メインコンテンツへスキップ
       

小規模宅地等の特例-貸付事業用宅地等の三年要件と例外(AI作成)

第1 三年要件は土地の所有期間を問うものではない

貸付事業用宅地等の三年要件は,土地を三年間所有していなければ適用できないという要件ではない。
原則として問題になるのは,その宅地等が相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供されたかであり,三年を超えて継続している特定貸付事業や,相続による承継には別の取扱いがある。
本記事は,令和8年9月4日を基準として,この原則と例外,空室・建替え・買換えがある場合の判定を説明する。

租税特別措置法69条の4第3項4号は,相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を,原則として貸付事業用宅地等から除外している。
長年所有していた土地でも,貸付けを始めたのが最近であれば,この制限が問題になる。
登記上の取得日だけでなく,誰が,いつから,その宅地等を貸付事業に使っていたかを確認することになる。

以下では,建物又は構築物の敷地であることなどの基本要件を満たす宅地等を前提に,三年要件と主な例外の関係を整理する。
以下は三年制限についての整理であり,相続後の事業継続・保有など,他の要件の充足を前提とする。

貸付けの状況三年制限との関係
三年を超えて引き続き貸付けに供している事業的規模に達しない貸付けでも対象となり得る
三年以内に新たに貸付けを始めた原則として対象外。ただし,特定貸付事業の例外や相続特則を確認する
三年を超えて特定貸付事業を継続し,その事業に新たな宅地等を追加した追加した宅地等の貸付期間が三年以内でも対象となり得る
最近の相続で取得し,貸付けを継続している相続取得した宅地等に関する特則を別途検討する

貸付事業用宅地等だけを選択する場合の限度面積は200㎡,減額割合は50%である。
減額するのは宅地等の課税価格への算入額であって,相続税額そのものが半分になるわけではなく,他の小規模宅地等と併用する場合には限度面積の調整がある(同条第1項・第2項)。

第2 特定貸付事業の例外と五棟十室基準

三年以内に新たに貸付けを始めた宅地等でも,相続開始の日まで三年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の,その特定貸付事業に供されたものであれば,三年制限による除外の対象にならない。
「被相続人等」には,被相続人と生計を一にしていた親族も含まれるが,例外の判定では,その宅地等に係る事業を誰が行っていたかが問題になる(措法69条の4第1項・第3項4号)。

租税特別措置法施行令40条の2第19項の特定貸付事業は,貸付事業のうち準事業以外のものである。
準事業とは,事業と称するに至らない不動産の貸付け等で,相当の対価を得て継続的に行うものをいう(同条第1項)。

これに対し,三年を超えて引き続き貸付けに供されていた宅地等については,国税庁通達69の4-24の7が,準事業に係るものでも他の要件を満たせば対象になるとしている。

国税庁の措法通達69の4-24の4は,特定貸付事業の判定について,所得税基本通達26-9等と同様の基準を用いるとしている。
建物の貸付けに関するいわゆる五棟十室基準は,次のいずれかを満たすときなどに,特に反証がない限り事業として扱うものである。
①貸間・アパート等では,貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
②独立家屋の貸付けでは,おおむね5棟以上であること。

両方を満たす必要はなく,賃貸料収入や貸付資産の管理状況等から同程度の事情がある場合も含まれる。
したがって,室数だけで事業性を機械的に決めたり,この建物貸付けの基準を駐車場へそのまま当てはめたりすることは適切ではない(所得税基本通達26-9)。

国税庁通達69の4-24の6は,別の生計一親族が行っていた特定貸付事業の期間を,被相続人自身の別の事業へ流用するような扱いを認めていない。
家族全体の事業歴ではなく,同じ主体の特定貸付事業が継続していたかを確認する必要がある。

同通達69の4-24の5は,新規供用後に特定貸付事業でなくなった場合の制限も定めており,相続開始時だけ事業的規模に達していればよいわけではない。
ただし,同通達の注が定める一時的な中断については,継続しているものとして扱われる。

第3 相続による承継と購入・贈与の違い

1 相続取得した宅地等を新規供用として扱わない特則

措令40条の2第20項は,同条第9項を貸付事業用宅地等に準用している。
被相続人が,自己の死亡前三年以内に開始した先行する相続又はその相続に係る遺贈によって,貸付事業に使われていた宅地等を取得し,取得後も引き続き貸付事業に供していた場合,その宅地等を新たに供用されたものに該当しないとしている。

この特則は,相続により引き継いだ宅地等そのものについての規定である。
「先代と後継者の貸付期間を合計して三年を超えること」という条件は定められておらず,後継者自身の貸付期間が短いことだけで不適用と判断することはできない。
先行する相続の日,取得原因及び取得後の継続供用を確認することになる。

2 先代の特定貸付事業の期間を後継者の期間とみなす特則

同条第21項は,特定貸付事業を行っていた被相続人が,自己の死亡前三年以内の相続又は遺贈により,先代の特定貸付事業に使われていた宅地等を取得していた場合を定めている。
この場合,先代がその相続の日まで引き続き特定貸付事業を行っていた期間を,後継者が特定貸付事業を行っていた期間とみなす。

