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弁護士の懲戒処分に対する審査請求と取消訴訟(AI作成)

第1 審査請求から取消訴訟までの全体像

1 所属弁護士会の懲戒処分と日弁連の裁決

本記事は,所属弁護士会から懲戒処分を受けた弁護士又は弁護士法人が,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)への審査請求を経て東京高等裁判所に取消訴訟を提起するまでの手続を扱う。懲戒請求の開始から所属弁護士会の決定までについては「弁護士会の懲戒手続」が,実体的な懲戒事由については「弁護士の懲戒事由」がそれぞれ扱っている。本記事は一般的な情報を示すものであり,個別事件では処分書,裁決書及び通知日を基に別途検討する必要がある。

所属弁護士会から懲戒処分を受けた者は,日弁連に審査請求をすることができる。日弁連は,日弁連懲戒委員会の議決に基づいて裁決をしなければならない(弁護士法59条1項)。審査請求を却下又は棄却された者は,東京高裁に裁決取消訴訟を提起することができる(同法61条1項)。

2 裁決主義と日弁連による直接懲戒

所属弁護士会の懲戒処分については,原処分ではなく日弁連の裁決だけを取消訴訟の対象とする(弁護士法61条2項)。これは行政事件訴訟法10条2項の原則に対する特則である裁決主義であり,裁決取消訴訟では裁決固有の違法に限らず,所属弁護士会の原処分の違法も主張できる。

日弁連が弁護士法60条に基づいて直接懲戒した場合は,日弁連の処分そのものを対象とする処分取消訴訟となる。また,審査請求によって原処分が変更されても懲戒処分が残る場合には,変更後の裁決の取消しを求める余地がある(東京高裁平成元年4月27日判決・行裁例集40巻4号397頁。裁判所HP未掲載)。

平成15年法律第128号による改正前の弁護士法では,現在の61条に相当する規定が62条であった。そのため,古い裁判例が「弁護士法62条に基づく裁決取消請求」と表示していても,現行法の条番号と取り違えてはならない。現行62条は,懲戒手続中の登録換え又は登録取消し等を制限する規定である。

第2 審査請求及び取消訴訟の期限・当事者・管轄

1 日弁連への審査請求期間

弁護士法59条2項及び3項は行政不服審査法の一部規定を適用除外又は読替えの対象としているが,同法18条の審査請求期間は適用除外されていない。したがって,所属弁護士会の懲戒処分に対する審査請求は,原則として,処分があったことを知った日の翌日から3か月以内かつ処分があった日の翌日から1年以内にする必要がある。各期間には「正当な理由」がある場合の例外がある。

審査請求期間と後記の取消訴訟の出訴期間は,起算点も長さも異なる。最初に保存すべき資料は,①懲戒処分書及び告知・送達日を示す封筒その他の資料,②日弁連に提出した審査請求書及び証拠,③日弁連の裁決書及びその到達日を示す資料である。期限の検討を後回しにして実体論だけを調査することはできない。

2 取消訴訟の出訴期間

取消訴訟は,原則として,裁決又は日弁連の直接処分があったことを知った日から6か月以内に提起しなければならず,裁決又は処分の日から1年を経過したときも提起できない(行政事件訴訟法14条1項及び2項)。ここでも,各項ただし書の「正当な理由」がある場合は別である。

3 原告,被告,管轄及び審級

原告となるのは,日弁連の裁決により懲戒処分が維持又は変更された弁護士若しくは弁護士法人,又は日弁連から直接懲戒を受けた者である。被告は日弁連であり(行政事件訴訟法11条2項),第一審の専属管轄は東京高裁である(弁護士法61条1項)。東京高裁が第一審となるため,その終局判決に対して民事訴訟法所定の上告等を最高裁判所に申し立てる二審制である。

東京高裁の具体的な担当部は裁判事務の分配により変わり得る。特定の部が常に担当すると一般化することはできない。

4 業務停止期間満了後の訴えの利益

取消訴訟は,裁決又は処分の効果が期間の経過により消滅した後も,取消しによって回復すべき法律上の利益が残るときは提起できる(行政事件訴訟法9条1項括弧書き)。最高裁昭和58年4月5日第三小法廷判決(昭和56年(行ツ)第171号・裁判集民事138号493頁)は,当時の会長選挙規程により,業務停止処分を受けた弁護士が一定期間日弁連会長の被選挙権を失う場合について,業務停止期間満了後の訴えの利益を認めた。

