○司法行政文書には,裁判事務に関する文書は含まれず,裁判事務に関する文書には,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載し,裁判所の裁判部において管理している文書が含まれます。
ただし,下級裁判所事務局が司法行政事務を処理する目的で取得した場合,司法行政文書開示請求の対象になるみたいです(平成28年度(情)答申第7号(平成28年9月1日答申),平成30年度(情)答申第24号(平成31年3月15日答申)等参照)。
○行政機関の場合,行政文書該当性については,対象となる文書に係る具体的・客観的状況に基づいて判断すべきものであり,行政機関内部における一般的な取扱いや,行政機関の職員の主観的な認識といった事情により,その判断が左右されるものではありません(内閣法制局長官の国会答弁資料に関する平成28年度(行情)答申第646号(平成29年1月17日答申)9頁)。
これに対して司法行政文書の場合,裁判所内部における一般的な取扱いや,裁判所職員の主観的な認識といった事情により,司法行政文書に該当するかどうかの判断が左右されている気がします。
〇刑事裁判における公判前整理手続の場合,警察官が私費で購入したノートに記載し,一時期自宅に持ち帰っていた取調べメモについても証拠開示を命じられることがあります(最高裁平成20年9月30日決定参照)。
○最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会によれば,下級裁判所の以下の文書は司法行政文書開示請求の対象とならないそうです。
1 弁護士が後見人として一定以上の財産を預かる場合,不正をチェックするために別の弁護士を「後見監督人」として付ける運用の基準を定めた文書(平成27年度(情)答申第3号(平成28年3月8日答申))
→ 「(1) 取扱要綱記第2本文は,「裁判所は,その保有する司法行政文書の開示の申出があった場合は,何人に対しても,当該司法行政文書を開示するものとする。」と定め,取扱要綱記第1は,「この取扱要綱において「司法行政文書」とは,裁判所の職員が職務上作成し,又は取得した司法行政事務に関する文書,図画及び電磁的記録(略)であって,裁判所の職員が組織的に用いるものとして,裁判所が保有しているものをいう。」と定めている。そして,司法行政文書には,裁判事務に関する文書は含まれず,裁判事務に関する文書には,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載し,裁判所の裁判部において管理している文書が含まれると解される。
(2) そこで,本件開示申出文書について検討すると,本件開示申出文書について,最高裁判所事務総長は,後見監督人の選任等に係る個々の事件処理の参
考とするために,当該裁判に密接に関連する事項について東京家庭裁判所の複数の裁判官等が申合せを行った結果を記載した文書であることから,司法行政文書には該当しないと説明する。後見監督人の選任は,家庭裁判所が行う審判事項であり,その法律上の要件は「必要があると認めるとき」とされているにすぎないから(民法849条,家事事件手続法39条参照),後見監督人の選任に係る運用の基準は,家庭裁判所が行う後見監督人選任の審判という裁判に密接に関連する事項に係るものといえ,この点に関する上記説明は合理的である。
また,最高裁判所事務総長は,本件開示申出文書は,東京家庭裁判所及び立川支部の裁判部である家事部で管理していると説明するところ,上記のような本件開示申出文書の性質に照らすと,この点に関する説明も合理的である。
そうすると,本件開示申出文書は,裁判所の職員が作成したものではあるが,裁判事務に関する文書であるということができるから,取扱要綱記第1にいう「司法行政事務に関する文書」には当たらないというべきであり,その結果,本件開示申出文書は,取扱要綱記第2本文に定める司法行政文書の開示の手続の対象となる司法行政文書には該当しないのであって,同手続の対象とはならない文書であると認められる。」そうです。
2 ①破産管財人の報酬を決定する基準が書いてある文書,及び②破産管財人の報酬の目安が分かる文書(平成27年度(情)答申第4号(平成28年3月8日答申))
