裁判所の文書管理・情報公開

プライバシー保護に関する,司法行政文書開示手続の判断例及び最高裁令和2年10月9日判決(家庭裁判所調査官の論文及び書籍はプライバシー権を侵害しないとしたもの)

目次
第1 プライバシー保護に関する,司法行政文書開示手続の判断例
1 松山市の20代女性が窃盗容疑で愛媛県警松山東署に誤認逮捕されたかどうかは不開示情報であること
2 平成30年12月21日に公表された,カルロス・ゴーンの勾留延長却下に対する東京地検の準抗告を退けた理由の要旨が書いてある文書は不開示情報であること
第2 プライバシー保護に関する,最高裁令和2年10月9日判決(自ら担当した少年保護事件に関する家庭裁判所調査官の論文及び書籍はプライバシー権を侵害しないとしたもの)
1 事案の内容及び結論
2 家庭裁判所調査官の論文の内容
3 家庭裁判所調査官の書籍の出版
4 インターネット検索の結果
5 本ブログ記事におけるインターネット検索の結果に関する記載はあくまでも参考程度にして欲しいこと
6 判決文の匿名化基準には疑問を感じること
第3 裁判官及び裁判所職員の文書廃棄義務
第4 家庭裁判所調査官の倫理
第5 関連記事その他

第1 プライバシー保護に関する,司法行政文書開示手続の判断例
1 松山市の20代女性が窃盗容疑で愛媛県警松山東署に誤認逮捕されたかどうかは不開示情報であること
(1) 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会の答申内容
ア 令和2年9月24日答申(令和元年度(情)第25号)には「委員会の判断の理由」として以下の記載があります(1及び2を①及び②に置き換えています。)。
① 本件開示の申出の内容からすれば,本件開示申出文書の存否を明らかにすると,特定市の特定年代の女性が特定犯罪の容疑で特定警察署に逮捕されたという事実の有無(以下「本件存否情報」 という。 )が公になると認められる。本件存否情報は,特定の個人を識別することができる情報には当たらないものの,仮に上記事実に該当する女性が存在した場合において, 当該女性に関して入手可能な他の情報と照合することにより, 当該女性が識別される可能性があることは完全には否定できず,ひいては, 当該女性の逮捕歴という機微な情報が明らかとなって当該女性の権利利益を害するおそれがあるといえる。したがって,本件存否情報は,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれがある情報であると認められる。
   よって,本件開示申出文書については,その存否を答えるだけで法5条1号後段に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになると認められる。
② 以上のとおり,原判断については,本件開示申出文書の存否と答えるだけで法5条1号後段に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになると認められるから,妥当であると判断した。
イ 本件開示申出文書は,「松山市の20代女性が窃盗容疑で愛媛県警松山東署に誤認逮捕された問題について,逮捕状を出した裁判官の氏名が書いてある文書」ですから,本件開示申出文書が開示された場合,当該裁判官の権利利益を害するおそれがあるものの,そのことは不開示理由になっていません。
 しかし,結果として,誤認逮捕された女性のプライバシー保護の反射的効果として,誤認逮捕に関する逮捕状を出した裁判官の氏名が開示されない結果となりました。


(2) 松山市の20代女性が窃盗容疑で愛媛県警松山東署に誤認逮捕された事件自体は松山地裁及び愛媛県警察によって公表されていること
ア 愛媛弁護士会HPの「愛媛弁護士会意見・会長声明」に,令和元年11月28日付の,愛媛県警察(松山東警察署)誤認逮捕事件に抗議する会長声明が掲載されています。
 当該会長声明には,「本年7月,愛媛県警察(松山東警察署)がタクシー窃盗事件の被疑者として20代の女性を誤認逮捕する事件が発生した。」と書いてあるにもかかわらず,その全文が松山地裁によって開示されました令和元年11月28日付の,愛媛県警察(松山東警察署)誤認逮捕事件に抗議する会長声明参照)。
イ 篠原英樹愛媛県警察本部長(令和元年9月9日着任)は,令和元年9月18日の愛媛県議会の定例会において以下の答弁をしており(発言番号はNo.15),松山東警察署が女性を誤認逮捕した事実を公表しています。
 松山東警察署の誤認逮捕についての御質問のうち、今回の事案の問題点に関する御質問にお答えいたします。
 今回の事件では、事件と全く無関係の女性を逮捕しており、当事者の女性にはまことに申しわけないと思っております。
 現在、県警では、被疑者特定の経緯、裏づけ捜査の状況、捜査指揮のあり方等、誤認逮捕に至った要因や取り調べの状況について調査中であり、結果を取りまとめた上で、丁寧に御説明したいと考えているところでございます。
 現時点で把握している問題点としては、タクシー内のドライブレコーダーの映像を誤認逮捕された女性と見誤ったことや幹部によるチェック機能がおろそかになったことが挙げられます。
 捜査、特に逮捕に関しては、客観証拠の収集、裏づけ捜査等を幅広く、かつ厳格に行うことが重要と考えております。
 県警においてしっかり調査を行い、その結果を踏まえ、今後、同じような事案が二度と起こらないよう再発防止に努めてまいりたいと考えております。

2 平成30年12月21日に公表された,カルロス・ゴーンの勾留延長却下に対する東京地検の準抗告を退けた理由の要旨が書いてある文書は不開示情報であること
(1) 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会の答申内容
ア 令和2年9月24日答申(令和2年度(情)答申第12号)には「第6 委員会の判断の理由」として以下の記載があります(1,2及び3を①,②及び③に置き変えています。)。
① 本件開示の申出の内容からすれば,本件開示申出文書の存否が明らかにされた場合,特定人が当該申出で例示された準抗告事件を含む特定の刑事事件の当事者であるという事実の有無が公になり,したがって,この情報は法5条1号に規定する個人識別情報に相当すると認められる。
② 苦情申出人は,報道機関による報道を主な根拠として,特定人の刑事事件に関し,東京地方検察庁の準抗告を退けた理由の要旨については東京地方裁判所が報道各社に明らかにしたものであるから,慣行として公にすることが予定されている情報であるといえる旨を主張し, これに対して,最高裁判所事務総長は,当該特定人の準抗告に関する報道は報道機関の責任において当該報道がされたものであり,そのことをもって,上記情報が法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とはいえない旨説明する。
 この点につき,当委員会庶務を通じて確認した結果によれば,東京地方裁判所が報道機関からの個別の取材に応じたことはあったものの,裁判所として公表したものはないことが認められる。このことも踏まえて検討すれば,特定の刑事事件に関する当事者名等の情報が新聞等で報道され,そのことにより,当該情報が一時的に公衆の知り得る状態に置かれたとしても,これはあくまでも報道機関がした取材の結果に基づき,当該報道機関の報道に関する方針等に沿ってそれぞれ報道されたものにとどまるから,そのことをもって,当該情報が慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に該当することになるとはいえない。
 以上によれば,特定人が準抗告事件を含む特定の刑事事件の当事者であるという事実の有無に関する情報について,法5条1号ただし書イに掲げる情報に相当する事情があるとはいえない。
 したがって,苦情申出人の上記主張は採用できない。
 そのほか,法5条1号ただし書ロ及びハに掲げる情報に相当するような事情も認められない。
 よって,本件開示申出文書については,その存否を答えるだけで法5条1号に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになると認められる。
③ 以上のとおり,原判断については,本件開示申出文書の存否を答えるだけで法5条1号に規定する情報に相当する不開示情報を開示することになると認められるから,妥当であると判断した。
イ 本件開示申出文書は,「平成30年12月21日に公表された,カルロス・ゴーンの勾留延長却下に対する東京地検の準抗告を退けた理由の要旨が書いてある文書」です。
(2) 産経新聞HPの「東京地裁、ゴーン容疑者めぐり異例の対応…準抗告の棄却理由公表」(2018年12月21日付)には以下の記載があります。
 東京地裁は21日、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)らの勾留延長を認めなかった20日の決定に対する東京地検特捜部の準抗告を棄却した理由を公表した。異例の対応で、裁判所の決定に海外からも注目が集まっており、説明責任を果たす必要があると判断したもようだ。


第2 プライバシー保護に関する,最高裁令和2年10月9日判決(自ら担当した少年保護事件に関する家庭裁判所調査官の論文及び書籍はプライバシー権を侵害しないとしたもの)
1 事案の内容及び結論
(1) 事案の内容
ア 判決文1頁によれば,「家庭裁判所調査官であった上告人Y1は,被上告人に対する少年保護事件を題材とした論文を精神医学関係者向けの雑誌及び書籍に掲載して公表した。本件は,被上告人が,この公表等によりプライバシーを侵害されたなどと主張して,上告人Y1,上記雑誌の出版社である上告人アークメディア及び上記書籍の出版社である上告人金剛出版に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案」です。
イ 判決文3頁には,「被上告人は,先天的な発達障害の一種であるアスペルガー症候群(以下「本件疾患」という。)を有するとの診断を受けていた。 」とか,「上告人Y1は,平成N+2年■月までに家庭裁判所調査官を退官し,同年■月,大学の心理学部教授に就任した。 」と書いてあります。
(2) 事案の結論
・ 判決文7頁には,結論として以下の記載があります。
   以上の諸事情に照らすと,本件プライバシー情報に係る事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとまではいい難い。したがって,本件各公表が被上告人のプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできない。そうすると,本件各公表が違法であることを理由とする被上告人の上告人らに対する損害賠償請求は,いずれも理由がない。
2 家庭裁判所調査官の論文の内容
・ 判決文2頁及び3頁によれば以下のとおりです(本件月刊誌というのは,株式会社アークメディアの発行に係る臨床精神医学に関する月刊誌です。)。
ウ 上告人アークメディアは,本件論文を採用し,これを平成N+1年■月発行の本件月刊誌(以下「本件掲載誌」という。)に掲載した(以下,上告人Y1が本件論文を本件掲載誌において公表した行為を「本件公表」という。)。被上告人は,本件公表の当時,19歳であった。 
(3)   上告人Y1は,本件保護事件における調査の際に作成した手控えを基礎資料として本件論文を執筆した。その内容は,本件掲載誌における論文特集の前記趣旨に沿ったものであった。上告人Y1は,本件論文において取り上げた「少年」(以下「対象少年」ともいう。)が容易に特定されることがないように,対象少年の氏名や住所等の記載を省略しており,本件論文には,対象少年やその関係者を直接特定した記載部分はなく,対象少年や父親の年齢等を記載した箇所はあるものの,本件保護事件が係属した時期など,本件論文に記載された事実関係の時期を特定した記載部分もなかった。
   他方において,上告人Y1は,本件論文の執筆に当たり,症例の事実それ自体を加工すると本件疾患の症例報告としての学術的意義が弱まることを懸念し,本件疾患の診断基準に合致するエピソードをそのまま記載していた。また,本件論文には,対象少年の家庭環境や生育歴に関して具体的な記載がされ,学校生活における具体的な出来事も複数記載されていたことから,これらを知る者が,本件論文を読んだ場合には,その知識と照合することによって対象少年を被上告人と同定し得る可能性はあった。なお,精神医学の症例報告を内容とする論文においては,一般的に,患者の具体的な症状のほか,家族歴,既往歴,生育・生活歴,現病歴,治療経過,考察等を必須事項として正確に記載することが求められていた。
   本件論文には,対象少年の非行事実の態様,母親の生育歴,小学校における評価,家庭裁判所への係属歴及び本件保護事件の調査における知能検査の状況に関する記載部分があり,これらの記載部分には,対象少年である被上告人のプライバシーに属する情報が含まれていた(以下,上記記載部分に含まれる被上告人のプライバシーに属する情報を「本件プライバシー情報」という。)。
3 家庭裁判所調査官の書籍の出版
・ 判決文3頁及び4頁には以下の記載があります。
   上告人金剛出版は,平成N+4年■月,本件論文を含め,上告人Y1がそれまでに発表した論文を1冊にまとめた書籍(以下「本件書籍」という。)を出版した(以下,上告人Y1が本件論文を本件書籍に掲載して再公表した行為を「本件再公表」といい,本件公表と併せて「本件各公表」という。)。本件書籍は,少年事件において発達障害を有する者に関与した事例についての知識を共有することをもって,精神医学,臨床心理学その他関連領域における研究活動の促進を図るとともに,本件疾患を含む発達障害に対する正しい理解を広めることを目的としたものであり,研究者等を読者と想定して市販された専門書籍であった。
4 インターネット検索の結果
(1)ア 令和2年10月10日現在,判決文を参照して,「アークメディア 臨床精神医学 アスペルガー」でグーグル検索すれば,「臨床精神医学 Vol.34 No.9 特大号 2005年9月 「アスペルガー症候群をめぐって-症例を中心に-」 雑誌 – 2005/1/1」に関するアマゾンの販売サイトが1位表示されます。
イ メディカルオンラインHP「臨床精神医学34巻9号」において,個別の論文を110円で購入できるみたいですが,1334頁ないし1342頁に関する部分はなぜか含まれていません。
(2) 令和2年10月10日現在,判決文を参照して,「金剛出版 少年事件 発達障害 家庭裁判所調査官 アマゾン」でグーグル検索すれば,「大阪、京都、名古屋、東京等の家裁勤務を経て、京都ノートルダム女子大学心理学部教授」に就任した藤川洋子(Wikipediaによれば,2006年に大阪家庭裁判所総括主任家裁調査官として退職したとのことです。)が著した,2008年7月8日出版の「発達障害と少年非行―司法面接の実際」に関するアマゾンの販売サイトが1位表示されていますし,紀伊國屋書店の「発達障害と少年非行―司法面接の実際」の目次によれば,「第9章 特異な非行とアスペルガー障害―最優域知能を持つ少年との面接」が含まれています。
   そのため,私は同日,アマゾンで「発達障害と少年非行-司法面接の実際」を注文しました。
5 本ブログ記事におけるインターネット検索の結果に関する記載はあくまでも参考程度にして欲しいこと
(1) 前述したとおり,最高裁判所は,松山市の20代女性が窃盗容疑で愛媛県警松山東署に誤認逮捕された問題に関する文書の存否が明らかになった場合,当該女性の逮捕歴という機微な情報が明らかとなって当該女性の権利利益を害するおそれがあると判断しているぐらい,個人識別情報の範囲を広く解釈しています。
   また,下級裁判所判例集に掲載する裁判例の選別基準等について(平成29年2月17日付の最高裁判所事務総局広報課長等の事務連絡)が定める掲載に関する基準に違反して,刑事事件の判決を裁判所ウェブサイトに掲載する判断に関与した当該刑事事件の裁判長裁判官らは,厳重注意又は注意の対象となりました(最高裁大法廷令和2年8月26日決定,及び「栃木力裁判官(33期)の経歴」参照)。
   さらに,犬の返還請求等に関する民事訴訟を提起して犬の返還請求が認められた当事者の感情をツイートによって傷つけた46期の岡口基一裁判官は,最高裁大法廷平成30年10月17日決定によって戒告されました(「岡口基一裁判官に対する分限裁判」参照)ことからすれば,最高裁判所は,裁判所ウェブサイトの記載によって当事者の感情を傷つけることがないようにしていると思います。
   しかも,少年法61条は,「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」と定めています。
   そのため,最高裁判所としては,インターネット検索で簡単に特定できるような機微情報を含んだ状態の判決文を裁判所ウェブサイトで公表することはないと思われますから,本ブログ記事で言及したインターネット検索の結果と,最高裁令和2年10月9日判決が取り扱った事案とは無関係であるかもしれません。
(2) 私は,破産管財人をした後に非免責債権に関して破産者の訴訟代理人をした兵庫県弁護士会副会長経験者が日弁連懲戒委員会の全員一致で懲戒不相当にされる理由を理解できる能力すら有していません(「弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求事件について,日弁連懲戒委員会に定型文で棄却された体験談(私が情報公開請求を開始した経緯も記載しています。)」参照)。
(3) そういうわけですから,本ブログ記事におけるインターネット検索の結果に関する記載はあくまでも参考程度にしてください
6 判決文の匿名化基準には疑問を感じること
(1) 「アスペルガー症候群(以下「本件疾患」という。)」及び「発達障害」という部分を,例えば,「特定症候群(以下「本件疾患」という。)」及び「特定障害」という表記にされていた場合,判決文を見ただけでは,インターネット検索でそれらしきホームページを見つけることすら無理でした。
 また,「アスペルガー症候群」及び「発達障害」に着目した判断が最高裁令和2年10月9日判決でなされているわけではありませんから,アスペルガー症候群及び発達障害という単語を出さかったからといって,判例としての学術的意義が弱まることはなかったと思います。
   そのため,裁判所ウェブサイトにおいて判決文のこれらの表記を残した理由は不明であって,判決文の匿名化基準には疑問を感じるところです。
(2) 例えば,令和2年10月10日現在,「金剛出版 少年事件 家庭裁判所調査官 アマゾン」でグーグル検索すれば,家庭裁判所調査官が少年事件に関して出版した本の販売ページが7つ表示されます。


第3 裁判官及び裁判所職員の文書廃棄義務
1 裁判官の文書廃棄義務
(1) 裁判官が所持する裁判書の写し等の廃棄に関する申合せ(平成29年12月19日付の高等裁判所長官申合せ)には以下の記載があります(「裁判官が所持する裁判書の写し等の廃棄に関する申合せに関する照会及び回答(平成29年12月)」に含まれている文書です。)。
 裁判官が事件処理に関し職務上作成し,又は取得した判決書,決定書,審判書等の裁判書の写しその他の書類(事件記録の写し,事件の手控え,期日メモ(合議メモ) ,和解条項の写し等をいう。 )で所持するものについては,裁判情報を適切に管理するという観点から,退官時までには,廃棄するものとすること。
(2) 裁判官が所持する裁判書の写し等の廃棄に関する申合せ(平成29年12月20日付の最高裁判所裁判官会議申合せ)には以下の記載があります。
 裁判官が事件処理に関し職務上作成し,又は取得した判決書,決定書,審判書等の裁判書の写しその他の書類(事件記録の写し,調査報告書,事件の手控え,期日メモ(合議メモ)等をいう。 )で所持するものについては,裁判情報を適切に管理するという観点から,退官時までに,廃棄するものとする。
(3) 裁判官が所持する裁判書の写し等の廃棄に関する申合せ(平成29年12月19日付の高等裁判所長官申合せ)の違反事例について最高裁判所が作成した文書は存在しません。


2 裁判所職員の文書廃棄義務
(1)ア 裁判官以外の裁判所の職員が所持する裁判事務に関する書類の廃棄について(平成31年2月20日付の最高裁判所事務総長通達)には以下の記載があります(1及び2を①及び②に置き換えています。)。
① 職員は,その所持する裁判事務に関する書類を職務上利用する必要がなくなったときは,速やかにこれを廃棄しなければならない。
② 職員(退職し,又はその任期が満了した後に,再び職員として勤務することが予定されている者を除く。)は,退職し,又はその任期が満了するまでに,その所持する裁判事務に関する書類を全て廃棄しなければならない。
イ 退職した後に再び職員として勤務することが予定されている裁判所職員の例としては,7月30日までに依願退官し,8月1日付で簡易裁判所判事として勤務することが予定されている裁判所職員があります。
(2) 平成31年2月20日付の最高裁判所事務総長通達が守られている場合,最高裁令和2年10月9日判決が取り扱った事案と同じような事案が再び起きることはない気がします。

第4 家庭裁判所調査官の倫理
・ 「家庭裁判所調査官執務必携(平成20年3月の,最高裁判所事務総局家庭局作成の文書)」53頁及び54頁には以下の記載があります。
 国倫法及び国家公務員倫理規程(平成12年政令第101号)においては,公務員が遵守すべき職務に係る倫理原則(同法3条)が定められ、職員の職務に利害関係を有する者からの贈与や接待など, 国民の疑惑や不信を招くような行為が禁止又は制限されている(同規程3条)。さらに,職員と事業者等との接触についての透明性を確保するため,行(一)5級以上の職員には事業者等からの贈与等の報告(同法6条)が義務付けられている。
 これら倫理規律を遵守することはもちろんのことであるが,国倫法や国家公務員倫理規程は国家公務員として守るべき最低限の倫理を定めたものに過ぎず,国民の信頼を基盤とする裁判に携わる裁判所職員には,一般の公務員以上に高い倫理性,公共性,中立性等が強く要請されていることを肝に銘じる必要がある。
 その上,調査官は,その職務として,当事者等の心情や家庭といった内面的領域に立ち入って,個人や家族の高度のプライバシーにかかわる事柄を取り扱うとともに,利害関係を持ち,あるいは立場の異なる当事者等に直接面接して調査及び調整を行っている。さらに,非公開の調査室で,性別にかかわらず当事者等と一対一で面接し,裁判所外の公的でない場所で面接することも許されている。
 このような調査官の職務の特質から,裁判所職員としての倫理規律にとどまらず,調査官としてのより高度な「職業倫理」が強く要求されている。特に, 当事者等との関係における秘密保持の義務,中立公正性の保持及び私的関係の排除の3点については,調査官が遵守すべき基本的な職業倫理として,一層厳格な服務規律と倫理性の保持が要請されている。
 秘密保持の義務については,前記のとおり, 国公法100条に規定されているが,個人情報保護に関する国民の意識が高まっている中で,先に述べたように調査官が高度のプライバシーにかかわる事項を扱っていること等に照らせば,調査官は秘密保持について特に厳格でなければならない。例えば,執務室や裁判所を離れて事件の内容や当事者等について話題にすること,必要性の十分な検討もなく他の関係者の情報等を事件関係者に伝えること,仮名処理等のプライバシー保護の手当てを十分に行わずに担当した事件の内容を研究資料として使用することなどは,いずれも職業倫理上決して許されない行為である。

