第1 どちらの証明書を請求するか
1 2種類の違いと郵送請求の基本
遺言書保管事実証明書と遺言書情報証明書は,いずれも遺言者の死亡後に郵送で請求できる。
郵送請求の事前予約は不要であり,原本を預かっている保管所に限らず,全国の遺言書保管所に請求できる(法務省「相続人等の手続」)。
本記事は,令和8年8月31日現在の法令・公的案内に基づき,国内での郵送取得を説明するものである。
生前の保管申請などの制度全般は,自筆証書遺言書保管制度―法務局の保管手続と検認不要のメリットで説明している。
| 比較する事項 | 遺言書保管事実証明書 | 遺言書情報証明書 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 自分に関係する遺言書の保管の有無を調べる | 保管された遺言書の内容を確認し,相続手続に用いる |
| 遺言書の画像 | 記載されない | 目録を含む画像情報が記載される |
| 手数料 | 1通800円 | 1通1,400円 |
| 添付資料の基本的な違い | 死亡と請求人の資格・氏名住所を確認する資料 | 原則として相続人全員とその住所を確認する資料も必要 |
手数料額の根拠は,遺言書保管法関係手数料令1条の表であり,郵送料は別にかかる。
保管されていることが分かっている場合は,先に事実証明書を取得せず,情報証明書を直接請求できる(遺言書保管法9条,遺言書保管省令33条・34条)。
2 請求できる人と代理請求
事実証明書について,遺言書保管法10条は「何人も」請求できると定めるが,証明の対象は請求人の関係遺言書に限られる。
相続人であればその遺言者の遺言書の保管の有無を確認できる一方,相続人でない人が調べられるのは,自分を受遺者等又は遺言執行者等とする遺言書の保管の有無であり,他人の遺言書を無制限に探せる制度ではない(法務省の説明)。
情報証明書を請求できるのは,相続人,遺言書に記載された受遺者等・遺言執行者等の関係相続人等である。
この制度における相続人には,相続放棄をした者や,相続欠格・廃除によって相続権を失った者も含まれる(遺言書保管法9条1項)。
両証明書とも,親権者や成年後見人などの法定代理人による請求はできるが,委任状による任意代理請求はできない。
弁護士等に書類の作成を依頼することと,委任状を付けて代理請求してもらうことは別である(札幌法務局の手続案内,法務省のよくあるご質問・問19)。
裁判所に選任された遺言執行者等には別の請求方法がある。
任意代理と同じ扱いにせず,法務省の遺言執行者向け案内により,選任・指定の根拠と請求する資格を確認する。
第2 遺言書保管事実証明書の必要書類
1 基本となる添付書類
相続人として初めて事実証明書を請求し,省略に使える通知書等がない場合は,死亡,自分の氏名・住所及び相続人資格を証明する資料をそろえる。
具体的には,次の組合せとなる(遺言書保管省令44条,法務省の添付書類案内)。
①遺言者が死亡したことを確認できる戸籍・除籍謄本等
②請求人の氏名・住所を確認できる住民票の写し等
③請求人が遺言者の相続人であることを確認できる戸籍謄本等
ここで確認するのは請求人自身の相続人資格であり,情報証明書の初回請求のように,相続人全員の住所資料を一律に提出するわけではない。
もっとも,兄弟姉妹が相続人として請求する場合は,先順位の相続人がいないことを確認できる戸籍も問題となるため,単に兄弟姉妹の関係が分かる戸籍だけで足りるとは限らない(東京法務局の添付書類案内)。
相続人以外の資格で請求するときは,上記③をそのまま当てはめるのではなく,自分を受遺者等・遺言執行者等とする遺言書の保管の有無を請求する。
法人又は法定代理人による請求には,後記第3の3の資格証明も添付する(遺言書保管省令44条)。
2 通知書などがある場合の省略
指定者通知又は関係遺言書保管通知等がある場合は,遺言者の死亡を証明する書類や,遺言者の最後の住所・本籍・死亡年月日の記載を省略できる場合がある。
ただし,事実証明書のこの取扱いは,指定者通知を受けた者又は相続人・受遺者等・遺言執行者等に該当する者についてのものであり,第三者に無条件で認められるものではない(法務省の省略一覧6頁)。
相続人資格の証明を省略できる範囲は,死亡証明の省略とは異なる。
関係遺言書保管通知がされている場合など,既に情報証明書の交付又は関係相続人等による遺言書の閲覧がされているときは,遺言者の一次相続人に当たることを証明する部分を省略できるが,数次相続等の承継関係は別途証明する(同一覧6頁の注3)。
請求人の氏名・住所を確認する資料は,通知書があっても省略できない。
通知書等を用いる場合も,請求人の資料まで不要になったものとして発送しないよう区別する(遺言書保管省令44条1項2号)。
第3 遺言書情報証明書の必要書類
1 初回の請求と法定相続情報一覧図
