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令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準と最終結果(AIリライト)

令和元年10月22日の即位礼正殿の儀に当たり,罰金刑を対象とする政令復権と,個別審査による特別基準恩赦が実施された。

両者は,要件を満たせば一律に効力が生じる制度と,本人の出願等を端緒に個別審査を経る制度という点で異なる。また,復権の効果は法令上の資格制限の回復であり,有罪判決という過去の事実の消去,支払済み罰金の返還又は運転免許の行政処分の取消しではない。

なお,令和元年の特別基準恩赦の出願期限及び上申期限はすべて経過している。本記事は,当時の基準と実施結果を説明するものであり,現在も同じ特別基準による出願ができるという趣旨ではない。

第1 令和元年の御即位恩赦の全体像

1 政令復権と特別基準恩赦の違い

令和元年の御即位恩赦では,復権令(令和元年政令第131号)による政令復権と,即位の礼に当たり行う特別恩赦基準による特別基準恩赦が併行して実施された。

区分政令復権特別基準恩赦による復権
効力の生じ方政令の要件を満たす者について一律に生じる出願等を端緒とする個別審査を経て決定される
中心となる対象すべての罰金の執行終了又は免除後3年以上を経過した者罰金刑を受けたことが現に社会生活上の障害となっている者
個別の相当性審査ない犯情,行状,犯罪後の状況,社会の感情等を総合考慮する
本人の出願不要原則として必要であった
令和元年の実施内容復権刑の執行の免除及び復権のみ

法務省の制度説明によれば,政府は,国民感情,特に犯罪被害者及びその遺族の心情等に配慮し,対象を限定して実施したとしている。令和元年の特別基準恩赦では,特赦及び減刑は実施されなかった。

2 約55万人という数字は推計である

政府は,令和元年10月23日の衆議院法務委員会で,復権令の対象者を約55万人と試算し,その約8割が道路交通法違反等の交通関係であると説明した。

この数字は,政令の要件に該当すると見込まれた人数の推計であり,復権した者を一人ずつ数えた最終実績ではない。また,交通関係の罰金刑が多いことと,運転免許の取消し又は停止が復権によって取り消されることとは別の問題である。

第2 復権令によって一律に復権した者

1 復権令の四つの要件

復権令による復権の対象となるためには,基準日である令和元年10月22日において,次の要件を満たす必要があった。

① 一個又は二個以上の裁判により罰金に処せられた者であること。

② その罰金のすべてについて執行を終わり,又は執行の免除を得ていること。

③ その日から令和元年10月21日までに3年以上を経過していること。

④ 他に禁錮以上の刑に処せられており,その刑の言渡しの効力が残っている者ではないこと。

典型例は,平成28年10月21日までにすべての罰金を納付し,その後に再び罰金以上の刑に処せられていない者である。ただし,罰金の執行終了は納付に限られないため,法令上の要件は「納付後3年」ではなく「執行を終わり,又は執行の免除を得た後3年」である。

2 複数の罰金がある場合

復権令の「一個又は二個以上の裁判により」という文言は,一つの裁判で複数の罰金に処せられた場合と,複数の裁判で複数の罰金に処せられた場合の双方を含む。

もっとも,一部の罰金だけについて3年を経過していても足りず,対象となるすべての罰金について執行終了又は免除の要件を満たす必要があった。罰金の執行猶予期間中である場合も,執行が終わったものとは扱われなかった。

3 「執行の免除」は恩赦法8条だけではない

復権令にいう「執行の免除」は,恩赦法8条による刑の執行の免除だけを指すものではない。

恩赦実務の体系書である岡田亥之三朗『逐条恩赦法釈義』(第一法規出版,昭和43年改訂再増補)436頁~437頁は,刑法31条による刑の時効,令和元年当時の刑法5条による外国判決の執行に伴う免除及び恩赦法8条による免除等を含むと説明している。

