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司法行政文書の開示申出で第三者情報がある場合の意見聴取と苦情申出(AIリライト)

本記事は,裁判所に対する司法行政文書の開示申出について,対象文書に第三者に関する情報が記録されている場合の現行の取扱いを説明するものである。
調査の基準日は令和8年9月9日であり,同日までに公表された裁判所の取扱要綱,実施細目及び案内ページ並びに現行の情報公開法を確認した。

先に結論を示すと,第三者情報があるだけで常に意見聴取が行われるわけではなく,その情報が不開示情報に当たるか疑義があるときに意見を求める取扱いである。
第三者が反対しても当然に不開示となるわけではないが,裁判所が開示すると判断した場合には,第三者の苦情申出の機会を確保するための通知と待機期間が設けられている。

第1 まず区別すべき制度

1 裁判所への申出は情報公開法上の開示請求ではない

裁判所は行政機関の保有する情報の公開に関する法律の適用対象ではない。
司法行政文書の開示は,最高裁判所が定めた「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」に基づく独自の開示申出制度として行われる。

ただし,取扱要綱は情報公開法の趣旨を踏まえており,不開示情報についても情報公開法5条所定の不開示情報に相当する情報を基準としている。
したがって,情報公開法は重要な参照対象であるが,裁判所の手続に同法13条が直接適用されるわけではない。

司法行政文書の範囲及び開示申出全体の流れは「裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開(AIリライト)」で説明している。

2 第三者は裁判所と開示申出人以外の者である

取扱要綱第9の1は,裁判所及び開示申出人以外の者を「第三者」と定義している。
個人及び民間法人だけでなく,他の国の機関,地方公共団体その他の団体も,裁判所及び当該開示申出人以外であれば第三者となり得る。

問題となるのは,第三者の氏名や名称が記載されているかだけではない。
第三者の権利利益,信用,事業活動,提供した情報その他の第三者に関する情報が記録されている場合が対象となる。

3 開示申出人自身の個人情報は別手続である

司法行政文書開示手続では,開示申出人自身の情報であっても,個人に関する情報は原則として開示されない。
自己の個人情報の開示を求める場合は,司法行政文書開示手続ではなく,裁判所の「保有個人情報開示手続」を利用する必要がある。

第2 第三者への意見聴取が行われる場面

1 第三者情報があるだけで直ちに照会されるわけではない

取扱要綱第9の1によれば,意見聴取が行われるのは,開示申出の対象文書に第三者情報が記録され,かつ,その情報が不開示情報に該当するか否かについて疑義がある場合である。
第三者情報が含まれていても,開示又は不開示の判断が明らかである場合まで一律に意見聴取を行う旨は定められていない。

意見聴取は,第三者に開示の可否を決めさせる手続ではない。
裁判所が不開示情報該当性を判断するために,文書の作成経緯,情報の性質,公表状況及び開示によって生じる具体的な支障等について第三者の説明を得る手続である。

2 対象は第三者が作成した文書に限られない

意見聴取の対象となり得るのは,第三者が作成名義人となっている文書に限られない。
裁判所が作成した通知,報告書又は内部検討資料に第三者情報が記録されている場合も,不開示情報該当性に疑義があれば意見聴取の対象となり得る。

逆に,文書の作成者が第三者であるという形式だけで結論は決まらない。
開示単位となる情報の内容を確認し,情報公開法5条の各不開示情報に相当するかを個別に検討する必要がある。

3 現行の意見聴取は適宜の方法で行われる

現行の実施細目は,第三者に対し,対象となる司法行政文書の名称並びに意見書の提出先及び提出期限を通知し,適宜の方法によって意見を聴くものとしている。
平成29年版の手引で使われていた旧別紙様式第4又は第5が,現在も意見聴取の必須様式であるわけではない。

意見を求められた第三者は,単に「開示に反対する」と述べるだけでなく,どの記載部分が,どの不開示情報に相当し,開示によってどのような支障又は権利利益の侵害が生じるのかを具体的に示すことが重要である。
既に公表された情報であっても,公表範囲,公表時期,現在の入手可能性及び対象文書に付加された未公表情報を分けて説明する必要がある。

第3 反対意見が提出された後の取扱い

1 第三者の反対意見は開示を阻止する拒否権ではない

第三者から開示に反対する意見が提出されても,裁判所がその意見に拘束されるわけではない。
裁判所は,第三者の説明を考慮した上で,不開示情報該当性を自ら判断する。

その結果,全部開示,一部開示又は全部不開示のいずれもあり得る。
第三者が文書を作成したこと,情報提供時に非公表を希望したこと又は開示に反対したことだけで,直ちに不開示となるものではない。

2 開示まで少なくとも2週間を置く

第三者が反対意見を提出したにもかかわらず裁判所が開示すると判断した場合,開示申出人へ開示通知を発送した日と開示実施日との間に少なくとも2週間を置かなければならない。
この期間は,第三者が開示判断に対する苦情を申し出る機会を実質的に確保するためのものである。