第5 関連記事その他
1 令和2年度(最情)答申第27号(令和2年10月27日答申)には以下の記載があります。
    当委員会庶務を通じて確認した結果によれば,「司法修習生採用選考申込書」の「12 不採用事由等の有無」欄に,「(3)審査基準(2)ア(エ)関係」として,「かつて起訴(略式起訴を含む。)又は逮捕(補導)されたことの有無」を記載する箇所があることが認められ,また,「令和元年度司法修習生採用選考要項」には,上記司法修習生採用選考審査基準が掲載されており,同審査基準(2)ア(エ)は,司法修習生の不採用事由の一つとして,「品位を辱める行状により,司法修習生たるに適しない者」を掲げていることが認められる。これらの各文書の記載内容を踏まえれば,「司法修習生採用選考申込書」において逮捕歴及び補導歴を記載させる理由は明らかであるということができるから,このほかに同申込書の記載欄の一つ一つにつき,それぞれ申込者に記載をさせる理由を説明した文書が存在することは通常考え難い。
2 東弁リブラ2015年9月号の「座談会 続・司法記者は語る」には以下の記載があります(リンク先10頁)。
西川:昨今はネットでたたかれるというようなこともありますので,取材には協力するけれども,名前を出さないでほしいというのは,対応していただけるものでしょうか。
橋本:弁護人や代理人の場合,基本的には名前は出さないですね。
中島(俊):「皆さんのご意向を踏まえてこちらで判断します」と言うかもしれないですね。結果的に出さないケースももちろんありますが。
和田:伏せてほしいという要望に対してはかなり応えている方なのかなと。ただ例えば,逮捕された容疑者や起訴された被告人の名前は伏せてほしいというのはさすがにできませんが。ただ,そういう場合でも伏せてほしいと要望があれば,理由によっては「ちょっと検討します」ということにはなると思います。
3 日本新聞協会HP「実名報道に対する考え方」(2022年3月10日公表)には以下のQAが載っています。
Q1:なぜ事件の犠牲者を実名で報じるのですか?
Q2:遺族などの匿名希望は考慮していますか?
Q3:実名の報道は報道側の利益のためではないのですか?
Q4:犠牲者や遺族のプライバシーを侵害していませんか?
Q5:遺族などへの取材では、どのような配慮をしていますか?
4 宮城県HPに「個人情報の保護に関する法律等の解釈及び運用基準」が載っています。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 最高裁判所調査官事務取扱要領(平成27年3月31日最高裁判所首席調査官事務取扱要領)
・ 最高裁判所民事・行政調査官室作成の「判例集・裁判集登載事項等に関する事務処理要領(平成27年7月)」
・ 下級裁判所判例集に掲載する裁判例の選別基準等について(平成29年2月17日付の最高裁判所事務総局広報課長等の事務連絡)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の情報公開に関する通達等
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 家庭裁判所調査官の役職
→ 総括主任家裁調査官は,首席家裁調査官及び次席家裁調査官に次ぐ役職です。
・ 首席家庭裁判所調査官の職務

開示請求の対象となった司法行政文書に第三者に関する情報が記録されている場合の取扱い

目次
1 開示請求の対象となった司法行政文書に第三者に関する情報が記録されている場合の取扱い
2 関連記事その他

1 開示請求の対象となった司法行政文書に第三者に関する情報が記録されている場合の取扱い
・ 司法行政文書開示手続の手引(第一部・総論編)27頁及び28頁には以下の記載があります。

第三者に対する意見聴取(取扱要綱記第9,総長通達記第1の6,13条,運用要領12頁)
(1) 意見聴取
    開示の申出があった司法行政文書に裁判所及び開示申出人以外の者(以下「第三者」という。)に関する情報が記録されている場合において, 当該情報が不開示情報に該当するか否か疑義があるときは, 当該第三者に対し,開示についての意見を求めるものとされている(取扱要綱記第9の1)。
    裁判所の司法行政文書開示手続において,第三者に対する意見聴取を行う例として多く見られるのは,他の行政府省が発出した通達類を別紙として引用している裁判所発出の通知類が開示対象となった場合である 25 。
    法13条においては,国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人(以下「国の機関等」という。)は,意見聴取の対象たる「第三者」に含まれていないことから, これらの国の機関等に対する意見聴取は,適宜口頭又は文書による意見照会という形で行うこととされている(運用要領13頁)。
    しかし,司法行政文書開示手続においては,国の機関等に対する意見照会と,それ以外の第三者に対する意見聴取の場合で手続を異にする旨の規定はなく,一律に総長通達別紙様式第4による照会書を送付する取扱いになっている(取扱要綱記第9の1,総長通達記第1の6(1))。
    取扱要綱上,この意見聴取の手続は,開示申出ごとに行うことが予定されていると解される。したがって,同一文書が複数回対象文書となった場合は,同一の第三者に対し,原則としてその都度照会書を送付するのが相当である。
    しかし,同一文書について同一の第三者に対して意見聴取をする時期が非常に近接しているなど,正式な意見聴取を繰り返す必要が認められない場合には,法13条の趣旨を踏まえ,例えば, 口頭による意見照会の結果を電話聴取書に残し,意見書(総長通達別紙様式第5)に代える運用も許容されると考えられる 26 。
(2)第三者に対する通知
    (1)により意見を求められた第三者から司法行政文書の開示に反対する意見が提出されたにもかかわらず, これを開示するときは,開示申出人に対し開示する旨の通知を発した日と開示を実施する日との間に少なくとも2週間を置くものとし,開示する旨の通知を発した後直ちに,当該意見を提出した第三者に対し,開示することとした旨及びその理由並びに開示を実施する日を書面(総長通達別紙様式第6)で通知するものとされている取扱要綱記第9の2,総長通達記第1の6(2))。
    これは,苦情の申出の期間が経過する前であっても,開示が実施されてしまえば,第三者が苦情の申出をする実益が失われてしまうことになるので,開示する旨の通知を発した日と開示を実施する日との間に少なくとも2週間を置くこととされたものである。したがって, このような場合に,開示する司法行政文書の枚数が15枚以下(29頁総論編11(3惨照)であっても司法行政サービスとして開示通知書とともに当該司法行政文書の写しを送付することがないように留意する必要がある(開示に代わる情報の提供においても同様である。) 27 。

25 第三者に対する意見聴取を行うのは,第三者が作成名義になっている文書に限られず,裁判所が作成した文書中に第三者に関する情報が記録されている場合もあり得る。

26 下級裁判所における司法行政文書開示手続において,中央官庁(衆議院及び参議院並びに日本弁護士連合会については中央官庁又はこれに準ずるものとして扱われる(平成6年7月22日付け最高裁総一第182号事務総長依命通達「下級裁判所事務処理規則の運用について」記第5)。)に対して第三者照会を行う場合には,下級裁判所事務処理規則27条により,最高裁判所を経由する必要があることに留意する。

27 開示の実施は,司法行政文書を開示する旨の通知を発した日から原則として30日以内に行うものとされているが,開示申出人に対し開示する旨の通知を発した日と開示を実施する日との間に2週間を置いたときにはこの限りでない(取扱要綱記第10の3ただし書後段)。ただし, 30日以内に開示を実施することができない場合は,延長通知を発する必要がある。

2 関連記事その他
(1) 裁判所の情報公開は,以下の文書に基づいて実施されています。
・ 裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱(平成27年7月1日からの実施分)
・ 裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱の実施の細目について(平成27年4月6日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 情報公開に関する運用要領(平成27年7月1日版)
・ 司法行政文書開示手続の手引(平成29年3月21日版)第一部・総論編第二部・各論編別紙1~別紙26及び参考資料
・ 司法行政文書の開示に伴う開示文書の謄写の取扱いについて(平成22年10月19日付の,最高裁判所事務総局秘書課と司法協会総務部の申合せ)
・ 司法行政文書及び保有個人情報の開示の実施に伴う開示文書の謄写の取扱いについて(平成27年3月25日付の,最高裁判所事務総局秘書課と司法協会の申合せ)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の情報公開に関する通達等
・ 裁判所の情報公開に関する統計文書
・ プライバシー保護に関する,司法行政文書開示手続の判断例及び最高裁令和2年10月9日判決(家庭裁判所調査官の論文及び書籍はプライバシー権を侵害しないとしたもの)
・ 国立公文書館への移管
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理

裁判所の情報公開に関する通達等

目次
第1 裁判所の情報公開に関する通達等
第2 判決書の法解釈を示している部分は不開示情報であること等
1 判決書の法解釈を示している部分は不開示情報であること
2 判決の公開は国際人権規約(自由権規約)14条1項で保障されていること
3 最高裁判決等の記載
4 「民裁教官室だより(10)」の記載
5 司法制度改革審議会の意見書の記載
6 「民事司法制度改革の推進について」の記載
7 「民事判決情報のオープンデータ化に向けた取りまとめ」の記載
8 最高裁平成29年1月31日決定の補足意見
第3 最高裁判所規則は司法行政文書開示手続の対象とする必要はないとされていること
第4 文書内容の真否の調査は義務付けられていないこと
第5 裁判所の期日簿は司法記者に提供されていること
第6 関連記事その他

第1 裁判所の情報公開に関する通達等
1(1) 裁判所の情報公開に関する通達等を以下のとおり掲載しています。
① 裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱(平成27年7月1日からの実施分)
② 裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱の実施の細目について(平成27年4月6日付の最高裁判所事務総長通達)
③ 情報公開に関する運用要領(平成27年7月1日版)
④ 司法行政文書開示手続の手引(平成29年3月21日版)第一部・総論編第二部・各論編別紙1~別紙26及び参考資料
⑤ 司法行政文書の開示に伴う開示文書の謄写の取扱いについて(平成22年10月19日付の,最高裁判所事務総局秘書課と司法協会総務部の申合せ)
(2) 最高裁判所通達通知回答集の目次を以下のとおり掲載しています。
令和5年4月現在1/22/2
令和3年7月現在平成31年3月現在1/2及び2/2
2 通達は,上級行政機関が関係下級行政機関に対してその職務権限の行使を指揮し,職務に関して命令するために発するものであり,行政組織内部における命令に過ぎないから,下級行政機関がその通達に拘束されることはあっても,一般の国民は直接これに拘束されるものではなく,このことは,通達の内容が国民の権利義務に関連するものである場合においても別段異なるところはないと解されています(東京地裁令和2年10月5日判決。なお,先例として,最高裁昭和43年12月24日判決及び最高裁平成24年2月9日判決参照)。


第2 判決書の法解釈を示している部分は不開示情報であること等
1 判決書の法解釈を示している部分は不開示情報であること
(1) 
令和元年度(情)答申第12号(令和元年8月23日答申)には以下の記載があります(リンク先の開示請求文書に該当する最高裁判例は,最高裁平成13年3月12日決定と思います。)。
     判決や決定等の裁判書の閲覧等については,民事訴訟法や刑事訴訟法,刑事確定訴訟記録法等の法令で定める手続によるべきものであり,裁判所が裁判書を司法行政文書として保有していない限り,上記の裁判書は司法行政文書開示手続の対象となるものではない。
(2) 46期の岡口基一裁判官が平成30年5月17日頃にツイートで紹介した事件の第1審判決及び控訴審判決(平成30年6月12日付の東京高裁事務局長報告書の別紙)に関する令和2年度(情)答申第37号には以下の記載があります。
     苦情申出人は,①本件第1審判決のうち法解釈を示している部分,②犬の犬種等を記載した別紙物件目録及び写真,③担当裁判官の氏名については,明らかに法5条1号の不開示情報に相当しない旨主張する。
     しかしながら,上記①及び②の各情報は,上記1及び2(1)のとおり,いずれも法5条1号に規定する個人識別情報であり, 同号ただし書イからハまでに掲げる情報に相当する事情は認められない。そして,上記①について,これが公にされた場合には,特定の訴訟当事者間における特定の民事訴訟の事実関係や主張内容,訴訟の勝敗を分けた原因等を推知される可能性があり,また,上記②についても, これが公にされた場合には,上記民事訴訟における返還請求の対象となった犬を特定される可能性があるといえ,当該訴訟当事者の権利利益が害されるおそれがあると認められるから, これらについて,いずれも取扱要綱記第3の2に定める部分開示をすることはできない。
    また,上記③については,本件対象文書において不開示とされたのは裁判官の署名であり,法5条1号に規定する個人識別情報に相当すると認められ,職務の遂行に係る情報には当たるものの,その固有の形状が文書の真正を示す認証的機能を有しており, これが公にされた場合には,偽造など悪用されることを誘発して,個人の権利利益が害されるおそれがあることからすれば,同号ただし書に規定する情報に相当するとはいえない。このことからすれば,苦情申出人が指摘する事案において裁判官の氏名が開示されていたことと同視することはできない。


2 判決の公開は国際人権規約(自由権規約)14条1項で保障されていること
(1)ア 国際人権規約(自由権規約)14条1項は以下のとおりです。
    すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。
イ 「一般的意見32 14条・裁判所の前の平等と公正な裁判を受ける権利」(2007年採択)29項には以下の記載があります。
    裁判が公開されていない場合でも、基本的な事実認定、証拠、法律上の理由付けを含む判決は、少年の利益のために必要がある場合、または当該手続が夫婦間の争いもしくは子どもの後見に関するものである場合を除いては、公開されなければならない。
(2) 最高裁大法廷令和3年6月23日決定の裁判官宮崎裕子,同宇賀克也の反対意見(リンク先のPDF17頁以下)には以下の記載があります(リンク先のPDF36頁)。
    我が国においては,憲法98条2項により,条約は公布とともに国内的効力を有すると解されており,条約が締約国に対して法的拘束力がある文言で締約国の義務を定めている場合には,かかる義務には,国家機関たる行政府,立法府及び司法府を拘束する効力があると解される。
(3) 令和3年度(情)答申第6号(令和3年5月20日答申)には以下の記載があります。
    苦情申出人は,(中略)②特定人の刑事裁判についていえば,自由権規約14条1項が想定するところの非公開とすべき理由は全くないから,本件開示申出文書は慣行として公にすることが予定されている情報であるといえる旨主張する。
(中略)
    ②について,自由権規約14条1項は裁判手続の公開等に関する規定であり,情報公開法制における不開示情報の範囲について定めたものとは解されないから,同主張は独自の見解であるといわざるを得ない。
3 最高裁判決等の記載
(1) 最高裁大法廷昭和32年12月28日判決は以下の判示をしています。
     成文の法令が一般的に国民に対し現実にその拘束力を発動する(施行せられる)ためには、その法令の内容が一般国民の知りうべき状態に置かれることが前提要件とせられるのであつて、このことは、近代民主国家における法治主義の要請からいつて、まさにかくあるべきことといわなければならない。
(2) 最高裁大法廷昭和35年7月6日決定は以下の判示をしています。
     若し性質上純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法八二条に違反すると共に、同三二条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねば
ならない。
(3) 憲法82条1項の規定は,裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めていますところ,その趣旨は,裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し,ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにあります(最高裁大法廷平成元年3月8日判決)。
(4) 司法の窓第86号(令和3年5月発行)「15のいす-「判断する」ということ-」(最高裁判所判事 小池裕)には以下の記載があります。
    裁判所は,認定事実に基づく実証性と法に基づく論理性に従って,公開の法廷で判決によって判断を示します。裁判所が法廷という国民にオープンな場で審理し,判決という合理的な検証が可能なスタイルで公権的な判断を示すことは,民主主義国家においてとても重要な意義があると考えています。


4 「民裁教官室だより(10)」の記載
・ 民裁教官室だより(10)(司法研修所民事裁判教官室編)2頁には以下の記載があります。
    民事判決書作成には、従来、多様な目的があると説明されてきた。すなわち、①訴訟当事者に対して、判決内容を知らせるとともに、上訴するかどうか考慮する機会を与えること、②上級審に対して、その再審査のために認定事実及び理由を明らかにすること、③一般国民に対して、具体的事件の判断を通じて法規範を明らかにし、裁判所の判断過程を示すことによって裁判の公正を保障すること、④判決をする裁判官が、自己の判断を客観視し、再検討の契機とすること等が民事判決書作成の目的である(七訂民事判決起案の手引一頁)。これは、従来判決害が果たしてきたと思われる機能を説明するものとして、現在でも基本的には妥当する。
5 司法制度改革審議会の意見書の記載
・ 平成13年6月12日付の司法制度改革審議会の意見書には,「Ⅳ 国民的基盤の確立」の「3.司法に関する情報公開の推進」として以下の記載があります。
    判例情報の提供により、裁判所による紛争解決の先例・基準を広く国民に示すことは、司法の国民に対する透明性を向上させ、説明責任を明確化するというにとどまらず、紛争の予防・早期解決にも資するものである。
    裁判所は、判例情報、訴訟の進行に関する情報を含む司法全般に関する情報の公開を推進していく一環として、特に判例情報については、先例的価値の乏しいものを除き、プライバシー等へ配慮しつつインターネット・ホームページ等を活用して全面的に公開し提供していくべきである。
6 「民事司法制度改革の推進について」の記載
・ 民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議が令和2年3月10日に取りまとめた「民事司法制度改革の推進について」7頁には,「イ 民事判決情報の提供について」以下の記載があります。
     民事判決情報は、国民にとって、紛争発生前には行動規範となるとともに、紛争発生後には当事者による紛争解決指針の一つともなり得るものであり、社会全体で共有・活用すべき重要な財産である。将来的に、AIによる紛争解決手続のサポートの可能性があり、その活用が国家経済の活性化にもつながりのである得るもことも踏まえると、現状、先例性の高い事件や社会的に関心の高い事件等の一部の事件に限定して一般に提供されている民事判決情報については、今後、より広く国民に提供されるべきである。
7 「民事判決情報のオープンデータ化に向けた取りまとめ」の記載
(1) 民事判決のオープンデータ化検討PTが令和3年3月25日に取りまとめた「民事判決情報のオープンデータ化に向けた取りまとめ」3頁には以下の記載があります。
     民事判決情報は、紛争当事者だけでなく、国民や社会の全体で共有すべき公共財ともいうべき重要な資産であり、これをデータベース化した上で、広く国民や社会の利用に供することは、①司法の国民に対する透明性を向上させ、②国民に対して行動規範・紛争解決指針を示すとともに、③紛争解決手続に関するAIの開発等の研究を推進するための基盤ともなり得るものと考えられる。
(2) 「民事判決情報のオープンデータ化に向けた取りまとめ」を具体化するためのWGとして,日弁連法務研究財団では,民事判決データベース化事業の在り方に関するWG,及び民事判決情報の仮名処理の在り方等に関するWGが設置されました。
8 最高裁平成29年1月31日決定の補足意見
・ 最高裁平成29年1月31日決定に関する最高裁判所判例解説(担当者は51期の高原知明)には以下の記載があります。
    前掲東京高判平成26年1月15日に対する上告兼上告受理申立事件に関し,上告等に伴う最高裁判所への記録到着後における訴訟記録全部を対象とする閲覧等制限の申立て(最高裁平成27年(マ)第153号,第154号)がされ,本決定(山中注:最高裁平成29年1月31日決定)と同一日に,同申立てに対する一部認容,一部却下決定(以下「本閲覧等制限決定」という。)がされた。
    本閲覧等制限決定の理由は例文による簡潔なものであるが,本決定の裁判長裁判官である岡部喜代子裁判官の補足意見が次のとおり付されている。「本件は,民事訴訟法92条1項に基づき,訴訟記録全部についての閲覧等制限の申立てをしたものであるところ,同項1号は,訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載されるなどした部分についてのみ閲覧等の請求をすることができる者を制限しているのであって,秘密記載部分が訴訟記録中の一部に限定されるにもかかわらず,そのような限定をすることなく訴訟記録全部について閲覧等の請求をすることができる者を当事者に限る旨の決定をすることは,同号に反するものであって許されない。とりあけ,裁判書は当事者以外の第三者にとって裁判理由中における判断の正確性を理解するために代替困難な手段であるから,裁判書を秘密記載部分に含めることは裁判の公正性を担保するために慎重な配慮が求められる。本決定は,基本事件における諸般の事情に鑑み,上記のような観点に加え,私生活についての重大な秘密を保護するという閲覧等制限の趣旨を踏まえて,主文のとおり決定したものである。」
    岡部裁判官補足意見で述べられた一般論は民事訴訟法92条1項の条文の文言や沿革に照らし当然のことであるが,同項に基づく申立てやこれに対する閲覧等制限決定の範囲の解釈に関する実務は,民事訴訟法施行20年を過ぎた今なお十分に確立されているとまではいえない。閲覧等制限決定をした裁判体ごとに基本的なスタンスが異なっているものも少なくない実情が背後にあるものと思われる。


第3 最高裁判所規則は司法行政文書開示手続の対象とする必要はないとされていること
1 最高裁判所規則は,官報により公布されることによって広く周知が図られている上,その条文のすべてが現行日本法規(法務省大臣官房司法法制部編)という法令集により入手可能であることから,司法行政文書開示手続の対象とする必要はないとされています(平成28年12月2日答申(平成28年度(最情)答申第39号)参照)。
2 令和3年6月現在,現行日本法規は全100巻142冊であり,株式会社ぎょうせいから33万円で販売されていますぎょうせいオンラインショップ「現行日本法規」参照)。

文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋であり,「開示の申出があった短期保有文書は,開示申出の対象になるものと判断した時点でファイルによる管理を行う。」と書いてあります。


第4 文書内容の真否の調査は義務付けられていないこと
・ 地方公共団体の情報公開の場合,公文書の開示の可否は原則として15日以内に決定しなければならないと定められていることや,県等の行政機関が日常作成保管する公文書の開示請求は,その性質上多数の文書を一括して開示請求することも予定されていることからすると,一般的に,担当職員において請求に係る全文書の内容の真否の調査をすることは義務付けられておらず,文書の記載内容に基づいて迅速に開示等の決定を行うことが予定されています(最高裁平成18年4月20日判決のリンク先12頁)。


第5 裁判所の期日簿は司法記者に提供されていること
1(1) 東弁リブラ2012年9月号の「座談会 司法記者は語る」には以下の記載があります(リンク先4頁)。
佐藤:民事裁判の場合は事件数も種類も多いですが,こういう事件があるということ,例えば,どんな裁判が係属しているとか,どんな判決が出たとか,そういった情報はどうやって知るのですか。
森下:やっぱり裁判所の期日簿です。
和田:そうですね,開廷表ですね。
森下:例えば,判決だったら,事件番号が18年とか 19年とか,古い番号の事件が判決になったりすると,これは何かあったんじゃないかとか。
佐藤:そうすると,その事件の訴訟記録を閲覧するのですか。
(1) 東弁リブラ2015年9月号の「座談会 続・司法記者は語る」には以下の記載があります(リンク先5頁)。
司会:その日にどのような裁判があるのかは,どうやってチェックするのですか。
千葉:裁判所の期日簿でチェックしています。
2 下級裁判所事務処理規則9条1項本文は「開廷の日割は、各裁判所が、毎年あらかじめ、これを定め、庁内の公衆の見やすい場所に掲示しなければならない。」と定めています。


