監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社代表者


目次

1 裁判所作成のチャート図兼チェックシート
2 裁判所HPに掲載されていない,最高裁平成24年3月6日判決
3 上告審から見た書記官事務の留意事項(平成24年分)の記載
4 会計限定監査役
5 関連記事

1 裁判所作成のチャート図兼チェックシート
・ 上告審から見た書記官事務の指導ポイント(平成29年11月 1日付)には,「監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社代表者」として以下のチャート図兼チェックシートが掲載されています。

2 裁判所HPに掲載されていない,最高裁平成24年3月6日判決
・ 裁判所HPに掲載されていない,最高裁平成24年3月6日判決(判例体系のほか,判例時報2189号3頁及び4頁)は以下の判示をしています。
(1) 会社法386条1項は、監査役設置会社と取締役であった者との間の訴えについて、監査役が監査役設置会社を代表する旨を定めるが、公開会社ではなく、監査役会設置会社又は会計監査人設置会社でもない株式会社が、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めた場合には、同項の規定は適用されず(同法389条1項、7項)、株主総会又は取締役会において当該株式会社を代表する者が定められない限り、代表取締役が株式会社を代表することになる(同法349条4項、353条、364条)。
 そして、整備法64条による改正前の商法の規定による株式会社が、整備法施行の際、現に、その定款に株式の譲渡制限の定めを有し、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(整備法1条8号により廃止)1条の2第2項に規定する小会社(資本の額が1億円以下の株式会社のうち、最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上のものを除く。)である場合には、その株式会社の定款には、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされる(会社法389条1項、整備法53条)。
(2) これを本件についてみるに、本件は、被上告人とその取締役であった上告人との間の訴えであるが、被上告人は、整備法施行の際、現に、その定款に株式の譲渡制限の定めがあり、また、資本の額が1億円以下であったから、同法施行の際の最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上であった場合を除き、同法53条の適用により監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるとみなされることとなる。そして、被上告人は、公開会社でなく、監査役会設置会社又は会計監査人設置会社でもないのであるから、上記の定款の定めがあるとみなされる場合には、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定しないこととする旨の定款変更がされ、又は株主総会若しくは取締役会において取締役であった者との間の訴えについて代表取締役以外の者が被上告人を代表する者と定められていない限り、本件訴えについて被上告人を代表するのは代表取締役のBであるというべきである。
(3) ところが、原審は、整備法施行の際の被上告人の最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上であったこと等を認定することもなく、本件が監査役設置会社である被上告人とその取締役であった上告人との間の訴えであることのみを理由として、本件訴えについてBが被上告人を代表すべき者ではないと判断したのであるから、この判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
(4) しかも、原審は、上告人が、Bを被上告人の代表者として本件訴えを提起し、被上告人を代表すべき者をBからAに変更する旨の補正をしていなかったにもかかわらず、本件再開決定後、上記の補正の手続を経ることもなく、Aを本件訴えについての被上告人の代表者として扱い、判決を言い渡したのであって、原審の上記措置にも、法令の解釈適用を誤った違法がある。
* 差戻し前の控訴審判決は知財高裁平成22年3月31日判決(裁判長は23期の中野哲弘)であり,差戻し後の控訴審判決は知財高裁平成24年8月28日判決(裁判長は27期の芝田俊文)です。

