弁護士業界

弁護士の業務停止処分に関する取扱い

目次
1 業務停止処分を受けた場合の取扱い
2 業務停止を受けた弁護士が途中で辞任した場合の依頼者との法律関係
3 業務停止処分中の訴訟行為は有効であること
4 委任契約終了時の一般的な義務
5 業務停止の効力発生時期に関する解釈の変遷
6 弁護士の業務停止に関する最高裁平成19年12月18日決定の補足意見
7 普通地方公共団体の議会の議員の出席停止の懲罰と司法審査(参考)
8 関連記事その他

1 業務停止処分を受けた場合の取扱い
(1) 業務停止処分を受けた弁護士及び弁護士法人が取るべき措置に関する基準として以下のものがあります。
① 弁護士の場合
   被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)
→ 弁護士が業務停止の懲戒処分を受けた場合,業務停止の期間中,①依頼者との委任契約を解除したり(業務停止期間が1ヶ月以内の場合であり,依頼者が委任契約の継続を望む場合を除く。),②顧問契約を解除したり,③補助弁護士(=復代理人又は雇傭する等した弁護士)の監督ができなくなったり,④原則として事務所の使用ができなくなったり,⑤法律事務所の表示を除去したり,⑥弁護士の肩書等のある名刺等を使用できなくなったり,⑦弁護士記章及び身分証明書を日弁連に返還したり,⑧会務活動ができなくなったり,⑨公職等を辞任したりする必要があります。
② 弁護士法人の場合
   弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成13年12月20日日弁連理事会議決)
→ 被懲戒弁護士法人の社員等(=被懲戒弁護士法人の社員又は使用人である弁護士(第二のAの5後段。なお,弁護士法30条の6第1項前段参照))は,被懲戒弁護士法人が解除すべき,又は解除した法律事件等を,個人として引き継いで行うことはできません。
   ただし,被懲戒弁護士法人の他の社員の承諾があり,かつ,依頼者が受任を求めるときはこの限りではないものの,当該社員等は,依頼者に対して委任を求める働きかけをしてはならず,受任する場合,依頼者から,業務停止にかかる説明を受けて委任した旨の書面を受領しなければなりません(第二のAの9参照)。
(2) 訴訟代理人の権限の消滅は,本人又は訴訟代理人から相手方に通知しなければ,その効力を生じませんし(民事訴訟法59条・36条1項),訴訟代理権の権限の消滅の通知をした者は,その旨を裁判所に書面で届け出なければなりません(民事訴訟規則23条3項)。
   つまり,被懲戒弁護士は,辞任届を裁判所及び相手方の両方に提出しなければなりません。
(3) 弁護士法人の依頼者が,当該法人に事件を依頼した際,当該法人とは別に,当該法人所属の弁護士に共同で事件を個人受任してもらっている場合,当該弁護士に引き続き事件処理を依頼することができると思いますが,弁護士法人の業務停止の潜脱として許されないかも知れません。
   また,この場合,当該弁護士が,業務停止にかかる説明を受けて委任した旨の書面を依頼者から受領する必要があるかどうかは不明です。
(4) 被懲戒弁護士が処分を受ける前に雇用した弁護士(補助弁護士)は,被懲戒弁護士の事務所を自己の法律事務所として使用することができます( 被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準 第一の九)。
(5) 被懲戒弁護士は,期日変更申請,訴訟書類の授受,保証金の還付,復代理人の選任等もできなくなると最高裁判所は考えています(平成29年10月11日付の,弁護士法人等の懲戒処分(業務停止)について(最高裁判所事務総局民事局第一課長等の事務連絡))。
(6) 自由と正義2024年2月号71頁(懲戒処分の公告)に「業務停止1月の懲戒処分においては、依頼者から委任継続の意思を記載した確認書面を受領し、所属弁護士会に提出することを条件として、受任している事件の辞任を回避することが可能である」と書いてあります。


2 業務停止を受けた弁護士が途中で辞任した場合の依頼者との法律関係
(1) 着手金の全部又は一部を返還し,かつ,みなし成功報酬金は請求できないと思われること等
ア   大阪高裁平成22年5月28日判決は以下の判示をしています。
① 訴訟委任契約に伴う着手金は、弁護士への委任事務処理に対する報酬の一部の前払の性質を有するものであり、この訴訟委任契約が受任者である弁護士の債務不履行によって解除された場合には、原則として、受領した着手金を返還すべきであるところ、その契約の解除に至るまでの間に委任の趣旨に沿った事務処理が一部されたときは、同事務処理費用のほか、その委任契約全体に占めるその事務の重要性及びその事務量等を勘案して、その分に見合う額については返還することを要しないと解するのが相当である。
② 被控訴人は、着手金以外に、みなし成功報酬又は民法六四八条三項に基づき報酬の支払を求めているが、上記説示のとおり、甲・乙事件についての各委任契約は受任者である被控訴人の責めに帰すべき事由による本件解任により終了したのであるから、被控訴人が上記報酬の支払を求めることができないことは明らかである。
イ 訴訟代理人としてなすべき業務が未だ存在していた段階で業務停止により辞任する場合,対象弁護士は着手金の清算義務があります。
   また,着手金返還の協議については,対象弁護士としてできる限りの協議を尽くしたうえで解決ができなかったとすれば,民事調停又は民事訴訟の方法を利用すべきであるという意見も認められることもありますが,十分な努力をせずに元依頼者に訴訟手続き等の負担を強いるのは,適切かつ妥当な対応とはいえません(平成28年4月11日付の日弁連懲戒委員会の議決(平成28年弁護士懲戒事件議決例集(第19集)21頁)参照。なお,事案につき,弁護士自治を考える会HPの「懲戒処分の要旨」参照)。

(2) 概算実費その他の預り金の清算
ア 弁護士は,委任の終了に当たり,委任契約に従い,金銭を清算したうえ,預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければなりません(弁護士職務基本規程45条)。
イ   
債務整理事務の委任を受けた弁護士が委任者から債務整理事務の費用に充てるためにあらかじめ交付を受けた金銭は,民法上は同法649条の規定する前払費用に当たるものと解されます。
   そして,前払費用は,交付の時に,委任者の支配を離れ,受任者がその責任と判断に基づいて支配管理し委任契約の趣旨に従って用いるものとして,受任者に帰属するものとなると解されます。
   受任者は,これと同時に,委任者に対し,受領した前払費用と同額の金銭の返還義務を負うことになりますところ,その後,これを委任事務の処理の費用に充てることにより同義務を免れ,委任終了時に,精算した残金を委任者に返還すべき義務を負うこととなります(最高裁平成15年6月12日判決)。
(3) 訴訟復代理人の代理権は当然には消滅しないこと
   訴訟代理人がその権限に基づいて選任した訴訟復代理人は独立して当事者本人の訴訟代理人となるものですから、選任後継続して本人のために適法に訴訟行為をなし得るものであって,訴訟代理人の死亡によって当然にその代理資格を失なうわけではありません(最高裁昭和36年11月9日判決)。
   そのため,業務停止処分を受けた弁護士法人が外部の弁護士を訴訟復代理人にしている場合,当該復代理人の権限は業務停止処分を受けた弁護士法人の辞任によって当然に消滅するわけではないと思います。
(4) 消費者契約法により無効となる可能性がある条項
ア   業務停止を受けた弁護士の損害賠償責任を免除する条項は消費者契約法8条により,委任者が払う損害賠償の額を予定する条項は消費者契約法9条により無効となることがあります。
イ 消費者庁HPの「逐条解説」に,消費者契約法の逐条解説が載っています。
(5) 依頼者等に対する引継ぎはできること
   被懲戒弁護士は,委任契約及び顧問契約を解除する場合,依頼者及び当該事件を新たに取り扱う弁護士に対し誠実に法律事務の引継ぎをしなければなりません(被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)第二の五)。


3 業務停止処分中の訴訟行為は有効であること
   弁護士業務を停止され,弁護士活動をすることを禁止されている者の訴訟行為であっても,その事実が公にされていないような事情のもとにおいては,一般の信頼を保護し,裁判の安定を図り,訴訟経済に資するという公共的見地から当該弁護士のした訴訟行為は有効とされています(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。
   
4 委任契約終了時の一般的な義務
(1) 弁護士は,委任の終了に当たり,事件処理の状況又はその結果に関し,必要に応じ法的助言を付して,依頼者に説明しなければなりません(弁護士職務基本規程44条)。
(2) 委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負いますところ(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解されます(最高裁平成21年1月22日判決)。


5 業務停止の効力発生時期に関する解釈の変遷
(1) 旧弁護士法58条は「本法二規定スルモノノ外懲戒二付テハ判事懲戒法ヲ準用ス」と規定し,判事懲戒法46条は「懲戒裁判所ノ裁判ハ確定ノ後二非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス」と規定していたため,弁護士の懲戒処分の効力発生時期が確定時であることは法文上明確でした。
(2) 現行弁護士法が制定された後も,日弁連の運用上,弁護士の懲戒処分の効力発生時期が確定時であるとされていました。
(3) 昭和37年10月1日施行の行政不服審査法34条1項は,「審査請求は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げない」と規定しています。
   また,このときの弁護士法改正により,懲戒処分を受けた弁護士は上級行政庁たる日弁連に対して審査請求をすることができるとされ,弁護士の懲戒処分も一般行政庁の行う懲戒処分と同様に扱われることとなりました。
   そのため、弁護士の懲戒処分も一般の行政処分と同様に告知によって直ちにその効力を生ずるのではないかといわれるようになりました。
   しかし,日弁連は,昭和40年12月24日付の「弁護士に対する『懲戒処分の効力発生時期』について」と題する通達において,戒告及び業務停止の効力発生時期は確定時であると主張しました。
(4)ア 最高裁大法廷昭和42年9月27日判決は,弁護士に対する懲戒処分は告知時に効力が生ずるという解釈を全員一致で採用し,従前の日弁連の見解と対立する意見を表明しました。
    そのため,日弁連は,昭和43年1月20日の理事会において,懲戒処分は,当該会員にこれを告知した時に直ちに効力を発生することを承認し、以後、告知時説による取扱いをするようになりました。
イ 最高裁昭和50年6月27日判決は,「行政処分は、原則として、それが相手方に告知された時にその効力を発生するものと解すべきである」と判示しています。
(5) 弁護士懲戒手続の研究と実務(第3版)194頁ないし199頁に詳しい経緯が書いてあります。

6 弁護士の業務停止に関する最高裁平成19年12月18日決定の補足意見
・ 最高裁平成19年12月18日決定における裁判官田原睦夫の補足意見には以下の記載があります。
    弁護士業務は,その性質上,高い信用の保持と業務の継続性が求められるところ,多数の訴訟案件,交渉案件を受任している弁護士が数か月間にわたる業務停止処分を受けた場合,その間,法廷活動,交渉活動,弁護活動はもちろんのこと,顧問先に係る業務を始めとして一切の法律相談活動はできず,業務停止処分により,従前の依頼者は他の弁護士に法律業務を依頼せざるを得なくなるが,進行中の事件の引継ぎは容易ではない。また,懲戒を受けた弁護士の信用は大きく失墜する。そして,業務停止期間が終了しても,いったん他の弁護士に依頼した元の依頼者が再度依頼するとは限らず,また,失墜した信用の回復は容易ではない。
    業務停止処分を受けた弁護士が受ける上記の状況によって生ずる有形無形の損害は,後にその処分が取り消された場合に,金銭賠償によっては容易に回復し得ないものである。

7 普通地方公共団体の議会の議員の出席停止の懲罰と司法審査(参考)
(1) 普通地方公共団体の議会の議員の場合,除名処分の適否は司法審査の対象となる(最高裁大法廷昭和35年3月9日判決参照)ものの,出席停止の懲罰の適否は司法審査の対象とならないとされていました(最高裁大法廷昭和35年10月19日判決)。
    しかし,最高裁大法廷令和2年11月25日判決は判例変更をして,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰も司法審査の対象になると判示しました。
(2) 県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令の適否は,司法審査の対象とはなりません(最高裁平成30年4月26日判決)。
(3) 普通地方公共団体の議会又は議長の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟については,議長が当該普通地方公共団体を代表します(地方自治法105条の2)。

8 関連記事その他

(1) 債務整理ナビ「担当弁護士が業務停止した場合にすべき3つのこと|依頼案件はどうなる? 」が載っています。
(2) 東京地裁平成27年9月18日判決(判例時報2294号65頁)は,約20億円の赤字を抱え,代表者からの借入等で資金繰りを回す状態であった弁護士法人(平成23年3月1日設立)による整理解雇について,解雇回避努力義務が不十分であるなどとして,事務員(元裁判所書記官であり,東京高裁から懲戒免職処分を受けたものの,そのことを秘して弁護士法人に採用された人です。)の整理解雇は無効であると判断しました。


(3) 免職された公務員が免職処分の取消訴訟の係属中に死亡した場合,その取消判決によって回復される当該公務員の給料請求権等を相続する者が右訴訟を承継します(最高裁昭和49年12月10日判決)。
(4) 税理士に対する懲戒処分の効力は,当該処分が確定したときに発生すると解されていた(最高裁昭和50年6月27日判決)ものの,昭和55年4月14日法律第14号による税理士法改正の結果,当該処分が告知されたときに発生することとなりました。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)
 弁護士の懲戒処分と取消訴訟
 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)

弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由

目次
0 総論
1 戒告
2 業務停止
3 退会命令
4 除名
5 弁護士の懲戒処分に関する日弁連副会長の説明
6 第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
7 関連記事その他

0 総論
(1)ア 弁護士に対する懲戒処分は,それが対象弁護士に告知されたときにその効力が生じます(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。
イ 最高裁大法廷昭和42年9月27日判決が出る前は,弁護士の懲戒処分は,他の行政処分と異なり,告知と同時に効力を生せず,確定を待って初めて効力を生ずるものと解釈され,実務の上でもそのように取り扱われていました(日弁連二十年史99頁及び100頁)。
(2) 憲法39条後段の規定は何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされるべきものではないという根本思想に基づく規定です(最高裁大法廷昭和25年9月27日判決)。
   そして,弁護士法に規定する懲戒は刑罰ではありませんから,被告人が弁護士法に規定する懲戒処分を受けた後,さらに同一の事実に基づいて刑事訴追を受けて有罪判決を言い渡されたとしても,二重の危険にさらされたものということはできません(最高裁昭和29年7月2日判決)。
(3) 弁護士会の懲戒処分は,弁護士にとって刑罰にも比すべき重大なものではあるが,弁護士法の定めるところにより,弁護士の使命および職務の特殊性にかんがみ,弁護士会に与えられた公の権能の行使として当該弁護士会が自主的に行うものであって,その性質は,広い意味での行政処分としての懲戒罰であると解されています(東京高裁平成元年4月27日判決)。
(4) 弁護士懲戒処分検索センターHPの「懲戒の種類」に,戒告,業務停止,退会命令及び除名に関する説明が載っています。


1 戒告
(1)ア 戒告とは,対象弁護士に対し,その非行の責任を確認させて反省を求め,再び過ちがないように戒める懲戒処分をいい,懲戒処分の中では最も軽い処分です。
イ 弁護士に対する戒告処分は,それが当該弁護士に告知された時にその効力が生じ,告知によって完結するのであって,その後に会則97条の3第1項に基づいて行われる公告は,処分があった事実を一般に周知させるための手続であって,処分の効力として行われるものでも,処分の続行手続として行われるものでもありません(最高裁平成15年3月11日決定)。
(2) 戒告を受けた弁護士は,処分の告知を受けた後も従前通り弁護士業務を行うことができますし,弁護士たる身分及び弁護士資格を失うことはありません。
   ただし,戒告を受けた弁護士が所属している法律事務所は1年間,東京三弁護士会主催の司法修習生向け就職説明会に参加できなくなります(「司法修習開始前の日程」参照)などの効果を伴います。
   また,戒告の理由の要旨が「自由と正義」等に掲載されるため,自分の不祥事の内容が弁護士業界に広く知られることとなります。
   そのため,懲戒処分としての戒告は,軽い処分とはいえません。
(3) 弁護士自治を考える会HPの「弁護士懲戒処分〔戒告〕と〔業務停止〕ではどこが違うのか」にも,戒告と業務停止は月とスッポンぐらいに処分の重さに違いがあると書いてあります。

2 業務停止
(1) 業務停止とは,対象弁護士に一定期間,弁護士業務を行うことを禁止する懲戒処分をいいます。
(2)   業務停止を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時から一定期間,弁護士業務を行うことができなくなります。
   ただし,退会命令及び除名と異なり,弁護士たる身分及び弁護士資格を失うわけではありません。
(3)ア 弁護士業務は,その性質上,高い信用の保持と業務の継続性が求められますところ,多数の訴訟案件,交渉案件を受任している弁護士が数か月間にわたる業務停止処分を受けた場合,その間,法廷活動,交渉活動,弁護活動はもちろんのこと,顧問先に係る業務を始めとして一切の法律相談活動はできず,業務停止処分により,従前の依頼者は他の弁護士に法律業務を依頼せざるを得なくなりますところ,進行中の事件の引継ぎは容易ではありません。
   また,懲戒を受けた弁護士の信用は大きく失墜しますし,業務停止期間が終了しても,いったん他の弁護士に依頼した元の依頼者が再度依頼するとは限らず,また,失墜した信用の回復は容易ではありません(最高裁平成19年12月18日決定における裁判官田原睦夫の補足意見参照)。
   そのため,懲戒処分としての業務停止は,非常に重い処分であるといえます。
イ 弁護士法人が業務停止を受けた場合の影響の大きさについては,msnニュースの「アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み 懲戒の段階によって影響は断然変わってくる」が参考になります。
(4) 1か月を超える期間の業務停止処分を受けた弁護士又は弁護士法人は,依頼者が委任契約の継続を求める場合であっても,委任契約を全部解除しなければなりません(被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)第二の一)。
(5)ア 1か月を超える期間の業務停止処分を受けた弁護士又は弁護士法人は,所属弁護士会に対し,戸籍謄本等請求用紙を返還しなければなりません(弁護士につき戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則7条1項,弁護士法人につき同規則7条2項)。
イ 戸籍謄本等請求用紙とは,弁護士が,戸籍法及び住民基本台帳法並びにこれらに基づき定められた政省令の規定に基づき弁護士の業務に関する戸籍謄本,住民票の写し等の交付の請求に使用する用紙であって,日弁連が作成したものをいいます(戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則2条)。


3 退会命令
(1) 退会命令とは,対象弁護士をその所属弁護士会から一方的に退会させる懲戒処分をいいます。
(2) 退会命令を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時からその所属弁護士会を当然に退会して弁護士たる身分を失います。
   ただし,除名と異なり,弁護士資格を失うわけではありません。
(3)ア 退会命令を受けた弁護士は,法的には,改めて入会を希望する弁護士会を通じて弁護士登録の請求をすることができます。
   しかし,「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」(弁護士法12条1項柱書)に該当するかどうかが特に審査され,当該おそれがあると判断された場合,入会しようとする弁護士会から日弁連への登録請求の進達を拒絶されることがあります。
イ 弁護士会の入会審査については,「弁護士登録制度」を参照してください。
(4) 懲戒処分としての退会命令は,弁護士生命を事実上終わらせる可能性があるぐらい,重い処分です。

4 除名
(1) 除名とは,対象弁護士の弁護士たる身分を一方的に失わせる懲戒処分をいいます。
(2) 除名処分を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時からその所属弁護士会を当然に退会して弁護士たる身分を失い,かつ,処分の告知を受けた日から3年間,弁護士資格を失います(弁護士法7条3号)。
(3) 除名された弁護士は,告知の日から3年が経過するまでの間,弁護士登録の請求をすることができません。
   また,告知の日から3年が経過してから弁護士登録の請求をした場合,「弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者」(弁護士法12条1項柱書)に該当するかどうかが特に審査され,当該おそれがあると判断された場合,入会しようとする弁護士会から日弁連への登録請求の進達を拒絶されることがあります。
(4) 懲戒処分としての退会命令は,弁護士生命を事実上終わらせる可能性が極めて高い,重い処分です。

5 弁護士の懲戒処分に関する日弁連副会長の説明
・ 井元義久 日弁連副会長は,法曹制度検討会(第4回)(平成14年5月14日実施分)において以下のとおり説明しています。
懲戒処分というのがどういうものであるかということを御理解いただくために、若干申し述べさせていただきます。まず、資料3をごらんいただきます。懲戒処分につきましては、4つの種類がございまして、まず軽い順番からいきますと「戒告」、次に2年以内の「業務停止」、更に「退会命令」、「除名」という4段階になっております。これは要するに、非行が軽いという順番でこういう具合に懲戒処分がなされるということでございます。退会命令と除名というのは、弁護士会は強制加入団体でございますから、弁護士会に加入しないと弁護士活動はできないということは御承知のとおりだと思いますが、退会命令と除名の違いというのは、「綱紀・懲戒制度に関する資料」の資料3に書いておりますので、ごらんいただければ幸いでございます。
 いずれの処分がなされた場合でも、日弁連の機関誌『自由と正義』に毎月掲載されます。したがいまして、会員には少なくとも全員に周知徹底されておるということでございます。業務停止以上になりますと、弁護士会から最高裁、最高検などを含め、弁護士会のある地域の地方裁判所及びその支部、地方検察庁及びその支部、簡易裁判所、区検察庁、都道府県、そういうところ全部に懲戒された弁護士の氏名、住所、生年月日、それから懲戒の種類、内容、業務停止になりました場合はその期間、こういうものがすべて通知される仕組みになっておりまして、更に記者会見が行われて公表されます。ときどき新聞に載っているのは、この記者会見をされた結果でございまして、これは弁護士会が積極的にそのような外部公表をしているということでございます。
 それから、更に懲戒された弁護士への執行といたしましては、弁護士会が担当副会長、あるいは事務職員がその弁護士の事務所に行きまして、弁護士の看板をはずす。それからバッチの返還をさせる。更に看板が撤去できない場合は、白紙を看板の上に張ってくるということをしております。そして、弁護士は現在受任している事件、これもすべて辞任しなければいけない。更に顧問会社との契約は即時解約しなければいけないというような極めて厳しい処分だということになっております。この辺を十分御理解くださいまして、今回の綱紀・懲戒問題の制度設計については、お考えいただければ弁護士会としては幸いだと考えております。

6 第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
   第二東京弁護士会は,「各種法律相談,弁護士紹介等担当者名簿に関する規則」6条に基づき,以下の事項に該当する会員については,名簿への登録を拒否しているみたいです(二弁フロンティア2018年7月号「弁護士保険とリーガル・アクセス・センター~その期待と課題,今後の展望~」末尾26頁及び27頁)。
① 当会または日弁連の懲戒委員会で審査中
② 戒告処分から3年を経過していない
③ 業務停止明けから5年を経過していない
④ 過去20年間に戒告1回以上+業務停止1回以上、または過去20年に戒告3回以上
⑤ 退会命令または除名の懲戒処分を受けたことがある
⑥ 会費免除中(出産・育児を理由とするものを除く)
⑦ 過去3年に会費滞納額が6か月分以上に達したことがある
⑧ 非弁提携の疑いで是正指導を受けてから1年を経過していない
⑨ 会立件により綱紀委員会で調査中
⑩ 法テラスの契約締結拒絶期間中
⑪ 倫理研修の未履修による措置を受け、措置の期間中
⑫ 市民窓口への苦情が一定期間中に一定回数を超え事情聴取の対象となり、事情聴取の結果名簿への登録拒否が相当と認められた会員
など。

7 関連記事その他
(1)ア 普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は従前,司法審査の対象外でしたが(最高裁大法廷昭和35年10月19日判決),最高裁大法廷令和2年11月25日判決によって司法審査の対象となりました。
イ 政党が党員に対してした処分は,一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,裁判所の審判権は及びません(最高裁昭和63年12月20日判決)。
(2) 自由と正義2018年12月号64頁に載ってある,大阪弁護士会の業務停止3月(平成30年9月12日発効)の「処分の理由の要旨」は以下のとおりです(「【弁護士】◯◯ ◯◯ 大阪:業務停止3月」(リンク先の記事は実名です。)参照)。
① 被懲戒者は、懲戒請求者株式会社AからB株式会社の懲戒請求者A社らに対する所有権移転登記手続等を求める訴訟等への対応につき受任し、2014年12月5日に成立した訴訟上の和解に基づきB社に支払うために懲戒請求者A社から合計6460万円の送金を受けたが、B社が代理人弁護士を解任していたため、上記和解の条項にのっとって支払をすることができず、上記金6460万円を預かったままとなっていたところ、2015年7月17日に懲戒請求者A社が被懲戒者に対し一切の委任契約の解除を申し入れ、被懲戒者がこれに同意した後、明確な報酬合意がないにもかかわらず、弁護士報酬等との相殺を一方的に主張して上記6460万円を懲戒請求者A社に返還しなかった。
② 被懲戒者は、C株式会社が懲戒請求者A社に対して提起した訴訟において、C社の要請に応じて、被懲戒者が懲戒請求者A社の代理人として活動してきた経過や職務上知り得た事実をかなり詳細に記載した陳述書を2016年10月26日付けで作成し、C社はこれを証拠として裁判所に提出した。
③ 被懲戒者の上記①の行為は弁護士職務基本規程第45条に、上記②の行為は同規程第23条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 弁護士の懲戒処分と取消訴訟
・ 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
・ 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)
・ 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)

弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文

○弁護士職務基本規程82条2項は「第一章並びに第二十条から第二十二条まで、第二十六条、第三十三条、第三十七条第二項、第四十六条から 第四十八条まで、第五十条、第五十五条、第五十九条、第六十一条、第六十八条、第七十条、第七十三条及び 第七十四条の規定は、弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければならない。」と定めています。
そのため,これらの条文に形式的に違反する行為があったとしても,それによって直ちに懲戒の事由と判断されるものではなく,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行があったとき」として評価されるかどうかの判断の一要素となるに過ぎません。
○該当する条文の中身は以下のとおりです。