4 他の禁錮以上の刑との関係

復権令が除外したのは,過去に一度でも懲役又は禁錮に処せられた者すべてではなく,他の禁錮以上の刑の言渡しの効力が残っている者である。

令和元年当時の運用では,その刑の言渡しが刑法27条若しくは34条の2又は恩赦によって既に効力を失っている場合,除外刑として扱わないものとされた。したがって,単に「懲役又は禁錮の前科がある者は対象外」と説明するのは広すぎる。

5 刑法34条の2による5年経過との違い

令和元年当時の刑法34条の2は,罰金以下の刑の執行を終わり,又は執行の免除を得た後,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したときは,刑の言渡しが効力を失うと定めていた。

このため,罰金の執行終了等から3年以上5年未満の者について,復権令により資格制限を早期に解く実益があった。既に5年を経過し,刑の言渡しが効力を失っていた者は,新たに回復すべき資格制限がないため,復権令の対象者とは扱われなかったことが法務省のFAQに示されている。

なお,令和7年6月1日の拘禁刑施行後,現行刑法34条の2は「拘禁刑」という用語を使用している。本記事で「懲役」,「禁錮」又は「禁錮以上」と記載する箇所は,令和元年当時の法令及び基準の表現である。

第3 特別基準恩赦による個別復権

1 通常枠の対象

特別基準恩赦による復権の通常枠は,令和元年10月21日までに,一個又は複数の裁判によるすべての罰金について執行を終わり,又は執行の免除を得た者を対象とした。

その上で,刑に処せられたことが現に社会生活を営む上で障害となっており,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められる必要があった。政令復権とは異なり,形式的要件に該当するだけで復権する制度ではない。

2 3か月の延長枠

令和元年10月21日までに略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受けたものの,罰金刑が未確定であった者については,3か月の延長枠が設けられた。

この枠では,令和2年1月21日までに裁判に係る罪のすべてについて罰金刑が確定し,令和元年10月22日から令和2年1月21日までに,すべての罰金について執行を終わり,又は執行の免除を得る必要があった。

令和元年10月22日以後に初めて略式命令の送達等を受けた者は,この延長枠の対象ではなかった。確定期限は,令和元年1月21日ではなく,令和2年1月21日である。

3 社会生活上の障害

「現に社会生活を営むに当たり障害となっている」とは,法令上の資格制限に限られず,就職,就業,結婚,子女の養育その他の日常生活上の具体的な制約を含む。令和元年の特別基準解説は,事実上の制約及び本人の精神面に生じている障害も含めて説明している。

障害は本人について現に具体的に生じている必要があり,本人の申立てだけでなく,上申書,嘆願書,証明書等の資料により認定の根拠を明らかにする運用であった。

4 個別審査で考慮された事項

個別審査では,犯罪の軽重を含む犯情,本人の性格及び一般的な生活態度,改しゅんの情及び再犯のおそれを含む犯罪後の状況,地域社会及び社会一般の感情,共犯者との均衡,近親者の状況等が考慮された。

複数の罰金があっても形式的に対象外とはされないが,繰り返し処罰された事実は,犯情,行状又は犯罪後の状況の評価に影響し得る。制度上の適格性と,個別審査における相当性は分けて理解する必要がある。

5 被害者及び遺族の心情への配慮

令和元年の特別基準は,犯罪被害者等基本法に基づく施策が推進されていることを踏まえ,本人の犯罪行為によって被害を受けた者及びその遺族の心情に配慮する旨を明記した。

法務省の基準解説によれば,これは日本国憲法施行後の特別基準恩赦で初めて置かれた規定である。ここで配慮の対象となるのは,犯罪被害者一般の抽象的な感情ではなく,恩赦の対象者本人がした犯罪行為の被害者及びその遺族の心情である。

6 出願期限及び手続

通常枠の本人出願期限は令和2年1月21日,上申期限は同年4月21日であった。3か月延長枠の本人出願期限は同年4月21日,上申期限は同年7月21日であり,いずれも既に経過している。