第20項が相続取得した宅地等を新規供用として扱わない規定であるのに対し,第21項は事業者としての特定貸付事業の期間に関する規定である。
後継者が相続後に別の宅地等をその事業へ追加した場合にも,第21項による期間の判定が問題になる。
二つの規定は要件と役割が異なるため,「相続なら全ての貸付期間を通算できる」と一括して説明すべきではない。

3 売主の貸付歴と,贈与に関する留保

通常の第三者間売買で賃貸中の物件を購入した場合について,本記事では,売主が長年貸していたという理由だけで,その期間を買主へ当然に通算する整理は採らない。
措法69条の4第3項4号が被相続人等の貸付事業を対象としていることと,前記の承継特則が相続又は遺贈を対象としていることによる。
ただし,買主自身が以前から特定貸付事業を三年超継続していれば,その事業の例外を検討できる。

相続に関する前記第20項・第21項を,贈与へ一般的に準用する規定もない。
もっとも,土地だけ又は建物だけを贈与した場合や,生計一親族間で利用関係が変わる場合は,所有者と貸付事業者が一致するとは限らないため,一律に贈与日から三年と処理することはできない。
土地・建物の所有関係,賃貸借契約及び賃料の帰属を区別して検討することになる。

なお,国税庁の措法通達69の4-1は,贈与取得した宅地等が贈与者の死亡により相続税の課税価格へ加算される場合,その宅地等には小規模宅地等の特例を適用しないとしている。
これは,受贈者自身が後日死亡したときの相続における判定とは別の問題である。

第4 空室・建替え・再開発と貸付けの継続

1 空室期間の短さだけでは判断できない

国税庁の措法通達69の4-24の2は,相続開始時の現実の貸付状況を原則としつつ,一時的に賃貸されていなかった部分も対象に含めている。
同通達69の4-24の3は,従前の賃借人の退去後に速やかに募集して賃貸し,その間に他の用途に供していない場合などを継続した貸付けとして扱う。
賃貸借契約を更新したことだけで,新規供用になるわけでもない。

国税不服審判所令和5年4月12日裁決は,約2か月及び約5か月の空室についても,一時的な空室とは認めなかった。
広告が掲載されていても,被相続人が広告を放置していたにすぎず,業者に仲介実績がなく,被相続人と連絡が取れずに空室状況も把握していなかったことなどを理由とするものであり,審査請求は棄却された。
この裁決は三年制限そのものの判断ではないが,空室期間の短さや広告の存在だけでは,相続開始直前の貸付供用を認められない場合があることを示している。

新築建物について初めて入居者を募集しているだけの場合は,既存の貸付けの一時的な空室とは区別される。
措法通達69の4-24の2の注は,事業の準備行為だけでは原則として貸付事業用に含めないとしており,募集開始日を当然に貸付供用開始日とすることはできない。

2 建替え前後の継続と追加敷地

国税庁の措法通達69の4-24の3は,継続して貸していた建物を建て替え,建替え後に速やかに賃借人を募集して賃貸し,その間に他の用途に供していない場合などを,貸付けが継続しているものとして扱う。
ただし,死亡時に工事中である場合は,措法通達69の4-5の,事業再開に向けた準備状況や申告期限までの利用等に関する条件を別に確認する必要がある。

同通達69の4-24の3の注3によれば,建替え等の際に,従前の敷地以外から新たに敷地へ加えた部分は,新規供用として扱われる。
従前の敷地で貸付けが継続していることと,追加部分にも同じ期間を使えることは別であり,新旧の敷地の対応を確認することになる。

3 再開発による中断を扱った東京国税局の文書回答

東京国税局の令和3年11月26日付文書回答は,市街地再開発事業によって中断した貸付けを,相続開始前三年以内に再開した事例を扱っている。
同局は,照会者が示した事実関係と見解を前提に,従前の有償賃貸部分に対応する宅地等について,新規供用に当たらないとする見解を是認した。

従前に無償で使用させていた部分まで,同じ理由で適用を認めた回答ではない。
回答は,前提事実が異なれば結果が変わり得ること及び申告内容等を拘束しないことも明示しているため,再開発という名称だけで他の事案へ当てはめることはできない。

第5 買換えで特定貸付事業が途切れる場合

貸付物件の買換えでは,新しい物件の貸付期間に加え,従前からの特定貸付事業が継続していたかを確認する必要がある。
国税庁の措法通達69の4-24の5は,新規供用後に特定貸付事業でなくなった場合について,三年制限の例外から外れる取扱いを示している。

飯田隆一「相続相談Vol.54」『月刊不動産』2026年5月号10頁~11頁は,長年貸していた物件を全て売却し,別の賃貸物件へ買い換えた後,一~二年で死亡する設例について,適用を否定する回答を示している。
一方,11頁の理由部分では,譲渡によって貸付事業が特定貸付事業に該当しなくなる場合を問題としている。
これは個別執筆者による解説であり,買換えを一律に不適用とする法令又は国税庁の回答ではない。