第一章 基本倫理 
(使命の自覚)
第一条 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを自覚し、その使命の達成に努める。
(自由と独立)
 第二条 弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。
 (弁護士自治)
 第三条 弁護士は、弁護士自治の意義を自覚し、その維持発展に努める。
 (司法独立の擁護)
 第四条 弁護士は司法の独立を擁護し司法制度の健全な発展に寄与するように努める
(信義誠実)
 第五条 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。
 (名誉と信用)
 第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。
 (研鑽)
 第七条 弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、研鑽に努める。
 (公益活動の実践)
 第八条 弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践するように努める。
(依頼者との関係における自由と独立)
第二十条 弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。
(正当な利益の実現)
第二十一条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように 努める。
(依頼者の意思の尊重)
第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うも のとする。
2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の 確認に努める。
(依頼者との紛議)
 第二十六条 弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の 紛議調停で解決するように努める。
(法律扶助制度等の説明)
 第三十三条 弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、訴訟救助制度 その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を説明し、裁判を受ける権利が 保障されるように努める。
(法令等の調査)
 第三十七条 (1項は対象外)
2 弁護士は事件の処理に当たり必要かつ可能な事実関係の調査を行うように努める。
(刑事弁護の心構え)
 第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。
 (接見の確保と身体拘束からの解放)
 第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。
(防御権の説明等)
 第四十八条 弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に対する違法又は不当な制限に対し、 必要な対抗措置をとるように努める。
(自由と独立)
 第五十条 官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これらを合わせて「組織」という)において職員若しくは使用人となり、 又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組織内弁護士」という)は、弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と 独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。
(遵守のための措置)
 第五十五条 複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人の法律事務所である場合を除く)を共にする場合(以下この法律事務所を「共同 事務所」という)において、その共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という)を監督する権限のある弁護士は、所属 弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるように努める。
(事件情報の記録等)
 第五十九条 所属弁護士は、職務を行い得ない事件の受任を防止するため、他の所属弁護士と共同して、取扱い事件の依頼者、相手方及 び事件名の記録その他の措置をとるように努める。
(遵守のための措置)
 第六十一条 弁護士法人の社員である弁護士は、その弁護士法人の社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という)及び使用人で ある外国法事務弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるように努める。
(事件情報の記録等)
 第六十八条 弁護士法人は、その業務が制限されている事件を受任すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士が 職務を行い得ない事件を受任することを防止するため、その弁護士法人、社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事件の 依頼者、相手方及び事件名の記録その他の措置をとるように努める。
(名誉の尊重)
 第七十条 弁護士は他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護士(以下弁護士等という)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。
(弁護士間の紛議)
 第七十三条 弁護士は、他の弁護士等との間の紛議については、協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。
(裁判の公正と適正手続)
 第七十四条 弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努める。

非弁護士との提携の禁止

目次
第1 総論
第2 弁護士法72条から74条までの規定に違反している者の内容
第3 弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
1 条文等
2 弁護士法72条のそれぞれの文言の意義
第4 弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
1 条文等
2 サービサー法の位置づけ等
第5 非弁護士との提携の取締り
第6 弁護士法人ベリーベストの懲戒処分に関する文書
第7 関連記事その他

第1 総論
1 非弁提携の禁止に関しては,「弁護士は,弁護士法第72条から第74条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け,これらの者を利用し,又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。」(弁護士職務基本規程11条。なお,同趣旨の規定につき大阪弁護士会会則108条2項)と規定されています。
   そして,禁止される提携の対象は,弁護士法27条と異なり,①弁護士法72条ないし74条の規定に違反する者に限らず,「違反すると疑うに足りる相当な理由のある者」にまで広げられていますし,②「事件の周旋」に限らず,「依頼者の紹介」にまで広げられています。
2 「自己の名義を利用させる」とは,「弁護士某」という名義の他,氏名だけの利用も含まれますし,「○○法律事務所」という標示についても名義の利用に当たる場合があります。
   例としては,大量に処理する報告書,内容証明郵便等に,弁護士の氏名を記載し,更に弁護士の印鑑を弁護士でない者に預けて押捺させる場合があります。


第2 弁護士法72条から74条までの規定に違反している者の内容
1 弁護士法72条から74条までの規定に違反している者の内容は以下のとおりであり,①ないし③に該当する場合,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられ(弁護士法77条),④ないし⑥に該当する場合,100万円以下の罰金に処せられます(弁護士法77条の2)。
① 弁護士又は弁護士法人でないのに,報酬を得る目的で,業として,訴訟事件その他一般の法律事件に関して,鑑定,代理,和解等の法律事務を取り扱う者(弁護士法72条本文前段違反)
② 弁護士又は弁護士法人でないのに,報酬を得る目的で,業として,法律事件に関する法律事務の取扱いを周旋する者(弁護士法72条本文後段違反)
③ 他人の権利を譲り受けて,訴訟等の手段によって,その権利を実行することを業とする者(弁護士法73条違反)
④ 弁護士又は弁護士法人でないのに,弁護士又は法律事務所の標示又は記載をする者(弁護士法74条1項違反)
⑤ 弁護士又は弁護士法人でないのに,利益を得る目的で,法律相談その他法律事務を取り扱うことを標示又は記載した者(弁護士法74条2項違反)
⑥ 弁護士法人でないのに,その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いた者(弁護士法74条3項違反)
2 平成13年6月8日法律第41号(平成14年4月1日施行)に基づき弁護士法人の制度が導入されたことに伴い,弁護士法人を主体とする犯罪(弁護士法30条の21において準用される弁護士法27条及び28条に違反した場合)についても弁護士法77条の適用があることを明確にするとともに,罰金刑の最高額が100万円から300万円に引き上げられました。
3 弁護士でない者に,自己の法律事件の示談解決を依頼し,これに,報酬を与えもしくは与えることを約束した者を,弁護士法72条,77条違反の罪の教唆犯として処罰することはできません(最高裁昭和43年12月24日判決)。
4 自己の法律事件の解決を弁護士でない者に依頼した者については,弁護士法72条違反の罪の共同正犯にもならないこととなります。
   なぜなら,最高裁昭和43年12月24日判決は,弁護士法は,自己の法律事件を自ら取り扱うことまで禁止しているものとは解されないとしているので,自己の法律事件を弁護士でない者に依頼した者が,弁護士法72条違反の罪の正犯となることはあり得ず,共同正犯にもならないからです。
5 以下の士業から依頼者の紹介を受けたり,以下の士業を利用したりした場合,弁護士職務基本規程11条に違反することとなります。
① 紛争の目的の価額が140万円を超える事件に関する相談,和解の交渉,和解契約の締結(例えば,140万円を超える過払金の返還請求)を事実上行っていると疑うに足りる相当な理由のある司法書士
② 権利義務又は事実証明に関する書面の作成(行政書士法1条の2第1項参照)にかこつけて,交通事故・相続紛争等の示談交渉を事実上行っていると疑うに足りる相当な理由のある行政書士
③ 以下の権限外行為を事実上行っていると疑うに足りる相当な理由のある社会保険労務士
(a) ADR手続の利用を前提とする,紛争の価額が60万円を超える労使紛争に関して,弁護士と共同受任することなく行う,相談,和解の交渉,和解契約の締結
(b) ADR手続の利用を前提とする,解雇,退職,雇い止め等の効力を争う労使紛争に関して,弁護士と共同受任することなく行う,相談,和解の交渉,和解契約の締結
(c) ADR手続の利用を前提としない労使紛争(紛争の価額は問わない。)に関して行う,相談,和解の交渉,和解契約の締結


第3 弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
1 条文等
(1) 弁護士法72条は以下のとおりです。
   弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(2) 最高裁大法廷昭和46年7月14日判決は,弁護士法72条の趣旨について以下のとおり判示しています。
   同条制定の趣旨について考えると、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。
(3) 弁護士法72条違反の罪が成立するためには,前段についても,後段についても,①報酬を得る目的があること,及び②業として行うことが必要とされています最高裁大法廷昭和46年7月14日判決)。
   そのため,例えば,大学の法学部等で教授,学生が継続的に無料法律相談を実施する場合,報酬を得る目的がないことから,本条に違反しません。


2 弁護士法72条のそれぞれの文言の意義
(1) 「訴訟事件」とは,訴訟として裁判所に係属する民事,刑事及び行政の各事件をいい,人事訴訟事件(例えば,離婚訴訟事件)も含まれます。
   ちなみに,憲法32条にいう裁判とは,同法82条にいう裁判と同様に、現行法が裁判所の権限に属せしめている一切の事件につき,裁判所が裁判の形式をもってするすべての判断作用ないし法律行為を意味するものではなく,そのうち固有の司法権の作用に属するもの,すなわち,裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判だけをいいます(最高裁大法廷昭和45年12月16日判決)。
(2) 「非訟事件」とは,裁判所が裁量によって一定の法律関係を形成する裁判をする事件をいい,例としては以下のものがあります。
① 地方裁判所が担当する借地非訟事件(借地借家法41条以下参照)
→ (a)借地条件の変更及び増改築の許可(借地借家法17条),(b)借地契約の更新後の建物の再築の許可(借地借家法18条1項),(c)土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可(借地借家法19条),(d)建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可(借地借家法20条1項)のことです。
   ちなみに,借地非訟事件における裁判に対しては,即時抗告をすることができます(借地借家法48条1項)。
② 家庭裁判所が担当する家事審判事件(家事事件手続法別表第一及び別表第二参照)
(3) 「行政庁に対する不服申立事件」とは,例示列挙されている審査請求,異議申立て及び再審査請求(行政不服審査法参照)のほか,例えば,弁護士会が行った,対象弁護士等(懲戒の手続に付された弁護士又は弁護士法人をいいます。以下同じ。)を懲戒しない旨の決定等に対する異議の申出(弁護士法64条)があります。
(4) 「その他一般の法律事件」には,以下のものが含まれます。
① 債権者の委任により請求・弁済受領・債務免除等を行うこと(最高裁昭和37年10月4日決定
② 自賠責保険金の請求・受領に関するもの(東京高裁昭和39年9月29日判決)
③ 交通事故の相手方との間で示談交渉をすること(札幌高裁昭和46年11月30日判決)
④ 建物賃貸借契約の解除,及び賃借人の立退交渉をすること(広島高裁平成4年3月6日決定)
⑤ 真正な登記名義を回復する登記手続をすること(東京地裁平成6年4月20日判決)
⑥ 登記・登録に関する各種申請(日弁連調査室の見解)
⑦ 税務に関する各種申請(日弁連調査室の見解)
⑧ 特許等に関する各種申請(日弁連調査室の見解)
⑨ 裁判所以外の紛争処理機関に対する各種の申立て(日弁連調査室の見解)
(5) 弁護士法72条の「法律事件」といえるためには,事件性のある案件,つまり,事件といわれる案件及びこれと同視できる程度に法律関係に争いがあって事件といいうる案件である必要があるかどうかについては,争いがあります。
   なお,日弁連調査室の見解のほか,東京高裁平成7年11月29日判決(埼玉司法書士会職域訴訟控訴審判決)は,事件性は不要であるとしています。
(6) 弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為については,その業務が,立ち退き合意の成否等をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであって,弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものというべきであり,その際,賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いをしていたなどといった事情の下では,弁護士法72条違反の罪が成立します(最高裁平成22年7月20日決定)。
(7) 「鑑定」とは,法律上の専門的知識に基づいて法律事件について法律的見解を述べることをいいます。
   「代理」とは,当事者に代わり当事者の名において法律事件に関与することをいいます。
   「仲裁」とは,当事者間の紛争を仲裁判断に基づき解決することをいいます。
   「和解」とは,争っている当事者に互いに譲歩することを求めて争いを止めさせることをいいます。
   なお,これらは,「法律事務」の例示と考えられますから,上記の定義に入らないものはすべて「その他の法律事務」に含まれるとされています。
(8) 「業として」とは,反復的に又は反復の意思をもって法律事務の取扱い等をし,それが業務性を帯びるに至った場合をいいます(最高裁昭和50年4月4日判決)。
(9) 「周旋」とは,訴訟事件の当事者等と弁護士との間に介在し,両者間における委任関係その他の関係成立のための便宜を図り,その成立を容易ならしめる行為をいい(名古屋高裁金沢支部昭和34年2月19日判決),現実に,委任契約等の契約関係が成立している必要はありません。
   周旋を「受け」とは,受諾する意思表示をすることであり,明示であると黙示であるとを問いません。
(10) 弁護士法72条本文前段に抵触する委任契約は,民法90条に照して無効です(最高裁昭和38年6月13日判決)。
(11) 昭和30年8月10日法律第155号(同日施行)による改正前の弁護士法7条は,外国の弁護士となる資格を有する者であって,最高裁判所の承認を受けて法律事務を行うことが認められていた者は,弁護士法72条ただし書所定の「この法律に別段の定めがある場合」に基づいて法律事務を取り扱っていました。
   しかし,昭和30年8月10日法律第155号による改正後は,該当する規定が弁護士法からなくなりました。


第4 弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
1 条文等
(1) 弁護士法73条は以下のとおりです。
   何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
(2) 「他人」とは,不特定の者を対象に権利を譲り受ける場合のみならず,特定の者の債権の取立て,整理のために権利を譲り受ける場合を含みます。
   「権利」とは,債権だけでなく,物権その他いかなる権利をも含みます。
   「譲り受け」とは,売買,贈与その他法形式のいかんを問わず,他人の権利の移転を受け,自らに帰属させる行為をいい,有償であると無償であるとを問いませんし,権利実行により利益を得る目的の有無も問いません。
(3) 弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあります。
   このような立法趣旨に照らすと,形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するものではありません(最高裁平成14年1月22日判決)。
(4) ゴルフ会員権の売買には,ゴルフ会員権市場ともいうべき市場が存在し,その市場において多数の会員権の売買が日常的に行われていることは公知の事実です。
   そして,ゴルフ会員権の売買等を業とする者が,業として,上記市場から,会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上,ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたものであれば,利益を得る目的で会員権を購入していたとしても,弁護士法73条に違反するものではないと解されることがあります。
   そのため,ゴルフ会員権の譲受けの方法・態様,権利実行の方法・態様,譲受人の業務内容やその実態等を審理して,譲受人の行為が濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれがないかどうかや弁護士法72条本文が禁止する預託金の取立て代行業務等の潜脱行為に当たらないかどうかなどを含め,社会的経済的に正当な業務の範囲内の行為であるかどうかが判断されることとなります(最高裁平成14年1月22日判決参照)。
(5) 弁護士法72条違反の委任行為は非弁行為の禁止の趣旨から無効と解すべきであって(最高裁昭和38年6月13日判決),同法73条も,同法72条と同趣旨の規定です。
    そのため,弁護士法73条の違反行為は,民法90条にも違反するものとして無効であると解されています(東京地裁平成16年11月26日判決等。なお,先例として,東京高裁平成3年6月27日判決)。


2 サービサー法の位置づけ等
(1) 債権管理回収業に関する特別措置法(平成10年10月16日法律第126号。平成11年2月1日施行)(=サービサー法)に基づき,法務大臣の許可(サービサー法3条)を受けた会社である債権回収会社(サービサー)は,弁護士法72条及び73条の特例として(サービサー法1条参照),業として,特定金銭債権(サービサー法2条参照)の管理及び回収をすることができます。
(2) 債権管理回収業とは,弁護士又は弁護士法人以外の者が,①委託を受けて法律事件に関する法律事務である特定金銭債権の管理及び回収を行う営業,又は②他人から譲り受けて訴訟,調停,和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業をいいます(サービサー法2条2項)。
(3) 「弁護士は,係争の目的物を譲り受けてはならない。」(弁護士職務基本規程17条)とされています(弁護士法28条も同趣旨の規定です。)。
   そのため,取立てを目的とする債権譲受行為は,債権を譲り受けなければ,当該権利の実行に当たり支障が存在するなど,行為を正当化する特段の事情がない限り,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」に該当します(最高裁平成21年8月12日決定における裁判官宮川光治の補足意見参照)。
    したがって,①サービサーの場合,他人から債権を譲り受けることができるのに対し,②弁護士の場合,他人から債権を譲り受けることができないという違いがあります。
(4) 債権譲渡は,その原因行為(その要件事実)が要件事実と考えられるから,原因行為を売買とするときには,債権移転の対価として金銭支払が約されているという抽象的事実が要件事実になります。
   この抽象的事実が主張されれば,原因行為が売買であるとの法性決定が可能になり,相手方において,基本的に,抗弁(債権譲渡が請求原因である場合)主張が可能になると考えられるものの,相手方の訴訟上の攻撃防御の観点からは,当該抽象的事実に当たる具体的事実(主要事実)が主張されるべきと考えられます。
   ただし,どの程度の具体化した事実主張を要するかは,各事案における具体化の困難性や相手方が攻撃防御上被る不利益の程度によって決定されることとなると解されています(東京地裁平成22年6月25日判決)。
(5) サービサー法及び弁護士法73条により譲受けが禁止されている債権とは,いわゆる事件性のある債権,すなわち,債務者において支払を遅延し回収困難の状態にあったものなど,債権が通常の状態ではその満足を受けられないものをいうと解されています(東京地裁平成23年6月27日判決。なお,先例として,福岡高裁昭和36年11月17日判決参照)。
(6) 法務大臣の許可を受けないで,消費者金融会社から,通常の状態では満足を得るのが困難な貸付債権を譲り受け,同債権に関し,取立てのための請求をし,弁済を受けるなどしてその管理回収業を営んだ行為は,債権管理回収業に関する特別措置法33条1号,3条に該当します(最高裁平成24年2月6日決定)。
(7)  最高裁令和5年2月20日決定は,債権譲渡の対価としてされた金銭の交付が出資法5条3項にいう「貸付け」に当たるとされた事例です。


第5 非弁護士との提携の取締り
1(1) 日弁連の,①多重債務処理事件にかかる非弁提携行為の防止に関する規程(平成14年2月28日会規第48号。平成14年4月1日施行),及び②多重債務処理事件にかかる非弁提携行為の防止に関する規則(平成14年3月15日規則第81号。平成14年4月1日施行),並びに③これらに関する運用指針に基づき,単位弁護士会が,非弁提携行為の取締りを行っています。
(2) 「多重債務処理事件にかかる非弁提携行為」とは,金融業者に対して多重に債務を負担する者から受任する任意整理事件,破産申立事件,民事再生申立事件,特定調停申立事件及びこれに類する事件について,弁護士又は弁護士法人が,弁護士法に違反して法律事務を取扱い,又は事件を周旋することを業とする者から,事件の紹介を受ける行為,これらの者を利用する行為,又はこれらの者に自己の名義を利用させる行為をいいます。
(3) 日弁連HPに「隣接士業・非弁活動・非弁提携対策(業際・非弁・非弁提携問題等対策本部)」が載っています。
2 大阪弁護士会の場合,法七十二条等問題委員会規則(平成17年2月15日規則第163号。平成17年4月1日施行)に基づき,法七十二条等問題委員会が,非弁提携行為対策業務として,非弁提携行為の取締りを実施しています。
3 東弁リブラ2021年3月号の「弁護士業務に関するアウトソーシングの限界と注意点」には以下の記載があります(リンク先のPDF12頁)。
    預り金の返還が遅滞し,依頼者からの苦情が市民窓口に殺到して,預り金欠損が明らかに疑われる事態に至ってしまえば,もはや軟着陸は不可能となる。弁護士会としても,対象会員に手
を差し伸べるのは困難となり,事態の早期収束と被害拡大の防止のため,非弁提携調査とそれに続く会立件・事前公表を検討せざるを得ない。内部告発等がなされている場合には,強制捜査や刑事訴追の可能性もある。
4 大阪地裁平成31年4月25日判決は,弁護士資格がない事務員に債務整理手続きの助言など非弁行為をさせたとして、弁護士法違反の罪に問われた弁護士法人「あゆみ共同法律事務所」の元代表である高砂あゆみ弁護士に対し,懲役1年6月,執行猶予3年の判決を言い渡しました。



第6 弁護士法人ベリーベストの懲戒処分に関する文書
1 弁護士法人ベリーベスト法律事務所,弁護士酒井将及び弁護士浅野健太郎に対する懲戒処分(業務停止6月)の審査請求事件に関して開設された,「非弁提携を理由とする懲戒請求について」と題するHPには例えば,以下の文書が載っています。
① 東京弁護士会懲戒委員会の議決書(令和2年2月28日付)
→ 令和2年3月12日に公表されたものですが,PDF55頁に文書の日付が載っています。
② 審査請求書(令和2年6月11日公表)
③ 日本弁護士連合会への審査請求について(令和2年6月11日付)
④ 日弁連懲戒委員会の議決に基づく日弁連の裁決書(令和3年10月19日付)
→ 業務停止3月となりました。
2 東京弁護士会HPに「弁護士法人ベリーベスト法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話」(2020年3月12日付)が載っています。


第7 関連記事その他
1(1) 二弁フロンティア2017年10月号「本当に怖い非弁提携」が載っていますところ,非弁提携業者からの勧誘としては,開口一番,電話口で「~の問題を抱えている方がいらっしゃるのですが」「先生で,~ということは対応可能ですか?」「~事件が増えたら困りますか?(対応できますか?)」と尋ね,事件(それも複数)の依頼を装うものであるとのことです。
   また,非弁提携業者としては,「仕事に困っていそうな弁護士」をターゲットに選びますから,話に乗れば仕事がもらえる,そういう風に弁護士の心をくすぐろうとしますし,弁護士の警戒心を解こうとしてか,株式会社ではなくNPO法人を名乗るケースも少ないとのことです。
(2) 二弁フロンティア2021年10月号「本当に怖い非弁提携」では,非弁提携の事例として,【事例1】不動産会社への紹介料,【事例2】事務職員への営業歩合,【事例3】他士業(会社)連携,及び【事例4】会員になると事件紹介をしてくれる,について説明されています。
2 東弁リブラ2021年3月号の「特集:弁護士業務の落とし穴」には以下の記事が含まれています。
総論:一人で悩まないで!  鍛冶良明
Part1:非弁提携に陥らないための転ばぬ先の杖  柴垣明彦
Part2:弁護士業務に関するアウトソーシングの限界と注意点  石本哲敏
Part3:報酬契約の落とし穴  矢野亜紀子
Part4:相続に関する利益相反等  矢野亜紀子
Part5:行き過ぎた弁護活動等  矢野亜紀子
コラム:「非弁行為」と「非弁提携」の関係
コラム:営業電話や飛び込み営業の見極め方
3(1)  指名債権譲渡の通知は、右債権の譲渡人、その包括承継人またはそれらから委任を受けた者がなすべきで、右債権の譲受人が委任を受けないで事務管理として右譲渡の通知をしても、債権譲渡の通知の効力を生じない(最高裁昭和46年3月25日判決)。
(2)  無免許者が宅地建物取引業を営むために宅地建物取引業者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,公序良俗に反し,無効です(最高裁令和3年6月29日判決)。
   そのため,無資格者が弁護士業を営むために弁護士からその名義を借り,当該名義を借りてされた弁護士業による利益を両者で分配する旨の合意は,公序良俗に反し,無効であると思います。
4 自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して,「弁護士甲」の名義で弁護士の業務に関連した形式,内容の文書を作成した所為は,たとえ名義人として表示された者の氏名と同一であったとしても,私文書偽造罪に当たります(最高裁平成5年10月5日決定)。
5 法務省HPに「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」(法務省大臣官房司法法制部の文書)が載っています。
6(1) 東洋経済オンラインに「「AI契約チェックは違法の疑い」の衝撃的な中身 法務省判断は急成長のリーガルテックに激震」(2022年10月24日付)が載っています。
(2) 若手組織内弁護士研究ノートに「法務省が16類型の新回答公表「弁護士法72条のAI契約書レビュー問題」― 拙稿「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン(上/下)」原稿補正のメモ」(2022年10月14日付)が載っています。
(3) 令和5年8月1日,法務省HPに「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」が掲載されました。
7  賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては,右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても,債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り,債務者は,右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができます(最高裁平成9年11月11日判決)。
8 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士の懲戒事由
・ 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
・ 弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文
 「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
→ 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です。
 弁護士会の懲戒手続
 弁護士の懲戒処分の公告,通知,公表及び事前公表

弁護士会の懲戒手続

目次
1 弁護士会の綱紀委員会
2 弁護士会の懲戒委員会
3 大阪弁護士会の綱紀委員会及び懲戒委員会の委員
4 懲戒手続に関する大阪弁護士会の規程等
5 弁護士会に損害賠償責任が発生する場合等
6 自由と正義の懲戒公告等に関する裁判例
7の1 懲戒請求が取り下げられたとしても,弁護士会は対象弁護士を懲戒できること
7の2 いわゆる情状等の取扱い
8 弁護士法31条1項の「指導」,「監督」の意味に関する裁判例
9 懲戒委員会において懲戒の事由とされる範囲
10 関連記事その他