初回の情報証明書の請求では,原則として相続人全員を明らかにする資料と,その全員の住所を証明する資料が必要となる。
法定相続情報一覧図の写しに相続人全員の住所が記載されているかによって,追加する資料が変わる(遺言書保管省令34条,法務省の添付書類チャート)。
| 一覧図の利用 | 相続人を証明する資料 | 相続人全員の住所資料 |
|---|---|---|
| 全員の住所が記載された一覧図の写しを使う | その一覧図の写し | 一覧図の記載で確認できる |
| 住所の記載がない一覧図の写しを使う | その一覧図の写し | 相続人全員の住民票の写し等を追加する |
| 一覧図を使わない | 遺言者の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本等と,相続人全員の戸籍謄本等 | 相続人全員の住民票の写し等を添付する |
ここでいう一覧図の写しは,法務局から交付を受けたものであり,自分で作った相続関係図とは異なる。
請求人の氏名・住所を確認する資料も必要であるが,添付した住民票等でその確認ができる場合は,同じ内容の資料を重ねて用意する必要はない(遺言書保管省令34条1項)。
一覧図を使わない場合の相続人の戸籍は,遺言者の死亡後に発行されたものを用意する(大阪法務局の請求案内)。
また,兄弟姉妹が相続人となる場合は遺言者の父母の出生から死亡までの戸籍,代襲相続がある場合は被代襲者の出生から死亡までの戸籍も追加する(法務省のチャート注記)。
相続人に廃除された者がある場合は,一覧図の写しを使っても,その者の戸籍謄本等を追加する。
住所入りの一覧図があることだけで,全ての追加資料が不要になるわけではない(遺言書保管省令34条1項1号イ)。
2 関係遺言書保管通知と指定者通知の違い
関係遺言書保管通知を受けた場合は,相続人全員を証明する資料とその住所資料を省略できる。
これは,既に情報証明書の交付又は関係相続人等による遺言書の閲覧がされている場合の取扱いであり,請求人自身の氏名・住所の確認資料まで省略するものではない(遺言書保管省令34条2項)。
これに対し,指定者通知だけでは,相続人全員の戸籍・住所資料を省略することはできない。
通知に「遺言者が指定した方への通知」と記載されている場合は,関係遺言書保管通知と取り違えず,前記の一覧図又は戸籍・住所資料をそろえる(法務省「相続人等の手続」)。
指定者通知等がある場合には,遺言者の最後の住所・本籍・死亡年月日の記載を省略できる取扱いがある。
しかし,この記載省略と相続人全員の資料の省略は別であるため,通知書の種類と省略する項目を対応させる(法務省の省略一覧7頁)。
3 数次相続・法人・法定代理人の追加書類
数次相続人や受遺者等の相続人が請求する場合には,その承継関係を証明する戸籍等が別に必要となる。
先行する交付・閲覧があっても,省略できるのは遺言者の一次相続人に当たることを証明する部分であり,二次以降の相続人まで記録されているとは限らない(法務省の省略一覧6頁~7頁)。
法人が請求する場合は代表者の資格を証明する登記事項証明書等,法定代理人が請求する場合は親権者であることが分かる戸籍や成年後見の登記事項証明書等を添付する。
法人の代表者資格証明書と法定代理人の資格証明書には,作成後3か月以内という制限がある(遺言書保管省令34条1項6号・7号,44条1項5号・6号)。
この3か月の制限は,住民票や法定相続情報一覧図の写しまで,一律に作成後3か月以内でなければならないとする規定ではない。
もっとも,古い書類の住所等が請求時の情報と異なる場合は,氏名・住所や資格を確認できる資料を別に整える必要がある(同省令34条・44条)。
法人でない社団又は財団で,代表者又は管理人の定めがある場合には,定款又は寄附行為と,代表者又は管理人の資格を証明する書類を用いる。
法人の登記事項証明書を提出する場合とは区別される(同省令34条1項8号・44条1項7号)。
第4 請求書の作成から発送まで
1 公式様式と保管番号
事実証明書は別記第10号様式,情報証明書は別記第8号様式を用いる。
法務省の様式ページから該当する請求書を取得し,A4用紙に,拡大・縮小をせず片面印刷する。
①事実証明書:交付請求書・記載例
②情報証明書:交付請求書・記載例
請求人の資格・氏名・生年月日・住所・連絡先,遺言者の氏名・生年月日等,請求通数及び請求日を,該当欄に記入する。
現在の様式では独立した記名欄が削除されているが,請求人の氏名などの所定事項まで記入不要になったわけではない(遺言書保管省令33条・43条,法務省の様式説明8頁)。
保管番号は,保管証や通知書などで分かる範囲を確認する。
情報証明書の記載例は,保管番号が不明な場合には記載を要しないと案内しているため,番号が分からないことだけを理由に請求を断念する必要はない(情報証明書の記載例2頁)。
相続人全員の住所を記載した一覧図の写しを添付する場合は,廃除された者がいる場合を除き,情報証明書の請求書の相続人欄の記載を省略できる。