同判決は,当時の選挙規程に基づく具体的な法的制約を根拠とした事例判決である。懲戒歴が不名誉であるという事実上の不利益だけで訴えの利益が当然に認められると一般化せず,取消しによって回復する現在の法律上の利益を特定する必要がある。

第3 裁判所の審査対象と主張立証

1 処分時を基準とする違法性審査

最高裁昭和28年10月30日第二小法廷判決(昭和26年(オ)第412号)は,取消訴訟における裁判所の判断について,処分当時の法令及び事実状態に照らして処分の違法性を判断するものであり,裁判所が行政庁の立場に立って口頭弁論終結時にどの処分が相当かを決めるものではないとした。したがって,裁判所は日弁連に代わって戒告,業務停止その他の処分を選び直すのではなく,裁決又は処分に取消原因となる違法があるかを審査する。

最高裁昭和34年12月4日第二小法廷判決(昭和33年(オ)第831号・民集13巻12号1599頁)は,懲戒処分後に懲戒請求者と対象弁護士との間で示談が成立したという事情は,既にされた懲戒処分の適否を左右しないとした。もっとも,示談,被害回復又は反省等の事後的事情が,取消判決後の再度の裁決その他の場面で情状として考慮され得ることまで否定した判決ではない。

2 懲戒権者の裁量と取消原因

最高裁平成18年9月14日第一小法廷判決(平成15年(行ヒ)第68号・裁判集民事221号87頁)は,ある事実が懲戒事由に当たるか,懲戒するか,どの処分を選ぶかは弁護士会の合理的な裁量に委ねられるとした。その上で,懲戒処分が違法となるのは,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え,若しくは裁量権を濫用してされたと認められる場合であるとした。

この審査基準の下では,別の処分も合理的に考えられるというだけでは取消原因にならない。原告側の主張は,①懲戒事由を基礎付ける重要事実に証拠上の基礎がないこと,②認定事実から懲戒事由該当性を導く評価に誤りがあること,③考慮すべき情状の欠落又は考慮してはならない事情が処分選択に影響したこと,④防御の機会その他の手続保障に結論へ影響し得る違反があることを区別して組み立てる必要がある。

3 手続上の違法と日弁連段階の審査

東京高裁平成23年9月8日判決は,日弁連の裁決が弁護士に対する懲戒の実質的な最終処分としての性質を持つことを踏まえ,原処分の手続の一部に問題があっても,それが手続全体を無効とするほど重大でない場合には,日弁連が所要の手続を経て原処分を変更し,又は結論が一致するときに審査請求を棄却する余地があるとした。同判決は請求棄却判決であり,手続上の問題があれば直ちに裁決が取り消されるとしたものではない。

提訴前には,懲戒処分書,裁決書,自ら提出した答弁書・証拠及び手元にある客観資料を時系列に並べ,裁決が採用した各事実と証拠の対応を確認するのが低負担の出発点となる。追加資料の取得又は多数の関係者の尋問等は,低負担の確認後にも残る重要事実の争いを解決でき,その事実が変われば結論も変わり得る場合に限って検討すべきである。主張が処分後の事情又は裁量判断への抽象的な不満にとどまり,重要事実の誤り,評価の逸脱又は結果に影響する手続違反を具体化できない場合には,訴訟の負担と見通しを改めて評価する必要がある。

第4 取消訴訟と執行停止

1 取消訴訟を提起しても処分は停止しないこと

取消訴訟を提起しただけでは,懲戒処分又は裁決の効力は停止しない(行政事件訴訟法25条1項)。処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があり,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがなく,本案について理由がないとみえないときは,申立てにより執行停止が認められることがある(同条2項から4項まで)。

