第1 裁判所の事務と文書の区分
裁判所の事務は,裁判事務と司法行政事務に区別されます。
本記事では,事件記録だけでなく裁判部で用いられる内部資料も含め,司法行政文書開示手続で用いられる文書区分と,国立公文書館への移管との関係を整理します。
平成28年等の個別答申が扱った事案と,令和6年1月30日の移管に関する申合せを区別して説明します。
1 裁判事務と司法行政事務
裁判事務とは,裁判所が本来の使命である「裁判」を行う事務をいいます。裁判所法3条1項は,裁判所が「一切の法律上の争訟を裁判し,その他法律において特に定める権限を有する」と定めており,これに関する事務が裁判事務に当たります。
これに対し司法行政事務とは,裁判所という組織が「裁判」を行うために必要な人的態勢及び物的設備を供給・維持し,裁判事務が円滑・効率的に行われるよう図ることを主たる内容とする事務をいいます。人事,会計,庁舎管理,統計,広報などがこれに当たります。
2 裁判文書と司法行政文書
裁判事務のために作成・取得される文書と,司法行政事務に関する文書では,取扱いの根拠が異なります。
ただし,司法行政文書開示手続で用いられる裁判事務に関する文書という概念と,事件記録等の保存・移管を説明するときの裁判文書という語は,文脈を区別する必要があります。
本記事では,事件記録・事件書類と,それらに当たらない裁判部の内部資料を分けて扱います。
司法行政文書は,人事・会計・組織などに関するもので,行政府省が保有している文書と類似しているものが多いといえます。これに対し裁判文書は,判決書や事件記録のように,行政府省の文書とは性質が全く異なる点に特色があります。次に述べるとおり,情報公開(開示請求)の場面では,このうち司法行政文書だけが開示手続の対象となります。
第2 「裁判事務に関する文書」の範囲
司法行政文書開示手続では,裁判事務に関する文書の範囲は,事件記録や事件書類だけに限られません。
審査委員会の答申は,専ら裁判事務のために用いるものとして作成・取得され,裁判部で管理されている文書も含まれるとしています。
事件記録等に当たらない内部資料については,その性質と管理のされ方を個別に確認することが出発点になります。
1 審査委員会が示した定義
審査委員会は,司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱にいう「司法行政文書」(裁判所の職員が職務上作成し,又は取得した司法行政事務に関する文書等であって,裁判所の職員が組織的に用いるものとして裁判所が保有しているもの)には裁判事務に関する文書は含まれないとした上で,裁判事務に関する文書の範囲について次のように述べています。
裁判事務に関する文書には,事件記録や事件書類(事件に関する書類で記録から分離されたもの)に限られず,専ら裁判事務のために用いるものとして作成し,又は取得した文書で,裁判所の裁判部において管理しているものが含まれると解するのが相当である。
(平成27年度(情)答申第5号・平成28年3月8日答申)
2 事件記録・事件書類に限られないこと
この定義の要点は,裁判事務に関する文書が,個々の事件の「事件記録」や「事件書類」に限られない点にあります。裁判所の職員が作成又は取得した文書であっても,専ら裁判事務のために用いるものとして裁判部(裁判官が属する部門)で管理している文書であれば,司法行政文書ではなく,裁判事務に関する文書に当たります。
この定義が示された平成27年度(情)答申第5号の事案では,成年後見人の選任に関して東京家庭裁判所が外部の団体との間で取り交わしていた文書(後見人候補者名簿を含む。)が問題となりました。審査委員会は,これらが後見人選任の審判という裁判事務のために家庭裁判所の裁判部が取得し,裁判部で管理している文書であるとして,司法行政文書には当たらないと判断しています。裁判所が外部から取得した名簿のような文書であっても,用いられる目的と管理する部門によっては裁判事務に関する文書になり得るということです。
第3 司法行政文書の開示請求との関係
1 開示手続の対象は司法行政文書に限られること
裁判所に対する情報公開は,行政機関に対する情報公開法とは別に,最高裁判所が定める「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」に基づいて運用されています。同要綱による開示手続の対象は司法行政文書に限られ,裁判事務に関する文書は司法行政文書ではないため,開示手続の対象になりません。
