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能力不足・協調性不足による普通解雇―改善指導・配置転換・解雇回避措置と裁判例(AI作成)

第1 能力不足・協調性不足による普通解雇の判断枠組み

1 本記事の対象

本記事は,期間の定めのない労働契約について,能力不足又は協調性不足を理由に使用者が普通解雇を検討する場合を対象とする。
有期労働契約の期間途中の解雇,雇止め,試用期間中の解雇又は本採用拒否,懲戒解雇,整理解雇及び傷病休職期間満了による退職は,適用条文又は判断枠組みが異なるため,必要な境界だけを説明する。

問題行動全般について,事実確認から注意指導,改善機会,記録化及び処分選択までを確認する場合は,問題社員対応の基本手順―事実確認・注意指導・改善機会・記録化から処分まで(AI作成)を参照されたい。
本記事は,そのうち能力・協調性の評価基準,改善可能性,PIPの実質,配置転換等及び普通解雇の裁判例に対象を絞るものである。

2 労働契約法16条と就業規則

労働契約法16条は,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定める。
能力不足又は協調性不足という就業規則上の解雇事由に該当するように見えても,同条による客観的合理性と社会通念上の相当性の審査は別に行われる。
就業規則該当性は審査の出発点であって,解雇有効という結論ではない。

労働基準法89条は,常時10人以上の労働者を使用する使用者について,解雇の事由を含む退職に関する事項を就業規則へ記載することを求める。
解雇を検討する際は,適用される就業規則の解雇事由だけでなく,その就業規則が労働者へ周知されているかも確認する必要があり,就業規則の基本は,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本(AIリライト)で説明している。

3 回数・期間による安全基準はない

現行法には,「3回注意すれば解雇できる」,「3か月のPIPを実施すればよい」,又は「一度配置転換すれば足りる」という一律の基準はない。
能力不足解雇では,契約上期待された職務と能力,不足の重大性・反復性・業務影響,評価の客観性,改善可能性,指導・支援及び改善機会,現実に可能な配置転換等,雇用区分,地位,処遇,勤続期間並びに労働者の説明を,事案ごとに検討することになる。
同じ回数の注意をしていても,指摘の具体性,支援内容及びその後の変化が異なれば,法的評価も異なる。

したがって,手順の外形を整えること自体を目的にしてはならない。
判断の中心は,どの職務上の不足をいつ伝え,どのような支援と改善機会を与え,それでも現在の職務又は現実に検討可能な他の職務で就労を継続できないと判断したのかを,同時期の資料により説明できるかにある。

第2 雇用契約上の能力・職務・評価基準を確定する

1 一般職と職務限定・高度専門職

能力不足は,抽象的な平均人ではなく,労働契約上その労働者に期待できる職務と能力を基準に判断する。
雇用契約書,労働条件通知書,求人票,職務記述書,採用面接時の説明,職位,賃金,過去の担当業務及び就業規則・評価規程を突き合わせ,契約上の職務範囲を確定する必要がある。

職種を限定しない一般職では,長期的な育成及び他職務への配置可能性が判断上の意味を持ちやすい。
これに対し,特定の上級管理職又は高度専門職として,その職務で能力を直ちに発揮することが契約内容になっている場合は,当該職務に即した能力不足が重く評価されることがあるが,「中途採用」,「高年収」又は「即戦力」という表示だけで職務限定と完成された能力を認定することはできない。
採用時の表示と入社後の運用が食い違う場合は,双方の資料を検討して実際の契約内容を認定する。

2 採用時資料と変更範囲の明示

令和6年4月から,労働契約の締結時及び有期契約の更新時に明示すべき労働条件へ,就業場所と業務の「変更の範囲」が加わった。
この明示だけで職務限定合意の有無が常に決まるわけではないが,採用時に想定した職務範囲と配置可能性を後から確認する重要な資料になる。

中途採用では,求人票と雇用契約書の職務内容,選考で確認した経験・技能,入社後に実際に付与した権限・資源及び試用期間中の評価を一貫させる必要がある。
採用段階の確認事項は,中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務(AI作成)で説明している。

