第1 「家族滞在」の子が高等学校等卒業後に働くために必要な手続
在留資格「家族滞在」で日本に在留している外国人は,扶養者である親などが本邦に在留する間に限って在留が認められ,就労は資格外活動許可の範囲(週28時間以内)でしか認められない。
技術・人文知識・国際業務や経営・管理などの在留資格で日本に在留する親に同伴して来日した子が,日本の義務教育や高等学校を卒業し,正社員として就職しようとするときに,この就労制限が壁になる。
出入国在留管理庁は,一定の要件を満たす場合に,「家族滞在」から就労に制限のない「定住者」,又は内定先での就労が可能な「特定活動」への在留資格変更を認める運用を行っている。
この記事は,この在留資格変更の要件,必要書類及び審査の実務を,出入国在留管理庁が公表する資料と「入国・在留審査要領」の記載に基づいて整理し,あわせて令和8年の高等学校等就学支援金法改正がこの運用とどう関わるかを説明するものである。
対象は,親などの扶養を受けて「家族滞在」で在留し,日本国内で義務教育又は高等学校等の課程に在学し,又はこれを修了した外国人である。難民認定申請者やインドシナ難民等,別の枠組みで「定住者」への変更が検討される場合は対象としない。
第2 在留資格「家族滞在」の内容と就労制限
1 該当する活動の範囲
出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)別表第一の四の表は,「家族滞在」の在留資格について,「一の表,二の表又は三の表の上欄の在留資格(外交,公用,特定技能(二の表の特定技能の項の下欄第一号に係るものに限る。),技能実習及び短期滞在を除く。)をもつて在留する者又はこの表の留学の在留資格をもつて在留する者の扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動」と定めている。
ここでいう「扶養を受ける」とは,扶養者が扶養の意思を有し,かつ扶養することが可能な資金的裏付けを有すると認められることをいい,子については扶養者の監護養育を受けている状態を指す。
「子」には嫡出子のほか養子及び認知された非嫡出子が含まれ,成年に達した者も除外されない。
したがって,技術・人文知識・国際業務や経営・管理の在留資格で在留する親に同伴して未成年で来日した子は,通常「家族滞在」の在留資格該当性を有する(技術・人文知識・国際業務及び経営・管理の各在留資格の基本的な要件については,別記事「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格」及び「「経営・管理」の在留資格」で解説している)。
2 資格外活動許可による週28時間の制限
「家族滞在」の在留資格には,収入を伴う事業を運営する活動や報酬を受ける活動は含まれない。
教育機関で教育を受ける活動は「日常的な活動」に含まれるが,就労はできないのが原則である。
もっとも,資格外活動許可(包括許可)を受ければ,原則として1週につき28時間以内のアルバイト等は可能になる。
この範囲を超えて働くことは,たとえ高等学校等を卒業して正社員として内定を得た場合であっても,「家族滞在」のままでは認められない。
この制約を解消するために設けられているのが,後述する在留資格変更の運用である。
第3 高等学校等卒業後の就労を目的とする在留資格変更
1 制度の法的な位置付け
出入国管理及び難民認定法第二十条第三項は,在留資格の変更について,「法務大臣は,当該外国人が提出した文書により在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り,これを許可することができる」と定めている。
この規定は,法務大臣に個別の裁量的判断を認めるものであり,上陸許可や在留資格認定証明書の交付の場面(同法第七条第一項第二号)のように,あらかじめ告示で定められた活動に該当することを要件とはしていない。
実際,「特定活動」に関する告示(出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件,平成二年五月二十四日法務省告示第百三十一号,最近改正は令和八年四月八日法務省告示第三十一号)は第一号から第五十八号まで具体的な活動類型を列挙しているが,「家族滞在」の子の高等学校等卒業後の就労に対応する号は置かれていない。
「定住者」に関する告示(出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位を定める件,平成二年法務省告示第百三十二号)も同様に,第三国定住難民や日系人などを対象とする限定列挙であり,この場合に対応する号はない。