第6 関連記事その他
1 一連の訴訟事件において,事件の審級や種類ごとに複数の事件番号が付されている場合に,その一部の事件番号が分かっていれば,当該事件を特定することは可能であると考えられ,裁判所ホームページに掲載されている事件番号に公表慣行が認められる場合には,他の審級等に関する事件番号についても,公表慣行があるとされています(令和元年度(行情)答申第583号(令和2年3月6日答申)参照)。
2 NEC HPの「OSINT (Open Source Intelligence)」には以下の記載があります。
    OSINTは 「Open Source Intelligence:オープンソースインテリジェンス」の略であり、一般に公開されている情報源からアクセス可能なデータを収集、分析、決定する諜報活動の一種である。米国国防総省(DoD)によって、「特定の情報要件に対処する目的で、一般に入手可能な情報を収集し、利用し、適切な対象者に適時に普及させた情報」と定義されている。
3 東京高裁平成27年9月11日判決(裁判長は34期の浜秀樹。判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
    抗告人は、既に第三者が基本事件の訴訟記録を閲覧していることが、その他の第三者による閲覧等を制限する必要がないとする理由にはならない旨主張するけれども、既に報道機関による報道やインターネット上の記事の掲載等によって、広く知れ渡っている本件において、第三者による基本事件訴訟記録の閲覧等の状況を、本件閲覧等制限申立ての当否を検討するに当たっての一事情として考慮することは相当であって、この点に関する抗告人の主張も採用することができない。
4 最高裁令和4年5月17日判決は,預託法違反及び景表法違反に係る調査の結果に関する情報が情報公開法5条6号イ所定の不開示情報に該当しないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
5(1) 裁判所HPに「情報公開ハンドブック」(令和4年7月の最高裁判所事務総局秘書課の文書)が載っています。
(2) 国立公文書館HPに「国立公文書館における「時の経過」の運用について」が載っています。
6 最高裁平成30年1月19日判決の裁判官山本庸幸の補足意見には以下の記載があります。
    最高裁平成18年(行ヒ)第50号同19年4月17日第三小法廷判決・裁判集民事224号97頁の藤田宙靖裁判官の補足意見中に,「ある文書上に記載された有意な情報は,本来,最小単位の情報から,これらが集積して形成されるより包括的な情報に至るまで,重層構造を成すのであって・・・行政機関が,そのいずれかの位相をもって開示に値する情報であるか否かを適宜決定するなどということは,およそ我が国の現行情報公開法制の想定するところではない」とあるのは,あるいは,私が上記で述べたようなことを別の表現で指摘したものではないかと推察している。だから私は,ア・プリオリに,独立一体的情報はどこまでかという無用の議論をするのではなく,むしろ「一般的に,文書の場合であれば文,段落等を,図表の場合であれば個々の部分,欄等を単位として,相互の関係性を踏まえながら個々に検討していき,それぞれが情報公開法5条各号に該当するか否かを判断する。」ということで,必要かつ十分であると考えている。
7(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 情報公開法に係る主な答申等について(令和4年4月)
・ 事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長通達)
・ 平成31年4月1日から施行されている,法務省情報公開事務取扱要領1/2及び2/2
(2) 以下の記事も参照してください。
・ プライバシー保護に関する,司法行政文書開示手続の判断例及び最高裁令和2年10月9日判決(家庭裁判所調査官の論文及び書籍はプライバシー権を侵害しないとしたもの)
・ 開示請求の対象となった司法行政文書に第三者に関する情報が記録されている場合の取扱い
・ 裁判所の情報公開に関する統計文書
・ 司法に関する情報公開の推進(平成13年6月12日付の司法制度改革審議会意見書)
・ 裁判所の不開示決定は司法審査の対象とならないこと
 国立公文書館への移管
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
 民事事件の裁判文書に関する文書管理



* 平成28年度新任判事補研修の資料からの抜粋です。

司法行政文書に関する文書管理

目次
1 司法行政文書の意義
2 司法行政文書の管理体制
3 文書管理事務の根拠となる通達等
4 司法行政文書へのアクセス権
5 司法行政文書の保存期間
6 文書管理等に関する事務調査報告書
7 公文書管理委員会の配布資料
8 司法行政文書の管理及び開示に関する令和3年6月当時の最高裁判所の認識
9 最高裁判所規則,最高裁判所規程及び通達の違い
10 関連記事その他

1 司法行政文書の意義
(1) 司法行政文書とは,裁判所の職員が職務上作成し,又は取得した司法行政事務に関する文書,図画及び電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)であって,裁判所の職員が組織的に用いるものとして,裁判所が保有しているものをいいます(「司法行政文書の管理について」(平成24年12月6日付の最高裁判所事務総長通達)第1.2(1))。
(2) 司法行政文書の定義は,行政機関情報公開法2条2項の行政文書の定義と同じです。


2 司法行政文書の管理体制
(1) 「司法行政文書の管理について」(平成24年12月6日付の最高裁判所事務総長通達)第2が司法行政文書の管理体制について定めています。
(2) 最高裁判所事務総局秘書課長,高等裁判所事務局長,地方裁判所事務局長及び家庭裁判所事務局長は,総括文書管理者となります。
   最高裁判所事務総局秘書課長が指名する者(司法行政文書の管理に関する事務を所管する秘書課参事官),高等裁判所事務局総務課長,地方裁判所事務局総務課長及び家庭裁判所事務局総務課長は,副総括文書管理者となります。
(3)   最高裁判所の事務総局等の課の文書については最高裁判所の事務総局等の課の長が,最高裁判所の裁判部の文書については訟廷首席書記官及び最高裁判所事務総局総務局第一課長が,下級裁判所の課の文書については下級裁判所の課の課長が,下級裁判所の裁判部の文書については首席書記官及び首席家庭裁判所調査官が文書管理者となります。
   また,最高裁判所の事務総局等の課については,審査官等のうち文書管理者が指名する者が文書管理担当者となり,最高裁判所の裁判部については訟廷首席書記官が文書管理担当者となり,下級裁判所の課については企画官等のうち文書管理者が指名する者が文書管理担当者となり,下級裁判所の裁判部については訟廷管理官,主任書記官,主任家庭裁判所調査官等のうち文書管理者が指名する者が文書管理担当者となります。

文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋です。

3 文書管理事務の根拠となる通達等
・ 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)の「文書管理事務の根拠となる通達等」には以下の記載があります。
【公文書管理法の趣旨・目的】
・ 適切な公文書等の管理体制を確立するため,平成23年4月1日に「公文書等の管理に関する法律」(公文書管理法)が施行された。
・ 公文書管理法第1条では,公文書等が,健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源であるとした上で,行政文書等の適正な管理等を図り,もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに,国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的として規定している。
・ 公文書管理法における行政文書の管理についての規定は,裁判所には直接適用されないが,同法附則第13条2項において,裁判所の文書の管理の在り方については,同法の趣旨,裁判所の地位及び権能等を踏まえ検討を行うことと規定されている。
【裁判所における文書管理事務の根拠となる通達等】
(管理通達及び実施通達)
・ 裁判所における司法行政文書の管理については,公文書管理法の趣旨を踏まえて,管理通達,最高裁実施通達及び下級裁実施通達(以下「管理通達等」という。)が定められている。
(実施細目)
・ 下級裁判所において,管理通達及び下級裁実施通達の実施に当たっては,各庁の実情を踏まえた個別具体的な細目を定める必要があるため,下級裁実施通達記第1の2に基づき各庁で実施細目が定められている。
※ 実施細目に関連する下級裁実施通達上の定め・総括文書管理者及び文書管理者がそれぞれ行うこととされている事務について実施細目に定める場合の協議(記第1の2の(1))
    ・ 送付を受けた司法行政文書について,主管課等又は主管係が不明である場合に,当該司法行政文書の受付事務を行う部署(記第2の1の(4))
   ・ 総務課等において他の主管課等宛ての封書(「秘」,「親展」等の表示のあるものを除く。)の開封及び司法行政文書の受理手続を行う場合(記第2の8)
    ・ 決裁の区分及び種別(記第3の1の(2))
    ・ 司法行政文書の閲覧及び借出しの手続(記第6の2)
    ・ 本庁と管内の支部等との間の司法行政文書の取扱い(記第13の2)
(その他の通達等)
・ 文書管理に関する通達としては,管理通達等のほか,人事管理文書等の保存期間等について定めた「人事管理文書等の保存期間等について」と秘密文書(公表しないこととされている情報が記録された司法行政文書のうち秘密保全を要する司法行政文書)について定めた「秘密文書管理要領について」がある。
・ 平成30年6月29日付け秘書課長事務連絡には,管理通達等の運用に当たっての留意事項が記載されている。


文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋です。

4 司法行政文書へのアクセス権
(1) 下級裁判所事務局の場合,事務局長はすべての「課」「係」の文書へのアクセス権を持ちます。
    しかし,課長は自分の属する「課」の「係」の文書にしかアクセス権がありませんし,係長は自分の「係」の文書にしかアクセス権がありません。
    そのため,事務局職員が他の課又は係の文書を利用したい場合,司法行政文書の閲覧又は借り出しの手続(「下級裁判所における司法行政文書の管理の実施等について」(平成24年12月6日付の最高裁判所事務総局秘書課長通達)第6)をとる必要があります。
(2) 裁判所事務官から見れば,同じ課に属していても,それぞれの係で実際,何がなされているかを知ることは難しいのであって,ピラミッド構造の底辺部に行くほど,横の連絡が取れなくなっているといわれます。
   つまり,隣の「シマ」のことはなかなか分からないといわれています。
(3) 平成26年2月17日,裁判所職員用ポータルサイト(J・NETポータル)における,本庁,支部,簡裁等の間の情報共有を目的とした新規コンテンツ「高地家簡裁掲示板」が利用できることとなりました(「「高地家簡裁掲示板」の運用開始について」(平成26年2月3日付の最高裁判所事務総局情報政策課参事官の事務連絡)参照)。
   そのため,隣の「シマ」のことが以前よりは分かるようになっているのかもしれません。


5 司法行政文書の保存期間
(1)ア 「司法行政文書の管理について」(平成24年12月6日付の最高裁判所事務総長通達)は,別表「司法行政文書の保存期間基準」において,司法行政文書の保存期間(1年間から30年間)を定めています。
イ 「司法行政文書の保存期間基準」は,公文書等の管理に関する法律施行令8条及び別表とかなり似ています。
(2) 最高裁判所の司法行政文書について保存期間が到来した場合において保存期間が延長されなかった場合,歴史資料として重要な司法行政文書は国立公文書館に移管され,それ以外の司法行政文書は廃棄されます。
(3) 下級裁判所の司法行政文書について保存期間が到来した場合において保存期間が延長されなかった場合,国立公文書館への移管手続が存在しないことから,すべて廃棄されます。

文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋であり,「開示の申出があった短期保有文書は,開示申出の対象になるものと判断した時点でファイルによる管理を行う。」と書いてあります。

6 文書管理等に関する事務調査報告書
(1) バックナンバーは以下のとおりです。
・ 令和 元年度分
・ 平成30年度分
・ 平成29年度分
(2) 令和3年5月25日付の司法行政文書不開示通知書によれば,令和2年度文書管理等に関する事務調査報告書は存在しません。

文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋

7 公文書管理委員会の配布資料
(1) 2019年1月30日開催の公文書管理委員会(第72回)の配付資料として以下のものがあります。
 電子メールの選別・保存を支援する仕組み(資料2-1)
② 共有フォルダにおける行政文書の体系的保存及び名称付与標準化に関するマニュアル(資料2-3-1)
(2) 2019年7月25日開催の公文書管理委員会(第78回)の配付資料として以下のものがあります。
① 特に厳格な管理を要する行政文書の取扱い等に関するマニュアル案(概要) (資料3-1)
② 電子メールの選別及び保存の手順について案(概要)(資料3-2)

8 司法行政文書の管理及び開示に関する令和3年6月当時の最高裁判所の認識
・ 裁判所をめぐる諸情勢について(令和3年6月の最高裁判所事務総局の文書)44頁及び45頁には,「(10) 司法行政文書の管理及び開示について」として以下の記載があります。
    司法行政文書を適切に管理することは,司法行政事務の適正かつ効率的な運営に不可欠であるとともに,文書開示手続を通じて,国民に対する説明責任を全うする土台となるものであり,それができない場合には裁判所に対する国民の信頼を著しく失墜させることにつながりかねない。平成30年6月には,文書管理に関する関係通達の改正を行い,行政府省と同様にファイル管理簿や標準文書保存期間基準(保存期間表)の公表を始めたところでもあり,司法行政事務に携わる全ての職員が,これまで以上に,関係法令や関係通達等を理解し,司法行政文書の作成,保存,廃棄の各段階における事務を適切に処理することが求められる。
    裁判所の文書開示については,平成27年7月1日に,苦情の申出先が最高裁に一本化されるなど司法行政文書開示手続が再整備された。平成29年度以降,同手続の申出件数は増加し続けているが,その間,相当数の実務例や情報公開.個人情報保護審査委員会の答申も集積されていることから,これらの知見を参考にするなどして,より一層適正・迅速な文書開示事務を実現していくことが求められている。
    なお,裁判所ウェブサイトに司法行政文書の管理に関する通達や開示に関する要綱,情報公開.個人情報保護審査委員会の答申等が掲載されているので,参照されたい。

9 最高裁判所規則,最高裁判所規程及び通達の違い
    最高裁判所規則,最高裁判所規程及び通達の違いは以下のとおりです(文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)参照)。
・ 最高裁判所規則とは,主に訴訟当事者その他一般国民に関係のある事項又は重要な事項について定めるものであって,公布を要するものをいいます。
・ 最高裁判所規程とは,主に裁判所の内部規律等について定めるものであって,公布を要しないものをいいます。
・ 通達とは,上級庁が下級庁に対し,又は上級の職員が下級の職員に対し,職務運営上の細目的事項,法令の解釈,行政運営の方針等を指示し,その他一定の行為を命ずるものをいいます(裁判所法80条参照)。

文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋です。


10 関連記事その他
(1) 市長の代決者である課長を補助し,一定の手続に従つて印鑑証明書の作成にあたつていた補助公務員が,右手続の要求する申請書の提出と手数料の納付をせずに,自己の用に供するため印鑑証明書を作成した行為は,判示の事情のもとにおいては,作成権限に基づくものとして,公文書偽造罪を構成しません(最高裁昭和51年5月6日判決)。
(2)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 一元的な文書管理システム教材の改訂版(令和2年3月24日付の配布文書)
・ 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)
・ 司法行政文書管理状況の監査の手引(平成30年7月)
イ 以下の記事も参照してください。
 国立公文書館への移管
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達

* 平成28年度新任判事補研修の資料からの抜粋です。

民事事件の裁判文書に関する文書管理

目次
1 民事事件の受付及び分配
2 事件記録の編成
3 事件記録の閲覧
4 当事者の住所の秘匿希望に関する事務連絡
5 事件記録の貸出及び送付
6 和解調書正本の送達
6の2 「その余の請求を放棄する」の意味
7 事件終了後の事件記録の取扱い
8 保存期間が満了した事件記録の廃棄
9 事件記録の特別保存に関する国会答弁
10 契印に関する平成11年4月1日以降の取扱い
11 書面による準備手続における協議結果の記録化(調書の作成)の方法
12 その他民事訴訟法関係のメモ書き
13 関連記事その他

1 民事事件の受付及び分配
(1) 民事事件の裁判文書の作成は,民事部訟廷事務室事件係の受付から開始しますところ,同係の受付は以下のような流れとなります。
① 閲読
・ 受領した訴状等の書類について不備がある場合,受付日付の表示をする前に,提出者に書類を返却し,補正した後に書類を再提出するように指示してくることがあります。
② 受付日付の表示
・ 受付日付印を書類の第1頁の余白の見やすい場所に押します。
③ 帳簿への搭載
④ 符号及び番号の記載
・ 民事事件については,民事事件記録符号規程,行政事件記録符号規程,刑事事件記録符号規程,家庭事件記録符号規程等に基づき,事件番号を付けます。
・ 例えば,地方裁判所における民事通常訴訟事件の符号は「ワ」であり,簡易裁判所における民事通常訴訟事件の符号は「ハ」です。
⑤ 収入印紙の消印等
(2) 受付手続を終えた書類のうち事件簿に搭載した書類については,表紙を付し,必要な用紙を加えて,記録を編成します。
(3) 記録の編成を終えた場合(記録を編成しない書類にあっては,受付手続を終えた場合),裁判事務の分配の定めにしたが,速やかにこれを民事部に配布します。
   民事事件の分配の具体的方法は,下級裁判所事務処理規則6条に基づき,それぞれの裁判所の事務分配で定められています。
(4)ア 受付及び分配については,事件の受付及び分配に関する事務の取扱いについて(平成4年8月21日付の最高裁判所事務総長通達)(受付分配通達)で定められています。
イ 事件の符号については,「最高裁判所の事件記録符号規程」を参照してください。
(5) 閉庁時間中に裁判所の夜間郵便受け等に投かんされた書類の取扱いについて(平成27年9月1日付の最高裁判所事務総局総務局第一課長,民事局第一課長,刑事局第一課長,行政局第一課長,家庭局第一課長事務連絡)を掲載しています。

2 事件記録の編成
(1) 事件処理は民事部の裁判官の下で行われますところ,その過程で代理人弁護士等から準備書面,書証等の書類が提出され,裁判所では口頭弁論調書,判決書等の書類が作成されます。
   これらの書類は,当該事件を担当する裁判所書記官によって編成され,事件記録としてまとめられてきます。
(2)ア 民事事件記録の具体的な編成方法は,民事訴訟記録の編成について(平成9年7月16日付の最高裁判所事務総長通達)(民事編成通達)に書いてあります。
   これによれば,弁論関係書類(第一分類),証拠関係書類(第二分類)及びその他の書類(第三分類)に分けて編成され(いわゆる「三分方式」),それぞれについてつづりこむ順序と書類が定められています。
イ 刑事事件記録では,五分方式が採用されています。
(3) 口頭弁論調書等の作成方法については,民事事件の口頭弁論調書等の様式及び記載方法について(平成16年1月23日付けの最高裁判所総務局長,民事局長及び家庭局長通達)(民事調書通達)に書いてあります。


3 事件記録の閲覧
(1) 事件係属中に裁判所で保存されている事件記録及び事件書類は,当事者のほか,第三者による閲覧の対象となります(民事訴訟法91条1項)。
   具体的な手続は,事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長通達)(閲覧等通達)に書いてあります。
(2) 事件記録は,訴訟が終わるまでの間,「事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて」(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)(保管送付通達)に基づき,その事件を担当する裁判所書記官によって執務室内のキャビネットやロッカーで保管されます。
(3)ア 平成29年12月19日付の司法行政文書不開示通知書によれば,一般人が特定の事件に関する当事者名及び判決日を伝えて民事事件記録係に問い合わせをした場合,当該事件の事件番号を教えることになっていることが分かる文書は存在しません。
イ 一連の訴訟事件において,事件の審級や種類ごとに複数の事件番号が付されている場合に,その一部の事件番号が分かっていれば,当該事件を特定することは可能であると考えられ,裁判所ホームページに掲載されている事件番号に公表慣行が認められる場合には,他の審級等に関する事件番号についても,公表慣行があるとされています(令和元年度(行情)答申第583号(令和2年3月6日答申)参照)。

4 当事者の住所の秘匿希望に関する事務連絡
・ 当事者の住所の秘匿希望に関する事務連絡等を以下のとおり掲載しています。
① 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成25年6月28日付の最高裁判所事務総局刑事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
② 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の最高裁判所事務総局家庭局第二課長,民事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
③ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成26年9月24日付の最高裁判所事務総局刑事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
④ 秘匿情報の適切な管理について(平成27年2月19日付の最高裁判所事務総局総務局第一課長,民事局第一課長,刑事局第二課長及び家庭局第一課長の事務連絡)
⑤ 家事事件手続における非開示希望情報等の適切な管理について(平成28年4月26日付の最高裁判所事務総局家庭局第二課長及び総務局第三課長事務連絡)

5 事件記録の貸出及び送付
(1)ア 保管者である裁判所書記官が訴訟関係人,他の裁判所等に事件記録を貸し出す場合,事件記録出納簿に所要の記載をし,その「受領印」に事件記録の受領者の認印を受けます。
イ   訴訟関係人,他の裁判所等に事件記録を郵送し,又は使走して貸し出す場合,事件記録出納簿の「備考」にその旨を記載します。
   この場合については,事件記録の受領者から事件記録の預かり証等を提出させることによって,「受領印」への認め印に代えるものとされています。
(2) 保管者である裁判所書記官が,特定の事件を担当する裁判官,民事調停官,家事調停官,精神保健審判員,労働審判員,裁判所調査官,家庭裁判所調査官,家庭裁判所調査官補,裁判所速記官,参与員,司法委員,専門委員又は精神保健参与員に当該事件の記録を貸し出す場合,貸出カード等に貸出日,借受日,返還日等を記載して,その出納を明らかにします。
   ただし,即日に返還される場合,適宜の方法により,その出納を把握すれば足ります。
(3)ア 移送決定の確定,上訴の提起,上訴判決等の確定,上訴の取下げ等によりほかの裁判所に事件記録を送付する場合,裁判所書記官は記録送付書を作成し,事件記録とともに送付します。
イ 移送決定の確定又は上訴判決等の確定により他の裁判所に事件記録を送付する場合,当該裁判の原本を分離し,その正本を作成して記録に添付します。
ウ 民事又は行政の上告提起事件及び上告受理申立て事件の表紙には,上告等事件記録の表紙を用い,これを上告状又は上告受理申立書がつづられている事件記録の表紙の上につづります。
(4) 事件記録の貸出及び送付については,「事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて」(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)(保管送付通達)で定められています。

6 和解調書正本の送達
(1) 民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-4頁には以下の記載があります。
   判決書については法255条に職権により送達する規定があるが,和解調書,認諾調書,請求の放棄調書については明文上の規定がない。実務上,和解調書等については,当事者からの送達申請を待ってその正本を送達するという扱いが定着しており,次のような内容の定型の用紙又は記録の裏表紙に印刷したものを用意して,和解成立時に口頭で確認する扱いが多い。
【参考例・調書送達申請】
平成 年(ワ)第   号
和解 認諾 放棄 調書送達申請
申請年月日 平成 年 月 日
受送達者  当事者双方 利害関係人
申請人   原告(代理人)    被告(代理人)
              ○○地方裁判所
                      裁判所書記官 印
(2) 申立てその他の申述は,特別の定めのない限り口頭でも可能ですし(民事訴訟規則1条),訴訟記録の閲覧等の請求の方式等に関する民事訴訟規則33条の2(平成28年1月1日から施行された条文です。)は,和解調書正本の送達申請については適用がありません。

6の2 「その余の請求を放棄する」の意味
・ 民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~34頁及び35頁には以下の記載があります。
    和解条項において明示的に定められた内容が原告の訴訟上の請求内容に達しない場合に、その達しない部分についての訴訟物の処理を明らかにするために、原告が「その余の請求を放棄する。」との合意がされ、そのことを和解条項に記載することが多い。この条項の性質については、和解の訴訟終了効により和解は当然に訴訟物全部についてされたものとなるため、法律上の効力には関係がなく、当事者の意思を尊重して記載する任意条項とする見解と、訴訟物としての請求の一部を譲歩の手段として放棄する清算的合意であり、債務免除契約として実体法上の効力を有する効力条項(形成条項)とする見解がある。