3 相対評価だけでは足りない

人事評価の下位者であることは,それだけで労働契約上必要な能力を欠くことを意味しない。
評価者,評価期間,指標,母集団,過去の評価との変化,目標の途中変更,類似する失敗をした他の労働者の取扱い及び評価者自身の指示の明確さを確認する必要がある。

評価制度が相対評価であれば,必ず一定数の下位者が生じる。
普通解雇を基礎付けるためには,下位に位置したという結果ではなく,契約上必要な水準をどの具体的な職務で満たさず,その状態がどの程度継続したのかを示さなければならない。

第3 能力不足を具体的な事実と業務影響で示す

1 評価語を事実へ置き換える

「能力が低い」,「仕事が遅い」,「主体性がない」という評価語のままでは,労働者が改善すべき対象も,裁判所が審査すべき事実も明確にならない。
担当業務,期限,事前の指示,期待された成果,実際の成果物又は行為,不足点,発生日及び発見経緯へ分解する必要がある。

例えば,期限徒過であれば,期限の根拠,遅延日数,事前に予測できた障害,報告の有無及びその後の回復措置を記録する。
誤処理であれば,誤りの内容,確認手順,修正の難易度,再発回数及び同種業務の通常の取扱いを記録し,単発の軽微な失敗と反復する重大な不足を区別する。

2 業務への影響を確認する

不足の事実があっても,普通解雇の判断では,業務へ生じた影響の程度が問題となる。
顧客又は取引先への影響,安全・法令順守上の危険,損失,修正費用,手戻り,他の従業員の代替作業,納期遅延及び組織運営への支障を,確認できる範囲で具体化する必要がある。
直ちに表面化しなかった危険を述べる場合は,発生可能性と影響の根拠を示す。

金額又は件数を後から大きく見せるために推計してはならない。
直接確認できる記録と,そこから推測した影響を分け,軽微な影響しか確認できない場合はその事実も評価資料へ残すべきである。

3 使用者側の原因を切り分ける

成果が上がらない原因が,労働者本人の能力だけにあるとは限らない。
指示の不明確さ,目標の途中変更,過大な業務量,人員不足,権限又は情報へのアクセス不足,システム障害,教育不足及び上司間の指示の不一致を先に点検する必要がある。
これらの事情が主因であれば,個人への注意を重ねても同じ問題が再発する。

本人には不足点と資料を示し,説明・反論の機会を与える。
説明から会社側の原因又は事実誤認が判明した場合に評価を修正できる手続でなければ,事実確認ではなく解雇結論を追認する作業になってしまう。

4 同時期の客観資料を優先する

使用者側が最初に確認すべき資料は,雇用契約書等の職務資料,成果物,作業記録,顧客又は関係部署の同時期の記録,具体的な指示を示すメール・チャット,面談記録,教育資料及び評価規程である。
解雇問題が生じた後に関係者の記憶だけで作成した一覧より,問題が発生した時点の通常業務資料の方が,事実と当時の重要性を検証しやすい。

労働者側では,過去の良好な評価・担当実績,改善を示す成果物,曖昧又は変更された指示,他の従業員にも共通する業務上の障害及び支援・配置転換の希望に対する回答が,会社の評価を検証する資料となる。
双方にとって不利な資料も含めて時系列に並べることが,後の評価の正確性を高める。

第4 協調性不足は性格ではなく職務上の行為として特定する

1 協調性不足として検討できる行為

協調性不足は,人柄,話し方の好み又は「チームに合わない」という印象ではなく,職務上必要な連携を妨げた具体的行為として検討する。
情報共有を反復して行わない,必要な会議又は引継ぎを正当な理由なく拒む,合理的な業務指示に従わない,他の従業員への攻撃的言動により共同作業を停止させる,又は権限外の作業を続けて具体的な危険を生じさせるといった行為が対象になり得る。

各行為について,日時,業務場面,相手方,必要だった連携,実際の言動,業務への影響,従前の指導及びその後の再発を確認する。
同僚の抽象的な不満を人数だけで集計せず,直接経験した事実と評価・伝聞を分ける必要がある。
評価者自身が対立当事者である場合は,利害関係のない資料及び関係者の説明も確認する。