2 執行停止に関する最高裁決定

最高裁平成19年12月18日第三小法廷決定(平成19年(行フ)第5号・裁判集民事226号603頁)は,業務停止3か月の処分を受けた弁護士が,停止期間中に期日が指定されたものだけで31件の訴訟案件を受任していたなどの具体的事情の下で,社会的信用の低下及び依頼者との信頼関係の毀損等を「重大な損害」と認めた。これに対し,最高裁平成15年3月11日第三小法廷決定(平成14年(行フ)第11号・裁判集民事209号155頁)は,戒告処分の公告による社会的信用の低下について,当時の行政事件訴訟法25条2項の「回復の困難な損害」を否定した。

したがって,執行停止の可否は,処分の種類だけで決まらない。受任事件の数及び進行状況,期限・期日の集中,依頼者への具体的影響,代替対応の可否並びに処分期間との関係を早期に整理する必要がある。

3 業務停止中の訴訟行為

最高裁令和7年12月18日第一小法廷決定(令和7年(マ)第490号)は,業務停止処分に違反してされた即時抗告について,同決定の事実関係の下では補正を命ずることなく不適法として却下すべきものとした。業務停止処分の効力が訴訟行為にも直接影響し得るため,審査請求,取消訴訟及び執行停止の準備は処分の効力発生後に先送りすべきではない。

第5 懲戒請求者の不服申立て及び民事責任との区別

1 懲戒請求者には取消訴訟の原告適格がないこと

最高裁昭和38年10月18日第二小法廷判決(昭和37年(オ)第1455号・民集17巻9号1229頁)及び最高裁昭和49年11月8日第二小法廷判決(昭和49年(行ツ)第52号・民集28巻8号1598頁)は,懲戒請求者による日弁連の裁決の取消訴訟を認めていない。後者は,弁護士懲戒制度が公益的見地から職業秩序を維持するための制度であり,懲戒請求者個人の利益を保護する制度ではないとして原告適格を否定した。

2 懲戒請求者に認められる制度内の不服申立て

懲戒請求者は,所属弁護士会が不懲戒とした場合,相当の期間内に手続を終えない場合又は処分が不当に軽いと考える場合に,日弁連へ異議を申し出ることができる(弁護士法64条1項)。不懲戒決定又は軽すぎる処分に対する異議申出は,所定の通知を受けた日の翌日から3か月以内にする必要がある(同条2項)。一定の場合に認められる綱紀審査会への綱紀審査申出も,処分を受けた弁護士側の審査請求及び取消訴訟とは別の制度である(同法64条の3)。

3 相当性を欠く懲戒請求の不法行為責任

最高裁平成19年4月24日第三小法廷判決(平成17年(受)第2126号・民集61巻3号1102頁)は,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠き,請求者がそのことを知りながら,又は通常人であれば普通の注意を払うことにより知り得たのに懲戒請求をしたなど,制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くときは不法行為を構成するとした。この判決は懲戒請求者の取消訴訟における原告適格を判断したものではない。詳しくは「不当な懲戒請求と不法行為責任」で扱っている。

第6 取消判決の効力と近年の取消事例

1 取消判決後は日弁連が改めて裁決すること

裁決を取り消す判決は第三者に対しても効力を有し(行政事件訴訟法32条1項),裁決をした日弁連その他の関係行政庁を拘束する(同法33条1項)。審査請求を却下又は棄却した裁決が取り消されたときは,日弁連が判決の趣旨に従って改めて裁決をしなければならない(同条2項)。裁判所が自ら懲戒処分を戒告,業務停止その他の処分へ変更する仕組みではない。

2 東京高裁平成24年11月29日判決

東京高裁平成24年11月29日判決(判例時報2198号59頁)は,第二東京弁護士会の業務停止1か月の懲戒処分に対する審査請求を棄却した日弁連の裁決について,重要な事実認定が基礎を欠くとして取り消した。日弁連は再度の審査を経て,平成25年10月15日,原処分を戒告へ変更した(弁護士懲戒事件議決例集第16集82頁~86頁)。同判決は裁判所HP未掲載である。