3 上告審から見た書記官事務の留意事項(平成24年分)の記載

(1) 上告審から見た書記官事務の留意事項(平成24年分)11頁及び12頁には「ア 訴訟の当事者を誤ったまま手続を進行させたもの」として以下の記載があります。
(ウ) 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律53条の規定により会社法386条1項の適用がない株式会社について,当該株式会社(被告)とその元取締役(原告)との間の訴訟につき,監査役を被告会社代表者と記載した訴状を補正させないまま監査役に送達し,当該監査役が専任した訴訟代理人に訴訟を追行させた。
(留意点)
    法人の代表者の誤りは,絶対的上告理由(民訴法312条2項4号)及び再審事由(民訴法338条1項3号)となる。行政事件や会社事件は,被告が誰となるのか,代表権限は誰が有するのかの規定が複雑であることから,書記官としては,このような事件で過去に経験したことのないレアケースについては,特に情報収集に努め,確実かつ丁寧に関係法令等の根拠にあたり,訴状審査あるいは訴訟進行に当たっては,必要に応じて裁判官と意見交換あるいは意見具申して適切に処理していただきたい。
(中略)
(ウ)は,会社法386条の適用がない会社であるから,代表取締役が会社を代表する。同法386条1項は監査役設置会社と取締役(元取締役を含む。)との間の訴えについては,監査役が会社を代表すると定める。もっとも,監査役の監査の範囲が定款上会計に限定されている場合,同項の適用はなく(同法389条7項),監査役は会社を代表する権限を有しない。この場合は,原則に戻って代表取締役が会社を代表するのが本則である(ただし,当該会社において株主総会又は取締役会が当該訴えについて会社を代表する者を定めることができる(同法353条,364条)。)。
    監査役の権限を会計監査に限定する旨の定款の定めを置くのは,同法389条1項において,公開会社でない株式会社,いわゆる非公開会社であることが要件とされているが,会社法の施行に関する関係法律の整備等に関する法律の施行前から存在する株式会社については,同法53条に経過措置が定められており,同法施行時(平成18年5月1日)に旧商法特例法1条の2第2項に規定する「小会社」である場合には,定款に監査役の権限を会計監査に限定する旨の定めを置いたものとみなされる。
    監査役設置会社と取締役(元取締役)との間の訴えにおける会社代表者の代表権については,平成24年3月6日付け高等裁判所事務局長,地方裁判所事務局長あて民事局第二課長,行政局第三課長書簡や上告審から見た書記官事務の留意事項等(平成23年分)の別紙2「監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社代表者」などを参照し,適切に処理していただきたい。
(2) 最高裁平成24年3月6日判決が出た当日に,高等裁判所事務局長,地方裁判所事務局長あて民事局第二課長,行政局第三課長書簡が発出されたみたいです。

4 会計限定監査役
(1) 総論

ア 会計限定監査役は,監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役です(会社法389条1項)。
イ 監査役設置会社(会計限定監査役を置く株式会社を含む。)において,監査役は,計算書類等につき,これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い,会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しなければなりません(会社法436条1項,会社計算規則121条2項及び122条1項2号)。
(2) 会計限定監査役の責任
ア (つまり,会計限定監査役)は,計算書類及びその附属明細書の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,当該計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではありません(最高裁令和3年7月19日判決)。
イ 最高裁令和3年7月19日判決の裁判官草野耕一の補足意見には,「監査役の職務は法定のものである以上,会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別,そうでない限り,監査役の属性(山中注:例えば,公認会計士資格の有無)によって監査役の職務内容が変わるものではない」と書いてあります。
ウ ビジネス法務の部屋ブログに「会計限定監査役の「監査見逃し責任」を厳しく問う最高裁判決(破棄差戻)」が載っています。
(3) 会計限定監査役は昭和49年の商法改正で創設されたこと
・ TKCローライブラリーの「会計限定監査役の任務懈怠と会社に対する損害賠償責任」(最高裁令和3年7月19日判決の原審となる東京高裁令和元年8月21日判決の判例評釈)には,「会社法制定前において、監査役には業務監
査権限と会計監査権限が付与されていたが、昭 49 年(1974 年) 商法改正により、資本の額が1 億円以下である小会社(旧商特 1 条の 2 2 項)の監査役の権限は会計監査に限定されていた 」と書いてあります。

5 関連記事その他
(1) 東京地裁HPに「監査役設置会社と(元)取締役との間の訴えにおける会社の代表者に関するフローチャート」が載っています。
(2) 司法書士九九法務事務所ブログ「会計限定監査役の趣旨と登記手続について」に「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあることを証する書面」の雛形が載っています。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 会社法等に関する最高裁判例
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ 上告審から見た書記官事務の留意事項


広告
スポンサーリンク