2 反対意見・相談・通報を非協力と扱わない

上司への反対意見又は手続上の異議が,直ちに協調性不足になるわけではない。
発言の内容が,法令違反・安全上の問題に関する指摘,公益通報,労働組合活動,ハラスメント相談,妊娠・出産等に関する申出又は障害に関する配慮の要請である場合は,それぞれの保護法令を先に確認する必要がある。

能力不足又は協調性不足という表示と,解雇に至った実際の動機が異なれば,労働契約法16条だけでは分析できない。
公益通報をめぐる制度については,令和8年12月1日施行の改正公益通報者保護法に基づき,民間企業で対応が必要な事項(AI作成)も参照されたい。

3 服務規律違反と能力不足を混同しない

指示違反,暴言又はハラスメントがある場合,その事実は服務規律違反として懲戒処分の対象となることがある一方,職務適格性又は将来の改善可能性を理由とする普通解雇の検討材料にもなり得る。
しかし,懲戒処分と普通解雇では,就業規則上の根拠,手続及び相当性の分析が同じではない。

過去に処分済みの行為を,新しい非違行為であるかのように数え直すべきではない。
普通解雇の判断で用いる場合は,処分後の改善状況又は再発,現在の職務遂行への影響という別の事実を明確にする必要がある。

第5 注意指導と改善機会

1 PIPは法定手続ではない

PIP(業績改善計画)という名称の手続は法令上の要件ではなく,PIPを実施した事実だけで解雇の有効性が決まるものでもない。
通常の面談,文書による注意,教育計画又は業務上の目標設定であっても,問題と改善方法が具体的で,実行可能な支援と評価が伴えば,改善機会として意味を持ち得る。
計画の名称や社内様式より,実際に何を知らせ,何を援助し,何が変わったかを確認する。

反対に,達成できない目標を設定し,失敗だけを集め,改善を評価せず,解雇を既定路線として短期間で終了するPIPは,名称が整っていても合理的な改善機会とは評価されにくい。
形式ではなく,労働者が何を変えれば就労を継続できるかを理解し,実際に試すことができたかが問題となる。

2 改善指導に含める事項

改善指導では,①問題となる具体的事実,②契約上期待する行動又は成果,③評価方法,④確認時期,⑤会社が提供する教育・資料・面談・業務量調整,⑥労働者が説明又は支援を求める方法,⑦改善しない場合に普通解雇を含む雇用上の措置を検討し得ることを,理解可能な形で伝える。
受領署名が得られない場合も,交付日時,説明者,説明内容及び本人の応答を通常の方法で記録し,署名拒否を能力不足そのものと評価しない。

改善期間は,職務の性質,問題の重大性,評価できる業務周期,教育に必要な期間,これまでの指導及び緊急性に応じて定める。
法定の最短期間はないため,「同種他社が3か月としている」といった事情だけで期間の合理性を説明することはできない。

3 中間評価では改善も記録する

改善期間中は,定期的に事実を確認し,当初の目標に対する到達度を本人へ知らせる。
失敗だけでなく,改善した業務,支援が有効だった点,なお残る課題及び目標を修正する理由を記録する必要がある。

本人の説明から疾病,障害,指示の不一致又は業務量の問題が疑われた場合は,評価を一時停止して原因を確認する。
新しい評価項目を終了直前に追加したり,当初は問題にしなかった出来事を後から解雇理由へ組み込んだりすると,改善機会の実質と評価の公平性に疑問が生じる。

第6 配置転換等の解雇回避措置

1 配置転換は一律の法的義務ではない

労働契約法16条は,能力不足解雇の前に必ず配置転換を命ずべきであるとは定めていない。
もっとも,一般職で職務範囲が広く,企業内に現実の職務があり,その職務であれば能力を発揮できる可能性がある場合は,配置転換等を検討しなかったことが解雇の必要性・相当性を弱めることがある。
したがって,「配置転換を検討した」という結論ではなく,検討した職務と不適合の理由を残すことが重要である。