本人出願は,原則として有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官に対して行う仕組みであった。複数の裁判による複数の罰金がある場合は,最後に有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官が出願先とされた。出願後は,上申権者による調査,中央更生保護審査会の審査及び申出,法務大臣の上申,内閣の決定並びに天皇の認証という手続を経る。

恩赦願書(恩赦上申事務規程様式第8号)
恩赦願書(恩赦上申事務規程様式第8号)

現在,個別に恩赦を求める場合は,令和元年の特別基準ではなく常時恩赦の問題となる。一般的な手続は,恩赦の手続及び恩赦申請時に作成される調査書を参照されたい。

第4 復権の効果と限界

1 回復するのは法令上の資格である

恩赦法9条及び10条による復権は,有罪の言渡しにより法令上喪失し,又は停止された資格を回復する制度である。すべての資格を一律に回復する政令復権と,特定の資格について行うことができる個別復権がある。

一方,恩赦法11条は,有罪の言渡しに基づく既成の効果が復権によって変更されないことを定めている。そのため,復権を,有罪判決という過去の事実又は犯歴関係の記録が消える制度という意味で「前科抹消」と表現するのは正確でない。恩赦の効果及び前科抹消があった場合の取扱いも参照されたい。

2 復権した前科を量刑で参酌できるとした最高裁判例

最高裁昭和39年12月15日第三小法廷判決(昭和39年(あ)第1850号,集刑153号687頁)は,恩赦法による復権は一旦喪失した資格の回復にとどまり,有罪の言渡しに基づく既成の効果を変更しないため,復権した公職選挙法違反の前科を後の刑の量定で参酌しても憲法14条及び39条に違反しないと判示した。

この判例は,復権が前科事実そのものを消去する制度ではないことを直接示している。

3 罰金の返還及び運転免許処分

復権しても,既に納付した罰金は返還されない。また,運転免許の取消し,停止又は停止期間は行政処分であるため,罰金刑について復権しても取り消されず,短縮されない。

「交通関係が約8割」という政府推計は,対象となる罰金刑の罪種構成を説明するものであり,運転免許が回復する人数を示すものではない。

4 復権通知書と復権証明書

復権令に基づく恩赦事務の取扱いでは,復権令により公民権を回復した者に対し,本人からの請求の有無にかかわらず,復権通知書を送付する取扱いとされた。

これに対し,復権証明書は,本人の申出があった場合に,対応する検察庁の検察官が交付する。したがって,復権令の対象と見込まれた約55万人全員に復権通知書が送付されたという意味ではない。

復権通知書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)
復権通知書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)
復権証明書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)
復権証明書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

第5 令和元年特別基準恩赦の最終結果

1 受理100件のうち相当28件

令和2年12月18日公表の法務省「特別基準恩赦の結果について」によれば,最終結果は次のとおりである。

種類受理件数恩赦相当件数相当率
刑の執行の免除18件8件約44.4%
復権82件20件約24.4%
合計100件28件28.0%

令和元年の罰金復権の実績は,受理82件中20件が相当とされたというものであり,平成5年の実績から推計する必要はない。

2 復権の罪種別内訳

罪種受理件数恩赦相当件数
凶悪犯・粗暴犯18件2件
財産犯0件0件
交通関係22件15件
薬物関係0件0件
その他42件3件
合計82件20件

交通関係は受理22件中15件が相当とされた。もっとも,この集計だけから,被害者の有無と恩赦相当率の関係を一般化することはできない。罪種,犯情,被害の有無,行状その他の考慮要素は同じものではなく,個別事件の審査内容も公表されていないためである。

公表資料は,恩赦相当28件に性犯罪,児童の性的搾取等事犯及び選挙事犯が含まれていないと注記している。一方,基準本文及び国会答弁では,罪種による一律の対象除外は設けられていない。結果として相当例がなかったことと,制度上対象外であったことは区別する必要がある。