2週間は開示までの上限ではなく,最低限の待機期間である。
開示実施前に第三者から適法な苦情の申出があれば,後記のとおり,最高裁判所が原判断の当否を判断するまで開示は実施されない。

3 第三者へ直ちに通知される事項

裁判所は,開示申出人へ開示通知を発送した後,直ちに反対意見を提出した第三者へ開示することを通知する。
現行の実施細目が掲げる通知事項は,対象となる司法行政文書の名称,開示することとした理由及び開示実施予定日である。

通知方法は「適宜の方法」とされており,平成29年版の手引に掲載された旧別紙様式第6による書面だけに限定されていない。
第三者は,通知日,通知内容及び開示実施予定日を記録し,苦情申出を行うか速やかに判断する必要がある。

第4 第三者による苦情の申出

1 開示判断に対して最高裁判所へ申し出る

開示判断の対象となった司法行政文書に自己の情報が記録されている第三者は,その全部又は一部を開示する判断に対し,最高裁判所へ苦情を申し出ることができる。
苦情申出期間は,原判断の通知が発送された日から原則として3か月以内である。

現行の実施細目では,第三者用の苦情申出書が別紙様式第5である。
旧手引における意見聴取関係の様式番号と現在の様式番号は対応していないため,裁判所の現在の案内ページから最新の書式を取得すべきである。

2 開示前の苦情申出で実施は停止する

開示実施前に第三者から苦情の申出がされた場合,開示申出を受けた裁判所は,最高裁判所が原判断の当否を判断するまで開示を実施しない。
裁判所は,開示を停止した旨を開示申出人及び当該第三者へ通知する。

したがって,反対意見を提出した第三者にとって,開示実施予定日は重要な期限である。
開示後に苦情を申し出ても,既に開示された情報を未開示の状態へ戻すことはできないためである。

3 審査委員会の答申と最高裁判所の判断

第三者からの苦情申出を受けた最高裁判所は,原則として情報公開・個人情報保護審査委員会へ諮問する。
同委員会は,対象文書を見分し,当事者の主張及び不開示情報該当性を調査審議して答申する。

答申は裁判所の判決ではなく,最高裁判所が苦情申出に対する判断を行う際に尊重する専門的意見である。
司法行政文書開示手続における答申と,民事又は行政事件について裁判所が言い渡す判決を混同してはならない。

第5 情報公開法13条との関係

1 情報公開法13条は行政機関の第三者手続を定める

情報公開法13条1項は,開示請求に係る行政文書に第三者情報があるとき,行政機関の長が当該第三者へ意見書提出の機会を与えることができる旨を定める。
同条2項は,公益上の理由による裁量的開示を行おうとする場合等について,意見書提出の機会を与えなければならない旨を定める。
同条3項は,反対意見書が提出されたのに開示決定をするとき,開示決定日と開示実施日との間に少なくとも2週間を置き,反対意見書を提出した第三者へ直ちに通知する旨を定める。

この仕組みは裁判所の取扱要綱と共通点があるが,裁判所の制度は同法の直接適用によるものではない。
裁判所の手続を確認するときは,取扱要綱及び実施細目を直接参照する必要がある。

2 現行法13条も国等を第三者に含める

現行の情報公開法13条1項は,国,独立行政法人等,地方公共団体,地方独立行政法人及び開示請求者以外の者を,同条等における「第三者」としている。
国等を第三者から除外するとの説明は,現行条文に一致しない。

裁判所の取扱要綱も,裁判所及び開示申出人以外の者を第三者としている。
そのため,裁判所が他の国の機関等に関する情報を保有し,不開示情報該当性に疑義がある場合には,当該機関等への意見聴取が問題となり得る。

3 下級裁判所から国の中央機関等への連絡

下級裁判所事務処理規則27条及び同規則の運用通達によれば,下級裁判所が国の中央機関等へ文書を発送する場合は,最高裁判所を経由する取扱いがある。
運用通達上,衆議院,参議院及び日本弁護士連合会も中央官庁又はこれに準ずるものとして扱われる。

このため,下級裁判所がこれらの機関へ第三者として意見を求める場合,申出を受けた裁判所と意見照会の相手方だけで手続が完結しないことがある。
もっとも,経由手続は裁判所内部の事務処理であり,開示申出人が別に最高裁判所へ開示申出書を提出し直すことを意味しない。

第6 開示に関する三つの期間を混同しない

1 開示又は不開示の通知は原則30日以内である

裁判所は,開示申出があった日から原則として30日以内に,全部開示又は全部若しくは一部不開示の判断を通知する。
事務処理上の困難その他の正当な理由によって期間内に通知できないときは,その旨,理由及び通知予定時期が通知される。

