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遺言と異なる遺産分割をしたい場合の調停手続-受遺者がいる場合の選び方(AI作成)

第1 結論及び本記事の対象

受遺者が遺言と異なる分け方を希望しているというだけで,遺産分割調停を利用できるわけではない。
最初に確認すべきことは,遺言によって対象財産の取得者が既に確定しているか,複数の共同相続人又は包括受遺者の間に分割すべき未分割遺産が残っているかである。

未分割遺産が残っている場合は遺産分割調停を利用する。
これに対し,遺言によって取得者が既に確定した財産を関係者全員の合意で組み替える場合は,遺産分割調停ではなく,一般調停である「遺産に関する紛争調整調停」を検討するのが基本となる。
親族間の感情的対立や関係修復が中心である場合には「親族関係調整調停」が候補になるが,遺産の帰属を組み替えること自体が目的であれば,「遺産に関する紛争調整調停」の方が事件の内容に即している。

本記事は,令和8年9月3日現在の民法,家事事件手続法,裁判所の手続案内,裁判例及び国税庁の質疑応答事例を基に,AIを用いて手続選択の分岐を整理したものである。
具体的な申立てでは,遺言の文言,受遺者の種類,遺贈の承認又は放棄,遺言執行者及び登記の状況によって結論が変わる。

第2 遺産分割調停を利用できる場合

1 分割すべき遺産が存在すること

民法907条は,共同相続人が,被相続人による遺産分割の禁止がない限り,協議によって遺産の全部又は一部を分割できることを定めている。
協議が調わない場合又は協議をすることができない場合には,各共同相続人は家庭裁判所に遺産分割を請求できる。

遺産分割の対象になるのは,取得者がまだ確定していない遺産である。
名古屋家庭裁判所の遺産分割調停の案内も,有効な遺言書がある場合は原則として遺言書の内容が優先され,遺言で遺産全部の取得者が指定されている場合には,一般に遺産分割の余地がないと説明している。
ただし,遺言の対象となっていない残余財産があれば,その部分は遺産分割の対象になり得る。

2 包括受遺者がいる場合

民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有することを定めている。
複数の共同相続人又は包括受遺者の間に未分割遺産が存在する場合,包括受遺者も遺産分割手続の当事者となる。

裁判所の手続案内は,遺産分割調停の申立人として共同相続人及び包括受遺者を挙げ,すべての共同相続人及び包括受遺者を相手方又は申立人として手続に参加させる必要があるとしている。
一部の共同相続人又は包括受遺者を除外した合意では,遺産全体の分割を確定できない。

包括受遺者がいることだけで,当然に遺産分割調停を選択できるわけではない。
例えば,遺産全部が1人の包括受遺者に帰属し,包括遺贈が有効なままである場合には,複数人の間で分割すべき遺産が存在しない可能性がある。

第3 遺言によって取得者が確定している場合

1 特定遺贈及び特定財産承継遺言

民法964条及び985条によれば,遺言者は遺言によって財産の全部又は一部を遺贈でき,遺言は原則として遺言者の死亡時に効力を生じる。
特定の不動産を特定の受遺者へ遺贈する有効な遺言があれば,その不動産は,通常の遺産分割によって取得者を決める未分割遺産とは異なる。

「相続させる」旨の遺言についても,最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特段の事情がない限り,対象財産が被相続人の死亡時に直ちに指定された相続人へ承継されると判断した。
したがって,このような財産を別の者へ帰属させたい場合の中心的な問題は,未分割遺産の分割ではなく,遺贈の放棄又は取得後の財産処分をどのように構成するかである。

2 特定遺贈を放棄した場合

民法986条によれば,特定受遺者は遺言者の死亡後に遺贈を放棄でき,その効果は遺言者の死亡時に遡る。
遺贈が放棄された財産は,遺言に別段の意思が示されていない限り,相続人に帰属することになる(民法995条)。
この結果として複数の共同相続人の間に未分割遺産が生じれば,その後は遺産分割調停を利用できる。