第6 平成5年の皇太子御結婚恩赦との比較

1 正しい件数と相当率

法務省開示文書「皇太子御結婚恩赦(特別基準恩赦)について」によれば,平成5年の特別基準恩赦の結果は次のとおりである。

項目受理件数恩赦相当件数相当率
全体1,834件1,277件69.6%
罰金刑の復権997件901件約90.4%
罰金刑の復権以外837件376件44.9%

原表の分子と分母によれば,全体は1,277件を1,834件で除した69.6%,罰金刑の復権は901件を997件で除した約90.4%である。

皇太子御結婚恩赦(特別基準恩赦)について1頁
皇太子御結婚恩赦(特別基準恩赦)について1頁
皇太子御結婚恩赦(特別基準恩赦)について2頁
皇太子御結婚恩赦(特別基準恩赦)について2頁

2 相当率を単純比較できない理由

平成5年は政令復権を実施せず,特別基準恩赦だけを実施したのに対し,令和元年は政令復権と特別基準恩赦を併行して実施した。また,対象時期,基準,被害者等の心情への配慮,出願母集団及び社会的背景も同一ではない。

したがって,平成5年の高い相当率から令和元年の結果を予測したり,相当率の高低だけで審査姿勢を評価したりすることは相当でない。平成5年の基準資料として,特別恩赦基準の運用通達及び基準解説がある。

第7 関連通達及び関連記事

1 令和元年の関連通達

① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(令和元年10月22日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)

② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)

③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)

④ 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の総務省自治行政局選挙部長の通知)

2 関連記事

① 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦

② 常時恩赦等の件数及び無期刑受刑者の仮釈放

③ 恩赦の手続

④ 恩赦申請時に作成される調査書

⑤ 恩赦の効果

⑥ 前科抹消があった場合の取扱い

⑦ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦

⑧ 復権令(平成2年11月12日政令第328号)

⑨ 恩赦に関する記事の一覧

第8 出典

1 法令及び裁判例

① 復権令(令和元年政令第131号)

② 恩赦法

③ 刑法

④ 恩赦法施行規則

⑤ 犯罪被害者等基本法

⑥ 最高裁昭和39年12月15日第三小法廷判決(昭和39年(あ)第1850号,集刑153号687頁)

2 公的資料

① 法務省「恩赦」

② 法務省「『復権令』及び『即位の礼に当たり行う特別恩赦基準』について」

③ 法務省「よくある御質問」

④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準

⑤ 令和2年版犯罪白書「恩赦」

⑥ 令和3年版犯罪白書「恩赦」

⑦ 第200回国会衆議院法務委員会第2号(令和元年10月23日)

⑧ 令和時代における恩赦に関する質問に対する答弁書

⑨ 即位礼正殿の儀に合わせて実施された恩赦に関する質問主意書及び答弁書

⑩ 法務省保護局総務課長「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について」(令和元年10月22日付)4頁~12頁

⑪ 法務省刑事局長・矯正局長・保護局長「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について」(令和元年10月22日付)

⑫ 法務省刑事局長・保護局長「復権令に基づく恩赦事務の取扱いについて」(令和元年10月22日付)2頁~4頁

⑬ 法務省刑事局総務課法務専門官「復権令に基づく恩赦事務処理上の留意事項について」(令和元年10月22日付)4頁~5頁

⑭ 法務省「特別基準恩赦の結果について」

⑮ 法務省「皇太子御結婚恩赦(特別基準恩赦)について」1頁~2頁

⑯ 犯歴事務規程

3 文献

① 岡田亥之三朗『逐条恩赦法釈義』(第一法規出版,昭和43年改訂再増補)54頁~55頁,436頁~437頁

② 武内謙治・本庄武『刑事政策学』(日本評論社,2019年)146頁