配置転換の検討は,存在しないポストを新設すること又は他の労働者を退職させて空席を作ることと同じではない。
検討時点における組織,募集職務,必要能力,勤務地,処遇及び本人の経験を照合し,候補がない場合は,どの範囲をどの理由で確認したのかを記録する。

2 一般職と職務限定者で重みが異なる

一般職又は長期雇用を予定した労働者については,教育,担当変更,役割の調整及び他部署への配置で不足を補えるかが問題になりやすい。
企業規模が大きく,多様な職務が存在し,過去にも配置転換を運用している場合は,抽象的に「適職なし」と結論付けるだけでは足りないことがある。

明確に限定された上級管理職又は高度専門職では,採用された特定職務で要求能力を欠き,他に現実的な職務がないことが立証されれば,配置転換を経ない解雇が有効とされる余地がある。
ただし,厚生労働省の平成26年7月30日付け通達も,職務限定があるだけで配置転換等の検討が常に不要になるとは整理しておらず,契約内容と個別事情の確認が必要である。

3 降格・減給・退職勧奨は自由に行えない

能力不足への対応として,降格,職責の縮小,賃金変更又は退職勧奨を検討する場合があるが,これらは使用者が自由に実施できる措置ではない。
労働条件の合意変更は労働契約法8条,就業規則による変更は同法9条・10条,配転・降格は労働契約,就業規則及び権利濫用法理等に照らし,それぞれ根拠と限界を検討する必要がある。

解雇回避という目的があっても,法的根拠のない減給,退職へ追い込むための名目的な仕事,隔離又は執拗な退職勧奨が正当化されるわけではない。
実施できない代替策を解雇回避措置として数えるのではなく,適法かつ現実に継続可能な選択肢だけを比較すべきである。

第7 解雇判断を止めて別の原因を確認すべき場合

1 疾病・障害の可能性

急な成績低下,欠勤,コミュニケーションの変化又は行動上の問題に疾病・障害が関係する可能性が示された場合は,能力不足の評価だけで進めてはならない。
就業規則上の休職制度,健康診断又は医師の意見を求める手続,安全配慮義務及び障害者雇用促進法上の合理的配慮を,取得できる情報と本人の意向を踏まえて検討する必要がある。
医療情報は必要な範囲に限定し,職務上の支障と利用可能な措置を確認するために扱う。

障害者雇用促進法36条の3・36条の4は,事業主に対し,雇用する障害者について,過重な負担となる場合を除き,職場での支障を改善するため必要な措置を講ずること及び本人の意向を十分に尊重することを定める。
能力基準をなくす制度ではないが,必要な配慮を検討しないまま,配慮があれば避けられた不足を解雇理由とすることには別の問題がある。

2 保護される活動との時間的関係

公益通報,労働組合への加入・活動,ハラスメント相談,妊娠・出産等に関する申出の後に,それまで問題にされなかった能力又は協調性が急に解雇理由として示された場合は,時系列と実際の動機を調査する必要がある。
これらの活動を理由とする解雇その他の不利益取扱いには,公益通報者保護法,労働組合法,労働施策総合推進法又は男女雇用機会均等法による禁止が別に作用し得る。

調査担当者は,通報又は相談内容の当否と,職務遂行上の評価を分け,評価者の利害関係,評価基準の変更時期及び比較対象者の取扱いを確認する。
保護活動をしたこと自体,又は調査へ協力したこと自体を「組織への忠誠心がない」「協調性がない」と評価してはならない。

3 証拠と手続が足りない場合

解雇判断は,主要な事実が確認できない,評価基準を事前に共有していない,本人へ不足を知らせていない,又は反論に対する確認が終わっていない段階で止めるべきである。
証拠の不足を,指導回数の追加又は多数者の抽象的な意見で埋めることはできない。

配置可能な職務の調査,疾病・障害への対応又は保護活動との関係について,何を確認すれば結論が変わるかを特定できない場合も,解雇を急ぐべきではない。
追加調査をしても結論へ影響しない枝葉の事実を収集し続けるのではなく,解雇理由の中核となる事実と反対方向の事実を優先する。