1 弁護士会の綱紀委員会
(1) 懲戒の請求をした場合,弁護士会は対象弁護士を懲戒の手続に付し,綱紀委員会において事案の調査を行います(弁護士法58条2項)。
(2)ア 弁護士会は自ら,所属弁護士について懲戒手続の開始を求めることができます(弁護士法58条2項)ところ,実務上,「会請求」とか「会立件」といわれています。
イ   「条解弁護士法」(第3版)457頁には以下の記載があります。
   弁護士会が所属弁護士(弁護士法人)について,懲戒事由があるか否かを判断する機関としては,会の執行機関としての会長,会の議決機関としての総会又は常議員会(これに準ずる機関を含む),法70条2項により「所属の弁護士及び弁護士法人の綱紀保持に関する事項をつかさどる」とされる綱紀委員会が考えられるが,懲戒手続の開始を求めるか否かの意思決定であるから,原則として意思決定機関たる総会又は常議員会が上記の判断をする機関と考えるのが相当である。会長は,重要な会務について総会又は常議員会の意思決定に基づいて執行するほか,日常の会務の範囲では自ら意思決定する権限を有しているが,懲戒手続の開始を求めるか否かの判断は,所属弁護士(弁護士法人)の権利身分に重大な影響を与える事項であるとともに,懲戒権の行使が弁護士会の根本的な権能である以上,日常の会務とみなすことはできないであろう。更に,綱紀委員会については,本条2項において,弁護士会を綱紀委員会と別個な存在として対置させていることから見て,綱紀委員会に調査を命ずるか否かの実質的判断を綱紀委員会自らにさせるとするのは妥当ではない。
(3)ア   弁護士会の綱紀委員会は,調査対象の弁護士(「被調査人」といいます。),懲戒請求をした人(「懲戒請求者」といいます。)から資料の提出を求めたり,調査期日に事情を聴取したりして,非行が認められるかどうかを調査します。
   綱紀委員会は,調査の結果に基づき,以下のいずれかの議決をします(弁護士法58条4項参照)。
① 懲戒相当(弁護士法58条3項)
   懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決です。
② 懲戒不相当(弁護士法58条4項)
   以下の場合に行われる,懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当としない旨の議決です。
(a) 除斥期間の経過等により懲戒請求(弁護士法58条1項)が不適法である場合
(b) 除斥期間の経過等により会請求(弁護士58条2項)が不適法である場合
(c) 被調査人に懲戒の事由がない場合
(d) 事案の軽重その他情状を考慮して被調査人を懲戒すべきでないことが明らかであると認める場
③ 調査終了
   調査開始後に被調査人が死亡したり,除名,破産手続開始等の事由により会員資格を喪失した場合に行われる議決です。
イ 綱紀委員会が「懲戒相当」の議決をした場合,弁護士会は懲戒委員会に事案の審査を求めます。
   ただし,平成15年7月25日法律第128号による改正前の弁護士法58条3項は「弁護士会は、綱紀委員会が前項の調査により弁護士又は弁護士法人を懲戒することを相当と認めたときは、懲戒委員会にその審査を求めなければならない。」と定めていたのに対し,改正後の弁護士法58条3項は「綱紀委員会は、前項の調査により対象弁護士等(懲戒の手続に付された弁護士又は弁護士法人をいう。以下同じ。)につき懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認めるときは、その旨の議決をする。この場合において、弁護士会は、当該議決に基づき、懲戒委員会に事案の審査を求めなければならない。」と定めていますから,「懲戒相当」という表現はやや不正確ではあります。
(4) 綱紀委員会は,数多の懲戒事案の中から懲戒委員会の判断を仰がなければならない事案を選別して,濫請求事案については早急に被調査人を懲戒手続から解放するとともに,懲戒委員会の判断が必要となる事案では,事実関係の調査を遂げて証拠の散逸を防ぎ,かつ,懲戒委員会の事実調査に要する負担を極力軽減させるという機能を有しています(東弁リブラ2010年7月号「綱紀・懲戒-綱紀委員会から7つのメッセージ- 総論:綱紀・懲戒制度の概要」参照)。
(5)ア 懲戒請求者は,弁護士会の綱紀委員会が相当の期間内に懲戒の手続を終えない場合,日弁連綱紀委員会に対して異議の申出をできます(弁護士法64条1項前段)。
   日弁連白書2016年の「懲戒事案の調査・審査期間」によれば,懲戒請求から綱紀委員会による議決までの期間は,過去5年間,約70%から約90%の案件について1年以内となっています。
イ 日弁連HPの「懲戒請求事案に関する異議申出の方法について(相当期間異議の場合)」が参考になります。
   異議申出をする場合,正本1通及び副本2通の合計3通の異義申出書を日弁連に提出します。
エ 半年以内に懲戒請求を棄却する旨の議決が出ることは通常ありません(弁護士自治を考える会HPの「『弁護士懲戒請求の研究』 懲戒請求が棄却されるまでに要する期間」参照)。
(6) 弁護士会の懲戒手続については,①途中経過について知らせてもらうことはできませんし,②どのような調査をしたかを知らせてもらうこともできませんし,③いつ終わるかを知らせてもらうこともできないみたいです(ガジェット通信HPの「弁護士は弁護士を裏切らない!?役立たずの懲戒請求制度」参照)。
(7)ア 弁護士の法曹倫理について考えるブログに載っている,「居眠りした原田直子日弁連副会長(当時)に関する福岡県弁護士会の議決書」(令和2年5月21日付)を見れば,綱紀委員会の議決書がどのようなものであるかが分かります。
イ 同ブログの「福岡県弁護士会・上地和久副会長が語った「ローカルルール」」によれば,福岡県弁護士会の場合,対象弁護士が書いた答弁書(懲戒請求への反論)を懲戒請求者に送付しませんし,答弁書が出されたかどうかを懲戒請求者に教えませんし,答弁書のコピーは福岡県弁護士会が許可した場合に限られるそうです。


2 弁護士会の懲戒委員会
(1) 弁護士会の懲戒委員会は,事案の審査を求められた場合,対象弁護士等を懲戒するかどうかを決定します(弁護士法58条5項及び6項)。
(2)ア 懲戒委員会は,事案の審査の結果,対象弁護士等につき懲戒することを相当と認めるときは、懲戒の処分の内容を明示して、その旨の議決をします。
   この場合,弁護士会は,当該議決に基づき,対象弁護士等を懲戒しなければなりません(弁護士法58条5項)。
イ 懲戒委員会は,事案の審査の結果,対象弁護士等につき懲戒しないことを相当と認めるときは,その旨の議決をします。
   この場合,弁護士会は,当該議決に基づき,対象弁護士等を懲戒しない旨の決定をしなければなりません(弁護士法58条6項)。
(3)ア 懲戒委員会は,議決をしたときは,速やかに理由を付した議決書を作成しなければなりません(弁護士法67条の2)。
イ 対象弁護士等を懲戒する場合,議決書の主文は以下のようなものになります。
① 「対象弁護士等を除名することを相当とする」
② 「対象弁護士等に対し,退会を命ずることを相当とする」
③ 「対象弁護士等に対し,業務を○年○月停止することを相当とする」
④ 「対象弁護士等を戒告することを相当とする」
ウ 対象弁護士等を懲戒しない場合,議決書の主文は以下のとおりとなります。
⑤   「対象弁護士等を懲戒しないことを相当とする」
エ 対象弁護士等が死亡したり,資格を喪失したりした場合,議決書の主文は以下のようなものになります。
⑥   「本件懲戒請求手続は対象弁護士等の死亡(資格喪失)により終了した」
オ 弁護士法は,弁護士及び弁護士法人の懲戒について特に適正・公正を期するため,懲戒委員会を設置したわけですから,懲戒委員会の議決は,弁護士会を拘束し,議決と異なる処分をすることはできません。
(4) 懲戒請求者は,弁護士会の懲戒委員会が相当の期間内に懲戒の手続を終えない場合,日弁連懲戒委員会に対して異議の申出をできます(弁護士法64条1項前段)。
(5)   日弁連白書2016年の「懲戒事案の調査・審査期間」によれば,懲戒委員会への付議から議決までの期間別件数は,過去5年間,約80%の案件で1年以内となっていますものの,2年を超える案件が約2%あります。


3 大阪弁護士会の綱紀委員会及び懲戒委員会の委員
(1) 大阪弁護士会の綱紀委員会の委員は,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験のある者の中から,それぞれ大阪弁護士会会長が委嘱します(弁護士法70条の3第1項前段)。
   この場合,①裁判官又は検察官である委員はその地の高等裁判所若しくは地方裁判所又は高等検察庁検事長若しくは地方検察庁検事正の推薦に基づき,②その他の委員は大阪弁護士会の総会の決議に基づき,委嘱する必要があります(弁護士法70条の3第1項後段・弁護士法66条の2第1項後段)。
   ただし,任期が2年であること(弁護士法70条の3第3項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法70条の5)も含めて,毎年5月の定時総会決議(大阪弁護士会会則34条4号)において,選任に関する事項は常議員会に白紙委任されています(大阪弁護士会会則57条2号参照)。
(2) 大阪弁護士会の懲戒委員会の委員は,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験のある者の中から,それぞれ大阪弁護士会会長が委嘱します(弁護士法66条の2第1項前段)。
   この場合,①裁判官又は検察官である委員はその地の高等裁判所若しくは地方裁判所又は高等検察庁検事長若しくは地方検察庁検事正の推薦に基づき,②その他の委員は大阪弁護士会の総会の決議に基づき,委嘱する必要があります(弁護士法66条の2第1項後段)。
   ただし,任期が2年であること(弁護士法66条の2第3項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法66条の4)も含めて,毎年5月の定時総会決議(大阪弁護士会会則34条4号)において,選任に関する事項は常議員会に白紙委任されています(大阪弁護士会会則57条2号参照)。
(3) 大阪弁護士会HPの「弁護士自治のための活動(6委員会)」には以下の記載があります。
懲戒委員会
綱紀委員会の調査の結果、懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当と議決された案件の審査を行っています。また、審査の結果、懲戒相当と認められれば、処分の内容を明示して、その旨の議決をし、弁護士会がその弁護士等を懲戒します。
綱紀委員会
当会会員弁護士に対してなされた懲戒請求につき、弁護士法の規定等に基づき、その事案調査などを行っています。委員会の構成員には、裁判官、検察官、学識経験者などの外部の方も含まれています。


4 懲戒手続に関する大阪弁護士会の規程等
(1) 大阪弁護士会の場合,以下の規程があります。
① 大阪弁護士会会則(平成14年3月6日全部改正)(平成14年4月1日施行)116条ないし124条
② 大阪弁護士会綱紀調査手続規程(平成16年2月2日会規第44号)(平成16年4月1日施行)
③ 大阪弁護士会懲戒手続規程(平成16年2月2日会規第45号)(平成16年4月1日施行)
(2) 大阪弁護士会所属の弁護士に対して懲戒処分があった場合,以下のとおり,懲戒処分を受けた弁護士の氏名等が以下のとおり公告されます(大阪弁護士会懲戒手続規程58条)。
   ただし,以下の「公告」は,マスコミ発表を伴う「公表」とは異なります(大阪弁護士会会則121条1項参照)。
① 月刊大阪弁護士会の「告示」欄への掲載
→ 月刊大阪弁護士会というのは大阪弁護士会の機関誌であり,毎月末日ぐらいに発行されています(大阪弁護士会HPの「広報誌」参照)。
② 大阪弁護士会館13階の会員ロビー掲示板への掲載
→ (a)除名又は退会命令の場合は1年間,(b)業務停止の場合はその期間,(c)戒告の場合は2週間,掲載されます。


5 弁護士会に損害賠償責任が発生する場合等
(1) 弁護士会が行った懲戒が弁護士会の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる違法なものである場合において,当該弁護士会において当該懲戒が違法なものではないと信じたことにつき相当の理由もない場合,損害賠償責任が発生すると思います(東京地裁平成23年9月29日判決参照)。
(2) 弁護士会の会長及び弁護士会の資格審査会の会長として弁護士名簿登録請求の進達拒絶に関与する行為は,国家賠償法1条1項にいう「公共団体の公権力の行使にあたる公務員」としての行為に該当すると解されています(大阪高裁平成22年5月12日判決)。
   そのため,弁護士会の懲戒委員会が弁護士又は弁護士法人の懲戒をする行為は,国家賠償法1条1項にいう「公共団体の公権力の行使にあたる公務員」としての行為に該当すると思います。
   よって,弁護士会の懲戒委員会の委員は個人として不法行為責任を負うことはないと思います(公務員個人が不法行為責任を負わないことに関する最高裁昭和30年4月19日判決最高裁昭和53年10月20日判決参照)。


6 自由と正義の懲戒公告等に関する裁判例
(1) 最高裁平成15年3月11日決定は以下のとおり判示しました(ナンバリングをしています。)から,弁護士に対する戒告処分が日本弁護士連合会会則97条の3第1項に基づく公告を介して第三者の知るところとなり弁護士としての社会的信用が低下するなどの事態は,行政事件訴訟法25条2項にいう「処分により生ずる回復の困難な損害」に当たりません。
① 弁護士に対する戒告処分は,それが当該弁護士に告知された時にその効力が生じ,告知によって完結する。その後会則97条の3第1項に基づいて行われる公告は,処分があった事実を一般に周知させるための手続であって,処分の効力として行われるものでも,処分の続行手続として行われるものでもないというべきである。
② そうすると,本件処分の効力又はその手続の続行を停止することによって本件公告が行われることを法的に阻止することはできないし,本件処分が本件公告を介して第三者の知るところとなり,相手方の弁護士としての社会的信用等が低下するなどの事態を生ずるとしても,それは本件処分によるものではないから,これをもって本件処分により生ずる回復困難な損害に当たるものということはできない。
(2)   東京地裁平成23年9月29日判決は,自由と正義の懲戒公告等について,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行は私が行ったものです。)。
① 弁護士会は,弁護士法の規定に基づいて委託を受けた公権力の行使として弁護士に対する懲戒を行うものであり,弁護士会が被告日本弁護士連合会に対し弁護士に対する懲戒をした旨の報告をする行為は,弁護士に対する懲戒の一環を成すものとして弁護士会の所掌事務の範囲に含まれるということができるところ,この報告行為は,それによって直接国民の権利を制限し又は国民に義務を課すなどするものではないから,特別な法令上の根拠なくして適法にすることができるというべきである。
   そして,弁論の全趣旨によれば,被告日本弁護士連合会が弁護士会から弁護士に対する懲戒をした旨の報告を受けたことを同被告の機関雑誌「自由と正義」に掲載して公告をする行為は,依頼者その他の者が弁護士の身分を失った者又は弁護士の業務を行うことができない者に対して法律事務を委任することがないようにし,併せて他の弁護士が同種の非行に及ぶことを予防することを目的とするものであると認めることができるのであって,弁護士の使命の重要性,職務の社会性等に鑑みると,その公表目的の正当性及び公表の必要性が認められ,それにつながるものである弁護士会が被告日本弁護士連合会に対し弁護士に対する懲戒をした旨の報告をする行為についても,その報告目的の正当性及び報告の必要性を肯定することができる。
    また,被告日本弁護士連合会の上記公告行為は,法曹関係者等をその主要な閲読者とする同被告の機関雑誌「自由と正義」を媒体として,懲戒を受けた弁護士の氏名,登録番号,事務所,住所,懲戒の種別,処分の理由の要旨,処分の効力の生じた日を公表するものであって,公表手段及びその態様の相当性を肯定することができるというべきである。
② もっとも,上記弁護士会の報告行為が弁護士に対する懲戒をした事実を不特定多数の者に摘示するものにほかならないことは上記のとおりであって,一たび懲戒を受けた事実が不特定多数の者に摘示されれば当該弁護士の社会的評価が著しく低下することとなることを考慮すると,
当該懲戒が弁護士会の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる違法なものである場合において,当該報告行為をした弁護士会において当該懲戒が違法なものではないと信じたことにつき相当の理由もないようなときには,弁護士会は,弁護士の名誉を毀損する違法な報告行為をしたものとして,それにより当該弁護士に生じた損害を賠償し又は当該弁護士の名誉を回復するのに適当な措置を執る義務を負うと解するのが相当である。


7の1 懲戒請求が取り下げられたとしても,弁護士会は対象弁護士を懲戒できること
(1)   懲戒請求の取り下げがあっても,懲戒処分される例は認められ,懲戒請求の取り下げがあったにもかかわらず懲戒処分をしたことが異例であるとか違法であるとかいうことはできません。
(2) 別の事例が被懲戒者の事案より非行の程度が重いとしても,それだけでは,他事例との比較において,懲戒処分が不当であるとまでいうことはできません。
(3) 弁護士の懲戒は,単に懲戒請求者のためにするのではなく,弁護士会は,懲戒制度の趣旨に従って,懲戒事由がある場合に当該弁護士を懲戒することになります。
    そして,懲戒を相当とする事由がある場合には,懲戒請求者の取り下げにかかわらず,懲戒するのが弁護士の懲戒制度の趣旨に合致しています。
(4)   以上の記載は,東京高裁平成24年10月31日判決(最高裁平成23年10月11日決定の本案事件です。)に基づくものです。

7の2 いわゆる情状等の取扱い
(1) 情状一般の取扱い
・ 弁護士懲戒手続の研究と概要(第3版)134頁には以下の記載があります。
綱紀委員会が懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当か否かを判断するためには、行為の態様、結果の大小等、実質的価値判断の資料となる事項を調査する必要がある。そこで平成一五年改正法は「事案の軽重その他情状を考慮して懲戒すべきでないことが明らかであると認めるとき」(五八条四項)と定め、綱紀委員会が情状を掛酌しうることを明らかにした。例えば、対象弁謹士等の預り金の横領ないしは返還義務の履行遅滞が問題となっている事案であって、対象弁護士等が、預っていた金品を一部返還していた場合には、預り金の額や預った経緯等に加えて、返還時期や返還額等の返還の経緯に関する事情や残額を返還しない理由等をも調査したうえで、それらの事情も併せて懲戒請求事実が品位を失うべき非行に該当するかどうかが実質的に判断されることになるであろう。
(2) 事後的情状も調査対象となること
・ 弁護士懲戒手続の研究と概要(第3版)135頁には以下の記載があります。
「あらごなし」の機関だからといって論理必然的に事後的情状が調査対象ではないとすることはできない。前述のとおり、懲戒事由は実質的な判断で決せられるべきものであり、懲戒事由の有無の判断において懲戒請求時に存した事実とその後に生じた事実を明確に区別できないというべきである。とすれば、綱紀委員会の審議終結時までにあらわれた全ての事情を考慮して懲戒事由の有無(懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当か否か)を判断するのであって、いわば事後的情状も調査の対象に含まれるというべきである。ただし、綱紀委員会において、対象弁護士等に対し、示談すれば懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をするなどの指導をするといった誤った運用をすることは許されない。


8 弁護士法31条1項の「指導」,「監督」の意味に関する裁判例
・ 大阪高裁平成21年7月30日判決(弁護士懲戒手続の研究と実務(第3版)113頁及び114頁)は以下の判示をしています。
    弁護士法三一条一項にいう「指導」、「監督」の意味については、①弁護士の基本的人権を擁護し、社会正義を実現するための活動の適正な遂行を保障するためには、弁護士の活動について高度の独立性を認める必要があること、②弁護士には、職務上知り得た事実についての守秘義務が認められていること(弁護士法二三条、刑法一三四条一項)、③弁護士法は、弁護士会に対し、所属弁護士会に対する監督を全うさせるための特別な権能として、懲戒権を与えているが、懲戒権の行使は、弁護士会内の独立委員会である綱紀委員会及び懲戒委員会の判断に基づいて、弁護士会の恣意に流されることなく、適正かつ公正に行われることが厳格に規定されていることを総合して考慮すると、弁護士会は、所属弁護士の受任事件の処理に関して、違法又は不当な点が存在する疑いがあり、その点が懲戒事由に該当すると思料するときは、原則として、懲戒手続によって指導監督を行うべきであって、それ以外には、専ら、所属弁護士の具体的な業務執行や事件処理にわたらない範囲での研修や研究等の一般的な指導監督をすることができるにとどまるというべきであり、所属弁護士の受任事件の処理に関して懲戒手続以外に個別具体的に指導監督権を行使することは、例えば、明らかに違法な弁護活動、実質的に弁護権を放棄したと認められる行為、あるいは職業的専門家である弁護士としての良識を著しく逸脱した行為などが存在し、懲戒手続を待っていたのでは回復し難い損害の発生が見込まれるとか、あるいは、懲戒手続によるのみでは回復し難い損害の発生を防止することができないなど、特段の事情が存在する場合に限って、しかも当該違法又は不当な行為を阻止し、又はこれを是正するために必要な限度でしか許されないと解するのが相当である。 


9 懲戒委員会において懲戒の事由とされる範囲
(1) 弁護士懲戒手続の研究と実務(第3版)158頁で引用されている東京高裁平成17年10月13日判決は以下の判示をしています。
    弁護士に対する懲戒は、法五六条一項が規定する懲戒事由に該当する具体的事実により構成される懲戒事由を基礎としてされるものであるところ、懲戒譜求人が弁護士会に懲戒の請求をしたときに、綱紀委員会が調査の対象とするのは、懲戒請求人が主張する具体的事実により構成される『懲戒の事由』である。もっとも、弁護士の懲戒請求をすることができるのは『何人も』(法五八条一項)であるから、弁護士法を含む法令や手続について充分な知識を持たない一般人が懲戒請求をすることが予想されるのであるから、綱紀委員会は調査の過程で懲戒請求の趣旨や関連する事情を懲戒請求人から聴取し、懲戒請求人の意思を釈明し、その結果に基づいて、懲戒申立書に懲戒請求事由として挙げられた記載の不備を補い、補正、追加したものを、懲戒請求人の申し立てた懲戒諭求事由として把握した上で、当該懲戒請求事由について懲戒相当か否かを判断すべきことは当然である。懲戒委員会の審査は、綱紀委員会が調査により弁護士を懲戒することが相当と認めた場合に限り、弁護士会の求めによりされるところ、懲戒委員会の審査は綱紀委員会で懲戒相当とされた具体的事実により構成される懲戒事由を対象とするものと解され、結局懲戒委員会による懲戒の事由とされるのは、懲戒請求人が懲戒申立書において懲戒請求事由としたところ及び綱紀委員会が懲戒請求人の主張する懲戒請求事由として把握したところと実質的に同一の範囲の事由に限られるものというべきである。このことは、懲戒委員会の議決に基づく弁護士会の懲戒に対する審査請求について審査を行う被告(引用者注:日弁連のこと)の懲戒委員会が懲戒事由を認定する場合にも同様である。そして、懲戒委員会の認定する懲戒事由と懲戒請求人が懲戒申立書において懲戒請求事由としたこと及び綱紀委員会が懲戒請求人の主張する懲戒請求事由と把握したことが実質的に同一のものであるか別個のものであるかの判断は、当該事案において、懲戒事由となるべき社会的事実として同一の範囲に含まれるかどうかにより判断すべきである。
(2) 弁護士懲戒手続の研究と概要(第3版)132頁には以下の記載があります。
    懲戒事由に該当する事実が存在するか、また、その事実が懲戒事由たる非行に該当するか否か、調査の主力はこれに注がれる。調査をすべき事実の範囲は懲戒請求者の請求に基づき弁護士会から調査を求められた懲戒請求事実の範囲に限られる。懲戒請求事実以外の非行事実を探知しても、これを更に調査し、議決することは職権立件を認めることとなり許されない。このような場合は請求事実以外の非行事実を探知したことを弁謹士会に報告し、弁護士会の判断を侍つべきである。
    その一方で、弁護士会によって調査に付された懲戒請求事実については、すべて懲戒を相当とするか否かについて議決しなければならない(同旨、昭和六三年二月八日付け日弁連事務総長回答)。
    懲戒事由に該当する事実の説明が不十分で趣旨不明の場合であって、補正しうるものは、懲戒請求者に対し補正を命じるべきである。ただし、当初の懲戒請求事実とは全く別の非行事実に補正させることは補正の限度を超えるものとして許されないと解する。補正の限界を一般的に論ずることは困難であるが、少なくとも当初の懲戒請求事実と比較して基本的な事実が同一である必要があると解される。 


10 関連記事その他
(1) 稲田寛 日弁連事務総長は,平成6年11月29日の衆議院法務委員会において,参考人として以下の発言をしています。
    日弁連は、一九九〇年三月総会におきまして三十五年ぶりに弁護士倫理全文を改定し、これを会員に周知徹底するため、事例設問式の研修教材である「事例集・弁護士倫理」を発行したり、あるいは「弁護士倫理研修マニュアル」を編集し、さらには、現在では「注釈弁護士倫理」を編さん中であり、近々発刊の予定になっております。
    こうした倫理研修の一層の強化徹底策の一つといたしまして、日弁連は、このたび各弁護士会に対し、新人研修の義務化とともに全会員に対する弁護士倫理研修の義務化を呼びかけたわけでございます。
    また、今後の課題といたしましては、倫理規定にとどまらず、業務規準の明瞭化や執務体制の正常化についても関連委員会等で検討の上、会員の業務処理に当たってのきめ細かい指導要領を策定し、会員の非行予防に役立てていく方針であります。
    他方、残念ながら生じてしまった非行事例につきましては、その事案の内容を公表することによって他の会員の戒めとし、同種事例を防止するために、一九九一年十月より、懲戒処分があったときはそのすべてを日弁連の機関誌である「自由と正義」に理由を付して掲載し、事案によってはこれを記者会見等で発表いたしております。
(2) 法曹制度検討会(第4回)議事録(平成14年5月14日実施分)には,井元義久 日弁連副会長による弁護士会の懲戒手続の説明が載っています。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士の懲戒事由
・ 弁護士の懲戒処分の公告,通知,公表及び事前公表
・ 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
・ 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
・ 弁護士の懲戒処分と取消訴訟
・ 弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文
・ 「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
→ 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です。

弁護士の懲戒手続の除斥期間

目次
1 総論
2 除斥期間の始期
3 「懲戒の手続」の意義
4 司法書士の懲戒の場合,除斥期間がなかったこと等
5 関連記事

1 総論
(1) 懲戒の事由があったときから3年を経過した場合,弁護士会が「懲戒の手続」を開始することはできない(弁護士法63条)ところ,3年の期間は除斥期間ですから,停止事由等はありません。
(2)ア ①長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪の公訴時効は3年ですし,②令和2年3月31日までの間,弁護士の預かり書類の消滅時効は3年でした(民法171条)。
   そのため,事件終了の時から3年を経過した場合,非行行為に関する書類がない場合がありうることは,3年という除斥期間を定めた理由の一つとされています。
イ 改正民法が施行された令和2年4月1日以降,弁護士の預かり書類の消滅時効は5年です(民法166条1項1号)。

2 除斥期間の始期
(1) 除斥期間の始期は,「懲戒の事由があったとき」,つまり,懲戒事由に当たる行為が終了したときであり,継続する非行についてはその行為が終了した時です。
(2)ア   弁護士が依頼者から又は依頼者のために預かった金品を返還すべき時期に依頼者に返還しないという行為は,それ自体,依頼者の弁護士に対する信頼,ひいては国民一般の弁護士全体に対する信頼を破壊するものとしてその品位を失うべき非行に当たりますから,返還するまでの間,非行は継続していると解されています(東京高裁平成13年11月28日判決参照)。
イ 依頼者と弁護士の委任関係が終了した場合,その終了時に預かった金品等の清算がなされるのが通常であることや委任事務に係る資料の保存にも限度があること,委任関係が終了した後もいつまでも懲戒しうるというのでは弁護士は極めて不安定な立場に置かれることとなり,除斥期間を設けた法の趣旨に反することにもなることから,弁護士から依頼者から又は依頼者のために預かった金品を横領するなどしてこれを返還しない場合であっても,委任関係が終了したときは,その終了の時点から除斥期間が開始すると解されています(東京高裁平成13年11月28日判決参照)。
(3) 数個の非行事実が連続して存在する場合,それぞれの行為について除斥期間が進行するのか,それとも連続した一連の行為として包括的な一つの行為とみなし,これら数個の行為全部の終了時をもって除斥期間の始期とみるべきかは,具体的事案によって判断されます。

3 「懲戒の手続」の意義
(1)ア 日弁連は従前,「懲戒の手続」は懲戒委員会の審査手続だけをいうのであって,綱紀委員会の調査手続はこれに含まれないという解釈(現定説)を採用していました。
   しかし,平成11年3月19日付の理事会決定により,「懲戒の手続」には綱紀委員会の調査手続が含まれるという解釈(非限定説)に変更しました。
そして,同年6月9日付で,日弁連会長から各弁護士会会長宛の「弁護士法第63条及び第64条の解釈について(通知)」と題する文書において,各弁護士会においてもこの解釈に従うように通知しました。
イ 当時の弁護士法63条及び64条は現在,弁護士法62条及び63条です。
(2) 平成16年4月1日施行の,司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律(平成15年7月25日法律第128号)は,弁護士法58条2項において,懲戒請求があった場合に弁護士会が「懲戒の手続」に付して,綱紀委員会に事案の調査をさせる旨を規定していますところ,これは非限定説を前提としたものと解されています。
(3) 懲戒事由があった日から3年を経過する前に綱紀委員会の調査手続に付されていた場合,除斥期間は問題とならなくなります。
(4) 懲戒請求先の弁護士会がいつ,綱紀委員会の調査手続に付したかどうかについては,懲戒請求者が懲戒請求先の弁護士会に対し,綱紀委員会の事件番号(例えば,平成29年(綱)第1234号)及び対象弁護士の氏名を告知すれば,電話で教えてくれることがあります。
(5) 弁護士自治を考える会HPの「懲戒請求申立を2年半放置した弁護士会に対し日弁連がやっと異議を認めた」では,第一東京弁護士会は,懲戒請求書を受領した当日に,綱紀委員会に調査を請求したみたいです。

