに法務省「令和6年4月1日以降の不動産登記制度」,「外国に住所を有する外国人の住所証明情報」及び「住所等変更登記の義務化」
④国税庁「非居住者等から土地等を購入したとき」,「非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき」,「登録免許税」,「消費税」及び「納税管理人」
⑤東京都主税局「不動産取得税」及び「固定資産税・都市計画税」
⑥OECD, FDI Regulatory Restrictiveness Index, regulatory database 2024
⑦内閣官房「外国人との秩序ある共生社会推進室総合的対応策関係資料」(令和8年1月23日決定関係)
⑧苗村沙織・岩﨑光「外国人による不動産取得に関する整理―分野横断的視点からの整理」衆議院調査局国土交通調査室,令和8年2月,資料1頁~45頁(PDF1頁~45頁)
⑨各国制度の主な原典は,オーストリア政府,デンマークCivil Affairs Agency,エストニア法令,フィンランド法令,アイスランド政府,イタリア外務省,韓国国家法令情報センター,メキシコ連邦議会,ポーランド内務省,スロベニア政府及びトルコ政府投資局の各公表資料である。
⑩外国人・非居住者向け税加算は,NSW州歳入庁,オンタリオ州政府,ブリティッシュコロンビア州政府及び英国政府の各公表資料である。
4 文献
①『渉外不動産登記の法律と実務―相続,売買,準拠法に関する実務解説』日本加除出版,平成26年,161頁~213頁(PDF183頁~235頁)