第1 本人訴訟における結論
1 義務ではないが利用が促進されている
本人訴訟の当事者は,民事訴訟法第132条の11第1項が電子申立てを義務付ける者に含まれない。そのため,訴状,答弁書又は準備書面を紙で提出することもでき,適法な紙提出は原則として裁判所書記官が電子化して裁判所のファイルに記録する。
もっとも,民事訴訟規則第52条の12は,電子申立てに必要な機器を利用できない事情がある場合を除き,義務者以外の者にも電子申立てを行うことを求める趣旨の利用促進規定である。「本人には義務がないからmintsを使う必要はない」という説明と,「本人も必ずmintsを使わなければならない」という説明は,いずれも制度全体を正確に表していない。
2 本人が選択するときの比較
| 項目 | mints | 紙提出 |
|---|---|---|
| 法律上の選択 | 本人も利用できる | 本人は選択できる |
| 訴え提起の手数料 | 紙より1100円安い | 電子申立てより1100円高い |
| 記録確認 | 自宅等から閲覧・ダウンロードできる | mintsを併用しなければ裁判所での閲覧等が基本となる |
| 書面提出 | オンラインで提出する | 窓口又は郵送で提出する |
| 送達 | 届出後はシステム送達を受ける | 出力書面等による送達を受ける場合がある |
| 必要な環境 | パソコン,通信,メール,電話,PDF | 紙,印刷,郵送又は来庁 |
本記事は,本人が提出方法を選ぶための一般情報を扱う。請求の内容,時効,管轄,証拠又は相手方への反論は個別事件によって異なり,本記事だけで訴訟追行の当否を判断することはできない。
第2 利用できる事件とアカウント登録
1 新法事件と旧法事件
令和8年5月21日以後に訴えが提起された民事訴訟事件では,事件の種類を問わずmintsを利用できる。通常訴訟だけでなく簡易裁判所の少額訴訟も対象であり,支払督促も同日以後はmints,督促手続オンラインシステム又は紙で申し立てられる。裁判所,旧法事件及び対象外手続の区分は,mintsを利用できる裁判所と対象事件を参照されたい。
他方,同月20日以前に提起された旧法事件では,当事者双方に委任を受けた訴訟代理人があり,双方が利用を希望するなど経過措置の条件がある。本人がアカウントを持っているだけでは,旧法事件でmintsを利用できない。民事執行,倒産,労働審判,人事訴訟及び家事事件も同日のオンライン化対象外であるため,mintsの実務解説Q&Aで手続と基準日を確認する必要がある。
2 一般個人の登録
一般個人は,最寄りの地方裁判所・簡易裁判所の窓口又は裁判所の登録届出フォーム案内からメールアドレスを届け出る。招待メールからサインアップし,氏名,生年月日,住所,電話番号及びパスワードを登録した後,窓口又は郵送で本人確認を受ける。一般個人以外を含む区分別の必要資料と本人確認は,mintsの登録方法に整理している。
窓口では顔写真付本人確認資料を提示する。郵送では,発行日から3か月以内の印鑑登録証明書と登録印を押した所定の届出書をPDFでアップロードし,原本を裁判所へ送る。マイナンバーカードは窓口提示用であり,mintsへ画像をアップロードしてはならない。
一度登録したアカウントは複数事件で利用できる。登録と事件との関連付けは別であり,被告その他の既存事件の当事者は,本人確認完了後に裁判所から交付された12桁の招待キーを入力する。
第3 原告本人がmintsで訴えを提起する場合
1 新規申立てまでの準備
原告本人は,アカウントの本人確認を完了し,提出先裁判所,事件種別,原告・被告の表示,請求の趣旨及び請求の原因を記載した訴状PDF,資格証明その他の添付資料並びに手数料納付方法を準備する。mintsの利用は,訴状に記載すべき法的内容又は管轄の判断を代行するものではない。
新規申立一覧から提出先と事件種別を選び,必要事項を入力して訴状等を提出する。民事訴訟法第132条の10第3項では,申立事項が裁判所のファイルに記録された時に到達したものとみなされるため,提出操作後は受付状況と提出結果を確認する必要がある。
2 手数料と証拠の提出
裁判所の民事事件Q&Aは,mintsで訴えを提起する場合,紙の訴え提起より申立手数料が1100円安いと説明している。民事訴訟費用等に関する法律の別表では,訴え提起の手数料に加える郵便費用相当額が紙では2500円,電子申立てでは1400円であり,この差額が1100円である。
重要な書証は,新規申立てと同時ではなく,裁判所が事件情報へのアクセスを可能にした後,事件フォルダの記録一覧へPDFで提出する運用がある。証拠番号,証拠説明書,原本確認及び相手方への直送を区別し,mints後の証拠説明書を参照して提出する必要がある。
第4 被告本人がmintsを使う場合
1 紙の訴状を受け取った後
被告がシステム送達の届出をしていない場合,原告が電子提出した訴状も通常は出力書面で送達される。紙で訴状が届いても,事件番号,答弁書提出期限及び第1回期日を確認し,新法事件であればアカウント登録と招待キーによる関連付けを進めることができる。
登録完了を待っても答弁書期限は自動的に延びない。期限が迫る場合は係属裁判所へ連絡し,本人には紙提出も認められていることを踏まえて提出方法を決める。答弁書を出さず期日にも出頭しない場合,原告の請求どおりの判決が言い渡される可能性がある。被告本人に必要な初動だけを確認する場合は,mintsで被告になった本人の対応を参照されたい。
2 招待キーと答弁書
