その他役所関係

(AI作成)77期二回試験の業務委託契約書の審査結果報告書

◯AIで作成した第77期司法修習生考試事務業務委託に関する契約書(令和6年10月28日付)(受注者は株式会社全国試験運営センター)の審査結果報告書を掲載しています。
「65期二回試験以降の事務委託に関する契約書,及び67期二回試験の不祥事」も参照してください。

目次

第1 総論
第2 修正事項
1 仕様書第6(人員要件)
2 仕様書第7の2(リハーサルのやり直し)
3 仕様書第8(機材設置及び原状回復)
4 仕様書第10の1(再実施義務及び費用負担)
5 契約書第4条及び仕様書第10の5(再委託の禁止と例外)
6 仕様書第10の8(会場変更の費用負担)
7 仕様書第12(大阪会場実施分の運搬手順等)
第3 追加事項
1 口頭指示による追加業務の禁止及び費用負担の明確化
2 検査及び支払時期の明確化(支払遅延防止法の準拠)
3 ウィルス感染症対策費用及び責任分界
第4 修正事項及び追加事項のまとめ
第5 総合所見

第1 総論

本職は、試験会場の運営実務に精通した弁護士として、株式会社全国試験運営センター(以下「貴社」といいます。)の依頼に基づき、最高裁判所(以下「発注者」といいます。)との間で締結される「令和5年度(第77期)司法修習生考試事務の業務委託契約書」および「仕様書」(以下、これらを総称して「本件契約書等」といいます。)について審査を行いました。

本件は、法曹資格付与の最終関門である「司法修習生考試(通称:二回試験)」の運営業務であり、その社会的意義の重さは計り知れません。また、相手方が「最高裁判所」であるという点は、通常の民間取引とは異なる「官公庁契約」特有の厳格な規律(会計法、予算決算及び会計令等)が適用されることを意味します。

審査にあたっては、以下の基本方針を採用しました。

  1. 実務的実現可能性の重視: 官公庁契約、特に入札を経た契約(あるいは会計法規に準拠した標準約款)においては、契約条文そのものの修正は極めて困難であるのが通例です。したがって、条文修正が認められない場合を想定し、現場レベルでの「運用ルール(議事録等)」によるリスクヘッジ策を並行して検討しました。

  2. 最大リスクの回避: 仕様書に内在する「再試験実施義務」や「翌朝9時必着の答案輸送」などの、貴社の経営基盤を揺るがしかねない条項に焦点を当て、防衛策を構築しました。

  3. 合理的利益の保護: 発注者の優越的地位による一方的な負担押し付けを防ぐため、行政実務の理屈(官公庁契約精義等)を根拠とした対等な交渉材料を提供します。

以下、貴社の合理的利益を守るための具体的な審査結果を報告します。

第2 修正事項

1 仕様書第6(人員要件)

現在の条文

「試験監督者の少なくとも半数は、過去に『国家資格試験』又は『大学入学試験』の会場責任者、会場副責任者、監督、試験官等の実績(中略)が10回以上ある者を配置し、その余の試験監督者には、同実績が3回以上ある者を配置する。」

リスク・問題点

求められる経験値が「実績10回以上」と極めて高く、この要件を満たす人材を確保し続けることは容易ではない。特に、当日の急病等で欠員が出た場合、代わりの補充要員も同等の要件を満たしている必要があるため、人材調達不全による仕様書違反(契約不履行)のリスクが高い。

修正条項案

「(前略)実績が10回以上ある者を配置することを目途とし、確保が困難な場合は、発注者と協議の上、十分な研修を受けた者をもって代えることができる。」 修正条項の理由 人材確保難による契約不履行を避けるため、要件を努力義務化するか、代替措置を設ける必要がある。

相手方向けの修正要望文

「試験の公正性確保のため、監督員に高度な経験が求められる点は重々承知しております。しかしながら、『実績10回以上』という要件は極めて厳格であり、特に当日の急病等による欠員補充の際、物理的に要件を満たす要員の手配が間に合わないリスクがございます。 つきましては、不測の事態に備え、緊急時の代替要員に関しては、実績回数にかかわらず、事前に貴所と協議した内容の『特別研修』を受講した者であれば配置可能とするよう、運用ルール(打合せ記録簿等)での緩和措置をお願い申し上げます。」

2 仕様書第7の2(リハーサルのやり直し)

現在の条文

「リハーサルを実施した結果、試験監督者等の業務に対する理解度が低いことが判明した場合は、受注者は、同日中のリハーサルのやり直しや、試験監督者等の交替等をしなければならない。」

リスク・問題点

「理解度が低い」という基準が極めて主観的であり、発注者(監督職員)の恣意的な判断で、際限なくやり直しを命じられるリスクがあります。これは追加の人件費発生や、翌週の本番に向けたスタッフの疲弊、士気の低下を招きます。また、「同日中」のやり直しは、会場使用時間の制限やスタッフの労働時間管理(労基法上の問題)との兼ね合いで不可能な場合があります。

修正条項案

「リハーサルを実施した結果、事前に発注者と合意した『事務要領』記載の手順と比較して著しい乖離が見られる等、客観的に試験監督者等の業務に対する理解度が低いことが判明した場合は、(中略)受注者は、同日中のリハーサルのやり直し(ただし、労働基準法等を遵守し得る範囲内に限る)や、試験監督者等の交替等をしなければならない。」

修正条項の理由

判断基準を客観化し、かつ法令遵守の観点から無制限な拘束を防ぐ必要があります。

相手方向けの修正要望文

「リハーサルの質の確保については異論ございませんが、判断基準が曖昧ですと現場が混乱いたします。事前に提出する『事務要領』を基準とし、そこからの逸脱の程度で判断いただくよう明記をお願いします。また、スタッフの労働時間管理の観点から、『同日中のやり直し』には限界があることをあらかじめご承知おきください。」

3 仕様書第8(機材設置及び原状回復)

現在の条文

仕様書第8の2(4)(5)「プリンタ8台(中略)パソコンと1台ずつUSB接続して使用でき(中略)ノートパソコン及びプリンタ各4台(大阪会場で使用)」
仕様書第10の2「施設、付属設備、その他備品等を汚損、き損、紛失等した場合は、受注者が原状に回復し、その損害賠償義務を負う。」

リスク・問題点

PC・プリンタ等のIT機器を持込み、設置・接続確認まで行う義務が課されている。当日のドライバ不適合や動作不良等は運営停止に直結するが、その責任分界が不明確である。また、施設への損害賠償義務も広範に及ぶ。

修正条項案

「(前略)接続して使用でき(中略)るものを用意する。ただし、現地での接続設定及び動作確認において、発注者の用意する機器との相性問題等により不具合が生じた場合は、受注者はその責めを負わない。」 修正条項の理由 持込機材と既存設備との技術的な接続トラブルを、一方的に受注者の責任とされることを防ぐためである。

相手方向けの修正要望文

「持込み機材(プリンタ等)の設置についてですが、貴所ご用意のパソコンやネットワーク環境との相性問題(ドライバ不適合等)により、接続不具合が生じる可能性はゼロではありません。こうした技術的に回避困難な事象については、弊社の責任範囲外(契約不適合に該当しない)であることを確認させてください。 また、原状回復義務につきましても、通常の使用に伴う軽微な摩耗等は対象外とし、弊社の故意又は重大な過失による汚損等に限定するよう、責任範囲の明確化をお願いいたします。」

4 仕様書第10の1(再実施義務及び費用負担)

現在の条文

「受注者の故意又は過失によって考試の公正性が害されるなどの事情(問題等の漏えい、答案回収・整理上の不備などの発生)により、司法修習生の修習終了判定ができないときには、受注者は、損害賠償義務を負うほか、受注者の負担により、発注者の指定する日時に考試を再実施しなければならない。」

リスク・問題点

本条項は、本件契約における最大かつ致命的なリスク要因です。

第一に、「再実施」の費用は、会場費、人件費、旅費交通費、問題作成に伴う諸経費などを含め、契約金額(約4268万円)を遥かに超過する数億円規模に達する可能性があります。特に、再実施の場合には仕様書第10の3(試験会場の無償提供)が適用されないと明記されており、会場確保費用までもが自費負担となる恐れがあります。

第二に、「過失」の程度が限定されていません。軽微な過失(例:現場スタッフの些細な確認ミス)であっても、結果として修習終了判定ができなくなれば、莫大な責任を負わされる構造になっています。

第三に、再実施の日時が「発注者の指定する日時」とされており、貴社の都合(人員確保の可否等)が考慮されない恐れがあります。

修正条項案

「受注者の重大な過失によって考試の公正性が害されるなどの事情(中略)により、司法修習生の修習終了判定ができないときには、受注者は、損害賠償義務を負うほか、受注者の負担(ただし、本件契約金額を上限とする)により、発注者と協議の上決定した日時に考試を再実施しなければならない。」

修正条項の理由

民法上の原則や商慣習に照らしても、軽過失によって無限責任に近い負担を負うことは公平性を欠きます。特に「再実施」という現状回復措置は、金銭賠償以上の負担を強いるものであるため、その発動要件は「重大な過失」に限定されるべきです。また、リスク管理の観点から責任の上限設定は不可欠です。

相手方向けの修正要望文

「仕様書第10の1についてご相談です。再実施業務は、弊社の経営存続に関わる重大な責務となります。つきましては、責任の所在を明確にするため、『過失』を『重大な過失』に限定し、かつ費用負担の上限を設定いただきたく存じます。もし、会計法規上の制約等により契約文言の修正が困難な場合は、『どのようなケースが本条の過失に該当するか』について別途協議し、免責事由(不可抗力や第三者の行為等)を具体的に定めた確認書(打合せ記録簿)を作成させていただきたく存じます。」

5 契約書第4条及び仕様書第10の5(再委託の禁止と例外)

現在の条文

契約書第4条「受注者は、業務を第三者に委託し、又は請け負わせてはならない。ただし、書面による発注者の承諾を得た場合は、この限りでない。」

仕様書第10の5「(前略)ただし、以下の(1)及び(2)を除いた業務について、発注者が書面により承諾した場合は、この限りではない。」

リスク・問題点

本業務には「大阪会場から埼玉への答案搬送(仕様書第12)」が含まれていますが、貴社が自社保有の車両と運転手のみでこれを完遂することは現実的ではありません。運送業者、設営業者、廃棄業者等の利用は必須ですが、これらが形式的に「再委託禁止」に抵触し、契約解除事由とされるリスクがあります。特に、契約締結後に承諾を得るプロセスでは、万が一承諾が降りなかった場合に業務が停止します。

修正条項案

(仕様書第10の5に以下を追記)

「なお、仕様書第8に定める会場設営業務、第10の4に定める廃棄処分業務、及び第12に定める運搬業務については、専門業者への再委託をあらかじめ承諾するものとする。」

修正条項の理由

運送や設営などの専門性が高い付帯業務については、再委託が前提となるのが業界の常識です。個別の書面承諾手続きの事務負担を軽減し、かつ承認リスクを排除するために、契約段階での包括的承諾が必要です。

相手方向けの修正要望文

「運搬(大阪-埼玉間)、会場設営、廃棄物処理等の業務につきましては、専門性を有する外部協力会社を活用することが不可欠です。これらについては、契約締結と同時に再委託をご承諾いただくか、あるいは仕様書上『承諾済み』と明記していただきたく存じます。早急に予定している協力会社リストを提出いたしますので、ご確認をお願いいたします。」

6 仕様書第10の8(会場変更の費用負担)

現在の条文

「天災、感染症のまん延その他の不可抗力により、試験会場が変更される場合がある。この場合、変更後の試験会場のうち裁判所の施設(司法研修所を除く。)の会場については、第8の2の(1)のア、別紙第1の記9の(2)の配布物の仕分けを除き、受注者による実施等を免除する。」

リスク・問題点

会場が変更された場合、「実施等を免除する」とあるだけで、それに伴い貴社に生じた追加費用(例:当初会場のキャンセル料、移動に伴う輸送費の増加、スタッフの再配置コスト)の発注者負担について明記されていません。官公庁契約では「書いていないことは払わない」が原則となるため、持ち出しとなるリスクがあります。

修正条項案

「(前略)受注者による実施等を免除する。なお、会場変更に伴い受注者に生じた追加費用については、発注者と協議の上、別途変更契約を締結し、発注者がこれを負担する。」

修正条項の理由

発注者の都合や不可抗力による仕様変更(会場変更)に伴うコストは、当然に発注者が負担すべきものです。会計法規上も、仕様変更に伴う変更契約は認められています。

相手方向けの修正要望文

「万が一の会場変更の際、急な輸送ルート変更やスタッフの手配変更で追加コストが発生する可能性がございます。その際は、実費ベースでの変更契約に応じていただけることを、本条項または議事録等で確認させてください。」

7 仕様書第12(大阪会場実施分の運搬手順等)

現在の条文

「(安全措置として)耐火、防水及び形状の変わらない素材(ジュラルミン等)のボックス等を使用すること。(中略)運搬車両は、答案を運搬するためだけの専用車両とし、車外から運搬物が見えないようにし、ドア及び荷台ともに施錠可能なものとする。」

リスク・問題点

要求スペックが非常に具体的かつ厳格です。「ジュラルミンケース」等の耐火・防水容器を数百人分確保することや、「専用車両」の手配は高額なコストがかかります。最大の問題は、大阪会場での試験終了後、翌朝9時厳守で埼玉(司法研修所)へ搬入しなければならない点にあります。台風、交通事故渋滞など、物理的に回避不可能な事情で遅延した場合でも、直ちに契約不履行問われる構造になっており、免責規定が存在しません。

修正条項案

「(前略)ボックス等を使用すること。ただし、同等の安全性が確保できると発注者が認めた場合は、他の素材でも可とする。(中略)施錠可能なものとする。なお、交通事情や天候不順等、受注者の責めに帰すべからざる事由により到着が遅延した場合は、遅延損害金の対象としないほか、これを理由とする契約の解除は行わない。」

修正条項の理由

資材調達の柔軟性を確保し、不可抗力による遅延リスクをヘッジするためです。

相手方向けの修正要望文

「セキュリティ確保は最優先事項ですが、資材(ジュラルミンケース等)の調達状況によっては、同等の強度を持つ代替品の使用をご相談させてください。また、長距離輸送ですので、事故渋滞等の不可抗力による遅延については免責される旨を確認させてください。」

第3 追加事項

1 口頭指示による追加業務の禁止及び費用負担の明確化

リスク・問題点

現場では、監督職員から「これもやってほしい」と口頭で指示されることが多々あります。しかし、国の契約実務上、口頭指示に基づく業務には対価が支払われない(「ボランティア」とみなされる)原則があります(官公庁契約精義参照)。なし崩し的な業務拡大を防ぐ必要があります。

追加条項案

「仕様書に定めのない業務を行う必要が生じた場合、発注者は書面により指示を行うものとし、当該業務の実施により費用が発生する場合は、事前に変更契約を締結するものとする。緊急を要し、事前の変更契約が困難な場合は、事後速やかに精算変更を行う。なお、監督職員から現場にて口頭指示があった場合でも、それが仕様書の範囲を超える業務であるときは、事後に書面化し、相当な対価を支払うものとする。」

追加条項の理由

会計法規に基づき、適正な対価を確保するためです。

相手方向けの追加要望文

「現場での混乱を避けるため、仕様書外の追加業務が発生した際は、必ず書面(指示書)をいただき、費用負担についても協議させていただく原則を確認させてください。」

2 検査及び支払時期の明確化(支払遅延防止法の準拠)

リスク・問題点

契約書第6条、第7条には検査・支払の規定がありますが、国の担当者が多忙等を理由に検査を先延ばしにする可能性があります。「政府契約の支払遅延防止等に関する法律」に基づく貴社の権利を明確にし、キャッシュフローを安定させる必要があります。

追加条項案

(契約書第6条または仕様書に追記)

「発注者は、受注者から業務完了の通知を受けた日から10日以内に検査を完了しなければならない。検査に合格した後、適法な支払請求書を受理した日から30日以内に契約代金を支払うものとし、これを遅延した場合は、政府契約の支払遅延防止等に関する法律に基づく遅延利息を支払う。」

追加条項の理由

法律で定められた国の義務(検査10日以内、支払30日以内)を契約上も再確認し、履行を促すためです。

相手方向けの追加要望文

「決算処理の関係上、業務終了後の検査及びお支払いのスケジュールを厳守いただきたく存じます。法令に基づく10日以内の検査完了と30日以内のお支払いについて、改めてご確認をお願いいたします。」

3 ウィルス感染症対策費用及び責任分界

リスク・問題点

仕様書には「感染症のまん延」という文言がありますが、具体的対策(消毒液、マスク、検温スタッフの増員等)の費用負担が不明確です。これらを全て「管理費」として貴社負担にされるリスクがあります。

追加条項案

「感染症対策として、仕様書作成時点で想定されていない特別な措置(追加の消毒、検温要員の配置、防護具の購入等)が必要となった場合、その費用は発注者の負担とする。」

追加条項の理由

予測不能な感染症対策コストは、発注者が負担すべき公衆衛生上の経費であるためです。

相手方向けの追加要望文

「感染状況に応じた追加対策が必要になった場合、消耗品費や追加人件費をご負担いただけるよう、事前の合意をお願いいたします。」

第4 修正事項及び追加事項のまとめ

以下に、契約締結に向けた交渉・確認事項を優先度順に整理しました。

特に「優先度5」の項目は、貴社の存続に関わる重大リスクであり、契約書の文言修正が叶わない場合でも、必ず「打合せ記録簿」等の公文書で運用ルールを確定させ、かつ損害保険によるカバーを確認する必要があります。

