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相続放棄をしても受け取れる権利―保険金・年金・退職金の区別(AI作成)

第1 受け取れる権利と判断の基準

相続放棄をしても,本人が受取人となっている死亡保険金や,受給要件を満たす遺族年金などを受け取れる場合がある。
相続放棄は,その相続について初めから相続人でなかったものとする制度であり,遺族本人に帰属する権利を一括して失わせる制度ではないからである(民法896条・939条)。

判断の分かれ目は,故人の財産を相続によって引き継ぐのか,契約や法律等に基づいて遺族本人が取得するのかという点にある。
代表的な権利・給付について,受領を判断する基準を示すと,次のとおりである。

権利・給付相続放棄後の受領を判断する基準
死亡保険金受取人本人の固有財産となるものは受領できる
死亡退職金支給規程等から遺族固有の権利かを判断する
未支給の国民年金・厚生年金生計同一・親族関係・法定順位等を満たす遺族が請求できる。ただし,旧共済には例外がある
遺族年金・寡婦年金・死亡一時金各制度の受給要件と,他の給付との調整による
労災保険の遺族給付労災保険法上の受給資格・順位等による
埋葬料・埋葬費・葬祭費加入制度と,生計維持関係・葬祭を行った者等の要件による
遺族固有の慰謝料故人本人の損害賠償請求権と区別する
祭祀財産通常の遺産とは別に,民法897条の承継ルールによる

この表は無条件の受領を保証するものではなく,各項目の根拠と例外は以下のとおりである。

第2 生命保険金

1 受取人固有の死亡保険金

死亡保険金を受取人本人の固有の権利として取得する場合,その受取人は,被保険者の相続を放棄しても保険金を受け取ることができる。
故人の遺産を取得するのではなく,保険契約に基づく自分の権利を行使するためである(保険法42条)。

最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号,民集19巻1号1頁)は,受取人を「相続人」と指定した養老保険について,特段の事情がなければ,死亡時に相続人となるべき者を個々に受取人として指定したものと解し,保険金請求権をその者の固有財産とした(判決本文2頁)。
同判決自体は相続放棄の効果を直接判断した事件ではないが,この固有財産性と民法939条を併せれば,相続放棄によって当然に受給権を失うものではないと整理できる。
生命保険文化センターも,相続放棄をした場合に死亡保険金を受け取れることを解説している

2 入院給付金・返戻金等との違い

故人自身に帰属していた入院給付金請求権などは,原則として相続財産となる。
故人に帰属する保険契約を解約して返戻金を受け取る行為も,本人固有の死亡保険金の請求とは区別されるため,一括して支払われる場合は給付の内訳を確かめることになる(民法896条・921条)。

受取人の記載がない場合も,直ちに相続財産と決めることはできず,約款等による受取人の定めを確認する。
指定された受取人も死亡している場合には,保険事故発生前に死亡したのか,保険金請求権が発生した後に死亡したのかによって,受取人の変更・補充の問題か,発生済みの請求権の相続の問題かが異なる(保険法46条,民法896条)。

第3 死亡退職金

死亡退職金が相続財産となるか,遺族固有の権利となるかは,支給根拠となる法令や退職金規程等の内容によって判断する。
最高裁昭和55年11月27日第一小法廷判決(昭和54年(オ)第1298号,民集34巻6号815頁)は,民法の相続順位とは異なる受給者の範囲・順位を定めた職員の退職手当規程について,遺族の生活保障を目的とするものと解し,死亡退職金を遺族固有の権利とした(判決本文1頁)。
このような規程に基づいて受給権を取得する遺族は,相続放棄だけを理由として受給権を失うものではないと整理できる。

もっとも,名称が「死亡退職金」であれば常に固有財産になるわけではない。
生前の退職等によって故人に既に発生していた未払退職金や給与は,死亡後に支払われるというだけで遺族固有の権利となるものではない(民法896条)。
勤務先に規程と支給明細を示してもらうと,支給事由,受給者,受給順位及び権利の発生時点を確認しやすい。