7 事件終了後の事件記録の取扱い
(1) 事件記録は,訴訟が終結した後,訟廷事務室記録係で保管されます。
   その際,事件記録から,事件書類(例えば,判決原本及び和解調書)が分離されます。
   そのため,民事事件の裁判文書には,民事事件記録及び事件書類があることとなります。
(2) 事件記録等保存規程別表第一・3項によれば,民事通常訴訟事件の事件記録は5年,和解調書は30年,判決原本は50年,保存されます。
   これに対して,事件記録等保存規程別表第一・1項によれば,訴え提起前の和解事件(即決和解事件)の場合,事件記録は3年,和解調書は30年,保存されます。
(3) 事件終了後に裁判所で保存されている事件記録及び事件書類は,当事者のほか,第三者による閲覧の対象となります(民事訴訟法91条1項)。
   具体的な手続は,事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長通達)(閲覧等通達)に書いてあります。


8 保存期間が満了した事件記録の廃棄
(1) 事件記録については,事件記録等保存規程(昭和39年12月12日最高裁判所規程第8号)(保存規程)9条に基づく特別保存の対象とならない限り,保存期間が満了した次の年度で廃棄されます。
(2) 記録の廃棄は,訟廷管理官(訟廷管理官の置かれていない裁判所にあっては訟廷事務をつかさどる主任書記官,主任書記官の置かれていない裁判所にあっては上席の裁判所書記官)が立ち会った上,焼却,細断又は消磁の方法により行い,細断をしたものについては,物品管理官又は分任物品管理官に引き継がれます(保存通達第5.3)。
(3)ア 昭和30年までに完結した民事事件の判決原本,及び最高裁判所において特別保存の対象となっていた事件記録については,国立公文書館に移管されました。
イ 「民事事件の判決原本の国立公文書館への移管」も参照してください。
(4) 裁判官以外の裁判所の職員が所持する裁判事務に関する書類の廃棄について(平成31年2月20日付の最高裁判所事務総長通達)には以下の記載があります(1及び2を①及び②に置き換えています。)。
① 職員は,その所持する裁判事務に関する書類を職務上利用する必要がなくなったときは,速やかにこれを廃棄しなければならない。
② 職員(退職し,又はその任期が満了した後に,再び職員として勤務することが予定されている者を除く。)は,退職し,又はその任期が満了するまでに,その所持する裁判事務に関する書類を全て廃棄しなければならない。

9 事件記録の特別保存に関する国会答弁
・ 47期の小野寺真也最高裁判所総務局長は,令和4年10月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 事件記録等保存規程におきましては、史料又は参考資料となるべきものについては保存期間満了後も保存に付するというふうにされておるところでございます。
 これを特別保存というふうに私ども呼称しておりますけれども、最高裁の通達(山中注:事件記録等保存規程の運用について(平成4年2月7日付の最高裁判所事務総長依命通達)のこと。))におきましては、その特別保存の対象になり得るものとして、重要な憲法判断が示された事件、重要な判例となった裁判がされた事件など、重要な判例となった裁判がされた事件など法令の解釈運用上特に参考になる判断が示された事件、世相を反映した事件で史料的価値の高いもの、全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なもの等を挙げております。
② 特別保存に付すべきか否かの判断につきましては、原則として、当該事件記録を保存している第一審裁判所の裁判官会議の判断によるということになります。もっとも、通常は、そうした司法行政上の判断は各裁判所の所長に委任されていることも多いものというふうに承知しております。
 また、各庁におきましては、特別保存に付するか否かの選定手続につきまして運用要領を定めております。例えば、令和二年に定められました東京地裁の運用要領(山中注:令和2年2月18日付の東京地裁の運用要領のこと)におきましては、最高裁判所民事判例集等に判決等が掲載された事件、事件担当部から保存に付するよう申出がされた事件、主要日刊紙二紙以上に終局に関する記事が掲載された事件につきまして特別保存に付するといった客観的な基準を設けております。
 また、弁護士会や学術研究者等から要望がございました場合には、これを特別保存に付するかどうか適切に判断するために、裁判所内に設置いたしました保存記録選定委員会の意見を踏まえまして、最終的に東京地裁において特別保存の要否を判断するというようなものになってございます。

10 契印に関する平成11年4月1日以降の取扱い
(1) 平成11年4月1日以降,民事事件,行政事件及び家事事件に関する文書の契印の取扱いについて(平成11年2月3日付の最高裁判所総務局長,民事局長,行政局長,家庭局長通知)に基づき以下の取扱いがされています。
1 裁判所職員が作成する文書の契印
   (1) 専ら裁判所において保管する文書は,契印を不要とする。ただし,ページ数を付するなど,文書の連続性が容易に認識できる措置を執ることが相当である。
   (2) (1)以外の文書は,契印又は契印に準ずる措置を執る。
2 当事者等が作成する文書の契印
    契印を不要とする。ただし,当事者等に対し,ページ数を付するなど,文書の連続性が容易に認識できる措置を求めることが相当である。
(2) 裁判所では,契印事務の効率化を図るため,パーフォーレター(自動契印機)を昭和62年度から高・地・簡裁を中心に配布されるようになり,平成2年度からは家裁にも配布されるようになりました(最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会(平成2年5月11日開催)における最高裁総務局参事官の発言(全国裁判所書記官協議会第111号15頁参照)参照)。
(3) 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)157頁には,「パーフォレータ【要望】」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    裁判所においては,その作成する書類の一部抜取りや改ざん防止のため,裁判関係文書謄本等の各葉にわたって契印をすることが必要とされているが,裁判関係文書謄本等は一度に複数部作成することや大部になることもあり,その一葉ごとにページをめくって,手作業で押印する負担は無視できない。契印に代えて,細かい穴による文字,記号等を文書の初葉から末葉まで打ち抜くことにより,契印事務を大幅に省力化するため,パーフォレータを整備する必要がある。
    また,パーフォレータの使用頻度は極めて高く,かつ,上記のとおり手作業で代替することは現実的でないことから,裁判関係文書謄本等に対する信頼確保を図りつつ,裁判事務に支障が生じないように,耐用年数に応じた鍵付きのパーフォレータを各裁判所に整備するために必要な経費を要求する。
<整備計画>
    令和4年度は,220台の更新整備にかかる経費を要求する。

11 書面による準備手続における協議結果の記録化(調書の作成)の方法
・ 大阪弁護士会が作成した,「書面による準備手続における協議結果の記録化(調書の作成)の方法について」82頁ないし84頁には,下記1の質問に対する大阪地裁の回答として下記2の記載があります。

記1

(1) 書面による準備手続(民事訴訟法175条)の協議結果の記録化(調書の作成)の方法について,会員に周知されたい。
(2) 協議結果の記録化(調書の作成)の際の記載事項を紹介されたい。たとえば,裁判所が書面による準備手続を実施した場所について記載されるのか。
(3) 協議結果の記録(調書)は,訴訟記録のどの分類に編綴されるのか,周知されたい。

記2

    民事訴訟手続のIT化が現在フェーズ1の段階にあって, より良い運用を目指して各裁判体により工夫を重ねている状況である。また,書面による準備手続において調書を作成するか否かは裁判長等の判断に委ねられているので,大阪地裁には協議結果の記録化に関する統一的な運用方針等は存在しない。そこで,これから運用例を紹介したい。
    まず,問題の(1)では,書面による準備手続調書(以下, 「調書」という。),又は経過表により協議結果の記録化をしている。調書と経過表の使い分けについては,裁判体の判断によるが,協議で確認した事項や当事者の準備事項を記載する場合には調書を選択する裁判体が多い。経過表は,調書として記録化をしておく必要のある事項が特にない場合や,専ら和解協議を行った場合などに用いるという裁判体もあるが,経過表と調書が混在すると見づらいことから,調書のみを用いる裁判体もある。
    なお,次回までの当事者の準備事項等については,調書等に記載することとは別に, メッセージ機能などを利用して代理人に伝達している裁判体もある。
    次に,問題の(2)では,まず調書の記載事項については,各裁判体において工夫を重ねつつあるところで,現状において統一的な運用には至っていないが,形式面では,おおむね口頭弁論調書や弁論準備手続調書の記載に準じたものになっている。具体的には, 「書面による準備手続調書」という表題を付した上で,事件の表示,協議の日時,場所,裁判官,裁判所書記官,通話先等,手続の要領等の各項目について記載する例が多い状況である。また,協議の場所については,裁判官が参加した場所については, 「大阪地方裁判所第○民事部準備手続室」と記載する例が多い。
    次に,代理人の通話先の場所としては,住所を記載せずに「代理人事務所」とだけ記載する例や,住所を記載する例としては, 「代理人事務所(委任状記載の住所地)」,又は「○○市○○区の原告代理人事務所」,又は「通話先の場所○○市○○区○○町○○事務所」といった例がある。
    次に,手続の要領等の欄については, 「Web会議の方法により協議した結果は次のとおり」との記載に続いて審理の結果を記載する例が多い。
    また,審理の結果に関する具体的な記載内容の例として,裁判官のした求釈明事項, 当事者が裁判官に求釈明の促しをした事項, 当事者による求釈明に対する回答,協議で合意した当事者の準備事項,準備書面の提出期間(これは民事訴訟法176条2項,162条に定められている。) 口頭議論の結果の要旨,暫定的な争点,今後の審理計画などがある。また,争点整理案を添付する例もある。
    なお,書面による準備手続においても, ノンコミットメントルールが適用されることから, 当事者の発言を調書に残すときは裁判官がその都度確認している。
    次に,問題の(3)では,調書については,訴訟記録の第1分類の調書群に口頭弁論調書,弁論準備手続調書等とともに編年体で編綴している。経過表については,第1分類の調書群の末尾に編綴している例や,ほかには口頭弁論調書,弁論準備手続調書等とともに第1分類の調書群の中に編年体で編綴している例がある。
    末尾に編綴しないで単なる編年体で編綴している例については, 1つの事件の中で調書と経過表が併用されるような場合は,経過表が複数の箇所に分かれて編綴されることもある。

12 その他民事訴訟法関係のメモ書き
(1) 土地管轄
ア 債務整理・自己破産・個人再生の弁護士相談サイト「行ったことも、住んだこともない地域の裁判所から、貸金返還の訴状が送られてきた!裁判はどこの裁判所でもできるの?」には民訴法5条1号の義務履行地に関する特別裁判籍について以下の記載があります。
貸金業者A社は、Xさんが借金の返済をすべき場所に、訴訟提起できます。
借金の返済をすべき場所とは、Xさんがお金を借りた際に指定された場所、このような指定をされなかった場合は貸金業者A社の住所地(本店所在地。支店も可)になります。
借金の返済は、お金を借りた人が、お金を貸した人の元へ借りたお金を持参して返すのが、原則だからです。
イ 地方裁判所の本庁と支部間,又は支部相互間の事件の回付は,訴訟法上の手続ではありませんから,回付の措置に対しては,当事者は,訴訟法に準拠する不服申立をすることはできません(最高裁昭和44年3月25日決定)。
ウ 東京高裁平成23年9月26日決定(判例秘書掲載)は,民訴法5条5号に基づく特別裁判籍について以下の判示をしています。
    民訴法五条五号は、「事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの」については、同業務に関する限り、その事務所又は営業所を「被告の住所地(主たる事務所の所在地)」同様とみることができるため、訴訟追行の便宜を考慮して、「当該事務所又は営業所の所在地」に管轄を認めている。同号の規定の趣旨及び取引自体が終了している場合、取引自体が業務であるとすることは背理に等しく、記録管理がその主たる業務となるはずであること等に鑑みると、「その事務所又は営業所における業務」の意義については、取引を行っていた店舗が訴え提起の時点で「事務所又は営業所」に該当しない場合、その取引又は取引終了後の記録管理業務を行う事務所又は営業所における業務をいうものと解するのが相当である。
(2) 事物管轄
・ 東弁リブラ2013年5月号の「東京地裁交通部に聞く-交通部編-」には地裁審理を求める上申書について以下の記載があります(リンク先のPDF3頁)。
    訴額が140万円以下である場合には簡易裁判所の管轄です。事物管轄が簡易裁判所にあるにもかかわらず,当部での審理を求めて当庁に訴訟提起をされる場合があります。その場合には,自庁処理(民訴法16条2項)を申し立てるときには申立書,職権発動を求めるときには上申書の提出をしていただきます。申立書又は上申書には,事前交渉の経過を踏まえた上で,予想される相手方の主張,予想される争点等から,簡易裁判所ではなく地方裁判所での審理を相当とする事情を具体的に記載してください。
(3) 訴えの変更
・ 相手方の陳述した事実に基づいて訴えの変更をする場合,請求の基礎に変更があるときでも,相手方の同意の有無にかかわらず,訴えの変更は許されます(最高裁昭和39年7月10日判決)。
(4) 和解
・ 和解無効を主張する方法としては,期日指定の申立て,和解無効確認の訴え及び請求異議の訴えがあります(法律のお勉強ブログの「訴訟上の和解の無効の主張方法」参照)。
・ 訴訟上の和解が成立したことによって訴訟が終了したことを宣言する終局判決である第1審判決に対し,被告のみが控訴し原告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において,控訴審が第1審判決を取り消した上原告の請求の一部を認容する本案判決をすることは,不利益変更禁止の原則に違反して許されません(最高裁平成27年11月30日判決)。
・ 裁判上の和解は確定判決と同一の効力を有し既判力を有します(最高裁大法廷昭和33年3月5日判決)。
・ 東京地裁知財部(29民,40民,46民及び47民)HPに載ってある「和解条項例」の場合,放棄条項において「被告に対する」という文言がありません。

13 関連記事その他

(1) 令和6年1月30日,事件記録等の特別保存に関する規則が施行されました(裁判所HPの「「事件記録等の特別保存に関する規則」の制定について」参照)。
(2) 訟廷事務とは,①訟廷事務室事件係で行われる受付から分配までの過程,及び②訟廷事務室記録係で行われる訴訟完結後の事件記録の保存・廃棄等の過程をいいます。
(3) 民事事件の裁判文書については,受付から廃棄又は移管に至る過程を単一のルール(例えば,文書管理規則)で定められているわけではなく,執務ごとにそれぞれ別個の規程や通達で定められています。
   そのため,裁判所書記官は人事異動のたびに規程や通達をはじめから勉強する必要があることとなります。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 裁判所における主なシステム
・ 裁判所の情報化の流れ
・ 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
・ 民事事件の裁判原本の国立公文書館への移管
・ 司法行政文書の国立公文書館への移管
・ 公文書管理に関する経緯,公文書館に関連する法律及び国立公文書館
 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 裁判所書記官の役職
・ 書記官事務等の査察
・ 首席書記官の職務


* 平成28年度新任判事補研修の資料からの抜粋です。

裁判文書及び司法行政文書がA4判・横書きとなった時期

目次
1 裁判文書の場合
2 司法行政文書の場合
3 関連記事その他

1 裁判文書の場合
(1)   平成13年1月1日からA4判・横書きとなるとともに,参考書式の仕様は1行37文字・1頁26行・左余白30㎜・上余白35㎜とされました(日弁連HPの「裁判文書」参照)。
(2) 平成12年12月31日までは,かつての民事訴訟規則(平成10年1月1日廃止)6条が「訴訟書類には、できる限り、日本工業規格B列四番の用紙を二つに折ったもの又は日本工業規格B列五番の用紙を使用しなければならない。ただし、図面、統計表その他これに準ずるものについては、この限りでない。」と定めていたため,B判・縦書きでした。
(3) 日弁連HPの「裁判文書」には,「その他(平成12年11月16日日弁連企第231号)」として以下の記載があります。
    弁護士会から最高裁事務総局に照会しました結果は以下のとおりです。
・ 印刷仕様は片面印刷
・ A3判の袋とじは使用せず、A4判によるものとする。
・ 複数枚の文書の綴じ方は左綴じとし、左余白30㎜以内のところで、ホチキスにより2か所をとめる。
・ 使用文字の大きさは12ポイントの文字で、見出しの文字の大きさを変更するのは任意である。
・ 読点の種類について裁判文書は「,」に統一しているので、「,」の使用する。ただし「、」を使用されている文書も用いることができる。
・ 裁判所書式の一部改正について
(平成30年11月12日日弁連法2第223号)
    平成30年10月17日から、証人等尋問調書の様式が一部改正されています。被害者または証人等の秘匿情報管理の観点から、証人等尋問調書の様式の住居欄、年齢欄および職業欄を削除したとのことです。
(4) 45期の門田友昌最高裁判所民事局長は,令和4年4月3日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    裁判官が個別の事案において判決書をどう起案するかについては、各裁判官の判断と責任に委ねられているところでございまして、最高裁判所が個別事案における裁判官の判決起案の在り方やその過程について調査、検証等の対応を取ることは、裁判官の職権行使の独立との関係で相当ではないと考えているところでございます。
    したがって、最高裁としては、今回報道されました判決の起案過程において、いわゆるコピペが行われたかどうかについて調査、検証することは難しいということを御理解いただければと存じます。
(5)ア 裁判文書の表記方法につき以下の記事が参考になります
・ 裁判文書作成の技術HP「裁判文書表記法」
・ 実務の友HP「裁判文書(裁判所提出書類)の標準的な書式,表記法」
イ 以下の文書を掲載しています。
・ 判決書の書式等の標準的な設定について(平成29年7月24日付の最高裁判所総務局長等の書簡)
・ 判決書の書式等の標準的な設定に従った参考書式等の送付について(平成29年7月24日付の最高裁判所総務局第一課長,民事局第一課長,刑事局第一課長等の事務連絡)


2 司法行政文書の場合
(1) 昭和61年1月1日,縦書きから左横書きとなりました。
(2) 平成 7年1月1日,以下の通達に基づき,A判の用紙が使用されるようになりました。
① 司法行政文書の用紙規格及び左横書きについて(平成6年9月1日付の最高裁判所事務総長依命通達)
② 司法行政文書の用紙規格及び左横書き実施要領について(平成6年9月1日付の最高裁判所事務総局秘書課長依命通達)
(3) 例えば,最高裁判所裁判官会議議事録に「部の事務を総括する裁判官の名簿」についていえば,昭和62年度分(昭和61年12月作成)からB判・横書きとなり,平成8年度分(平成7年12月作成)からA4判・横書きとなりました。
(4) 以下の資料を掲載しています。
・ 一元的な文書管理システム教材の改訂版(令和2年3月24日付の配布文書)
・ 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)
・ 公文書の左横書きについて(昭和47年12月22日付の内閣法制局の文書)
・ 閣議関係文書のA4判化等について(平成5年11月25日付の内閣法制局長官総務室第一課の連絡文書)


文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)
からの抜粋です。

3 関連記事その他
1 文化庁HPの「「公用文作成の考え方」について(建議)」「公用文作成の考え方(令和4年1月7日付の文化審議会の建議)」が載っていますところ,前書きには「昭和26年に当時の国語審議会が建議した「公用文作成の要領」は、翌27年に内閣官房長官依命通知別紙として各省庁に周知されてから約70年を経ている。基本となる考え方は現代にも生きているものの、内容のうちに公用文における実態や社会状況との食い違いがあることも指摘されてきた。」と書いてあります。
2 以下の記事も参照して下さい。
・ 新様式判決
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携

司法行政文書の国立公文書館への移管

目次
1 総論
2 実務レベルでの申合せ
3 司法行政文書に関する公文書等移管計画
4 歴史資料として重要な公文書等として内閣総理大臣に移管すべき司法行政文書の類型
5 関連記事その他
   
1 総論
(1) 裁判所及び国会は,内閣総理大臣と協議して定めることにより,歴史公文書の適切な保存のために必要な措置を講ずるものとされています(公文書管理法14条1項)。
   内閣総理大臣は,裁判所及び国会との合意により,歴史公文書の移管を受けることができます(公文書管理法14条2項)ところ,あらかじめ国立公文書館の意見を聴くことができます(公文書管理法14条3項)。
(2) 内閣総理大臣及び最高裁判所長官は,平成21年8月5日,「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」という申合せをしました(改正前の国立公文書館法15条1項参照)。
   これにより, 裁判所の過去の主要な活動を跡づけるために必要な,司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な事項に係る意思決定等が記録された司法行政文書について保存期間が満了した場合,国立公文書館に移管されることとなりました(国立公文書館HPの「司法府から国立公文書館への公文書の移管について」参照)。
   
2 実務レベルでの申合せ
(1) 内閣府大臣官房長及び最高裁判所事務総局秘書課長及び総務局長は,平成25年6月14日,「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について(平成21年8月5日内閣総理大臣・最高裁判所長官申合せ)の実施について」という申合せをしました(公文書管理法14条1項参照)。
(2) 当該申合せでは,保存期間が満了した以下の司法行政文書が国立公文書館に移管されることとなりました。
ア   司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な事項に係る意思決定を行うための決裁文書(当該決裁文書と一体不可分の記録であって,当該決裁文書の内容又は当該意思決定に至るまでの審議,検討若しくは協議の過程が記録されたものを含む。)
イ   司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な事項に係る意思決定に基づく裁判所の事務の実績が記録されたもの
ウ   次のいずれかに該当するもの
①   保存されている期間が30年以上である文書(保存期間が30年未満であっても,当該文書の保存期間及び保存期間の満了する日を延長した結果として30年以上となるものを含む。)
②   最高裁判所がその施策等を一般に周知させることを目的として作成した広報誌,パンフレット,ポスター,ビデオ等の広報資料
③   予算,決算に関する送付文書等の毎年又は隔年等に定期的に作成される文書のうち,(2)エの規定により,内閣総理大臣が最高裁判所長官と移管について協議し,包括的な合意に達したもの
④   (2)オの規定により,合意した特定の国政上の重要事項等に関連して作成された文書であって,内閣総理大臣が最高裁判所長官と移管について協議し,合意に達したもの
エ   裁判所の保有する司法行政文書であって,アからウまでのいずれにも該当しないもののうち,結果として司法制度上多大な影響を及ぼすこととなった事項について記録されたものその他内閣総理大臣が国立公文書館において保存することが適当であると認めるものであって,内閣総理大臣が最高裁判所長官と移管について協議し,合意に達したもの
(3) 内閣府大臣官房公文書管理課長及び最高裁判所事務総局秘書課長及び総務局第一課長は,平成25年6月14日,「歴史資料として重要な公文書等の内閣総理大臣への移管手続について」という申合せをしました。
   
