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給費制廃止違憲訴訟8件の判決一覧と裁判所の判断(AI作成)

第1 給費制廃止違憲訴訟の対象と結論

1 本記事が扱う8件の訴訟

給費制廃止違憲訴訟は,平成23年11月に給費制から貸与制へ移行したことについて,新65期,新66期及び新67期の司法修習修了者が国に金銭の支払を求めた一連の訴訟である。本記事は,給費制廃止自体の違憲・違法を理由として未払給与,損失補償又は国家賠償を求めた全国7地方裁判所の8件を対象とし,各事件の対応関係と裁判所の判断を整理する。

制度の金額,貸与申請及び現在の修習給付金については,司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金及び司法修習に関する事務便覧(令和7年3月)とはが扱っている。本記事では,これらの制度説明を必要な範囲にとどめ,訴訟と判決理由を中心とする。

2 8件はいずれも原告敗訴で確定したこと

8件の一審判決はいずれも原告らの請求を棄却し,控訴及び上告・上告受理申立ても退けられた。裁判所は,憲法が法曹養成制度の整備を予定しているとしても,司法修習生に国庫から給与又は給付金を支給するという特定の制度まで直接要求していないとし,法曹養成の方法,期間及び費用負担は立法府の合理的裁量に委ねられると判断した。

ただし,この結論は,貸与制が政策として最善であったこと又は給費を受けられなかった世代への救済が不要であることを意味しない。名古屋高裁令和元年5月30日判決は,憲法上の給費請求権を否定する一方,従前の給費制が果たした役割と経済的支援の必要性を軽視してはならず,いわゆる谷間世代への一律給付等は立法政策として十分考慮に値すると付言している。

第2 給費制から貸与制及び修習給付金制度への移行

1 旧裁判所法67条2項の給費制

給費制の根拠は,平成16年改正前の裁判所法67条2項であり,同項は,司法修習生が修習期間中に国庫から一定額の給与を受ける旨を定めていた。新64期に支給された月額給与は20万4200円であり,現行65期も平成24年3月31日までは同額,同年4月1日以降は19万4460円であった。これに加えて,通勤手当,住居手当,期末手当等も支給されていた。

政府は,給費制の目的について,修習専念義務を課された司法修習生の生活基盤を保障し,司法修習の実効性を確保することにあると説明していた。他方,給与という名称であっても,司法修習生が国へ労務を提供することの対価であるとは説明していなかった。

2 平成16年改正と平成22年の1年延期

裁判所法の一部を改正する法律(平成16年法律第163号)は,給費制を廃止し,無利息の修習資金貸与制へ移行することを定めた。政府は,法曹人口の増加に伴う財政負担,司法制度全体に関する財源の配分及び公的負担についての国民の理解を理由として挙げたが,法曹志望者の経済的負担への配慮を求める附帯決議もされた。

裁判所法の一部を改正する法律(平成22年法律第64号)は,貸与制への移行を1年間延期した。その結果,新64期及び現行65期には給費制が適用され,平成23年11月採用の新65期から貸与制が適用された。新65期から70期までの貸与額は月額23万円が基本であり,事情に応じて18万円から28万円までとされ,修習終了後5年間据え置いた後に10年間で返還する制度であった。

3 平成29年改正による修習給付金制度

裁判所法の一部を改正する法律(平成29年法律第23号)は,71期以降の司法修習生について修習給付金制度を創設した。最高裁判所の修習給付金案内によれば,現在の基本給付金は一給付期間につき13万5000円であり,要件を満たす場合の住居給付金は3万5000円である。

現行裁判所法67条は修習専念義務を,同法67条の2は修習給付金を,同法67条の3は無利息の修習専念資金を定めている。修習専念義務と兼業制限については,司法修習生の修習専念義務に関連資料が整理されている。

第3 全国8件の一審判決

1 提訴された時期と請求の構造

新65期の訴訟は,平成25年8月2日に東京,名古屋,広島及び福岡の4地方裁判所へ一斉に提起され,原告は合計211人であった。その後,新66期が東京,札幌及び熊本で,新67期が大分で提訴し,全国7地方裁判所の8件となった。

各訴訟は抽象的な違憲確認を求めたのではなく,①旧裁判所法67条2項に基づく未払給与,②憲法29条3項に基づく損失補償,③給費制廃止の立法行為,給費制を復活しなかった立法不作為又は内閣の法案提出を違法とする国家賠償を,主位的,予備的又は選択的に組み合わせた金銭請求である。多くの事件では,各原告について1万円を請求する一部請求が採用された。