第4 未支給年金

1 国民年金・厚生年金

年金受給者が死亡した時点でまだ受け取っていない年金について,国民年金法19条及び厚生年金保険法37条は,一定の遺族が自己の名で支給を請求する制度を設けている。
対象者は,死亡時に生計を同じくしていた配偶者,子,父母,孫,祖父母,兄弟姉妹又はその他の3親等内の親族であり,この順位に従う。
相続人であるというだけでは足りず,先順位の適格者がいる場合に後順位者が請求できるものでもない(日本年金機構の案内)。

最高裁平成7年11月7日第三小法廷判決(平成3年(行ツ)第212号,民集49巻9号1829頁)は,旧国民年金法の未支給年金について,相続とは別の立場から受給遺族を定めた制度であり,通常の相続の対象とならない旨を示している(判決本文1頁~2頁)。
現行法に基づく未支給年金についても,相続放棄をしたかどうかではなく,前記の受給要件を満たす遺族であるかが問題となる。

2 旧三共済・農林共済

日本年金機構の未支給年金の請求案内は,旧三共済(JR・JT・NTT)及び農林共済年金の未支給年金について,相続放棄をした者を受給対象から除くと明記している(PDF4頁)。
「未支給年金であれば種類を問わず受け取れる」とはいえないため,これらの制度に関係する場合は,年金証書等で給付の種類を特定し,年金事務所等に照会することになる。

3 故人口座への入金

生前に支払われて故人の預金となっていた年金は,未支給年金とは別であり,原則として相続財産となる(民法896条)。
他方,日本年金機構は,死亡後に振り込まれた年金であっても,死亡月分までの年金を未支給年金の対象に含めている(日本年金機構の案内)。

したがって,故人名義の口座に入っているという外形だけでは,遺産か未支給年金かを判断できない。
引き出して使用する前に,支給対象月,入金日及び精算手続を確認すると,未支給分と返還を要する過払分の混同を避けられる。

第5 遺族年金・死亡一時金・労災給付

1 給付ごとの受給要件

遺族基礎年金や遺族厚生年金は,故人の財産を相続することによって取得するものではなく,年金法上の受給要件に従う給付である。
相続放棄だけで当然に受給資格を失うものではないが,生計維持関係,年齢,子の有無,保険料納付要件等によって受給の可否が決まる(国民年金法37条・37条の2厚生年金保険法58条・59条)。
未支給年金の「生計を同じくしていた」という要件と,遺族年金の「生計を維持されていた」という要件も同じではない(日本年金機構・遺族厚生年金)。

国民年金の死亡一時金は,第1号被保険者として保険料を納めた月数が所定の計算で36月以上ある者が,老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま死亡した場合に,一定の遺族を対象とする制度である。
相続放棄とは別に生計同一関係や受給順位等を確認することになり,寡婦年金も受けられる場合には,両者の選択関係がある(国民年金法49条・52条の2・52条の3・52条の6日本年金機構・死亡一時金)。

業務災害・通勤災害による死亡についても,労災保険の遺族給付は,法律が定める遺族の範囲・順位等に従い,受給資格のある遺族が取得する給付である。
相続放棄だけで失われるものではなく,故人が使用者等に対して有していた損害賠償請求権の相続とは区別される(労働者災害補償保険法16条の2・16条の7・22条の4,民法896条・939条)。

2 死亡一時金と子の年金

日本年金機構は,子が遺族基礎年金の受給資格を持たない父又は母と生計を同じくするため支給停止となっている場合について,令和10年4月以降の見直しと,死亡一時金の受領に伴う注意を案内している。
具体的には,令和8年4月1日から令和10年3月31日までに権利が発生した死亡一時金を父又は母が受け取った場合,生計を同じくする子の遺族基礎年金は引き続き支給停止になるとの説明である(死亡一時金の案内遺族年金ガイド冊子11頁・PDF13頁)。