3 司法行政文書に関する公文書等移管計画
(1) 内閣総理大臣が最高裁判所長官に通知した,司法行政文書に関する公文書等移管計画を以下のとおり掲載しています。
・ 令和 4年度分(令和 5年3月24日付)
・ 令和 3年度分(令和 4年3月31日付)
・ 令和 2年度分(令和 3年3月31日付)
・ 令和 元年度分(令和 2年3月24日付)
・ 平成30年度分(平成31年3月27日付)
・ 平成29年度分(平成30年3月30日付)
・ 平成28年度分(平成29年3月30日付)
・ 平成27年度分(平成28年3月22日付)
・ 平成26年度分(平成27年3月30日付)
・ 平成25年度分(平成26年3月31日付)
・ 平成24年度分(平成25年3月28日付)
・ 平成23年度分(平成24年3月22日付)
(2) 公文書等移管計画は,歴史資料として重要な公文書等を移管する計画を年度ごとに定めた文書であり,「国立公文書館での保存を適当と認めるファイル」が載っています。4 歴史資料として重要な公文書等として内閣総理大臣に移管すべき司法行政文書の類型
・ 「内閣総理大臣への司法行政文書の移管に関する事務の取扱いについて」(平成22年3月30日付の最高裁判所事務総長依命通達)別表によれば,歴史資料として重要な公文書等として内閣総理大臣に移管すべき司法行政文書の類型は以下のとおりです。
① 規則,規程等関係
(1) 最高裁判所規則及び最高裁判所規程の制定及び改廃に関する文書
(2) 通達及び通知のうち重要なもの
(3) 規定の解釈及び運用基準に関する文書
(4) (1)に掲げる文書に係る各府省庁との申合せに関する文書
② 裁判官会議等関係
(1) 裁判官会議に関する文書
(2) 常置委員会に関する文書
③ 予算,決算関係
(1) 予算書及び予算参考書に関する文書
(2) 予算要求に関する文書
(3) 決算書及び決算参照書に関する文書
(4) 決算の説明に関する文書
(5) 歳入主計簿及び歳出主計簿に関する文書
(6) 国有財産に関する文書
④ 基本計画等関係
・ 司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な事務の方針及び計画に関する文書
⑤ 国際条約等関係
(1) 条約その他の国際約束の署名及び締結に関する文書
(2) 国際会議の取決めに係る記録のうち重要なもの
⑥ 組織,定員関係
(1) 組織の設立,変更及び廃止に関する文書
(2) 定員の変更及び廃止に関する文書
⑦ 審議会等関係
(1) 規則制定諮問委員会の諮問,答申,建議,意見及び議事録のうち重要なもの
(2) その他委員会,研究会等の報告書及び議事録のうち重要なもの
⑧ 事務総局会議関係
・ 事務総局会議に関する文書のうち重要なもの
⑨ 国会関係
(1) 国会答弁に関する文書
(2) 国会提出に関する文書
⑩ 争訟関係
・ 行政不服審査に関する文書
⑪ 統計関係
(1) 統計の企画及び公表資料の作成に関する文書
(2) 統計を作成するための調査に関する文書
⑫ 人事関係
(1) 職員の任免,身分,賞罰,恩給及び給与その他の人事に関する内規を定めた文書のうち特に重要なもの
(2) 審議会等の委員の任免関係に関する文書
⑬ 栄転,表彰関係
・ 叙位,叙勲,褒章及び各種表彰に関する文書のうち重要なもの
⑭ 事故等関係
・ 震災等自然災害関係等に関する文書のうち重要なもの
⑮ 調査,研究関係
(1) 司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な意思決定又はその遂行に反映させるために実施した調査又は研究の経緯に関する文書
(2) 司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な意思決定又はその遂行に反映させるために実施した調査又は研究の結果報告書
⑯ 司法行政に係る重要な政策関係
・ 司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な意思決定及び当該意思決定に基づく司法行政事務の実績が記録されたもの
⑰ その他
・   最高裁判所長官と内閣総理大臣が合意して移管の対象と認める国政上重要なもの又はそれに準じるもの
   
5 関連記事その他
(1) 内閣府HPの「公文書管理制度」「法令・通知等」があります。
(2) 「行政機関におけるコンプライアンス確保のための取組について」(平成30年8月3日の研修資料)が分かりやすいです。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 公文書管理に関する経緯,公文書館に関連する法律及び国立公文書館
・ 裁判関連文書は国立公文書館への移管が予定されていないこと
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 歴史資料として重要な公文書等として内閣総理大臣に移管すべき司法行政文書
・ 民事事件の判決原本の国立公文書館への移管
・ 公文書管理に関する経緯,公文書館に関連する法律及び国立公文書館

裁判関連文書は国立公文書館への移管が予定されていないこと

平成28年度(最情)答申第24号(平成28年7月15日答申)における最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しました。)。

1 裁判所は,公文書等の管理に関する法律附則4条の規定による改正前の国立公文書館法15条1項の規定に基づき,内閣総理大臣と協議して定めるところにより,裁判所の保管に係る歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置を講じ,その措置として,内閣総理大臣に対して裁判所の保管に係る歴史資料として重要な公文書等を移管している。
2 上記「歴史資料として重要な公文書等」については,平成21年8月5日付け内閣総理大臣・最高裁判所長官申合せ「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」及び平成25年6月14日付け内閣府大臣官房長・最高裁判所事務総局秘書課長・同総務局長申合せ「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について(平成21年8月5日内閣総理大臣・最高裁判所長官申合せ)の実施について」(以下「本件各申合せ」という。)によって申合せがされ,最高裁判所は,本件各申合せに係る文書を保有している。
   裁判所から内閣総理大臣に移管する「歴史資料として重要な公文書等」の範囲は,本件各申合せにより,歴史資料として重要な判決書等の裁判文書並びに裁判所の過去の主要な活動を跡づけるために必要な,司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な事項に係る意思決定及びその意思決定に至るまでの審議,検討又は協議の過程及びその決定に基づく施策の遂行過程が記録された司法行政文書であるとされている。
3 本件開示申出書記載の「事件記録に該当しないものの,裁判に密接に関連する文書」とは,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載し,裁判所の裁判部において管理している文書等を意味するものと理解されるが,そのような文書は,上記記載の「歴史資料として重要な公文書等」に当たらないので,本件各申合せは本件開示申出文書ではない。
   また,その他の文書の移管方法について,最高裁判所と内閣府との間で取り交わした文書は存在せず,したがって,「事件記録に該当しないものの,裁判に密接に関連する文書」の移管方法に係る文書も存在しない。

民事事件の判決原本の国立公文書館への移管

目次
1 昭和29年1月1日の,事件記録等保存規程の施行
2 昭和40年1月1日の,事件記録等保存規程の施行
3 平成6年及び平成7年の,国立大学法学部への移管作業
4 平成12年度からの民事判決原本の国立公文書館への移管作業
5 保存期間満了後の民事事件の判決書等の国立公文書館への移管
6 国立公文書館への移管作業に関する細目
7 国立公文書館への裁判文書の運搬
8 関連記事その他
   
1 昭和29年1月1日の,事件記録等保存規程の施行
(1) 最高裁判所は,昭和29年1月1日,事件記録等保存規程(昭和28年12月5日最高裁判所規程第9号)を施行しました。
(2)   民事事件の判決原本は引き続き永久保存とされました。
   
2 昭和40年1月1日の,事件記録等保存規程の施行
(1) 最高裁判所は,昭和40年1月1日,事件記録等保存規程(昭和39年12月12日最高裁判所規程第8号)を施行しました。
   民事事件の判決原本は引き続き永久保存とされました。
(2) 事件記録等保存規程9条2項は,「記録又は事件書類で史料又は参考記録となるべきものは,保存期間満了の後も保存しなければならない」として,史料等としての特別保存義務を特に定めたにもかかわらず,ほとんど適用されませんでした。
   
3 平成6年及び平成7年の,国立大学法学部への移管作業
(1)ア 最高裁判所は,平成4年1月23日,事件記録等保存規程を改正し,平成6年1月1日以降,判決確定から50年を経過した判決原本(=昭和18年12月31日までに確定した判決原本)を随時,廃棄することを決定し,その例外として,事件記録等保存規程の運用について(平成4年2月7日付の最高裁判所事務総長の依命通達)をもって,特別保存に付するものの運用の基準を明らかにしました。
    しかし,判決原本の廃棄を憂慮する国立大学法学部教授等による「判決原本の会」等から最高裁判所に対して廃棄見直しの要望が行われ,平成5年12月,判決原本の一時保管に応じても良いする国立大学法学部が現れたことを踏まえて,判決原本の廃棄を見合わせることとなりました。
    その結果,平成6年から平成7年にかけて高等裁判所所在地の10の国立大学法学部に移管作業が実施され,そこで一時保管されることとなりました(国立公文書館HPの「24.司法文書の移管(1)-民事判決原本(国立大学より)」,及び東弁リブラ2021年4月号「記録を救おう!-歴史的記録としての民事訴訟記録の保存-」参照)。
イ 判決原本を一時保管した国立大学は,北海道大学,東北大学,東京大学,名古屋大学,大阪大学,岡山大学,広島大学,香川大学,九州大学及び熊本大学でした。
(2) 最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会(平成6年6月3日開催)において以下の発言がありました(全国裁判所書記官協議会会報第127号)。
    平成四年一月二三日、事件記録等保存規程の一部が改正され、永久保存とされていた判決原本の保存期間が五〇年とされました。また、平成四年二月七日付最高裁総三第八号事務総長依命通達「事件記録等保存規程の運用について」において、五〇年を超えて保存されている判決原本を直ちに廃棄することはせず、平成六年一月一日以降に廃棄を行うこととになりました。判決原本の永久保存を廃止したのは、多くの裁判所において保存期間五〇年を経過した判決原本が相当の分量になり(保存期間五〇年を経過した判決原本の厚さは、例えば、東京地裁、大阪地裁では、百数十メートルに及んでいる。)、記録庫が狭隘になったこと等の理由によります。
   
4 平成12年度からの民事判決原本の国立公文書館への移管作業
(1) 国立公文書館法(平成11年6月23日法律第79号)の成立を契機として,国立公文書館への移管を念頭に置いて,国立公文書館,国立大学及び日弁連の関係三者間で協議が行われました。
   その結果,平成12年5月31日,段階的に総理府の国立公文書館へ移管することについて三者間での合意が成立しました。
(2)   この合意を受けて,内閣総理大臣官房審議官と文部省高等教育局長とが共同で,平成12年9月26日,「国立大学が保管する民事判決原本の総理府(国立公文書館)への移管及び受入れに関する取扱方針」を定めました。
   この取扱方針では,平成12年度から12か年計画で民事判決原本の移管を行うというスケジュールが定められました。
(3) 国立公文書館は,平成23年3月4日までに3万6624冊の民事判決原本を受け入れたことにより,当該文書の移管は完了しました(国立公文書館HPの「国立大学からの民事判決原本の移管完了について-民事判決原本利用のための手引-」参照)。
(4)   国立公文書館は,平成23年7月8日,昭和18年までの民事判決原本の目録を公開し,国立公文書館デジタルアーカイブからの検索が可能となりました(国立公文書館HPの「国立大学から民事判決原本の移管がすべて完了。目録公開される。」参照)。
   
5 保存期間満了後の民事事件の判決書等の国立公文書館への移管
(1) 最高裁判所長官及び内閣総理大臣は,平成21年8月5日,「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」という申合せをしました(改正前の国立公文書館法15条1項参照)。
   これにより,歴史資料として重要な判決書等の裁判文書について保存期間が満了した場合,国立公文書館に移管されることとなりました(国立公文書館HPの「司法府から国立公文書館への公文書の移管について」参照)。
(2) 「歴史資料として重要な公文書等(裁判文書)移管計画について」(平成22年2月1日付の内閣総理大臣通知)に基づき,最高裁判所全国の下級裁判所は,国立公文書館に対し,平成21年度において,明治8年から昭和30年12月31日までに完結した最高裁判所所蔵の民事判決原本及び事件記録等保存規程9条2項に基づき「特別保存」とされていた事件記録を移管しました(国立公文書館HPの「24.司法文書の移管(2)-裁判文書(司法府より)」参照)。
(3)ア 「歴史資料として重要な公文書等(裁判文書)移管計画について」(平成25年6月26日付の内閣総理大臣通知)に基づき,最高裁判所及び全国の下級裁判所は,国立公文書館に対し,平成25年度から平成29年度にかけて,昭和37年12月31日までに完結した民事判決原本及び事件記録等保存規程9条2項に基づき「特別保存」とされていた事件記録を移管しました。
イ 「歴史資料として重要な公文書等(裁判文書)移管計画について」(平成29年11月21日付の内閣総理大臣通知)に基づき,最高裁判所及び全国の下級裁判所は,国立公文書館に対し,平成30年度から令和4年度にかけて,保存終了の日が平成29年12月31日以前の民事判決原本等を移管する予定です。


6 国立公文書館への移管作業に関する細目
(1)ア 内閣府大臣官房長及び最高裁判所事務総局秘書課長及び総務局長は,平成25年6月14日,「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について(平成21年8月5日内閣総理大臣・最高裁判所長官申合せ)の実施について」という申合せをしました(公文書管理法14条1項参照)。
イ 当該申合せでは,保存期間が満了した以下の裁判文書が原則として国立公文書館に移管されることとなりました。
① 民事事件の判決の原本及びその附属書類であって,保存規程第4条に規定する保存期間が満了したもの
② 民事事件の事件記録及び事件書類(判決の原本及びその附属書類を除く。)であって,保存規程第4条に規定する保存期間が満了し,かつ,保存期間の満了の後も保存規程第9条第2項の規定に基づき資料又は参考資料となるべきものとして保存されているもの
③ 裁判所法(昭和22年法律第59号)の施行の日(昭和22年5月3日)前に備え付けられた裁判所の事件に関する事項を登載する帳簿及び諸票であって,裁判所の定める保存期間が満了したもの
(2) 内閣府大臣官房公文書管理課長及び最高裁判所事務総局秘書課長及び総務局第一課長は,平成25年6月14日,「歴史資料として重要な公文書等の内閣総理大臣への移管手続について」という申合せをしました。

7 国立公文書館への裁判文書の運搬 
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)130頁には,「国立公文書館への裁判文書の運搬費」として以下の記載があります。
<要求要旨>
   平成21年8月5日に,内閣総理大臣(内閣府)と最高裁判所長官との間で,裁判所の保管に係る歴史資料として重要な公文書等を国立公文書館に移管するとの申合せを締結した。この申合せに基づき,下級裁判所等において保管している裁判文書のうち歴史資料として重要なものについて,国立公文書館に移管するために必要な運搬費を要求する。
<実施計画>
   平成21年度から平成24年度までの間は昭和30年までに既済となった事件,平成25年度から平成29年度までの間は昭和37年までに既済となった事件に係る裁判文書のうち歴史資料として重要なものについて,国立公文書館に移管した。
   平成30年度以降は,昭和42年までに既済となった事件に係る裁判文書のうち国立公文書館に移管することが適当なものを令和4年度までに順次移管する予定である。移管文書は梱包資材を用いて梱包の上,郵送等により国立公文書館つくば分館に送付する。令和4年度の裁判文書の移管簿冊数は,約4100冊程度を予定している。

8 関連記事その他
(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 保存期間の満了後も事実上保存されている事件記録等の処理について(平成28年7月20日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
・ 民事事件の事件記録及び事件書類に関する特別保存の運用について(令和2年2月18日付の東京地裁運用要領)
・ 事件記録等の2項特別保存に関する運用例について(令和2年3月9日付の最高裁判所総務局長の通知)
(2) 自由と正義1997年1月号の「司法資料の保存・利用について」には、民事司法資料及び刑事司法資料の保存・利用のことが書いてあります。
(3) 東弁リブラ2021年4月号「記録を救おう!-歴史的記録としての民事訴訟記録の保存-」が載っています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 謄写業者,及び確定した刑事記録の保管場所
・ 加害者の刑事裁判の判決が確定した後の,起訴事件の刑事記録の入手方法
・ 司法行政文書の国立公文書館への移管
・ 公文書管理に関する経緯,公文書館に関連する法律及び国立公文書館

司法行政文書開示請求の対象とならないとされた下級裁判所の司法行政文書

○司法行政文書には,裁判事務に関する文書は含まれず,裁判事務に関する文書には,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載し,裁判所の裁判部において管理している文書が含まれます。
ただし,下級裁判所事務局が司法行政事務を処理する目的で取得した場合,司法行政文書開示請求の対象になるみたいです(平成28年度(情)答申第7号(平成28年9月1日答申)平成30年度(情)答申第24号(平成31年3月15日答申)等参照)。
○行政機関の場合,行政文書該当性については,対象となる文書に係る具体的・客観的状況に基づいて判断すべきものであり,行政機関内部における一般的な取扱いや,行政機関の職員の主観的な認識といった事情により,その判断が左右されるものではありません(内閣法制局長官の国会答弁資料に関する平成28年度(行情)答申第646号(平成29年1月17日答申)9頁)。
これに対して司法行政文書の場合,裁判所内部における一般的な取扱いや,裁判所職員の主観的な認識といった事情により,司法行政文書に該当するかどうかの判断が左右されている気がします。
〇刑事裁判における公判前整理手続の場合,警察官が私費で購入したノートに記載し,一時期自宅に持ち帰っていた取調べメモについても証拠開示を命じられることがあります(最高裁平成20年9月30日決定参照)。
最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,下級裁判所の以下の文書は司法行政文書開示請求の対象とならないそうです。

1 弁護士が後見人として一定以上の財産を預かる場合,不正をチェックするために別の弁護士を「後見監督人」として付ける運用の基準を定めた文書(平成27年度(情)答申第3号(平成28年3月8日答申)
→ 「(1) 取扱要綱記第2本文は,「裁判所は,その保有する司法行政文書の開示の申出があった場合は,何人に対しても,当該司法行政文書を開示するものとする。」と定め,取扱要綱記第1は,「この取扱要綱において「司法行政文書」とは,裁判所の職員が職務上作成し,又は取得した司法行政事務に関する文書,図画及び電磁的記録(略)であって,裁判所の職員が組織的に用いるものとして,裁判所が保有しているものをいう。」と定めている。そして,司法行政文書には,裁判事務に関する文書は含まれず,裁判事務に関する文書には,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載し,裁判所の裁判部において管理している文書が含まれると解される。
(2) そこで,本件開示申出文書について検討すると,本件開示申出文書について,最高裁判所事務総長は,後見監督人の選任等に係る個々の事件処理の参
考とするために,当該裁判に密接に関連する事項について東京家庭裁判所の複数の裁判官等が申合せを行った結果を記載した文書であることから,司法行政文書には該当しないと説明する。後見監督人の選任は,家庭裁判所が行う審判事項であり,その法律上の要件は「必要があると認めるとき」とされているにすぎないから(民法849条,家事事件手続法39条参照),後見監督人の選任に係る運用の基準は,家庭裁判所が行う後見監督人選任の審判という裁判に密接に関連する事項に係るものといえ,この点に関する上記説明は合理的である。
また,最高裁判所事務総長は,本件開示申出文書は,東京家庭裁判所及び立川支部の裁判部である家事部で管理していると説明するところ,上記のような本件開示申出文書の性質に照らすと,この点に関する説明も合理的である。
そうすると,本件開示申出文書は,裁判所の職員が作成したものではあるが,裁判事務に関する文書であるということができるから,取扱要綱記第1にいう「司法行政事務に関する文書」には当たらないというべきであり,その結果,本件開示申出文書は,取扱要綱記第2本文に定める司法行政文書の開示の手続の対象となる司法行政文書には該当しないのであって,同手続の対象とはならない文書であると認められる。」そうです。

2 ①破産管財人の報酬を決定する基準が書いてある文書,及び②破産管財人の報酬の目安が分かる文書(平成27年度(情)答申第4号(平成28年3月8日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件各開示申出文書が存在するとすれば,それらは,破産事件における破産管財人の報酬決定を行う際の基準又は目安について記載された文書であるから,個々の破産事件の処理の参考とするために,裁判事項ないし裁判に密接に関連する事項について複数の裁判官等が申合せを行った結果などを記載したものであるから,専ら裁判事務に関して作成された文書であって,司法行政事務に関して作成された司法行政文書ではないと説明する。破産管財人の報酬の額は,個別の事件ごとに,当該事件の破産管財人につき,その都度裁判所が定めるものであるから(破産法87条1項参照),破産管財人の報酬決定の基準やその目安は,破産管財人の報酬決定という裁判に密接に関連する事項に係るものといえ,この点に関する上記説明は合理的である。
また,最高裁判所事務総長は,神戸地方裁判所において司法行政事務を所掌する事務局に所属する職員がこれらの文書を取得したこともないと説明するところ,上記のような本件各開示申出文書の性質に照らすと,この点に関する説明も合理的である。
そうすると,本件各開示申出文書は,裁判所の職員が作成したものではあるが,裁判事務に関する文書であるということができるから,取扱要綱記第1にいう「司法行政事務に関する文書」には当たらないというべきであり,その結果,本件各開示申出文書は,取扱要綱記第2本文に定める司法行政文書の開示の手続となる司法行政文書には該当しないのであって,同手続の対象とはならない文書であると認められる。」そうです。

3  成年後見人の選任に関して,東京家庭裁判所が特定の団体らとの間で取り交わしている文書(平成27年度(情)答申第5号(平成28年3月8日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件各文書は,後見人選任の審判の用に供するために,東京家庭裁判所の裁判部の一部門である家事第一部2係(後見センター)で取得し,保存していると説明する。本件開示申出の内容に照らすと,本件各文書がいずれも外部の団体から東京家庭裁判所の裁判部が取得した文書であると解されることや,成年後見人の選任が家庭裁判所によって行われる裁判事務であること(民法849条参照)を総合すると,上記の説明は合理的であり,本件各文書は,専ら後見人選任の審判という裁判事務のために用いるものとして東京家庭裁判所の裁判部で取得した文書で,裁判部で管理しているものであると認めることができる。
そうすると,本件各文書は,いずれも取扱要綱記第1にいう「司法行政事務に関する文書」には当たらないというべきであるから,これらは同記第2本文に定める司法行政文書の開示の手続の対象となる司法行政文書には該当しないのであって,同手続の対象とはならない文書である。」そうです。