したがって,「家族滞在」から「定住者」又は「特定活動」への変更は,いずれの告示にも定めのない類型として,法第二十条第三項の個別裁量に基づいて運用されている。
出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」第十二編第二章第二十五節「家族滞在」第2は,この運用の趣旨を,「「家族滞在」の在留資格をもって在留している者が,我が国の義務教育を経て高等学校等卒業後,本邦において資格外活動許可の範囲を超えて就労しようとする場合について,その余の在留状況に特段の問題がないときは,「特別な理由」があるものとして」「定住者」又は「特定活動」の在留資格による在留を認める,と説明している。
2 「定住者」への変更の要件
出入国在留管理庁が公表する要件(下記出典参照)によれば,「定住者」への在留資格変更許可の対象となるのは,次のいずれにも該当する者である。①我が国の義務教育(小学校及び中学校。夜間中学を含む)を修了していること,②我が国の高等学校等(定時制課程・通信制課程を含む高等学校のほか,高等専門学校,及び大学入学資格が認められる課程として文部科学大臣が指定した専修学校の高等課程を含む)を卒業していること又は卒業見込みであること,③入国後,引き続き「家族滞在」の在留資格をもって日本に在留していること(「家族滞在」以外の在留資格であっても,その該当性がある者は対象となる),④入国時に18歳未満であること,⑤就労先が決定していること(内定を含む。資格外活動許可の範囲を超えて就労する予定であることが前提であり,大学等進学者が資格外活動の範囲内でアルバイトをする場合は対象とならない),⑥住居地の届出等,公的義務を履行していること。
必要書類は,履歴書,小学校及び中学校の卒業証書の写し又は卒業証明書,高等学校等の卒業証明書又は卒業見込証明書,雇用契約書・労働条件通知書・内定通知書等の雇用を証明する書類,身元保証書,世帯全員の記載がある住民票である。
審査では,出入国歴から本邦に生活基盤があることが確認され,独立して生計を営むことが困難な場合は,扶養者又は身元保証人の課税証明書等の追加提出が求められる。
3 「特定活動」への変更の要件
「特定活動」への変更の対象は,上記の「定住者」該当者を除き,次のいずれにも該当する者である。①我が国の高等学校等を卒業していること又は卒業見込みであること(義務教育の修了までは求められない),②高等学校等に編入した場合は,卒業に加えて日本語能力試験N2程度の日本語能力を有していること(日本語能力試験N2以上又はBJTビジネス日本語能力テスト400点以上の証明による),③入国後,引き続き「家族滞在」の在留資格をもって日本に在留していること,④入国時に18歳未満であること,⑤就労先が決定していること,⑥住居地の届出等,公的義務を履行していること,⑦扶養者が身元保証人として本邦に在留していること。
指定される活動は,扶養者の在留資格及び国籍を特定した上で,「本邦の公私の機関に雇用されて行う報酬を受ける活動」とされ,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に定める性風俗関連特殊営業等に従事する活動は除かれる。在留期間は1年である。
必要書類は,履歴書,高等学校等の在学証明書(入学日の記載があるもの),卒業証明書又は卒業見込証明書,編入者については日本語能力を証する資料,雇用を証明する書類,扶養者を保証人とする身元保証書,世帯全員の記載がある住民票である。
4 「定住者」と「特定活動」のいずれを選ぶか
「定住者」は義務教育の修了を要件とする一方で就労に制限がなく,扶養者による身元保証は要件とされていない。
「特定活動」は義務教育の修了までは求めない代わりに,高等学校等への編入者には日本語能力試験N2程度が課され,扶養者が身元保証人として在留していることが要件になる。
義務教育を日本で修了していない編入者は「定住者」の要件を満たさないため,日本語能力を示すことができれば「特定活動」を選ぶことになる。
逆に義務教育を日本で修了している者は,就労に制限のない「定住者」の要件を優先して確認することになる。
第4 「特定活動」から「定住者」への在留資格変更
「特定活動」で就労を開始した後,一定期間の在留を経て「定住者」へ更に変更することも認められている。