2 一審判決の一覧

訴訟一審判決・事件番号原告の期結論・公開状況
東京65期東京地裁平成29年9月27日判決・平成25年(ワ)第20444号新65期請求棄却。裁判所HP掲載
広島65期広島地裁平成29年9月27日判決・平成25年(行ウ)第32号新65期請求棄却。裁判所HP掲載
大分67期大分地裁平成29年9月29日判決・平成27年(ワ)第355号・第550号,平成28年(ワ)第113号新67期請求棄却。裁判所HP掲載,判例時報2363号47頁
福岡65期福岡地裁平成29年10月17日判決・平成25年(行ウ)第73号新65期請求棄却。裁判所HP掲載
名古屋65期名古屋地裁平成29年12月20日判決・平成25年(行ウ)第78号新65期請求棄却。裁判所HP掲載
熊本66期熊本地裁平成30年4月16日判決・平成26年(ワ)第890号,平成27年(ワ)第192号,平成29年(ワ)第42号新66期請求棄却。裁判所HP未掲載,公開判例評釈で書誌・結論確認(LEX/DB 25560135)
東京66期東京地裁平成30年6月15日判決・平成26年(ワ)第23555号新66期請求棄却。裁判所HP未掲載,法務年鑑及び訴訟団資料で書誌・結論確認
札幌66期札幌地裁平成31年4月11日判決・平成26年(ワ)第2193号新66期請求棄却。裁判所HP掲載

裁判所ウェブサイトは,裁判例検索について,全ての判決等を掲載しているものではないと明記している。したがって,熊本66期及び東京66期の一審判決が同サイトで確認できないことは,判決の不存在を意味しない。

第4 控訴審及び最高裁までの経過

1 原本で上告審まで確認できる3件

東京65期訴訟は,東京高裁平成30年5月16日判決・平成29年(ネ)第4781号が控訴を棄却し,最高裁第二小法廷令和元年7月10日決定・平成30年(オ)第1231号,同年(受)第1511号が上告を棄却し,上告審として受理しなかった。

広島65期訴訟は,広島高裁平成30年10月10日判決・平成29年(行コ)第21号が控訴を棄却し,最高裁第二小法廷令和元年7月10日決定・平成31年(行ツ)第65号,同年(行ヒ)第74号が上告を棄却し,上告審として受理しなかった。

大分67期訴訟は,福岡高裁平成30年9月28日判決・平成29年(ネ)第826号が控訴を棄却し,最高裁第二小法廷令和元年7月10日決定・平成31年(オ)第222号,同年(受)第269号が上告を棄却し,上告審として受理しなかった。

2 福岡高裁平成29年(ネ)第826号の事件対応

福岡高裁平成29年(ネ)第826号は,福岡65期訴訟ではなく,大分67期訴訟の控訴審である。最高裁決定に記載された原審事件番号と大分県内の当事者・代理人表示に加え,福岡高裁の特別保存事件一覧が,同事件と福岡65期の平成29年(行コ)第43号を別事件として掲載していることから確認できる。

福岡65期訴訟の控訴審事件番号は,福岡高裁平成29年(行コ)第43号である。熊本66期訴訟の控訴審は福岡高裁令和元年5月10日判決・平成30年(ネ)第438号であり,熊本県弁護士会の会長声明によれば,最高裁第三小法廷が令和2年10月13日に上告を退けた。

3 上級審の公表資料に残る限界

名古屋65期訴訟の控訴審は,名古屋高裁令和元年5月30日判決・平成30年(行コ)第5号である。東京66期訴訟は東京高裁平成31年2月6日判決及び最高裁令和元年9月6日決定,札幌66期訴訟は札幌高裁令和2年12月18日判決・平成31年(ネ)第170号を経て確定したとする訴訟団側資料がある。

もっとも,福岡65期,名古屋65期,東京66期及び札幌66期の最高裁事件番号等について,裁判所ウェブサイトで決定原本を確認することはできなかった。このため,本記事は未確認の事件番号を推測せず,公開原本又は複数資料で確認できた範囲だけを記載している。

第5 裁判所が給費を受ける権利を否定した理由

1 法曹養成制度と憲法上の給費請求権

原告らは,国民の裁判を受ける権利を実質化するためには,多様で質の高い法曹を国の責任で養成する必要があり,統一司法修習,修習専念義務及び給費制は不可分であると主張した。これに対し裁判所は,憲法が法曹養成制度を予定しているとしても,具体的な養成方法や経済的支援の方式を一義的に定めていないため,給費制の維持は憲法上の義務ではないとした。

この判断の中心は,司法制度を整備する国の責務と,個々の司法修習生が国に金銭を請求できる具体的権利とを区別した点にある。法曹養成が公的制度であることから,直ちに特定の金銭給付請求権が導かれるわけではないとされたのである。