4 東京地裁民事21部の事務処理要領(平成28年度(情)答申第7号(平成28年9月1日答申)
→ 「本件開示申出文書について検討すると,これは,東京地方裁判所の裁判部である民事第21部の事務処理要領であるから,個々の事件処理の参考とするために作成されたもので,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載したものであると考えられる。
そして,最高裁判所事務総長は,東京地方裁判所の事務局が本件開示申出文書を司法行政事務を処理する目的で取得したことはないと説明するところ,この説明が不合理であるとうかがわせる事情はないから,本件開示申出文書は裁判部において管理されているものと認められる。この点について,苦情申出人は,不適切な郵便切手の管理に関する調査に関連して司法行政部門が本件開示申出文書を取得しているはずであると主張するが,そのような調査に際し,調査対象となる裁判部における事務処理要領を取得する必要があるとする具体的な事情はうかがわれないから,そのような事実を認めることはできない。」そうです。

5 東京家裁における,本人死亡後の後見等監督に関する運用が書いてある文書(平成30年度(情)答申第24号(平成31年3月15日答申)
→ 「苦情申出人が開示を求める文書は,本人死亡後の後見等監督という裁判事務に関する文書と解される。また,最高裁判所事務総長の上記説明によれば,東京家庭裁判所の事務局及び訟廷事務室において,本件開示申出文書を司法行政目的で取得したことはないとのことであり,このことは当委員会庶務において確認された。」そうです。

6 名古屋高等裁判所が特定の裁判官を懲戒処分とした際に作成し,又は取得した文書(平成31年度(情)答申第2号(平成31年4月19日答申)
→ 「憲法78条は「裁判官の懲戒処分は,行政機関がこれを行ふことはできない」と,裁判所法49条は「裁判官は,職務上の義務に違反し,若しくは職務を怠り,又は品位を辱める行状があつたときは,別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される」とそれぞれ定めており,裁判官分限法及びこれに基づく裁判官の分限事件手続規則において,裁判官の懲戒に関する事件の裁判管轄や手続について規定されていることからすれば,本件開示申出文書は裁判事務に関する文書と解される。」そうです。

不開示事由に該当するとされた下級裁判所の司法行政文書

最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,以下の司法行政文書には不開示情報が含まれています。
行政機関情報公開法6条2項は,「開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。」と定めており,その意義につき,最高裁平成19年4月17日判決の裁判官藤田宙靖の補足意見が参考になります。

1 「東京地裁が,平成28年1月までに,60代の女性書記官を1ヶ月の停職処分にした際に作成し,又は取得した文書」のうち,被処分者の氏名等(平成28年度(情)答申第6号(平成28年9月1日答申)
→ 「原判断庁が本件各対象文書のうち不開示としたのは,①被処分者の氏名,②級号俸,③事件番号,④刑事裁判との関係欄の年月日,⑤具体的な事件に係る期日の月日,⑥事件当事者の呼称,⑦書証番号,⑧被処分者による行為の月日(同人が自己の事務の誤りに気付いたり,認識した月日を含む。)及び⑨被処分者が誤って作成した期日呼出状に記載された期日の年月日の情報(以下「本件不開示情報」という。)である。
本件各対象文書記載の情報(文書2の書式に相当する情報を除く。)は,全体として被処分者を識別することができることとなる情報(法5条1号)に相当する情報であるが,そのうち本件不開示情報以外の情報は,「懲戒処分の公表指針」に従って,報道機関を通じて公表した情報であることから,慣行として公にされる情報(法5条1号イ)に相当する情報であり,本件不開示情報は,同号ただし書イ,ロ及びハのいずれにも相当しない情報である。さらに,本件不開示情報のうち,上記②及び④を除く情報は,事件当事者を識別することができることとなる情報若しくは個人の権利利益を害するおそれのある情報(法5条1号)又は法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報(法5条2号イ)に相当する情報である。」そうです。

2 平成28年5月27日の,小池裕最高裁判所判事の水戸地方裁判所視察に関する視察日程案,視察日程細目(平成28年度(情)答申第14号(平成28年10月24日答申)
→ 「最高裁判所は,司法権及び司法行政権の最高機関であるから,最高裁判所判事が要人として犯罪行為等の標的となることは否定できない。そして,憲法週間における最高裁判所判事による下級裁判所の視察が毎年行われるものであることも考慮すると,視察の際の日程等の詳細が公になると,それを蓄積して移動手段や日程等の傾向を分析され,今後の視察の行動を予測されるなどして,犯罪行為等の実行に利用されるおそれがある」そうです。

3 特定の裁判官の退官願のうち,作成年月日,当該裁判官の署名及び押印並びに退官願の理由を記載した部分(平成28年度(情)答申第20号(平成29年2月24日答申)
→ 「本件対象文書を作成した年月日及び退官を願い出る理由については,官報等により公表されているものではないから,法5条1号ただし書イに相当するものではない」そうです。

4 特定裁判官が有報酬兼業として自分名義の著作を販売することを許可してもらうために,東京高等裁判所との間で授受した文書(平成28年度(情)答申第24号(平成29年3月17日答申)
→ 「裁判所法52条2号は,裁判官は,在任中,最高裁判所の許可のある場合を除いて,報酬のある他の職務に従事することができない旨規定しているから,特定の裁判官が報酬のある他の職務に従事することの許可を求めた文書の存否を答えることは,当該裁判官が報酬のある他の職務に従事し,又は従事しようとしている事実の有無に係る情報を明らかにすることと同様の結果を生じるものと認められる。
そして,特定の裁判官が報酬のある他の職務に従事し,又は従事しようとしているか否かという情報は,当該裁判官の個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名等により当該裁判官という特定の個人を識別することができるものに当たると認められる。そして,当該情報は,法5条1号ただし書イに規定する法令の規定により又は慣習として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であるとは認められないし,同ハに規定する当該裁判官の職務遂行に係る情報であるとも認められない。したがって,当該情報は,法5条1号の不開示情報に相当すると認められる。
この点について,苦情申出人は,当該裁判官が,自分名義の著作を販売していることを自身のツイッターで宣伝していることをもって,慣行として公にされている情報であると主張するが,苦情申出人が主張するような事実をもって当該裁判官が申出に係る許可を受けたか否かに係る情報が,慣行として公にされているとは認められない。さらに,他に裁判官が報酬のある他の職務に従事し,又は従事しようとしているか否かを公表する慣行があると認めるに足りる事情はない。したがって,苦情申出人の上記主張は失当である。」そうです。

5 岡口喜一裁判官に対する厳重注意に関する文書(平成29年度(情)答申第2号(平成29年4月28日答申)
→ 「本件注意は,下級裁判所事務処理規則21条に基づくものであり,同条は,「高等裁判所長官(略)は,所属の裁判所の監督に服する裁判所職員に対し,事務の取扱及び行状について注意を与えることができる。」と規定している。
上記の最高裁判所事務総長の説明及び口頭説明の結果を踏まえるならば,下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意は,事務の取扱いや行状についての改善を目的として行うものであって,懲戒処分のような制裁的実質を含んだ処分とは異なるものであると判断される。
そして,裁判官については,憲法上その独立が強く保障されており,懲戒処分も,裁判官分限法に基づく分限裁判によって行われることとされていて(裁判所法48条,49条参照),下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意がされたとしても,そのことにより,当該裁判官に具体的な不利益が課されることは,予定されていない。また,裁判官の懲戒である分限裁判が確定したときは,官報に掲載して公告されることとされている(裁判官の分限事件手続規則9条)のに対し,下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意は,公表が予定されていない。
下級裁判所事務処理規則21条に基づく裁判官に対する注意が上記のような性質のものであることからすると,その運用自体が裁判官の個人的事情に関わる機微なものであるというべきであり,その手続きについては,当該裁判官の行状等の改善に対する実効性を確保する目的で,適切な時期に効果的な形でされるべきであるという観点等から慎重であるべきものと認められる。したがって,司法行政手続の中でその運用においてどのような手続がとられるのか,文書が作成されるのか,作成されるとしてどのような文書が作成,管理,保存されるのかなどについて,本来,これを公にすると,下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意という人事管理に係る事務に関与する判断権者及び職員に対し,文書の作成,管理,保存について好ましくない影響が生ずる等,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
そうすると,本件については,本件対象文書の存否を答えるだけで,上記のような人事管理に係る事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を開示することになるというべきであり,当該情報は,法5条6号ニに規定する不開示情報に相当する情報であるから,原判断においては,取扱要綱記第5に基づき,本件対象文書の存否を明らかにしないで不開示とすべきであったと認められる。」そうです。
→ 東京高裁長官が下級裁判所事務処理規則21条に基づき注意を与える際の事務手続が分かる文書が存在しないことは,平成29年3月23日付の司法行政文書不開示通知書によって明らかにされています。

6 名古屋高裁がマスコミに提供した,名古屋高裁平成28年11月28日判決(被告人は藤井浩人美濃加茂市長)の判決要旨(平成29年度(情)答申第4号(平成29年5月25日答申)
→ 「判決要旨の作成は,報道機関からの申請を受けて対応するのが一般的であるところ,この判決要旨の交付申請は,報道機関の取材活動そのものである。当該申請が個別の記者の独自の取材活動の一環として行われた場合はもとより,幹事社を経由しての司法記者クラブ全体からの申請で行われた場合であっても,判決要旨が作成されたことが公開され,報道機関の取材活動の存在,内容が推知されてしまうことは,取材源の秘匿を基本原則とする報道機関と裁判所との信頼関係を大きく損なうおそれがあり,ひいては,裁判報道に係る広報事務の遂行を困難にする可能性が高い。」そうです。

7 文書管理簿(投書等)のうち,内容,提出方法及び備考の各欄(平成29年度(情)答申第5号(平成29年6月9日答申)
→ 「宛先欄の不開示部分のうち個人名以外が記載されている部分には,東京高等裁判所の特定部署等の名称が記載されており,これらの記載部分は,投書等の内容を推測させるものであるから,公にしたときには投書等を行った個人の権利利益を害するおそれがあるものと認められる。
また,内容欄には,投書等の概要として個人の氏名,投書等を行った者の意見や信条等が記載されており,このうち個人の氏名は,個人識別部分である。その他の記載部分については,意見や信条等が記載されていることからすれば,公にしたときには個人の権利利益を害するおそれがあるものと認められる。
さらに,提出方法等欄には,東京高等裁判所の特定部署等に関する記載及び投書等が郵送で提出された場合の消印が押された郵便局名の記載があり,このうち特定部署等に関する記載については,宛先欄と同様に判断すべきである。また,郵便局名の記載については,投書等を行った者の最寄りの郵便局である蓋然性があると考えられるところ,当委員会庶務に調査させた結果によれば,人口の少ない地域に複数の郵便局が存在する例もあることから,投書等を行った者の住居を推測することが可能である。よって,この記載も,個人識別部分に該当すると判断すべきである。
さらに,備考2欄の不開示部分には,東京高等裁判所を含む複数の裁判所の特定部署に関する記載や,投書等を行った者に関する情報等の記載があり,これらの記載については,宛先欄及び内容欄と同様に判断すべきである。」そうです。

8 札幌高裁が所持品検査の実施に関して民間業者との間で締結している契約書(平成30年度(情)答申第1号(平成30年6月15日答申)
→ 「当委員会において本件開示文書を見分した結果,本件不開示部分には,警備業務の具体的な内容や警備体制が記載されていることが認められる。このような記載内容に照らすならば,本件不開示部分を公にすることにより,警備レベルの低下を招くことになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

9 大阪高裁が入庁検査の実施に関して民間業者との間で締結している契約書(平成30年度(情)答申第2号(平成30年7月20日答申)
→ 「当委員会において本件開示文書を見分した結果,本件不開示部分には,警備業務の具体的な内容や警備体制が記載されていることが認められる。このような記載内容に照らせば,本件不開示部分を公にすることにより,警備レベルの低下を招くことになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

10 東京高等裁判所において特定の裁判官のツイートに関する抗議を受けた際に作成し,又は取得した文書(平成30年度(情)答申第9号(平成30年9月21日答申)
→ 「本件開示申出の内容からすれば,本件開示申出文書の存否を明らかにすると,特定の裁判官が私的にツイートした内容に関して第三者から抗議がされた事実の有無が公になると認められる。このような情報は,法5条1号に規定する不開示情報に相当する。苦情申出人は,上記の事実は慣行として公にされていると主張するが,最高裁判所事務総長の説明によれば,裁判所として公表したことはないとのことであり,同号ただし書イに相当するとは認められない。」そうです。

11 特定の裁判官がツイッターに投稿した件に関して東京高等裁判所が作成した全文書(平成30年度(情)答申第22号(平成31年3月15日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件対象文書の全体について,氏名等の個人識別情報のほか,下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意に関する情報が記録されていることが認められる。そこで検討すると,同条に基づく注意は,事務の取扱いや行状についての改善を目的として行うものであって,懲戒処分のような制裁的な効果を伴わない措置であると解される。また,同条に基づく注意を実施する手続等に関する定めはない。そうすると,同条に基づく注意の性質上,その運用自体が個人的事情に関わる機微なものというべきであり,本件対象文書中の同条に基づく注意に関する情報については,その内容に照らして,これを開示することにより,人事管理に係る事務について好ましくない影響が生ずる等,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものと認められる。」そうです。

12 東京高等裁判所が作成し,又は取得した同裁判所に所属する裁判官のツイート内容を印刷した文書(平成30年度(情)答申第23号(平成31年3月15日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明によれば,本件開示申出文書は,裁判官の私的領域における言動についての文書であり,裁判官という自己の身分を明らかにした上での私的領域における言動については,その内容次第では裁判所又は裁判官の信用の失墜につながり得ることから,人事上の措置等に関係する文書となり得る性質を有するものであって,本件開示申出文書の保有の有無を明らかにすると,人事上の措置の必要性から作成,取得,管理,保存される文書の存否や内容を推認ないし憶測させることになり,人事管理に係る事務に関与する判断権者及び職員に対し,文書の作成,取得,管理,保存について好ましくない影響が生ずる等,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとのことである。本件開示申出の内容からすれば,このような説明の内容が不合理とはいえず,本件開示申出文書の保有の有無を明らかにすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められる。」そうです。

13 東京高等裁判所長官,東京高等裁判所事務局長及び特定の東京高等裁判所判事の間で特定の日時に行われた会話に関する文書(平成31年度(情)答申第3号(平成31年4月19日答申)
→ 「本件開示申出文書が特定の日時に東京高等裁判所長官,東京高等裁判所事務局長及び特定の東京高等裁判所判事の間で行われた会話に関する文書であることを踏まえれば,本件の開示申出に係る会話は人事管理に関する内容となり得るものといえ,本件開示申出文書の存否を明らかにすると公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

14 東京高等裁判所が特定の裁判官のブログに関して作成し,又は取得した文書(平成31年度(情)答申第4号(平成31年4月19日答申)
→ 「本件開示申出の内容からすれば,本件開示申出文書の存否を明らかにすると,特定の裁判官が特定のブログを管理しているという個人に関する情報が公になると認められる。
また,最高裁判所事務総長は,本件開示申出文書の存否を明らかにすると,人事上の措置等の必要性から作成,取得,管理又は保存がされる文書の存否や内容を推認させ,又は憶測させることになり,人事管理に係る事務に関与する判断権者等に対し,文書の作成,取得,管理又は保存について好ましくない影響が生ずること等によって,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると説明する。本件開示申出文書が裁判官の私的領域における言動についての文書であることを踏まえれば,私的領域における言動については,本来はその個人の領域に属するものではあるが,その内容次第では裁判所の信用の失墜につながり得ることから,人事上の措置等に関係する文書となり得る性質を有するものである。よって,そのような性質を有する本件開示申出文書の存否を明らかにすると公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

下級裁判所が直ちに廃棄しているとされた司法行政文書

最高裁平成26年7月14日判決によれば,行政機関の情報公開の場合,ある時点において当該行政機関の職員が当該行政文書を作成し,又は取得したことが立証された場合において,不開示決定時においても当該行政機関が当該行政文書を保有していたことを直接立証することができないときに,これを推認することができるか否かについては,当該行政文書の内容や性質,その作成又は取得の経緯や上記決定時までの期間,その保管の体制や状況等に応じて,その可否を個別具体的に検討すべきものとされています。
最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,以下の司法行政文書は下級裁判所が直ちに廃棄しているそうです。

1 神戸地裁における,①視察の日時時刻,発着地,事項,配車,乗員,随行の秘書官等の詳細が記載されている基本日程及び詳細日程,③最高裁判所判事との座談会の出席者名簿及び座談会席図,④庁内巡視の順序が分かる文書並びに⑤最高裁判所判事との懇親会の出席者名簿(平成27年度(情)答申第2号(平成28年2月18日答申)
→  「苦情申出人が存在するはずであると主張する①から⑤までの文書のうち②の文書以外の文書については,その標題や最高裁判所事務総長の説明に照らすと,最高裁判所判事の視察に関する具体的な日程,出席者及び巡視の流れを記載した当該視察の際に必要となるものといえるが,その後にわたって意思決定に至る過程や事務の実績を検証するために必要とされる内容のものではないといえるから,神戸地方裁判所においてはこれらを内容が軽微かつ簡易なものとして,短期保有文書として扱っていたとする最高裁判所事務総長の説明に不合理な点はない。そして,これらの文書の内容に照らせば,視察日から2か月近くが経過した本件開示申出の時点で廃棄していたとの取扱いは,事務処理上必要な期間が満了したときに廃棄されたものとして,上記各通達の定めに従ったものであるといえ,他にこれらの文書の存在をうかがわせるような事情はない。」そうです。

2  平成28年1月1日の神戸地裁所長交代時の引継書(添付書類を含む。)(平成28年度(情)答申第4号(平成28年7月15日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,現在の神戸地方裁判所長に確認したところ,事務の引継ぎに際しては,メモ程度のものは作成されたが,それは,現所長が前所長から受け取り,読んだ後,必要がなくなったので,1週間程度で廃棄したとのことであったとし,所長の事務の引継ぎの性質に照らすと,これは合理的であると説明する。
上記の説明は,神戸地方裁判所長の事務の引継ぎに際して作成されたメモは,引継ぎを受けた現所長個人の責任で保有し,その個人にとって必要な限度で利用した上で廃棄したというものと解されるのであり,このことは,所長の事務の引継ぎという事務の内容に照らして,不合理なものとは認められない。
」そうです。

3 直近に開催された,首席家庭裁判所調査官協議会及び家事事件担当裁判官等協議会に関する配付資料(平成28年度(情)答申第5号(平成28年7月15日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件各開示申出文書が短期保有文書として随時廃棄して差支えない文書であり,既に廃棄されているとする原判断庁の説明は合理的であると説明する。本件各開示申出文書は,いずれも,東京高等裁判所で開催された協議会の配付資料で,最高裁判所から東京高等裁判所を通じて協議員に対して協議の参考として配布された文書であるというのであるから,その用途は,協議員が協議の参考にするに止まり,東京高等裁判所においてこれに基づく事務等が予定されているものとは認められない。そうすると,協議会が終了すれば,東京高等裁判所において保有する必要性がなくなるものであるということができるから,東京高等裁判所において,これらについて,保存期間を1年以上にする必要がない短期保有文書として扱っていることは,前記1の各通達に沿った取扱いであり,相当である。以上によれば,本件開示申出の時点において,本件各開示申出文書が,いずれも廃棄済みであって存在しないとする原判断庁の説明は合理的であり,これを覆すに足りる事情はない。
この点につき,苦情申出人は,平成25年2月改訂のJ・NETポータル民事情報データベース操作マニュアル<一般ユーザ編>に,平成19年度の協議会資料が存在するような記載部分があることをもって,本件各開示申出文書が存在すると主張するが,上記の記載は,本件各開示対象文書に係る協議会とは全く別の年度に開催された協議会に関するものである上,マニュアル上の記載が実際の文書の存在を推認させるものでないことはいうまでもないのであるから,採用の限りでない。」そうです。

4 東京地裁立川支部長が東京地裁本庁に定期的に送付している,支部の状況報告に関する書面(平成28年度(情)答申第12号(平成28年10月24日答申)
→ ①幹部連絡会の報告資料(月に一度行われる幹部連絡会において,支部長が所長に対して支部の状況を口頭報告する際に使用する補助資料)及び②裁判官会議終了後に行われる概況説明の資料(所長や支部長らが出席する裁判官会議終了後,出席者らが参加し,各部署から口頭で行われる概況説明の際に使用する補助資料)につき,
「上記(1)の説明によれば,資料の配布等の庶務を担当する部署では文書1及び文書2のいずれについても会議又は説明の終了後に廃棄をしたというのであるところ,上記(1)のとおり,幹部連絡会及び概況説明が,いずれも通達等に開催根拠がなく,組織的意思決定を予定していないものであることからすれば,文書1及び文書2について,そのように取り扱っていることは合理的である。したがって,当該部署において保有していた文書1及び文書2は,いずれも廃棄済みであると認められる。
また,上記(1)の説明によれば,文書1及び文書2の配布を受けた参加者は,手持ち資料として持ち帰ることはあっても,その保有又は処分については,参加者個人の自由な判断に委ねられていたというのであり,上記のとおりの幹部連絡会及び概況説明の性質に照らせば,当該説明も合理的であるといえるから,参加者が本件開示申出の時点で文書1又は文書2を保有していたとしても,それは,東京地方裁判所が組織的に用いるものとして保有しているものではなく,司法行政文書を保有していることにはならないことは明らかである。」そうです。

5 東京高裁が,平成30年1月10日にエレベーターの使用中止を決定した際に作成した文書(決裁文書及び裁判所内の回覧文書を含む。)(平成30年度(情)答申第15号(平成31年1月18日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明によれば,本件開示申出文書に該当する文書として,管理職員から職員へ口頭で周知するために,その内容を記載した文書が作成されたが,当該文書は,エレベーター使用停止の措置について,管理職員から職員に対して口頭で周知を行うに当たり,その内容を正確に伝える目的に基づく短期保有文書であり,職員へ口頭で周知したことによりその目的が達成され,事務処理上保有しておく必要がなくなったことから廃棄したとのことであり,本件開示申出の内容に照らして検討しても,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

6 旭川地方裁判所が司法研修所に対して司法修習生の一部を配属換えする原因となった事実関係について報告した文書(平成29年度(情)答申第21号(平成30年3月23日答申)
→ 「当委員会庶務を通じて確認したところ,旭川地方裁判所では,上記の事実関係に関する文書のうち,本件対象文書以外の文書については,標準文書保存期間基準に照らして短期保有文書として取り扱うことが相当であることから,配属換えの手続が終了して,当該文書を保有する必要がなくなった後に廃棄した」そうです。

 

下級裁判所が作成又は取得していないとされた司法行政文書

○裁判所の職員は,文書管理者の指示に従い,裁判所における経緯も含めた意思決定に至る過程及び裁判所の事務の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,司法行政文書を作成しなければなりません(「司法行政文書の管理について(通達)」(平成24年12月6日付の最高裁判所事務総長通達)第3.1。なお,公文書等の管理に関する法律4条参照)。
最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,以下の文書は下級裁判所が作成又は取得していないそうです。