もっとも,一度行った遺贈の承認又は放棄は原則として撤回できない(民法989条)。
利害関係人は受遺者に対して相当の期間を定めて承認又は放棄の確答を求めることもできるため(民法987条),期間を指定した催告の有無も確認対象となる。

包括受遺者については,民法990条と相続の承認及び放棄に関する規定との関係が問題となる。
特定遺贈と同じ方法で処理できるとは限らず,相続開始を知った時期及び家庭裁判所に対する手続の要否を早期に確認する必要がある。

第4 一般調停を利用する場合

1 遺産に関する紛争調整調停

裁判所は,遺産の存在,範囲又は権利関係をめぐる紛争について,遺産に関する紛争調整調停を案内している。
この手続の申立人には,相続人だけでなく,受遺者及び相続分譲受人等も含まれている。

特定遺贈等によって取得者が決まった財産について,受遺者,相続人及び遺言執行者等が遺言と異なる最終的な帰属を合意しようとする場合には,本記事ではこの調停を一般調停の基本形とする。
もっとも,裁判所の案内は個々の事案における受付上の事件名まで一律に決めるものではないため,申立先の家庭裁判所へ事前に確認することが考えられる。

2 親族関係調整調停

親族関係調整調停は,親族間の感情的対立,財産管理その他の問題について,円満な親族関係を回復するための話合いを行う手続である。
申立人及び相手方は,原則として親族関係にある者である。

受遺者が相続人の親族ではない場合には,親族関係調整調停は手続の対象と合わない。
受遺者と相続人が親族であっても,争点の中心が遺言による財産帰属の組替えであるならば,遺産に関する紛争調整調停の方が申立ての目的を説明しやすい。

3 調停不成立後の違い

遺産分割調停は,調停が成立しなかった場合,遺産分割審判へ移行する。
家事事件手続法272条4項及び別表第二の12は,遺産分割調停が不成立で終了した場合に審判申立てがあったものとみなす仕組みを設けている。

一般調停は,当事者の合意形成を目的とするため,遺産分割調停と同じ内容の審判へ当然に移行するものではない。
一般調停で合意できない場合,遺言の有効性,対象財産の所有権又は取得後の処分をめぐる争いについて,民事訴訟等による解決が必要になることがある。

第5 遺言執行者及び関係者全員の同意

1 遺言執行者がいる場合

民法1012条によれば,遺言執行者は,遺言の内容を実現するために必要な行為をする権利義務を有する。
また,民法1013条は,遺言執行者がいる場合に,相続人が相続財産を処分し,又は遺言の執行を妨げる行為をすることを制限している。

『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』は,遺言執行者が定められている場合,調停手続に参加を求め,その同意の下に遺言と異なる遺産分割の成立を図ることが相当であると説明している。
遺言執行者の同意があれば常に有効になるとまで一般化せず,遺言の目的,合意内容及び登記手続との整合を個別に確認する必要がある。

2 関係者全員が同意する場合

前記条項例集及び『Q&A処分の難しい不動産を整理するための法律実務』は,遺言執行者がいない場合,相続人及び受遺者の全員が同意すれば,遺言と異なる合意を成立させることができると説明している。
ただし,その合意が法律上の遺産分割となるとは限らず,遺贈の放棄,受遺者から他の当事者への贈与又は交換等と評価される可能性がある。

国税庁の「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」は,全遺産を三男に包括遺贈する遺言があったものの,相続人全員が妻と三男に各2分の1を取得させる協議をした事例について,三男が包括遺贈を事実上放棄し,共同相続人間で遺産分割をしたものとして,原則として贈与税を生じないと回答している。
この回答は令和7年8月1日現在の法令等に基づく質疑応答事例であり,包括受遺者自身が相続人で,相続人全員が協議したという事実を前提としている。

国税庁の回答を,相続人ではない特定受遺者,既に遺贈登記が完了した場合又は受遺者が遺贈財産を処分した場合へそのまま広げることはできない。
遺言と異なる合意を作成するときは,民事上の効力だけでなく,相続税,贈与税,譲渡所得税,不動産取得税,登録免許税及び登記原因を別々に確認することになる。