該当する家庭では,相続放棄後も死亡一時金を受け取れるかという点だけで決めると,将来の子の年金への影響を見落とすおそれがある。
受領を決める前に,子の支給停止の理由と死亡一時金の権利発生日を年金事務所等に伝えて確認するのがよい。

第6 埋葬料・葬祭費・香典等

健康保険の被保険者本人が業務外の事由により死亡した場合,埋葬料は,故人により生計を維持していた者であって埋葬を行うものを対象とする給付である。
そのような者がいない場合には,実際に埋葬を行った者に対する埋葬費の制度があり,協会けんぽは,埋葬料を5万円,埋葬費をその範囲内の実際の費用として案内している(健康保険法100条協会けんぽ・埋葬料(費))。

国民健康保険の葬祭費は,自治体等の制度によって具体化されており,大阪市は,葬祭を行った者に5万円を支給すると説明している(国民健康保険法58条大阪市「葬祭費の支給について」の「市の考え方」)。
これらは遺産を相続人に分配する制度ではないため,相続放棄の有無だけでなく,加入していた保険と受給要件を確認することになる。

遺族個人に対する贈与として交付された香典等は,故人の遺産とは区別される(民法549条・896条)。
ただし,香典を集めた者がすべてを自由に取得できるという意味ではなく,誰に対するどのような趣旨の金銭かを確認することになる。
勤務先の弔慰金も,名称だけでなく,支給規程,受給者及び実質的な性質によって判断する。

葬祭に関する給付の受給者と,葬儀費用を最終的に負担する者は,別の問題である。
費用負担や祭祀承継を含む関連論点は,葬儀・火葬の実施で扱っている。

第7 慰謝料・祭祀財産・特定遺贈

1 遺族固有の慰謝料

他人の不法行為によって人が死亡した場合,その父母,配偶者及び子には,民法711条に基づく固有の慰謝料請求権が認められる。
この権利は故人の財産の相続とは別であるため,相続放棄をしても,そのことだけで失われるものではない。

故人本人の損害賠償請求権と遺族固有の請求権が一括して示談の対象とされる場合には,両者を分けて検討することになる。
示談書や支払明細で,誰のどの損害について支払われるのかが明らかであれば,受領する権利の帰属を確認しやすい。

2 祭祀財産

系譜,祭具及び墳墓の所有権は,通常の遺産とは別に,被相続人の指定や慣習等に従って,祖先の祭祀を主宰する者が承継する(民法897条)。
そのため,相続放棄をした者が祭祀財産を承継することもあり得る。

もっとも,故人の所有物を単に「形見」「仏具」と呼べば,相続財産から外れるわけではない。
一般の家財と祭祀財産の取扱いを分け,売却や持帰りを伴う整理を検討する場合には,遺品整理業者の許可・選び方と相続放棄に関する記事も参照されたい。

3 特定遺贈

真に特定遺贈に当たる場合には,相続放棄をしたことだけで,受遺者として財産を取得することまで当然に否定されるわけではないと考えられる。
相続人としての地位と受遺者としての地位は区別されるためであり,これは遺族固有の給付とは別の取得原因の問題である(民法939条・964条・986条)。

ただし,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有し,特定の財産を「相続させる」趣旨の遺言が直ちに特定遺贈となるわけでもない(民法990条・1014条2項)。
遺言の解釈や債権者との関係を検討せずに,「相続放棄をして,遺言に書かれた財産だけを受け取ればよい」とはいえない。

第8 税金の取扱い

死亡保険金が民法上の固有財産であっても,故人が負担した保険料に対応する部分は,相続税法上,相続又は遺贈によって取得したものとみなされる場合がある。
受取人本人の権利であることと,相続税の対象外であることは同じではない(相続税法3条1項1号国税庁No.4114)。