1 ①広島高等裁判所長官の事務引継書,及び②広島高等裁判所長官が交代した場合,どこに挨拶回りをすることになっているかが分かる文書(平成28年度(情)答申第8号(平成28年10月11日答申)
→ ①の文書につき,
「高等裁判所長官が行う事務の内容からすれば,その具体的な内容については,当該高等裁判所の職員から説明を受けることがふさわしいものが少なくないと考えられ,また,そのような説明によって事務を処理することで支障が生じるような事情もうかがわれない。そうすると,高等裁判所長官の交代に伴い事務引継書を作成することを予定するような定めはなく,他に,事務引継書が作成されていることをうかがわせる具体的な事情がないことも併せ考慮すれば,上記の説明は,合理的であるということができ,広島高等裁判所において,本件開示申出文書1を保有していないものと認められる。」そうです。

2 ①東京高等裁判所長官の事務引継書,及び②東京高等裁判所長官が交代した場合,どこに挨拶回りをすることになっているかが分かる文書(平成28年度(情)答申第9号(平成28年10月11日答申)
→ ①の文書につき,
「最高裁判所事務総長は,東京高等裁判所長官の交代時においては,後任者が最高裁判所事務総長であったところ,最高裁判所と東京高等裁判所の各庁舎は近接した場所に位置しているため,事務引継ぎは前任者から後任者へ口頭で行われ,事務引継書を作成していないと説明する。
前任者と最高裁判所事務総長であった後任者とが口頭で事務の引継ぎを行うことができたとする上記説明は,最高裁判所と東京高等裁判所の地理的関係に照らせば不合理とはいえない。また,高等裁判所長官が行う事務の内容からすれば,具体的な事務については,当該高等裁判所の職員から補充の説明を受けることがふさわしいものが少なくないとも考えられ,それにより事務に支障が生じるような事情もうかがわれない。
そうすると,高等裁判所長官の交代に伴い事務引継書を作成することを予定するような定めはなく,他に,事務引継書が作成されていることをうかがわせる具体的な事情がないことも併せ考慮すれば,本件開示申出文書1を作成していないとする上記説明は,合理的であるということができ,東京高等裁判所において,本件開示申出文書1を保有していないものと認められる。」そうです。

3 東京高等裁判所管内の裁判官の期別名簿(平成28年度(情)答申第10号(平成28年10月11日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件開示申出文書について,東京高等裁判所管内の裁判官を修習期ごとに並べた名簿と特定すべきと説明するところ,本件開示申出に係る申出書の記載に照らし,上記の特定は合理的である。
そして,同説明によれば,東京高等裁判所において本件開示申出文書は作成し,又は取得しておらず,事務処理上その必要もないとのことであるところ,当該説明が不合理であるとする事情もうかがわれない。」そうです。

4 交通の分野において,大阪地裁を中心とし,京都,神戸等の裁判所の専門部が平成27年度に集まり,情報交換を行った際に,神戸地裁が作成し,又は取得した文書(情報交換に際しての配付資料を含む。)(平成28年度(情)答申第16号(平成28年12月2日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の説明及び本件対象文書の見分の結果を併せると,本件協議会は,京都地方裁判所,神戸地方裁判所及び大阪地方裁判所の民事交通損害賠償事件担当裁判官が出席して,本件懇談会は,大阪高等裁判所管内の地方裁判所の民事交通事件担当裁判官が出席して,いずれも民事交通事件に関する裁判事務の在り方等について協議することを目的とする会合であると認められるから,その配布資料が存在したとしても,その内容は裁判事務に関するものであると推察され,神戸地方裁判所の事務局において司法行政文書として保有する必要のあるものではないと考えられる。この点について,委員会庶務に調査させたところ,これらの会合の配布資料については,主催する大阪地方裁判所の裁判官から,他の裁判所の出席裁判官に宛てて直接送付されたとのことであり,上記のとおりのこれらの会合の性質に照らせば,そのような手続が踏まれたことも合理的といえる。」そうです。

5 東京高裁が平成28年6月21日付で岡口基一裁判官を口頭注意処分した際に作成した文書(平成29年度(情)答申第1号(平成29年4月28日答申)
→  「本件注意は,憲法及び裁判所法により身分が保障された裁判官に対するものであることや,当該裁判官の特定の行状に関してその改善を求める内容のものであって,当該裁判官個人の私的な事柄に関するものであること等を考慮すると,本件注意の意思決定の過程において文書が作成されなかったとしても,不合理とはいえず,他に本件開示申出文書が存在することをうかがわせる事情はない。」そうです。

6 東京高裁長官が下級裁判所事務処理規則21条に基づき注意を与える際の事務手続が分かる文書(平成29年度(情)答申第7号(平成29年7月24日答申)
→ 「下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意は,事務の取扱いや行状についての改善を目的として行うものであって,懲戒処分のような制裁的な効果を伴わない措置であると解されるし,同条によれば,高等裁判所においては,専ら高等裁判所長官の責任において注意の要否やその態様等を決することが予定されており,注意の方法や文書の作成の要否等に関する定めはない。」そうです。

7 平成29年度中に実施された,東京家裁専門部・集中部と,東京三弁護士会との間の懇談会における配布資料及び懇談結果を記載した文書(平成30年度(情)答申第12号(平成30年12月21日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明及び当委員会庶務を通じて確認した結果によれば,平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間,本件申出に係る専門部又は集中部と東京三弁護士会又は東京の各弁護士会との間で懇談会を開催していないとのことであり,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

8 平成29年度中に実施された,東京地裁専門部・集中部と,東京三弁護士会との間の懇談会における配布資料及び懇談結果を記載した文書(平成30年度(情)答申第13号(平成30年12月21日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明及び当委員会庶務を通じて確認した結果によれば,平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間,本件申出に係る専門部又は集中部と東京三弁護士会又は東京の各弁護士会との間で懇談会を開催していないとのことであり,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

9 東京高等裁判所が平成28年6月21日付けで特定の裁判官を口頭注意処分した際に作成した文書(平成30年度(情)答申第22号(平成31年3月15日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件開示申出文書2について,本件開示申出文書1のうち下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意に係る意思決定に関する文書と特定したものであり,したがって,別紙記載の各文書が同じ文書であるとはいえず,東京高等裁判所において本件開示申出文書2を保有していない旨を説明する。本件開示申出文書2は,特定の裁判官に対する注意のとき又は注意に供するために作成した文書と解するのが相当であるから,上記特定は妥当である。そして,同条に基づく注意に係る意思決定を行うに際し,文書の作成が必ず求められるものではないことからすれば,東京高等裁判所において本件開示申出文書2を保有していないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

司法行政文書開示請求の対象とならないとされた最高裁判所の文書

○行政機関の場合,行政文書該当性については,対象となる文書に係る具体的・客観的状況に基づいて判断すべきものであり,行政機関内部における一般的な取扱いや,行政機関の職員の主観的な認識といった事情により,その判断が左右されるものではありません(内閣法制局長官の国会答弁資料に関する平成28年度(行情)答申第646号(平成29年1月17日答申)9頁)。
これに対して司法行政文書の場合,裁判所内部における一般的な取扱いや,裁判所職員の主観的な認識といった事情により,司法行政文書に該当するかどうかの判断が左右されている気がします。
〇刑事裁判における公判前整理手続の場合,警察官が私費で購入したノートに記載し,一時期自宅に持ち帰っていた取調べメモについても証拠開示を命じられることがあります(最高裁平成20年9月30日決定参照)。
最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,最高裁判所の以下の文書は司法行政文書開示請求の対象とならないそうです。

1 憲法週間における最高裁判所判事の視察に際して受領した各高等裁判所及びその管内に関する概況説明資料(平成28年度(最情)答申第19号(平成28年6月28日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,最高裁判所判事が憲法週間に各地の裁判所を視察する際には,視察を受ける裁判所において,当該裁判所の事件動向等のほか,所在する都道府県の地域性及び特色について説明を受けていると聞いているが,最高裁判所事務総局において,当該説明に際して使用される資料の提出を求めてはおらず,当該文書を取得していないと説明するところ,最高裁判所事務総局が,上記資料を利用し,又はこれを保存する必要性はうかがわれないから,上記説明は合理的であると認められる。」そうです。

2 ①最高裁判所事務総長の事務引継書,及び②最高裁判所事務総長が交代した場合,どこに挨拶回りをすることになっているかが分かる文書(平成28年度(最情)答申第27号(平成28年9月1日答申)
→ ①の文書につき
「事務総長の説明によれば,事務総長の交代に当たり,事務引継書を組織的に作成することを予定するような定めはなく,それを作成するか否かは前任者個人の判断に委ねられているとのことである。また,実際に作成されたメモも,前任者個人の判断で作成されて直接後任者に交付され,あくまで個人の手持ち資料として後任者限りで使用及び保管がされているとのことである。
上記の説明を踏まえると,当該メモの作成・利用・保存・廃棄については,そのいずれの過程においても組織としての関与は何ら存在せず,事務総長個人の便宜的判断に委ねられているものと認められるのであって,たとえ事務総長が当該メモをたまたま廃棄せずに保有していたとしても,そのことのみをもって,最高裁判所の職員が組織的に用いるものとして最高裁判所が保有しているものということはできず,当該メモは,取扱要綱記第1に定める司法行政文書に当たらないと認められる。」そうです。
→ ②の文書につき
「事務総長が交代した場合に,どこに挨拶回りをするかについては,何ら定めはなく,そもそも挨拶は儀礼上のものにすぎないと考えられることからすると,一般的にその役職に応じた挨拶回り先として想定されるところがあったとしても,実際にどこに挨拶に行くかについては,個々の事務総長の意向によるとする説明が不合理とはいえない。」そうです。

3 新任の最高裁判所判事が着任したときの事務手続について書いてある文書(平成28年度(最情)答申第38号(平成28年12月2日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件開示申出文書に当たり得るものとして,認証式及び就任行事に関する事務手続を記載した文書と考えたとのことであるが,本件開示申出に係る申出書及び最高裁判所事務総局職員による開示申出人からの電話聴取の内容から,上記の解釈は妥当であると考えられる。
そして,最高裁判所事務総長の説明によれば,認証式については,それを実施する宮内庁から取得した文書も,最高裁判所事務総局が作成した文書もないとのことである。また,就任行事の実施に係る内容やスケジュールの確定は,担当部署の職員が口頭での確認により行っており,他の部署との連絡も口頭又は電話で行っていて,就任行事に関する事務手続について,担当係員が個人的にメモを作ることはあっても,司法行政文書は作成していないとのことである。最高裁判所判事についての認証式及び就任行事に関する事務手続は,これらの行事が滞りなく行われることを目的とするものであると考えられることからすると,事務手続に関して司法行政文書を作成していなかったとしても不合理とはいえず,これらを作成していたことをうかがわせる事情は見当たらない。」そうです。

4 最高裁判所規則(平成28年度(最情)答申第39号(平成28年12月2日答申)
→  「最高裁判所規則は,憲法77条1項の規則制定権に基づき,最高裁判所裁判官会議の議決により訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について定められるものである(裁判所法12条1項参照)。これは,議決後,官報により公布することとされているから(裁判所公文方式規則2条),これにより広く周知が図られている。また,最高裁判所規則の条文については,不特定多数の者に販売することを目的として発行されている法令集等により容易に入手が可能である。それにもかかわらず,これを司法行政文書の開示手続の対象とした場合,図書館代わりの利用など当該手続を設けた趣旨に合致しない利用が見込まれるから,当該手続の対象とする必要はないというべきである。」そうです。
・ 内閣府情報公開・個人情報保護審査会の平成26年度(行情)答申第74号(平成26年6月5日答申)が参照されたみたいです。
また,総務省情報公開・個人情報保護審査会平成29年度(行情)答申第124号(平成29年6月28日答申)も同趣旨の答申をしています。
・ 現行日本法規は税込みで27万円します(ぎょうせいオンラインの「現行日本法規」参照)し,大阪弁護士会の図書室には置いてありません。
また,法務年鑑(平成27年)81頁によれば,現行日本法規の編成は, 本文50編100巻(125冊),索引3巻,旧法令改廃経過1巻,主要旧法令5巻,参照条文索引3巻及び法定刑一覧一覧の刑113巻(138冊)となっています。
平成27年中に発行した追録は,第10592号から第10891号までの300追録107,622頁です。

5 最高裁判所の各小法廷の審議期日表(平成30年度(最情)答申第45号(平成30年11月16日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明によれば,本件開示申出文書は,審議事件について,審議期日及び審議期日における審議順序が決まった後に,裁判手続である審議及びその準備のために作成されているものであって,司法行政事務の用に供されるものではないとのことであり,本件開示申出文書の性質に照らして,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

6 裁判書の表示ハンドブック(平成30年度(最情)答申第50号(平成30年11月16日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明によれば,本件開示申出文書は,最高裁判所の裁判書で用いられる具体的な表示の方法が記載されている文書であり,専ら裁判書の作成のために利用されるものであるとのことであり,本件開示申出文書の性質に照らして,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

不開示事由に該当するとされた最高裁判所の司法行政文書

最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,以下の司法行政文書には不開示情報が含まれています。
行政機関情報公開法6条2項は,「開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。」と定めており,その意義につき,最高裁平成19年4月17日判決の裁判官藤田宙靖の補足意見が参考になります。

1 高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同に関する文書のうち,特定の団体の立場姿勢に対する忌憚のない評価等(平成27年度(最情)答申第1号(平成27年12月25日答申)
→ 裁判所の事務に関連する裁判所と外部との間の意見交換の現状について,所長の認識等が記載されていることが認められ,これを公にすると,外部との信頼関係が損なわれるなどし,その結果,裁判所の事務の性質上,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるそうです。

2 裁判官の転勤の内示時期の目安が分かる文書(平成27年度(最情)答申第5号(平成28年2月22日答申)
→ 「裁判官は,憲法上その職務の独立性が保障されるとともに,身分が保障されており(憲法76条3項,78条),また,身分保障の現れとして,その意思に反して,転官や転所をされることはないとされている(裁判所法48条)。したがって,裁判官の異動時期の目安を含めた人事管理に係る情報については,裁判官の独立を確保するため,非常に高い機密性が求められる機微な情報であるということができ,本件対象文書に記録されている上記のような情報を公にすると,それを知った裁判官の異動を望み,あるいは望まない関係者などから不当な働き掛け等がされるなどして,今後の裁判官の人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められることから,本件対象文書に記録された情報は,その文書の標題部分や発出者名等も含め,全体として法5条6号ニに規定する不開示情報に相当する情報に当たると認められる。」そうです。

3 「これからの後見監督の在り方について(参考資料)」と題する文書のうち,監督区分等(平成27年度(最情)答申第6号(平成28年2月23日答申)
→ 監督対象事件を分類した監督区分に関し,各区分に分類される事案の具体的内容や,区分ごとの監督方法などが記載されていることが認められるところ,これらの具体的内容が公になると,各区分の事案の内容や監督方法等の分析を行って,監督強化のための措置を免れたりする者が出現する可能性や,自己の監督の内容を知って,不正行為やその隠蔽を行う者が出現する可能性があるといえ,その結果,家庭裁判所による不正の兆候等の把握に支障が生じて,後見監督事務の性質上,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるそうです。

4 司法修習生考試結果集計表のうち,各科目における「(うち予備試験資格者)」及び「(うち予備試験資格者以外)」の「優」,「良」,「可」及び「不可」の「人員」及び「割合」を示す部分(平成28年度(最情)答申第5号(平成28年4月14日答申)
→ 「不開示部分に記載された情報は,いずれも,個人の氏名等の特定の個人の識別を直ちに可能とする情報ではない。しかし,司法修習生考試の受験者中予備試験資格者の人数が第66期については40人,第67期でも112人であり,他方で,本件各対象文書の原判断において開示された部分によれば,各科目で「不可」となった者が,司法修習生全体でも多くて1.06パーセントと極めて少なく,予備試験資格者で「不可」となった者は極めて少ないと容易に推認されることからすると,司法修習を終えた者の氏名が官報公告されていることなどから,司法修習生の一部の者らの間では,予備試験資格者で司法修習生考試に不合格となった者の特定が可能になる。そして,上記のとおり各科目で「不可」となった者の数が極めて少なく,予備試験資格者で「不可」となった者の数も極めて少ないと推認されることからすると,不開示部分に記載されている情報は,予備試験資格者で特定の科目につき「不可」となった者を特定することができる可能性がある情報であるという上記(2)の最高裁判所事務総長の説明は,不合理とは言い難い。そうすると,不開示部分に記載されている情報は,一体として,予備試験資格者で特定の科目で「不可」となった者を特定することができる情報として,法5条1号に相当する情報であるということができ,同号ただし書イからハまでに相当する事情は認められない。また,上記に述べたところからすれば,不開示部分については,その全てが特定の個人を識別することができることとなる部分に該当し,あるいは個人の権利利益を害するおそれのある情報であるから,取扱要綱記第3の2に定める部分開示の対象ともならない。」そうです。

5 裁判所業務に必要なサイトをまとめたホワイトリスト(平成28年度(最情)答申第7号(平成28年4月14日答申)
→ 「近時の官公庁や民間企業に対するサイバー攻撃が多発している現状に照らすと,国の機関であり,多数の個人情報を取り扱う裁判所の情報セキュリティは,厳しく守られるべき状況にあるといえ,情報セキュリティに関連する情報は十分に秘匿すべき情報であるということができるところ,最高裁判所の職員の口頭説明の結果によれば,本件存否情報は,裁判所の情報ネットワークの仕組みやサイバー攻撃のきっかけ等を推測させる情報であると認められる。」そうです。
→ 平成27年11月の「全司法新聞2229号」には,「接続制限の代替方策として、別回線でのインターネット接続を可能とする端末の増設と、業務に必要なサイトのホワイトリストへの追加を要求していくことをあわせて確認しました。」と書いてあります。
そのため,裁判所にホワイトリストが存在することは,全司法労働組合によって公表されています。

6 裁判官昇給候補者名簿の氏名,期別,昇給号報,官職名等(平成28年度(最情)答申第13号(平成28年6月3日答申)
→ 具体的に昇給する者の期別や昇給号報,その人数等の情報が含まれていることが認められるところ,そのような情報は,最高裁判所事務総長が説明するとおり,人事事務担当者等の一部の関係職員以外には知られることのない性質のものであると推測される。

7 司法修習生組別一覧表のうち,司法修習生の氏名が記載されている部分(平成28年度(最情)答申第26号(平成28年9月1日答申)
→ 司法修習生は,法5条1号ただし書ハの「公務員等」に相当する者には該当しないそうです。

8 具体的な職名,級についてどのような考え方に基づいて定数配付を行っているのかが分かる文書(平成28年度(最情)答申第30号(平成28年10月24日答申)
→ 「本件対象文書の見分の結果及び最高裁判所の職員の口頭説明の結果を総合すると,定数配布とは,級別定数の範囲内で適任者を適正に昇格させるために用いられる手法であると認められる。そして,本件対象文書の見分の結果によれば,本件対象文書には,その手法に関する事項の一部が記載されているところ,最高裁判所の職員の口頭説明の結果によれば,具体的な手法の内容は,ごく一部の職員にしか知られることのない極めて機密性の高い性質のものであり,たとえ標題だけが知られることになったとしても,裁判所の人事管理に関して無用の憶測を呼ぶなどするおそれがあるとのことであり,当該説明が不合理とはいえない。そうすると,人事管理に係る事務という公平性と機密性が要求される事務の性質上,本件対象文書に記録された情報については,標題も含めた全体について,これを公にすると,これを知った者に無用な憶測を生じさせたり,さらには,職員の適正かつ円滑な職務遂行に好ましくない影響が及ぶなどして,裁判所の人事事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。」そうです。

9 最高裁判所裁判官会議議事録の本文部分の署名及び印影(平成28年度(最情)答申第36号(平成28年12月2日答申)
→ 「最高裁判所裁判官会議の議長である最高裁判所長官及び秘書課長の署名及び印影は,いずれも法5条1号に規定する個人に関する情報であって特定の個人を識別することができるものに相当するところ,最高裁判所事務総長の説明によれば,裁判所においても,行政府省と同様に,職員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該職員の氏名は,特段の支障の生ずるおそれがある場合を除き公にすることとして取り扱っているとのことである。そこで,検討すると,裁判官会議の議事録の署名及び印影は,職務の遂行に係る情報であるというべきであるが,その固有の形状が文書の真正を示す認証的機能を有しており,そのような署名や印影を公にすれば,これを偽造され悪用されるなどして,個人の権利利益を害するおそれがあるといえる。」そうです。

10 最高裁判所の庁舎平面図のうち,傍聴人や裁判所見学者が立ち入る場所を除く場所に係る部分(平成28年度(最情)答申第48号(平成29年3月17日答申)
→ 最高裁判所の庁舎は,その多くの部分が一般の来庁者の出入りが想定されていない建物であり,入構するには原則として許可が必要であることや,内部に最高裁判所判事室や事務総局の中枢部分などがあることからすると,全体として高度なセキュリティの確保が要請されており,庁舎の部屋の配置等を公にすることにより,全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるそうです。
→ 最高裁判所には,大法廷棟,小法廷棟,図書館棟,裁判官棟,裁判部棟,事務北棟及び事務西棟の7つの建物があります(裁判所HPの「裁判所施設の耐震性に係るリスト(平成22年7月)」参照)ところ,その位置関係も不開示情報だそうです。
なお,裁判官棟のIs値は0.27となっていますところ,外部HPの「耐震性能とIs値(耐震指標)について」によれば,Is値が0.6以下の建物については耐震補強の必要性があると判断されます。また,一般財団法人日本耐震診断協会HPの「耐震診断の基準(is値)」のほか,「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な指針」(平成18年1月26日国土交通省告示第184号)別表第六(リンク先のPDF28頁)によれば,Isが0.3未満の場合,「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し,又は崩壊する危険が高い。」と書いてあります。

11 平成27年度裁判官異動計画(平成29年度(最情)答申第4号(平成29年5月25日答申)
→ 「裁判官は,憲法上,その職務の独立性が保障されるとともに,身分が保障されている(憲法76条3項,78条)。また,その身分保障の現れとして,裁判官がその意思に反して転官や転所をされることはない(裁判所法48条)。これらの規定の趣旨に照らすと,裁判官の人事管理に係る情報については,裁判官の独立を確保するため,非常に高い機密性が求められる機微な情報であるということができ,本件対象文書に記録されている上記のような情報を公にすると,裁判官の異動を望み,あるいは望まない関係者等から不当な働き掛け等がされるなどして,今後の裁判官の人事管理に係る事務に関し,適正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件対象文書に記録された情報は,その文書の標題部分や発出者名等を含め,全体として法5条6号ニに規定する不開示情報に相当する。」そうです。