番号項目内容優先度が高い理由相手方の受入可能性優先度
1【修正】仕様書第10の1 (再実施義務)再実施時の費用負担を「重大な過失」に限定し、上限額を設定する。または保険でカバーできるよう運用を明確化する。数千万円〜数億円規模の損失リスクがあり、会社の存続に関わるため。低 (条文修正は困難。運用協議で対応すべき)5
2【追加】口頭指示の禁止と費用負担仕様書外業務は「書面指示」を必須とし、追加費用を支払うことを明記する。現場での「タダ働き」を防ぎ、適正な利益を確保するため(会計法規上の原則)。中 (原則論なので正論として通りやすい)5
3【修正】契約書第4条 (再委託の承諾)運送、設営等の必須業務について、契約時に包括的な再委託承諾を得る。無許可再委託による契約解除リスクを回避するため。高 (実務上必須であるため理解されやすい)4
4【追加】検査・支払期限の明記検査10日以内、支払30日以内の法定ルールを遵守させる。資金繰りの安定化と、不当な検査引き延ばしを防止するため。高 (法律上の義務であるため拒否できない)4
5【修正】仕様書第12 (運搬の免責)交通事情等の不可抗力による遅延を免責とし、容器指定に柔軟性を持たせる。物理的に回避不可能な遅延による損害賠償を防ぐため。中 (「責めに帰すべき事由」の解釈として合意可能)3
6【修正】仕様書第7の2 (リハーサル)「理解度が低い」の基準を客観化し、労働法令の範囲内でのやり直しに限定する。担当官の主観による無限の業務命令(パワハラ的運用)を防ぐため。中 (運用マニュアルの承認等で対応可能)3
7【修正】仕様書第10の8 (会場変更)会場変更に伴う追加費用(キャンセル料、輸送費増)の発注者負担を明記する。不可抗力によるコスト増を貴社が被ることを防ぐため。中 (変更契約の対象として認められやすい)3
8【修正】契約書第8条 (遅延損害金)遅延損害金の上限設定や、免責事由の具体化を図る。履行遅滞時のペナルティを予測可能な範囲に留めるため。低 (政府標準約款のため変更は極めて困難)2
9【追加】感染症対策費想定外の感染症対策コストを発注者負担とする。利益圧迫要因を排除するため。中 (予算の範囲内で柔軟に対応される傾向あり)2
10【修正】仕様書第6 (人員要件)スタッフ経験要件の緩和、または要件適合者の確保スケジュールの見直し。予備人員(バックアップ)についての要件緩和協議。人材確保難(特に当日の欠員補充)による契約不履行リスクを下げるため。低 (入札条件の根幹に関わるため変更困難)2

第5 総合所見

戦略的判断:重要な修正交渉(主に運用面)が必要

本件契約書等は、最高裁判所という発注者の性格上、極めて厳格かつ一方的な条項が含まれており、特に**「再実施費用の全額負担義務(仕様書第10の1)」は、貴社にとって致命的な経営リスク**となり得ます。

しかしながら、相手方が国(最高裁)である以上、契約書の条文そのものを書き換えることは、会計法規や前例踏襲の壁に阻まれ、極めて困難であることが予想されます。真正面から条文修正を要求しても、「規定ですので」と一蹴される可能性が高いでしょう。

したがって、以下の戦略を推奨いたします。

  1. 「条文修正」よりも「運用ルールの文書化」に注力する:
    修正要望は出しつつも、それが通らないことを前提に、「再実施義務が生じる『過失』とは具体的に何か」「交通遮断等の不可抗力による遅延をどう扱うか」を協議し、その結果を「打合せ記録簿」や「質問回答書」という公的文書の形で残してください。これにより、契約書の実質的な解釈を貴社有利(あるいは公平)なものに固定化します。
  2. 損害保険のフル活用:
    再実施リスクについては、契約交渉での完全回避は不可能です。直ちに保険会社と相談し、「再試験費用」及び「原状回復費用」までカバーできる履行保証保険や賠償責任保険への加入を進めてください。保険料がコストアップになりますが、これは必要経費と割り切るべきです。
  3. 再委託申請の即時実行:
    運送(大阪-埼玉便)については、契約締結と同時に「再委託承認申請書」を提出し、即座に承諾印をもらってください。「後でいいや」は禁物です。
  4. 実地シミュレーションと予備人員の確保:
    大阪-埼玉間の輸送については、実際に指定車両・時間帯での走行テストを行い、余裕時分を検証してください。また、厳格な経験要件を満たすスタッフについては、欠勤を見越して1.2~1.5倍の人員プールを確保しておくことが必須です。

結論として、本契約はそのまま締結するにはリスクが高すぎますが、運用面での防衛策(文書化と保険)を講じることを条件に、受任することは可能と判断します。法曹養成の根幹を支える名誉ある業務ですが、あくまで「ビジネス」として、冷徹なリスク管理をお願いいたします。

(AI作成)内閣法制局ご説明資料に基づくAI推進法の解説

◯本ブログ記事は,①人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(仮称)内閣法制局ご説明資料(令和7年1月の内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の文書),及び②人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(仮称)ご指摘事項とその対応について(令和7年1月20日付の内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の文書)に基づき,AIで作成したものです。
    なお,人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年6月4日法律第53号)(以下「AI法」といいます。)につき,国会での修正はありませんでした(衆議院HPの「閣法 第217回国会 29 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」参照)。

目次

はじめに:AI推進法の施行と弁護士実務

第1 本法案の全体像と法的位置づけ

1.AI技術の特性と新法の必要性

2.法律の目的(第1条関係)

第2 最重要概念:「人工知能関連技術」の定義(第2条関係)

1.条文(案)の構造

2.定義のポイントと実務上の含意

第3 法案の核心:「基本理念」(第3条関係)の法的含意

1.基本理念の全体像

2.第4項:「適正な実施」の確保(リスク対応)

3.第5項:国際協調と「主導的な役割」

第4 各主体の「責務」規定(第4条~第8条関係)

1.「活用事業者」の定義(第7条関係)

2.「活用事業者」の協力義務(第7条関係)

3.「研究開発機関」と「大学」への配慮(第6条関係)

第5 基本的施策(第2章)における注目点

1.第13条:ソフトロー(指針・規範)の重要性

2.第16条:国の調査権限と行政指導

第6 推進体制:人工知能戦略本部(第4章関係)

1.設置の趣旨

2.本部の権限(第25条関係)

第7 法案審査の過程で見るべきその他の修正点

1.表現の精緻化:「ための」「に関する」「に対する」

2.「国民の責務」(第8条)の努力義務化

3.附則第2条(検討規定)の含意

第8 まとめと弁護士実務への示唆


内閣法制局ご説明資料に基づくAI推進法の解説

はじめに:AI推進法の施行と弁護士実務

弁護士の先生方におかれましては,日々の業務に邁進されていることと拝察いたします。

さて,ご承知のとおり,AI(人工知能)技術,特に生成AIの急速な発展は,我々法務実務家に対し,著作権,個人情報保護,契約責任,労働,さらには安全保障といった多様な分野で,これまでにない新たな法的課題を突きつけています。

こうした状況下で,令和7年6月4日に公布され,同年9月1日に施行された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下「AI推進法」)は,日本政府がこれらの課題にどう向き合い,AIの「振興」と「規制」のバランスをどのように取ろうとしているかを示す,極めて重要な法律です。

本稿は,法案立案段階(令和7年1月)の内閣府内部資料である「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(仮称)ご指摘事項とその対応について」及び「同 内閣法制局御説明資料」(以下,併せて「本件文書」)を全面的に参照し,「弁護士でもあるプロのライター」の立場から,弁護士の先生方が実務上関心を持たれるであろう法的な論点や,条文の背後にあるロジックを解説するものです。本法は理念法でありながら,将来の具体的な規制や企業のコンプライアンス体制のあり方に直結する,重要な視点を多数含んでいます。


第1 本法案の全体像と法的位置づけ

1.AI技術の特性と新法の必要性

本件文書は,AI推進法がなぜ「新法」として必要とされたのか,その前提となるAI技術の特性を詳細に説明しています。

(1) 本件文書が示すAI技術の特性

本件文書(ご説明資料)は,AI技術の特性を以下の4点に整理しています。

  • ア.創造性・自律性: 人の認知,推論及び判断に係る能力を代替し,創造的なアウトプットを自律的に生み出す。

  • イ.汎用性・基盤性: あらゆる分野での活用が想定され,経済社会の発展の基盤的な技術となる可能性。

  • ウ.デュアルユース(DU)技術: 民生目的のほか国防目的にも転用可能であり,国家安全保障上重要な技術である。

  • エ.急速な発達と社会実装: 基礎研究から社会実装までの期間が短く,各プロセスが並行して進む(コンカレントエンジニアリング)。

(2) 既存法(科学技術・イノベーション基本法デジタル社会形成基本法)との関係

弁護士の先生方であれば,まず「なぜ既存の法律では対応できないのか」という疑問を持たれるかと存じます。本件文書(ご説明資料)によれば,技術振興に関しては「科学技術・イノベーション基本法」が,技術の利活用に関しては「デジタル社会形成基本法」が既に存在します。

(3) 新法の必要性

しかし,本件文書は,これらの法律では不十分である理由を明確に説明しています。

  • ア.「研究開発」から「活用」までの一体的推進の必要性
    上記(1)エの特性(コンカレントエンジニアリング)から,基礎研究から社会実装までを一体的に見通す施策が必要です。しかし,科学技術・イノベーション基本法は「研究開発の推進のみを対象」とし,デジタル社会形成基本法は「情報通信技術を利用した情報の活用のみを対象」としているため,このプロセス全体を一体的にカバーできませんでした。
  • イ.国家安全保障の観点の欠如
    上記(1)ウの特性(デュアルユース)にもかかわらず,既存の両法には「国家安全保障の観点からの政策理念・施策に関する規定がない」ため,安全保障上重要な技術としてAIを位置づける新たな枠組みが必要とされました。

2.法律の目的(第1条関係)

AI推進法第1条(目的)は,こうした背景を踏まえ,既存の法律による施策と「相まって」,AIの研究開発及び活用の推進を「総合的かつ計画的」に図ることとしています。これは,AI政策に関する最上位の基本法(理念法)としての性格を示すものです。


第2 最重要概念:「人工知能関連技術」の定義(第2条関係)

本法の適用範囲を画する第2条の定義は,弁護士の先生方にとって最も精緻な分析が必要な部分です。

1.条文(案)の構造

本件文書によれば,第2条の定義(案)は以下のとおりです。

「この法律において,「人工知能関連技術」とは,人工的な方法により人間の認知,推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し,その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術をいう。」

この定義は,二つの部分から構成されています。

(1) 第1部:中核機能(「脳」)

「人工的な方法により人間の認知,推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術」

これはAIの「中核」機能(機械学習,深層学習,自然言語処理等)を指します。

(2) 第2部:出力・周辺機能(「手足」「口」)

「入力された情報を当該技術を利用して処理し,その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術」

これはAIの中核機能を利用し,結果を「出力」するシステムに関する技術を指します。

2.定義のポイントと実務上の含意

(1) 「代替」と「推論」の採用

本件文書(ご説明資料)は,他の法律(道路運送車両法やスマート農業技術の法律)の例を引きつつ,「人が行うことのできる知的な能力を示した上で,これを代替する機能として定義する」と説明しています。

注目すべきは,自動車の運転などとは異なり,「予測」ではなく**「推論」**という言葉を採用した点です。これは,単なるデータからの未来予測に留まらず,より複雑な論理的帰結を導き出す能力(まさに生成AIが得意とする能力)を明確に射程に入れていることを示唆します。

(2) 「出力する機能」の重要性

法案審査の過程では,「『出力する機能』を定義の要素として加える必要があるか」との指摘がありました。

これに対し,本件文書(ご指摘対応文書)は,この「出力する機能」に係るAI特有の技術として,以下の2点を挙げ,定義に含める必要性を明確に回答しています。

  • ア.電子透かし(ウォーターマーク): AIが生成したことを示す識別情報をコンテンツに埋め込む技術。

  • イ.ガードレール: 不適切な出力を抑止する技術。

立案者は,これら(電子透かし,ガードレール)を「本法案の目的の一つである人工知能関連技術の適正な利用のためには不可欠な技術である」と断言しています。

(3) 弁護士実務上の含意

この定義により,AIモデル本体(第1部)だけでなく,生成物の信頼性や安全性を確保するための周辺技術(電子透かし,ガードレール),さらには本件文書(ご説明資料)が例示する「データの学習を高速化するための半導体技術」までもが,本法の「人工知能関連技術」に含まれることになります。

これは,将来的にAIの「適正な利用」に関する施策(例えば,電子透かしの実装義務化や,不適切な出力を防ぐガードレールの設置義務など)が導入される際,その法的根拠が本条の定義に求められることを意味します。偽情報(ディープフェイク)による名誉毀損や,AI生成物の著作権侵害といった法的紛争において,「出力」を制御する技術の有無や実効性が,開発者・提供者の法的責任(注意義務)を判断する上で重要な要素となる可能性を示唆しています。


第3 法案の核心:「基本理念」(第3条関係)の法的含意

1.基本理念の全体像

第3条の基本理念は,本法が目指す価値の序列とバランスを示すものです。第2項(経済社会の発展の基盤・安全保障),第3項(基礎研究から活用までの一体的推進)で「振興」を掲げる一方,第4項と第5項で「リスク対応」と「国際協調」を定めています。特に弁護士実務と関連が深いのは,第4項と第5項です。

2.第4項:「適正な実施」の確保(リスク対応)

(1) 条文(案)の確認

「人工知能関連技術の研究開発及び活用は,不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には,犯罪への利用,個人情報の漏えい,著作権の侵害その他の国民生活の平穏及び国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み,その適正な実施を図るため,人工知能関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保その他の必要な施策が講じられなければならない。」

(2) 「助長するおそれ」への修正

本件文書(ご指摘対応文書)によれば,当初案の「助長させるおそれ」から,「助長するおそれ」に修正されています。これは用例の多寡に基づく修正ですが,「させる」という使役形を避けたことで,AIの動作主体性をやや後退させ,AIが「用いられる」ことによるリスクを客観的に記述する表現となっています。

(3) リスクの具体例

本件文書(ご説明資料,ご指摘対応文書)は,懸念されるリスクの具体例として,弁護士が日常的に遭遇し得る事案を挙げています。

  • ア.不正な目的による研究開発: マルウェア生成を容易にするためのコンピュータウイルスの作成方法等の学習。

  • イ.不適切な方法による研究開発: 海賊版サイトと知りながら学習対象から除外せず,既存の著作物に類似したコンテンツの出力を防止するための措置を怠る(著作権の侵害)。

  • ウ.不正な目的による活用: 詐欺に用いる目的で他人の合成音声を出力させる。

  • エ.不適切な方法による活用: 企業の従業員が,入力された情報の共有先を把握しないまま,顧客の個人情報や会社の営業秘密を入力する(個人情報等の漏えい)。

これらは,AI利用に関する企業のコンプライアンス体制や利用ガイドラインの策定において,最低限考慮すべきリスクシナリオとなります。

(4) 「透明性の確保」の具体例

本件文書(ご説明資料)は,「透明性の確保その他の必要な施策」の具体例として,「電子透かし」の導入,「個人情報の学習を防止する措置」,「データ収集の手法について関係者への情報提供の実施」などを例示しています。弁護士としては,クライアント(特に開発事業者)に対し,これらの透明性確保措置が,将来的な法的リスクを低減する上で重要であることを助言する必要があります。

3.第5項:国際協調と「主導的な役割」

(1) 「努めるものとする」への修正

本件文書(ご指摘対応文書)によれば,この条項(案)も,当初案の「主導的な役割を果たすものとする」から,「主導的な役割を果たすよう努めるものとする」へと修正されています。

(2) 修正のロジック

この修正理由が重要です。本件文書によれば,「『主導的』か否かは他国との関係で相対的に決まるものであり,我が国の意思のみで主導的な役割を果たすことは困難ではないか」という法制局(想定)からの指摘を受け,「方針に沿って絶えず努めていくという意思を表すため」に修正したとあります。

これは,G7広島AIプロセス等に見られる国際的なルール形成において,日本がリーダーシップを発揮し続けるという政策的意志を示すと同時に,法文としての現実的な着地点を探った結果と言えます。


第4 各主体の「責務」規定(第4条~第8条関係)

本法は,国(第4条),地方公共団体(第5条),研究開発機関(第6条),活用事業者(第7条),国民(第8条)に至るまで,各主体に「責務」を課しています。特に弁護士の先生方に注目していただきたいのは,民間企業に相当する「活用事業者」の責務です。

1.「活用事業者」の定義(第7条関係)

まず,責務の主体となる「活用事業者」の定義(案)が非常に広範です。

「人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)」

本件文書(ご説明資料)によれば,これはAIモデルの開発者やAIサービス提供者だけでなく,業務効率化のために社内で生成AIを利用する一般企業(ユーザー企業)までも広く「活用事業者」として含み得るものとなっています。クライアントがAIを少しでも事業で使えば,本条の対象となる可能性がある点に留意が必要です。

2.「活用事業者」の協力義務(第7条関係)

(1) 「しなければならない」という法的義務

活用事業者の責務は二つあります。一つは「積極的な人工知能関連技術の活用」(努力義務)ですが,法的に重要なのは二つ目の「協力義務」です。

「(活用事業者は)第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。」

注目すべきは,他の主体の協力義務(第6条の研究開発機関や第8条の国民)が「協力するよう努めるものとする」という努力義務であるのに対し,活用事業者のみが「しなければならない」という法的義務とされている点です。

(2) 義務の根拠

なぜ活用事業者のみが重い義務を負うのか。本件文書(ご指摘対応文書)は,この点について極めて重要な見解(立案担当者の見解)を示しています。

「活用事業者は,かかるおそれ(国民の権利利益が害される事態を助長するおそれ)が生じ得る人工知能関連技術の活用により便益の増加その他の利益を期待するという立場にあることを踏まえ,国や地方公共団体の実施する(略)適正な実施を図るための施策に協力する責任があり得ることを背景にした規定である。」