2 憲法27条の勤労者性

原告らは,司法修習生が修習専念義務,出席義務,兼業制限,守秘義務及び規律を受け,実務修習では実際の事件に関与することから,国へ労務を提供する勤労者であると主張した。裁判所は,司法修習生には裁判官,検察官又は弁護士として職務を行う権限がなく,実務修習も自己の能力と識見を養成するための教育過程であるとして,国に対する労務提供を否定した。

最高裁昭和42年4月28日第二小法廷判決(昭和38年(オ)第5号,民集21巻3号759頁)も,司法修習生は国家公務員退職手当法上の職員ではなく,給与の支給,監督及び行為制限は修習目的を達成するための措置であると判断している。給費制廃止違憲訴訟は,この司法修習生の法的地位に関する先行判例と整合する形で憲法27条の主張を退けた。

3 憲法14条及び22条

憲法14条1項については,給与を受けた新64期・現行65期,貸与制の新65期から70期及び修習給付金を受ける71期以降の取扱いの差が争われた。裁判所は,制度変更には適用時期による境界が生じること,給費制廃止と平成29年の給付金導入がそれぞれ異なる時点の政策判断に基づくことなどから,立法府の広い裁量を前提とすれば合理的根拠のない差別とはいえないとした。

憲法22条1項についても,経済的負担が法曹への進路選択に影響し得ること自体ではなく,貸与制を含む制度全体が職業選択の自由を侵害するほど不合理であるかが審査された。裁判所は,無利息貸与,長期の返還期間,返還猶予及び免除制度が設けられていたことも考慮し,立法裁量の逸脱を否定した。

4 憲法29条3項及び国家賠償

原告らは,修習専念義務によって就労や営業を制限されながら無給で修習を受けたことが,憲法29条3項の特別の犠牲に当たるとも主張した。裁判所は,修習専念義務を法曹資格取得のための教育過程に内在する一般的制約と捉え,財産権を公共のために用いた場合の損失補償請求を認めなかった。

国家賠償請求についても,給費制廃止が憲法違反ではないとされたことに加え,国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるのは,憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白であるなどの例外的な場合に限られるとの判断枠組みが用いられた。その結果,立法行為,立法不作為及び内閣の法案提出について国家賠償法上の違法は認められなかった。

5 違憲審査の密度をめぐる対立

一連の判決は,法曹養成制度の具体的内容が憲法から一義的に決まらないことを出発点として,立法府に広い制度設計裁量を認めた。大分地裁平成29年9月29日判決は,制度設計によって多数の者が法曹三者を志すことを断念せざるを得ず,司法制度が憲法上求められる機能を維持できなくなるなど,法曹養成の目的に照らして著しく不合理であるという特段の事情がない限り,立法裁量に委ねられるとの審査枠組みを示した。

これに対し,判例評釈には,憲法が法曹養成制度を要請する以上,具体的方法が一義的に決まらないことから直ちに給費制廃止を広い裁量へ委ねるのではなく,制度が憲法上期待される機能を現実に果たすかを検討すべきであるとの批判がある。また,長期間定着した制度の核心部分を後退させる変更には,より厳格な審査を求める見解も紹介されている。もっとも,公表された8件の判決でこの見解を採用して違憲としたものはなく,8件はいずれも原告敗訴で確定している。

第6 名古屋高裁判決の付言と最高裁決定の射程

1 法的請求権と政策的救済を分けた付言

名古屋高裁令和元年5月30日判決は,給費制及び修習給付金を受ける権利について憲法上の保障を否定し,71期以降だけを平成29年改正の対象としたことも憲法14条1項に違反しないとした。その一方で,従前の給費制が果たした役割と司法修習生に対する経済的支援の必要性は軽視されてはならず,給費も修習給付金も受けられなかった世代が不公平感を抱くのは当然であると述べた。

同判決は,これらの世代に一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置について,立法政策として十分考慮に値するとした。したがって,判例の到達点は「救済の必要がない」ではなく,「憲法上の金銭請求権として裁判所が給付を命じることはできないが,立法政策としての救済は別に検討できる」というものである。

2 最高裁の不受理決定が意味すること

確認できた最高裁決定は,上告理由が民事訴訟法312条1項又は2項所定の事由に当たらないとして上告を棄却し,同法318条1項により受理すべき事件とも認められないとしている。最高裁が独自の理由を示して給費制廃止を合憲と判断した判決ではない。

上告不受理は,最高裁が重要な法令解釈事項として事件を受理しないという訴訟上の処理であり,原判決の全ての理由を最高裁自身の判例として採用することとは異なる。もっとも,上級審で原判決が取り消されなかったため,各事件について原告敗訴が確定したという法的効果は変わらない。