4 司法書士の懲戒の場合,除斥期間がなかったこと等
(1)ア 司法書士の場合,懲戒権者は法務局又は地方法務局の長でありますところ,司法書士の懲戒の場合,除斥期間がありませんでした。
イ 平成24年11月6日付の,衆議院議員秋葉賢也君提出司法書士に対する懲戒に関する質問に対する答弁書には以下の記載があります。
   御指摘の「除斥期間」の規定が弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)に設けられているのは、弁護士が、司法書士と異なり、事件が終了した時から三年を経過したときは、その職務に関して受け取った書類について、その責任を免れることとされていることなどに鑑みたものであると解されており、また、司法書士に対する懲戒に当たっては、当該非違行為による関係者及び社会に与える影響の大きさ等の個別具体的な事情をしん酌した上、公正かつ適正にこれを行っているところであることから、「除斥期間」の規定を司法書士法(昭和二十五年法律第百九十七号)に設ける必要はないと考える。
(2) 令和元年の司法書士法改正により,司法書士の懲戒の除斥期間は7年となる予定です(「令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料」参照)。

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・ 「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
→ 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です。
・ 弁護士会の懲戒手続

平成29年10月当時の,弁護士法人アディーレ法律事務所の状況

目次
1 弁護士法人アディーレ法律事務所
2 アディーレの池袋本店及び支店における修習期の分布及び社員の配置状況
3 アディーレの支店設置時期
4 アディーレ及びそのグループ法人
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1 弁護士法人アディーレ法律事務所
(1) 弁護士法人アディーレ法律事務所(以下「アディーレ」といいます。)は平成17年4月1日に設立登記がされ,平成29年10月11日現在,本店のほか,85の支店があります。
(2) 法人登記簿によれば,アディーレの主たる事務所は,東京都豊島区東池袋3丁目1-1 サンシャイン60にあります。
(3)ア 法人登記簿によれば,平成24年7月17日,代表社員であった石丸幸人弁護士が社員となり,同年8月1日に資格変更の登記がなされています。
    そのため,同日以降,弁護士法人アディーレ法律事務所には代表社員がいないみたいです。
イ インターネットアーカイブに保存されているアディーレHPの「当事務所の弁護士・司法書士の紹介」(平成29年8月6日時点のもの)には,石丸幸人弁護士が代表弁護士になっています。
(4) 代表社員の定めがない場合,業務を執行する社員が各自弁護士法人を代表します(弁護士法30条の13第1項)。
    そのため,石丸幸人弁護士その他の幹部弁護士はアディーレの定款で業務を執行する社員とされている(弁護士法30条の12参照)から,代表権を持っているのかも知れません。
(5) 平成29年10月11日現在,アディーレの弁護士数は185人であり,そのうちの92人が社員でありますところ,修習期別は以下のとおりです。
55期:社員 1人
56期:社員 1人
59期:使用人1人
60期:社員 1人,使用人 2人
61期:社員 1人,使用人 4人
62期:社員 3人,使用人 3人
63期:社員11人,使用人 4人
64期:社員 9人,使用人 7人
65期:社員11人,使用人 9人
66期:社員11人,使用人 3人
67期:社員16人,使用人14人
68期:社員14人,使用人21人
69期:社員13人,使用人25人

2 アディーレの池袋本店及び支店における修習期の分布及び社員の配置状況
    平成29年10月11日時点における,アディーレの池袋本店及び支店における修習期の構成及び社員の配置状況は以下のとおりです(弁護士法人は原則として,すべての支店に社員を常駐させる必要があります(弁護士法30条の17)。)。
(1) 関東弁護士会連合会
東京弁護士会
池袋本店(68人)
56期(社員),59期,60期,61期(社員),61期3人,62期2人,63期2人,64期3人,65期5人,66期2人,67期(社員)2人,67期8人,68期(社員)1人,68期14人,69期21人
丸の内支店:65期(社員)
新宿支店:63期(社員)
町田支店:68期(社員)
北千住支店:66期(社員)
立川支店:63期(社員)
第一東京弁護士会
池袋本店:期外1人
神奈川県弁護士会
横浜支店:63期(社員),68期
川崎支店:65期(社員),64期,65期
横須賀支店:63期(社員)
埼玉弁護士会
川越支店:64期(社員)
大宮支店:65期(社員)
千葉県弁護士会
千葉支店:67期(社員)
船橋支店:66期(社員)
柏支店:67期(社員)
茨城県弁護士会
水戸支店:67期(社員),68期
栃木県弁護士会
宇都宮支店:66期(社員)
群馬弁護士会
高崎支店:67期(社員)
静岡県弁護士会
静岡支店:63期(社員)
沼津支店:62期(社員)
浜松支店:65期(社員)
山梨県弁護士会
甲府支店:68期(社員)
長野県弁護士会
長野支店:66期(社員)
松本支店:68期(社員)
新潟県弁護士会
新潟支店:62期(社員)
上越支店:67期(社員)
長岡支店:68期(社員)

(2) 近畿弁護士会連合会
大阪弁護士会
大阪支店:55期(社員),61期,65期,67期,69期
なんば支店:62期(社員)
堺支店:66期(社員)
豊中中央支店:69期(社員)
枚方支店:68期(社員)
京都弁護士会
京都支店:64期(社員),60期,62期,68期
兵庫県弁護士会
神戸支店:66期(社員)
姫路支店:69期(社員)
奈良弁護士会
奈良支店:63期(社員)
滋賀弁護士会
滋賀草津支店:69期(社員)
和歌山弁護士会
和歌山支店:63期(社員)

(3) 中部弁護士会連合会
愛知県弁護士会
名古屋支店:60期(社員),63期(社員),63期2人,64期,67期2人,68期2人,69期
一宮支店:68期(社員)
岡崎支店:66期(社員)
豊橋支店:67期(社員)
三重弁護士会
津支店:67期(社員)
四日市支店:67期(社員)
岐阜県弁護士会
岐阜支店:69期(社員)
福井弁護士会
福井支店:69期(社員)
金沢弁護士会
金沢支店:67期(社員)
富山県弁護士会
富山支店:66期(社員)

(4) 中国地方弁護士会連合会
広島弁護士会
広島支店:63期(社員)
福山支店:65期(社員)
山口県弁護士会
下関支店:69期(社員)
岡山弁護士会
岡山支店:66期(社員)
倉敷支店:64期(社員)
鳥取県弁護士会
鳥取支店:68期(社員)
島根県弁護士会
松江支店:65期(社員)

(5) 九州弁護士会連合会
福岡県弁護士会
福岡支店:63期(社員),65期(社員),64期,68期2人
小倉支店:69期(社員)
久留米支店:68期(社員)
佐賀県弁護士会
佐賀支店:66期(社員)
長崎県弁護士会
長崎支店:65期(社員)
佐世保支店:65期(社員)
大分県弁護士会
大分支店:67期(社員)
熊本県弁護士会
熊本支店:65期(社員)
鹿児島県弁護士会
鹿児島支店:67期(社員),69期
宮崎県弁護士会
宮崎支店:68期(社員)
都城支店:68期(社員)
沖縄弁護士会
那覇支店:64期(社員)
沖縄胡屋支店:69期(社員)

(6) 東北弁護士会連合会
仙台弁護士会
仙台支店:64期(社員)
福島県弁護士会
福島支店:69期(社員),65期
郡山支店:68期(社員)
山形県弁護士会
山形支店:67期(社員)
酒田支店:68期(社員)
岩手弁護士会
盛岡支店:65期(社員)
秋田弁護士会
秋田支店:69期(社員)
青森県弁護士会
青森支店:67期(社員)
八戸支店:69期(社員),67期

(7) 北海道弁護士会連合会
札幌弁護士会
札幌支店:64期(社員),65期,66期,67期2人
苫小牧支店:66期(社員)
函館弁護士会
函館支店:63期(社員)
旭川弁護士会
旭川支店:64期(社員)
釧路弁護士会
釧路支店:64期(社員)
帯広支店:68期(社員)

(8) 四国弁護士会連合会
香川県弁護士会
高松支店:64期(社員),64期
徳島弁護士会
徳島支店:67期(社員)
高知弁護士会
高知支店:69期(社員)
愛媛弁護士会
松山支店:69期(社員)

3 アディーレの支店設置時期
    履歴事項証明書に設立日が出てこない(1),更正登記があった(8),(40)及び(42)を除き,法人登記簿に基づいて記載しています。
    また,平成29年9月1日の福井支店設置をもって,全都道府県への出店を達成しました。

(平成19年設置分:1個)
(1) 平成19年 5月16日:立川支店(平成21年8月8日移転)
(平成20年設置分:1個)
(2) 平成20年 6月23日:那覇支店
(平成21年設置分:2個)
(3) 平成21年 2月20日:名古屋支店
(4) 平成21年11月 1日:札幌支店
(平成22年設置分:3個)
(5) 平成22年 5月31日:仙台支店
(6) 平成22年 8月 6日:大阪支店
(7) 平成22年10月13日:高松支店
(平成23年設置分:10個)
(8)   平成23年 1月24日:福岡支店
(9)   平成23年 2月17日:横浜支店
(10) 平成23年 3月 9日:新潟支店
(11) 平成23年 4月 5日:静岡支店
(12) 平成23年 7月 1日:神戸支店
(13) 平成23年 8月18日:広島支店
(14) 平成23年 9月 9日:金沢支店
(15) 平成23年10月 5日:青森支店(平成29年3月1日移転)
(16) 平成23年11月15日:千葉支店
(17) 平成23年11月30日:宇都宮支店
(平成24年設置分:19個)
(18) 平成24年 1月 6日:京都支店
(19) 平成24年 2月29日:富山支店
(20)ないし(22)
平成24年 3月14日:町田支店(平成28年10月5日移転),千住支店及び鹿児島支店
(23)及び(24)
平成24年 4月 2日:浜松支店及び小倉支店
(25) 平成24年 5月 1日:丸の内支店
(26) 平成24年 6月 5日:新宿支店
(27) 平成24年 8月 1日:和歌山支店
(28) 平成24年 9月20日:奈良支店
(29) 平成24年10月10日:水戸支店
(30) 平成24年10月23日:福山支店
(31)及び(32)
平成24年11月 7日:岐阜支店及び大宮支店
(33)及び(34)
平成24年11月13日:岡山支店及び長岡支店
(35) 平成24年12月 1日:姫路支店
(36) 平成24年12月20日:四日市支店
(平成25年設置分:22個)
(37)ないし(39)
平成25年 1月 7日:函館支店,釧路支店及び旭川支店
(40) 平成25年 1月28日:岡崎支店
(41) 平成25年 1月24日:佐賀支店
(42)ないし(44)
平成25年 2月 4日:堺支店,徳島支店及び草津支店
(45) 平成25年 4月22日:静岡支店
(46) 平成25年 5月23日:熊本支店
(47) 平成25年 6月18日:沖縄胡屋支店
(48)及び(49)
平成25年 7月 1日:長崎支店及び佐世保支店
(50) 平成25年 7月30日:八戸支店
(51) 平成25年 8月12日:松山支店
(52)及び(53)
平成25年 9月26日:福島支店及び郡山支店
(54) 平成25年 9月26日:盛岡支店
(55)ないし(58)
平成25年10月18日:長野支店,松本支店,川崎支店及び高崎支店
(平成26年設置分:0個)
(平成27年設置分:13個)
(59) 平成27年 4月10日:苫小牧支店
(60) 平成27年 5月 1日:久留米支店
(61) 平成27年 6月 1日:なんば支店
(62)及び(63)
平成27年 7月22日:横須賀支店及び船橋支店
(64) 平成27年 8月11日:柏支店(平成29年2月1日移転)
(65)ないし(67)
平成27年 9月18日:三重支店,豊橋支店及び都城支店
(68)ないし(70)
平成27年10月 8日:上越支店,川越支店及び大分支店
(71) 平成27年12月15日:倉敷支店
(平成28年設置分:4個)
(72)及び(73)
平成28年 3月22日:山形支店及び酒田支店
(74) 平成28年 5月13日:帯広支店
(75) 平成28年 6月 1日:一宮支店
(平成29年設置分:10個)
(76)及び(77)
平成29年 2月10日:甲府支店及び宮崎支店
(78) 平成29年 6月 1日:秋田支店
(79) 平成29年 6月13日:高知支店
(80)及び(81)
平成29年 7月 1日:松江支店及び鳥取支店
(82) 平成29年 7月18日:下関支店
(83)ないし(85)
平成29年 9月 1日:枚方支店,豊中支店及び福井支店

4 アディーレ及びそのグループ法人
    平成31年4月現在,国税庁法人番号公表サイトで「アディーレ」と検索すれば,以下の5法人が出てきます。
① 弁護士法人アディーレ法律事務所(法人番号は9013305001034)
 東京都豊島区東池袋3丁目1番1号サンシャイン60
② 税理士法人アディーレ会計事務所(法人番号は6013305002282)
 東京都豊島区東池袋3丁目1番1号サンシャイン60
③ 株式会社アディーレ不動産事務所(法人番号は1021001054437)
 東京都港区虎ノ門1丁目11番5号
④ 株式会社アディーレ・リーガルサポート(法人番号は3012801009083)
東京都立川市曙町2丁目8番3号
⑤ アディーレプランニング株式会社(法人番号は2430001075277)
北海道札幌市中央区北四条西25丁目1番3-302号

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・ 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)

弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)

目次
1 東京弁護士会の綱紀・懲戒の手続
2 アディーレと東京弁護士会との関係等
3 アディーレの景品表示法違反(有利誤認)
4 アディーレに対する懲戒処分
5 東京弁護士会の会長談話及び懲戒処分の公表
6 アディーレの説明書面
7 日弁連懲戒委員会の裁決
8 2020年6月11日付の酒井将弁護士の陳述書の記載
9 参考となる外部HP
10 関連記事その他

1 東京弁護士会の綱紀・懲戒の手続
(1)ア   東京弁護士会の綱紀・懲戒の手続については,東弁リブラ2010年7月号「綱紀・懲戒-綱紀委員会から7つのメッセージ- 総論:綱紀・懲戒制度の概要」が非常に参考になります。
イ 7つのメッセージは以下のとおりです。
① 委任契約書の作成など-形で伝え合うことの大切さ
② 預り金に関して
③ 準備書面等を書くにあたって
④ 「自力救済」-意識してますか
⑤ 利益相反・中立義務違反について
⑥ 債務整理事件の処理について
⑦ 刑事弁護を巡るトラブルについて
(2)   平成22年7月現在,東京弁護士会の綱紀委員会は弁護士委員が100人,外部委員が9人の合計109人であり,懲戒委員会は弁護士委員8人,外部委員7人の合計15人です。
   綱紀委員会では,弁護士委員は原則として3名1組の調査部を構成していますし,弁護士委員には若手も多数います。
   懲戒委員会の弁護士委員はベテランがほとんどです。
(3) 東弁リブラ2010年7月号「綱紀・懲戒-綱紀委員会から7つのメッセージ- 総論:綱紀・懲戒制度の概要」1頁目には以下の記載があります。
   弁護士を懲戒することができるのは,当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会のみです。
   弁護士の懲戒制度における大きな特長であり,いわゆる弁護士自治の中核をなすものです。このように他に類例のない制度であるだけに,しばしば「かばいあい」「なれあい」などのいわれのない非難が寄せられますが,実際には厳正に運用されており,この点は綱紀委員会(以下,東京弁護士会綱紀委員会のことを「当委員会」といいます。一般に綱紀委員会を指すときは「綱紀委員会」といいます。)や懲戒委員会の外部委員(裁判官,検察官,学識経験者から選出された委員)からも評価されているところです。

2 アディーレと東京弁護士会との関係等
(1) アディーレの代表弁護士であった石丸幸人弁護士(56期)は,平成21年度東京弁護士会会長選挙に立候補したものの,落選しました。
(2) 東京弁護士会は,アディーレに対し,平成22年10月5日,破産手続の申立て遅滞等を理由に戒告の懲戒処分を出しました(弁護士自治を考える会HPの「弁護士法人アデーレ法律事務所の懲戒処分の要旨」参照)。
(3)ア アディーレ所属の弁護士であった赤瀬康明弁護士(新64期)は,平成27年度東京弁護士会副会長選挙,及び平成28年度東京弁護士会副会長選挙に立候補したものの,落選しました(外部HPの「「任意加入制」提案,東弁副会長候補出馬という「始まり」」,及び外部ブログの「東京弁護士会会長選挙における「理念なき立候補者」へ」参照)。
イ 赤瀬康明弁護士は,平成28年度副会長選挙の選挙公報で以下のとおり記載していたみたいです(外部ブログの「東京弁護士会会長選挙における「理念なき立候補者」へ」参照)。

   昨年度の副会長選挙では私が掲げたマニフェスト以前に、私の立候補には「理念がない」とのお声をいただきました。
   その声がいう「理念」とはなんでしょうか?
   「理念」という言葉をひとり歩きさせ、何も動かないことでしょうか?
   その声がいう「理念」が、東京弁護士会の会員の方を満足させたのでしょうか?
   私に「理念」があるとしたら、ただひとつ。それは、「実際に決断・実行し、東京弁護士会の会員にとって東京弁護士会をより魅力的な会にすること」です。
   東京弁護士会にとってお客様はだれでしょうか?
   誰のお金によって運営できているのでしょうか?
   いうまでもなく、東京弁護士会に所属する会員こそが「お客様」であるはずです。
   他の誰でもなく、会員の方こそが会費を支払っているのです。
   もう一度、皆様にお尋ねします。
   今の弁護士会のあり方や活動に本当に満足していますか?

   今の弁護士会の活動はあなたの意志を本当に反映していますか?

(4) アディーレは,司法修習生向けの合同就職説明会への参加を拒否されたことを理由に,東京弁護士会に対して損害賠償請求訴訟を提起していましたが,東京地裁平成29年2月10日判決で敗訴しました(弁護士自治を考える会HPの「アディーレ法律事務所が敗訴 東京地裁,就職説明会拒否は「合理的」」参照)。
(5) 東京弁護士会綱紀委員会は,平成29年4月3日までに,アディーレについて懲戒審査相当とする議決を出しました(産経ニュースHPの「「今だけ無料」処分…アディーレ法律事務所、代表弁護士ら「懲戒審査相当」 東京弁護士会などの綱紀委議決」参照)。

3 アディーレの景品表示法違反(有利誤認)
(1)   アディーレは,平成27年10月22日,新聞の広告欄及び自社のHPに掲載した「お詫びとお知らせ」において,「平成27年9月1日から返金保証キャンペーンを廃止し、着手金の返金保証などの上記各サービスを、期間を限定しないで実施する恒常的なサービスへと改めました。期間限定であると誤認されて返金保証キャンペーンにお申し込みをされた方で、ご依頼の解除を希望される場合には、契約を解除させていただいたうえで、無条件に着手金全額をお返しさせていただきます。」と表明しました(国民生活センターHPの「弁護士法人アディーレ法律事務所「債務整理に係る事務【誇大表示・広告に関するお知らせ・返金】」参照」)。
(2) 消費者庁は,アディーレに対し,平成28年2月16日,債務整理・過払い金返還請求に係る役務について,景品表示法に違反する行為(有利誤認)を行わないように命じる措置命令を出しました(消費者庁HPの「弁護士法人アディーレ法律事務所に対する景品表示法に基づく措置命令について」参照)。
(3)ア 消費者庁HPの「景品表示法違反行為を行った場合はどうなるのでしょうか?」には以下の記載があります。
    景品表示法に違反する不当な表示や、過大な景品類の提供が行われている疑いがある場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められた場合は、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」を行います。違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は指導の措置が採られます。
   また、事業者が不当表示をする行為をした場合、景品表示法第5条第3号に係るものを除き、消費者庁は、その他の要件を満たす限り、当該事業者に対し、課徴金の納付を命じます(課徴金納付命令)。
イ アディーレに対する懲戒処分からすれば,弁護士法人の場合,消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けることは,弁護士法人の存亡に直結する大問題になる可能性がある気がします。
(4) 消費者庁HPの「景品表示法」「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表」(平成29年10月18日掲載)が載っています。
   これによれば,景品表示法7条に基づく措置命令(平成21年8月末日までは公正取引委員会による排除命令)の件数の推移は以下のとおりです。
平成19年度:56件,平成20年度:52件,平成21年度:12件
平成22年度:20件,平成23年度:28件,平成24年度:37件
平成25年度:45件,平成26年度:30件,平成27年度:13件
平成28年度:27件
(5) アディーレは,平成28年4月施行の改正景表法が定める課徴金相当額の約6億6500万円を公益財団法人に寄付しました(産経ニュースHPの「アディーレ「手段の悪質性際立つ」と認定 東京弁護士会の懲戒委員会 処分理由の詳細判明」参照)。
(6) 平成29年10月26日付の消費者庁の行政文書不開示通知書によれば,「消費者庁が景品表示法違反を理由に措置命令を出した結果,対象となった事業所が倒産した事例に関して消費者庁が作成し,又は取得した文書(直近のもの)」は存在しません。

4 アディーレに対する懲戒処分
(1)ア ライフアンドマガジン株式会社HP「アディーレ業務停止2か月の衝撃 大規模法人への業務停止で一体,何が起こったか!?」が載っています。
イ 東京弁護士会は,アディーレに対し,平成29年10月11日,景品表示法の有利誤認表示に該当する業務広告を約4年10か月間出していたことを理由に,業務停止2ヶ月の懲戒処分を出しました(NAVERまとめの「アディーレ法律事務所が懲戒処分&業務停止に 原因をまとめてみた ブラマヨのCMは中止か?」参照)。
ウ 景品表示法に違反する業務広告を出すことは,弁護士の業務広告に関する規程3条6号の「法令又は本会若しくは所属弁護士会の会則及び会規に違反する広告」に該当する結果,懲戒理由となります(東弁リブラ2017年3月号「若手セミナー 効果的な広告戦略と落とし穴」12頁(PDF11頁))。
(2) 弁護士自治を考える会HPの「弁護士法人アデーレ法律事務所 業務停止2月混乱する裁判所・東弁が事件を引き継ぎ、一弁、二弁、神奈川指くわえて見てるだけ! 」には以下の記載があります(業務停止1月の場合でも,顧問契約は解除する必要があります。)。
① 懲戒請求者はアデーレの支店がある全国の弁護士会に懲戒申し立てをしました。各弁護士会の綱紀委員会の多くは懲戒請求を棄却をしています。棄却の理由は地方ではテレビCMがあまり放送されていないから影響はないという理由です。
② 綱紀委員会が「懲戒相当」と議決したのは、「東京」「神奈川」「札幌」「兵庫」「愛知」です。東京弁護士会以外は現在、懲戒委員会で懲戒処分の審議をしています。
③ 業務停止1月と業務停止2月以上ではまったく違います。業務停止1月では、受任中の事件は辞任することはありません。
④ 神奈川県弁護士会は綱紀委員会で「懲戒相当」と議決しましたが懲戒委員会で「処分なし」にしました。
(3) アディーレは,「依頼者の皆さまに多大なご迷惑をおかけし深くおわび申し上げます。もっとも、事務所の存亡にかかわる業務停止処分を受けることは、行為と処分の均衡を欠くものと考えています」というコメントを出し,日本弁護士連合会に処分についての審査などを求めるとしています(NHK NEWS WEBの「アディーレ法律事務所に東京弁護士会が業務停止処分」(2017年10月11日20時53分)参照)。
(4)ア 寺林智栄弁護士のブログの「実はけっこう奥深い,弁護士業務広告の世界。」には以下の記載があります。
① 東弁での実情からすると、広告規程違反(いわゆる形式犯)の情報提供自体はあまりなくて、実質的な非行が伴っているケースの情報提供がほとんどとのことです(**センターの表示が、実際に非弁提携を伴うケースもあるようです)。
② いわゆる「形式犯」についての多くは、会の方から「ここまずいよ、直しなさい」という指示が飛んで来た場合にきちんと対応していれば、大事にはならないようで、そういう意味でいうと、広告規制について、あまり過度に恐怖心を感じる必要もないのかな、と思っています。
イ 私は,弁護士法人又は法律事務所のHPが広告規程に違反することだけを理由として,戒告等の懲戒処分がなされた前例は知りません。
   ただし,HPの広告記載が一因となった事例として,平成20年10月6日付で大阪弁護士会が戒告を行った事例(自由と正義2009年2月号135頁及び136頁)はあります。
(6) アディーレに対する懲戒請求は,弁護士自治を考える会が行ったみたいですが,懲戒請求者は,「大半が門前払いだったし、もともと戒告が出れば上出来だと思っていたのに、東京弁護士会が突然重い処分を下したのでびっくりした」と話しているそうです(東洋経済オンラインの「誰がアディーレを業務停止に追い込んだのか 懲戒請求者も驚愕,重すぎる「業務停止2ヶ月」」参照)。
(7) アディーレは,景表法違反の広告を中止した後の平成28年に山形支店,酒田支店,帯広支店及び一宮支店を開設し,平成29年に甲府支店,宮崎支店,秋田支店,高知支店,鳥取支店,松江支店,下関支店,豊中千里中央支店,枚方支店及び福井支店を開設しました。
   そのため,これらの支店は,アディーレの景表法違反とは何ら関係がないと思いますが,それにもかかわらず,これらの支店も含めて東京弁護士会によって業務停止処分が下されました。


5 東京弁護士会の会長談話及び懲戒処分の公表
(1) 会長談話
東京弁護士会HPに掲載されている「弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話」(2017年10月11日付)は以下のとおりです。
   ただし,「消費者庁より広告禁止の措置命令を受けました」と書いてあるものの,消費者庁は,アディーレに対し,景表法に違反する広告を出すことを禁止したにすぎず,広告を出すこと自体は禁止していないと思います。