これは,「AIを活用して利益を得る者は,AIがもたらすリスクへの対応(適正な実施)についても相応の責任を負うべき」という,一種の「応益負担」的な思想を法的義務の根拠としていることを示します。

(3) 弁護士実務上の含意

これは理念法の条文とはいえ,明確な法的義務(作為義務)です。将来,国(や新設される人工知能戦略本部)が,活用事業者に対してAIのリスクに関する情報提供,インシデント報告,実態調査への協力などを求めた場合,本条を根拠に「協力しなければならない」ことになります。

弁護士としては,クライアント(活用事業者)に対し,本法施行により,国や地方公共団体のAI関連施策(特にリスク管理に関する調査や指導)に対して法的な協力義務を負うことになった点を,コンプライアンス上の重要事項として助言する必要があります。

3.「研究開発機関」と「大学」への配慮(第6条関係)

(1) 努力義務

活用事業者とは対照的に,「研究開発機関」(大学や研究開発法人など)の施策への協力は「協力するよう努めるものとする」という努力義務に留められています。

(2) 第6条第2項の配慮規定

さらに,本件文書(ご指摘対応文書)によれば,法案審査の過程で,大学に関する特別な配慮規定(第6条第2項)が追加されています。

「国及び地方公共団体は,(略)施策で大学に係るものを策定し,及び実施するに当たっては,(略)研究者の自主性の尊重その他の大学における研究の特性に配慮しなければならない。」

(3) 趣旨

これは,国の施策が「大学の自治」や「研究の自由」を過度に制約してはならないという憲法上の要請(学問の自由)を反映したものです。大学や研究機関をクライアントに持つ弁護士にとっては,国の施策(例えば研究助成の要件など)がこの配慮義務に反していないかを検討する際の根拠条文となり得ます。


第5 基本的施策(第2章)における注目点

第2章では,国が講ずべき具体的施策が列挙されています。弁護士実務に関連が深いのは,リスク対応に関する第13条と第16条です。

1.第13条:ソフトロー(指針・規範)の重要性

「(適正性の確保)第十三条 国は,人工知知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施を図るため,国際的な規範の趣旨に即した指針の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。」

(1) 「国際的な規範」の解釈

ここでいう「規範」が何を指すのか。本件文書(ご指摘対応文書)は,「G7広島AIプロセス」の国際指針や国際行動規範,さらには「知的財産保護などのAIに特化したものではないが関係の深い国際条約」も含むと説明しています。

また,デジタル社会形成基本法の逐条解説を引用し,OECDのAI原則やDFFT関連の宣言など,「法的拘束力を有しない」ものも含まれるとしています。

(2) 「指針の整備」

本件文書(ご説明資料)は,国内の「指針」として,既存の「AI事業者ガイドライン」などを例示しています。

(3) 弁護士実務上の含意

本条は,今後のAIガバナンスが,直ちにハードロー(法律による強行的な規制)によって行われるのではなく,まずは法的拘束力のない国際的な規範(ソフトロー)を国内の「指針(ガイドライン)」に落とし込む形で進められることを示唆しています。

弁護士としては,クライアントに対し,これらの「指針」は法律そのものではなくとも,第13条に基づき国の施策として整備されるものであり,事実上のコンプライアンス基準(デファクトスタンダード)となる可能性が高いこと,また,将来的な民事訴訟において事業者の「注意義務」のレベルを判断する際の基準とされる可能性があることを助言する必要があります。

2.第16条:国の調査権限と行政指導

「(調査研究等)第十六条 国は,(略)不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討(略)を行い,その結果に基づいて,研究開発機関,活用事業者その他の者に対する指導,助言,情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。」

(1) 権限の内容

本条は,国にAIによる権利侵害事例の調査・分析権限と,それに基づく行政指導等の権限を付与するものです。本件文書(ご説明資料)は,国が「当該事案の調査の実施とその調査結果に基づく対策の検討を想定している」と解説しています。

(2) 法的性質と実務への影響

「指導,助言」は,行政手続法上の行政指導にあたる可能性があり,本条はその根拠規定となります。

前述の第7条(活用事業者の協力「義務」)と,この第16条(国の「指導,助言」権限)を組み合わせることで,国(後述の人工知能戦略本部)は,民間企業に対し,AIの適正利用に関して事実上かなり強力な監督権限を持つことになります。


第6 推進体制:人工知能戦略本部(第4章関係)

1.設置の趣旨

本法は,AI政策の司令塔として,内閣に「人工知能戦略本部」(本部長:内閣総理大臣)を設置します。本件文書(ご説明資料)は,既存のCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)やデジタル社会推進会議では「施策の全体をカバーすることはできない」とし,AIに特化した強力な司令塔を法律で設置する必要性を説いています。

2.本部の権限(第25条関係)

弁護士として注目すべきは,本部の権限(第25条)です。

(1) 協力要求・依頼権限

  • ア.第1項: 関係行政機関,地方公共団体,独立行政法人等の公的機関の長に対し,資料の提出,意見の表明,説明等の「協力を求めることができる」。

  • イ.第2項: 第1項に規定する者「以外の者」(=民間事業者や有識者等)に対しても,必要な協力を依頼することができる」。

(2) 実務上の解釈

第1項の「求めることができる」は公的機関に対する強力な権限ですが,第2項の民間に対する「依頼」は,一見すると任意協力のお願いに読めます。

しかし,これを前述の第7条(活用事業者の協力「義務」)と合わせ読むと,本部が活用事業者に対して第25条第2項に基づき協力「依頼」を行った場合,活用事業者側は第7条に基づき「協力しなければならない」という関係になると解釈できる余地があります。これは,本部の調査権限が民間に対しても実質的に及ぶ可能性を示すものであり,今後の実務運用を注視する必要があります。


第7 法案審査の過程で見るべきその他の修正点

本件文書(特に「ご指摘対応文書」)には,法案審査の過程における修正の経緯が詳細に記されており,これらも法解釈の参考となります。

1.表現の精緻化:「ための」「に関する」「に対する」

本件文書(ご指摘対応文書)の冒頭では,法案全体で混在していた助詞の使い分けについて,詳細な整理が行われています。「施策」に接続する場合は「に関する」に統一し,「理解と関心」に接続する場合は「に対する」を用いるなど,法文の緻密な検討が伺えます。

2.「国民の責務」(第8条)の努力義務化

当初案では「努めなければならない」とされていた可能性が示唆されていますが,本件文書(ご指摘対応文書)によれば,「国民は規制対象ではないため,強すぎるのではないか」という指摘を受け,「努めるものとする」と修正されています。これは,活用事業者(第7条)が「しなければならない」とされた点と鮮やかな対比をなしています。

3.附則第2条(検討規定)の含意

附則第2条(案)は,施行後の状況変化を踏まえた見直しを定める規定ですが,その中で「法制上の措置の在り方を含め,必要な検討を加え」るとしています。

本件文書(ご説明資料)は,この趣旨を「現在は顕在化していない人工知能関連技術の研究開発及び活用に係るリスクが,法律の施行後顕在化した場合」には,必要な措置を講ずること,と説明しています。

これは,本法が当面は理念法・振興法としての性格が強いものの,将来的にAIのリスクが顕在化・深刻化した場合には,より強力な規制(新たな立法措置=ハードロー)を導入する可能性を政府が明確に留保していることを示します。


第8 まとめと弁護士実務への示唆

本件文書から読み解けるAI推進法は,AIの振興(第3条第2項・第3項)とリスク対応(第3条第4項)の両立を目指す,国のAI戦略の根幹をなす法律です。

弁護士の先生方におかれましては,本法が施行された今,クライアント(特にAIを利用する企業)へのアドバイスにおいて,以下の諸点を考慮いただく必要があるかと存じます。

  1. 「活用事業者」の範囲と「協力義務」の周知
    クライアントがAIを事業で利用している場合,その大小にかかわらず「活用事業者」(第7条)に該当し,国の施策(特にリスク調査や適正利用に関する指導)に対し,法律上の「協力義務」を負うことになった点を周知徹底する必要があります。
  2. ソフトロー(指針・規範)の重要性
    国の施策は「国際的な規範の趣旨に即した指針の整備」(第13条)を通じて具体化されます。G7広島AIプロセスやAI事業者ガイドラインといったソフトローが,事実上のコンプライアンス基準(注意義務のメルクマール)となるため,これらの動向を継続的に注視し,クライアントの社内規程やガバナンス体制に反映させる法的助言が求められます。
  3. 国の監督権限とインシデント対応
    国(人工知能戦略本部)は,「権利利益の侵害事案の分析」(第16条)を行い,事業者への「指導,助言」(第16条)を行う権限を持ちます。AI利用に関するインシデント(情報漏洩,著作権侵害,差別的出力など)が発生した場合,国への報告や調査協力(第7条)が法的に求められる事態を想定した体制整備が急務となります。
  4. 将来的な「法制化」の可能性
    附則第2条は,将来的な「法制上の措置」を明確に射程に入れています。本法の施行はゴールではなく,AIガバナンスに関する継続的な法整備のスタート地点であると認識する必要があります。

本法は,AIという急速に進化する技術に対し,法がいかに追随し,秩序を形成しようとしているかを示す第一歩です。今後,本法に基づき策定される「人工知能基本計画」(第18条)や,第13条に基づく具体的な「指針」の策定・改定の動向こそが,弁護士実務に最も大きな影響を与えることになるでしょう。

政治家の刑事事件に関する文書

1 中身は真っ黒ですが,以下の文書を掲載しています。
① 衆議院比例代表選出議員選挙関係違反事件捜査処理について(平成7年4月1日付の次長検事の依命通達)
② 参議院比例代表選出議員選挙関係違反事件捜査処理について(平成7年4月1日付の次長検事の依命通達)
③ 「参議院比例代表選出議員選挙関係違反事件捜査処理要領について」の全部改正について(平成3年10月1日付の次長検事の依命通達)
④ 「国会議員の逮捕請求手続きについて」の全部改正について(平成3年10月1日付の次長検事の依命通達)

2(1) 公職選挙法違反事件の統計報告について(最高裁判所刑事局第三課裁判実績調査係の文書)を以下のとおり掲載しています。
平成29年平成30年令和 元年令和 2年
令和 3年令和 4年令和 5年
(2) 「公職選挙法違反事件の統計報告について(令和3年3月8日付の最高裁判所刑事局第三課裁判実績調査係の文書)」といったファイル名です。

3(1) 控訴審において終局した,公職選挙法違反事件の罪名,裁判所名,事件番号,終局裁判の日を以下のとおり掲載しています。
平成25年ないし平成29年平成30年
令和元年令和2年令和4年
(2) 令和4年3月16日付の司法行政文書不開示通知書によれば,令和3年分は存在しません。

4 公職選挙法129条(選挙運動の期間)及び142条(文書図画の頒布)1項は憲法21条及び31条に違反しません(最高裁令和5年11月20日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和44年4月23日判決最高裁昭和56年7月21日判決及び最高裁昭和57年3月23日判決参照)。

国会議員の政策担当秘書資格試験の文書

目次
1 国会議員の政策担当秘書資格試験の文書
令和6年分(参議院実施分)
令和5年分(衆議院実施分)
令和4年分(参議院実施分)
令和3年分(衆議院実施分)
令和2年分(参議院実施分)
令和元年分(衆議院実施分)
平成30年分(参議院実施分)
平成29年分(衆議院実施分)
2 関連記事

 「国会事務局の管理職名簿」,及び「政策担当秘書関係の文書」も参照して下さい。

令和6年分(参議院実施分)
・ 国会議員政策担当秘書資格試験合格者の方へ-採用希望調査等について-(令和6年2月の国会議員政策担当秘書資格試験委員会の文書)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(令和6年5月17日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(令和6年5月17日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

令和5年分(衆議院実施分)
・ 国会議員政策担当秘書資格試験合格者の方へ-採用希望調査等について-(令和5年2月の国会議員政策担当秘書資格試験委員会の文書)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(令和5年5月19日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(令和5年5月19日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

令和4年分(参議院実施分)
・ 国会議員政策担当秘書資格試験合格者の方へ-採用希望調査等について-(令和4年2月の国会議員政策担当秘書資格試験委員会の文書)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(令和4年5月23日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(令和4年5月23日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

令和3年分(衆議院実施分)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(令和3年5月18日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(令和3年5月18日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

令和2年分(参議院実施分)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(令和2年5月25日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(令和2年5月25日付)及び変更契約書(令和2年6月4日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

令和元年分(衆議院実施分)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(令和元年5月31日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(令和元年5月31日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

平成30年分(参議院実施分)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(平成30年5月21日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(平成30年5月21日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

平成29年分(衆議院実施分)
・ 第一次試験における多肢選択式試験問題集の利用等に関する契約書(平成29年6月7日付)
・ 第一次試験における論文式試験問題作成・採点等業務に関する契約書(平成29年6月7日付)
・ 得点度数分布表(多肢選択式試験及び論文式試験)

2 関連記事
 国会事務局の管理職名簿
・ 政策担当秘書関係の文書

議員宿舎及び議員会館に関する文書

目次
第1 議員宿舎に関する文書
1 共通
2 赤坂議員宿舎
3 青山議員宿舎
第2 議員会館に関する文書
1 衆議院
2 参議院

第1 議員宿舎に関する文書
1 共通
・ 解散後の議員宿舎の使用について(令和6年10月9日付の衆議院事務局管理部管理課の文書)
・ 解散後の議員宿舎の使用について(令和3年10月14日付の衆議院事務局管理部管理課の文書)
2 赤坂議員宿舎
・ 赤坂議員宿舎退舎に当たってのお願い(令和3年10月の衆議院事務局管理部管理課の文書)
・ 赤坂議員宿舎に関する配布資料(令和3年10月の衆議院事務局管理部管理課の文書)
3 青山議員宿舎
・ 青山宿舎退舎に当たってのお願い(令和3年10月の衆議院事務局管理部管理課の文書)
・ 青山議員宿舎に関する配布資料(令和3年10月の衆議院事務局管理部管理課の文書)

第2 議員会館に関する文書
1 衆議院
・ 解散後の議員会館の使用について(令和6年10月9日付の衆議院事務局管理部議員会館課の文書)
・ 解散後の議員会館の使用について(令和3年10月14日付の衆議院事務局管理部議員会館課の文書)
・ 解散後の議員会館の使用に関するQ&A(令和3年10月の衆議院事務局管理部議員会館課の文書)
・ 衆議院議員会館案内(令和3年11月の,衆議院事務局管理部議員会館課サービスセンターの文書)
・ 衆議院ガイドブック(令和3年版)(令和4年11月22日更新)
→ 衆議院HPの「○会議録等刊行物の閲覧及び購入」には「衆議院ガイドブック(議院の機構、機能を初め各種手続等にわたる全般的な事項をとりまとめたもの)」と書いてあります。また,なぜか表紙及び目次がない文書となっています。
2 参議院
・ 参議院議員会館案内(令和元年版)→参議院事務局議員会館サービスセンターの文書
・ 参議院議員のしおり(令和4年版。参議院事務局作成のもの)
→ 参議院事務局情報公開審査会の答申(令和3年度答申第3号)に基づき,参議院議員のしおりは全部開示されるようになっています。

不公正な取引方法に関するメモ書き

目次
1 総論
2 法定5類型及び指定類型
3 一般指定及び特殊指定
4 関連記事その他

1 総論
(1) 事業者は不公正な取引方法を用いてはならない(独禁法19条)ところ,不公正な取引方法とは,独禁法2条9項のいずれかに該当する行為をいい,①同条項1号ないし5号に基づく法定5類型,及び②同条項6号に基づく指定類型があります。
(2) 不公正な取引方法がある場合,公正取引委員会は,事業者に対し,当該行為の差し止め,契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(独占禁止法20条1項)。

2 法定5類型及び指定類型
(1)ア 平成21年の独占禁止法改正以前につき,不公正な取引方法に関しては独禁法2条9項6号に相当する規定のみが置かれ,不公正な取引方法として禁止される行為類型はいずれも「公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」でした。
    しかし,平成21年の独占禁止法改正で不公正な取引方法の一部に課徴金制度を導入したことに伴い,一般指定の中から,課徴金対象となる5つの行為類型(①共同の供給拒絶,②差別対価,③不当廉売,④再販売価格拘束及び⑤優越的地位の濫用)を切り出して,独禁法2条9項1号ないし5号に基づく法定5類型として規定されました。
イ 公正取引委員会HPに「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成29年6月16日改正)及び「優越的地位の濫用~知っておきたい取引ルール~」が載っています。
(2) 独禁法2条9項6号に基づく指定類型としての「不公正な取引方法」については,すべての事業者について適用される「一般指定」と,特定の事業分野についてだけ適用される「特殊指定」があります。

3 一般指定及び特殊指定
(1)ア 「一般指定」としての「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)では,15の行為類型(例えば,取引拒絶,排他条件付取引,拘束条件付取引,再販売価格維持行為,ぎまん的顧客誘引及び不当廉売)が,「公正な競争を阻害するおそれがあるもの」として指定されています。
イ 卸売業者等が小売業者に対して商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けるなどの形態によって販売方法に関する制限を課することは,それが当該商品の販売のためのそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ,かつ,他の取引先に対しても同等の制限が課せられている限り,拘束条件付取引に当たりません(最高裁平成10年12月18日判決)。
(2) 「特殊指定」としては以下のものがあります。
① 大規模小売業者が行う特定の不公正な取引方法(いわゆる「大規模小売業告示」です。)
② 特定荷主が行う特定の不公正な取引方法(いわゆる「物流特殊指定」です。)
③ 新聞業における特定の不公正な取引方法(いわゆる「新聞特殊指定」です。)