第8 裁判例にみる有効・無効の分岐

1 職務限定の上級管理職で有効とされたフォード自動車(日本)事件

東京地裁昭和57年2月25日判決(昭和54年(ワ)第2593号)は,人事本部長という特定の上級管理職として採用された労働者について,職責を果たせない状態が続き,指摘・指導及び職務調査を経ても改善しなかったとして,解雇を有効とした。
判決は,当該契約関係の下で,より低い職位又は他職務へ配置する義務を否定した。

この判決の射程は,採用された地位,職務内容,処遇及び要求能力が具体的に認定された事案にある。
一般職,職務範囲が広い労働者,又は採用時の職務限定が曖昧な事案について,配置転換の検討が一律に不要であることを示すものではない。

2 教育・配置検討の不足が問題となったセガ事件と在日米軍司令部事件

東京地裁平成11年10月15日決定(平成11年(ヨ)第21055号・セガ・エンタープライゼス事件)は,就業規則の解雇事由の解釈として,平均的な水準に達していないことだけでは足りず,労働能力が劣り,向上の見込みがない程度を要するとした。
その上で,評価の説明,教育・指導及び配置転換を十分に尽くしていないこと等を考慮し,解雇を無効とした。

東京高裁平成18年12月21日判決(平成18年(ネ)第3848号・国・在日米軍司令部事件)は,能力上の問題と能力向上計画後の不改善を認めながら,労務提供契約上求められた適職確認が尽くされていないとして解雇を無効とした。
抽象的な求人一覧を示すだけでは,労働者の経歴・能力と実在する職務を照合したことにならないという点で,配置転換検討の実質を示す事例である。

3 曖昧な基準と業務影響が問題となった二つの判決

東京地裁平成28年4月11日判決(平成25年(ワ)第23687号)は,長年秘書業務を担当してきた労働者について,使用者が後から求めた抽象的な「新たな付加価値」,曖昧な指示,低評価及び秘密録音等を検討し,解雇を無効とした。
契約上の職務と評価基準を後から広げ,その不達成を能力不足とすることの問題を示す事例である。

青森地裁弘前支部平成16年3月18日判決(平成14年(ワ)第9号・弘前学院大学事件)は,教員の不適切な対応を一部認めながら,大学運営への重大な影響,改善不能性及び十分な調査を認めず,解雇を無効とした。
不適切な言動が存在することと,雇用を終了させるほどの職務不適格性があることを区別し,指摘後の対応も評価した事例である。

4 PIPの形式だけで決まらない日本アイ・ビー・エム事件

東京地裁平成29年9月14日判決(平成27年(ワ)第15108号・日本アイ・ビー・エム事件)は,PIP及び面談が実施されていた事案で,解雇を無効とした。
判決は,PIPの存在だけでなく,評価と改善の推移,目標・期間,労働組合活動を含む前後の経過及び最終面談から解雇までの流れを具体的に検討した。
PIPという一つの制度だけを切り出さず,導入前から解雇までの全経過を読む必要がある。

この判決から,「PIPを実施すれば解雇できる」又は「PIP中に一項目でも未達があれば足りる」という結論は導けない。
改善計画は,当初の課題,支援,評価方法,実際の改善及び最終判断が一貫しているときに,初めて解雇理由を評価する資料となる。

5 健康問題との境界を示した日本ヒューレット・パッカード事件

最高裁第二小法廷平成24年4月27日判決(平成23年(受)第903号・日本ヒューレット・パッカード事件)は,精神的不調が疑われる欠勤について,直ちに責任ある無断欠勤として処分せず,精神科医による健康診断を実施し,必要なら休職等を検討する対応を採るべきであったとした。
この事件の直接の争点は懲戒処分であり,能力不足による普通解雇の事件ではない。

もっとも,能力又は協調性の低下として現れた事情に健康上の原因が具体的に疑われる場合に,その原因を確認せず本人の責任へ帰する危険を示している。
疾病又は障害が疑われる全ての事案で同じ措置が必要になるという一般論ではなく,確認できた事情と就業規則・法令に即して対応を選ぶ必要がある。