2017年10月11日

東京弁護士会 会長 渕上 玲子
   本日、東京弁護士会は、弁護士法第56条に基づき、弁護士法人アディーレ法律事務所に対し業務停止2月、元代表社員の弁護士石丸幸人会員に対し業務停止3月の懲戒処分をそれぞれ言い渡しました。
   同弁護士法人は、広告表示が改正前不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)の有利誤認表示に該当したとの理由で、消費者庁より広告禁止の措置命令を受けましたところ、この度、当会は、同弁護士法人の広告行為が景表法に違反し、かつ日本弁護士連合会の弁護士等の業務広告に関する規程等にも抵触するものであり、弁護士法人として品位を失うべき非行であると判断し、上記のとおりの懲戒処分を申し渡しました。
   同弁護士法人の広告表示は、債務整理・過払金返還請求に係る役務を一般消費者に提供するにあたり、実際の取引条件よりも有利であると一般消費者を誤認させ、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある極めて悪質な行為であり、しかも、長期間にわたって多数回反復継続されている組織的な非行と言わざるを得ません。
   当会は、このような事態が生じたことを重く受け止め、今後も、市民の弁護士会に対する信頼を確保するために、弁護士や弁護士法人の非行の防止に努めるとともに、非行に対しては厳正に対処して参ります。
   なお、同弁護士法人の依頼者の方が多数おられることから、下記のとおり臨時電話相談窓口を設け、依頼者からのご相談に応じております。

臨時電話相談窓口 電話 03-6257-1007
(受付時間は午前9時から午後5時まで、土日祝日を除く)
(2) 懲戒処分の公表
   東京弁護士会HPに掲載されている「懲戒処分の公表」は以下のとおりです。
 本会は下記会員に対して,弁護士法第57条に定める懲戒処分をしたので,お知らせします。

被 懲 戒 者  石丸幸人(登録番号30934)
                         弁護士法人アディーレ法律事務所(届出番号167)
登録上の事務所   東京都豊島区東池袋3-1-1サンシャイン60
懲戒の種類   石丸 幸人                         業務停止3月
                         弁護士法人アディーレ法律事務所   業務停止2月
効力の生じた日   2017年10月11日

懲 戒 理 由 の 要 旨
   被懲戒者石丸幸人(以下「被懲戒者石丸」という。)は,被懲戒者弁護士法人アディーレ法律事務所(以下「被懲戒者法人」という。)の元代表社員である。
   被懲戒者法人は,被懲戒者石丸の指示を受けて,被懲戒者法人ウェブサイトにおいて,債務整理,過払金返還請求について,それぞれ,約1か月ごとの期間を限定して,
(1)平成22年10月6日から同25年7月31日まで,過払金返還請求の着手金を無料又は値引きする,
(2)平成25年8月1日から同26年11月3日まで,借入金の返済中は過払金診断を無料とする,過払金返還請求の着手金を無料又は値引きする,
(3)平成26年11月4日から同27年8月12日まで,契約から90日以内に契約の解除をした場合に着手金全額を返還する,借入金の返済中は過払金診断を無料とする,過払金返還請求の着手金を無料又は値引きする,との広告を継続して行い,改正前不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)第4条第1項第2号の有利誤認表示をした。
   これは,景表法,日本弁護士連合会の弁護士等の業務広告に関する規程等に違反するものであり,弁護士法第56条第1項の品位を失う非行に該当する。
2017年10月11日
東 京 弁 護 士 会
会 長 渕 上 玲 子
(3) その他
ア   東京弁護士会が最高裁判所に対して送付した,平成29年10月11日付の「懲戒処分の通知及び懲戒処分の公表について」を掲載しています。
イ 最高裁判所が,平成29年10月11日付で全国の高等裁判所事務局長に対して送付した,弁護士法人等の懲戒処分(業務停止)について(事務連絡)を掲載しています。


6 アディーレの説明書面
(1) アディーレは,依頼者に対し,平成29年10月13日付で以下の文面の書面を発送したみたいです(外部HPの「アディーレ法律事務所より書面が届きました!契約解除上等!委任契約解除上等!」及びツイッター画像参照)。
(以下引用)

弁護士会からの業務停止処分についてのお詫びと契約解除のお知らせ
謹啓
   皆様におかれましては,時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
   平素は格別のお引き立てを賜り,厚く御礼申し上げます。

   さて,既に報道等でご承知のことと存じますが,平成29年10月11日に,東京弁護士会より,当事務所および当事務所社員弁護士石丸幸人が,業務停止処分を受けております。折角ご依頼頂いたにもかかわらず,ご迷惑,ご心配をお掛けし,深くお詫び申し上げます。
   このたびの処分につきましては,平成28年2月16日に消費者庁より受けた,景品表示法違反による措置命令と同様の理由での処分となります。
   今回の業務停止により,平成29年10月11日から同年12月10日までの間,弁護士法人としての業務を停止しなければならなくなっています。
   そのため,大変申し訳ございませんが,本書面をもって,当事務所(契約書上に記入のある共同受任の個人受任弁護士,司法書士を含む)との委任契約を解除させていただきます。
   ご依頼者様には,順次,事件の内容及び進捗状況に応じたご案内書面を送付致しますので,今しばらくお待ちいただきますよう,お願い申し上げます。

   なお,当事務所との委任契約を解除した後のご来社様の委任事件に関するご対応については,下記のいずれかから選択して頂くこととなります。
① ご依頼者様ご本人で対応していただく。
② 他の事務所の弁護士の先生に新たに委任いただく。
③ 弊事務所の弁護士(弊事務所所属の弁護士のうち,責任のある弁護士とご契約いただくことを予定しております。)に個人として委任契約を締結していただく。

   上記①,②の場合には,当事務所より,ご依頼者様ないし新規受任の先生に案件及び資料等を引継がせていただきます。
   上記の③の場合には,ご依頼者様が個人の弁護士に依頼されるという意思を明らかにした書面をいただくことになりますので,予めご承知おきください。
   順次行わせて頂く個別のご連絡の際に,上記について詳細をご案内させていただき,意思確認をさせていただきたいと存じますので,何卒宜しくお願い致します。

   このたびは,ご依頼者様の皆さまに多大なるご迷惑をお掛けしますことを重ねてお詫び申し上げます。
謹白
(2)ア アディーレの平成29年10月13日付の書面には委任契約を解除すると書いてあるものの,支払済みの着手金,預り金及び概算実費の清算方法については言及されていません。
   そもそも,弁護士は,委任の終了に当たり,委任契約に従い,金銭を清算したうえ,預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければなりません(弁護士職務基本規程45条)。
イ   受任者であるアディーレは委任事務を履行しない限り報酬を請求できませんし(民法648条2項),委任契約の終了に帰責事由があるため履行の割合に応じた報酬請求権を有しないかもしれません(民法648条3項反対解釈)。
   そのため,アディーレが途中まで担当していた訴訟を別の弁護士が引き継いだ場合,アディーレは元依頼者に対し,履行の割合に応じた成功報酬金を請求することもできないかも知れません。


7 日弁連懲戒委員会の裁決
 自由と正義2018年5月号108頁に掲載された日弁連懲戒委員会の裁決(平成30年3月15日発効)の「理由の要旨」は以下のとおりであり,弁護士法人アディーレに対する業務停止2月は維持され,石丸幸人弁護士に対する業務停止3月は業務停止2月に変更されました。
(1) 審査請求人に係る本件懲戒請求事件につき、東京弁護士会(以下「原弁護士会」という。)の認定した事実及び判断は、原弁護士会懲戒委員会の議決書(以下「原議決書」という。)に記載のとおりであり、原弁護士会は前記認定と判断に基づき、審査請求人を業務停止3月の処分に付した。
(2) 日本弁護士連合会懲戒委員会(以下「当委員会」という。)が、審査請求人から当委員会に新たに提出された証拠も含め審査したところ、①本件広告は、その掲示期間が約4年10か月と長期間であり、広告対象地域も全国に及び、広告期間中の対象業務の売上高(弁護士報酬)も高額であることが認められ、本件広告の規模及び社会的影響は軽微とはいい難いこと、②本件広告が不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)に違反することは容易に認識し得たと考えられるところ、本件広告は効果があれば継続する意図の下で58回にわたって更新掲示されており、遵法意識の希薄さ及び不注意の程度は軽微とはいい難いこと、③本件広告により損害を受けた顧客の存在が顕在化しない場合でも、景表法の保護する公益(一般消費者の利益の保護)は大きく損なわれたと考えられること等を考慮すると、審査請求人が平成24年7月に弁護士法人アデイーレ法律事務所(以下「弁護士法人アデイーレ」という。)代表社員を退いていたこと及び弁護士法人アディーレが公益目的の高額寄付を行ったこと等を考慮しても、審査請求人と弁護士法人アデイーレに対し、それぞれ業務停止2月の処分はやむを得ないところである。原弁護士会は、本件において審査請求人に対し業務停止3月、弁護士法人アディーレに対し業務停止2月の処分をそれぞれ付している。しかし、当委員会は、本件における両者の責任の程度は同等と判断する。
(3) なお、審査請求人は、審査請求人の業務停止処分に伴う弁護士法人アデイーレからの法定脱退(弁護士法第30条の22第6号)による課税問題が危倶されるので、業務停止処分は著しく重い不当な処分であり、戒告に変更すべきであると主張する。この点は、処分の相当性の判断にあたって考慮されるべき事由の一つであるが、当委員会は、この点を考慮しても戒告は不相当であり、業務停止2月の処分はやむを得ないと判断する。
(4) 以上のとおり、審査請求人を業務停止3月とした原弁護士会の判断は重きに失し、これを業務停止2月に変更するのが相当である。

8 2020年6月11日付の酒井将弁護士の陳述書の記載
(1)ア 2020年6月11日付の酒井将弁護士の陳述書21頁及び22頁には以下の記載があります。
 2017年10月12日に、アディーレが景表法違反の件で業務停止2月の懲戒処分を受けて、数万人の依頼者の案件を全件解除させられるというニュースが流れました。また、友人の弁護士から、東弁懲戒委員長の◯◯◯弁護士(山中注:リンク先では実名です。)が、アディーレの量刑について、「アディーレが東京弁護士会を訴えたこと等、これまでにたくさんの『気に食わないこと』があった」ので、これらを他事考慮して業務停止2月を選択したと述べていたことなどを聞かされました(審乙14)。そして、前述のとおり、東弁の執行部は、当法人が新宿事務所から代理権超え案件を買い取ったことを前提にしており、当法人を一罰百戒に処す意図があると聞いていたことや、東弁の執行部の弁護士たちが「A(アディーレ)の次は、B(ベリーベスト)だ。」などと述べて、当法人が業務停止以上の重い処分を受けることがもはや既定路線であるかのような話がなされていると耳にしたのでした。
イ アディーレは,「所属弁護士会の秩序又は信用を害したとき」(弁護士法56条1項)に該当することをも考慮して,業務停止2月になったのかも知れません。
(3) 弁護士法人ベリーベスト法律事務所,弁護士酒井将及び弁護士浅野健太郎に対する懲戒処分(業務停止6月)の審査請求事件に関して開設された,「非弁提携を理由とする懲戒請求について」と題するHPに色々な資料が載っています。


9 参考となる外部HP
(1) アディーレHP
・   アディーレは,平成29年10月19日,「弁護士会からの業務停止処分についてのお詫びと契約解除の状況に関してのご案内」を自社HPに掲載しました。
(2) 東京弁護士会HP
 「弁護士法人アディーレ法律事務所に関してお寄せいただくご質問とその回答について」(平成29年10月20日付)が載っています。
(3) ネットメディア
・   ライブドアニュースの「アディーレ法律事務所が業務停止処分 数万人の依頼者はどうなる?」には,「依頼者はのべ5万人超、最大で10万人前後になる可能性」と書いてあります。
・ exciteニュースに「「アディーレ法律事務所」が大ピンチ 業務停止処分は妥当なのか?」が載っています。
・ ダイヤモンドオンラインに「「アディーレは弁護士ムラの掟を踏みにじった」懲戒処分の舞台裏」(平成29年12月7日)が載っています。
(4) 弁護士のHP
・ 福岡の家電弁護士のブログに「アディーレ法律事務所の法人が業務停止処分→依頼者が注意すべきこと」が載っています。
・ 法律事務所ホームワンHPに「アディーレ法律事務所の業務停止についてのよくある質問」が載っています。
・ 古賀克重法律事務所ブログ(福岡県弁護士会所属)に「弁護士法人アディーレに関する無料電話相談を担当した雑感」が載っています。
・ 弁護士法人岩田法律事務所HPに「アディーレショック」が載っています。

10 関連記事その他
(1) 自由と正義2018年12月号64頁に載ってある,大阪弁護士会の業務停止3月(平成30年9月12日発効)の「処分の理由の要旨」は以下のとおりです(「【弁護士】◯◯ ◯◯ 大阪:業務停止3月」(リンク先の記事は実名です。)参照)。
① 被懲戒者は、懲戒請求者株式会社AからB株式会社の懲戒請求者A社らに対する所有権移転登記手続等を求める訴訟等への対応につき受任し、2014年12月5日に成立した訴訟上の和解に基づきB社に支払うために懲戒請求者A社から合計6460万円の送金を受けたが、B社が代理人弁護士を解任していたため、上記和解の条項にのっとって支払をすることができず、上記金6460万円を預かったままとなっていたところ、2015年7月17日に懲戒請求者A社が被懲戒者に対し一切の委任契約の解除を申し入れ、被懲戒者がこれに同意した後、明確な報酬合意がないにもかかわらず、弁護士報酬等との相殺を一方的に主張して上記6460万円を懲戒請求者A社に返還しなかった。
② 被懲戒者は、C株式会社が懲戒請求者A社に対して提起した訴訟において、C社の要請に応じて、被懲戒者が懲戒請求者A社の代理人として活動してきた経過や職務上知り得た事実をかなり詳細に記載した陳述書を2016年10月26日付けで作成し、C社はこれを証拠として裁判所に提出した。
③ 被懲戒者の上記①の行為は弁護士職務基本規程第45条に、上記②の行為は同規程第23条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(2) 「内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」と定める景表法7条1項は憲法21条1項及び22条1項に違反しません(最高裁令和4年3月8日判決)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 平成29年10月当時の,弁護士法人アディーレ法律事務所の状況
・ 弁護士の懲戒処分と取消訴訟
・ 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
・ 弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
・ 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)

弁護士法人の懲戒事例

〇平成29年12月現在,官報情報検索サービス(有料版)において「処分を受けた弁護士法人」というキーワードで検索すれば判明しますところ,弁護士法人の懲戒事例は以下のとおり合計10件です。
〇弁護士法人に対する業務停止以上の懲戒処分は,①平成23年1月12日付の業務停止1月(東弁),②平成23年7月6日付の業務停止1年(東弁),③平成23年11月8日付の除名(東弁),④平成29年8月31日付の業務停止1年6月(福岡弁)及び⑤平成29年10月11日付の業務停止2月(東弁)の合計5件です。
また,これらのうち,その他の法律事務所があった弁護士法人は,弁護士法人アディーレ法律事務所だけです。

1 平成22年10月5日付で東京弁護士会で「戒告」となった,弁護士法人アディーレ法律事務所(その他の法律事務所は立川支店,那覇支店,名古屋支店,札幌支店,仙台支店及び大阪支店)の懲戒行為の内容(自由と正義2011年1月号152頁)
① 被懲戒弁護士法人は,2006年11月6日有限会社Aの破産申立事件並びに同社の代表者B及び取締役Cの破産申立事件及び免責申立事件を受任した。
ところが,被懲戒弁護士法人は,その後,A社の財産を保全する義務を怠り,また速やかに破産申立てをなすべき義務を懈怠し,これにより破産申立時において破産財団を構成すべき約587万円の財産を消失させた。
② 被懲戒弁護士法人は,2005年12月2日,有限会社Dの破産申立事件並びに同社の代表者Eの破産申立事件及び免責申立事件を受任した。
ところが,被懲戒弁護士法人は,D社の財産を保全すべき義務を懈怠し,D社の財産の管理一切を安易にEに任せ,債権者への偏波弁済を許し,その結果,破産申立時までに,約650万円の財産を不当に消失させた。
③ 被懲戒弁護士法人は,2005年12月2日にD社らの破産申立事件を受任してから,2008年1月7日にD社らの破産申立てをするまでの間,合理的理由が存在しないにもかかわらず,2年以上,破産申立てをせず,これにより破産管財人による偏波弁済の否認権行使が妨げられて破産財産に損害を及ぼした。
④ 被懲戒弁護士法人は,D社から同社の破産申立事件を受任してその業務を行っているにもかかわらず,その後,2007年1月13日,D社の債権者であるF株式会社から破産申立事件を受任し,F社がD社の債権者であることを知り,さらにF社がD社から偏波弁済を受けていたことを知ってからもなおF社の破産申立事件に係る業務を行った。
⑤ 被懲戒弁護士法人は,2007年1月13日,F社及び同社の代表者Gら合計4名の破産申立事件を受任した。
ところが,被懲戒弁護士法人は,財産の保全も含めた破産申立事件の受任者としてなすべき業務遂行を懈怠し,これにより約350万円の財産を消失させた。

2 平成23年1月12日付で東京弁護士会で「業務停止1月」となった,弁護士法人かすが総合(その他の法律事務所はありません。)の懲戒行為の内容(自由と正義2011年4月号156頁)
被懲戒弁護士法人は,懲戒請求者から損害賠償請求の示談交渉を受任していたにもかかわらず,懲戒請求者の母Aの依頼を受け,懲戒請求者及びAの同意を得ないまま,2007年8月17日付けで懲戒請求者に対する遺留分減殺請求の通知を行い,引き続き,調停の申立て,訴訟の提起等の法的措置を採った。

3 平成23年3月7日付で大阪弁護士会で「戒告」となった,弁護士法人協立法律事務所(その他の法律事務所はありません。)の懲戒行為の内容(自由と正義2011年6月号140頁)
① 被懲戒弁護士法人は,民事再生手続を取り扱わない方針をとっていたにもかかわらず,その断りを入れず,2006年頃,スポーツ新聞等に多重債務問題の適切な解決を行う旨の広告をした。
② 被懲戒弁護士法人は,無資格者である事務職員が弁護士の関与なく法律相談を行わないよう指導監督する義務があるにもかかわらず,これを怠り,その結果,2006年12月15日,事務職員が弁護士の関与なく懲戒請求者に対して法律相談を行った。

4 平成23年7月6日付で東京弁護士会で「業務停止1年」となった,弁護士法人片山会(その他の法律事務所はありません。)の懲戒行為の内容(自由と正義2011年10月号107頁)
①   被懲戒弁護士法人は,2009年1月21日にAから受任した任意整理事件について,委任契約締結前及び締結後のいずれにおいても,Aとの対応を専ら被懲戒弁護士法人の事務職員に行わせた。
② 被懲戒弁護士法人は,Aからの依頼が,弁護士法第72条に違反することが疑われるBからの事件紹介によるものであって,受任にあたり,Bの同条違反の疑いの有無及び紹介の手続について事務職員から事情を聴取するなどの調査をすべきであったが,これを怠った。

5 平成23年11月8日付で東京弁護士会で「除名」となった,弁護士法人公尽会(その他の法律事務所はありません。)の懲戒行為の内容(自由と正義2012年2月号107頁)
被懲戒弁護士法人は,2007年10月22日ころ,懲戒請求者から1000万円の連帯保証債務についての債務整理を受任した。被懲戒弁護士法人は,懲戒請求者から少なくとも670万円を預かったが,委任された事件を放置し,2009年3月25日付けで辞任するにあたり,懲戒請求者に対し事件処理の状況及び結果の説明をせず,預り金の清算を怠った。また,被懲戒弁護士法人は,事務職員が法律事務を取り仕切っていることを認識しながら,これを放置し,黙認していた。

6 平成28年12月7日付で千葉県弁護士会で「戒告」となった,弁護士法人ひいらぎ綜合法律事務所(主たる法律事務所は千葉県から福岡県に移転。その他の法律事務所は小倉支店)の懲戒行為の内容(自由と正義2017年4月号78頁及び79頁)
被懲戒弁護士法人は,2011年7月29日の設立後,2013年2月21日に従たる法律事務所を設けるまでの間,所属弁護士は代表弁護士Aの1名であったところ,2011年10月頃,懲戒請求者から被懲戒弁護士法人の当時の主たる法律事務所に依頼したい旨の電話による申入れを受けて債務整理事件を受任したが,受任に際し,代表弁護士Aは,自ら面談をして事情聴取や説明等を行わない特段の事情があるとは認められないにもかかわらず,懲戒請求者と面談をして事情聴取をせず,懲戒請求者に対し,事件処理方針等及び不利益事項について説明をせず,また,上記事件の相手方である貸金業者との間で同年12月28日に若い所に調印したところ,調印までの間に,懲戒請求者に対し,過払金の計算結果の報告をせず,和解をすることや和解条件について説明をして協議をしなかった。

7 平成29年2月10日付で東京弁護士会で「戒告」となった,弁護士法人十枝内総合法律事務所(その他の法律事務所は十和田支所)の懲戒行為の内容(自由と正義2017年6月号126頁)
被懲戒弁護士法人は,懲戒請求者から離婚等請求事件,離婚等反訴控訴事件等を受任していたところ,控訴審裁判所からいずれも棄却する旨の判決が言い渡され,2014年5月4日に懲戒請求者から上告及び上告受理申立事件を受任したにもかかわらず,同月7日の上告期限までに上告等の手続を行わなかった。

8 平成29年3月28日付で新潟県弁護士会で「戒告」となった,弁護士法人美咲総合法律税務事務所(その他の法律事務所はありません。)の懲戒行為の内容(自由と正義2017年7月号87頁)
被懲戒弁護士法人は,戸籍法及び住民基本台帳法により弁護士に認められた業務を遂行するために必要があるとは認めることができないにもかかわらず,2013年5月15日に懲戒請求者を筆頭者とする戸籍の付票の写しについて,2014年1月14日に懲戒請求者を筆頭者とする戸籍の付票の写し及び戸籍謄本について,それぞれ職務上請求を行い,職務上請求書の利用目的欄に,いずれも「売掛金請求」と事実と異なる記載をした。

9 平成29年8月31日付で福岡県弁護士会で「業務停止1年6月」となった,弁護士法人北斗(その他の法律事務所はありません。)の懲戒行為の内容
→ 平成29年9月20日付の官報掲載分です。
福岡市の弁護士が,破産申立ての依頼者から預かった預かり金を報酬と区別せず,ずさんに管理していたみたいです(弁護士自治を考える会HPの「田畠光一弁護士(福岡)業務停止1年6月懲戒処分 破産事件預り金の管理が不適切」参照)。

10 平成29年10月11日付で東京弁護士会で「業務停止2月」となった,弁護士法人アディーレ(その他の法律事務所は85個)の懲戒行為の内容
→ 「弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分等」を参照してください。

弁護士以外の士業の懲戒制度

目次
0 総論
1 公認会計士及び監査法人の懲戒
2 行政書士及び行政書士法人の懲戒
3 公証人の懲戒
4 司法書士及び司法書士法人の懲戒
5 土地家屋調査士及び土地家屋調査士法人の懲戒
6 税理士及び税理士法人の懲戒
7 社会保険労務士及び社会保険労務士法人の懲戒
8 弁理士及び弁理士法人の懲戒
9 関連記事その他

0 総論
(1) 特許庁HPに「行政庁による士業の懲戒比較表」及び「士業団体による会員の処分比較表」が載っています。
(2) 弁護士の場合と異なり,他の士業の場合,行政庁が懲戒します。
(3) 公証人以外の士業について懲戒事由がある場合,何人でも懲戒請求をすることができます。

1 公認会計士及び監査法人の懲戒

(1) 以下の場合,金融庁長官は,公認会計士又は監査法人について,戒告,2年以内の業務の停止又は登録の抹消(監査法人の場合は解散)の処分を行います(公認会計士法29条各号)。
   また,審判手続を経た上で,公認会計士又は監査法人に対して課徴金納付命令を出すことがあります(公認会計士につき公認会計士法31条の2,監査法人につき公認会計士法34条の21の2)(権限の委任につき公認会計士法49条の4)。
① 公認会計士又は監査法人が虚偽,錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽,錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合(公認会計士法30条)
② 公認会計士が公認会計士法若しくは公認会計士法に基づく命令に違反した場合又は公認会計士法34条の2に基づく指示に従わない場合(公認会計士法31条1項)
③ 公認会計士が著しく不当と認められる業務の運営を行った場合(公認会計士法31条2項)
(2) 何人も,公認会計士に懲戒事由に該当する事実があると思料するときは,金融庁長官に対し,その事実を報告し,適当な措置をとるべきことを求めることができます(公認会計法32条1項)。
(3) 金融庁HPの「「公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方(処分基準)について」(案)に対するパブリックコメントの結果等について」(平成26年3月14日以後の施行分)に処分期順が載っています。
(4)ア 金融庁HPに「課徴金制度について」が載っています。
イ   公認会計士及び監査法人に対する課徴金制度は平成20年4月に導入されました。
(5) 公認会計士ナビに「公認会計士・監査法人の懲戒処分」が載っています。
(6)ア 日本公認会計士協会HPの「懲戒処分の量定に関する考え方の制定について」に,「懲戒処分の量定に関するガイドライン」が含まれています。
イ 平成29年11月1日付の金融庁の行政文書不開示決定通知書によれば,公認会計士の懲戒の手続が書いてある訓令,通達その他の文書は存在しません。
(7) 公認会計士は,その業務を廃止した場合には,その届出に基づいて公認会計士協会が登録を抹消した時に,その地位を喪失します(最高裁昭和50年9月26日判決)。
(8) 計算書類等は各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり(会社計算規則59条3項),会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものです(会社法432条1項参照)(最高裁令和3年7月19日判決)。


2 行政書士及び行政書士法人の懲戒
(1) 行政書士が行政書士法若しくは行政書士法に基づく命令,規則その他都道府県知事の処分に違反した場合,又は行政書士たるにふさわしくない重大な飛行があった場合,都道府県知事は,当該行政書士に対し,戒告,2年以内の業務の停止又は業務の禁止の処分をすることができます(行政書士法14条)。
行政書士法人が行政書士法又は行政書士法に基づく命令,規則その他都道府県知事の処分に違反した場合,又は運営が著しく不当と認められる場合,戒告,2年以内の業務の全部又は一部の停止,解散の処分をすることができます(行政書士法14条の2)。
(2) 何人も,行政書士又は行政書士法人について懲戒事由に該当する事実があると思料するときは,当該行政書士又は当該行政書士法人の事務所の所在地を管轄する都道府県知事に対し,当該事実を通知し,適当な措置をとることを求めることができます行政書士法14条の3第1項)。
(3) 日本行政書士会連合会HPの「綱紀事案の公表」に,都道府県知事による懲戒処分事例及び単位会長による処分事例が載っています。
(4) 総務省HPの「行政書士制度」に,行政書士法14条及び14条の2に基づく処分の状況(つまり,行政書士の懲戒処分の状況)が載っています。
(5) 日本行政書士会連合会HPに「職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則」が載っています。
(6) 大阪府行政書士会HP「内部統制」「職務上請求書の適正な使用について」及び「本会会員の広告に関する運用指針について」が載っています。
(7) 平成29年11月2日付の総務大臣の行政文書不開示決定通知書によれば,行政書士法第14条の3に基づく懲戒の手続が書いてある訓令,通達その他の文書は存在しません。
(8) 行政書士の懲戒に関する文書を以下のとおり掲載しています。
① 行政書士法14条及び14条の2に基づく処分の状況(昭和50年度から平成26年度まで)
② 行政書士法14条及び14条の2に基づく処分の状況(平成27年度)
(9) 攻めと実績の大村法律事務所HP「非弁行為をした行政書士を措置請求」が載っています。
(10)ア 弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為については,弁護士法72条違反の罪が成立します(最高裁平成22年7月20日決定)。
イ 大阪高裁平成26年6月12日判決は以下の判示をしています。
行政書士法一条の二第一項の「権利義務又は事実証明に関する書類」に該当するか否かは,他の法律との整合性を考慮して判断されるべき事柄であり,抽象的概念としては「権利義務又は事実証明に関する書類」と一応いえるものであっても,その作成が一般の法律事務に当たるもの(弁護士法三条一項参照)はそもそもこれに含まれないと解するのが相当である。