4 関連記事その他
(1)ア 不公正な取引方法を禁止する独禁法19条に違反した契約の私法上の効力については,その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として,同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではありません(最高裁昭和52年6月20日判決)。
イ ビジネスローヤーズに独禁法違反行為の私法上の効力を巡る裁判例と契約書起案・審査における留意点 – BUSINESS LAWYERSが載っています。
(2) 優越的地位の濫用を含む不公正な取引方法に基づく損害賠償請求(独占禁止法25条)をするためには,独占禁止法49条に規定する排除措置命令が確定した後でなければ裁判上主張することはできない(独占禁止法26条1項)ものの,民法上の不法行為を主張する余地はあります(弁護士鈴木悠太HP「優越的地位の濫用(独占禁止法)」参照)。
(3) 景品表示法及び下請法は独禁法の補完法となります。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 景品表示法に関するメモ書き
・ 下請法に関するメモ書き

景品表示法に関するメモ書き

目次
1 総論
2 景品規制
3 表示規制
4 公正競争規約
5 ステルスマーケティング
6 関連記事その他

1 総論
・ 景品表示法の正式名称は,不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年5月15日法律第134号)です。
・ 景品表示法の所管省庁につき,平成21年8月31日までは公正取引委員会でしたが,平成21年9月1日以降は同日に設置された消費者庁です。
・ 措置命令について定める景表法7条2項は憲法21条1項及び22条1項に違反しません(最高裁令和4年3月8日判決)。
・ 消費者庁HPの「告示」不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件(昭和37年6月30日公正取引委員会告示第3号)のほか,景品関係及び表示関係の告示が載っています。

2 景品規制
・ 顧客誘引の手段として,取引に付随して提供する,経済上の利益が「景品類」に該当しますところ,値引き及びアフターサービス等は景品類に該当しません(消費者庁HPの「景品規制」参照)。

3 表示規制
・ 不当表示としては,①優良誤認表示(景品表示法5条1号)及び②有利誤認表示(景品表示法5条2号)があります(消費者庁HPの「表示規制の概要」参照)。
・ 消費者庁は,弁護士法人アディーレに対し,平成28年2月16日,貸金業者への過払い金返還請求の着手金無料キャンペーンを「1カ月限定」と宣伝しながら,同じサービスを5年近く続けたのは景品表示法違反(有利誤認)にあたるとして,再発防止を求める措置命令を出しました(日経新聞HPの「アディーレ法律事務所が不当表示 「1カ月限定」5年継続」参照)。
・ 医薬品等の広告は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称は「薬機法」であり,平成26年11月24日以前は「薬事法」でした。)66条ないし68条でも規制されています(厚生労働省HPの「医薬品等の広告規制について」参照)。


4 公正競争規約
・ 公正競争規約は,景品表示法31条に基づく協定又は規約のことです(消費者庁HPの「公正競争規約」参照)。
・ 不動産公正取引協議会連合会HP「公正競争規約の紹介」に,不動産の表示に関する公正競争規約が載っています。


5 ステルスマーケティング
(1) 消費者庁HPの「ステルスマーケティング研究会」ステルスマーケティングに関する研究会報告書(令和4年12月28日付)が載っています。
(2) ネクスパート法律事務所HP「ステマ規制「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」」が載っています。


6 関連記事その他
(1) 景品表示法及び下請法は独禁法の補完法となります。
(2) 二弁フロンティア2022年7月号「表示法務の基礎と実践~前編~」が載っていて,二弁フロンティア2022年8月・9月合併号「表示法務の基礎と実践~後編~」が載っています。
(3) 不正競争防止法3条1項の規定に基づく不正競争による侵害の停止等の差止めを求める訴え及び差止請求権の不存在確認を求める訴えは,いずれも民訴法5条9号所定の訴えに該当します(最高裁平成16年4月8日決定)。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 不公正な取引方法に関するメモ書き
・ 下請法に関するメモ書き
・ 消費者契約法及び特定商取引法等に関するメモ書き
・ 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)

在日外国人への社会保障法令の適用

目次
1 昭和57年1月1日以降,在日外国人も国民年金に加入できるようになったこと
2 昭和56年の国民年金法改正当時の国会答弁
3 外国人と生活保護法
4 関連記事その他

1 昭和57年1月1日以降,在日外国人も国民年金に加入できるようになったこと
(1) 昭和36年4月1日にスタートした国民年金制度には当初,日本国民だけを対象とするという国籍条項(国民年金法7条1項)がありました(ただし,軍人を除く在日アメリカ人は日米友好通商航海条約(昭和28年4月2日署名)3条に基づき,例外的に国民年金制度に任意加入できました。)。
 しかし,難民条約(1951年7月28日署名。1951年1月1日以前の原因に基づく難民を対象とした条約。)及び難民議定書(1967年1月31日署名。難民条約の適用対象を1951年1月1日以後の原因に基づく難民に拡大したもの。)に日本国が加入するに際して,難民条約24条1項は,難民に対し,社会保障に関して自国民に与える待遇と同一の待遇を与えることを定めていましたから,国籍条項の維持は難民条約及び難民議定書に抵触することとなりました。
 そのため,日本政府は,①難民条約24条1項等について留保するか,②社会保障法令を難民についてだけ適用できるように改正するか,又は③社会保障法令を外国人全般に適用できるように改正するかといった選択が検討した結果,社会保障法令を外国人全般に適用できるように改正することとなりました。
  その結果,昭和57年1月1日以降,在日外国人も国民年金に加入できるようになったものの,無年金状態を解消するための経過措置等は定められませんでした。
(2) 難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和56年6月12日法律第86合)2条ないし5条によって改正された社会保障法令は,国民年金法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法及び児童手当法です。
(3)ア 国民年金制度が開始した昭和34年11月1日以前に後遺障害の症状が固定した在日外国人に対して障害福祉年金(昭和61年4月1日以降の,20歳前の傷病による障害基礎年金に相当するもの)を支給しないことは憲法25条及び14条1項に違反しません(第一次塩見訴訟に関する最高裁平成元年3月2日判決)。
イ 難民条約及び難民議定書が日本国について発効した昭和57年1月1日以降も,昭和34年11月1日以前に後遺障害の症状が固定した在日外国人に対して障害福祉年金を支給しないことは憲法25条及び14条1項に違反しません(第二次塩見訴訟に関する最高裁平成13年3月13日判決(判例秘書に掲載))。

2 昭和56年の国民年金法改正当時の国会答弁
(1) 村山達雄厚生大臣は,昭和56年5月27日の法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 今回の条約の加盟に伴う内外人平等、具体的には国籍要件の撤廃ということに伴ういま御指摘のような制度についての厚生行政の基本的な考え方でございますが、これはやはり、今度の加入に伴いまして外国人についても適用範囲を拡大するという考え方に立っているわけでございます。もう一つは、日本人と平等の取り扱いをする、こういう趣旨でございまして、まさにその限りにおきましては、今度の提案は十分なる条件を満たしておると私は考えております。
 ただ、おっしゃるように、制度創設当時、たとえば国民年金につきまして強制的な経過措置を設けたじゃないか、これは制度発足のときでございますから、二十五年間掛けなくちゃならぬという基本法がございます。二十五年掛けられない者はどうするんだ、こういう問題は基本的にあるわけでございますから、これはやむを得ざる措置といたしまして、それは経過年金を設けたわけでございます。これはいつの場合でも、制度をつくるときには、その基本的な要件、それからそれを満たされない人たちについて経過措置も設けることは当然であろうと思うのでございます。
 今度の場合は、内外国籍要件撤廃によって加入者がふえるということでございます。ですから、経過年金を設くべし、こういうようなことになりますれば、これは永久に続くわけでございます。どんどん入ってくる、これが一つの問題点でございましょう。
② それから、今度はもし外国に長くおった日本人がやってきた。これは日本人は適用にならないわけですね、御承知のように。
 そうなれば外国人だけ適用するのか。これはやはり内外の差別撤廃という趣旨から見るとおかしい。
③ それからまた、第三番目には、やはり保険会計でございますから、当然保険数理に立ちまして年金計算をしているわけでございます。通常でございますと、二十五年掛ける者を基本にいたしまして、保険数理に基づいて、そして負担と給付の関係が整合性を持っているわけでございます。
 したがって、そうでない者について年金を設けるということ、これは定額にいたしまして、やはり何といっても国庫の三分の一の補助という問題等がございまして、やはり保険数理の上からいって保険財政は相当苦しいものになるんじゃないか。
④ まあ、いろいろな点がございまして、私は、これは今度の措置によりまして、内外人を平等という原則のもとに適用範囲を拡大するんだ、また、それで難民条約で定めている趣旨は達成できる、かように考えているわけでございます。

(2) 大和田潔厚生省保険局長は,昭和56年5月27日の法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会において以下の答弁をしています。
  国民健康保険でございますが、御承知のように、国民健康保険につきましては市町村が条例でもって外国人の適用を行う。その前に、日韓協定によりますところの永住許可を受けた者につきましても強制適用であるということは御承知のとおりでございますが、こういった市町村の条例、これは財政事情その他の問題もございます、まだ適用していないところもあるわけでございますが、これにつきましては行政指導を強化いたしまして、外国人にすべて適用できるような方向で強化をしてまいる、こういうふうに考えているわけでございます。

3 外国人と生活保護法
(1) 最高裁平成26年7月18日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています(ナンバリングを①,②,③に変えています。)。
① 前記2(2)アのとおり,旧生活保護法は,その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し,現行の生活保護法は,1条及び2条において,その適用の対象につき「国民」と定めたものであり,このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって,外国人はこれに含まれないものと解される。
 そして,現行の生活保護法が制定された後,現在に至るまでの間,同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず,同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。
 したがって,生活保護法を始めとする現行法令上,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。
② また,本件通知は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても,そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく,前記2(3)の我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案しても,本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお,本件通知は,その文言上も,生活に困窮する外国人に対し,生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に,それとは別に事実上の保護を行う行政措置として,当分の間,日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続により必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。
③ 以上によれば,外国人は,行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり,生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく,同法に基づく受給権を有しないものというべきである。
 そうすると,本件却下処分は,生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって,適法である。
(2) 最高裁平成26年7月18日判決(判例秘書に掲載)の「外国人に対する生活保護の措置」には,以下の記載が含まれています。
昭和29年5月8日,厚生省において,各都道府県知事に宛てて「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する通知(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知。以下「本件通知」という。)が発出され,以後,本件通知に基づいて外国人に対する生活保護の措置が行われている。
 本件通知は,外国人は生活保護法の適用対象とはならないとしつつ,当分の間,生活に困窮する外国人に対しては日本国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うものとし,その手続については,当該外国人が要保護状態にあると認められる場合の保護実施機関から都道府県知事への報告,当該外国人がその属する国の代表部等から必要な保護等を受けることができないことの都道府県知事による確認等を除けば,日本国民と同様の手続によるものとしている。
 平成2年10月,厚生省において,本件通知に基づく生活保護の対象となる外国人の範囲について,本来最低生活保障と自立助長を趣旨とする生活保護が予定する対象者は自立可能な者でなければならないという見地からは外国人のうち永住的外国人のみが生活保護の措置の対象となるべきであるとして,出入国管理及び難民認定法別表第2記載の外国人(以下「永住的外国人」という。)に限定する旨の取扱いの方針が示された。
(3) 山下眞臣 厚生省社会局長は,昭和56年5月27日の法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会において以下の答弁をしています。
① 生活保護につきましては、昭和二十五年の制度発足以来、実質的に内外人同じ取り扱いで生活保護を実施いたしてきているわけでございます。去る国際人権規約、今回の難民条約、これにつきましても行政措置、予算上内国民と同様の待遇をいたしてきておるということで、条約批准に全く支障がないというふうに考えておる次第でございます。
② 難民条約で、難民の方に対しましても日本国民と同じ待遇を与えるようにと書いてあるわけでございますが、それはその形がどうであれ、実質が同じ取り扱いをしておれば差し支えないという解釈であることは先ほど申し上げたとおりでございます。
 生活保護法につきまして今回なぜ法律改正を行わなかったかということでございますが、一つには、国民年金等につきましては給付するだけではございませんで、どうしても拠出を求めるとか、そういった法律上の拠出、徴収というようなことにどうしても法律が必要だろうと思うのでございますが、生活保護で行っております実質の行政は、やはり一方的給付でございまして、必ずしもそういう法律を要しないでやれる措置であるということが一つの内容になるわけでございます。
③ ただ、改正してもよろしいではないかという御議論もあろうかと思うのでございます。その辺につきましては十分検討いたさなければならぬと思うわけでございますが、いろいろむずかしい問題がございます。
 たとえば出入国管理令でございますか、今度は法で、出入国の拒否事由といたしまして貧困者等国、地方公共団体の負担になる者、これにつきましては入国を拒否することができるという規定があるわけでございまして、そういった規定との関連を、この生活保護を法律上のものとして改正する場合にどう調整していくかというような問題等もございます。あるいは生活保護につきましては国民無差別平等にやるわけでございますが、補足性の原理というのが強くあるわけでございますが、そういった外国人の方の親族扶養の問題等をどう解決していくか等々非常に詰めなければならぬ問題が多うございますので、今回は、とにかくこういった条約の批准には何ら支障がないし、実質的には同じ保護をいたしておるのであるからこれによって御了解をいただきたい、かように考えているわけでございます。
(4) 地方自治研究機構(RILG)HP「平成25年改正前の生活保護法第78条に基づく徴収額の算定に当たって基礎控除相当額を控除しないことが違法であるとはいえない」には以下の記載があります。
    外国人に対する生活保護は、「行政庁の通達等に基づく行政措置」として実施されているものであり、本来の意味での生活保護法の「準用」によって実施されているものではないのであるから、法第78条を準用する形で徴収額の決定を行ったとしても、本来の行政処分としての効力を有するものではないと言わざるを得ないことになる。


4 関連記事その他

(1) 大正15年(1926年)4月1日以前に生まれた人の場合,1986年4月1日時点で60歳を超えていましたし,カラ期間(合算対象期間)が認められませんでしたから,被用者年金の受給権がある人を除いて公的年金をもらえません。
 ただし,自治体によっては高齢者給付金を支給しているところがあります(例えば,大正15年4月1日以前に生まれた人を対象としている大阪市HPの「在日外国人高齢者給付金」参照)。
(2) 日韓法的地位協定4条(a)に基づき,日本国政府は,協定永住者となる在日韓国人に対する教育,生活保護及び国民健康保険に関する事項について妥当な考慮を払うものとされていましたが,同協定には,国民年金に関する定めはありませんでした。
(3)ア 出入国在留管理庁HPに「「難民該当性判断の手引」の策定について」(令和5年3月24日付の報道発表資料)が載っています。
イ 以下のHPが参考になります。
・ 国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)HP「社会保障法判例」
・ 立木茂雄研究室HP「第三節 在日韓国・朝鮮人と公的年金制度」
・ 外国人HR Lab.「外国人の社会保険のまとめ」
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 外国人登録法の廃止に伴い回収された外国人登録原票に係る開示請求手続について(平成23年12月13日付の法務省入国管理局登録管理官の事務連絡)
・ 外国人登録法の廃止に伴い回収された外国人登録原票に係る開示請求手続について(平成24年3月21日付の日弁連事務総長の依頼)
・ 弁護士法23条の2の規定に基づく外国人登録原票の照会への対応について(平成24年7月30日付の法務省入国管理局出入国管理情報官付補佐官の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の国籍条項に関する経緯

下請法に関する手形通達

目次
1 昭和41年3月の手形通達
2 平成28年12月の手形通達
3 令和3年3月の手形通達
4 令和6年11月1日実施の指導基準
5 約束手形は廃止される予定であること
6 不渡異議申立預託金
7 全銀協の電子交換所(令和4年11月4日業務開始)
8 関連記事その他

1 昭和41年3月の手形通達
(1) 昭和40年6月10日法律法律第125号による下請法の改正により,「下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。」(割引困難な手形の交付)が親事業者の禁止事項となりました。
(2) 昭和41年3月に出た「下請代金の支払手形のサイト短縮について」 (繊維業以外の団体には同月11日付,繊維業の団体には同月31日付)において,親事業者は,下請代金の支払のために振り出す手形のサイトを原則として,繊維業については90日以内,その他の業種については 120 日以内とするとともに,下請法の趣旨を踏まえ,サイトを更に短縮するよう努力するものとされました。

2 平成28年12月の手形通達

(1) 「下請代金の支払手段について」(平成28年12月14日付の中小企業庁長官及び公正取引委員会事務総長の通達)は以下の要請をしています(1ないし3を①ないし③に変えています。)。
① 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
② 手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。
③ 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、繊維業90日以内、その他の業種120 日以内とすることは当然として、段階的に短縮に努めることとし将来的には60日以内とするよう努めること。
(2) 中小企業庁HPの「FAQ「下請代金の支払手段について」」には「◯「将来的に」の期間については、現在のところ5~6年程度を想定しています。」という記載がありました(「約束手形に関する論点について」(令和2年9月14日付の中小企業庁事務局の文書)参照)。

3 令和3年3月の手形通達
(1) 「下請代金の支払手段について」(令和3年3月31日付の中小企業庁長官及び公正取引委員会事務総長の通達)は以下の要請をしています(1ないし4を①ないし④に変えています。)。
① 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
② 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
③ 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
④ 前記①から③までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。
(2) 中小企業庁HPの「研究会」に載ってある約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書(令和3年3月15日付)では,平成28年の手形通達の改正及び約束手形の利用の廃止が提言されていました(同報告書15頁及び16頁参照)。
(3) 中小企業庁HPの「FAQ「下請代金の支払手段について」」には以下の記載があります。
Q10:新通達の記中3において「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として」、「将来的には」といった記載を削除した趣旨を教えてください。
旧通達では「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として」とすることにより、従来の「割引を受けることが困難であると認められる手形」等の期間を緩めることがないのは当然のこととして、さらに、下請事業者が直面している現状を踏まえ、将来的に60日以内に短縮するよう努めることを要請したものです。
その一方で、令和元年度のフォローアップ調査によれば、下請代金を手形等で支払う場合の手形等のサイトについて、「90日超120日以内」(繊維業では「60日超90日以内」)と回答した割合が、多くの業種でおおむね過半数を占めており、60日以内と回答した割合も2割に留まっているなど、改善は道半ばとなっています。
このため、新通達では、「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然」、「将来的には」といった記載を削除することにより、手形等のサイトを60日以内に短縮することを強く求めるものです。
(4) 「弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。」「新手形通達(「下請代金の支払手段について」)について」(2021年4月17日付)には以下の記載があります。
「強く求める」という説明も意味がよくわかりませんが(行政指導にも、強い求めと、弱い求めがあるのでしょうか?)、この説明と、