第9 解雇判断前の実務手順と証拠

1 初期確認

初期段階では,①労働契約と職務範囲,②適用される就業規則・評価規程,③具体的な不足と業務影響,④指示・教育・権限・業務量等の会社側要因,⑤本人の説明,⑥疾病・障害又は保護活動との関係を確認する。
この段階で,抽象的な評価しかなく,改善すべき行為を本人へ説明できない場合は,普通解雇の検討より先に事実確認と職務基準の明確化を行う。
職務基準を後から作成する場合は,過去の不足を当然にその新基準で評価しない。

事実の重大性又は就労継続の危険が高い場合も,自宅待機,業務制限又は配置変更を当然に行えるわけではない。
労働契約上の根拠,賃金の取扱い,業務上の必要性及びより制限の小さい手段を確認してから,暫定措置を選択する。

2 改善期間中

改善期間中は,具体的な目標と評価時期を示し,必要な教育・資料・面談を提供した上で,事実に基づく中間評価を行う。
面談記録には,会社の指摘だけでなく,本人の説明,支援要請,会社の回答,改善した点及び残った課題を記載する。

同時に,現在の職務を調整できるか,現実に検討可能な他職務があるか,必要な教育で不足を補えるかを確認する。
配置候補がある場合は必要能力と処遇を照合し,ない場合は調査した組織範囲と時点を記録する。

3 最終判断と解雇手続

最終判断では,当初示した解雇事由と証拠が対応しているか,反対方向の事実を評価したか,改善又は他職務での就労継続が現実に見込めないか,より軽い適法な措置で目的を達成できないかを,意思決定者が改めて確認する。
解雇通知書には,後から抽象的な理由を追加するのではなく,確認した具体的事実と就業規則上の根拠が対応するように記載する。

労働基準法19条・20条による解雇制限と解雇予告を確認し,同法20条により,原則として少なくとも30日前に予告するか,不足日数分の平均賃金を支払う。
解雇予告を履践しても,労働契約法16条に反する解雇が有効になるわけではなく,同法22条に基づき労働者が解雇理由等の証明書を請求した場合は,使用者は遅滞なく交付しなければならない。

第10 出典・参考資料

1 法令

労働契約法(平成19年法律第128号)8条~10条,16条及び17条
労働基準法(昭和22年法律第49号)19条,20条,22条及び89条
障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)36条の3及び36条の4
労働組合法(昭和24年法律第174号)7条
公益通報者保護法(平成16年法律第122号)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)

2 裁判例

東京地裁昭和57年2月25日判決,昭和54年(ワ)第2593号,労判382号25頁(フォード自動車(日本)事件)
東京地裁平成11年10月15日決定,平成11年(ヨ)第21055号,労判770号34頁(セガ・エンタープライゼス事件)
青森地裁弘前支部平成16年3月18日判決,平成14年(ワ)第9号(弘前学院大学事件)
東京高裁平成18年12月21日判決,平成18年(ネ)第3848号,判タ1242号201頁・労判936号39頁(国・在日米軍司令部事件)
最高裁第二小法廷平成24年4月27日判決,平成23年(受)第903号,集民240号237頁・労判1055号5頁(日本ヒューレット・パッカード事件)
東京地裁平成28年4月11日判決,平成25年(ワ)第23687号
東京地裁平成29年9月14日判決,平成27年(ワ)第15108号(日本アイ・ビー・エム事件)

3 行政資料

①厚生労働省,「モデル就業規則」令和7年12月版53条(資料上の71頁~74頁・PDF71頁~74頁)
②厚生労働省,「多様な正社員に係る『雇用管理上の留意事項』等について」平成26年7月30日基発0730第1号
③厚生労働省,「令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります」
④厚生労働省,「多様な正社員の雇用ルール等に関する主な裁判例」46頁~51頁

4 文献

①土田道夫『労働契約法〔第3版〕』有斐閣,2024年,863頁~872頁
②浅井隆編著・西頭英明ほか『解雇・退職勧奨・雇止めの法律相談Ⅰ』青林書院,2025年,195頁~200頁