3 公証人の懲戒
(1) 公証人が職務上の義務に違反し,又は品位を失墜すべき行為をした場合,法務大臣によって懲戒されます(公証人法79条)ところ,懲戒処分には,譴責,10万円以下の過料,1年以下の停職,転属及び免職があります(公証人法80条)。
(2) 法務大臣が譴責以外の懲戒処分を行う場合,検察官・公証人特別任用等審査会 公証人分科会の議決に基づく必要があります(公証人法81条)。
(3) 法務省HPの「公証制度について」には,「公証人は,取り扱った事件について守秘義務を負っているほか,法務大臣の監督を受けることとされ,職務上の義務に違反した場合には懲戒処分を受けることがあります。」と書いてあります。

4 司法書士及び司法書士法人の懲戒
(1)ア 司法書士が司法書士法又は司法書士法に基づく命令に違反した場合,その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は,当該司法書士に対し,戒告,2年以内の業務の停止又は業務の禁止の処分をすることができます(司法書士法47条)。
   司法書士法人が司法書士法又は司法書士法に基づく命令に違反した場合,その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は,当該司法書士に対し,戒告,2年以内の業務の停止又は解散の処分をすることができます(司法書士法48条)。
イ   何人も,司法書士又は司法書士法人に司法書士法又は司法書士法に基づく命令に違反する事実があると思料するときは,当該司法書士又は当該司法書士法人の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に対し,当該事実を通知し,適当な措置をとることを求めることができます司法書士法49条1項)。
ウ 令和2年8月1日以降,司法書士及び司法書士法人の懲戒権者は法務大臣となりました(「令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料」参照)。
(2)ア 日本司法書士会HPの「綱紀事案公表一覧」に,司法書士の懲戒処分事例が載っています。
イ 月報司法書士2021年4月号に「特集~倫理を学ぶ」が載っています。
(3) 平成29年11月9日付の法務省文書には以下のことが書いてあります。
① 司法書士若しくは司法書士法人又は土地家屋調査士若しくは土地家屋調査士法人(以下「司法書士等」という。)に対する懲戒処分は,司法書士法又は土地家屋調査士法の規定に基づき,法務局又は地方法務局の長が行うものであり,また,懲戒処分書は当該懲戒処分を行う法務局又は地方法務局の長が作成するものであることから,法務本省では,司法書士等に対する懲戒処分書は保有していません。
② 司法書士等の懲戒処分を行った場合,司法書士法又は土地家屋調査士法の規定に基づき,官報に,当該司法書士等の氏名,所属する司法書士会又は土地家屋調査士会,登録番号,事務所の所在地及び違反行為が掲載されることとなりますので,官報情報検索サービスの利用登録をされているか又は官報を購読されていれば,インターネットの「官報情報検索サービス」を利用して,景品表示法を理由に懲戒処分を受けた司法書士等がいるかどうかを確認することができます。
(4) 平成19年5月17日付の「司法書士等に対する懲戒処分に関する訓令」(法務省訓令)を掲載しています。
(5) 司法書士って,どうよ?HP「司法書士の懲戒処分申立」には,以下の記載があります。
    懲戒には3種類あり、軽い懲戒から順に「戒告」「2年以内の業務の停止」「業務禁止」(司法書士法47条)。業務禁止の場合、3年間は司法書士の欠格事由に該当し、司法書士の登録が取り消されます。3年経過後に改めて登録をうけなければならないのですが、難癖をつけられて登録拒否になることが多いらしいです。おかしな話しですが、業務禁止になったら、司法書士として再起できるのぞみは薄く、実質は資格剥奪に近いと聞きます。
(6) 日本司法書士会連合会HP「司法書士に対する苦情」が載っています。


5 土地家屋調査士及び土地家屋調査士法人の懲戒
(1)ア 土地家屋調査士が土地家屋調査士法又は土地家屋調査士法に基づく命令に違反した場合,その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は,当該土地家屋調査士に対し,戒告,2年以内の業務の停止又は業務の禁止の処分をすることができます(土地家屋調査士法42条)。
   土地家屋調査士法人が土地家屋調査士法又は土地家屋調査士法に基づく命令に違反した場合,その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は,当該土地家屋調査士に対し,戒告,2年以内の業務の停止又は解散の処分をすることができます(土地家屋調査士法43条)。
イ   何人も,土地家屋調査士又は土地家屋調査士法人に土地家屋調査士法又は土地家屋調査士法に基づく命令に違反する事実があると思料するときは,当該土地家屋調査士又は当該土地家屋調査士法人の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に対し,当該事実を通知し,適当な措置をとることを求めることができます土地家屋調査士法44条1項)。
ウ 令和2年8月1日以降,土地家屋調査士及び土地家屋調査士法人の懲戒権者は法務大臣となりました(「令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料」参照)。
(2) 日本土地家屋調査士会連合会HPの「懲戒処分情報の公開」に,以下の懲戒情報が載っています。
① 過去6か月以内の,戒告の処分
② 処分期間終了の日から1年以内の,業務停止処分
③ 処分の日から5年以内の,業務の禁止又は解散の処分
(3) 平成19年5月17日付の「土地家屋調査士等に対する懲戒処分に関する訓令」(法務省訓令)を掲載しています。
(4) 平成27年5月15日付の大阪法務局長の懲戒処分(土地家屋調査士 大阪 第328号(平成30年1月)36頁及び37頁)には,以下の記載があります(誤記と思われる部分を訂正しました。)。
   司法書士法第73条は,司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者は,司法書士法第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行ってはならない旨規定している。
   これによれば,非司法書士法人が,司法書士業務に従事させる目的で,司法書士会に入会している司法書士を常時雇い入れて,司法書士法第3条の業務を行わせ,報酬を同法人自らの収入とし,被雇用者たる司法書士にはその者の実績による業務収入額とは関係なく同法人又はこれと密接に関連する者から定額の給与を支払っている場合は,司法書士法第73条に抵触すると解すべきである。

6 税理士及び税理士法人の懲戒
(1) 以下の場合,財務大臣は,税理士又は税理士法人について,戒告,2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止(税理士法人の場合は解散)の処分を行います(税理士につき税理士法44条,税理士法人につき税理士法48条の20第1項)。
① 故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をした場合(税理士法45条1項)
② 不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ,又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき,指示をし,相談に応じ,その他これらに類似する行為をした場合(税理士法45条1項・36条)
③ 税理士法33条の2に基づき,計算事項,審査事項等を記載した書面に虚偽の記載をした場合(税理士法46条前段)
④ 税理士法又は国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反した場合(税理士法46条後段)
⑤ 税理士法人の運営が著しく不当と認められる場合(税理士法48条の20第1項)
(2) 何人も,税理士について,懲戒事由に該当する行為又は事実があると認めたときは,財務大臣に対し,当該税理士の氏名及びその行為又は事実を通知し,適当な措置をとるべきことを求めることができます税理士法47条3項)。
(3)ア 国税庁HPに「税理士等に対する懲戒処分等」が載っています。
イ 国税庁HPの「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方(平成27年4月1日以後にした不正行為に係る懲戒処分等に適用)」には,具体的な懲戒処分の基準が書いてあります。
ウ 国税庁HPの「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等」に懲戒処分の対象となった税理士及び税理士法人があいうえお順に掲載されています。
(4) 国税庁HPに「税理士が遵守すべき税理士法上の義務等と懲戒処分」が載っています。
通知弁護士(税理士法51条2項)は,税理士業務を行う範囲において税理士とみなされて,税理士に準じて,税理士法上の義務等の規定が適用されます。
(5) 平成25年7月時点の,税理士法事務取扱規程税理士懲戒処分等事務取扱規程及び税理士法聴聞事務取扱規程を掲載しています。
(6)ア 平成29年11月14日付の行政文書不開示決定通知書によれば,景品表示法違反を理由とする税理士法に基づく税理士懲戒処分通知書(過去5年分)は存在しません。
イ 平成29年11月14日付の行政文書不開示決定通知書によれば,景品表示法違反を理由とする税理士法に基づく税理士法人処分通知書(過去5年分)は存在しません。


7 社会保険労務士及び社会保険労務士法人の懲戒
(1) 厚生労働大臣は,以下の場合,社会保険労務士又は社会保険労務士法人について,戒告,1年以内の業務の停止又は失格処分を行います(社会保険労務士法25条)。
① 社会保険労務士が,不正に労働社会保険諸法令に基づく保険給付を受けること,不正に労働社会保険諸法令に基づく保険料の賦課又は徴収を免れることその他労働社会保険諸法令に違反する行為について指示をし,相談に応じ,その他これらに類する行為をした場合(社会保険労務士法15条)
② 社会保険労務士が,故意に,真正の事実に反して申請書等の作成,事務代理若しくは紛争解決代理業務を行った場合(社会保険労務士法25条の2第1項)
③ 社会保険労務士が,相当の注意を怠り,真正の事実に反して申請書等の作成,事務代理若しくは紛争解決代理業務を行った場合(社会保険労務士法25条の2第2項)
④ 社会保険労務士が申請書等に添付する書面等に虚偽の記載をした場合(社会保険労務士法25条の3)
⑤ 社会保険労務士法及び社会保険労務士法に基づく命令又は労働社会保険諸法令の規定に違反した場合(社会保険労務士法25条の3)
⑥ 社会保険労務士たるにふさわしくない重大な飛行があった場合(社会保険労務士法25条の3)
⑦ 社会保険労務士法人の運営が著しく不当と認められる場合(社会保険労務士法25条の24)
(2) 何人も,社会保険労務士法人について懲戒事由に該当する行為又は事実があると認めたときは,厚生労働大臣に対し,当該社会保険労務士の氏名及びその行為又は事実を通知し,適当な措置をとるべきことを求めることができます社会保険労務士法25条の3の2第2項)。
(3) 厚生労働省HPに「懲戒処分等の基準」及び「社会保険労務士法人の懲戒処分事案」が載っています。
(4) 平成25年3月29日付で厚生労働省労働基準局監督課社会保険労務士係が作成した,「社会保険労務士の懲戒処分等に関する事務手続マニュアル」を掲載しています。
(5) 平成29年10月30日付の厚生労働大臣の行政文書不開示決定通知書2通によれば,景品表示法違反を理由とする社会保険労務士及び社会保険労務士法人の懲戒処分書(過去5年分)は存在しません。
(6) 名古屋で就業規則作成するなら社会保険労務士川嶋事務所HP「炎上「元」社労士に下された社労士会の処分の詳細や、社労士法の懲戒との違いについて」が載っています。
(7) 名古屋地裁平成30年2月22日判決(凄腕社労士の首切りブログを運営していた社会保険労務士が原告です。)は,以下のとおり判示しました。
   ①社労士法その他の関係法令には,処分を受けたことを将来の処分の加重事由とするなどの不利益取扱いを認める規定は存在しないこと,②本件内部量定基準は,公表されていないため,行政手続法12条1項により定められ公にされている処分基準には該当しない上,その文言も,「なお,過去に懲戒事由に該当する不正行為を行っているなど別表に定める量定が適切でないと認められる特段の事情がある場合には,社会保険労務士法(昭和43年法律第89号)に規定する懲戒処分の範囲を限度として,量定を決することができるものとする。」というものであり,処分を受けたことが将来の処分の加重事由とされる期間やその加重の程度について具体的に定めておらず,過去に懲戒処分を受けた場合を含めて,懲戒事由に該当する不正行為を行ったことが,情状として考慮されるという事実上の不利益を受ける可能性があることを注意的に定めたにとどまると解されることに照らすと,社労士法25条の3に基づく懲戒処分の効果が期間の経過によりなくなった後においては,当該処分を受けた者について,「処分・・・の取消しによって回復すべき法律上の利益」があるとはいえない(最高裁昭和53年(行ツ)第170号同55年1月25日第二小法廷判決・集民129号121頁最高裁昭和53年(行ツ)第32号同55年11月25日第三小法廷判決・民集34巻6号781頁最高裁昭和56年(行ツ)第119号同年12月18日第二小法廷判決・集民134号599頁最高裁平成26年(行ヒ)第225号同27年3月3日第三小法廷判決・民集69巻2号143頁参照)。


8 弁理士及び弁理士法人の懲戒
(1)ア 令和4年4月1日時点で存続する特許業務法人は,同日から令和5年3月31日までの間に,弁理士法人に名称を変更しなければなりません。
イ 特許庁HPの「法人名称を「弁理士法人」とすることについて」には「1.法人制度導入の背景」として以下の記載があります。
    平成 12年の弁理士法改正において、それまで個人事務所として活動していた弁理士の事務所について、ユーザーへの継続的な対応と、大規模法人による総合的なサービスの提供を可能とするため、特許業務法人制度が導入された。
    本制度は、特許業務法人に対し、その名称中に「特許業務法人」の文字を使用することを義務づけている。これは、本制度の導入時には、弁理士の典型的な業務が特許に関する業務であったため、「特許業務法人」がより端的に法人の性格
を示すと考えられたことによるものである。なお、当時は他の士業名の法人(弁護士法人等)は存在しておらず、「弁理士法人」という名称は候補に挙がらなかった。
(2)ア 特許庁HPに「弁理士及び特許業務法人に対する経済産業大臣による懲戒処分に関する運用基準」(平成26年8月1日施行)が載っています。
イ 特許庁HPの「弁理士の懲戒制度等の在り方について」1頁には以下の記載があります。
   弁理士法では、弁理士が弁理士法や同法に基づく命令に違反した場合(特許業務法人は、それに加えて運営が著しく不当と認められる場合)には、行政処分として聴聞及び審議会における意見聴取を経て懲戒を行うことを定めており、懲戒の種類は、①戒告、②2 年以内の業務の停止(特許業務法人においては業務の全部若しくは一部の停止)、③業務の禁止(特許業務法人においては解散)の3種類である(弁理士法第32条及び第54 条第1項)。
   また、経済産業大臣は、弁理士に懲戒事由に該当する事実があると思料するときは、職権を持って必要な調査をすることができる(同法第33条第3 項)。
   なお、弁理士(特許業務法人)の懲戒については、何人も弁理士に懲戒事由に該当する事実があると思料するときは、経済産業大臣に対し、その事実を報告し、適当な措置(懲戒)をとるべきことを求めることができる(同法第33条第1項及び第54条第2項)。また、日本弁理士会は、その会員に懲戒事由に該当する事実があると認めたときは、経済産業大臣に対し、その事実を報告するものとする(同法第69条第1項)。


9 関連記事その他
(1)ア 近畿税理士会HPの「税理士登録をされる方へ」に載ってある「税理士登録申請の手続について」末尾6頁によれば, 一般的に「コワーキングスペース」「バーチャルオフィス」と呼ばれる場所は、事務所としての独立性及び継続性が担保できないため、事務所を設置できないとのことです。
イ 「所属税理士」とは、税理士事務所や税理士法人に雇用されて税理士業務を行う人であり,平成27年3月31日までは「補助税理士」という名称でした(関東信越税理士会HPの「税理士業務処理簿(税理士法第41条に規定する帳簿)の運用開始について」参照)。
ウ 税理士が依頼者に賠償すべき損害が消費税法に定める税制選択に必要な届出書の提出を怠ったという過誤により生じたものである場合における税理士職業賠償責任保険約款の免責条項は適用されません(最高裁平成15年7月18日判決及び最高裁平成15年9月9日判決)。
(2)ア 最高裁平成22年5月31日決定は, 虚偽記載半期報告書提出罪及び虚偽記載有価証券報告書提出罪について,当該会社と会計監査契約を締結していた監査法人に所属する公認会計士に会社代表取締役らとの各共同正犯の成立を認めた原判断が是認された事例です。
イ 金融庁HPに「「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)の改訂について」が載っています。
(3) 二弁フロンティア2023年6月号「シンポジウム「建替え問題と立退料」」が載っています。
(4)ア 以下の業務は税理士の付随業務ではないため,税理士が行うことはできません(ちからいし社会保険労務士事務所HP「業際について」参照)。
① 労働保険の年度更新ならびにその他の保険料の申告および納付の業務
② 社会保険の算定基礎届および月額変更届に関する業務
③ 雇用保険及び社会保険の被保険者資格の取得および喪失ならびに社会保険の被扶養者の届出に関する業務
④ 労働保険および社会保険の保険給付に関する業務
⑤ 雇用保険の2事業の給付金・助成金等に関する業務
⑥ 就業規則の作成・改正等に関する業務
イ 社会保険労務士による労働争議への介入については,社会保険労務士の業務について(平成28年3月11日付の厚生労働省労働基準局監督課長の通達)に以下の記載があります(1及び2を(ア)及び(イ)に変えています。)。
(ア) 労働争議時において,当事者の一方の行う争議行為の対策の検討,決定等に参与するような相談・指導の業務については,社会保険労務士法第2条第1項第3号の業務に該当することから,社会保険労務士の業務として行うことができること。
(イ) 社会保険労務士が,労働争議時の団体交渉において,①当事者の一方の代理人となって相手方との折衝にあたること,②当事者の間に立って交渉の妥結のためにあっせん等の関与をなすことはできないこと。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 司法書士資格の変遷
・ 弁護士の懲戒事由
・ 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
・ 弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文
・ 「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
→ 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です。
 弁護士会の懲戒手続
・ 弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
・ 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
・ 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
 弁護士の懲戒処分の公告,通知,公表及び事前公表

平成29年5月開始の大量懲戒請求事案

1(1) 朝鮮学校への高校授業料無償化の適用,補助金交付等を求める声明を出した全国の弁護士会に対し,平成29年10月12日までの時点で,弁護士会長らの懲戒を請求する懲戒請求書が4万件以上提出されています(毎日新聞HPの「懲戒請求 弁護士会に4万件超 「朝鮮学校無償化」に反発」(平成29年10月12日付)参照)。
そのため,平成29年の懲戒請求件数は,過去最高であった平成19年の9585件(うち,8095件は光市母子殺害事件の弁護団に対する懲戒請求です。)をはるかに超えています。
(2) 平成30年6月12日までの時点で,全国21弁護士会で約13万件に上っているみたいです(週プレNEWSの「弁護士への”不当懲戒請求”13万件を先導した黒幕--『余命三年』の正体とは?」(平成30年6月12日付)参照)。

2 日弁連は,平成29年12月25日,全国各地における弁護士会員多数に対する懲戒請求についての会長談話を出しました。

3(1) BLOGOSに「熱心なネトウヨ、実は中高年が中心? 弁護士への不当な懲戒請求、「40代後半から50代が多い。女性も3~4割いる」 」が載っています。
(2) 大量懲戒請求事件につき,一部の弁護士が懲戒請求者に対して損害賠償請求訴訟の提起を予告しています(事実を整えるブログ「弁護士への「大量」不当懲戒請求:余命信者と佐々木・北弁護士の和解の論点」(平成30年6月7日付)参照)。
(3) クローズアップ現代HP「なぜ起きた?弁護士への大量懲戒請求」(平成30年10月29日放送分)が載っています。

会務活動に関する弁護士の守秘義務

目次
1 総論
2 大阪弁護士会の会務活動に関する守秘義務を定める条文
3 委員会活動に関する守秘義務を定めた条文は原則としてないこと
4 日弁連の特別委員会の場合,守秘義務があること
5 関連記事その他

1 総論
・ 弁護士法23条及び弁護士職務基本規程23条の「職務上知り得た」とは,弁護士がその職務を行うについて知り得たという意味であり,弁護士が弁護士法3条の依頼者から依頼を受け,訴訟事件等その他一般的法律事務を処理する上で知り得た事項についての守秘義務が課せられ,また,将来依頼を受ける予定で知り得た事項にも及びます。
   しかし,他方,そのような弁護士としての一般的法律事務を行うものではない,例えば,弁護士会の会務を行う際に知り得た事実については弁護士としての守秘義務は及びません(大阪高裁平成19年2月28日判決)。
   ただし,会務を行う際に知り得た事実であっても,当該委員会にかかる会規等に秘密保持義務が定められていれば,当該会規等の違反となり,それが弁護士の非行に当たる場合,懲戒処分の対象となります。

2 大阪弁護士会の会務活動に関する守秘義務を定める条文
① 大阪弁護士会資格審査手続規程24条
→ 資格審査会の会長,委員,予備委員並びに大阪弁護士会の役員及び職員は,審査会の審査に関し職務上知ることのできた秘密を漏らしてはなりません。
② 大阪弁護士会綱紀調査手続規程10条
→ 綱紀委員会の委員,予備委員,鑑定人及び調査員並びに大阪弁護士会の会長,副会長及び職員は,綱紀委員会の調査及び議決に関し,職務上知り得た秘密を漏らしてはなりません。
③ 大阪弁護士会懲戒手続規程8条
→ 懲戒委員会の委員,予備委員,鑑定人及び調査員並びに大阪弁護士会の会長,副会長及び職員は,綱紀委員会の調査及び議決に関し,職務上知り得た秘密を漏らしてはなりません。
④ 大阪弁護士会紛議調停手続規程21条
→ 紛議調停委員会の委員長・副委員長又は委員並びに大阪弁護士会の会長・副会長及び職員は調停又は議事について,職務上知ることができた秘密を漏らしてはなりません。
⑤ 弁護士法第二十三条の二に基づく照会に係る嘱託に関する規則6条
→ 23条嘱託は,関与した案件その他について職務上知り得た秘密を漏らしてはなりません。
⑥ 大阪弁護士会企画調査室規則7条
→ 企画調査室嘱託は,調査に関して知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。
⑦ 大阪弁護士会法規室規則6条
→ 法規室嘱託は,調査に関して知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。
⑧ 大阪弁護士会人権救済調査室規則7条
→ 人権救済調査室嘱託は,調査に関して知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。
⑨ 大阪弁護士会広報室規則7条
→ 広報室嘱託は,職務上知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。

3 委員会活動に関する守秘義務を定めた条文は原則としてないこと
・ ①大阪弁護士会委員会規程及び②大阪弁護士会特別委嘱委員に関する規程には,委員会活動に関する守秘義務を定めた条文はありません。
   ただし,人権擁護委員会規則19条2項は,委員としての職務上知ることのできた秘密を漏らすことを禁じています。

4 日弁連の特別委員会の場合,守秘義務があること
・ 日弁連の特別委員会の場合,日弁連の委員,幹事及び職員は,日弁連会長の承認を経ない限り,委員会の議事の内容に関して外部に発表,その他情報を漏らしてはなりません(特別委員会規則12条)。

5 関連記事その他
(1) 弁護士会の綱紀委員会の議事録のうち「重要な発言の要旨」に当たる部分は通常,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当しますから,文書提出命令によって提出を求めることもできません(最高裁平成23年10月11日決定参照)。
(2) 「文書提出命令」も参照してください。

弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例

目次
第1 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
第2 関連記事その他

第1 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
・ 日弁連調査室が作成した,弁護士業務ハンドブック(平成24年)45頁ないし48頁には,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例として以下のものが記載されています。

1 母が差入営業を営む店舗の奥に法律事務所を置いたもの

2 酩酊して過激粗野な行為をしたもの

3 借金の手段方法を誤れば品位を失うべき非行となるとするもの

4 国選弁護人が任意的報酬を受領すること

5 実質的に同一事件ともいえる2つの事件について,同一事実につき相反する証明内容を有する2個の疎明資料を裁判所に提出したもの

6 被告人の利益のため内容虚偽の示談書を提出したこと

7 委任事項の範囲を超えて示談すること

8 訴訟代理人として,依頼者の意思に明らかに反する裁判上の和解を成立させたこと

9 依頼者が立替費用を弁償しないので預り中の書類を利用して不動産の登記名義を無断で変更したもの

10 あらかじめ報酬契約が締結されていない場合,報酬額について依頼者と何ら交渉することなく預り金品を抑留すること

11 弁済供託をしてこれを理由に請求異議の訴えを提起するとともに強制競売開始決定の取消しを得ておきながら,依頼者が供託金を取り戻すのに協力的処理をしたもの

12 依頼者から預託を受けた保証代用証券の横領,訴訟費用等の費消

13 委任の目的である債権の回収金を受領しながら,種々虚偽の事実を告げて依頼者に受領金の引渡しをしなかったこと

14 相続財産管理人としてなすべき義務の懈怠

15 弁護士である債務者会社の代表者が,他の債権者があるにもかかわらず,妻である一債権者を厚遇して他の債権者を無視する行為

16 相手方からの取立金及び還付を受けた保証金を依頼者に返還しなかったので,紛議調停の申立てがなされ,和解が成立したがその義務を履行しなかったもの

17 被冒用者から委任を受けないのに,他人から名義冒用の委任状を受領し,被冒用者の意思を確認せず,また被冒用者から委任状の追認を拒否された後もその委任状を用いて訴訟行為をなしたもの

18 受任している事件につき依頼者から事件処理に対する不満の表明とともに着手金の返還請求をうかがわせる内容の手紙を受け取っていながら,依頼者の真意を確認せず依頼者の代理人として新訴を提起したこと

19 報酬契約のない事件について,依頼者の方針に反する事件処理をしたり,その信頼を失うような不十分な事務処理をしたことを理由に委任契約を解除された後,話し合いをすることなく報酬請求の訴えを提起する行為