第7 現在まで残る谷間世代の問題

1 平成29年改正が遡及適用されなかった理由

政府は,平成29年改正を,将来の法曹人材確保のため新たに司法修習生となる者を対象とする制度と位置付けた。過去の貸与制対象者には貸与を受けなかった者もいること,個々の経済状況が異なること,事後的な一律給付について国民の理解を得られるかという問題及び財政負担を理由として,遡及給付を困難としている。

令和5年3月8日の衆議院法務委員会でも,政府は同様の説明を維持した。他方,弁護士会等は,修習内容と修習専念義務が基本的に共通する世代間で経済的取扱いに大きな差があるとして,一律給付等を求めている。この対立は,給費請求権に関する訴訟上の争点というより,過去の制度変更による不均衡をどこまで公費で是正するかという政策上の争点である。

2 修習給付金額の据置き

令和7年12月11日の衆議院法務委員会で,最高裁判所事務総局は,基本給付金13万5000円及び住居給付金3万5000円が71期の制度開始以来変更されておらず,その時々の物価水準に合わせて逐次変更することまでは想定していないと説明した。現在は,谷間世代への遡及給付だけでなく,物価及び住居費の上昇を踏まえた将来の給付額,税負担後の生活保障及び修習専念資金の返還負担も検討課題となっている。

大阪高裁令和5年7月26日判決(令和5年(行コ)第15号)は,基本給付金を所得税法上の非課税となる学資金とは認めず,雑所得に当たるとした。修習給付金が給与ではないことと,所得税法上非課税となることは別の問題である。

第8 出典・参考資料

1 法令及び国会会議録

裁判所法(昭和22年法律第59号)67条,67条の2及び67条の3(e-Gov法令検索)

裁判所法の一部を改正する法律(平成16年法律第163号)(衆議院)

裁判所法の一部を改正する法律(平成22年法律第64号)(衆議院)

④裁判所法の一部を改正する法律(平成29年法律第23号)及び審議経過(衆議院)

第161回国会参議院法務委員会第11号(平成16年12月1日。国立国会図書館国会会議録検索システム)

第193回国会参議院法務委員会第7号(平成29年4月18日。同上)

第211回国会衆議院法務委員会第2号(令和5年3月8日。同上)

第219回国会衆議院法務委員会第7号(令和7年12月11日。同上)

2 裁判例

東京地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(ワ)第20444号,裁判所ウェブサイト)

広島地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(行ウ)第32号,裁判所ウェブサイト)

大分地方裁判所平成29年9月29日判決(平成27年(ワ)第355号・第550号,平成28年(ワ)第113号,判例時報2363号47頁,裁判所ウェブサイト)

福岡地方裁判所平成29年10月17日判決(平成25年(行ウ)第73号,裁判所ウェブサイト)

名古屋地方裁判所平成29年12月20日判決(平成25年(行ウ)第78号,裁判所ウェブサイト)

⑥熊本地方裁判所平成30年4月16日判決(平成26年(ワ)第890号,平成27年(ワ)第192号,平成29年(ワ)第42号。裁判所HP未掲載。公開判例評釈で書誌・結論を確認し,同評釈記載のLEX/DB文献番号は25560135)

⑦東京地方裁判所平成30年6月15日判決(平成26年(ワ)第23555号。裁判所HP未掲載。法務年鑑及び訴訟団資料で書誌・結論を確認し,判決原本は未確認)

札幌地方裁判所平成31年4月11日判決(平成26年(ワ)第2193号,裁判所ウェブサイト)

名古屋高等裁判所令和元年5月30日判決(平成30年(行コ)第5号,裁判所ウェブサイト)

最高裁判所第二小法廷昭和42年4月28日判決(昭和38年(オ)第5号,民集21巻3号759頁,裁判所ウェブサイト)

大阪高等裁判所令和5年7月26日判決(令和5年(行コ)第15号,裁判所ウェブサイト)

3 裁判所資料及び公表資料

最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」

最高裁判所「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要(第71期以降)」

福岡高等裁判所「特別保存に付した事件」

熊本県弁護士会「第66期司法修習生給費制廃止違憲熊本訴訟上告棄却決定に関する会長声明」(令和2年10月15日)

自由法曹団通信第1485号「給費制廃止違憲訴訟提訴の御報告と御礼」(平成26年1月1日)

4 文献

①自由法曹団編『自由法曹団物語―人間の尊厳をかけてたたかう30話』(日本評論社,2021年)365頁~375頁

②現代民事判例研究会編『民事判例17 2018年前期』(日本評論社,2018年)35頁~36頁

③中川律「司法修習生への給費制廃止の合憲性(熊本事件一審判決)」『新・判例解説Watch』憲法No.143,vol.23(2018年)1頁~4頁