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裁判所の不開示決定は取消訴訟の対象になるか―司法行政文書の開示と処分性(AIリライト)

裁判所が保有する司法行政文書の開示を求めたところ不開示とされた場合,その不開示決定を取消訴訟で争うことができるかを整理します。結論として,裁判所の不開示決定は行政事件訴訟法上の「処分」に当たらず,取消訴訟の対象となりません。本稿では,その理由(処分性の意義,情報公開法上の「行政機関」の範囲,開示の根拠となる内部規範)を東京地方裁判所平成22年12月10日判決に即して説明し,あわせて,あえて提訴した場合に生じる手続上の帰結(口頭弁論を経ない却下,判決言渡期日の告知の要否)と,衆議院・参議院の事務局の不開示決定についても取り上げます。現行法令はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所ウェブサイト等で確認しています(確認日・2026年7月18日)。

第1 裁判所の不開示決定に処分性がないこと

裁判所に対して司法行政文書の開示を求め,その全部又は一部が開示されなかった場合に,この不開示決定を取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)で争えるかは,その決定が同項にいう「処分」に当たるか(処分性があるか)で決まります。以下では,処分性の意義を確認したうえで,裁判所の不開示決定がこれに当たらない理由を順に説明します。

1 抗告訴訟の対象となる「処分」の意義

抗告訴訟の対象となる「処分」とは,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいいます(行政事件訴訟法3条2項)。その具体的な意味について,判例は,「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいうとしています(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁)。したがって,ある行為が「処分」に当たるためには,その行為が法律に基づいて国民の権利義務を直接に形成し又は確定するものであることが必要です。

裁判所が行う行為であっても,それが右の意味での「処分」に当たる限り,取消訴訟の対象となり得ます。問題は,裁判所の司法行政文書に係る不開示決定が,この要件を満たすかどうかです。

2 裁判所は情報公開法上の「行政機関」に含まれないこと

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)は,「行政機関」が保有する行政文書の開示義務を定め,その不開示決定を取消訴訟で争う仕組みを設けています。しかし,同法2条1項が定義する「行政機関」は,内閣の下に置かれる機関から会計検査院までの行政各部を列挙するにとどまり,裁判所も国会も含まれていません。情報公開法の立案に関与した論者による逐条解説も,同法の「行政機関」に国会・裁判所は含まれず,国会や裁判所が保有する文書は同法の開示義務の対象外であると説明しています(宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説〔第8版〕』有斐閣・2018年・139頁,196頁)。

そのため,裁判所が保有する文書の開示は,情報公開法によっては規律されておらず,別の枠組みによって行われています。

3 司法行政文書の開示は要綱・依命通達という内部規範に基づくこと

裁判所が保有する司法行政文書の開示は,最高裁判所が定めた「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」(要綱)と,下級裁判所についての依命通達に基づいて行われています。これらは,情報公開法の趣旨を踏まえて定められたものであり,文言においては情報公開法と類似する部分もありますが,あくまでも司法行政上の便宜供与の一環として,開示事務の処理準則として定められた内部規範であって,情報公開法その他の法律に基づくものではありません。

この点は,開示の運用が右の要綱に基づくものであることを,裁判所側の実務資料自身も確認しています(司法協会『司法行政文書の書き方(9訂)』令和6年12月・司法行政文書の開示は上記取扱要綱に基づき行われる旨の記載)。開示の根拠が法律ではなく内部規範であることは,次に述べる処分性の判断において決定的な意味を持ちます。

4 東京地方裁判所平成22年12月10日判決の判断

以上の点を正面から判断したのが,東京地方裁判所平成22年12月10日判決(平成22年(行ウ)第32号・公文書公開拒否処分取消請求事件)です。同判決は,最高裁判所が要綱に基づいてした司法行政文書の不開示を取り消すよう求めた訴えについて,次のように判断して訴えを却下しました。

  • 情報公開法において裁判所はその対象となる「行政機関」に含まれておらず(情報公開法2条),裁判所の保有する情報の公開については,要綱及び依命通達が定められているにすぎない。
  • 要綱及び依命通達は,司法行政上の便宜供与の一環として開示事務の処理準則として定められた内部規範であって,情報公開法その他の法律に基づくものではない。
  • そうすると,要綱に基づいてされた開示の求めに対しこれを開示しないこととする行為は,情報公開法その他の法律を根拠とするものではないから,これによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえず,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には当たらない。

結論として同判決は,本件不開示は同項が定める「処分の取消しの訴え」の対象とはならず,訴えは不適法であるとして,これを却下しました。裁判所の不開示決定が取消訴訟の対象とならないのは,決定の中身が妥当かどうか以前に,その決定が法律に基づく「処分」ではないためです。

第2 不開示決定を争う訴えの手続上の帰結

裁判所の不開示決定に処分性がない以上,これを取消訴訟で争っても,訴えは不適法として却下されます。この場合,通常の訴訟とは異なる簡略な手続で処理されることがあります。以下では,そのうち実際に問題となりやすい三つの帰結を整理します。

1 口頭弁論を経ずに却下判決が下される場合(民事訴訟法140条)