20 破産管財人に選任された後,破産財団に属する動産について無断搬出を放置したり,監査委員の同意を得ないで任意売却をなす行為

21 仮処分の保証金等として預かった金員につき,本来の趣旨に使用せずその全部又は一部を本人に返還しない行為

22 自己名義の法律事務所において非弁活動を行うことを放置した行為

23 相手方申請の証人に対して,証明妨害となる郵便を発送した行為

24 公判廷内へ写真機を携行する行為及び公判廷内で許可を受けずに写真を撮影する行為

25 破産管財人に選任された後,破産事件の担当裁判官に対して背広等を贈与した行為及び破産会社経営のゴルフ場を買い取るため会社を設立した行為

26 酒気帯びの疑いの濃い状態での信号無視,免許証の提示拒否,呼気検査拒否等の行為

27 相手方代理人の了解なく直接相手方本人と交渉した上,相手方代理人を誹謗,中傷して懲戒に陥れようとする行為

28 相手方当事者に対する訴状の送達につき,十分な調査をしないまま公示送達の申立てをして,相手方当事者欠席のまま勝訴判決を得た行為

29 会社の監査役の地位にありながら,当該会社の債権者の代理人として,当該会社所有の不動産に対して仮差押えを申し立てる行為

30 和解成立後,和解の依頼者を相手方とする事件を和解の相手方から受け,元依頼者に対する和解上の債務をなしくずし的に消滅させる弁護活動をする行為

31 刑事告訴手続を受任しながら放置し,依頼者に虚偽の報告をし続けた行為

32 契約解除時における室内遺留品を随意処分できる旨の自力救済をあらかじめ認める内容の賃貸借契約条項は公序良俗に反し無効であるのに,これを安易に有効であると考え,室内を一度も見ず,遺留品目録も作成せず,遺留品一切を処分した行為

33 民事事件の解決方を受任しながら長期にわたり処理を怠り,提訴していないにもかかわらず,虚偽の口頭弁論期日を報告するなど,約11か月にわたり依頼者を欺いた行為

34 代理人として株式の売却事務を処理する際,対向的当事者に対して仲介料を要求し,多額の金員を受領等した行為

35 弁護士が自己の顧問先を相手方として債権の取立てを行う行為

36 証拠が変造されたことを知りつつ,これを書証として提出する等した行為

37 法律家でない者に対して「審判」,「出頭命令」と題する書面を送付し,何ら法的根拠がないのに,あたかも法的手続きによるかの如く装った行為

38 接見禁止等がなされている被疑者に対し,接見の際,虚偽の供述をそそのかすような手紙を仕切り版越しに閲読させ,接見室において2度にわたり被疑者の母親と携帯電話で会話をさせた行為

39 養子縁組の証人となった弁護士が養親双方の意思の確認を怠った行為及び遺言執行者への就任を承諾し,任務遂行中でありながら,遺留分減殺請求事件において相続人の一部の代理人となる行為

40 訴訟提起していないのに依頼者に対し訴訟提起したと偽り,偽造した裁判所受付印が押捺してある訴状のコピーを送付した行為

41 テレビ番組制作者から依頼を受け,職務上の請求として,戸籍謄本,住民票等を交付請求して取得し,番組制作者に交付し,対価を得た行為

42 遺言執行者が,遺言執行終了後,遺言無効確認請求訴訟において特定の相続人の訴訟代理人として訴訟活動をする行為

43 民事再生法施行後約9か月経過した時期において,同法の調査を怠り,法定の期間内に受継の申立てをしなかった行為

44 国選弁護人である弁護士が,勾留中の被疑者への差し入れの手数料として10万円を受領した行為

45 マンションの一室の占有回復を依頼された事案で,期限までに明渡しのないときは鍵を変更する旨の内容証明郵便を出し,入口等に立入禁止の張り紙を張った上,玄関の鍵を取り換えた行為

46 株主構成に争いのある株式会社の代表取締役の職務執行者が,任務終了後,当該会社の株主権確認請求訴訟の当事者の一方の代理人に就任する行為

47 訴訟上の証拠として提出する目的で行った弁護士会照会の回答書を,目的外使用が禁止されていることを看過してシンポジウムで資料として配布し,目的外使用が禁止されていることを注意喚起された後も回収しなかった行為

48 共犯者の弁護人が,弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者に該当しないにもかかわらず,身体の拘束を受けている他の共犯者と立会人なくして接見した行為

49 成年後見人が,被後見人の死亡後,残余財産の引渡し未了のまま,一部相続人の代理人として遺産分割事件を担当した行為

50 法律相談等を通じて損害賠償請求訴訟の依頼を受けたが,速やかにその諾否を依頼者に通知しなかった行為

第2 関連記事その他
1 最高裁平成15年4月18日判決は以下の判示をしています。
    法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。けだし,民事上の法律行為の効力は,特別の規定がない限り,行為当時の法令に照らして判定すべきものであるが(最高裁昭和29年(ク)第223号同35年4月18日大法廷決定・民集14巻6号905頁),この理は,公序が法律行為の後に変化した場合においても同様に考えるべきであり,法律行為の後の経緯によって公序の内容が変化した場合であっても,行為時に有効であった法律行為が無効になったり,無効であった法律行為が有効になったりすることは相当でないからである。
2 最高裁平成31年3月7日判決は,違法な仮差押命令の申立てと債務者がその後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったことにより喪失したと主張する得べかりし利益の損害との間に相当因果関係がないとされた事例です。
3 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士の懲戒事由
・ 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
 弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文
・ 「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
→ 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です。
・ 弁護士会の懲戒手続
・ 弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
・ 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
・ 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
・ 弁護士の懲戒処分の公告,通知,公表及び事前公表

弁護士の懲戒事由

目次
1 総論
2 弁護士及び弁護士会には,懲戒請求者の予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められていること
3 弁護士に対する懲戒請求が不法行為となる場合
4 名誉毀損の違法性が阻却される場合等
5 名誉毀損の成立が否定される場合であっても,弁護士会の懲戒対象となる場合があること(最高裁平成23年7月15日判決)
6の1 弁護士に対する名誉毀損又は侮辱に関する懲戒事例
6の2 弁護士職務基本規程70条及び71条
7 単位弁護士会と日弁連の判断が分かれた,懲戒原因としての誹謗中傷の具体例
8 準備書面の表現で相手方を激しく攻撃しすぎた行為に基づく懲戒事例
9 令和3年3月1日発効の「タヒね」懲戒,及び対象弁護士の日弁連総会における発言内容等
10 「品位を失うべき非行」という概念は不明確であるとする,弁護士法人ベリーベスト法律事務所等の意見
11 参考になる外部HP等の記事
12 関連記事その他

1 総論

(1)ア 弁護士の懲戒事由は以下のとおりです(弁護士法56条1項)。
① 弁護士法に違反したとき
② 所属弁護士会又は日弁連の会則に違反したとき
③ 所属弁護士会の秩序又は信用を害したとき
④ その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき
イ 弁護士は,所属弁護士会及び日弁連の会則,会規及び規則を守らなければなりません(日弁連会則29条1項)。
(2) 「この規程〔注:弁護士職務基本規程のこと。〕は,弁護士の職務の多様性と個別性にかんがみ,その自由と独立を不当に侵すことのないよう,実質的に解釈し適用しなければならない。」(弁護士職務基本規程82条1項前段)とされています。
    そのため,弁護士職務基本規程の条項に形式的に違反する行為のすべてが直ちに懲戒の事由と判断されるのではなく,「品位を失うべき非行」(弁護士法56条1項)と同等の評価を受けるなどの視点から,事案に即した実質的な判断がなされることとなります。
(3) 「自由と独立」には,①権力からの自由と独立,②依頼者からの自由と独立,及び③他の弁護士との関係における自由と独立の三つの要素を含みます(弁護士職務基本規程2条参照)。
(4)ア 弁護士職務基本規程には,倫理規定・努力義務の規定と,行為規範・義務規定とが混在しており,その区別が必ずしも判然としません。
    そのため,弁護士職務基本規程82条2項で,倫理規定・努力義務の規定に当たる条文が個別に列挙されています(「弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文」参照)。
イ 弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければなりません(弁護士法2条)し,弁護士は,教養を深め,法令及び法律事務に精通するため,研鑽に努めます(弁護士職務基本規程7条)。
    そして,「弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を怠ってはならない。」と定める弁護士法37条1項は義務規定です(弁護士職務基本規程82条2項参照)から,必要な法令の調査を怠った場合,直ちに懲戒事由となります。
(5) 日弁連HPの「弁護士に対する懲戒」には,懲戒事由の例として以下のものが書いてあります。
① 依頼者からの預り金を横領するなどの犯罪行為がなされた場合
② 自分の事務所で資格のない者に法律事務を取り扱わせた場合
③ 依頼者の利益となるように内容が虚偽の書類を裁判所に提出した場合
④ 弁護士会の会費を正当な理由なく長期にわたって滞納した場合
(6)ア 弁護士は,法令により官公署から委嘱された事項について,職務の公正を保ち得ない事由があるときは,その委嘱を受けてはなりません(弁護士職務基本規程81条)。
イ   破産管財人の場合,個別の破産債権者との間で何らかの利害関係がある場合は就任を辞退することがありますし,成年後見人の場合,推定相続人との間で何らかの利害関係がある場合は就任を辞退することがあります。
   例えば,特定の破産債権者が自分の顧問先であるような場合,破産管財人には就任しませんし,推定相続人間で深刻な対立が発生している事案で特定の推定相続人と親しい関係にある場合,成年後見人には就任しません。


2 弁護士及び弁護士会には,懲戒請求者の予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められていること
   橋下徹弁護士が第1審被告となった最高裁平成23年7月15日判決の裁判官須藤正彦の補足意見には以下の記載があります(改行を追加しました。)。
    弁護士は裁判手続に関わって司法作用についての業務を行うなど,その職務の多くが公共性を帯有し,また,弁護士会も社会公共的役割を担うことが求められている公的団体であるところ,主権者たる国民が,弁護士,弁護士会を信認して弁護士自治を負託し,その業務の独占を認め(弁護士法72条),自律的懲戒権限を付与しているものである以上,弁護士,弁護士会は,その活動について不断に批判を受け,それに対し説明をし続けなければならない立場にあるともいえよう。
    懲戒制度の運用に関連していえば,前記のとおり,弁護士会による懲戒権限の適正な行使のために広く何人にも懲戒請求が認められ,そのことでそれは国民の監視を受けるのだから,弁護士,弁護士会は,時に感情的,あるいは,無理解と思われる弁護活動批判ないしはその延長としての懲戒請求ないしはその勧奨行為があった場合でも,それに対して,一つ一つ丹念に説得し,予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められているといえよう。
   あるいは,著名事件であるほどにその説明負担が大きくなることはやむを得ないところもあろう。


3 弁護士に対する懲戒請求が不法行為となる場合
(1)   弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成します(最高裁平成19年4月24日判決)。


(2) 最高裁平成19年4月24日判決の裁判官田原睦夫の補足意見には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 弁護士に対する懲戒は,その弁護士が弁護士法や弁護士会規則に違反するという弁護士としてあるまじき行為を行ったことを意味するのであって,弁護士としての社会的信用を根底から覆しかねないものであるだけに,懲戒事由に該当しない事由に基づくものであっても,懲戒請求がなされたという事実が第三者に知れるだけでも,その請求を受けた弁護士の業務上の信用や社会的信用に大きな影響を与えるおそれがあるのである。
    このように懲戒請求がなされることによる影響が非常に大きいところから,虚偽の事由に基いて懲戒請求をなした場合には,虚偽告訴罪(刑法172条)に該当すると解されている。
② 弁護士に対して懲戒請求がなされると,その請求を受けた弁護士会では,綱紀委員会において調査が開始されるが,被請求者たる弁護士は,その請求が全く根拠のないものであっても,それに対する反論や反証活動のために相当なエネルギーを割かれるとともに,たとえ根拠のない懲戒請求であっても,請求がなされた事実が外部に知られた場合には,それにより生じ得る誤解を解くためにも,相当のエネルギーを投じざるを得なくなり,それだけでも相当の負担となる。
    それに加えて,弁護士会に対して懲戒請求がなされて綱紀委員会の調査に付されると,その日以降,被請求者たる当該弁護士は,その手続が終了するまで,他の弁護士会への登録換え又は登録取消しの請求をすることができないと解されており(平成15年法律第128号による改正前の弁護士法63条1項。現行法では,同62条1項),その結果,その手続が係属している限りは,公務員への転職を希望する弁護士は,他の要件を満たしていても弁護士登録を取り消すことができないことから転職することができず,また,弁護士業務の新たな展開を図るべく,地方にて勤務しあるいは開業している弁護士は,東京や大阪等での勤務や開業を目指し,あるいは大都市から故郷に戻って業務を開始するべく,登録換えを請求することもできないのであって,弁護士の身分に対して重大な制約が課されることとなるのである。
③ 弁護士に対して懲戒請求がなされることにより,上記のとおり被請求者たる弁護士の身分に非常に大きな制約が課され,また被請求者は,その反論のために相当な時間を割くことを強いられるとともに精神的にも大きな負担を生じることになることからして,法廷意見が指摘するとおり,懲戒請求をなす者は,その請求に際して,被請求者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について,調査,検討すべき義務を負うことは当然のことと言わなければならない。
④ 殊に弁護士が自ら懲戒請求者となり,あるいは請求者の代理人等として関与する場合にあっては,根拠のない懲戒請求は,被請求者たる弁護士に多大な負担を課することになることにつき十分な思いを馳せるとともに,弁護士会に認められた懲戒制度は,弁護士自治の根幹を形成するものであって,懲戒請求の濫用は,現在の司法制度の重要な基盤をなす弁護士自治という,個々の弁護士自らの拠って立つ基盤そのものを傷つけることとなりかねないものであることにつき自覚すべきであって,慎重な対応が求められるものというべきである。


4 名誉毀損の違法性が阻却される場合等
(1)ア   薬害エイズ関係の報道による名誉毀損事件に関する最高裁平成17年6月16日判決によれば,以下のとおりです。
① 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日判決最高裁昭和58年10月20日判決参照)。
② ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁平成元年12月21日判決最高裁平成9年9月9日判決参照)。
イ 同じ日付で出された上告棄却決定としての最高裁平成17年6月16日決定(原判決は別です。)には,名誉毀損の成立を否定すべきとする裁判官島田仁郎の詳細な反対意見が付されています。
(2) 客観的事実の摘示よりも,意見ないし論評の表明の方が,人格を否定する侮辱的表現であるとか,誹謗中傷であるなどとして懲戒原因になっている気がします。
(3) 立命館大学HPに「謝罪広告請求の内容とその実現」が載っています。


5 名誉毀損の成立が否定される場合であっても,弁護士会の懲戒対象となる場合があること(最高裁平成23年7月15日判決)
(1)ア 大阪弁護士会に所属し,タレント活動もしていた橋下徹弁護士が,平成19年5月27日に放送された読売テレビ放送株式会社制作に係る「たかじんのそこまで言って委員会」(平成27年4月以降は「そこまで言って委員会NP」)と題する娯楽性の高いテレビのトーク番組において,光市母子殺害事件の弁護団を構成する弁護人に対する懲戒請求を呼びかけた行為について,
    大阪弁護士会は,平成22年9月17日,意見論評の域を逸脱すること,刑事事件及び弁護士会の懲戒請求について誤った認識を与えたこと等を理由に,2ヶ月間の業務停止処分としました。
    しかし,最高裁平成23年7月15日判決は,原審である広島高裁平成21年7月2日判決(最高裁平成18年6月20日判決により差戻しされた後の第2次控訴審判決)を破棄した上で,橋下徹弁護士の発言は不法行為法上違法とはいえないと判断しました(第1審被告である橋下徹弁護士が最高裁で逆転勝訴しました。)。
    このように弁護士会の判断と最高裁判所の判断が一致しない事例は存在します。
イ 平成11年4月14日に山口県光市で発生した光市母子殺害事件については,最高裁平成24年2月20日決定が,死刑判決を下した広島高裁平成20年4月22日判決を支持しました。
ウ 最高裁平成23年7月15日判決は,一般論として以下のとおり判示しています。
     刑事事件における弁護人の弁護活動は,被告人の言い分を無視して行うことができないことをその本質とするものであって,被告人の言い分や弁護人との接見内容等を知ることができない場合には,憶測等により当該弁護活動を論難することには十分に慎重でなければならない。
(2)ア 判例タイムズ1257号(2008年2月15日付)に「不当提訴並びに提訴に関する新聞記事の掲載及び弁護士による記者会見と名誉毀損,プライバシー侵害の成否が問題となった事例」(筆者は48期の鈴木和典 山形地裁判事。東京高裁平成18年8月31日判決を取り上げたもの)が載っています。
イ 対象弁護士は東京高裁平成18年8月31日判決で勝訴したものの,同年1月10日付の日弁連懲戒委員会議決(反対意見2名)では,原決定取消・戒告となりました(弁護士懲戒事件議決例集(第9集・平成18年度)10頁ないし22頁)。


6の1 弁護士に対する名誉毀損又は侮辱に関する懲戒事例
(1) 平成20年9月17日発効の京都弁護士会の戒告
・ 「2006年6月17日、日弁連の委員会のメーリングリストに、懲戒請求者の氏名や懲戒請求者に直接結びつく事実関係の記載をせずに、懲戒請求者について、「被害者の代理人であるかのように装い、被害者のための情報を引き出そうとするなど弁護士はおろか人間としての風上にもおけません」等の内容の記事を投稿した」行為について,弁護士職務基本規程70条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2009年1月号151頁)。
(2) 平成20年10月6日発効の大阪弁護士会の戒告
・ 破産管財人Eが提起した,弁護士報酬に関する否認請求事件において提出した反論書11通等において,
    Eに対し,「「破産者の操り人形に成り下がり」「逃げ回る管財人」等20カ所以上の、Bに対し、「非弁整理屋が噛んでいるのであろう。明らかに犯罪行為である」等数カ所の、Dに対し、「申立代理人としてはほとんど何も仕事をしていない」等数カ所の、それぞれ防御権行使としての相当性を超えた表現で、多数の誹誇中傷を重ねた」行為について,弁護士職務基本規程70条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2009年2月号136頁)。
(3) 平成26年9月13日発効の日弁連の戒告
・ 争点とは何らの関係がないにもかかわらず弁護士たる懲戒請求者の名誉を段損する部分を残したまま、これを含む書面を殊更提出した行為について,関係者の強い要望に基づく行為であり,かつ,判決に従って懲戒請求者に対し損害賠償金の支払をしたという事情がありましたが,弁護士職務基本規程70条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2014年11月号100頁)。
(4) 平成27年9月9日発効の千葉県弁護士会の戒告
・ 「2006年8月及び同年12月に懲戒請求者株式会社Aを被告として提起された不当利得返還請求事件の上告審において、他の弁護士と共に被上告人代理人として、上告人懲戒請求者A社の代理人である懲戒請求者B弁護士の名誉、信用及び名誉感情を段損する内容が記載されたC作成の報告書を証拠として最高裁判所及び上告人代理人の事務所へ送付した」行為について,弁護士職務基本規程70条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2015年12月号95頁)。
(5) 平成28年2月10日発効の第二東京弁護士会の戒告
・ 例えば,以下の行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2016年6月号133頁)。
① 「控訴理由書において、争点とは直接関係がなく、要証事実との関連性が薄いにもかかわらず、懲戒請求者A弁護士が「フィクサーとして関与した」「良心の呵責なく「不正行為の助長をしている」」「何とか金銭を巻き上げようとする魂胆」等の事実を、裏付ける根拠もなく摘示した上、懲戒請求者A弁護士の個人の人格を攻撃するような表現を複数回にわたり執拗に繰り返し、同年10月18日の控訴審口頭弁論期日において上記控訴理由書を陳述した」行為
② 「訴状等において、不必要に懲戒請求者A弁護士の個人の人格を攻撃するような表現を複数回にわたり執拗に繰り返し、口頭弁論期日において上記訴状等を陳述した」行為
(6) 平成28年8月23日発効の新潟県弁護士会の戒告
・ 以下の行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2017年1月号105頁)。
① 「2015年3月31日、多数の者が閲覧することが可能なインターネット上のソーシャルネットワーキングサービスにおいて、懲戒請求者A弁護士に対し、「お前は馬鹿だ」、「あなたが弁護士をやめろ」、「あなたと顔を合わせた際、第一にやるべきことはあなたを殴ることです」等の攻撃的かつ威圧的で懲戒請求者A弁護士を侮辱する書き込みをした」行為
② 「2015年4月13日、上記ソーシャルネットワーキングサービスにおいて、懲戒請求者A弁護士について懲戒事由があることを事実上法律上裏付ける相当な根拠について調査、検討をした形跡もないまま、懲戒請求者A弁護士に対する懲戒請求書案として7項目にわたる非行事実の骨子を示した上、相当程度の業務停止処分を科するのが相当である旨の書き込みをした」行為
(7) 平成29年1月14日発効の新潟県弁護士会の戒告
・ 以下の行為について,弁護士職務基本規程70条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2017年5月号83頁)。
    管理組合法人Aから2014年5月7日に損害賠償請求事件及び競売請求事件を提起された各被告の訴訟代理人であったところ、上記両事件の係属中に、懲戒請求者Bを含むA法人の組合員である区分所有者約60名に対し、上記両事件の原告訴訟代理人である懲戒請求者C弁護士について、「弁護士の発言とは思えない」、「管理組合法人の代理人を務めることは弁護士倫理に反し、懲戒の対象となる可能性がある」と記載した手紙、「なんの勝算もなく、競売事件の裁判を始めたとしか考えられません」、「人権感覚がないのではないかと疑いたくなる」、「証拠上、間違いが明らかになった後も、組合員の皆様に嘘を言い続けているのは、信じられません」、「『嘘も百篇つけばホントになる」とでも思っているのでしょうか」と記載した手紙、「『自分がやることは全て正しいが反対派のやることは同じ行為でも間違いである』と言っているに等しく、正気とは思えません」と記載した手紙を順次送付し、上記区分所有者に対する客観的な経緯の説明や情報、さらには批判の域を逸脱し、上記区分所有者との関係において懲戒請求者C弁護士を誹誇中傷した。
(8) 平成29年9月16日発効の第二東京弁護士会の戒告
・ 以下の行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2018年1月号92頁)。
    被懲戒者が代表を務める法律事務所の勤務弁護士であった懲戒請求者A弁護士に対し、懲戒請求者A弁護士が上記法律事務所を退所する前に被懲戒者を補助した4件の事件に関し、歩合制に基づき支払った着手金の一部の返還を請求するに当たり、上記事件のうち1件については要返還額が客観的に明らかであったものの、他の3件については要返還額が不明であったにもかかわらず、金額が客観的に確定しているかのどとき前提の下に、2014年12月6日、被懲戒者の請求に応じないときは、「破産宣告の申立をする」、「就職先の事務所に請求する」、「弁護士生命が断たれるに等しい」旨の懲戒請求者A弁護士に恐怖心を抱かせる可能性が高い言葉を用いたメールを送信した。
(9) 平成30年3月30日発効の新潟県弁護士会の戒告
・ 「懲戒請求者A弁護士との間で、ツイッター上のアカウントを使用し、ヘイトスピーチをめぐり互いに批判し非難する書き込みを応酬していたところ、2015年11月9日午後2時49分から同日午後10時23分までの間、懲戒請求者A弁護士について、所属弁護士会の綱紀委員会の識を経て懲戒委員会における審理が開始した旨の懲戒手続に関する具体的情報をツイッター上に書き込んで事実上公表した」行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2017年1月号105頁)。
(10) 平成31年3月25日発効の第一東京弁護士会の業務停止2月
・ 「A弁護士らを代理人として被懲戒者の妻Bに対し離婚訴訟を提起していたところ、上記訴訟に先立って行われた離婚調停の期日においてBないしBの代理人であった懲戒請求者C弁護士が調停委員に対してなしたとする、被懲戒者がBを一方的に攻撃し自分は悪くないという自己弁護を記載したメールを長女に対し送付したなどの発言が虚偽の発言であり、被懲戒者に対する名誉毀損に当たるなどとして、上記発言の基本的な部分が事実に基づくものであることを知りながら、A弁護士らを代理人として、懲戒制度を濫用する意図をもって、上記訴訟係属中の2014年4月14日、懲戒請求者C弁護士を対象として懲戒請求を行った。」行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2019年7月号123頁及び124頁)。
→ 2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)21頁によれば,第一東京弁護士会の懲戒委員会議決書には,「対象弁護士Yは,離婚の解決を急いでいたが思うように話が進んでいなかったことより,懲戒請求者に対して懲戒請求する旨を伝えて懲戒請求者に圧力をかけるように指示するメール(乙ロ26及び27)を対象弁護士Aに送信していたことから,対象弁護士Yについては,懲戒請求制度を濫用する意図が明瞭であると断ぜざるを得ない。」と書いてあります。
(11) 平成31年3月25日発効の第一東京弁護士会の戒告((10)の事例の代理人弁護士です。)
・ 「A弁護士からその妻Bに対する離婚調停事件、離婚訴訟事件等を受任していたところ、A弁護士の代理人として、上記調停事件の期日においてBないしBの代理人であった懲戒請求者C弁護士が調停委員に対してなしたとする、A弁護士がBを一方的に攻撃し自分は悪くないという自己弁護を記載したメールを長女に対し送付したなどの発言が虚偽の発言であり、A弁護士に対する名誉毀損に当たるなどとして、A弁護士が上記発言の基本的な部分が事実に基づくものであることを知っていたにもかかわらず、A弁護士の弁解を軽信してしかるべき調査を尽くさず、上記訴訟係属中の2014年4月14日、懲戒請求者C弁護士を対象として懲戒請求を行った。」行為について,弁護士職務基本規程70条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2019年7月号124頁及び125頁)。
→ 2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)21頁によれば,「対象弁護士Aについては,当委員会における陳述態度を見ても反省の情が顕著であり,懲戒請求者が希望するとおりの◯◯万円という高額な示談金を支払い,懲戒請求者との間で示談を成立させ,懲戒請求者から「本件非行事実を許し,懲戒請求を取り下げる」旨の供述を得,「できるだけ寛大な処分を望む」との上申書も提出されている。こうした事情を考慮し,今回に限り,対象弁護士Aについては戒告処分とするのを相当と考える」と書いてあります。
(12) 令和2年9月15日発効の富山県弁護士会の戒告
・ 「懲戒請求者Aを本訴原告とする訴訟において本訴被告の訴訟代理人であったところ、訴訟の争点と関連性がなく、提出の必要性及び相当性を欠くにもかかわらず、2018年3月12日、懲戒請求者Aの訴訟代理人であった懲戒請求者B弁護士に関する所属弁護士会綱紀委員会の議決書の一部を抜粋して、その写しを害証として裁判所等へ提出し、翌日撤回した」行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2021年2月号62頁)。
(13) 令和3年3月31日発効の新潟県弁護士会の戒告
・ 「死亡したA弁護士について、2015年12月3日、ツイッター上に、「好訴妄想の弁護士さんを知っている。」、「好訴妄想(こうそもうそう、英:querulous delusion,独:Querulantenwahn)は、妄想反応の一種で、独善的な価値判断により自己の権益が侵されたと確信し、あらゆる手段を駆使して一方的かつ執拗な自己主張を繰り返すものをいう」と記載し、これを閲覧した一般人に「好訴妄想」があたかも国際的に認められた医学的疾病であるかのような印象を与え、A弁護士が精神的疾患を抱えていたのはないかとの印象を与える投稿をし、もって、A弁護士を不当に中傷した」行為について、弁護士職務基本規程70条に違反し、弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2021年8月号63頁)。
→ 刑法230条2項は「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。」と定めていますし,明治40年4月に制定された当時の刑法230条2項は「死者ノ名誉ヲ毀損シタル者ハ誣罔ニ出ツルニ非サレハ之ヲ罰セス」と定めていました。
(14) 令和3年4月27日発効の神奈川県弁護士会の戒告
・ 「懲戒請求者及びその他の弁護士個人の業務活動に関し,2018年6月から2019年10月の間,ツイッター上で、「誘拐」、「連れ去り」又は「児童虐待」という言葉を用いて誹謗中傷し、また、弁護士が自ら貧困を作り出しているという趣旨の表現をして、他の弁護士の人格を攻撃する投稿をした」行為について,弁護士職務基本規程70条及び71条に違反し,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2021年11月号59頁)。


