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労基署への文書送付嘱託と調査嘱託―厚生労働省の対応・同意確認・黒塗り(AIリライト)

第1 労基署の資料を裁判所を通じて取得する方法

労働基準監督署等が保有する労災関係資料について,調査事項への回答を求めるのが調査嘱託,既存の文書の送付を求めるのが文書送付嘱託である。
厚生労働省の通達は,これらの嘱託には原則として応じる立場を示す一方,文書の種類に応じた同意確認や黒塗りの取扱いを定めている。
文書提出命令は別の手続であり,嘱託への対応で同意が得られなかったことだけで,提出命令における提出義務まで決まるわけではない。

本記事は,平成14年3月13日付け基総発第0313001号「裁判所等からの文書提出命令等に対する具体的な対応について」の令和4年9月8日改正版を中心に説明する。
この通達に書かれた行政側の対応と,裁判所が判断する文書提出義務を分けて読む必要がある。

民事訴訟法186条,220条以下及び226条は,e-Gov法令検索で確認できる。
https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109

第2 調査嘱託は客観的事実についての報告を求める手続

通達は,調査嘱託について,文書そのものを送付する文書送付嘱託と区別し,調査事項について文書で報告するものと説明している。
私人の秘密に関する情報の保護や公務の遂行への著しい支障に配慮した上で,客観的事実について報告する取扱いである。

例えば,調査の実施状況や復命書の作成の有無を知りたい場合と,復命書そのものを証拠として提出したい場合では,裁判所に求める内容が異なる。
調査嘱託による回答だけでは原資料の内容を確認できないときは,必要な文書と立証事項を整理して,別の取得方法を検討する。

第3 文書送付嘱託の対象となる主な文書

通達は,対象文書を大きく六つに分けている。
第一は,事業主の報告書,就業規則届,賃金台帳,勤務時間表,労災保険の支給請求書など,関係者から提出された文書である。
第二は,被災者本人や親族,上司,同僚等の聴取書・陳述書である。

第三は,支給・不支給決定通知書,是正勧告書,指導票など,労働基準行政機関が発出した文書である。
第四は,診断書,診療録,レントゲン写真,医師の意見書・鑑定書や,通達がこの区分に掲げる公的機関からの回答書である。
第五は,第四の区分に含まれるものを除く他の官公署からの各種証明書等,第六は,労働基準行政機関の職員が作成した復命書等である。

申立てでは,「労災関係資料一式」だけで済ませず,事故や疾病,対象者,対象期間,文書の名称・作成主体と,何を立証するために必要かを具体化すると,対象文書と回答の過不足を照合しやすくなる。
文書名が分からないときは,既に得ている決定通知書や開示資料の記載も手掛かりになる。

第4 文書の種類によって異なる同意確認と黒塗り

1 関係者の提出文書・聴取書と行政機関の発出文書

申立人自身が提出した文書と申立人の聴取書等は,文書送付嘱託を申し出た時点で裁判所への提出に同意しているものとして,写しを提出する取扱いである。
申立人以外の者が提出した文書は,その者への同意確認を行い,同意が得られた場合に限って写しを提出し,同意が得られない場合は文書の標題のみを回答する。
提出文書に申立人以外の者の情報が含まれる場合には,その部分を黒塗りする取扱いも示されている。

申立人以外の者の聴取書等では,聴取した者の同意を確認し,同意が得られないときは提出を差し控える旨を裁判所に回答する。
同意が得られなかった者については原則として人数のみを回答するが,その者が訴訟の相手方当事者である場合は,氏名を回答して差し支えないとされている。

行政機関が申立人に発出した文書は写しを提出し,申立人以外の者の情報は黒塗りする取扱いである。
申立人以外の者に発出した文書は,聴取書等についての手順に準じて処理する。

2 医師作成文書と他の官公署の証明書等

労働基準行政機関が保有する医師の意見書等については,作成した医師等に同意確認を行い,同意が得られた場合に限って写しを提出する取扱いである。
これは,行政機関の保有文書についての通達の説明であり,病院に直接行う文書送付嘱託一般について,作成医師の同意が一律の法定要件になるという意味ではない。
作成医師への同意確認と,患者本人の同意も区別する必要がある。

他の官公署からの各種証明書等は,基本的にはその官公署が提出を判断すべきものとされている。
災害発生から相当期間が経過し,改めて当該官公署から証明等を求めることが困難な場合に限り,労働基準行政機関が提出に協力する取扱いである。

通達は,一部分の開示を望まない場合の黒塗りと,同意確認の経過の記録にも留意するよう求めている。
回答を受けた側も,不提出の文書と黒塗り部分を区別して確認することが大切である。