3 東京高裁令和5年11月15日判決と再裁決

令和5年12月27日付官報及び『自由と正義』2024年2月号74頁の公告によれば,第一東京弁護士会の業務停止2か月の処分を日弁連が業務停止1か月へ変更した裁決について,東京高裁令和5年11月15日判決が日弁連の裁決を取り消し,同月30日に確定した。令和6年9月18日付官報によれば,日弁連は再度の審査を経て,同年8月21日,原処分を取り消して懲戒しない旨の裁決をし,同月28日に効力が生じた。

同判決は裁判所HP未掲載であり,事件番号及び判決理由の全文を公開一次資料では確認できない。そのため,公告で確認できる取消しの結論,確定日及び再裁決の内容を超えて判決理由を推測することはできない。

4 東京高裁令和7年2月13日判決2件と再裁決

令和7年3月19日付官報の2件の公告によれば,第二東京弁護士会の各戒告処分に対する審査請求を棄却した日弁連の各裁決について,東京高裁令和7年2月13日判決がそれぞれ裁決を取り消し,各判決は同月28日に確定した。令和7年9月12日付官報の各公告によれば,日弁連は同年8月19日の再度の審査により各原処分を取り消して懲戒しない旨の裁決をし,各裁決は同月25日に効力が生じた。

各判決も裁判所HP未掲載であり,事件番号及び判決理由の全文を公開一次資料では確認できない。これらの事例から確実に確認できるのは,裁決取消判決の確定後に日弁連が判決の趣旨に従って再度の裁決をしたという手続経過である。

第7 公告と関連記事

1 懲戒処分及び取消判決等の公告

日弁連は,弁護士会又は日弁連が対象弁護士等を懲戒したときは,遅滞なく懲戒処分の内容を官報で公告しなければならない(弁護士法64条の6第3項)。日弁連の「懲戒処分の公告及び公表等に関する規程」に基づき,審査請求の裁決,裁決取消訴訟の確定判決及びその後の再裁決についても官報又は日弁連の機関雑誌『自由と正義』で公告を確認できる。公告,通知,公表及び事前公表の違いは「弁護士の懲戒処分の公告,通知,公表及び事前公表」で扱っている。

2 取消訴訟を検討する際の確認順序

対象弁護士側では,①懲戒処分と日弁連裁決の各理由を分けること,②審査請求期間と出訴期間を別々に計算すること,③主張を重要事実,懲戒事由該当性,処分選択及び手続保障に分けること,④業務停止等の現実的影響がある場合は執行停止の要否を同時に検討すること,⑤取消判決後は日弁連の再裁決が必要であることを順に確認する必要がある。この順序により,所属弁護士会の原処分,日弁連の裁決,東京高裁の取消判決及び日弁連の再裁決を混同せずに整理できる。

第8 出典・参考資料

1 法令及び公的資料

2 裁判例

3 公告,議決例集及び文献

  • ① 日本弁護士連合会「弁護士懲戒事件議決例集第16集」82頁~86頁。
  • ② 令和5年12月27日付官報「裁決取消訴訟の判決確定の公告」。
  • ③ 『自由と正義』2024年2月号74頁「裁決取消訴訟の判決確定の公告」。
  • ④ 令和6年9月18日付官報「裁決の公告」。
  • ⑤ 令和7年3月19日付官報「裁決取消訴訟の判決確定の公告」2件。
  • ⑥ 令和7年9月12日付官報「裁決の公告」2件。
  • ⑦ 日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法[第5版]』弘文堂,2019年,513頁~524頁及び564頁~573頁。
  • ⑧ 中原茂樹『基本行政法[第4版]』日本評論社,2024年,365頁~369頁。
  • ⑨ 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法[第7版]』有斐閣,2021年,139頁~145頁。
  • ⑩ 岡田正則ほか編『判例から考える行政救済法[第2版]』日本評論社,2019年,106頁~111頁。
  • ⑪ 塩野宏『行政法Ⅱ[第6版]』有斐閣,2019年,212頁~220頁。
  • ⑫ 升田純『なぜ弁護士は訴えられるのか―判例からみた現代社会と弁護士の法的責任』民事法研究会,2016年,515頁,528頁~530頁,533頁~536頁,563頁~572頁及び593頁~600頁。