本記事の結論
日韓請求権協定は,1965年に日本と大韓民国との間の財産・請求権問題を国家間で「完全かつ最終的に解決」した協定です。ただし,「個人請求権がすべて実体法上消滅した」と一括して説明することは正確ではありません。日本法上は,①措置法によって消滅した特定の財産権,②協定の対象となり,日本政府が「請求に応ずべき法律上の義務が消滅し,救済が拒否される」と説明する請求権,③そもそも協定の対象に含まれるかが争われる請求権を分けて検討する必要があります。
2018年10月30日の韓国大法院全員合議体判決は,原告らが主張した強制動員慰謝料請求権を協定の対象外と判断しました。日本政府は,韓国側の対日請求要綱,交渉記録及び協定文言を根拠に,旧朝鮮半島出身労働者の請求を含めて解決済みであるとの立場を採っています。したがって,現在の中心的な争点は,単に「個人請求権が消えたか」ではなく,各請求の原因・性質が協定の事項的範囲に含まれるか,含まれる場合にどのような国内法上の効果が生じるかです。
本記事は,令和8年(2026年)7月15日現在の法令,裁判例及び公表資料を基準としています。法令・条約の引用部分は,内容を変えず,数字及び読点を本記事の表記に整えています。
目次
第1 日韓請求権協定の全体像と個人請求権に関する結論
1 日韓請求権協定とは何か
2 「個人請求権は消滅したのか」に対する回答
(1) 国家間の解決
(2) 措置法による財産権の消滅
(3) 協定の対象となる請求権の法的効果
(4) 韓国大法院が協定外とした慰謝料請求権
3 弁護士が最初に確認すべき事項