「3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
4 前記・・・3・・・の要請内容については、・・・おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。」
の部分をあわせて読むならば、要は、3年以内に手形サイトを60日にすることを「強く求める」ということであって、少なくとも新手形通達では、3年後からは60日を超える手形が違法になると宣言しているわけでもない、とも読めます。

4 令和6年11月実施の指導基準
(1)ア 中小企業庁及び公正取引委員会は,令和6年11月1日以降につき,サイトが60日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とすることとしています(公正取引委員会HPの「(令和6年4月30日)「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」 の発出について」に載ってある「手形等のサイトの短縮への対応について」(令和6年4月30日付の中小企業庁事業環境部長及び公正取引委員会事務総局官房審議官の通知)参照)。
イ 改正までの経緯については「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」(令和6年2月の公正取引委員会の文書)が分かりやすいです。
(2)ア 公正取引委員会HPの「(令和4年2月16日)手形等のサイトの短縮について」には以下の記載がありました。
 公正取引委員会は,中小事業者の取引条件の改善を図る観点から,下請法等の一層の運用強化に向けた取組を進めており,その取組の一環として,令和3年3月31日に,公正取引委員会と中小企業庁との連名で,関係事業者団体約1,400団体に対して,おおむね3年以内を目途として可能な限り速やかに手形等のサイトを60日以内とすることなど,下請代金の支払の適正化に関する要請を行いました。
 また,当該要請に伴い,令和6年を目途として,サイトが60日を超える手形等を下請法の割引困難な手形等に該当するおそれがあるものとして指導の対象とすることを前提に,下請法の運用の見直しを検討することとしています。
イ 「弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。」「新手形通達(「下請代金の支払手段について」)について」(2021年4月17日付)には以下の記載があります。
下請法4条2項2号(割引困難な手形による決済の禁止)では、
「2 親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて,下請事業者の利益を不当に害してはならない。
二 下請代金の支払につき,当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。」
と定められています。
つまり、だめなのは、
「一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形」
で支払うことです。


5 約束手形は廃止される予定であること
(1) 「取引適正化に向けた5つの取組について」(令和4年2月10日付けの中小企業庁の文書)には「2026年の手形交換所における約束手形の取扱い廃止の検討(2月中に金融業界に検討を依頼) 」と書いてあります。
(2)ア 下請中小企業振興法3条1項に基づく「振興基準」(令和4年7月29日施行)には,「約束手形は、できる限り利用しないよう努めるものとする。また、約束手形の利用を廃止するに当たっては、できる限り現金による支払いに切り替えるよう努めるものとする。」と書いてあります。
イ 弁護士植村幸也公式ブログ「下請中小企業振興法の振興基準の法的効力」には「多くの企業にとっては、振興基準は無意味、ということになります。」と書いてあります。
(3)ア 電子記録債権法は平成20年12月1日に施行されました。
イ 金融庁HPの「電子記録債権」と題するパンフレットには「 手形法は、ジュネーブ統一手形条約に基づいて制定されたものですから、手形の無券面化は、同条約を廃棄しない限り困難です。」と書いてあります。
ウ オレンジ法律事務所HPに「元銀行員の田村が解説「電子記録債権と手形債権の比較」」が載っています。
エ 全銀協HPに「手形・小切手機能の電子化状況に関する調査報告書(2022 年度) 」(2023年3月31日付)が載っています。
(4) OB360°の「約束手形廃止に向けて企業がとるべき対応とは?代替案「でんさい」の特徴や導入時の注意点も解説」には「「でんさい」対応システムが手形処理で発生する業務の自動化に対応できれば、その利便性や生産性向上の効果はすぐに体感できるはずです。」と書いてあります。

6 不渡異議申立預託金

(1) 最高裁昭和45年10月23日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
不渡異議申立提供金の預託金は、不渡手形の債務者が、銀行取引停止処分を免れるため、不渡異議申立とのそのための金員の提供とを依頼し、その費用として提供金に相当する金員を支払銀行に預託したものであつて、右提供金が必要とされる趣旨は、手形債務者に支払の資力があることを明らかにし、異議申立が濫用されることを防止するにあるのであつて、特定の手形債権の支払を担保するにあるのではない。したがって、手形債権者が当然に右預託金を取得しうる地位を有するものではなく、また、支払銀行にとつて預託金返還請求権が相殺の期待をもちえないものとすることもできず、支払銀行が自己の反対債権をもつて右返還請求権と相殺することが委任契約に違反するものとも解しがたい(最高裁判所昭和四三年(オ)第七七八号、同四五年六月一八日第一小法廷判決参照)
(2) 一般財団法人とうほう地域総合研究所HPに載ってある「手形異議申立預託金に対する差押」には「裁判等により手形所持人が手形債務者から手形金の支払を受ける権利のあることが確定したとしても、手形所持人は、当然に異議申立預託金から優先弁済を受けることができるわけではありません。」と書いてあります。
(3)ア 異議申立提供金は以下の場合に返還してもらえます(電子交換所規則46条)。
① 不渡事故が解消し、持出銀行から交換所に不渡事故解消届が提出された場合
② 別口の不渡により取引停止処分が行われた場合
③ 支払銀行から不渡報告への掲載または取引停止処分を受けることもやむを得ないものとして異議申立の取下げの請求があった場合
④ 異議申立をした日から起算して2年を経過した場合
⑤ 当該振出人等が死亡した場合
⑥ 当該手形の支払義務のないことが裁判(調停、裁判上の和解等確定判決と同一の効力を有するものを含む。)により確定した場合
⑦ 持出銀行から交換所に支払義務確定届または差押命令送達届が提出された場合
⑧ 支払銀行に預金保険法(昭和 46 年法律第 34 号)に定める保険事故が生じた場合
イ 電子交換所規則施行細則44条は「異議申立の手続の終了および異議申立預託金の返還許可」について定めています。

7 全銀協の電子交換所(令和4年11月4日業務開始)
(1) 全銀協HPの「電子交換所の交換決済開始のお知らせ」(2022年11月4日付)には以下の記載があります。
 一般社団法人全国銀行協会(会長:半沢淳一 三菱UFJ銀行頭取)が設置・運営する電子交換所は、本日から予定どおり交換決済を開始しましたので、お知らせいたします。
 これまで、各金融機関はお客さまから持ち込まれた手形等を各地の手形交換所に持ち寄り交換決済を行ってきましたが、本日以降は、手形等のイメージデータを金融機関間で相互に送受信することにより交換決済が完結することとなります。これにより、金融機関事務の効率化はもとより、自然災害等への耐久性向上や決済期間短縮による顧客利便性向上などさまざまなメリットが期待できます。
(2)ア 全銀協HPの「電子交換所の設立について」(2019年6月13日付)電子交換所イメージ図が載っていますし,「電子交換所」「電子交換所設立のご案内」と題するパンフレットが載っています。
イ 全銀協HPの「電子交換所規則・施行細則」「電子交換所規則」及び「電子交換所規則施行細則」が載っています。
(3) 全銀協HPの「手形・小切手機能の「全面的な電子化」に関する検討会」に,調査報告書,手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画等が載っています。

 関連記事その他
(1) 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(令和4年1月26日最終改正)には以下の記載があります。
法第4条第1項第2号で禁止されている支払遅延とは,「下請代金を支払期日の経過後なお支払わないこと」である。「支払期日」は法第2条の2により,下請代金の支払期日は,「給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して,60日の期間内において,かつ,できる限り短い期間内において,定められなければならない」とされている。「支払期日」を計算する場合の起算日は「給付を受領した日」であることから,納入以後に行われる検査や最終ユーザーへの提供等を基準として支払期日を定める制度を採っている場合には,制度上支払遅延が生じることのないよう,納入以後に要する期間を見込んだ支払制度とする必要がある。
(2)ア 下請法4条1項2号の「支払」には手形払による支払も含まれますから,下請事業者からすれば,支払期日(納品から60日以内)+手形サイトを経て,支払を受けられることになります(弁護士法人中央総合法律事務所HP「令和3年3月に出された下請代金の支払方法に関する通達について」参照)。
イ 親事業者としては,納品から60日以内に手形払すらしなかった場合,60日を経過した日から支払をする日までの期間について,年14.6%の遅延損害金を支払う必要があります(下請法4条の2・下請法4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則参照)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 下請法に関するメモ書き

反社会的勢力排除条項に関するメモ書き

目次
1 総論
2 従業員の採用と反社会的勢力排除
3 反社チェック
4 反社会的勢力が行う不当要求の類型
5 暴力団離脱者支援
6 警察は原則として,元暴力団員であるかどうかに関する情報を部外に提供していないこと
7 反社会的勢力排除条項の拡張は独占禁止法との関係で制限されると思われること
8 反社会的勢力排除条項がない場合,錯誤無効を主張できないこと
9 暴力団排除条項を確認する場合に気を付けるべき点
10 反社会的勢力に関する統一的な定義はないこと
11 相手方が元暴力団構成員であることを弁護士が準備書面に記載できるとは限らないこと
12 預貯金口座の凍結に関する警察庁の文書
13 関連記事その他

1 総論
(1) 反社会的勢力排除条項(略称は「反社条項」です。)は,契約を締結する際,反社会的勢力ではないことや,暴力的な要求行為等をしないことなどを相互に示して保証する条項であって,暴力団排除条項(略称は「暴排条項」です。)ともいいます(KEIYAKU-WATCHの「反社条項(暴排条項)とは? 契約書に定めるべき理由・条項の例文(ひな形)などを解説!」参照)。
(2) 大阪府暴力団排除条例5条(府民及び事業者の責務)2項は「事業者は、基本理念にのっとり、その事業に関し、暴力団との一切の関係を持たないよう努めるとともに、府が実施する暴力団の排除に関する施策に協力するものとする。」と定めています。
(3) 大阪府警察HPに「暴力団排除条項の記載例」が載っています。

2 従業員の採用と反社会的勢力排除
(1) 企業法務の扉HP「暴力団排除条例と暴力団排除条項」には「取引時の「誓約書」に倣い,従業員の採用時に従業員から暴排の「誓約書」の提出を求めるのも一計です。採用時の提出書類として、従業員から誓約書を提出してもらう事業者がほとんどですので、この誓約書に暴排の条項を入れることになるでしょう。」と書いてあります。
(2) 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と定める労働契約法12条からすれば,就業規則にも暴力団排除条項を入れておく必要があると思います。
(3) Legal Expressに「従業員・労働者が反社会的勢力に該当する場合、会社がとるべき対策を弁護士が解説!」が載っています。

3 反社チェック
(1) 企業法務弁護士ナビ「反社チェック6つの方法|契約後に取引先が怪しいと感じたら?」には,取引開始前にすべき反社チェックの方法として,①会社情報の確認,②インターネットによる検索,③新聞記事・Webニュース記事(帝国データバンク及び日経テレコン等)の検索,④風評の調査及び⑤外部機関(警察及び暴力追放運動推進センター)への相談が挙げられています。
(2) 反社会的勢力と認定された人は銀行口座を持つことが非常に難しいことからすれば,反社チェックの方法の一つとして,採用面接の交通費の支払等の名目で求職者の銀行口座を確認した方がいい気がします。
(3) RoboRoboコラム「反社会的勢力の具体的な調査方法は?おすすめのツールや反社への対応方法も解説!」(2022年11月8日付)が載っています。
(4) 若手弁護士が解説する個人情報・プライバシー法律実務の最新動向ブログの「第14回:改正個人情報保護法下における反社対応の留意点」には「特定の個人が反社会的勢力に属しているという情報は、社会的身分に該当しない。また、犯罪の経歴や刑事事件に関する手続が行われたことには該当せず、要配慮個人情報には該当しないとされている(GL通則パブコメ143番、159番)。」と書いてあります。


4 反社会的勢力が行う不当要求の類型
・ 法務省HPの「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日付の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)には「不当要求の二つの類型 接近型と攻撃型」として以下の記載があります。
    反社会的勢力による不当要求の手口として、「接近型」と「攻撃型」の2種類があり、それぞれにおける対策は、次のとおりである。
① 接近型(反社会的勢力が、機関誌の購読要求、物品の購入要求、寄付金や賛助金の要求、下請け契約の要求を行うなど、「一方的なお願い」あるいは「勧誘」という形で近づいてくるもの)
→ 契約自由の原則に基づき、「当社としてはお断り申し上げます」「申し訳ありませんが、お断り申し上げます」等と理由を付けずに断ることが重要である。理由をつけることは、相手側に攻撃の口実を与えるのみであり、妥当ではない。
② 攻撃型(反社会的勢力が、企業のミスや役員のスキャンダルを攻撃材料として公開質問状を出したり、街宣車による街宣活動をしたりして金銭を要求する場合や、商品の欠陥や従業員の対応の悪さを材料としてクレームをつけ、金銭を要求する場合)
→ 反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。仮に、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、仮に真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する。

5 暴力団離脱者支援

(1) 公益財団法人大阪府暴力追放推進センターHP「暴追センター案内」には「暴力団離脱者受入協賛企業」として以下の記載があります。
    暴力団離脱者を、雇用してくださる企業を募集しています。
    暴力団対策法施行後、暴追センター等に暴力団員やその家族から「暴力団をやめて、まじめに働きたい。」等の相談が寄せられています。離脱した暴力団員が一般社会人として社会復帰をするためには、生活の基礎となる就労が是非とも必要です。真撃な気持ちで暴力団をやめ、社会復帰を望む人には、「大阪府暴力団離脱者支援対策連絡会」が手助けをしています。
(2)ア 警察庁HPに「暴力団離脱者の口座開設支援について」(令和4年2月1日付の警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課長の文書)が載っています。
イ 日刊ゲンダイHPに「元暴力団員に聞いてわかった「辞めてから5年間の厳しすぎる現実」保険も入れず、保育園の入園拒否も…」(2019年1月24日付)が載っています。

6 警察は原則として,元暴力団員であるかどうかに関する情報を部外に提供していないこと

・ 暴力団排除等のための部外への情報提供について(平成31年3月20日付の警察庁刑事局組織犯罪対策部帳の通達)4頁には,元暴力団員に関する情報提供について以下の記載があります。
    現に自らの意思で反社会的団体である暴力団に所属している構成員の場合と異なり、元暴力団員については、暴力団との関係を断ち切って更生しようとしている者もいることから、過去に暴力団員であったことが法律上の欠格要件となっている場合や、現状が暴力団準構成員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者、総会屋及び社会運動等標ぼうゴロとみなすことができる場合は格別、過去に暴力団に所属していたという事実だけをもって情報提供しないこと。

7 
反社会的勢力排除条項の拡張は独占禁止法との関係で制限されると思われること
(1) 反社会的勢力排除条項の中には「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を従業員としている企業を反社会的勢力とした上で,「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を従業員としている企業についても下請業者,委託業者,外注先及び調達先(以下「下請業者等」といいます。)から排除するように求めている条項を見かけることがあります。
    しかし,職業安定法5条の5(求職者等の個人情報の取扱い)との関係で自社の従業員でも必ず調査することは難しいと思いますが,下請業者等の従業員が「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」に該当するかどうかまで必ず調査することは不可能と思います。
    また,このような条項をそのまま適用した場合,暴力団離脱者受入協賛企業まで下請業者等から排除する必要がありますところ,警察及び暴力追放運動推進センターの活動を否定する側面があることをも考慮すれば,そのような行為は独占禁止法19条(不公正な取引方法の禁止)に違反して独占禁止法20条に基づく排除措置命令の対象となる可能性があると思います。
(2) 不公正な取引方法に関しては例えば,以下の条文があります(「不公正な取引方法」は独占禁止法2条9項6号に基づくものです。)。
① 独占禁止法2条9項5号
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
(中略)
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
② 不公正な取引方法12項(拘束条件付取引)
    法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること
(3) 内閣官房のビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議HPに載ってある「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(令和4年9月の,ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議の文書)12頁及び13頁には以下の記載があります。
    企業が、製品やサービスを発注するに当たり、その契約上の立場を利用して取引先に対し一方的に過大な負担を負わせる形で人権尊重の取組を要求した場合、下請法や独占禁止法に抵触する可能性がある。人権尊重の取組を取引先に要請する企業は、個別具体的な事情を踏まえながらも、取引先と十分な情報・意見交換を行い、その理解や納得を得られるように努める必要がある。
(4)ア 独占禁止法に違反する事実があると思うときは,だれでも,公正取引委員会にその事実を報告し,適当な措置を採るよう求めることができます(独占禁止法45条1項)。
    また,独占禁止法に違反する事実があるという報告が報告者の氏名又は名称及び住所が記載された書面で行われ,具体的な事実を示しているものである場合,公正取引委員会は,その報告に係る事件についてどのような措置を採ったか,又は措置を採らなかったかを報告者に通知することになっています(独占禁止法45条3項のほか,公正取引委員会HPの「申告」参照)。
イ 公正取引委員会HPに「相談・届出・申告の窓口」が載っていますところ,大阪府の事業所の場合,近畿中国四国事務所が窓口となります。

8 反社会的勢力排除条項がない場合,錯誤無効を主張できないこと

・ 信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないと判示した最高裁平成28年1月12日判決からすれば,仮に下請業者等が反社会的勢力に該当したとしても反社会的排除条項を含む契約書を作成していない限り,下請け業者等との取引について錯誤無効(令和2年4月1日以降は「錯誤取消し」)を主張することはできません。
    そのため,反社会的勢力排除条項がない限り,反社会的勢力排除に該当する下請先等との取引を当然に打ち切ることはできないと思います。