そのため,ある文書が裁判事務に関する文書に当たると判断されると,その文書は開示手続の対象外(不開示)とされます。裁判事務に関する文書のうち事件記録・事件書類そのものについては,別途,民事訴訟法や刑事訴訟法などが定める記録の閲覧・謄写の制度によって取り扱われます。
2 開示手続の対象外とされた裁判事務に関する文書の例
次の表は,各答申が開示手続の対象外とした文書の例を示しています。
対象外という結論と,文書自体の存否についてどこまで判断したかは別の問題です。
例えば,平成27年度(情)答申第4号では,原判断は不存在を理由としましたが,答申は,仮に文書が存在しても司法行政文書の開示手続の対象とならないとして,原判断を結論において妥当としています。
| 答申(答申日) | 対象となった文書 |
|---|---|
| 平成27年度(情)答申第3号 (平成28年3月8日) | 弁護士が後見人の場合に別の弁護士を後見監督人として付ける運用の基準を定めた文書(東京家庭裁判所) |
| 平成27年度(情)答申第4号 (平成28年3月8日) | 破産管財人の報酬を決定する基準・目安が分かる文書(神戸地方裁判所。原判断は不存在。答申は開示対象外として結論を是認) |
| 平成27年度(情)答申第5号 (平成28年3月8日) | 成年後見人の選任に関して外部の団体との間で取り交わした文書(後見人候補者名簿を含む。東京家庭裁判所) |
| 平成28年度(情)答申第7号 (平成28年9月1日) | 民事第21部の事務処理要領(東京地方裁判所) |
| 平成30年度(情)答申第24号 (平成31年3月15日) | 本人死亡後の後見等監督に関する運用が書いてある文書(東京家庭裁判所) |
| 平成31年度(情)答申第2号 (平成31年4月19日) | 特定の裁判官を戒告の懲戒処分とした際に作成・取得した文書(名古屋高等裁判所) |
これらの答申の全文は,最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会のウェブページから確認できます。下級裁判所の司法行政文書に関する答申の整理は,司法行政文書開示請求の対象とならないとされた下級裁判所の司法行政文書も参照してください。
第4 国立公文書館への移管との関係
1 移管の対象は裁判文書と司法行政文書に限られること
裁判所が保有する歴史資料として重要な文書の移管には,裁判文書と司法行政文書という区分があります。
ここで紹介する最高裁判所事務総局の職員による解説は,平成21年8月5日の申合せを説明した平成22年の資料であり,現在の個々の移管対象をそれだけで確定するものではありません。
同解説は,移管対象となる文書を次の2種類に分けて説明しています。
- 歴史資料として重要な判決書等の裁判文書
- 裁判所の過去の主要な活動を跡づけるために必要な,司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要な事項に係る意思決定及びその過程等が記録された司法行政文書
行政府省では移管されるのは行政文書(司法行政文書に相当するもの)ですが,裁判所の場合は判決書等の裁判文書も移管される点に特色があります。ここでいう裁判文書とは,裁判事務に関して作成される文書であり,「事件記録」と「事件書類」とがあります。民事事件の判決原本は,記録から分離された「事件書類」に当たり,事件記録よりも長い期間保存された上で移管の対象とされます(同解説当時,事件記録の保存期間は5年,民事事件の判決原本は50年と説明されています。記録の保存及び特別保存の運用は令和5年5月の最高裁判所事務総局の調査報告書等を経て見直されているため,現行の取扱いは事件記録等保存規程を確認してください。)。民事事件の判決原本の移管については,民事事件の判決原本の国立公文書館への移管で詳しく取り上げています。
2 移管の経路は内閣総理大臣を経由すること
移管の法的な枠組みは,公文書等の管理に関する法律14条に定められています。同条は,行政機関を除く国の機関について,次のように定めています。
- 国の機関は,内閣総理大臣と協議して定めるところにより,保有する歴史公文書等の適切な保存のために必要な措置を講ずる(1項)。
- 内閣総理大臣は,その協議による定めに基づき,国立公文書館において保存する必要があると認める場合には,当該国の機関との合意により,その移管を受けることができる(2項)。この場合,あらかじめ国立公文書館の意見を聴くことができる(3項)。
- 内閣総理大臣は,移管を受けた歴史公文書等を国立公文書館の設置する公文書館に移管する(4項)。