12 ①第68期導入司法修習生名簿(和光寮50音順)及び②第69期導入司法修習生名簿(和光寮50音順)(平成29年度(最情)答申第10号(平成29年6月9日答申)

→ 「司法修習生は,司法修習生間のやり取り等を通じて各司法修習生の修習地及び組についての情報を得ていることが少なくないという最高裁判所事務総長の説明は不合理とはいえないこと,本件対象文書には,司法修習生の氏名が50音順に記載されており,音によっては一人又は少数の氏名しか記載されていない部分もあることからすれば,修習地及び組の情報と照らし合わせることにより,入寮者の特定が可能となる場合があると考えられる。」から,修習地及び組は不開示情報に該当するそうです。

13 最高裁判所長官室の写真,最高裁判所判事室の写真及び最高裁判所首席調査官室の写真(平成29年度(最情)答申第27号(平成29年8月7日答申)
→ 「本件不開示部分のうちその余の部分については,その記載等の内容からすれば,上記部分を公にすると,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の位置及び構造が明らかになるものと認められる。そうすると,最高裁判所長官及び最高裁判所判事は,裁判所の業務に係る意思決定において極めて重要な役割を担っており,最高裁判所首席調査官は,最高裁判所の裁判所調査官の事務を総括していることから,いずれも襲撃の対象となるおそれが高く,上記各室は極めて高度なセキュリティが要請されるという最高裁判所事務総長の上記説明が不合理とはいえず,上記部分を公にすることにより,庁舎管理事務及び警備事務に支障を及ぼすおそれがあると認められる。」そうです。

14 司法修習生名簿(ひかり寮・部屋別)(平成29年度(最情)答申第46号(平成29年10月23日答申)
→ 「苦情申出人は,司法修習生の修習地,組及び室番号について,公にしても個人の権利利益を害するおそれがないなどと主張するが,司法修習生は司法修習生間のやり取り等を通じて各司法修習生の修習地,組,室番号についての情報を得ていることが少なくないという最高裁判所事務総長の説明する内容が不合理とはいえず,これらの情報を照らし合わせることにより,入寮者の特定が可能となる場合があると考えられる。」そうです。

15 69期の判事補志望者に対して実施した,最高裁判所の面接選考に関する文書(実施日時,実施場所,実施方法,面接担当者の肩書及び氏名等が書いてある文書をいうものの,これに限られない。)(平成29年度(最情)答申第52号(平成29年12月1日答申)
→ 「本件不開示部分のうち面接時間については,この記載を明らかにすることにより,結果として,面接に要する個別の時間を明らかにすることになるから,今後の人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」そうです。

16 『弁護実務修習に対して望むこと』について(平成28年9月28日付の司法研修所事務局長通知)(平成30年度(最情)答申第3号(平成30年4月20日答申)
→ 「見分の結果によれば,本件開示文書は,分野別実務修習のうち弁護修習の指導担当者等に対して,指導に関する指針や具体的な留意事項等を示したものであり,本件不開示部分には,弁護実務修習の具体的な指導方針及び内容が記載されていることが認められる。このような記載内容に照らすならば,本件不開示部分が公にされた場合には,司法修習生の中には,それに焦点を絞ることに注力し,自らの課題を自覚した上での積極的かつ主体的な取組をしなくなるなど,上記修習の目的にそぐわない行動をとる者が出るおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

17 平成29年10月24日に実施した,71期司法修習生採用希望者に対する面接に関して作成し,又は取得した文書(面接人数,実施日時,実施場所,実施方法,面接担当者の肩書及び氏名等が書いてある文書を想定しているものの,これに限られない。)(平成30年度(最情)答申第10号(平成30年5月25日答申)
→ 「本件不開示部分のうち面接対象者の出頭場所以外の記載部分については,見分の結果,司法修習生採用選考面接に係る申込者数や面接対象者数等が記載されていることが認められる。その記載内容に照らすならば,これらの記載部分を公にすることによって,面接の規模や形式等が明らかになり,どのような者が面接対象者になるかなどの推測がされて,今後の司法修習生の採用事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

18 平成30年4月任官の弁護士任官者に対して実施した,最高裁判所の面接選考に関する文書(実施日時,実施場所,実施方法,面接担当者の肩書及び氏名等が書いてある文書をいうものの,これに限られない。)(平成30年度(最情)答申第13号(平成30年5月25日答申)
→ 「本件不開示部分のうち面接及び健康診断の時間については,各受験者についてこれらの情報を明らかにすることで,結果として面接に要する個別の時間等を明らかにすることとなり,今後の人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

19 司法修習終了証の書式が分かる文書(最新版)(平成30年度(最情)答申第23号(平成30年7月20日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件対象文書には,司法修習終了証書について,証明文言を含む書式全体が記載されていることが認められる。このような記載内容に照らせば,同証書は,司法修習生の修習を終えたことを要件とする弁護士登録のために必要な書類となる(弁護士法4条参照)ほか,公的機関及び民間企業等にも提出されることが想定される重要な証書であるため,その書式が明らかになると,当該書式を参考として司法修習終了証書を偽造することが容易になり,ひいては同証書の提出先において偽造された証書を真正なものと誤信するおそれが高まるから,司法修習の終了という重要事項に関する証明事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

19 第71期司法修習生の採用選考申込みにおいて不合格となった人の数が分かる文書(平成30年度(最情)答申第25号(平成30年7月20日答申)
→ 「原判断においては,本件開示文書のうち不採用者名簿について,標題を除く部分が余白を含めて不開示とされているところ,見分の結果によれば,本件不開示部分には少人数である不採用者が記載されていることが認められる。このような記載内容に照らせば,本件不開示部分の記載内容から不採用者の数が明らかとなり,ひいては不採用者が特定される可能性や不採用となった理由が特定される可能性があるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

20 選択型実務修習における自己開発プログラムの内容が分かる文書(新第64期,新第65期,第67期及び第68期分)(平成30年度(最情)答申第26号(平成30年8月24日答申)
→ 「見分の結果によれば,本件対象文書は,①各配属庁会からの報告書の本文,②別紙である自己開拓プログラム審査結果報告書及び③司法修習生から提出された自己開拓プログラム申出書(申請書)によって構成されており,本件不開示部分は,①各配属庁会からの報告書の本文のうち報告書を提出した裁判所の庁名,修習地等,②別紙である自己開拓プログラム審査結果報告書のうち報告書を提出した裁判所の庁名,修習地,承認・不承認の別,修習生氏名,修習先,特記事項等,③司法修習生から提出された自己開拓プログラム申出書(申請書)のうち報告書を提出した裁判所の庁名,申出書提出先名,修習生氏名,班,修習生の印影,配属弁護士会,修習期間,修習先の名称・代表者・住所・電話番号・担当者の役職及び氏名,修習の目的,修習の内容,承認・不承認の別,不承認の理由,裁判所の受付印等であることが認められる。
このような記載(印影部分を含む。)の内容に照らせば,本件不開示部分は法5条1号に規定する個人識別情報と認められる。苦情申出人は,局長通知を
挙げて,自己開拓プログラムの修習先の名称等は不開示情報ではないと主張するが,局長通知の記載内容は承認又は不承認とされた修習先の例示としての抽象的なものにとどまることからすれば,本件対象文書に記載又は押捺がされた個別具体的な修習先の名称等が慣行として公にされているとは認められず,かつ,同号ただし書ロ及びハに掲げる情報に相当する事情も認められない。」そうです。

21 70期二回試験において,試験時間終了後も紐を結び続けていた司法修習生の行為に関して作成し,又は取得した文書(平成30年度(最情)答申第29号(平成30年8月24日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明によれば,70期司法修習生考試において,試験時間終了後も紐を結び続けていた司法修習生の行為に関する司法行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,該当する司法修習生の有無や当該行為に対する考試委員会の評価・判断等に関する情報を開示することになり,その結果,法5条6号に規定する不開示情報である応試者のどのような行為が不正行為として評価されるか(評価されないか)といった考試事務に関する情報が明らかとなって,今後の考試における不当な行為を容易にするなどのおそれが生じるとのことである。そして,本件開示申出文書の性質に照らして検討すれば,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

22 平成29年1月18日に開催された最高裁判所裁判官会議議事録(平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申)
→ 「本件不開示部分のうちその余の記載部分については,その記載内容に照らせば,罷免された司法修習生に係る個人識別情報と認められ,同号ただし書イからハまでに相当する事情は認められない。また,これらの記載部分については,司法修習生の人事事務に関する担当者等の一部の関係職員以外には知られることのない秘密性の高い情報であり,特に罷免理由を公にすると,どのような事案で罷免されるのかといった内容が明らかになるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえず,司法修習生の罷免に係る事務に支障が生じるおそれがあると認められるから,法5条6号ニに規定する不開示情報に相当する。」そうです。

23 昭和24年10月17日の最高裁判所裁判官会議の議事録(平成30年度(最情)答申第34号(平成30年9月21日答申)
→ 「本件不開示部分のうち「第二小法廷の判決に関する問題について」に係る議事の記載部分については,その記載内容に照らせば,裁判官会議決定に至る経緯等が記載されており,本件対象文書が約69年前に作成されたものであることを踏まえても,上記記載部分を公にすると非違行為に関する調査手法等を明らかにすることとなり,今後の人事管理事務に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえず,法5条6号に規定する不開示情報に相当すると認められる。」そうです。

24 未済事件一覧表(平成27年10月7日現在)(平成30年度(最情)答申第35号(平成30年10月19日答申)
→ 「苦情申出人は,日弁連と個人を当事者とする事件に係る当事者名について,慣行として公にされている情報である旨を主張する。しかし,本件対象文書が原判断の時点における未済事件の係属状況等を記載したものであることからすれば,裁判が確定した事件について当該裁判に係る情報が日弁連の機関紙等に掲載されるからといって,慣行として公にされている情報とはいえないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。その
ほか,法5条1号ただし書イからハまでに相当する事情は認められない。
また,本件不開示部分のうち備考欄及び事件進行状況欄の記載については,事件に関する具体的な進行状況や今後の進行予定等が記載されていることからすれば,これらの情報を開示すると,具体的な事件における裁判体の判断等が明らかになるなど,裁判事務に支障を来すおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえず,同条6号に規定する不開示情報に相当すると認められる。」そうです。

25 司研別館ガイド,各階平面図等(平成30年度(最情)答申第39号(平成30年10月19日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件不開示部分は,司法研修所別館及びなごみ寮の施設に係る施錠の状況及び解錠方法,司法研修所別館及びなごみ寮が所在する敷地への入構方法,建物内の各部屋の配置,電話番号,ファクシミリ番号及び内線番号,IT整備状況並びに具体的なセキュリティ対策に関する情報と認められる。このような記載内容に照らせば,本件不開示部分を公にすると,庁舎管理事務及び警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるほか,職務に関係のない問合せやファクシミリ送信によって職務に必要な連絡に支障が生じ,裁判所の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,サイバー攻撃の際の糸口等を推測させ,情報セキュリティの確保に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

26 70期司法修習生を罷免するに際し,司法研修所が作成した司法修習生に関する規則19条に基づく報告書(平成30年度(最情)答申第41号(平成30年11月16日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件対象文書は,70期司法修習生を罷免するに際し,司法研修所が作成した司法修習生に関する規則(平成29年最高裁判所規則第4号による改正前のもの)19条に基づく報告書であり,司法修習生の氏名や行状等が記載されていることが認められる。このうち司法修習生の氏名や行状等の記載部分については,法5条1号に規定する個人識別情報と認められ,同号ただし書イからハまでに相当する事情も認められない。また,本件対象文書の性質及び内容を踏まえると,標題等を含む本件対象文書全体について,これを公にすると,司法修習生の罷免事由に関する調査事項,司法修習生の弁明書及び提出された資料の内容が明らかになり,今後の公正かつ円滑な調査及び資料収集事務に好ましくない影響を与えるなど,適正な司法修習生の罷免手続事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

27 「裁判所庁舎設計基準」及び「裁判所庁舎設計標準図」(平成30年度(最情)答申第48号(平成30年11月16日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件対象文書は,全国の裁判所庁舎を設計する際の庁舎の各室や設備などの各種基準等が記載された文書であり,本件不開示部分には,室名や当該室の仕様等が記載されていることが認められる。このような記載内容に照らして検討すれば,裁判所庁舎においてはセキュリティの確保が要請される場所が広く存在し,本件不開示部分が開示された場合には,庁舎管理上の問題や警備上の問題が生じるおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

28 「平成27年2月13日付け報告書」及び「平成27年2月13日付け事実経緯報告書」(平成30年度(最情)答申第51号(平成30年12月21日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件対象文書は,平成25年度(第67期)司法修習生考試について生じた運営上の問題に関して作成された報告書及び事実経緯報告書であり,本件不開示部分は,本件対象文書の作成者の氏名や押印等,法人の業務内容及び印影のほか,答案管理や監督員の対応等の司法修習生考試の実施事務に関する記載であることが認められる。このような記載内容に照らして検討すれば,本件対象文書の作成者の氏名や押印等については法5条1号に規定する不開示情報に相当し,法人の業務内容及び印影については同条2号イに規定する不開示情報に相当するほか,司法修習生考試の実施事務に関する記載については,これを公にすると試験妨害行為や不正行為が容易となる等,試験に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

29 J・NETポータルに掲載されている渉外レポート(第9号)(平成30年度(最情)答申第52号(平成30年12月21日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,外国要人等が我が国の裁判所を訪問した際に撮影された写真や訪問者の氏名及び肩書,面談の内容であることが認められ,その撮影や記載の内容を踏まえて検討すれば,他国又は国際機関との信頼関係に基づいて作成されたものであり,これらを公にすると他国又は国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

30 平成29年1月1日以降に最高裁判所が取得した,日弁連の懲戒処分に関する裁決取消訴訟の判決書(平成30年度(最情)答申第58号(平成31年1月18日答申)) 
→ 「平成28年弁護士懲戒事件議決例集は,日本弁護士連合会が編集・発行する刊行物で,日本弁護士連合会懲戒委員会,同綱紀委員会及び同綱紀審査会において1年間の議決例の中から先例的価値のあるものを選択・編集して収録しているものであるし,ウェブブログについても,私的に設けられたもので,独自の編集に基づいて掲載しているものであるから,これらに掲載される情報について直ちに慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものとはいえないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

31 第70期司法修習生から提出された,二回試験終了後の海外旅行に関する承認申請書(平成30年度(最情)答申第60号(平成31年1月18日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件不開示部分は,司法修習生及び司法研修所職員の印影のほか,日付(受付印の日付部分を含む。),当該司法修習生に係る組番号,配属先,氏名,電話番号,旅行先,目的,期間,同行者,連絡先等の記載である。このような記載内容を踏まえて検討すると,司法修習生の氏名や司法修習生及び司法研修所職員の印影が法5条1号に規定する個人識別情報に相当することは明らかであり,その余の記載についても,最高裁判所事務総長の上記説明によれば,司法修習生は相互のやり取りを通じて様々な情報を得ていることが少なくなく,また,日付から旅行出発日を推認することができるため,本件対象文書に記載された司法修習生を特定することができるということであり,その内容が不合理とはいえない。」そうです。

32 平成30年春の勲章受章者名簿(内定)(平成30年度(最情)答申第66号(平成31年2月22日答申)
→ 「見分の結果によれば,本件不開示部分には,叙勲の内示を受けた官職及び内定者数が記載されていることが認められる。これらの記載内容に照らし
て検討すれば,実際の受章者数は内定者の辞退や推薦取消等により内定者数から減少する場合があり,官職及び内定者数を開示すると,受章に至らなかった者の有無及び人数が明らかになり,それによって,受章に至らなかった具体的理由を第三者から追及されたり,様々な誤解を招いたりするおそれがあり,適正な栄典事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

33 「平成29年12月28日付け支給調書」及び「平成29年12月27日付け「平成28年度(第70期)司法修習生考試の採点謝金について」で始まる文書」(平成30年度(最情)答申第69号(平成31年2月22日答申)
→ 「苦情申出人は,支給金額等は同条2号に規定する事業を営む個人の当該事業に関する情報である旨を主張する。しかし,最高裁判所事務総長の上記説明によれば,司法修習生考試における答案採点事務は,考試委員会委員及び考査委員としての職務遂行の一環としてされたものであって,弁護士として業務を行うものではないとのことであり,事業を営む個人の当該事業に関する情報とは認められない。」そうです。

34 平成30年1月24日付け民事局長事務連絡「民事調停委員の再任等について」(平成30年度(最情)答申第75号(平成31年2月22日答申)
→ 「見分の結果によれば,本件不開示部分には,民事調停委員の再任に当たっての留意点等が記載されている。そして,民事調停委員の選任事務については広く関心を持つ組織や個人が存在すると考えられるところ,これらの記載内容を踏まえて検討すれば,本件不開示部分に記載されている民事調停委員の再任に当たっての留意点等の情報が公になると,不正確な理解が広まるなどして,民事調停委員の選任事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

35 検事採用願(平成30年度(最情)答申第76号(平成31年3月15日答申)
→ 「本件対象文書を見分した結果によれば,本件不開示部分は,別紙2記載4及び5の文書のうち,検事採用の面接選考における面接官の着眼点又はこれを推知させる内容が記載されている部分であることが認められる。
最高裁判所事務総長は,本件不開示部分のうち,別紙3記載の各部分については開示するのが相当と考えるが,それ以外の部分については,検事の採用における着眼点の一端を推知させる情報が記載されており,これを公にした場合,当該情報を得た司法修習生の言動に不測の影響を及ぼし,検事の採用に当たっての正当な評価が困難となって,法務省における円滑な採用事務に支障を及ぼすおそれがあると説明する。このような説明の内容及び見分の結果を踏まえて検討すると,別紙3記載の各部分については,検事の採用における着眼点の一端を推知させる情報ではあるものの,その記載内容に照らして,採用事務に支障を及ぼすおそれがあるとまでは認められない。その一方,本件不開示部分のうち別紙3記載の各部分を除く部分については,検事の採用における着眼点を推知させる情報が記載されており,これを公にした場合には,採用事務に支障を及ぼすおそれがあると認められる。」そうです。

36 裁判官任官希望者に対する健康診断,採用面接等の予定(平成30年度(最情)答申第84号(平成31年3月15日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件不開示部分のうち,健康診断及び採用面接の各実施日については,これらが公になると,健康診断及び採用面接の実施を妨害されるなどして,円滑な判事補採用手続の進行に支障を及ぼすおそれがあるから,各実施日が経過するまでは不開示事由があり,また,採用内定通知発送日については,裁判官任官希望者に限ってあらかじめ伝えているものであり,これが公になると,日程に変更が生じた場合に無用の混乱を招くなどして,円滑な判事補採用手続の実施に支障を及ぼすおそれがあるから,採用内定通知発送日が経過するまでは不開示事由があると説明する。本件開示文書を見分した結果によれば,本件不開示部分には,健康診断及び採用面接の各実施日並びに採用内定通知発送日が具体的に記載されていることが認められ,これらの記載内容を踏まえて検討すれば,最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

37 70期二回試験に関する司法修習生考試受験票のひな形(平成31年度(最情)答申第2号(平成31年4月19日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,本件対象文書について,司法修習生考試会場における応試者確認のための重要な書面であり,その書式が明らかになると,偽造等が容易となり,試験に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,全体として法5条6号柱書及び同号イに規定する不開示情報に相当すると説明する。本件対象文書の性質及び見分の結果を踏まえると,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。

38 平成13年3月14日付の最高裁判所調査委員会の調査報告書(古川龍一事件)における古川龍一判事の妻の氏名(平成31年度(最情)答申第3号(平成31年4月19日答申)
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明及び当委員会庶務を通じて確認した結果によれば,官報に掲載された裁判官分限事件の裁判書中では妻の名前が明らかにされているものの,妻自身は民間人であり,同人の逮捕から相当の期間が経過していること,裁判所ウェブサイトの裁判例情報に掲載されている同事件の裁判書では,妻の名前は仮名処理されていることが認められ,これらの事情を踏まえて検討すれば,元判事の妻の名前について,現時点では慣行として公にされている情報とは認められず,同号ただし書イに相当しない。また,同号ただし書ロ及びハに相当する事情も認められない。」そうです。

39 第69期導入修習カリキュラムの概要(平成31年度(最情)答申第4号(平成31年4月19日答申)
→ 「苦情申出人は,同種の文書が開示された例を挙げて,本件不開示部分は法5条6号に規定する不開示情報に相当しないと主張する。しかし,当委員会庶務を通じて確認したところ,最高裁判所において本件の開示申出を受けて本件開示文書について検討した結果,本件不開示部分について不開示事由があると判断したとのことであり,本件不開示部分の記載内容に照らして検討すれば,本件不開示部分を開示すると,司法修習生が希望する進路や成績評価に影響があると推測される部分に焦点を絞って学修したり,事前課題の模範解答案が流布して安易に利用されたりして,修習の目的が達成されず,修習事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明が不合理とはいえない。」そうです。

40 「採用選考申込者のうち,修習に耐えられる健康状態ではないという理由で不採用にした際に作成した文書」及び「採用申込みに当たって虚偽の申告をしたという理由で採用内定を取り消した際に作成した文書」(平成31年度(最情)答申第6号(平成31年4月19日答申)
→ 「最高裁判所事務総長は,不採用者等に関
する文書の存否を明らかにすると,仮に不採用者等が存在する場合であっても少数であるから,不採用者等を知る特定人からは,当該不採用者等の不採用又は採用内定取消しの理由が明らかとなり,それをもって個人の権利利益を害するおそれがあるなどと説明する。このような説明の内容を踏まえて検討すれば,不採用者等が存在する場合には,当該不採用者等に関して入手可能な他の情報と併せることにより,当該不採用者等が特定されて,不採用又は採用内定取消しの理由が明らかとなるおそれがあると認められ,この情報は,法5条1号に規定する不開示情報に相当する。」そうです。

41 司法行政文書管理状況の監査の手引(平成31年度(最情)答申第7号(平成31年4月19日答申)
→ 「本件開示文書が監査事務に携わる職員のための手引として作成されたものであることは,原判断において開示された部分から明らかであるところ,見分の結果によれば,本件不開示部分には,監査の手法,監査のスケジュール,重点監査項目,監査の対象等に関する事項が記載されていることが認められる。このような記載内容を踏まえれば,本件不開示部分が公になると,管理の実情を正確に把握することが困難になること等から,把握した実情を踏まえて必要な指導を行うことにより司法行政文書の適正な管理に資することを目的とする監査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。