9 暴力団排除条項を確認する場合に気を付けるべき点

    暴力団排除条項を確認する場合,以下の事項を受け入れるかどうかについては特に気をつけた方がいいと思います。
① 「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を排除の対象に含めること。
・ 反社5年ルール(「暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者」まで反社会的勢力とするルール)はよく見かけるものの,元暴力団員であるかどうかを調査することは容易ではありません。
・ 役員に元暴力団員がいる企業であってもハローワークに求人の申込みを提出できます(職業安定法5条の6第1項5号)。
② 従業員を排除の対象に含めること。
・ 厚生労働省の「公正な採用選考の基本」からすれば,
家族に関すること,生活環境・家庭環境に関すること,人生観・生活信条に関することを聞いてはいけませんし,身元調査などの実施は禁止されているわけですから,採用時点で暴力団員であるかどうかが分かるとは限りません。
・ 採用した従業員が暴力団員であることが判明した場合において,当該従業員の日頃の業務遂行状況に特段の問題がないのであれば,重要な経歴の詐称を理由に解雇することは非常に難しいと思いますし,元暴力団員にすぎない場合についてはなおさら解雇することは難しいです。
・ 役員に暴力団員がいる企業はハローワークに求人の申込みを提出できない(職業安定法5条の6第1項5号)ものの,従業員に暴力団員がいるに過ぎない企業はハローワークに求人の申込みを提出できます。
③ 下請業者等を排除の対象に含めること。
・ 反社会的勢力排除条項を入れた契約書を交わしていない限り,反社会的勢力排除に該当するというだけの理由で取引を打ち切ることはできないと思います(最高裁平成28年1月12日判決参照)。

10
 反社会的勢力に関する統一的な定義はないこと
・ 参議院議員熊谷裕人君提出反社会的勢力の定義に関する質問に対する答弁書(令和元年12月13日付)には以下の記載があります。
    政府としては、「反社会的勢力」については、その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難であると考えている。

11 相手方が元暴力団構成員であることを弁護士が準備書面に記載できるとは限らないこと
・ 令和4年11月11日発効の東京弁護士会の懲戒処分(戒告)の「処分の理由の要旨」は以下のとおりです(自由と正義2023年3月号86頁)から,相手方が元暴力団構成員であることを弁護士が準備書面に記載できるとは限りません。
    被懲戒者は、2018年10月16日、懲戒請求者がAを被告として提起した貸金返還請求訴訟の口頭弁論期日において、訴訟行為との関係性や訴訟追行上の必要性及び主張方法等の相当性の観点から正当な訴訟活動とは認められないにもかかわらず、Aの訴訟代理人として、懲戒請求者が過去に暴力団の構成員であったことを記載した答弁書及び準備書面を陳述し、証拠説明書を提出した。
    被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

12 預貯金口座の凍結に関する警察庁の文書
・ 預貯金口座の凍結に関する警察庁の以下の文書につき,①は総論であり,②凍結及び凍結解除並びに③凍結解除の報告は「特殊詐欺」に関するものであり,④凍結及び凍結解除並びに⑤凍結解除の報告は「利殖勧誘事犯」及び「ヤミ金融事犯」に関するものです。
① 生活安全事犯に利用される預金口座等対策の推進について(平成29年4月7日付の警察庁生活安全局生活経済対策管理官の通達)
② 特殊詐欺に係る凍結口座名義人リスト及び凍結口座名義法人リストの運用について(令和2年3月31日付の警察庁刑事局捜査第二課長等の文書)
③ 特殊詐欺に係る凍結口座名義人リスト及び凍結口座名義法人リストの削除にかかる報告要領等について(令和2年3月31日付の警察庁刑事局捜査第二課長の文書)
④ 利殖勧誘事犯又はヤミ金融事犯に係る凍結口座名義人リスト及び凍結口座名義法人リストの運用について(令和2年3月31日付の警察庁生活安全局生活経済対策管理官の通達)
⑤ 特殊詐欺に係る凍結口座名義人リスト及び凍結口座名義法人リストの削除にかかる報告要領等について(令和2年3月31日付の警察庁刑事局捜査第二課長の文書)


13 関連記事その他
(1) 反社5年ルールを定めた業法の例としては,建設業法,宅建業法,貸金業法,廃棄物処理法及び労働者派遣法があります(RoboRoboコラムの「反社排除の5年条項があれば大丈夫? 反社チェックの必要性を解説」参照)。
(2) 平成23年6月2日付で改正された銀行取引約定書の参考例において,反社5年ルールが記載されるようになりました(全銀協HPの「融資取引および当座勘定取引における暴力団排除条項参考例の一部改正について」(平成23年6月2日付)参照)。
(3) 令和2年4月1日以降につき,暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者は不動産の買受の申出をすることはできません(民事執行法65条の2第1号)。
(4) 取締役等の役員が暴力団員となっている法人は,ハローワークに求人を出すことはできません(職業安定法5条の6第1項5号ロ)。
(5)ア 暴力団対策法11条2項及び46条1号は憲法14条1項に違反しません(最高裁令和5年1月23日判決)。
イ 暴力団対策法11条2項は「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」というものです。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 労働保険に関するメモ書き

消費者契約法及び特定商取引法等に関するメモ書き

目次
第1 消費者契約法に関するメモ書き
第2 特定商取引法に関するメモ書き
1 訪問販売等におけるクーリング・オフ
2 通信販売に関する取扱い
3 特定商取引法の申出制度
4 その他
第3 割賦販売法に関するメモ書き
1 総論
2 令和3年4月1日施行の改正割賦販売法の概要
3 割賦販売法に関する最高裁判例
第4 個人情報保護法に関するメモ書き
1 総論
2 個人情報保護法の適用範囲の拡大
3 その他
第5 マイナンバー法に関するメモ書き
第6 関連記事その他

第1 消費者契約法に関するメモ書き
1 消費者契約法は平成13年4月1日に施行されました。
2 平成19年6月に開始した消費者団体訴訟制度は,平成20年の法改正により景表法及び特定商取引法を対象とするようになり,平成25年の法改正により食品表示法も対象とするようになりました。
3 平成28年,平成30年及び令和4年には,①取り消しうる不当な勧誘行為の追加,②無効となる不当な契約条項の追加等の民事ルールの改正が行われました。
4 消費者庁HPに「逐条解説(平成31年2月)」が載っています。
5 「消費者契約法に関する最高裁判例」も参照してください。

第2 特定商取引法に関するメモ書き
1 総論
・ 特定商取引法は,事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し,消費者の利益を守ることを目的とする法律であり, 具体的には,訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に,事業者が守るべきルールと,クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています(特定商取引ガイドHP「特定商取引とは」参照)。 
2 訪問販売等におけるクーリング・オフ

(1) 訪問販売(キャッチセールス,アポイントメントセールス等を含む。),電話勧誘販売,特定継続的役務提供及び訪問購入の場合,申込み書面等の受領日から8日以内であればクーリング・オフができます。
(2) 連鎖販売取引及び業務提供誘引販売取引(内職商法,モニター商法等)の場合,申込み書面等の受領日から20日以内であればクーリング・オフができます。
(3) クレジット契約をしている場合にクーリングオフをするときは,販売会社及びクレジット会社の両方にクーリング・オフの通知をする必要があります(国民生活センターHPの「クーリング・オフ」参照)。
3 通信販売の取扱い
(1) 通信販売(例えば,ネットショッピング及びテレビショッピング)の場合,クーリング・オフはできないものの,返品に関する特約がない場合,商品を受け取った日を含めて8日以内であれば,消費者が送料を負担して返品することができます(特定商取引法15条の3)。
(2) Amazon.co.jp及びAmazonマーケットプレイスの大半の出品者は,原則として商品到着から30日以内の返品・交換に応じています(アマゾンHPの「返品・交換の条件」参照)。
4 特定商取引法の申出制度
・ 特定商取引法に規定される7つの取引類型(訪問販売・通信販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売取引・訪問購入)において、取引の公正や消費者の利益が害されるおそれがある場合に、消費者庁長官若しくは経済産業局長又は都道府県知事にその内容を申し出て、事業者等に対して適切な措置を採るよう求めることができるものの,申出に対する見解,調査経過,調査結果等の問い合わせに答えてもらうことはできません(消費者庁HPの「特定商取引法の申出制度」参照)。
5 その他
・ 令和3年の特定商取引法改正では,通販の「詐欺的な定期購入商法」対策,送り付け商法対策,クーリング・オフの通知の電子化対応,事業者が交付すべき契約書面等の電子化対応などが定められました(KEIYAKU-WATCH HP「【2022年6月1日等施行】特定商取引法(特商法)
改正とは? 改正点を分かりやすく解説!」参照)。


第3 割賦販売法に関するメモ書き
1 総論

・ 割賦販売法は,「①割賦販売等に係る取引の公正の確保、②購入者等が受けることのある損害の防止及び③クレジットカード番号等の適切な管理等に必要な措置を講ずることにより、割賦販売等に係る取引の健全な発達を図るとともに、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を円滑にし、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする」法律です(割賦販売法1条1項)。
・ 経済産業省HPの「割賦販売法」には,過去の法令改正関係資料(主な改正は平成20年12月施行分,平成28年12月施行分及び令和3年4月1日施行分です。)等が載っています。
・ 経済産業省HPの「割賦販売法(後払信用)の概要」(令和3年6月の経済産業省商務・サービスグループ商取引監督課の文書)5頁に,昭和36年の制定から令和2年改正までの経緯が書いてあります。
2 令和3年4月1日施行の改正割賦販売法の概要
・ 令和3年4月1日施行の改正割賦販売法の概要は以下のとおりです(経済産業省HPの「割賦販売法の一部を改正する法律について(令和2年法律第64号)」(令和3年3月の経済産業省商務・サービスグループ商取引監督課の文書)参照)。
① 「認定包括信用購入あつせん業者」の創設
    従来の包括支払可能見込額調査に代わる与信審査手法によることを許容。
② 「登録少額包括信用購入あつせん業者」の創設極度額
    10万円以下の包括信用購入あつせん業を営む事業者の新たな登録制度による規制合理化。
③ クレジットカード番号等の適切管理の義務主体の拡充
    新たなクレジットカード番号等の保持主体を適切管理義務の主体に追加。
④ 書面交付の電子化利用者の事前の承諾を要することなく、電子による利用明細等の提供を行うことを許容等。
⑤ 業務停止命令の導入
3 割賦販売法に関する最高裁判例
・  最高裁平成13年11月22日判決は,預託金会員制ゴルフクラブに入会するために支払うべき預託金についてされた申込者とクレジット会社との間のクレジット契約においてゴルフ場の開場遅延が同契約に規定する支払拒絶の事由に該当しないとされた事例です。
・ 最高裁平成23年10月25日判決は,個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はないと判示した事例です。
・ 最高裁平成29年2月21日判決は, 個別信用購入あっせんにおいて,購入者が名義上の購入者となることを承諾してあっせん業者との間で立替払契約を締結した場合に,販売業者が上記購入者に対してした告知の内容が,割賦販売法35条の3の13第1項6号にいう「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」に当たるとされた事例です。


第4 個人情報保護法に関するメモ書き
1 総論

・ 個人情報保護委員会HPの「個人情報保護法の過去・現在・未来」には昭和55年のOECDプライバシー8原則から平成27年の個人情報保護法改正までの経緯が載っています。
2 個人情報保護法の適用範囲の拡大
(1)ア 令和4年4月1日,個人情報保護法,行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法が個人情報保護法に一本化されました。
イ 令和5年4月1日,地方公共団体にも個人情報保護法が適用される予定です(神奈川県HPの「個人情報保護制度の見直しについて」参照)。
(2)ア 経済産業省HPに「個人情報保護法 令和2年改正及び令和3年改正案について」(令和3年5月7日付)が載っています。
イ BUSINESS LAWYERS「令和3年個人情報保護法改正とは?改正項目の全体像と施行スケジュールを解説(新旧対照表つき)」に,令和2年改正と令和3年改正による個人情報保護法の条番号の変更をまとめた一覧表が載っています。
3 その他
(1) 個人情報保護委員会HPに「マンガで学ぶ個人情報保護法」が載っています。
(2) 日本医事新報社HPの「Vol.3 閉院時のカルテの処分」には「カルテの【法定保存期間は5年】、しかし【損害賠償請求権は10年】を考慮した対応をお薦めします。また、保管場所・処分方法共に、個人情報保護の観点から細心の注意が求められます。」と書いてあります。

第5 マイナンバー法に関するメモ書き
1 マイナンバーは,住民票が日本にあるすべての住民に対して一人に一つずつ付与される12桁の個人番号です。
2 マイナンバーカードは,マイナンバーや個人情報が記載された顔写真付きのカードです。
3 個人番号通知書は,住民の一人ひとりにマイナンバーを通知するものであって,同通知書には「氏名」,「生年月日」,「マイナンバー」等が記載されています。
4 地方公共団体情報システム機構は,マイナンバーカード総合サイトを運営しています。


第6 関連記事その他
1 消費者契約法,特定商取引法及び景品表示法の所管省庁は消費者庁であり,割賦販売法の所管省庁は経済産業省であり,個人情報保護法の所管省庁は個人情報保護委員会であり,マイナンバー法の所管省庁は総務省です。
2 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)

下請法に関するメモ書き

目次
1 下請法が適用される資本金区分
2 親事業者の義務
3 親事業者の禁止事項
4 返品及びやり直しの期間制限
5 トンネル会社規制
6 中小企業庁作成の,下請適正取引等推進のためのガイドライン
7 弁護士の意見書作成業務に下請法の適用はないこと
8 建設業と下請法
9 下請振興法
10 フリーランス
11 関連記事その他

1 下請法が適用される資本金区分
(1) 製造委託及び修理委託の場合,資本金3億円超の法人事業者が資本金3億円以下の法人事業者に外注したり,資本金1000万円超3億円以下の法人事業者が資本金1000万円以下の法人事業者又は個人事業者に外注したりする場合に下請法が適用されます(下請法2条7項1号及び2号)。
(2) 情報成果物作成委託及び役務提供委託の場合,資本金5000万円超の法人事業者が資本金5000万円以下の法人事業者に外注したり,資本金1000万円超5000万円以下の法人事業者が資本金1000万円以下の法人事業者又は個人事業者に外注したりする場合に下請法が適用されます(下請法2条7項3号及び4号)。

2 親事業者の義務
(1) 親事業者は,書面の交付義務(下請法3条),書類の作成・保存義務(下請法5条),下請代金の支払期日を定める義務(下請法2条の2)及び遅延利息の支払義務(下請法4条の2)を負っています(公取HPの「親事業者の義務」参照)ところ,公取HPに「下請代金支払遅延等防止法第3条に規定する書面に係る参考例」が載っています(公取HPの「下請取引適正化推進講習動画について」に載ってある下請取引適正化講習会テキスト93頁ないし112頁からの抜粋と思います。)。
(2) 業務委託契約書の達人HPに以下の記事が載っています。
① 下請法の三条書面とは?業務委託契約書と兼ねるための12の記載事項は?
② 下請法の五条書類・五条書面とは?業務委託契約書と兼ねるための17の必須事項とは?