最高裁判所はこの「国の機関」に当たると解されます。したがって,最高裁判所が協議し,文書を移管する相手方は,法令上は内閣総理大臣であり,国立公文書館ではありません。裁判所から内閣総理大臣に移管された文書が,内閣総理大臣によって国立公文書館へ移管される,という二段階の経路になります。この点は審査委員会も,裁判所の歴史公文書等の移管方法は内閣総理大臣との間で協議することになっていて国立公文書館との間で協議することにはなっていないとして,最高裁判所が国立公文書館との間で移管方法に関する文書を取り交わした事実はないと判断しています(平成28年度(最情)答申第18号・平成28年6月28日答申)。
平成21年8月5日の内閣総理大臣・最高裁判所長官申合せを実施する取扱いとして,令和6年1月30日付けの実施申合せ及び移管手続に関する申合せが置かれています。
これらは,それぞれ平成25年6月14日付けの同名申合せを廃止すると明記しています。
令和6年の実施申合せは,裁判文書について,保存期間が満了した民事事件の判決原本及び附属書類,所定の条件を満たす特別保存記録等を挙げ,展示資料として使用中のものなどの除外事由も定めています。
司法行政文書については,重要な意思決定やその過程等を記録した文書などの類型と,保存期間満了後の移管手続を別に定めています。
司法行政文書の移管の枠組みは,司法行政文書の国立公文書館への移管で整理しています。
3 平成28年度答申第24号が示した移管方法の取決めの不存在
平成28年度(最情)答申第24号は,事件記録ではないが裁判に密接に関連する文書の移管方法について,最高裁判所が内閣府との間で取り交わした文書の存否を扱いました。
具体的には,裁判官等が申合せを行った結果を記載し,裁判部で管理する文書等の移管方法が問題となっています。
答申は,当時の申合せが対象とする歴史資料として重要な判決書等の裁判文書及び司法行政文書と,問題となった裁判部の内部資料とを区別しました。
その上で,当該内部資料の移管方法について,当時の申合せとは別の取決めが存在すると認める事情はないとして,移管方法に関する文書の不存在を認めています。
これは,当該申合せ等の内部資料自体が存在しないという判断ではありません。
審査委員会は,別の答申でも,このような文書は専ら裁判所の裁判部において作成・保管されるものであり,その内容は個別の裁判における審理及び判断の作用と密接に関連する場合が少なくないため,司法行政の作用である通達等によって一律に管理方法を規律することは裁判の独立との関係で相当でない,という趣旨を述べています(平成28年度(最情)答申第21号・平成28年7月15日答申)。
この答申は,平成28年当時の文書区分と移管方法の取決めの存否を判断したものです。
裁判所が保有する文書全般が移管されないことや,将来も移管対象が変更されないことを示すものとして一般化することはできません。
現在の移管対象は,令和6年の申合せの対象類型・除外事由と,個別の移管計画を区別して確認する必要があります。
裁判関連の文書と国立公文書館への移管の関係については,裁判関連文書は国立公文書館への移管が予定されていないことも参照してください。
出典
法令
公文書・答申
- 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会 答申等の一覧
- 平成27年度(情)答申第5号(平成28年3月8日) 答申書PDF
- 平成27年度(情)答申第3号(平成28年3月8日) 答申書PDF
- 平成27年度(情)答申第4号(平成28年3月8日) 答申書PDF
- 平成28年度(情)答申第7号(平成28年9月1日) 答申書PDF
- 平成28年度(最情)答申第18号(平成28年6月28日) 答申書PDF
- 平成28年度(最情)答申第21号(平成28年7月15日) 答申書PDF
- 平成28年度(最情)答申第24号(平成28年7月15日) 答申書PDF
- 令和6年1月30日付け実施申合せ PDF
- 令和6年1月30日付け移管手続申合せ PDF
- 平成30年度(情)答申第24号(平成31年3月15日) 答申書PDF
- 平成31年度(情)答申第2号(平成31年4月19日) 答申書PDF
文献
- 長谷川久美・有井広光「裁判所が保有する歴史公文書の移管」国立公文書館『アーカイブズ』第38号40頁(2010年) PDF
ウェブ資料
- 国立公文書館デジタル展示「公文書の世界 25.司法文書の移管(2)―裁判文書(司法府より)」 ページ