死亡後3年以内に支給が確定した所定の退職手当金等も,相続税の課税対象となる。
この3年は実際の入金日ではなく,支給が確定した時点に関する基準である(相続税法3条1項2号国税庁No.4117)。

死亡保険金と死亡退職金等には,それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があるが,相続放棄をした者が取得する金額には,この非課税の適用がない。
一方,限度額を計算する際の法定相続人の数には,放棄がなかったものとして相続人を数えるため,「人数に含まれる」ことと「その者自身が非課税の適用を受ける」ことを分けて考えることになる(相続税法12条1項6号・7号及び15条2項)。

相続税の基礎控除である「3000万円+600万円×法定相続人の数」まで失われるわけではない。
したがって,相続放棄者が保険金を受け取れば必ず納税額が生じるという意味でもない(相続税法15条)。

公的な遺族年金は非課税であるが,未支給年金まで同じ扱いになるわけではない。
国税庁は,国民年金の未支給年金について,相続税の課税対象とはならず,受領した遺族の一時所得に該当すると説明している(国税庁No.4123未支給の国民年金に係る相続税の課税関係)。

第9 受領前の確認と期限

受領前の確認は,手元の支給通知等を次の項目に分けると進めやすい。
名称が同じ給付でも,制度,受給者又は権利の発生時点が異なれば結論が変わるためである。

①権利の根拠――保険証券・約款,退職金規程,年金証書,支給決定書等。
②権利の帰属――故人の権利を引き継ぐのか,遺族本人が取得するのか。
③受給要件――受給者の範囲・順位,生計関係,権利発生時点及び給付の内訳。
④受領に伴う問題――税金,他の給付との調整,請求期限及び将来の不利益。

相続財産の処分等は,民法921条の法定単純承認の問題となるため,根拠不明の金銭や故人の預金は,確認前に引き出して費消しないのが安全である。
ただし,保存行為等の例外もあり,「金銭を受領した」という外形だけで結論が決まるものではない。
各類型の要件は,相続の法定単純承認の実務で詳しく扱っている。

放棄時に相続財産を現に占有している場合には,相続人又は相続財産清算人に引き渡すまでの保存義務がある。
相続放棄をしたことだけで,手元にある相続財産を自由に処分できるようになるわけではない(民法940条)。

相続放棄は,原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,家庭裁判所へ申述して行う。
親族間で「遺産はいらない」と合意するだけではこの手続にならず,給付の調査に時間を要する場合には,熟慮期間内に期間伸長の申立てを検討することになる(民法915条・938条)。

給付の請求期限は,相続放棄の3か月とは別に進行する。
下表のとおり,請求する権利ごとに期間と起算点を分けて確認する。

請求する権利期限・起算点の確認
保険法の適用を受ける保険給付請求権原則として権利を行使できる時から3年。契約の締結時期や約款上の取扱いも確認する(保険法95条
国民年金の死亡一時金死亡日の翌日から2年(日本年金機構の案内

第10 出典

1 法令

e-Gov法令検索・民法
保険法
国民年金法厚生年金保険法
健康保険法国民健康保険法
労働者災害補償保険法
相続税法

2 裁判例

最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号,民集19巻1号1頁)。
最高裁昭和55年11月27日第一小法廷判決(昭和54年(オ)第1298号,民集34巻6号815頁)。
最高裁平成7年11月7日第三小法廷判決(平成3年(行ツ)第212号,民集49巻9号1829頁)。

3 行政・制度実施機関の解説・案内

①日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」,「年金受給権者死亡届兼未支給年金請求書」,「遺族厚生年金」,「死亡一時金」,「遺族年金ガイド・令和8年度版」。

②全国健康保険協会「埋葬料・埋葬費」,大阪市「葬祭費の支給について」。

③国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」,「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」,「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」,「No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権」。

4 民間団体の解説

①生命保険文化センター「相続放棄をした場合でも,死亡保険金を受け取れるの?」。