要件は,①我が国の高等学校等卒業後,上記の「特定活動」等の就労可能な在留資格による就労期間と,本邦の大学等(別科・専攻科を含む大学,専ら日本語教育を受ける場合を除く専門学校,4年次・5年次に限る高等専門学校,高等学校専攻科を含む)への進学による在学期間を合わせて,通算5年以上在留していること,②就労先が決定していること,③申請人自身に独立生計維持能力が認められること(扶養者ではなく本人の生計能力が問われる点で,上記第3の2つの要件と異なる),④「特定活動」在留資格に係る公的義務を履行していることである。
この5年の通算には,就労を目的とする「特定活動」又は技能実習を除く就労資格による在留期間のほか,大学等での就学期間も算入される。
第5 この運用の沿革
1 平成27年の運用開始から令和6年の要件明文化まで
この運用の起点は,国会答弁にその存在が示されている。
第百九十三回国会参議院法務委員会(平成二十九年四月十一日)において,真山勇一議員は,「入国管理局の方から,二十七年ですから二年前ですね,二十七年一月二十日に,そういう家族滞在の子供たちの,まあ多分就職という場に当たってだと思うんですが,もし資格の変更の申請が出たら定住者へ切り替える」旨の通達が入国管理局長から発出されていたことを取り上げ,その運用上の問題点(就職内定を切替えの前提とすることの当否等)を質した。
第百九十七回国会参議院文教科学委員会(平成三十年十一月十五日)では,神本美恵子議員が,「法務省は個別案件,いろいろやり取りをしながら,今年の二月に家族滞在で在留していて義務教育の大半を日本で修了している生徒を定住者に変更できるというふうな救済措置をとられました」と述べ,平成三十年2月に対象を拡大する追加的な運用がされたことを紹介している。
もっとも,同議員は,高等学校等の卒業又は卒業見込みという要件が,外国籍生徒の高校進学率の低さに照らして依然としてハードルになっている点を指摘した。
この間の通達そのものの原文は公開されていないが,出入国在留管理庁は,「特定活動」から「定住者」への変更要件を令和6年7月24日に,同要件に算入する期間の範囲を同年9月30日に,それぞれ公式サイトで追記しており,現在公表されている要件(上記第3及び第4)は,この令和6年の整理を反映したものである。
第6 令和8年の高等学校等就学支援金法改正との関係
1 支給対象を在留資格で区分する新要件
高等学校等就学支援金の支給に関する法律の一部を改正する法律(令和八年法律第八号,令和八年三月三十一日公布,同年四月一日施行)による改正後の高等学校等就学支援金の支給に関する法律第三条第一項は,支給対象となる者を,日本国籍を有する者,特別永住者,永住者の在留資格をもって在留する者,「その他これに準ずる者として文部科学省令で定める者」に限っている。
この委任を受けた文部科学省令は,「永住者に準ずる者」として,日本人の配偶者等及び永住者の配偶者等のほか,「定住者」の在留資格をもって在留する者のうち将来永住する意思があると認められた者,「家族滞在」の在留資格をもって在留する者のうち,小学校及び中学校を卒業した者であって高等学校等卒業後に日本で就労して定着する意思があると認められた者を定めている。
参議院文教科学委員会(令和八年三月二十六日)で,望月禎文部科学省初等中等教育局長は,「この家族滞在の例えば資格を有する者のうち,日本の小学校から高校までを卒業,修了し,高校等の卒業後,日本での就労を決定をし,住居地の届出などの公的義務の履行等の要件に該当する者については活動内容や就労に制限がない定住者への在留資格変更が認められると承知をしている」と述べた上で,「就労して定着する意思については生徒本人による申告に基づき確認をする予定」と説明している。
同じ質疑で,日本共産党の吉良よし子議員は,日本国籍の生徒であれば将来海外への定住の意思があっても支給対象から外れないのに,外国籍の「定住者」「家族滞在」の生徒には定着意思の確認という追加の要件が課される点をとらえ,在留資格による差別に当たると指摘した。
2 入管の在留資格変更とは別個の判断であること
就学支援金の支給対象要件にいう「高校等卒業後,日本で就労して定着する意思があると認められた者」は,生徒本人の申告に基づき都道府県・学校が確認するものであり,出入国在留管理庁による在留資格変更(第3及び第4)が現に完了していることを前提とするものではない。