6の2 弁護士職務基本規程70条及び71条
(1) 弁護士職務基本規程70条
ア 70条(名誉の尊重)の条文は,「弁護士は他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護士(以下弁護士等という)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。」です。
イ 解説弁護士職務基本規程第3版200頁には,70条の趣旨に関して以下の記載があります。
    弁護士は「法の支配」の担い手として法律事務の独占(法72条)が認められているが、法律事務は国民の信頼に支えられて初めて適正に取り扱うことができ、また、依頼者の納得を得ることができる。このような依頼者や市民の信頼を得るためには、弁護士等は名誉と信義を重んじ品格ある職業集団でなければならないということである。
(2) 弁護士職務基本規程71条
ア 71条(弁護士に対する不利益行為)の条文は,「弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。」です。
イ 解説弁護士職務基本規程第3版202頁には,71条の「信義」に関して以下の記載があります。
    ここでいう「信義」は、不利益を受けた弁護士等が抱く主観的な信義ではなく、自由、独立、品位を重んじ誠実かつ公正に職務を行うべき弁護士職として要求される客観的な信義である。
ウ 令和2年3月16日発効の大分県懲戒委員会議決書(自由と正義2020年8月号56頁)には以下の記載があります(2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)70頁及び71頁)。
    71条は積極的に不利益を与える意思を有していたことまで要するものではなく,客観的に不利益を与える行為を行うこと自体が禁止されるというべきであるから,解任通知書を作成して交付する行為が客観的に相手方代理人に対して不利益を与える行為である以上,対象弁護士は同条に反する行為を行ったというべきである。
    また,相手方本人に対する働きかけを行っていないと主張しているが,本件で問題となっているのは,相手方本人に対する働きかけではなく,相手方代理人の同意なく相手方本人に会い,解任通知書を作成して交付したことであり,働きかけの有無は本件に関する結論を左右しない。


7 単位弁護士会と日弁連の判断が分かれた,懲戒原因としての誹謗中傷の具体例
(1) 「弁護士である懲戒請求者が所属する弁護士会に、同弁護士の懲戒請求をするにあたり、懲戒請求書に懲戒請求者の人格を誹誇中傷する表現を記載した」行為に関して戒告となった後(自由と正義2012年1月号114頁),日弁連懲戒委員会に取り消された事例があります(自由と正義2012年12月号111頁)。
(2)ア 問題となった懲戒請求書の記載内容は以下のとおりです。
① 悪代官が難癖をつけて農民から過酷な年貢を取り立てるのにも似た愚行
② 虚偽と知りながら、あるいは、虚偽であることを容易に知り得たにもかかわらず、破産管財人弁護士として必要な注意はおろか法律家としての最低限の注意すら怠り、不当に裁判を申し立て、かつその裁判において個人の名誉毀損にわたる事実を主張した
③ 破産管財人弁護士たる使命に背き、誠実に弁護士の職責を果たさなかった
④ 社会正義に名を借りて根拠なく個人を誹誇中傷する
⑤ 破産法解釈学の未熟にもかかわらずその研鑽を怠った表現
イ 日弁連懲戒委員会の判断は以下のとおりです。
(一般論)
     弁護士が懲戒請求書を作成した場合に、その記載内容がいかなる場合であっても、弁護士としての品位を失うべき非行にあたらないとは解されないのであって、弁護士職務基本規程第70条において、他の弁護士等との関係において、相互に名誉と信義を重んじることとされていることに鑑みれば、対象弁護士を侮辱する表現やその人格に対する誹誇中傷等については、弁護士としての品位を失うべき非行にあたる場合があるものと解すべきである。
(記載内容に対する評価)
     本件記載①は、例えとして適切なものでなく、また、懲戒請求書にこのような卑俗な例えを用いる必要がなく軽率の誇りを免れないが、懲戒請求者の行った査定申立ての問題を指摘するために記載したのであり、懲戒請求者の人格を攻撃するためではないから、懲戒請求者に対する侮辱的表現であるとか、その人格に対する誹誇中傷であるとまではいえない。また、本件記載②ないし⑤についても、懲戒請求者に対する侮辱的表現であるとか、その人格に対する誹誇中傷であるとはいえない。


8 準備書面の表現で相手方を激しく攻撃しすぎた行為に基づく懲戒事例
(1) 令和元年12月10日発効の大阪弁護士会の戒告では,以下の行為について弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされました(自由と正義2020年4月号59頁)。
   「過去に被懲戒者の法律事務所に勤務していた懲戒請求者に対し、法律事務所の金員を横領したとして訴訟を提起したところ、懲戒請求者につき「臆面もなく平然と嘘をつく性癖を有することが明らかであり、その度しがたい精神構造に鋭いメスが入れられるべきである。」、「嘘で固めた人生に速やかに終止符を打ち、潔<正直に真実を述べられたい。」と記載した準備書面を作成し、2014年4月8日の弁論準備期日において、これを陳述した。」行為
(2) 令和元年12月10日発効の大阪弁護士会の戒告の全文が掲載されている月刊大阪弁護士会2019年12月号77頁には以下の記載があります(訴訟自体は被懲戒者の敗訴として確定しました。)
    本件記載については、一般的に、通常人をして、当該人物の人格を否定する表現であって、侮蔑的な表現であると言わざるを得ず、懲戒請求者が精神的苦痛を受けたとする点も容易に認められる。
 本来、弁護士が作成する民事訴訟における準備書面は、当該訴訟における攻撃防御方法に関する事実及び主張を記載するものであって、感情的な表現が含まれることはあったとしても謙抑的でなければならず、相手方の人格をも否定し、侮蔑するような表現を用いるべきではない。
    このような観点からは、本件記載は、その表現が相手方を厳しく攻撃するものであって、その限度を超えたものと認められ、看過することができるものではない。
(3)ア 令和4年8月8日発効の第一東京弁護士会の戒告が掲載されている自由と正義2022年12月号73頁には以下の記載があります((1)及び(2)を①及び②に変えています。)。
① 被懲戒者は、懲戒請求者から提起された損害賠償請求訴訟の被告である株式会社Aの訴訟代理人であったところ、氏名や生年月日を偽った旨及び逮捕歴がある旨などの懲戒請求者の社会的評価を低下させ、又は名誉感情を侵害するなどの名誉等を毀損すると評価される記述を準備書面に記載し、口頭弁論期日において陳述した。
② 被懲戒者は、上記①の訴訟において、外国人であることを理由とした差別的な記述がある新聞記事を証拠として提出し取調べを求めた。
イ 上記の事例について監督責任があるとした,令和4年8月8日発効の第一東京弁護士会の戒告が掲載されている自由と正義2022年12月号69頁には以下の記載があります。
    被懲戒者は、2017年5月12日に懲戒請求者が株式会社Aを被告として提起した損害賠償請求訴訟について、被懲戒者が代表社員であった弁護士法人において受任し、事務所に所属するB弁護士(山中注:54期の弁護士です。)らと共に被告訴訟代理人として名前を連ね、担当のB弁護士による名義使用を包括的に許諾していたところ、B弁護士が、上記訴訟において、懲戒請求者の社会的評価を低下させ、かつ、争点との関連性がなく、訴訟行為追行のための必要性、相当性からしても正当な訴訟活動とは認められない記述を含んだ準備書面を提出し、被懲戒者は、B弁護士の訴訟追行等に関して監督上の努力義務を怠った。


9 令和3年3月1日発効の「タヒね」懲戒,及び対象弁護士の日弁連総会における発言内容等
(1) 令和3年3月1日発効の「タヒね」懲戒
ア 令和3年3月1日発効の大阪弁護士会の戒告では,以下の行為について,弁護士法56条1項に定める品位を失うべき非行に該当すると判断されました(月刊大阪弁護士会2021年3月号60頁)。
     対象会員は,懲戒請求者から国家賠償請求訴訟について委任を受け,訴訟代理人として活動していたが,その後懲戒請求者から辞任を求められ,これを受託して裁判所に辞任届を提出した。その後対象会員と懲戒請求者の間で,着手金の返還を巡るやりとりが行われたが,対象会員は,このやりとりのころ,弁護士の肩書きとともに登録氏名及び法律事務所名を表示したツイッターにおいて「金払わん奴はタヒね」「金払うつもりないなら法律事務所来るな」「弁護士費用を踏み倒すやつはタヒね」「正規の金が払えない言うなら法テラスに行きなさい」「金払わない依頼者に殺された弁護士の数は知れず」などとツイートを行った。
イ 令和3年3月1日発効の大阪弁護士会の戒告は,被懲戒者の審査請求に基づき,令和4年5月17日付で日弁連で取り消されました(弁護士ドットコムニュースの「ツイッターで「タヒね」、弁護士の懲戒取り消す逆転判断 日弁連」(2022年5月26日付)参照)。


(2) 侮辱行為に関する法的責任
ア 民事上の責任

・ 自己の正当な利益を擁護するため,やむをえず他人の名誉を損なう言動を行った場合は,それが当該他人による攻撃的な言動との対比で,方法及び内容において適当と認められる限度を超えない限り,違法性が阻却されます(最高裁昭和38年4月16日判決参照)。
・ インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しません(刑事事件の判例としての最高裁平成22年3月15日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和44年6月25日判決)。
・ 民事の侮辱の保護法益は名誉感情であり,名誉感情の侵害が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められた場合,人格的利益の侵害があったということで損害賠償責任が発生します(最高裁平成22年4月13日判決参照)。
・ 福岡地裁令和元年9月26日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
① 名誉感情,すなわち人が自分自身の人格的価値について有する主観的評価(主観的名誉)も法的保護に値する利益であり,表現態様が著しく下品ないし侮辱的,誹謗中傷的である等,社会通念上許容される限度を超える侮辱行為は,人格権を侵害するものとして,名誉毀損とは別個に不法行為を構成する。
② 名誉毀損は,表現行為によってその対象者の社会的評価が低下することを本質とするところ,社会的評価低下の前提として,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,不特定多数の者が対象者を同定することが可能であることを要すると解されるのに対し,名誉感情侵害はその性質上,対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば,対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である。
③ 一般の読者が普通の注意と読み方で表現に接した場合に対象者を同定できるかどうかは,表現が社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素となるにすぎない。
イ 刑事上の責任
・ 事実を摘示しないで,公然と人を侮辱した場合,侮辱罪が成立します(刑法231条)。
・ 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく社会的評価です。
・ 侮辱罪の法定刑は拘留又は科料であって,刑法典で規定されている犯罪において法定刑が最も軽かったものの,令和4年7月7日,法定刑が1年以下の懲役若しくは禁錮,又は30万円以下の罰金若しくは科料となりました(法務省HPの「侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A」(令和4年6月)参照)。


(3) 東京弁護士会の意見書の記載
・ 「裁判官の市民的自由を萎縮させない対応を求める意見書」(令和元年9月9日付の東京弁護士会の意見書)には以下の記載があります。
    いかなる表現行為が「許容される限度を逸脱」するのかが示されないでなされる制約は、許容される表現行為の予測可能性を奪い、裁判官の表現行為に萎縮的効果を与えるものである。そのことは、一般市民との合理的な差異の不明確性とも相まって、一般市民の表現活動にも予測可能性を奪うおそれがあり、一般市民の表現活動についても萎縮効果を与えることにつながりかねない懸念がある。


(4) 対象弁護士の日弁連総会における発言内容
・ 対象弁護士は,令和2年9月4日の日弁連定期総会において,第6号議案(宣言・決議の件「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う法的課題や人権問題に積極的に取り組む宣言(案)」)に関して以下の発言をしました。
     66期である。先ほど、私は言葉を失った。コロナ特措法に関して政党に出したペーパー、これを全て公開してください、そのような質問、要望に対して、執行部はこう言った。検討はすると。日本の霞が関にいる役人のような答弁を人権の擁護者である弁護士会の執行部が平気で言っている。執行部が実現の手続も経ずに勝手に行ったロビー活動の根拠とされた、資料とされたペーパーについて、事後的にも出そうとしない。出すと約束しない。これは一体何であるのか。
     結局、日弁連執行部というのは、自分のやりたいことを下々の会員に事後的にも事前にも指摘されずにやりたいだけと。権力は腐敗すると聞いていたが、ここまで腐りきった権力者は初めて見た。
     内容の点について申し上げる。今回の6号議案について、執行部は、弁護士の窮状は理解しているが、弁護士の使命・役割として、人権擁護しなければいけない。サービスしなければいけない。だから提案するんだ。そうおっしゃった。ノブレス・オブリージュであったか、高貴な役職には高貴な責任が伴うと。しかし、今や弁護士というのは、執行部の皆様のように潤沢な資金、潤沢な経営力を持っているわけではない。私は66期である。谷間世代である。貸与金を借りた。弁護士になった時点で優に数百万の借金がある。弁護士になった後も、消費者金融からお金を借りて、何とか事務所を維持している。そういうことを全く理解されていない。自分たちはいい。それは日弁連の会長選挙に出て、各地を飛び回って、飲食を供用して、そして選挙に勝ち上がってくるようなそういうふうなお金があるわけであるから。そうでない弁護士が今増えている。
     我々が手弁当で、あるいは低廉な金額で市民に法的サービスを提供できる前提として、その基礎として弁護士の経営がある。そこをカバーせずに、弁護士も苦しいけれども市民も苦しいから、市民のために身を粉にしてサービスしましょうと言っても、実現できるわけがない。その点のことに全く思いをはせずに、机上の空論だけで、弁護士だから、弁護士の使命だからサービスをしましょう、苦しいけれどもと言っても、誰もついては来ない。そうではないか。荒会長、違うか。
     最後に、ここ数年の間、各野党から、それこそ立憲民主党や共産党からも、安倍政治を許さないという言葉が入った。私からは荒政治を許さないとだけ申し上げておく。以上である。


(5) 市民的及び政治的権利に関する国際規約19条は以下のとおりです。
① すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
② すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
③ 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護


10 「品位を失うべき非行」という概念は不明確であるとする,弁護士法人ベリーベスト法律事務所等の意見
(1) 審査請求書(令和2年6月11日公表)9頁及び10頁には以下の記載があります(書証番号及びURLは省略しました。)。
① 曖昧な文言(山中注:文脈からすれば,「品位」、「非行」及び「非弁提携」という文言)の下に広い裁量をそのまま弁護士の懲戒処分という重大な不利益処分の要件(さらには刑事処分)として適用すると、その場その場の恣意的判断に陥り、重大な過ちがおきやすい。そして、行政手続法12条は不利益処分の基準(「処分基準」)を設定することを求めている(努力義務として構成されているが、処分逃れの恐れなどがなければ設定すべきである。実際、国民の予測可能性を確保し恣意的な判断を抑制するため多くの行政庁が具体的な処分基準を定めている)のであるから、弁護士の懲戒処分にも、不利益処分である以上はこの考え方を適用すべきである。特に模範となるものは、丁寧な点数制をおいている交通違反者に対する反則金制度(道交法施行令別表第二、第三)、一級建築士の処分基準である。
     弁護士法(43条の15、49条の2)は行政手続法の定めのうち行政指導以外を適用除外としているが、それは普通の行政処分よりも手続保障がなくてもよいという趣旨ではなく、法律家の団体であるからにははるかに充実した権利防御手続を自主的に用意することが期待されているからである(そうでないというなら、弁護士会は「自由と正義」とか「法の支配」という看板を下ろすべきであろう。)。
② 弁護士会では、まっとうな権利防御手続を作ることはないどころか、取り調べに糾問手続を置き、行政手続き(予定される処分の通知、弁明・聴聞の機会の付与という権利防御手続)に著しく劣る手続しか用意していないうえに,処分基準を設定することなく、「品位」とは何か、「非弁提携」とは何かをきちんと検討していないので、場当たり的に判断しているというしかない。そうすると、恣意的になりやすいので、その具体的な適用についても、誤りであるとの異論が時々出されている。
(2) 弁護士法人ベリーベスト法律事務所,弁護士酒井将及び弁護士浅野健太郎に対する懲戒処分(業務停止6月)の審査請求事件に関して開設された,「非弁提携を理由とする懲戒請求について」と題するHPには例えば,以下の文書が載っています。
① 東京弁護士会懲戒委員会の議決書(令和2年2月28日付)
→ 令和2年3月12日に公表されたものですが,PDF55頁に文書の日付が載っています。
② 審査請求書(令和2年6月11日公表)
③ 日本弁護士連合会への審査請求について(令和2年6月11日付)


11 参考になる外部HP等の記事
(1) 刑裁サイ太のゴ3ネタブログ「平成26年中に公表された弁護士懲戒事例の分析」が載っています。
(2)   外部HPの「交通事故の悪徳弁護士事務所リスト一覧【2017最新ランキング】」に,交通事故事件に関する弁護士の懲戒事例が載っています。
(3) 弁護士懲戒処分検索センターHPの「弁護士懲戒情報」には以下の記載があります。
   弁護士に懲戒処分がある場合でも必ずしもすべてが悪徳とは限りません、懲戒内容にもよります。
   懲戒請求者の方が無茶をいった場合や弁護士会のお気入りでない弁護士に対する意図的な懲戒もあります。また、依頼者のために懸命に仕事をした結果、懲戒になってしまった場合、争いの相手方にとっては悪徳弁護士かも知れませんが、味方として考えれば心強い弁護士と考えることができるかもしれません。内容をよく確かめてからご自身で判断してください。
(4) ビジネスジャーナルの「「目立ちすぎた」大渕愛子、不当報酬受領で「重すぎる処分」の怪…弁護士会を逆なでか」には以下の記載があります
    実は、懲戒委員会が懲戒処分を判断する前には、とある方から「こうしたほうがいいよ」というアドバイスがなされることがあります。通称、「天の声」というようですが、弁護士会としては、身内の恥を公表することになる懲戒処分はなるべく下したがらない傾向にありますので、「天の声」によってすでに改悛したということになれば、「業務停止→戒告」や「戒告→懲戒しない」という軽減もあり得るわけです。
(5) 浦部孝法の法廷日記ブログ「弁護士が教える避けた方がいい法律事務所4選」には,①委任契約書を作らない法律事務所,②還暦オーバーの一人事務所,③やたらと広告を打っている事務所及び④懲戒歴がある弁護士は避けた方がいいと書いてあります。
(6) 日経ビジネスHPに「「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情」が載っています。
(7) 司法書士の場合,業務外の違反行為については,刑事罰の対象となる行為だけが懲戒処分の対象になるみたいです(司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方(処分基準等)別表23項参照)。


12 関連記事その他
(1)ア クロスレファレンス民事実務講義(第3版)5頁には,「原則:(山中注:相手方に対する文書は)丁寧,平易な文面にする。相手方を怒らせたり,驚かせたり,無用なプレッシャーを与えることが,依頼者のメリットとなるケースは殆どなく,デメリットは計り知れません。」とか,「内容証明郵便は「例外中の例外」と心得ましょう。例外は,(i)意思表示の証拠(時効完成猶予,遺留分侵害額請求,催告・解除通知など),(ii)接触禁止通告等をする文書,(iii)あえて圧迫感を与える必要あるとき,(ⅳ)証拠化のためなどです。」などと書いてあります。
イ 明らかに事実的,法律的根拠を欠いていて,通常の弁護士であれば容易にそのことを知り得たといえるのに,必要かつ可能な事実関係の調査及び必要な法令の調査を行うべき義務を怠ったまま損害賠償請求を行ったことが戒告となった事例として,平成28年12月28日発効の東京弁護士会の戒告事例があります(自由と正義2017年5月号81頁)。

(2)ア 行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっても,これを処罰することは憲法39条に違反しません(最高裁平成8年11月18日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年4月26日判決最高裁大法廷昭和33年5月28日判決最高裁大法廷昭和49年5月29日判決参照)。
イ 弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会に問題があったとしても,その責任は,その行為を行った弁護士会にあり,その申出をした弁護士には,故意に虚偽の事実を記載するなど弁護士会の判断を誤らせたというような事実が認められない限り,その照会申出行為は懲戒の対象とはならないと解されています(平成23年2月1日付の日弁連裁決の公告(ただし,日弁連懲戒委員会委員15名中7名の反対意見あり)参照)。
ウ 表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは,その解釈により,規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され,かつ,合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また,一般国民の理解において,具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければなりません(最高裁大法廷昭和59年12月12日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和50年9月10日判決参照)。
エ 弁護士に対する懲戒請求については不法行為が成立しないものの,弁護士に対する損害賠償請求訴訟の一部については不法行為が成立したと判断された事例として,大阪地裁平成29年1月20日判決(判例秘書に掲載)があります。
(3)ア 監査役が会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることを得ないとする旧商法276条(現在の会社法335条2項)の規定は,弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件につき会社から委任を受けてその訴訟代理人となることまでを禁止するものではありません(最高裁昭和61年2月18日判決)。
イ 最高裁令和4年6月27日決定は, 会社法423条1項に基づく損害賠償請求訴訟において原告の設置した取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が原告の訴訟代理人として行う訴訟行為を弁護士法25条2号及び4号の類推適用により排除することはできないとされた事例です。
(4) 解説弁護士職務基本規程第3版155頁には「依頼者が相手方本人と直接交渉をしようとしているのを知って、弁護士がこれを止めなかったからといって、直接本条に違反するものではないが、弁護士は、原則として、自らの依頼者に対してそのような直接交渉を慫慂すべきではない。むしろ、依頼者に対して、そのような直接交渉を思いとどまるよう、すすんで説得すべきであろう。」と書いてあります。
(5) クロスレファレンス民事実務講義(第3版)19頁には,「【実務の着眼】-親しい人の依頼は受けるな-」には以下の記載があります。
    依頼者が親戚や親しい友人であるような場合には,受任を差し控えて他の弁護士を紹介するのがよい。事件を遂行するためには,依頼者が通常の人には知られたくない秘密にわたる事項も知らなければならないし,処理結果が依頼者にとり満足できなければ人間関係が悪化する。仕事ではない人間関係が将来も続く場合には,仕事上の関係を持たない方がよいのである。逆に,依頼者と親密な友人関係を築くこと自体は悪いことではないが,友人関係を持つことは,仕事上の顧客を失うという側面もあることに留意したい(転ばぬ先の杖8)。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例
・ 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
 弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文
・ 「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
→ 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です。
・ 弁護士会の懲戒手続
・ 弁護士の戒告,業務停止,退会命令及び除名,並びに第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
・ 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
・ 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
・ 弁護士の懲戒処分の公告,通知,公表及び事前公表

弁護士の懲戒制度の概要

目次
1 懲戒手続の流れ
2   懲戒の種類
3 懲戒請求は誰でもできること等
4 明文化された弁護士会の懲戒処分基準は存在しないかもしれないこと
5 関連記事

1 懲戒手続の流れ
   日弁連HPの「懲戒制度」にある「弁護士の懲戒手続の流れ」を見れば,懲戒手続の流れが分かります。

2   懲戒の種類
(1) 弁護士に対する懲戒は,戒告,2年以内の業務停止,退会命令及び除名の4種類です(弁護士法57条1項)。
(2)ア 弁護士法人に対する懲戒は,戒告,2年以内の業務停止,退会命令及び除名の4種類です(弁護士法57条2項)。
イ   業務停止については,①主たる法律事務所が所在する弁護士会が行う「弁護士法人の業務停止」,及び②従たる法律事務所が所在する弁護士会が行う「弁護士法人の法律事務所の業務停止」の2種類があります。
ウ 従たる法律事務所が所在する弁護士会は退会命令は出せますが,除名できませんのに対し,主たる法律事務所が所在する弁護士会は退会命令は出せませんが,除名できます(弁護士法57条2項3号及び4号)。

3 懲戒請求は誰でもできること等
(1)ア 何人も,弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由(過去3年以内のものに限られることにつき弁護士法63条)があると思料するときは,その事由の説明を添えて,その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会(例えば,大阪弁護士会)にこれを懲戒することを求めることができます(弁護士法58条1項)。
イ 日弁連に対して直接,懲戒請求をすることはできないのであって,最初は所属弁護士会に対して懲戒請求をする必要があります。
(2)   懲戒請求者は,弁護士会の綱紀委員会又は懲戒委員会の決定に対して日弁連綱紀委員会に対して異議の申出をしたり(弁護士法64条),日弁連綱紀委員会の決定に対して日弁連綱紀審査会に対して綱紀審査の申出をしたりすることはできます(弁護士法64条の3)。
   ただし,懲戒請求者は,日弁連懲戒委員会の決定に対して不服申立てをすることはできません。
(3) 弁護士自治を考える会HPに「弁護士懲戒請求の書き方」が載っています。
(4) 弁護士会に対して懲戒請求をする場合,印紙代等の費用は不要です。


4 明文化された弁護士会の懲戒処分基準は存在しないかもしれないこと
(1) 行政機関の場合,不利益処分に関する処分基準を定め,かつ,これを公にしておくように努めなければなりませんし(行政手続法12条1項),不利益処分に関する処分基準を定めるに当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければなりません(行政手続法12条2項)。
(2) 私は,明文化された弁護士会の懲戒処分基準を見たことがありません。
   そのため,そのような基準は存在しないかもしれません。

5 関連記事
・ 弁護士会の懲戒手続
→ 綱紀委員会,懲戒委員会等について記載しています。
・ 弁護士の懲戒事由
・ 弁護士の懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
・ 日本司法支援センター(法テラス)を利用しなかったことに関して単位弁護士会で戒告となり,日弁連で不懲戒となった事例