第6 申立て前の手続選択

1 状況ごとの手続

遺言及び遺産の状況基本となる手続主な確認事項
個々の財産の取得者が決まっておらず,複数の共同相続人又は包括受遺者の間に未分割遺産がある遺産分割調停全共同相続人及び包括受遺者の参加
遺言の対象外となる残余財産がある残余財産について遺産分割調停遺言の対象範囲及び遺産目録
特定遺贈等によって取得者が確定している遺産に関する紛争調整調停等受遺者,相続人及び遺言執行者の同意,合意の法的構成
遺産全部が1人の包括受遺者に帰属し,遺贈が有効なままである原則として一般調停包括遺贈の放棄の可否及び方式
特定遺贈が有効に放棄され,対象財産が相続人へ帰属した遺産分割調停遺贈の承認又は放棄の経過
親族間の感情的対立又は関係修復が中心である親族関係調整調停受遺者と相続人との親族関係
遺言の有効性又は対象財産の所有権が争われている一般調停又は民事訴訟等遺言原本,方式,遺言能力及び登記関係資料

2 最初に集める資料及び停止基準

申立てを検討する側は,まず,①遺言書及び検認済証明書又は遺言書情報証明書,②戸籍関係資料,③遺産目録,④不動産登記事項証明書及び預貯金資料,⑤遺贈を承認又は放棄したことを示す書面,⑥遺言執行者の選任及び就職に関する資料を確認する。
これらは,遺産分割の対象が存在するか,必要な当事者は誰か,既に第三者との権利関係が生じていないかを低い負担で判定するための資料である。

相手方又は遺言執行者が保有する資料は,任意の開示が得られない場合もある。
手元の遺言書,戸籍及び登記資料だけで手続の分岐を判断できないときは,まず相手方へ対象を限定した照会を行い,それでも遺言の有効性又は所有権の争いが残る場合に,一般調停又は民事訴訟の必要性を検討する。

関係者全員に合意の意思がなく,しかも遺言によって対象財産の取得者が確定している場合,遺産分割調停を申し立てても,審判によって遺言と異なる配分を強制できるとは限らない。
この場合は,申立ての前に,求める結果を実現する法的構成が存在するかを再検討することが停止基準となる。

第7 遺言の存在を知らずに協議した場合

最高裁平成5年12月16日第一小法廷判決(平成2年(オ)第1828号,集民170号757頁)は,相続人全員が遺言の存在を知らず,遺言と抵触する遺産分割協議をした事案について,相続人の意思表示に要素の錯誤がないとはいえないと判断した。
この判決は旧民法95条の下における事案であり,遺言と異なる遺産分割協議が常に無効になると判断したものではない。

遺言の存在及び内容を認識した上で関係者全員が意図的に異なる合意をした場合と,遺言を知らないまま協議した場合とは区別する必要がある。
後者では,協議の錯誤取消しだけでなく,発見された遺言の効力及び対象財産の現在の帰属を確認してから,その後の調停又は訴訟を選択することになる。

第8 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。907条,964条,985条~990条,995条,1012条及び1013条)
e-Gov法令検索「家事事件手続法」(平成23年法律第52号。272条及び別表第二の12)

2 裁判例

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,土地所有権移転登記手続,民集45巻4号477頁)
最高裁平成5年12月16日第一小法廷判決(平成2年(オ)第1828号,土地所有権移転登記抹消登記手続等及び共同訴訟参加,集民170号757頁)

3 裁判所及び所管行政機関の解説・質疑応答

名古屋家庭裁判所「遺産分割調停」
裁判所「遺産に関する紛争調整調停」
裁判所「親族関係調整調停」
国税庁「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」(令和7年8月1日現在)

4 その他の文献

①『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』司法協会,87頁~88頁及び97頁~99頁(PDF100頁~101頁及び110頁~112頁)
②『Q&A処分の難しい不動産を整理するための法律実務―負動産にしないための法的アプローチ―』日本加除出版,100頁~104頁(PDF119頁~123頁)