両者は要件の骨格(義務教育の修了,高等学校等卒業後の就労)が重なるものの,判断の主体(出入国在留管理庁と都道府県・学校)と手続の目的(在留資格の付与と就学支援金の支給)が異なる別個の制度である。この点を混同すると,在留資格の変更許可を受けていない生徒が就学支援金の対象になり得るのか,逆に在留資格の変更を受けた生徒が就学支援金の要件を別途満たす必要があるのかを取り違えるおそれがある。
第7 申請を検討する際の留意点
1 入国時の年齢要件は事後に満たすことができない
「定住者」及び「特定活動」への変更のいずれについても,入国時に18歳未満であったことが要件とされている。
この要件は入国という過去の事実によって定まるため,高等学校等を卒業する時点でどれほど在留状況が良好であっても,事後的に満たすことはできない。
子を伴って来日する予定がある扶養者にとっては,来日時の子の年齢が,この運用の対象となるかどうかを左右する重要な事情になる。
2 資格外活動の範囲を超えて働き始める前に許可を得ること
「家族滞在」のまま資格外活動許可の範囲(週28時間)を超えて就労することは,資格外活動に当たり,本人だけでなく雇用する事業主にも不法就労助長罪(同法第七十三条の二)のリスクが生じ得る。
高等学校等の卒業時期と在留資格変更許可申請から許可までに要する期間を踏まえ,就労を開始する前に在留資格変更許可を得ておく必要がある。
3 高等学校等への編入者に求められる日本語能力
「特定活動」への変更において,高等学校等に編入した者(最初から日本の高等学校等に入学した者を除く)には,日本語能力試験N2程度の日本語能力の証明が別途必要になる。
編入の経緯や日本語能力の証明資料の準備には一定の時間を要するため,早い段階でこの要件に該当するかどうかを確認しておくことが望ましい。
4 この運用をめぐる公表された裁判例の有無
裁判所ウェブサイトの裁判例検索では,「家族滞在」から「定住者」又は「特定活動」への在留資格変更の許否を正面から争い,裁判所ウェブサイトに掲載された判決は確認できなかった。
この運用が平成27年に開始されてから相当の期間が経過していることを踏まえると,不許可となった場合に訴訟で争われる例が少ないか,争われても公刊された判決集に登載される例が少ないと考えられる。
したがって,要件を満たさないと判断された場合には,訴訟によって個別の事情を主張するよりも,要件を満たす時期まで待って改めて申請する,又は他の在留資格(留学等)による在留継続を検討するといった対応が現実的な選択肢になる場合が多いと考えられる。
出典
法令
①出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)別表第一,第七条,第二十条(e-Gov法令検索)
②高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成二十二年法律第十八号,令和八年法律第八号による改正後)第三条(e-Gov法令検索)
公文書・行政資料
①出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」第十二編第二章第二十五節「家族滞在」(令和八年四月開示文書)
②出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」第十二編第二章第二十六節「特定活動」(令和八年四月開示文書)
③出入国在留管理庁「「家族滞在」の在留資格をもって在留し,高等学校卒業後に日本での就労を希望する方へ」(令和六年九月三十日更新)
④出入国在留管理庁「高等学校等卒業後に日本での就労を考えている外国籍を有する方へ」
⑤出入国在留管理庁「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件(平成二年法務省告示第百三十一号)」(最近改正・令和八年四月八日法務省告示第三十一号)
⑥出入国在留管理庁「在留資格「定住者」」
⑦文部科学省「令和8年度高等学校等就学支援金制度等に関する都道府県担当者等説明会資料(第1部)」(令和八年四月八日)
国会会議録
①第百九十三回国会参議院法務委員会第五号(平成二十九年四月十一日,真山勇一議員発言)
②第百九十七回国会参議院文教科学委員会第二号(平成三十年十一月十五日,神本美恵子議員発言)
③第二百二十一回国会参議院文教科学委員会第二号(令和八年三月二十六日,望月禎政府参考人発言)
④第二百二十一回国会参議院文教科学委員会第二号(令和八年三月二十六日,吉良よし子議員発言)
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