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民事訴訟の機動的審理運営とは――てん補裁判官によるウェブ会議活用の仕組みと法的根拠(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 最高裁判所事務総局が作成した文書とその出所

弁護士山中理司のX(旧Twitter)アカウントには,2026年7月16日,「民事訴訟の機動的運営について(令和8年4月の最高裁事務総局の文書)を添付しています」との投稿とともに,画像4枚が添付されている。4枚はそれぞれ「民事訴訟の機動的審理運営について(その1)」「同(その2)」「(参考)民訴フェーズ3前の実践を担当した裁判官からのヒアリング結果(その1)」「同(その2)」と題する資料であり,作成者は最高裁判所事務総局,作成時期は令和8年4月と記載されている。本記事作成時点で,この文書は裁判所ウェブサイト上には公表が確認できず,PDFファイルとして参照できる(4頁)。本記事は,生成AIを用いてこの文書の画像を読み取り,記載内容を条文及び関連の公的資料と照合した上で,機動的審理運営という取組みの内容と法的な位置づけを整理するものである。

2 検討の対象と時点

本記事が対象とするのは,2026年8月現在で確認できる文書の記載内容,これに関連する民事訴訟法及び最高裁判所規則の条文,並びに民事訴訟のIT化に関する裁判所及び法務省の公表資料である。文書自体が裁判所の内部説明資料であることから,記載されている運用の対象範囲や実施状況が今後変更される可能性がある点に留意されたい。

第2 機動的審理運営の仕組み

1 てん補による事件処理と運用のイメージ

文書は,機動的審理運営を「裁判官がてん補による事件処理をしている場合,事件係属庁以外の庁に在庁しながら,ウェブ会議を利用して手続(書面による準備手続の協議等)を実施することにより,てん補日の制約を受けることなく柔軟に手続の日時を指定することを可能にし,当事者の利便性向上と裁判の迅速化を図るという運用」と説明している。「てん補」とは,ある裁判官が本来所属する庁(本務庁)以外の庁の事件処理も担当する司法行政上の運用を指す実務上の呼称であり,人的資源が限られる支部において判事の配置を補う目的で行われている。文書が示す例では,裁判官が月・水・木曜は本務庁に,火曜はてん補庁に在庁して事件を担当するという配置が前提とされており,機動的審理運営が実施される前は,てん補庁に係属する事件の手続を火曜以外の曜日に指定することが難しかった。文書が示す実施後のイメージは,本務庁に在庁していてもてん補庁に係属する事件の手続をウェブ会議で行い,逆にてん補庁に在庁していても本務庁に係属する事件の手続を行うというものであり,執務場所と手続対象事件の組合せが曜日を問わず柔軟になる点に眼目がある。

2 対象となる事件

文書は,対象となる事件を,地方裁判所及び家庭裁判所に係属する合議事件及び単独事件の民事訴訟(人事訴訟を含む)としている。中心となるのはてん補裁判官が担当する事件であるが,双方代理人が選任されていない本人訴訟についても,双方当事者の意向等を総合考慮して適切な事件を選定すれば対象とし得るとされている。新規に提起される事件に限定されず,民訴フェーズ3の全面施行前に紙媒体で記録が作成された既存事件も対象となり得る。

3 書記官の関与

書記官が協議等に立ち会う場合には,ウェブ会議を利用し,本務庁に係属する事件については本務庁所属の書記官が,てん補庁に係属する事件についててん補庁所属の書記官が立ち会うことが原則とされている。もっとも,本務庁所属の書記官がてん補庁に係属する事件の手続にウェブ会議で立ち会うこともあるとされており,文書は,裁判官と書記官の所在が物理的に離れる場合が生じることから,双方のコミュニケーション方法を工夫する必要があると留意点を付している。

第3 対象となる手続の限定とその理由

1 「書面による準備手続の協議」及び「事実上の打合せ」に限られること

文書が対象とする手続は,当事者双方とウェブ会議で接続して実施する「書面による準備手続の協議」又は「事実上の打合せ」に限られている。具体的な事件において手続の日時を指定するに当たっては,実施する手続の種別及び裁判官が所在する庁を当事者に説明し,その理解を得ることとされており,同一事件であっても,手続の回ごとに裁判官の所在する庁(本務庁又はてん補庁)が変わることがあり得るとされている。ウェブ会議と対面手続の使い分けについては,事案の性質や当事者の意向等を踏まえて進行に留意すべきものとされており,対面でコミュニケーションを行うべき場合には対面での手続を実施するなど,一律にウェブ会議へ切り替えることは想定されていない。

2 口頭弁論期日及び弁論準備手続期日が除外される理由

文書は,口頭弁論期日及び弁論準備手続期日を対象から明示的に除外し,その理由として「事件係属庁以外の庁に在籍する裁判官による期日の実施には法的課題あり」と付記している。この「法的課題」の具体的な内容そのものは文書には記載されていないが,後記第4のとおり,書面による準備手続における「協議」(民事訴訟法176条2項)が当事者の出頭を前提としない手続として設計されているのに対し,口頭弁論及び弁論準備手続の「期日」は当事者の出頭を観念する訴訟行為の場である点に,両者の取扱いを分ける手がかりがあると考えられる。