本記事では,買換えという形式だけで結論を決めず,売却・購入・新たな貸付開始の順序,その間も保有していた他の貸付物件,事業的規模を失った期間の有無を確認することを基本とする。
同じ不動産賃貸業への買換えだから当然に継続すると考えることも,売却があれば必ず継続性が失われると考えることも避け,具体的な事業の実態に即して検討する必要がある。

第6 経過措置と相続後の要件

1 平成30年改正の経過措置は適用期間が限られる

三年制限は,平成30年4月1日以後の相続又は遺贈による取得について導入された。
平成30年法律第7号附則118条第4項は,同日から令和3年3月31日までの相続等について,「相続開始前三年以内」を「平成三十年四月一日以後」と読み替えている。

現在の相続については,この読替えの適用期間は終了している。
平成30年3月31日以前から貸していたという説明を,その後の中断・用途変更・再開を問わない永久的な免除として扱うことはできず,現在の供用状況と継続性を確認することになる。

2 事業の承継・保有と申告を別に確認する

被相続人の貸付事業に使われていた宅地等については,取得した親族が申告期限までにその事業を引き継ぎ,申告期限まで宅地等を保有し,貸付事業を行っていることが必要である(措法69条の4第3項4号イ)。
死亡前の三年要件を満たしていても,相続後の処分や事業終了によって,これらの要件を満たさなくなることがある。

被相続人と生計を一にしていた親族自身の貸付事業に使われていた場合には,その親族が宅地等を取得し,相続開始前から申告期限まで事業を継続し,申告期限まで保有していることを確認する(同号ロ)。
被相続人の事業を引き継ぐ場合とは,事業主体と継続期間が異なる。

特例の適用には,申告書への適用意思の記載と計算明細等の添付が必要である(同条第7項)。
三年以内に新たに供用した宅地等について特定貸付事業の例外を用いる場合は,三年を超えてその事業を継続していたことを明らかにする書類も必要になる(措規23条の2第8項5号ロ)。
なお,措法の申告規定は期限後申告・修正申告も含むが,それによって申告期限までの保有・事業継続要件が消えるわけではない。

未分割宅地については,申告期限後の分割に関する別の三年の規定と,更正の請求等の手続がある(措法69条の4第4項・第5項)。
相続開始前の貸付けに関する三年と混同せず,分割・申告の状況を確認する必要があり,具体的な手続と期限は未分割遺産の分割後にする相続税の更正の請求で説明している。

第7 適用判断のために整理する資料

実務上は,宅地ごとの貸付履歴と,事業者ごとの特定貸付事業の履歴を分けた年表を作ることが考えられる。
まず,相続人の手元にある契約書,申告書,賃料入金記録及び管理資料から,次の事項を整理する。
①取得原因,取得日,貸付開始日及び貸付事業の主体。
②各時点の物件数・室数,賃貸料収入及び管理状況。
③退去・募集・再賃貸,建替え・再開発,売却・購入の各日付。
④相続後の取得者,事業の承継,保有及び申告の状況。

空室の継続性が争点になる場合は,広告の写しに加え,募集条件の変更,業者との連絡,内見・申込みや修繕に関する記録が判断資料になり得る。
不足する資料は管理業者等に保管の有無を確認することが考えられるが,当然に作成・保存されているとは限らない。
これらは適用判断のための資料例であり,すべてが法定添付書類というわけではない。

配偶者が賃貸物件を取得する場合には,小規模宅地等の特例の適用と,配偶者に適用される税額軽減を分けて検討することになる。
後者の計算・申告及び第二次相続との関係については,相続税における配偶者の税額の軽減を参照されたい。

第8 出典・参考資料

1 法令

租税特別措置法(昭和32年法律第26号)69条の4第1項~第5項・第7項,掲載附則中の平成30年法律第7号附則118条第1項・第4項(e-Gov法令検索)。
租税特別措置法施行令(昭和32年政令第43号)40条の2第1項・第9項・第19項~第21項(e-Gov法令検索)。
租税特別措置法施行規則(昭和32年大蔵省令第15号)23条の2第8項5号ロ(e-Gov法令検索)。

2 国税庁の通達・解釈運用資料

①国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」69条の4関係,69の4-1,69の4-5,69の4-24の2~24の8(法令解釈通達)。
②国税庁所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)。
③東京国税局「市街地再開発事業により中断した貸付事業を相続開始前3年以内に再開した場合の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)の適用について」(令和3年11月26日付文書回答)及び照会内容

3 裁決

国税不服審判所令和5年4月12日裁決(公表裁決書抄,4(1)及び4(5)。公表本文では事件番号を確認できない)。

4 個別執筆者による解説

飯田隆一「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)-特定貸付事業が引き続き行われているか否かの判定-」『月刊不動産』2026年5月号10頁~11頁(全日本不動産協会,PDF上も10頁~11頁)。