訴えが不適法でその不備を補正することができないときは,裁判所は,口頭弁論を経ないで,判決で,訴えを却下することができます(民事訴訟法140条)。裁判所の不開示決定に対する取消訴訟は,処分性を欠くことが明らかで補正の余地がないため,この規定により,口頭弁論を経ずに却下判決が下されることがあります。

もっとも,実際に口頭弁論を経るかどうかは事件によります。前記の東京地方裁判所平成22年12月10日判決自体は,主文・事実及び理由を備えた通常の判決の形式で訴えを却下しており,口頭弁論を経ないで直ちに却下されたわけではありません。口頭弁論を経る場合には,訴状等が被告側(法務大臣)に送達され,処分行政庁とされた裁判所側でも回答のための事務が生じます。

2 訴状・判決正本の送達を要しない場合

これに対し,不適法なことが明らかであって当事者の訴訟活動により適法とすることが全く期待できない訴えについて,口頭弁論を経ずに訴えを却下し,又は却下判決に対する控訴を棄却する場合には,訴状において被告とされている者に対し,訴状・控訴状又は判決正本を送達することを要しないとされています(最高裁判所平成8年5月28日第三小法廷判決・平成7年(行ツ)第67号)。この場合,被告とされた者に訴訟の係属が知らされないまま,訴えが却下されることになります。

3 判決言渡期日を事前に告知されない場合(民事訴訟規則156条ただし書)

判決の言渡期日の日時は,あらかじめ,裁判所書記官が当事者に通知するのが原則です。しかし,その日時を期日において告知した場合,又は,その不備を補正することができない不適法な訴えを口頭弁論を経ないで却下する場合には,通知を要しません(民事訴訟規則156条ただし書)。そのため,裁判所の不開示決定に対する取消訴訟では,言渡期日を事前に知らされないまま却下判決が下されることがあります。控訴審・上告審でも同様の扱いがされています。

(1) 口頭弁論を経ない却下判決の場合

口頭弁論を経ないで不適法な控訴を却下する判決を言い渡す場合,控訴審は,その判決言渡期日について当事者の呼出手続をする必要はありません(最高裁昭和33年5月16日判決・民集12巻7号1034頁)。上告についても同様で,口頭弁論を経ないで不適法な上告を却下する判決を言い渡す場合には,言渡期日を指定して公開の法廷で言い渡せば足り,当事者に対しその言渡期日の呼出状を送達することを要しません(最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号497頁)。

(2) 訴え却下を是認する控訴棄却判決の場合

訴え却下の第一審判決を是認して,口頭弁論を経ないで控訴棄却の判決を言い渡す場合にも,当事者に対し判決言渡期日の告知及び呼出手続をすることを要しません(最高裁昭和62年10月1日第一小法廷判決・集民152号1頁。先例として,最高裁昭和57年10月19日第三小法廷判決・集民137号391頁)。したがって,地方裁判所の却下判決に対して控訴した場合,言渡期日を事前に知らされないまま控訴棄却の判決が下されることがあります。

第3 議院(国会)事務局の不開示決定

裁判所と同じ問題は,国会(衆議院・参議院)が保有する文書の開示についても生じます。国会も情報公開法2条の「行政機関」に含まれないためです。

1 衆議院・参議院の情報公開が内規に基づくこと

衆議院及び参議院は,それぞれ独自の情報公開の制度を設けていますが(衆議院事務局の情報公開制度参議院事務局の情報公開制度),これらは各議院の内規に基づいて運用されているものであって,情報公開法その他の法律を根拠とするものではありません。前記のとおり,国会が保有する文書は情報公開法の開示義務の対象外とされています。

2 取消訴訟の可否と苦情の申出

そうすると,裁判所の不開示決定と同じ理由により,議院事務局の不開示決定も,法律に基づいて国民の権利義務を直接形成又は確定する行為とはいえず,行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たらないと解されます。この理解によれば,議院事務局の不開示決定について取消訴訟を提起することはできないことになります。もっとも,各議院の情報公開の制度に基づき,不開示の扱いについて苦情の申出をする手段は用意されています。

第4 関連する論点と関連記事

1 訴えの利益を欠くとして請求が排斥された場合の被告の控訴の利益

不開示決定を争う訴えのように,訴えの利益を欠くとして第一審が原告の請求を排斥した場合,請求棄却の判決を求めていた被告の側も,控訴を申し立てる利益を有します(最高裁昭和40年3月19日第二小法廷判決・民集19巻2号484頁)。訴え却下と請求棄却とでは,被告が受ける既判力の内容が異なるため,請求棄却を求めていた被告にも,却下判決を争う利益が認められるからです。

2 関連記事

裁判所の情報公開の制度的な枠組みや,開示・不開示の運用状況については,次の記事も参照してください。

出典

法令

  • 行政事件訴訟法2条・3条2項(e-Gov法令検索)
  • 行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条(e-Gov法令検索)
  • 民事訴訟法140条(e-Gov法令検索)
  • 民事訴訟規則156条(最高裁判所規則。判決の言渡期日の通知に関する規定)

裁判例

公文書・実務資料

  • 裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱(最高裁判所)
  • 司法協会『司法行政文書の書き方(9訂)』令和6年12月

文献

  • 宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説〔第8版〕』有斐閣・2018年・139頁,196頁

ウェブ資料