○最高裁平成26年7月14日判決によれば,行政機関の情報公開の場合,ある時点において当該行政機関の職員が当該行政文書を作成し,又は取得したことが立証された場合において,不開示決定時においても当該行政機関が当該行政文書を保有していたことを直接立証することができないときに,これを推認することができるか否かについては,当該行政文書の内容や性質,その作成又は取得の経緯や上記決定時までの期間,その保管の体制や状況等に応じて,その可否を個別具体的に検討すべきものとされています。
○最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,以下の司法行政文書は下級裁判所が直ちに廃棄しているそうです。
1 神戸地裁における,①視察の日時時刻,発着地,事項,配車,乗員,随行の秘書官等の詳細が記載されている基本日程及び詳細日程,③最高裁判所判事との座談会の出席者名簿及び座談会席図,④庁内巡視の順序が分かる文書並びに⑤最高裁判所判事との懇親会の出席者名簿(平成27年度(情)答申第2号(平成28年2月18日答申))
→ 「苦情申出人が存在するはずであると主張する①から⑤までの文書のうち②の文書以外の文書については,その標題や最高裁判所事務総長の説明に照らすと,最高裁判所判事の視察に関する具体的な日程,出席者及び巡視の流れを記載した当該視察の際に必要となるものといえるが,その後にわたって意思決定に至る過程や事務の実績を検証するために必要とされる内容のものではないといえるから,神戸地方裁判所においてはこれらを内容が軽微かつ簡易なものとして,短期保有文書として扱っていたとする最高裁判所事務総長の説明に不合理な点はない。そして,これらの文書の内容に照らせば,視察日から2か月近くが経過した本件開示申出の時点で廃棄していたとの取扱いは,事務処理上必要な期間が満了したときに廃棄されたものとして,上記各通達の定めに従ったものであるといえ,他にこれらの文書の存在をうかがわせるような事情はない。」そうです。
2 平成28年1月1日の神戸地裁所長交代時の引継書(添付書類を含む。)(平成28年度(情)答申第4号(平成28年7月15日答申))
→ 「最高裁判所事務総長は,現在の神戸地方裁判所長に確認したところ,事務の引継ぎに際しては,メモ程度のものは作成されたが,それは,現所長が前所長から受け取り,読んだ後,必要がなくなったので,1週間程度で廃棄したとのことであったとし,所長の事務の引継ぎの性質に照らすと,これは合理的であると説明する。
上記の説明は,神戸地方裁判所長の事務の引継ぎに際して作成されたメモは,引継ぎを受けた現所長個人の責任で保有し,その個人にとって必要な限度で利用した上で廃棄したというものと解されるのであり,このことは,所長の事務の引継ぎという事務の内容に照らして,不合理なものとは認められない。
」そうです。
3 直近に開催された,首席家庭裁判所調査官協議会及び家事事件担当裁判官等協議会に関する配付資料(平成28年度(情)答申第5号(平成28年7月15日答申))
→ 「最高裁判所事務総長は,本件各開示申出文書が短期保有文書として随時廃棄して差支えない文書であり,既に廃棄されているとする原判断庁の説明は合理的であると説明する。本件各開示申出文書は,いずれも,東京高等裁判所で開催された協議会の配付資料で,最高裁判所から東京高等裁判所を通じて協議員に対して協議の参考として配布された文書であるというのであるから,その用途は,協議員が協議の参考にするに止まり,東京高等裁判所においてこれに基づく事務等が予定されているものとは認められない。そうすると,協議会が終了すれば,東京高等裁判所において保有する必要性がなくなるものであるということができるから,東京高等裁判所において,これらについて,保存期間を1年以上にする必要がない短期保有文書として扱っていることは,前記1の各通達に沿った取扱いであり,相当である。以上によれば,本件開示申出の時点において,本件各開示申出文書が,いずれも廃棄済みであって存在しないとする原判断庁の説明は合理的であり,これを覆すに足りる事情はない。
この点につき,苦情申出人は,平成25年2月改訂のJ・NETポータル民事情報データベース操作マニュアル<一般ユーザ編>に,平成19年度の協議会資料が存在するような記載部分があることをもって,本件各開示申出文書が存在すると主張するが,上記の記載は,本件各開示対象文書に係る協議会とは全く別の年度に開催された協議会に関するものである上,マニュアル上の記載が実際の文書の存在を推認させるものでないことはいうまでもないのであるから,採用の限りでない。」そうです。
4 東京地裁立川支部長が東京地裁本庁に定期的に送付している,支部の状況報告に関する書面(平成28年度(情)答申第12号(平成28年10月24日答申))
→ ①幹部連絡会の報告資料(月に一度行われる幹部連絡会において,支部長が所長に対して支部の状況を口頭報告する際に使用する補助資料)及び②裁判官会議終了後に行われる概況説明の資料(所長や支部長らが出席する裁判官会議終了後,出席者らが参加し,各部署から口頭で行われる概況説明の際に使用する補助資料)につき,
「上記(1)の説明によれば,資料の配布等の庶務を担当する部署では文書1及び文書2のいずれについても会議又は説明の終了後に廃棄をしたというのであるところ,上記(1)のとおり,幹部連絡会及び概況説明が,いずれも通達等に開催根拠がなく,組織的意思決定を予定していないものであることからすれば,文書1及び文書2について,そのように取り扱っていることは合理的である。したがって,当該部署において保有していた文書1及び文書2は,いずれも廃棄済みであると認められる。
また,上記(1)の説明によれば,文書1及び文書2の配布を受けた参加者は,手持ち資料として持ち帰ることはあっても,その保有又は処分については,参加者個人の自由な判断に委ねられていたというのであり,上記のとおりの幹部連絡会及び概況説明の性質に照らせば,当該説明も合理的であるといえるから,参加者が本件開示申出の時点で文書1又は文書2を保有していたとしても,それは,東京地方裁判所が組織的に用いるものとして保有しているものではなく,司法行政文書を保有していることにはならないことは明らかである。」そうです。
5 東京高裁が,平成30年1月10日にエレベーターの使用中止を決定した際に作成した文書(決裁文書及び裁判所内の回覧文書を含む。)(平成30年度(情)答申第15号(平成31年1月18日答申))
→ 「最高裁判所事務総長の上記説明によれば,本件開示申出文書に該当する文書として,管理職員から職員へ口頭で周知するために,その内容を記載した文書が作成されたが,当該文書は,エレベーター使用停止の措置について,管理職員から職員に対して口頭で周知を行うに当たり,その内容を正確に伝える目的に基づく短期保有文書であり,職員へ口頭で周知したことによりその目的が達成され,事務処理上保有しておく必要がなくなったことから廃棄したとのことであり,本件開示申出の内容に照らして検討しても,このような説明の内容が不合理とはいえない。」そうです。
6 旭川地方裁判所が司法研修所に対して司法修習生の一部を配属換えする原因となった事実関係について報告した文書(平成29年度(情)答申第21号(平成30年3月23日答申))
→ 「当委員会庶務を通じて確認したところ,旭川地方裁判所では,上記の事実関係に関する文書のうち,本件対象文書以外の文書については,標準文書保存期間基準に照らして短期保有文書として取り扱うことが相当であることから,配属換えの手続が終了して,当該文書を保有する必要がなくなった後に廃棄した」そうです。