第5 復命書は文書名だけで提出範囲を決めない

通達は,職員が作成した復命書等について,記載内容に応じて個別に対応するとしている。
原則として,調査担当官が職務上知ることができた事業場等の私的な情報に関する部分を提出対象とし,行政内部の意思形成過程に関する情報は黒塗りする取扱いである。

私的な情報のうち,申立人に関する情報は提出し,相手方当事者に関する情報は同意を確認して,同意が得られなかった部分を公知の事実を除いて提出しない。
申立人と相手方当事者以外の第三者を特定する情報は黒塗りする。
関係者の聴取内容や医師作成文書の内容がそのまま記載・引用されている部分には,それぞれの文書に関する取扱いが及ぶ。

ただし,これらは通達の文書送付嘱託に対する取扱いである。
最高裁平成17年10月14日第三小法廷決定は,災害調査復命書の文書提出義務について,行政内部の意思形成過程に関する情報と,調査担当者が職務上知ることができた事業者の私的な情報を区別して判断した。
当該事案では,聴取内容がそのまま記載・引用されておらず,他の調査結果と総合した分析評価と一体化していたことなどを踏まえ,後者の部分は民事訴訟法220条4号ロ所定の文書に当たらないとしている。

この決定から,あらゆる復命書や聴取書が無条件で提出されるとはいえない。
提出を求める部分,その情報の性質,提出によって生じる具体的な支障などを,対象文書に即して検討する必要がある。
公式の裁判例情報と決定全文は次のページから確認できる。
https://www.courts.go.jp/hanrei/52435/detail2/index.html

第6 不提出・一部提出の回答を受けたとき

通達は,文書を提出できない場合や申出に十分応えられない場合には,担当裁判所書記官等に理由を詳しく説明するよう求めている。
また,文書自体を提出できなくても,調査内容における客観的事実の回答で対応できる場合には,調査嘱託に準じて対応するとしている。

申立人側では,回答と申立対象を照合し,未提出の文書,黒塗りされた部分,同意確認の対象や不提出理由を整理する。
客観的事実の回答で立証できるのか,文書の対象や必要部分を絞り直すのか,文書提出命令を申し立てるのかを,裁判所と協議して検討する。
文書送付嘱託や行政上の開示請求を先に経ることが,すべての文書提出命令申立ての必須要件になるわけではない。

第7 令和4年改正版の本省協議の経路

令和4年改正版は,労働局の労働基準部や総務部の労働保険徴収主務課等が本省と協議する場合,労働局所管課から本省労働基準局所管課へ協議する取扱いを定めている。
雇用環境・均等部又は雇用環境・均等室の場合の経路も別に定められている。
文書提出命令に先立つ審尋で意見を述べる際に事前協議する場合も,同じ取扱いである。

本省の所管課が複数となる案件では,労働局で取りまとめ担当課を決め,その担当課から本省労働基準局総務課総務第二係へ協議する。
この説明は確認した令和4年改正版に基づくものであり,個別事件の担当部署や処理状況は,裁判所を通じた照会等で確認する必要がある。

第8 出典と関連する記事

中心資料は,厚生労働省労働基準局総務課長の令和4年9月8日付け改正通達である。
PDF実頁2は調査嘱託,実頁2~5は文書送付嘱託,実頁5~6は本省協議に対応する。
https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2023/04/「裁判所等からの文書提出命令等に対する具体的な対応について」の改正について(令和4年9月8日付の厚生労働省労働基準局総務課長の通達).pdf

労災資料の開示請求と裁判上の取得方法の比較は「労災保険に関する書類の開示請求方法」にまとめている。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2021/07/12/rousai-kaijiseikyuu/

平成30年度の会議資料に含まれる要旨と関連資料の所在は,次の記事で案内している。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2019/08/18/mhlw-roudou-shokutaku-taiou/

各種の証拠収集方法の使い分けは,次の記事を参照されたい。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/17/minji-soshou-shouko-shuushuu-houhou-hikaku/

病院に直接申し立てる文書送付嘱託については,医療記録の記事で対象指定,回収確認,患者同意の問題を説明している。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/10/iryoukiroku-bunsho-soufushokutaku/

改正前の掲載資料は,次のリンクから参照できる。
https://yamanaka-bengoshi.jp/%e8%a3%81%e5%88%a4%e6%89%80%e7%ad%89%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%ae%e6%96%87%e6%9b%b8%e6%8f%90%e5%87%ba%e5%91%bd%e4%bb%a4%e7%ad%89%e3%81%ab%e5%af%be%e3%81%99%e3%82%8b%e5%85%b7%e4%bd%93%e7%9a%84%e3%81%aa-2/