この30日は,申出後に裁判所が判断通知を行うまでの標準期間である。
開示決定後に必ず30日以内に開示を実施するという意味ではない。

2 実施方法等申出書は開示通知後原則30日以内である

開示通知を受けた開示申出人は,原則として通知後30日以内に,閲覧又は写しの交付等の方法を記載した実施方法等申出書を提出する。
正当な理由なく30日経過後に提出した場合は,開示を実施しない取扱いとなる。

写しの交付には,現在の実施細目が定める手数料が必要であり,郵送を希望する場合は郵送料も必要である。
平成29年版手引に記載された15枚以下の文書を司法行政サービスとして送付する扱いを,現行の一般的取扱いとして引用すべきではない。

3 反対意見がある場合の2週間は別の期間である

第三者の反対意見があるのに開示するときの2週間は,開示申出人への通知から開示実施までの最低期間である。
これは,申出から判断通知までの30日及び開示申出人が実施方法等申出書を提出する30日とは別の期間である。

第三者が開示前に苦情を申し出た場合は,単に2週間経過すれば開示されるのではなく,最高裁判所が原判断の当否を判断するまで開示が停止される。

第7 答申例にみる第三者意見の扱い

1 令和2年度(最情)答申第31号の事案

情報公開・個人情報保護審査委員会の令和2年度(最情)答申第31号は,弁護士会から最高裁判所へ送付された懲戒処分に関する通知書の一部開示が問題となった事案である。
開示申出人1名と第三者21名から苦情が申し出られ,委員会は対象文書を見分した上で,不開示部分と開示部分をそれぞれ検討した。

委員会は,対象文書が日弁連等から取得された文書であっても,最高裁判所事務総局が所掌事務の一環として取得し,組織的に用いるものとして保有していたことから,司法行政文書に当たると判断した。
その上で,印影,個人識別情報,官報等で公表された情報及び公表されていない情報を分け,不開示情報該当性を判断した。

2 第三者の反対だけで結論は決まらない

同答申では,第三者から,プライバシー,名誉,情報提供時の前提,弁護士自治及び時の経過等に関する多様な主張が提出された。
しかし,委員会は反対の有無だけで結論を出さず,対象文書の性質,情報単位,公表状況及び情報公開法5条の各不開示情報に相当するかを個別に検討した。

この答申は,第三者意見が重要な判断資料である一方,開示の可否を決めるのは裁判所であることを示す実例である。
第三者側も開示申出人側も,抽象的な賛否ではなく,対象となる記載と不開示情報の要件を対応させて主張する必要がある。

第8 平成29年版手引を参照するときの注意

1 旧手引は当時の運用を知るための資料である

平成29年3月21日版の「司法行政文書開示手続の手引」は,当時の意見聴取,通知及び開示実施の実務を詳しく記載した有用な歴史資料である。
もっとも,司法行政文書開示手続は令和4年7月1日に改められており,現在の書式,開示方法及び手数料の取扱いとは一致しない箇所がある。

旧手引の様式番号を現行書式として案内したり,旧手引の司法行政サービスを現在も行われる無償取扱いとして説明したりすべきではない。
現行実務を確認する場合は,裁判所ウェブサイトに掲載された最新の取扱要綱,実施細目及び申出書式を基準とする必要がある。

2 旧資料を引用するときは基準時点を明示する

旧資料にしか記載がない具体的な運用を紹介する場合は,資料名と作成日を示し,現在も同じ取扱いであるかを別に確認すべきである。
特に,様式番号,連絡方法,費用,実施期限及び写しの交付方法は変更されやすい。

現行の一般案内は「司法行政文書開示手続」に集約されている。
申出又は苦情の提出前には,同ページから最新のPDF又は書式を取得するのが安全である。

第9 出典・参考資料

1 根拠規程・法令

①最高裁判所「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」第2,第8~第11(PDF1頁~5頁。令和4年7月1日改正適用後の本文を確認)。
②最高裁判所事務総長通達「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱の実施の細目について」第1の6~7及び別紙様式第2,第4,第5(PDF3頁~6頁,13頁~17頁。令和4年6月13日改正)。
③「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」5条,13条及び14条(e-Gov法令検索。令和8年9月9日現在施行中の条文を確認)。
④最高裁判所「下級裁判所事務処理規則」27条及び「下級裁判所事務処理規則の運用について」記第5(平成6年7月22日付け最高裁総一第182号)。

2 裁判所の案内及び答申

①裁判所「司法行政文書開示手続」(制度,提出先,通知期間,実施方法及び苦情申出の現行案内)。
②最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和2年度(最情)答申第31号」1頁~12頁。
③裁判所「情報公開ハンドブック」令和5年4月版。
④最高裁判所事務総局秘書課「司法行政文書開示手続の手引」平成29年3月21日版27頁~28頁(歴史資料として参照)。

3 文献

①宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説〔第8版〕』有斐閣,2018年,169頁~174頁。

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①「裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開(AIリライト)」
②「裁判所の文書管理に関する規程及び通達」
③「司法行政文書の開示申出に利用目的の制限はあるか」
④「裁判所の情報公開におけるプライバシー情報の取扱い」