第4 制度を支える法的根拠

1 書面による準備手続と協議(民事訴訟法175条・176条)

民事訴訟法175条は,書面による準備手続を「当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続」と定義する。同法176条2項は,「裁判所は,書面による準備手続を行う場合において,必要があると認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について,当事者双方と協議をすることができる。この場合においては,協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる」と定めており,この「協議」が機動的審理運営の対象手続の一つに当たる。書面による準備手続がそもそも当事者の出頭を要しない手続として設計されている以上,同条に基づく協議も,裁判所という場所への当事者の物理的な出頭を前提としない手続であるといえる。文書が「事実上の打合せ」と呼ぶもう一つの対象は,175条以下が定める法定の手続にも該当しない,当事者との連絡調整に類する非公式なやりとりを指すものと考えられ,この点でも当事者の出頭という概念とは無縁である。

これに対し,口頭弁論の期日(民事訴訟法87条の2)及び弁論準備手続の期日(同法170条3項)は,いずれも裁判所及び当事者双方が現実に又は映像・音声の送受信を通じて相手の状態を認識しながら関与する訴訟行為の場として構成されている。同法170条3項は,弁論準備手続の期日について「裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,弁論準備手続の期日における手続を行うことができる」と定めており,176条2項の文言と類似するものの,175条の外側にある「弁論準備手続」という独立の手続類型に属する点で異なる。本記事では,事件係属庁以外の庁に在庁する裁判官による「期日」の実施に法的課題があるとされているのは,「期日」という訴訟法上の概念が,当事者の出頭を観念する以上,その実施の場所と裁判官の所在場所との関係について,「協議」とは異なる整理を要するためではないかと考えられるが,この点を正面から論じた公的資料は確認できておらず,今後の運用の集積を待つ必要がある。

2 てん補と裁判官の配置(下級裁判所事務処理規則6条・10条)

「てん補」という語自体は,裁判所法にも最高裁判所規則にも定義されていない。もっとも,下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)6条1項は,「高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所における裁判事務の分配,裁判官の配置及び裁判官に差支のあるときの代理順序については,毎年あらかじめ,当該裁判所の裁判官会議の議により,これを定める」と定めており,てん補は,この「裁判官の配置」の一環として,ある裁判官を本務庁以外の庁の事件処理にも充てる司法行政上の運用であると理解される。同規則10条は「裁判官が,その勤務する裁判所の所在地外で職務を行おうとするときは,当該裁判所にその旨を届け出なければならない」と定めており,てん補裁判官が本務庁以外で職務を行う場合の届出義務の根拠となり得る規定である。

3 支部の位置づけ(裁判所法31条)

裁判所法31条は,「①最高裁判所は,地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため,その地方裁判所の管轄区域内に,地方裁判所の支部又は出張所を設けることができる。②最高裁判所は,地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定める」と定めている。この条文が示すとおり,支部は独立した裁判所ではなく,地方裁判所という一つの官署の内部組織として位置づけられている。この構造を踏まえると,てん補による支部での事件処理も,法的には当該地方裁判所自体の事務処理の一環であって,別の裁判所の事務を代行しているのではないと整理できる。

第5 民事訴訟IT化の中での位置づけ

1 ウェブ会議を用いた争点整理及び口頭弁論の拡大の経緯

民事訴訟のIT化は,令和2年2月頃からMicrosoft Teams等を利用したウェブ会議による争点整理の先行運用(実務上「フェーズ1」と呼ばれる段階)に始まり,令和4年法律第48号による民事訴訟法等の改正を経て,弁論準備手続及び和解期日へのウェブ会議参加(令和5年3月1日),口頭弁論期日へのウェブ会議参加(令和6年3月1日,家庭裁判所は令和7年3月1日),人事訴訟及び家事調停への拡大(令和7年3月1日)という順序で段階的に施行されてきた。この経緯は,別稿「裁判手続のデジタル化」でも取り上げている。

2 令和8年5月21日の全面施行との時期的な関係

裁判所ウェブサイト「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」及び法務省ウェブサイト「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」は,いずれも改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が令和8年5月21日に全面施行されたと説明している。この全面施行により,委任を受けた訴訟代理人による民事裁判書類電子提出システム(mints)を用いたオンライン申立てが義務化され,訴訟記録の原則電子化が実現した。mintsの電子申立てについては,別稿「mintsの実務解説 弁護士向けQ&A」及び「mints後の証拠説明書」で扱っている。機動的審理運営を説明する文書の作成時期(令和8年4月)は,この全面施行の直前に当たるが,文書自体は法令の改正を内容とするものではなく,てん補裁判官の運用を支える裁判所内部の実務上の対応として位置づけられる。裁判所ウェブサイトが一般向けに公表している民事訴訟IT化の概要ページには,本記事作成時点で「機動的審理運営」という語自体を用いた説明は見当たらない。