本人確認が完了した後,裁判所からメール又は書面で受け取った12桁の招待キーを入力すると,事件一覧から記録の閲覧及び答弁書等の提出が可能になる。第三者が文書送付嘱託等に応じてファイルを出すための事件アクセスキーとは別である。
答弁書は所定の記録一覧へ提出し,「記録外」へ置かない。提出後は完了表示と事件記録を確認する。住所その他の秘匿情報がある場合は,通常のPDFへそのまま含めず,mintsにおける当事者間秘匿で秘匿事項届出書面とマスキングの方法を確認する必要がある。
第5 紙提出を選んだ場合
1 裁判所書記官による電子化
本人が書面で適法に申立て等をした場合,民事訴訟法第132条の12により,裁判所書記官は原則として記載事項を裁判所のファイルへ記録する。紙を選んだから事件記録全体が紙のまま管理されるわけではない。
民事訴訟規則は,書記官による電子化後,提出者が提出日から1か月以内に原紙の閲覧を請求して電子化の正確性を確認できる仕組みを置いている。図面,写真,手書き部分又は薄い印字が重要な書面では,電子化された内容を確認する必要性が高い。
2 紙提出の実務上の確認
紙提出では,係属裁判所の所在地,担当部・係,必要な副本の通数,窓口受付時間,郵送方法及び期限内到達を確認する。期限当日に郵便へ差し出しただけで当然に期限内となるわけではなく,夜間又は休日にmintsを利用できることとの違いを踏まえて余裕を持つ必要がある。
第6 システム送達と期限管理
1 電子提出後の送達
民事訴訟規則は,電子申立てをする者がシステム送達を受ける旨の届出も行う仕組みを定める。アカウントを持つこと,事件へ関連付けられること及びシステム送達を届け出ることは,それぞれ別の段階である。
システム送達の効力は,①送達対象データを閲覧した時,②自分の端末へ記録した時,③通知が発せられた日から1週間が経過した時,のうち最も早い時に生ずる。メールを実際に読んだ日だけを送達日として管理すると,控訴その他の期間を誤るおそれがある。
2 家族又は支援者に操作を任せる場合
閲覧及びダウンロードはアクセス状況として記録され,送達効が生じ得る。家族又は支援者が操作を補助する場合でも,誰がいつmintsを確認し,送達された書面と期限を本人へ伝えるかを明確にする必要がある。送達と期限管理の詳細は,mintsのシステム送達と期限管理で説明している。
第7 本人サポートで受けられる支援
1 裁判所の端末等
裁判所における本人サポート態勢によれば,裁判所には来庁者用パソコン及びWi-Fiが整備され,一部の裁判所には紙書面をPDF化するスキャナが設置されている。端末ではOfficeソフトを利用できず,端末に保存したデータは利用終了後に削除されるため,書面の内容を事前に完成させ,必要に応じてUSBメモリ等でPDFを持参する。
裁判所の支援は,機器の利用,mintsの操作又は手続案内を中心とする。請求原因をどう構成するか,どの抗弁を主張するか,証拠が十分かといった法律判断を裁判所職員が一方当事者のために行うものではない。
2 法テラス等の支援
法テラスの本人サポート案内は,アカウント作成,書面のPDF化,アップロード,提出及び受領の支援例を示している。また,資力その他の要件を満たす場合,法律相談又は弁護士・司法書士費用の立替制度を利用できることがある。
操作支援で足りるか法律相談が必要かは分けて考える。高額請求,時効,専門的な損害計算,反訴,保全処分,控訴期間又は証拠の入手可能性が問題となる場合は,画面操作ができても法的争点は解決しないため,早期の専門家相談が考えられる。
第8 提出方法を選ぶための確認事項
1 mintsを選びやすい場合
パソコン,安定した通信,継続利用できるメールアドレス・電話番号及びPDF作成環境があり,通知を日常的に確認できる場合は,mintsにより記録確認,提出及び受領を一元化しやすい。遠方の裁判所へ継続的に書面を出す事件又は記録を頻繁に確認する事件では,オンライン利用の利点が大きい。
2 紙提出又は追加支援を検討する場合
機器を利用できない,二段階認証を継続できない,PDF化が困難である又はシステム送達の期限管理を確実に行えない場合は,紙提出,裁判所設備又は本人サポートを組み合わせる。いずれの方法でも,期限,提出先,提出内容及び受領確認を本人が管理する必要があり,操作方法だけを理由に法的な対応期限を徒過しないことが最優先である。
出典・参考資料
1 法令・規則
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)第109条の2ないし第109条の4,第132条の10ないし第132条の13(e-Gov法令検索)
②民事訴訟規則第52条の9ないし第52条の17(最高裁判所)
③民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)第3条第2項・別表第二(e-Gov法令検索)
2 裁判所・公的機関資料
①最高裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」
②最高裁判所「mintsについて」
③最高裁判所「mintsアカウント登録ガイド~一般個人編~」1頁~2頁
④最高裁判所「mints操作マニュアル~当事者ユーザ編~2.3版」(令和8年7月15日改訂)8頁~19頁・37頁~64頁・84頁~85頁
⑤最高裁判所「裁判所における本人サポート態勢」
⑥日本司法支援センター「本人サポートではどんな支援が受けられますか?」
3 文献
①最高裁判所事務総局民事局監修『条解民事訴訟規則(デジタル化関係等)―付 民事事件等に関する手続において用いる識別符号の付与等に関する規則』(司法協会,2025年)239頁~254頁