3 親事業者の禁止事項

(1) 親事業者の禁止事項は以下のとおりです(下請法4条)。
ア 受領拒否(1項1号)
イ 下請代金の支払遅延(1項2号)
ウ 下請代金の減額(1項3号)
エ 返品(1項4号)
オ 買いたたき(1項5号)
カ 購入・利用強制(1項6号)
キ 報復措置(1項7号)
ク 有償支給原材料等の対価の早期決済(2項1号)
ケ 割引困難な手形の交付(2項2号)
コ 不当な経済上の利益の提供要請(2項3号)
サ 不当な給付内容の変更・やり直し(2項4号)
(2)  公取HPに「親事業者の禁止行為」が載っています。

4 
返品及びやり直しの期間制限 
(1) 公取HPの「法令・ガイドライン等(下請法)」に載ってある,下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成15年12月11日全部改正の公正取引委員会事務総長通達)には「第4 親事業者の禁止行為」として以下の記載があります。
4 返品
(中略)
エ 委託内容と異なること又は瑕疵等のあることを直ちに発見することができない給付であっても,受領後6か月(下請事業者の給付を使用した親事業者の製品について一般消費者に対し6か月を超える保証期間を定めている場合においては,それに応じて最長1年)を経過した場合
8 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
(中略)
エ 委託内容と異なること又は瑕疵等のあることを直ちに発見することができない給付について,受領後1年を経過した場合(ただし,親事業者の瑕疵担保期間が1年を超える場合において,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間を定めている場合を除く。)
(2)ア 優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析[第3版]177頁には以下の記載があります。
下請法規制において、直ちに発見することのできない暇疵のある目的物のやり直しは、原則として、遅くとも当該給付の受領後1年以内に求められなければならないものとされる。これは、豊富な資金を有せず機動的な金融を行う環境にもない下請事業肴が、取引から長期間経過した後に不測の負担を強いられることがないよう、取引の効果を早期に安定させることを目的としたものである。直ちに発見できない暇疵のある給付について、返品の場合は原則として受領後6か月以内に行わなければならないものとされているが、やり直しの場合には、返品と比べて下請事業者に不利益を与える程度が低いため、期間制限を長く設定されたものと考えられる。
イ 公正取引委員会HPに「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成29年6月16日改正)が載っています。
(3) 下請法上禁止されているのは受領後1年以上経過したやり直しですから,受領後1年以上経過したからといって損害賠償請求までできなくなるわけではないみたいです(弁護士植村幸也公式ブログ「納入後長期間経過後の瑕疵発見とやり直しに関する下請法の規制」参照)。

5 トンネル会社規制
(1) 以下の場合,子会社Cと事業者Bの取引について下請法が適用されます(下請法2条9項)。
① 事業者A(親会社)が事業者Bに直接製造委託等をすれば下請法の適用を受ける関係等にあること
② 子会社Cが事業者A(親会社)から役員の任免,業務の執行又は存立について支配を受けていること
→ 例えば,親会社の議決権が過半数の場合,常勤役員の過半数が親会社の関係者である場合又は実質的に役員の任免が親会社に支配されている場合です。
③ 子会社Cが事業者A(親会社)からの下請取引の全部又は相当部分について,事業者Bに再委託すること
→ 例えば,親会社から受けた委託の額又は量の50%以上を再委託(複数の他の事業者に業務を委託している場合は,その総計)している場合です。
(2) 下請取引適正化推進講習会テキスト(令和3年11月)16頁ないし19頁に詳しい説明が載っています。

6 中小企業庁作成の,下請適正取引等推進のためのガイドライン
(1) 中小企業庁HPの「下請適正取引等推進のためのガイドライン」には以下の記載があるとともに,19種類のガイドラインが掲載されています。
    2021年12月末時点で、(1)素形材、(2)自動車、(3)産業機械・航空機等、(4)繊維、(5)情報通信機器、(6)情報サービス・ソフトウェア、(7)広告、(8)建設業、(9)建材・住宅設備産業、(10)トラック運送業、(11)放送コンテンツ、(12)金属、(13)化学、(14)紙・加工品、(15)印刷、(16)アニメーション制作業、(17)食品製造業、(18)水産物・水産加工品、(19)養殖業の19業種で策定しています。
(2)ア 例えば,素形材産業取引ガイドライン(素形材産業における適正取引等の推進のためのガイドライン)(令和4年10月改定)は,中小企業の多い素形材企業と取引先企業との適正な取引を確保し,我が国素形材企業の健全な発展と競争力の強化を目指すため,素形材業界の代表,ユーザー業界(自動車業界,自動車部品業界,産業機械業界,電機機器業界)の代表,有識者等の審議を経て,経済産業省(事務局:製造産業局素形材産業室)が策定した指針です(リンク先末尾1頁)。 
イ 素形材業界の代表として,一般社団法人日本鋳造協会一般社団法人日本鍛造協会一般社団法人日本金属プレス工業協会一般社団法人日本金型工業会一般社団法人日本金属熱処理工業会一般社団法人日本ダイカスト協会一般社団法人日本鋳鍛鋼会及び日本粉末冶金工業会の各会長が参加しています。
ウ ぷんたむの悟りの書ブログ「鋳造、ダイカスト(ダイキャスト)、粉末冶金(焼結)、切削の違い」が載っています。


7 建設業と下請法
(1) ひまわりほっとダイヤルHPの「下請法」には以下の記載があります。
    たしかに下請法では、建設業者に対して建設工事の発注を行う場合には適用されませんが、建設業法に下請法と同様の規制がありますので、規制を受けないわけではありません。なお、建設業者が建設以外の業務(建築資材の製造や設計業務)を他の事業者に委託するときは、「下請取引」として下請法の規制を受けることがあります。
(2) 建設業法における下請け業者の保護としては,下請代金の早期支払,不当に低い下請代金の禁止,指値発注の制限,赤伝処理の制限,一括下請負の禁止,請負契約締結後の資材購入の強制禁止,やり直し工事の強制禁止があります(弁護士法人グレイスHPの「建設業法と下請業者の保護」参照)。
(3) 国土交通省HPの「建設業法令遵守ガイドライン」には,「元請負人と下請負人間における建設業法令遵守ガイドライン」(第8版),及び「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」(第4版)が載っています。

8 弁護士の意見書作成業務に下請法の適用はないこと

(1) 公正取引委員会HPの「よくある質問コーナー(下請法)」に以下の記載があります。
 (専門家と顧問契約等)
Q12 一般に,企業と弁護士,公認会計士,産業医との契約も,本法の対象となるか。
A. これらは,一般に企業(委託者)が自ら用いる役務であり,他者に業として提供する役務でないので,役務提供委託に該当せず,本法の対象とはならない。
(2) 知財弁護士の本棚ブログ「弁護士業務に下請法の適用はあるか」(2017年3月8日付)には「先日、公正取引協会の下請法のセミナーに参加したところ、「弁護士の意見書作成業務に下請法の適用はない」と言われて、軽くショックでした(笑)。」と書いてあります。


9 下請振興法
(1) 中小企業庁HPの「下請中小企業振興法」には「同じく下請事業者との取引の適正化を図ることを目的とする下請代金法が規制法規であるのに対し、下請振興法は、下請中小企業を育成・振興する支援法としての性格を有する法律である。」と書いてあります。
(2)ア 中小企業庁HPの「振興基準」には「振興基準は、下請中小企業の振興を図るため、下請事業者及び親事業者のよるべき一般的な基準として下請中小企業振興法第3条第1項の規定に基づき、定められたものです。」と書いてあります。
イ 厚労省HPの「下請振興法の「振興基準」とは?」には「下請法とは異なり、資本金が自己より小さい中小企業者に対して製造委託等を行う幅広い取引が対象となります。」と書いてあります。


10 フリーランス
(1)ア 経済産業省HPに「「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)に対するパブリックコメントの結果及び同ガイドラインを取りまとめました」(令和3年3月26日付)が載っています。
イ マネジメントオフィスいまむらHP「ISO9001:2015 8.4.2~8.4.3 調達先や外注先の管理のために不可欠なこととは?」が載っています。
(2)ア JIPA HP「【法律・契約】業務委託(契約)の仕組み」に,労働者としての「雇用」と,「業務委託」契約の違い等が書いてあります。
イ ヤフーニュースに「実態は「労働者」なのに……「名ばかり事業主」の苦しみとは 」(平成31年4月9日配信)が載っています。
(3) 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律は令和5年4月28日に参議院本会議で可決・成立しましたところ,厚生労働省HPに「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要 (新規)」が載っています。
(4) LISKUL HPに「【2022年最新版】オンラインアシスタントサービス48選を徹底比較!」が載っています。
(5)ア 二弁フロンティア2023年11月号フリーランス新法の成立と今後の展望が載っています。
イ フリーランス新法に関する内閣法制局説明資料(令和5年1月)を載せています。
ウ ビジネスローヤーズに「フリーランス新法は11月1日施行!実務対応のポイントを解説 」が載っています。
(6) 令和5年9月11日,特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会の初会合が開催され,5月22日に報告書が公表されました(厚生労働省HPの「「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」の報告書を公表します」参照)。


11 関連記事その他 
(1)ア 公正取引委員会が行う「下請法に関する調査・手続」としては,①「定期調査(親事業者向け)」(下請事業者との取引に関する調査),及び②「定期調査(下請事業者向け)」(親事業者との取引に関する調査)があります。
イ 景品表示法及び下請法は独禁法の補完法となります。
(2) 公正取引委員会HPには例えば,以下の資料が載っています。
・ 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(令和5年11月29日付)
 (令和4年5月31日)令和3年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組
(3)ア 中小企業庁HPには例えば,以下の資料が載っています。
・ 下請取引適正化推進講習会 下請代金支払遅延等防止法について」(令和3年11月の中小企業庁事業環境部取引課の文書)
イ 中小企業庁HPの「下請かけこみ寺」「マンガで読む!価格交渉サポート事業個別相談事例集」等が載っています。
(4) 日本書籍出版協会HPに載ってある出版社における改正下請法の取扱い(2004年3月)についてには以下の記載があります。
出版物の内容である著作物は、特定の出版社の出版物への掲載以外にも広く利用される等汎用性が高く、かつ、作成を委託する際に出版社が定める仕様に基づいて作成を委託している訳ではないものもあり、このような著作物は情報成果物の作成委託に該当せず、下請取引の対象外として取扱われます。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 下請法に関する手形通達
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き

国民年金保険料及び国民健康保険料の減免等に関するメモ書き

目次
第1 国民年金保険料の免除及び納付猶予申請
1 総論
2 国民年金保険料の免除申請
3 国民年金保険料の納付猶予申請
4 国民年金保険料の追納制度
第2 国民健康保険料に関するメモ書き
1 国民健康保険料の軽減及び減免の申請
2 国民健康保険料の計算サイト
第3 関連記事その他

第1 国民年金保険料の免除及び納付猶予申請
1 総論
(1) 国民年金保険料の免除及び納付猶予申請については,日本年金機構HPの「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」に一通りの説明が書いてあります。
(2) 住民登録をしている市区役所・町村役場の国民年金担当窓口で申請をする必要があります。
(3)ア 必要書類は以下のとおりです。
① 必ず必要なもの
・ 年金手帳又は基礎年金番号通知書
② 場合によって必要なもの
・ 前年(又は前々年)所得を証明する書類
→ 7月以降に申請をする場合は前年の,6月以前に申請する場合は前々年の書類が必要です。
・ 所得の申立書
→ 所得についての税の申告を行っていない場合に必要となります。
イ 平成26年10月以降,前年(又は前々年)の所得額が57万円以下であることの申立てを免除等申請書の「前年所得」欄に記入することにより,所得の状況を明らかにすることができる書類の添付を省略できるようになりました。
(4) 平成26年4月以降,保険料の納付期限から2年を経過していない期間(申請時点から2年1ヵ月前までの期間)について,さかのぼって免除又は納付猶予を申請できるようになりました(日本年金機構HPの「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間」参照)。
(5) 平成31年4月以降,次世代育成支援の観点から,国民年金第1号被保険者が出産を行った場合,住民登録をしている市区役所・町村役場の国民年金担当窓口に届書を提出することにより,出産前後の一定期間の国民年金保険料が免除されるようになりました(日本年金機構HPの「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」参照)。
2 国民年金保険料の免除申請
(1) 本人,世帯主及び配偶者の前年所得が一定額以下の場合,国民年金保険料の免除制度に基づき,申請をすることにより全額又は一部を免除してもらえます。
(2) 国民年金保険料の免除制度は,同居している親に一定額以上の所得がある場合は利用できません。
(3) 国民年金保険料の免除を受けた場合,免除期間が老齢基礎年金の額に反映されますし,年金の受給資格期間に反映されます。
3 国民年金保険料の納付猶予申請
(1) 本人及び配偶者の前年所得が一定額以下であり,本人が50歳未満である場合,国民年金保険料の納付猶予制度に基づき,申請をすることにより全部の納付を猶予してもらえます。
(2) 国民年保険料の納付猶予を受けた場合,猶予期間は老齢基礎年金の額に反映されないものの,年金の受給資格期間に反映されます。
4 国民年金保険料の追納制度
(1) 国民年金保険料について免除又は納付猶予を受けた場合であっても,過去10年分の国民年金保険料を追納することができます(日本年金機構HPの「国民年金保険料の追納制度」参照)。
(2) 過去2年分の国民年金保険料を追納する場合,追納加算額がありません。

第2 国民健康保険料に関するメモ書き
1 国民健康保険料の軽減及び減免の申請

(1) 厚生労働省HPの「国民健康保険の保険料・保険税について」には以下の記載があります。
① 各法令の規定に基づき、具体的な国民健康保険料(税)の算定方法や徴収期限・方法などについて、各市町村の条例(国民健康保険組合の場合は規約)などで定められています。国民健康保険料(税)は、世帯単位で算定し、世帯の被保険者ごとに応益分・応能分の各種類を計算し、それらを合計したものとなります。
② 国民健康保険料(税)の額を算定する際、法令により定められた所得基準を下回る世帯については、被保険者応益割(均等割・平等割)額の7割、5割又は2割を減額する制度があります。
③ 災害、その他特別の事情により国民健康保険料(税)を納めることが困難な場合、国民健康保険料(税)の減免や納付猶予を受けられる場合があります。
(2) 大阪市の場合の取扱いは以下のとおりです。
① 国民健康保険料の7割軽減,5割軽減又は2割軽減を受けるためには,世帯全員の所得が判明している必要があります。
② 倒産・解雇などの理由で離職した65歳未満の人は,非自発的失業者にかかる軽減の届出書を提出すれば,離職年月日の翌日が属する月から翌年度末までの間,国民健康保険料の軽減を受けることができます。
③ 当年中の見込所得(年度途中の退職等の場合は、当該状況が発生した月以降の見込所得)が、前年比10分の7以下となる世帯 (退職・倒産・廃業・休業や営業不振等のため、見込所得が大幅に減少する世帯)は,減免申請書を提出すれば,国民健康保険料の減免を受けることができます。
2 国民健康保険料の計算サイト
・ 税金・社会保障教育HP「国民健康保険料シミュレーション」を使えば,主な市区町村の国民健康保険料を計算することができます。


第3 関連記事その他
1 東京都新宿区HPに「令和3年度 国民健康保険料 概算早見表(給与・年金)」が載っています。
2 大阪市の場合,年に6回,国民健康保険加入の世帯主に宛てて,国民健康保険医療費のお知らせを送っています(大阪市HPの「「国民健康保険医療費のお知らせ」をお届けしています」参照)。
3 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 司法修習生と国民年金保険料の免除制度及び納付猶予制度

社会保険に関するメモ書き

目次
1 総論
2 新規適用の手続
3 社会保険に関する書類の提出先
4 社員採用時等の取扱い
5 定時決定及び随時決定
6 従業員の社会保険料の天引き
7 退職者の社会保険料の天引き
8 健康保険に関するメモ書き
9 厚生年金保険に関するメモ書き
10 介護保険に関するメモ書き
11 令和4年10月1日の,士業への社会保険の適用拡大
12 社会保険料の計算サイト
13 国民年金法30条の4に基づく20歳前障害者に対する障害基礎年金
14 関連記事その他

1 総論
(1) 広義の社会保険には厚生年金保険,健康保険及び介護保険のほか,労災保険及び雇用保険も含まれますところ,本ブログ記事における「社会保険」という用語は,厚生年金保険,健康保険及び介護保険の総称として使っています。
(2) カオナビ人事用語集HP「社会保険とは?【わかりやすく】種類、国保・雇用保険との違い」が載っています。

2 新規適用の手続
・ 以下の事業所は,事実発生から5日以内に,年金事務所に対し,健康保険・厚生年金保険 新規適用届を提出する必要があります(日本年金機構HPの「新規適用の手続き」参照)。
① 常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する法人事業所
② 常時5人以上の従業員が働いている事業所,工場,商店等の個人事業所

3 社会保険に関する書類の提出先
・ 協会けんぽHPに「年金と健康保険に関する書類の提出先」が載っていますところ,例えば,事業所,採用,給与・賞与,育児休業及び退職・死亡に関する書類の提出先は年金事務所となっています。

4 社員採用時等の取扱い
(1) 社員を採用した場合,5日以内に健康保険・厚生年金保険の資格取得手続を年金事務所でする必要があります。
(2) 社員が退職した場合,5日以内に健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続を年金事務所でする必要があります。
(3) 社員に賞与を支給した場合,5日以内に年金事務所に賞与支払届を提出する必要があります。
(4) 給料を改定した場合,改定月より3ヶ月間で条件を満たしたときは随時改定の必要がありますから,年金事務所に月額変更届を提出する必要があります。

 定時決定及び随時改定
(1) 定時決定及び随時改定は,社員の給与から控除する社会保険(厚生年金保険及び健康保険)に関係する手続です。
(2)ア 定時決定は,毎年7月1日時点で雇用している社員すべてが対象になり,4月ないし6月に支払った給与が基になり,毎年9月から翌年8月までの,1年間の社会保険料を決めるために行います。
 定時決定の手続に使用する書類が「被保険者報酬月額算定基礎届」(提出期間は毎年7月1日から同月10日まで)であるため,定時決定を「算定基礎届の手続」という場合があります。
イ マネーフォワードクラウド給与HP「社会保険料の変更に伴う手続きを解説!随時改定の意味など」には以下の記載があります。
 給与から天引きできる社会保険料は、給与を支払った月の前月分です。たとえば9月分の社会保険料は10月分の給与から天引きすることになります。標準報酬月額の変更により社会保険料が変更されるのは9月ですが、実務的には10月分の給与から変更後の社会保険料を控除することを覚えておきましょう。
(3)ア 随時改定は,定時決定の対象期間(4月・5月・6月の3ヶ月)以外で,給与に大きな昇降があったり,給与の雇用形態の変更で固定的な給与の額が著しく変動したときに行います。
 随時改定に使用する書類が「被保険者報酬月額変更届」であるため,随時改定を「月額変更届の手続」という場合があります。
イ マネーフォワードクラウド給与HP「社会保険料の変更に伴う手続きを解説!随時改定の意味など」には以下の記載があります。
 随時改定を行わない場合、正しい額の社会保険料を納めない時期が発生します。過払い・不足の状況となり、精算が必要です不足分の社会保険料については、延滞料が課される可能性もあります。また、虚偽の随時改定を行った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が課される恐れがあるので注意しましょう。
(4) 日本年金機構HPに「定時決定(算定基礎届)」及び「随時改定(月額変更届)」が載っています。

6 従業員の社会保険料の天引き
(1) 健康保険・厚生年金保険の保険料の徴収は,日本年金機構(年金事務所)が行うこととされており,事業主は毎月の給料及び賞与から被保険者負担分の保険料を差し引いて,事業主負担分の保険料とあわせて,納付対象月の翌月末日までに納めることになっています(例えば,4月分保険料の納付期限は5月末日です。)(日本年金機構HPの「厚生年金保険料等の納付」参照)。
(2) 健康保険・厚生年金保険では,被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額と税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた標準賞与額(健康保険は年度の累計額573万円,厚生年金保険は1ヶ月あたり150万円が上限)を設定し,保険料の額や保険給付の額を計算します(協会けんぽHPの「標準報酬月額・標準賞与額とは?」参照)。
(3) 賞与に対する社会保険料の天引きが開始したのは平成15年4月からです(M’sHR社会保険労務士法人HP「賞与にかかる社会保険料、確認していますか?」参照)。
(4)ア 全国健康保険協会(協会けんぽ)HP「都道府県ごとの保険料額表」には,平成21年度以降の健康保険及び厚生年金保険の保険料額表が載っています。
イ 協会けんぽの健康保険料の保険料率は都道府県ごとに異なりますところ,大阪府の令和4年3月分以降の場合,健康保険料は10.22%(介護保険第2号被保険者ではない40歳未満の場合)又は11.86%(介護保険第2号被保険者である40歳以上の場合)です(厚生年金保険料は全国一律18.3%です。)。