第6 運用の実際――担当裁判官へのヒアリング結果

1 期日間隔の短縮という効果

文書には,「(参考)民訴フェーズ3前の実践を担当した裁判官からのヒアリング結果」として,実際にてん補事件についてウェブ会議を活用した裁判官の声が紹介されている。その中では,「期日等を柔軟に調整することができるようになり,事件が迅速に進むようになった」との評価が多数を占めており,具体的な効果として,通常のスケジュールよりも2週間から3週間程度期日間隔が短縮された事例や,本庁の執行日だけでなくてん補庁の執行日も期日の候補に加えて調整したところ2週間程度早い期日設定ができた事例が挙げられている。

2 代理人の反応と対面手続の併用

代理人の反応については,「手続を実施する候補日が増えて便利であるという反応が多い」など,概ね好意的な反応が紹介されている。もっとも,ヒアリング結果は,複雑な争点整理や和解に向けた議論など,対面でのコミュニケーションが必要な場面では,機動的審理運営の対象事件であっても対面での手続を実施した例があることも紹介しており,ウェブ会議による柔軟な日程調整と,対面による手続の使い分けが実務上意識されていることがうかがえる。

第7 法定審理期間訴訟手続との異同

令和4年法律第48号による改正は,機動的審理運営が前提とするウェブ会議の活用に加えて,法定審理期間訴訟手続(民事訴訟法381条の2以下)という新たな訴訟類型も創設している。同手続は,当事者双方の申出又は一方の申出と相手方の同意を開始要件とし,移行決定から2週間以内に最初の期日を,そこから6か月以内に弁論終結期日を指定するなど,審理から判決までの期間を法律上あらかじめ定める点に特色があり,判決に対する控訴も認められず,判決をした裁判所自身への異議申立てのみが不服申立ての方法とされている(同法381条の6ないし381条の8)。同手続に関する最高裁判所規則の特則については,大阪弁護士会が2025年12月12日付で最高裁判所長官宛てに提出した「『法定審理期間訴訟手続』に関する『改正民事訴訟規則』の問題についての意見書」が,準備書面の記載内容や証拠の申出を制限する規定(改正民事訴訟規則231条の5・231条の6)などが,法制審議会及び国会審議で「主張及び立証の制限はしない」と確定した経緯と整合しないとして,削除又は修正を求めている。同意見書は,2022年5月17日の参議院法務委員会において法務省民事局長が「この新しい審理手続を使った場合には何かそこに制限が生まれるというようなものではございません」と答弁したことを引用している。

機動的審理運営と法定審理期間訴訟手続は,いずれも民事訴訟の迅速化を志向する施策であるが,性質は異なる。法定審理期間訴訟手続は,当事者双方の申出を法律上の要件とし,審理期間の固定及び上訴制限という強い効果を伴う新たな訴訟類型であるのに対し,機動的審理運営は,法令の改正を伴わない裁判所内部の運用改善にとどまり,当事者の主張又は立証の範囲を制限したり,審理の期間を法律上固定したりする効果を持たない。両者を同じ「迅速化」という言葉でひとくくりに論じると,性質の異なる制度を混同するおそれがある点に注意を要する。

第8 制度の射程と現時点で明らかでない点

機動的審理運営については,本記事作成時点で,裁判所ウェブサイト,法務省ウェブサイト及び日本弁護士連合会ウェブサイトのいずれにも,この語を用いた公表資料が見当たらない。てん補裁判官による手続の適法性を正面から争った裁判例も,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認する限り見当たらなかった。文書が「法的課題あり」として口頭弁論期日及び弁論準備手続期日を対象から除外している理由の具体的な内容,てん補の類型ごとの実施状況,並びに書記官が遠隔地から調書の記録等に関与する場合の技術的な整理についても,本記事作成時点で参照できる公的資料からは確認できなかった。運用の集積及び追加の公表資料の状況を踏まえ,これらの点は改めて整理する必要がある。

出典・参考資料

1 法令

民事訴訟法(平成8年法律第109号)87条の2・170条・175条・176条・381条の2・381条の6~381条の8(e-Gov法令検索)
裁判所法(昭和22年法律第59号)31条(e-Gov法令検索)

2 最高裁判所規則

①下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)6条・10条(裁判所ウェブサイト掲載PDF

3 公文書・行政資料

①最高裁判所事務総局「民事訴訟の機動的審理運営について(その1・その2)」及び「(参考)民訴フェーズ3前の実践を担当した裁判官からのヒアリング結果(その1・その2)」(令和8年4月,全4頁,PDFファイル。初出は弁護士山中理司のX(旧Twitter)投稿添付画像)
②裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」(裁判所ウェブサイト)
③法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」(法務省ウェブサイト)
④大阪弁護士会「『法定審理期間訴訟手続』に関する『改正民事訴訟規則』の問題についての意見書」(2025年12月12日,大阪弁護士会会長森本宏)

4 国会議事録

第208回国会参議院法務委員会議録第12号(2022年5月17日,国立国会図書館国会会議録検索システム)