通知書による省略とは別の取扱いである(遺言書保管省令33条3項3号)。
2 手数料・返信先・送付先
手数料は収入印紙で納付し,請求書とともに印刷した手数料納付用紙に貼る。
貼った収入印紙に消印はしない(遺言書保管省令52条,事実証明書の記載例4頁,情報証明書の記載例5頁)。
返信用封筒と切手を同封する方法のほか,レターパックを用いる方法も認められている。
郵送料は交付通数や還付する原本の量等によって変わるため,返送物に合うものを用意する(法務省の郵送案内)。
返信先は請求人又は法定代理人の住所である。
単に書類作成を依頼した弁護士等の事務所を,自由な受取先として指定できるものではない(遺言書保管省令36条・46条,札幌法務局の案内)。
発送前には,①交付請求書,②必要な添付書類,③収入印紙を貼った手数料納付用紙,④返信用封筒・切手又はレターパックがそろっているかを確認する。
送付先は法務省の遺言書保管所一覧で選び,その保管所の所在地と遺言書保管の担当窓口を確かめる。
全ての法務局庁舎が遺言書保管所であるわけではないため,単に近くの登記窓口へ送ればよいとは限らない。
3 氏名・住所の確認資料と原本還付
郵送では,窓口で提示する顔写真付き身分証明書は不要である。
しかし,請求人の氏名・住所の確認資料は必要であり,住民票のコピーを使う場合は,請求人が原本と相違ない旨と氏名を記載する(法務省の添付書類・本人確認の説明)。
戸籍等の原本の返却を希望する場合は,原本と,その全部をコピーした書面を併せて提出する。
これは,氏名・住所の確認資料として原本証明付きの住民票のコピーを使うこととは別の,原本還付の手続である(遺言書保管省令8条)。
法務省の案内によれば,コピーが複数枚にわたる場合は,最初の1枚に原本と相違ない旨と氏名を記載すれば足り,押印や契印は不要とされている。
例えば,最初のページに「原本に相違ありません」と請求人の氏名を記載し,返却を希望する原本とともに同封する(法務省の原本還付案内)。
第5 受取後の確認と期間管理
1 他の相続人への通知と証明の限界
情報証明書の交付又は遺言書の閲覧が行われると,法務局から他の相続人等へ保管の通知がされる。
既に保管の事実を知っている者は例外とされ,事実証明書の交付だけではこの通知の対象にならない(遺言書保管法9条5項・10条2項)。
事実証明書の結果が保管なしでも,自宅保管の遺言書や公正証書遺言まで存在しないと証明されたことにはならない。
相続人以外の請求では,自分が関係する遺言書についての結果であることにも留意する(遺言書保管法10条)。
情報証明書は遺言書原本の代わりに相続手続で用いる書面である。
相続人が遺言書原本の返却を受ける制度ではない(法務省のよくあるご質問・問20・問23)。
保管された遺言書について家庭裁判所の検認は不要である。
ただし,保管されていること自体が遺言の有効性を保証するものではない(遺言書保管法11条,法務省の制度説明の注意事項)。
2 相続放棄の熟慮期間は別に管理する
いつまでに届くかについては,請求先に処理状況を確認する。
証明書を請求していることだけで,相続放棄の熟慮期間が自動的に停止・延長されるわけではないため,郵送待ちと期限管理を分ける。
民法915条1項の熟慮期間は,原則として,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月である。
期間内に調査を終えて判断できない場合には,満了前に家庭裁判所への期間伸長の申立てを検討する(民法915条,裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」)。
死亡日から一律に3か月と計算するのではなく,自分についての起算点を確認することが重要である。
詳しくは,相続放棄の3か月はいつからか――熟慮期間の起算点,伸長及び期限経過後の申述を参照されたい。
第6 出典
1 法令
①法務局における遺言書の保管等に関する法律9条~12条
②法務局における遺言書の保管等に関する省令8条,33条~36条,43条・44条・46条・52条
③法務局における遺言書の保管等に関する法律関係手数料令1条の表
④民法915条
2 行政機関等の手続案内・様式
①法務省「相続人等の手続」及び添付書類チャート,「遺言書保管制度とは?」
②法務省「申請書/届書/請求書等」掲載の各交付請求書・記載例
③法務省「管轄/遺言書保管所一覧」
④法務省「よくあるご質問」,「遺言執行者に関する案内」及び「原本還付に関する案内」
⑤法務省「遺言書保管制度の省令改正の概要」6頁~8頁
⑥東京法務局の証明書交付請求案内,札幌法務局の相続人等向け案内及び大阪法務局の遺言書情報証明書請求案内
⑦裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」