7 退職者の社会保険料の天引き

(1) 日本年金機構HPの「退職した従業員の保険料の徴収」には以下の記載があります。
 従業員が負担する保険料は、被保険者資格を取得した日の属する月から喪失した日(退職日の翌日)の属する月の前月まで発生し、事業主は、毎月の給与から前月分保険料を控除することができます。
 従業員の方が月の途中で退職した場合は、退職月の前月分の保険料を退職月の給与から控除し、月末に退職した場合は、退職月の前月と退職月の2か月分の保険料を退職月の給与から控除することができます。
 賞与に対する保険料は、支給する賞与から控除することができます。退職月に支給する賞与は、月末に退職する場合を除き、保険料控除の対象となりません。
(2) 日本年金機構HPの「月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。」には以下の記載があります。
月の途中から入社した場合
 入社日にて厚生年金の被保険者資格を取得することとなります。保険料は月単位で計算しますので、資格取得した月の保険料から支払う必要があります。
保険料は、会社が被保険者に支払う給与から保険料相当額の被保険者負担分を直接控除し、会社負担分と合わせて翌月末までに国に納めますので、個人で納める必要はありません。
月の途中で退職した場合
 退職した日の翌日に厚生年金の被保険者資格を喪失することとなります。保険料は、資格喪失日が属する月の前月分まで納める必要があります。
 なお、月の「末日」に退職した場合は、翌月1日が資格喪失日となりますので、退職した月分までの保険料を納める必要があります。この場合は、給与計算の締切日によって、退職時の給与から前月分と当月分の社会保険料が控除される場合があります。

 健康保険に関するメモ書き
(1) 高額療養費,傷病手当金,出産手当金,出産育児育児一時金,埋葬料といった健康保険給付を受ける権利の消滅時効は2年であります(健康保険法193条1項)ところ,協会けんぽHPに「健康保険の給付金の申請もれはありますか?健康保険給付の申請期限について」が載っています。
(2) 厚生労働省HPの「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」には以下の記載があります。
傷病手当金の支給期間が、支給開始日から「通算して1年6か月」になります。
 同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで対象となります。
 支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給可能になります。
(3) 社員が75歳に達した時点で,健康保険について被保険者資格喪失届を提出する必要があります。
(4)ア 平成20年4月1日に開始した高齢者医療制度は,①高齢者の心身の特性や生活実態を踏まえて,65歳から74歳までを対象とする「前期高齢者医療制度」,並びに②75歳以上の人及び65歳以上で寝たきり等一定の障害があると認定を受けた人を対象とする「後期高齢者医療制度」の二つの制度で構成されています(大王製紙健康保険組合HP「高齢者医療制度」参照)。
イ 協会けんぽHPの「高齢受給者証」には以下の記載があります。
 75歳になると後期高齢者医療制度の対象となりますが、それまでの間、後期高齢者医療制度に加入しない70歳以上の方には協会けんぽから「健康保険高齢受給者証」が交付されます。これは医療機関等の窓口において一部負担金の割合を示す証明書で、医療機関等で受診される時は、健康保険証と合せて高齢受給者証を提示する必要があります。
(5) 最高裁平成24年3月6日判決(判例体系に掲載)は以下の判示をした上で,短期給付と通勤災害との間で重複支給が発生した場合,行政不服審査法57条1項所定の不服申立てについての教示をせず,行政手続法所定の手続も執ることなく,給付の決定を撤回し,贈与契約を解除できると判示しました(改行を追加しています。)。
 地公共済法上、療養費及び高額療養費が同法53条に基づく短期給付と、入院附加金が同法54条に基づく短期給付(附加給付)と位置付けられており、それぞれ同法43条1項所定の給付の決定によりその受給権が発生するものと解されるのに対して、本件一部負担金払戻金及び本件見舞金については、地公共済法上、これらを同法に基づく給付と位置付ける規定はなく、これらは、専ら本件定款又は本件要綱が定めるところにより支給されるものと解される。
 したがって、本件一部負担金払戻金及び本件見舞金の支給は、本件定款又は本件要綱で定められたところに従って成立する贈与契約に基づくものというべきである。
(6) 健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が被扶養者に該当しない旨の通知は,健康保険法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当します(最高裁令和4年12月13日判決)。


9 厚生年金保険に関するメモ書き
(1) 厚生年金保険の保険料率は,年金制度改正に基づき平成16年から段階的に引き上げられてきましたが,平成29年9月を最後に引上げが終了し,厚生年金保険料率は18.3%で固定されています(日本年金機構HPの「厚生年金保険料額表」参照)。
(2) 日本年金機構HPの「年金の給付に関するもの」に,老齢年金関係,障害年金関係,遺族年金関係等に関するパンフレットが載っています。
(3)ア 社員が70歳に達した時点で,「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を提出し,従業員が厚生年金保険の被保険者資格を喪失する関係で,厚生年金保険料の徴収を終了する必要があります。
イ 日本年金機構HPの「年金額を増やすために、70歳を過ぎても厚生年金保険に加入できますか。」には以下の記載があります。
 会社に勤めていても70歳になれば、厚生年金保険に加入する資格を失います。
 ただし、老齢の年金を受けられる加入期間がなく、70歳を過ぎても会社に勤める場合は、老齢の年金を受けられる加入期間を満たすまで任意に厚生年金に加入することができます。これを高齢任意加入被保険者といいます。
 ただし、既に老齢または退職を事由とする年金を受け取る権利がある場合は、高齢任意加入被保険者になることはできず、70歳を過ぎて厚生年金保険に加入できません。

10 介護保険に関するメモ書き

(1) 介護保険制度は,介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みであり,公費(税金)や高齢者の介護保険料のほか,40歳から64歳までの健康保険の加入者(介護保険第2被保険者)の介護保険料(労使折半)等により支えられています(協会けんぽHPの「介護保険制度と介護保険料について」参照)。
(2) 社員が40歳に到達した時点で介護保険料の徴収を開始し,社員が65歳に達した時点で介護保険料の徴収を終了する必要があります。
(3) 介護のほんねHP「介護保険制度の歴史について2000~2021年までの流れを教えてください!」が載っています。

11 令和4年10月1日の,士業への社会保険の適用拡大

(1) 令和4年10月1日以降,常時5人以上の従業員(勤務弁護士が従業員に含まれるかどうかは勤務実態によります。)を使用している個人経営の法律事務所についても社会保険が適用される結果,事業主たるボス弁等を除き,日本弁護士国民年金基金を脱退することとなります(令和2年改正後の厚生年金保険法6条1項1号)。
(2) 東京都弁護士国民健康保険組合HP「令和4年10月からの士業の適用拡大に係る届出書類等について」には以下の記載があります。
令和4年10月1日から、使用関係が常用的な勤務弁護士・従業員(被用者)あわせて5人以上の個人の法律事務所は、健康保険(協会けんぽ)と厚生年金保険の強制適用事業所に該当します。
弁護士国保加入者は、健康保険の適用除外承認を受けることで、協会けんぽに加入せず、弁護士国保に残ることができますので、ご検討ください(弁護士法人に所属され、すでに健康保険被保険者適用除外承認を受けている方はお手続きは不要です。また、被用者5人未満の個人の法律事務所は強制適用の対象ではありません(協会けんぽと厚生年金保険の任意適用事業所は除く))。
(3)ア 日本年金機構HPに「令和4年10月から5人以上の従業員を雇用している士業の個人事業所は社会保険への加入が必要です。」及び「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」が載っています。
イ 社会保険労務士法人開東社会保険労務事務所HP「法律事務所・弁護士法人の社会保険」,及び「令和4年10月1日から新たに社会保険の適用となる事業とは」が載っています。


12 社会保険料の計算サイト
・ 生活や実務に役立つ計算サイトkeisan「厚生年金保険料の計算」及び「健康保険料の計算」が載っています。

13 国民年金法30条の4に基づく20歳前障害者に対する障害基礎年金
(1) 最高裁平成19年9月28日判決は以下の判示をしています。
    法30条の4(昭和60年改正前の法57条)は,傷病の初診日において20歳未満であった者が,障害認定日以後の20歳に達した日において所定の障害の状態にあるとき等には,その者(以下「20歳前障害者」という。)に対し,障害の状態の程度に応じて,いわゆる無拠出制の障害基礎年金(昭和60年改正前は障害福祉年金。以下,上記の障害基礎年金と障害福祉年金を「20歳前障害者に対する障害基礎年金等」という。)を支給する旨を定めている。
    国民年金の被保険者資格を取得する年齢である20歳に達する前に疾病にかかり又は負傷し,これによって重い障害の状態にあることとなった者については,その後の稼得能力の回復がほとんど期待できず,所得保障の必要性が高いが,保険原則の下では,このような者は,原則として,給付を受けることができない。20歳前障害者に対する障害基礎年金等は,このような者にも一定の範囲で国民年金制度の保障する利益を享受させるべく,同制度が基本とする拠出制の年金を補完する趣旨で設けられた無拠出制の年金給付である。
(2) 大分地裁令和6年3月1日判決は以下の判示をしています。
    同法(山中注:国民年金法)は、同法30条の4第1項に基づく障害基礎年金について、刑事施設等に拘禁されている場合の支給停止(同法36条の2第1項)や所得制限による支給停止(同法36条の3第1項)等の支給停止事由を定めているところ、これらの支給停止事由は、同法30条1項に基づく障害基礎年金については定められていない。
    そうすると、同法30条の4第1項に基づく障害基礎年金は、拠出した保険料とのけん連関係があるものとはいえず、社会保障的性格が強いものであるというべきであり、同法30条1項に基づく障害基礎年金とは直ちには同列には解し難い。
    したがって、e が同法30条の4第1項に基づく障害基礎年金を受給していた蓋然性があったと認められたとしても、同年金が e の逸失利益であると認めるのは困難であるというほかないから、原告の前記主張は採用し難いものといわざるを得ない。

14 関連記事その他
(1)ア 厚生労働省HPの「社会保障全般」には,毎年3月下旬及び9月下旬に「厚生労働省関係の主な制度変更について」が掲載されています。
イ 弁護士の確定申告HP「弁護士開業にまつわる社会保険の手続」が載っています。
(2) 厚生労働省HPの「労働保険関係各種様式」に年度更新申告書計算支援ツール(エクセルファイル)が載っています。
(3)ア ①昭和35年10月から昭和49年10月までに発行された国民年金手帳(厚生省発行)は茶色,水色又は薄橙色であり,②昭和49年11月から平成8年12月までに発行された年金手帳(社会保険庁発行。国民年金と厚生年金とで同じでした。)はオレンジ色であり,③平成9年1月から平成21年12月までに発行された年金手帳(社会保険庁発行)は青色であり,④平成22年1月から令和4年3月までに発行された年金手帳(日本年金機構発行)は青色であり,⑤令和4年4月に年金手帳の制度が廃止され,基礎年金番号通知書が発行されるようになりました(取手市HPの「あなたの年金手帳は何色?色が違う理由は?(くろまめ)」参照)。
イ 厚生年金については,昭和29年5月から昭和49年10月までの間,保険証が交付されていました(マネーフォワードクラウド給与の「2022年4月に年金手帳が廃止 – 厚生年金と国民年金で変わること」参照)。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 労働保険に関するメモ書き


衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案

目次
1 衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案
2 国会同意人事案件の審査手続
3 国会同意人事案の事前漏洩
4 関連記事その他

1 衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案
(令和時代)
令和6年:2月1日3月7日11月28日
令和5年:1月23日2月14日5月12日10月25日
令和4年:1月20日3月1日10月6日
令和3年:1月21日3月9日12月7日
令和2年:1月28日3月17日10月29日
令和元年:5月15日11月13日
(平成時代)
平成4年平成5年平成6年平成7年
平成8年平成9年平成10年平成11年
平成12年平成13年平成14年平成15年
平成16年平成17年平成18年平成19年
平成20年平成21年平成22年平成23年
平成24年平成25年平成26年平成27年
平成28年平成29年平成30年平成31年
*1 ①令和元年5月15日提示から令和4年10月6日提示までの分及び②平成4年4月1日から平成31年4月30日までの提示分をまとめて掲載しています。
*2 令和時代に関しては,「衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案(令和◯年◯月◯日提示)」といったファイル名で掲載しています。

2 国会同意人事案の審査手続
(1)  吉川さおり参議院議員(全国比例)コラム「国会同意人事とは」には以下の記載があります。
国会同意人事とは、衆参両院の同意が必要な人事案件で、日本銀行総裁や日本放送協会経営委員、公正取引委員会委員長など、約40機関の250人以上が対象となるものです。
流れとしては、内閣が衆参両院の議院運営委員会理事会に人事案を提示後、10日程度を経て議決するのが慣例となっています。ただ、最近は、各会派の賛否の議論が出揃うタイミングや議事日程との関係等により、内示後10日程度より後の議決が多くなっています。
(2) 参議院HPの「国会キーワード76 同意人事案件」には以下の記載があります。
    同意人事案件とは、一定の独立性、中立性が求められる機関の構成員の任命について、各機関の根拠法に基づき、内閣が両議院の事前の同意又は事後の承認を求めるものです。現在、その対象は人事官(3名)や検査官(3名)等36機関253名に上ります。
    その審査手続について、法規上の規定はありませんが、先例上「内閣から同意又は承認を求められたときは、まず議院運営委員会において内閣から説明を聴取し、同委員会の決定があった後、議院の会議において議決するのを例とする」とされているほか、衆参の議運委員長申合せに沿って審査されています。具体的には、①内閣官房副長官が各院の議運理事会に内示(衆参同時)、②各会派で賛否を検討、③議運委員会で関係副大臣等から説明聴取の後、採決、④本会議で採決、⑤両院で同意の後、内閣において任命、の順に行われます。なお、人事官、検査官、公正取引委員会委員長、原子力規制委員会委員長、日本銀行総裁・副総裁については、各院の議運委員会で所信聴取・質疑を行います。


3 国会同意人事案の事前漏洩
(1) 衆議院議員鈴木宗男君提出国会同意人事を巡る政府の対応に関する再質問に対する答弁書(平成20年6月20日付)は,下記1等の質問に対し,下記2の回答をしています。

記1

一 衆参両院の同意が必要で、今国会中の処理が求められており、当初衆参の議院運営委員長らで構成される議院運営委員会両院合同代表者会議に一括して提示される予定だった九機関二十四人分の国会同意人事のうち、日銀政策委員会審議委員と預金保険機構理事長の二件(以下、「二件」という。)が本年五月二十七日付の新聞朝刊で報道されたことを受け、野党側が強く反発し、「二件」の国会同意を得るのが一時困難になった旨報じられたことにつき、前回質問主意書で、「二件」の人事案件が事前に報道機関に報じられたのはなぜか、政府において「二件」の人事案件を報道機関に漏らしたのは誰かと問うたところ、「前回答弁書」では「御指摘の二件の人事案件について、政府案を議院運営委員会両院合同代表者会議に提示する前にその内容が報道された経緯等については承知していない」との答弁がなされているが、「二件」を漏らしたのは町村信孝内閣官房長官ではないのか。

記2

先の答弁書(平成二十年六月六日内閣衆質一六九第四四三号)の一、二、四及び五についてで述べたとおり、御指摘の二件の人事案件について、政府案を議院運営委員会両院合同代表者会議に提示する前にその内容が報道された経緯等については承知していないが、今後かかる事態が生じないよう、政府としては十分情報管理に注意してまいる所存であり、お尋ねに対して適切に答弁しているものと認識している。
(2) ヤフージャパンニュースの「雨宮副総裁の名前が報道された次期日銀総裁人事案の「背景」」(2023年2月8日付)には以下の記載があります。
日経新聞が雨宮副総裁の名を掲載
飯田)6日に日経新聞が「黒田総裁の後任として雨宮副総裁に就任を打診した」と書いて、ハレーションが起きました。
高橋)昔は国会に関係なくリークすることもありました。民主党時代だったでしょうか。そのときから国会同意人事については絶対にリークさせないように動いていた。
飯田)衆参がねじれていたころに、総裁人事がリークされて新聞に載ったら、「リークされた人事は承服できない」と言って……。
高橋)そう言っていたのが懐かしいくらい、とても古いタイプの人事ですね。そのあとの安倍政権では漏れていません。
(3) 黒田東彦日銀総裁(令和5年4月8日任期満了)の後任となる日銀総裁の人事案は令和5年2月14日に衆参両院の議院運営委員会に提示される予定でしたが,同月10日に報道されました(NHK NEWS WEBの「首相が日銀総裁起用意向の植田氏“現状は金融緩和継続が重要”」(2023年2月10日付)参照)。


4 関連記事その他
(1) 最高裁判所裁判官及び高等裁判所長官の人事は,国会同意人事案の対象にはなっていません。
(2) 参議院本会議は,平成20年3月12日,武藤敏郎(元大蔵事務次官及び財務事務次官。日銀副総裁)を日銀総裁とし,伊藤隆敏(東京大学大学院経済学研究科教授)を日銀副総裁とする人事案を否決し,同月19日,田波耕治(元大蔵事務次官)を日銀総裁とする人事案を否決し,同年4月9日,渡辺博史(元財務官)を日銀副総裁とする人事案を否決しました。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 高等裁判所長官を退官した後の政府機関ポストの実例
・ 各府省幹部職員の任免に関する閣議承認の閣議書
・ 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
・ 高等裁判所長官任命の閣議書
・ 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書
・ 内閣法制局長官任命の閣議書