→ 「最高裁判所事務総長は,本件各開示申出文書が存在するとすれば,それらは,破産事件における破産管財人の報酬決定を行う際の基準又は目安について記載された文書であるから,個々の破産事件の処理の参考とするために,裁判事項ないし裁判に密接に関連する事項について複数の裁判官等が申合せを行った結果などを記載したものであるから,専ら裁判事務に関して作成された文書であって,司法行政事務に関して作成された司法行政文書ではないと説明する。破産管財人の報酬の額は,個別の事件ごとに,当該事件の破産管財人につき,その都度裁判所が定めるものであるから(破産法87条1項参照),破産管財人の報酬決定の基準やその目安は,破産管財人の報酬決定という裁判に密接に関連する事項に係るものといえ,この点に関する上記説明は合理的である。
また,最高裁判所事務総長は,神戸地方裁判所において司法行政事務を所掌する事務局に所属する職員がこれらの文書を取得したこともないと説明するところ,上記のような本件各開示申出文書の性質に照らすと,この点に関する説明も合理的である。
そうすると,本件各開示申出文書は,裁判所の職員が作成したものではあるが,裁判事務に関する文書であるということができるから,取扱要綱記第1にいう「司法行政事務に関する文書」には当たらないというべきであり,その結果,本件各開示申出文書は,取扱要綱記第2本文に定める司法行政文書の開示の手続となる司法行政文書には該当しないのであって,同手続の対象とはならない文書であると認められる。」そうです。
3 成年後見人の選任に関して,東京家庭裁判所が特定の団体らとの間で取り交わしている文書(平成27年度(情)答申第5号(平成28年3月8日答申))
→ 「最高裁判所事務総長は,本件各文書は,後見人選任の審判の用に供するために,東京家庭裁判所の裁判部の一部門である家事第一部2係(後見センター)で取得し,保存していると説明する。本件開示申出の内容に照らすと,本件各文書がいずれも外部の団体から東京家庭裁判所の裁判部が取得した文書であると解されることや,成年後見人の選任が家庭裁判所によって行われる裁判事務であること(民法849条参照)を総合すると,上記の説明は合理的であり,本件各文書は,専ら後見人選任の審判という裁判事務のために用いるものとして東京家庭裁判所の裁判部で取得した文書で,裁判部で管理しているものであると認めることができる。
そうすると,本件各文書は,いずれも取扱要綱記第1にいう「司法行政事務に関する文書」には当たらないというべきであるから,これらは同記第2本文に定める司法行政文書の開示の手続の対象となる司法行政文書には該当しないのであって,同手続の対象とはならない文書である。」そうです。
4 東京地裁民事21部の事務処理要領(平成28年度(情)答申第7号(平成28年9月1日答申))
→ 「本件開示申出文書について検討すると,これは,東京地方裁判所の裁判部である民事第21部の事務処理要領であるから,個々の事件処理の参考とするために作成されたもので,裁判に密接に関連する事項について,裁判官等が申合せを行った結果を記載したものであると考えられる。
そして,最高裁判所事務総長は,東京地方裁判所の事務局が本件開示申出文書を司法行政事務を処理する目的で取得したことはないと説明するところ,この説明が不合理であるとうかがわせる事情はないから,本件開示申出文書は裁判部において管理されているものと認められる。この点について,苦情申出人は,不適切な郵便切手の管理に関する調査に関連して司法行政部門が本件開示申出文書を取得しているはずであると主張するが,そのような調査に際し,調査対象となる裁判部における事務処理要領を取得する必要があるとする具体的な事情はうかがわれないから,そのような事実を認めることはできない。」そうです。
5 東京家裁における,本人死亡後の後見等監督に関する運用が書いてある文書(平成30年度(情)答申第24号(平成31年3月15日答申))
→ 「苦情申出人が開示を求める文書は,本人死亡後の後見等監督という裁判事務に関する文書と解される。また,最高裁判所事務総長の上記説明によれば,東京家庭裁判所の事務局及び訟廷事務室において,本件開示申出文書を司法行政目的で取得したことはないとのことであり,このことは当委員会庶務において確認された。」そうです。
6 名古屋高等裁判所が特定の裁判官を懲戒処分とした際に作成し,又は取得した文書(平成31年度(情)答申第2号(平成31年4月19日答申))
→ 「憲法78条は「裁判官の懲戒処分は,行政機関がこれを行ふことはできない」と,裁判所法49条は「裁判官は,職務上の義務に違反し,若しくは職務を怠り,又は品位を辱める行状があつたときは,別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される」とそれぞれ定めており,裁判官分限法及びこれに基づく裁判官の分限事件手続規則において,裁判官の懲戒に関する事件の裁判管轄や手続について規定されていることからすれば,本件開示申出文書は裁判事務に関する文書と解される。」そうです。