目次
0 総論
1 戒告
2 業務停止
3 退会命令
4 除名
5 弁護士の懲戒処分に関する日弁連副会長の説明
6 第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
7 関連記事その他
0 総論
(1)ア 弁護士に対する懲戒処分は,それが対象弁護士に告知されたときにその効力が生じます(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。
イ 最高裁大法廷昭和42年9月27日判決が出る前は,弁護士の懲戒処分は,他の行政処分と異なり,告知と同時に効力を生せず,確定を待って初めて効力を生ずるものと解釈され,実務の上でもそのように取り扱われていました(日弁連二十年史99頁及び100頁)。
(2) 憲法39条後段の規定は何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされるべきものではないという根本思想に基づく規定です(最高裁大法廷昭和25年9月27日判決)。
そして,弁護士法に規定する懲戒は刑罰ではありませんから,被告人が弁護士法に規定する懲戒処分を受けた後,さらに同一の事実に基づいて刑事訴追を受けて有罪判決を言い渡されたとしても,二重の危険にさらされたものということはできません(最高裁昭和29年7月2日判決)。
(3) 弁護士会の懲戒処分は,弁護士にとって刑罰にも比すべき重大なものではあるが,弁護士法の定めるところにより,弁護士の使命および職務の特殊性にかんがみ,弁護士会に与えられた公の権能の行使として当該弁護士会が自主的に行うものであって,その性質は,広い意味での行政処分としての懲戒罰であると解されています(東京高裁平成元年4月27日判決)。
(4) 弁護士懲戒処分検索センターHPの「懲戒の種類」に,戒告,業務停止,退会命令及び除名に関する説明が載っています。
ある会社。ぼろもうけしたので臨時ボーナス→みんな大喜び、2年目も同じ。3年目、そうでもなかったので臨時ボーナスはなし→みんなブーブー。→「これだったら最初から臨時ボーナス出さなきゃ良かった」という社長の話を聞いたことがある。 https://t.co/3jGIShrffL
— スラ弁(弁護士大西洋一) (@o2441) June 28, 2022
1 戒告
(1)ア 戒告とは,対象弁護士に対し,その非行の責任を確認させて反省を求め,再び過ちがないように戒める懲戒処分をいい,懲戒処分の中では最も軽い処分です。
イ 弁護士に対する戒告処分は,それが当該弁護士に告知された時にその効力が生じ,告知によって完結するのであって,その後に会則97条の3第1項に基づいて行われる公告は,処分があった事実を一般に周知させるための手続であって,処分の効力として行われるものでも,処分の続行手続として行われるものでもありません(最高裁平成15年3月11日決定)。
(2) 戒告を受けた弁護士は,処分の告知を受けた後も従前通り弁護士業務を行うことができますし,弁護士たる身分及び弁護士資格を失うことはありません。
ただし,戒告を受けた弁護士が所属している法律事務所は1年間,東京三弁護士会主催の司法修習生向け就職説明会に参加できなくなります(「司法修習開始前の日程」参照)などの効果を伴います。
また,戒告の理由の要旨が「自由と正義」等に掲載されるため,自分の不祥事の内容が弁護士業界に広く知られることとなります。
そのため,懲戒処分としての戒告は,軽い処分とはいえません。
(3) 弁護士自治を考える会HPの「弁護士懲戒処分〔戒告〕と〔業務停止〕ではどこが違うのか」にも,戒告と業務停止は月とスッポンぐらいに処分の重さに違いがあると書いてあります。
2 業務停止
(1) 業務停止とは,対象弁護士に一定期間,弁護士業務を行うことを禁止する懲戒処分をいいます。
(2) 業務停止を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時から一定期間,弁護士業務を行うことができなくなります。
ただし,退会命令及び除名と異なり,弁護士たる身分及び弁護士資格を失うわけではありません。
(3)ア 弁護士業務は,その性質上,高い信用の保持と業務の継続性が求められますところ,多数の訴訟案件,交渉案件を受任している弁護士が数か月間にわたる業務停止処分を受けた場合,その間,法廷活動,交渉活動,弁護活動はもちろんのこと,顧問先に係る業務を始めとして一切の法律相談活動はできず,業務停止処分により,従前の依頼者は他の弁護士に法律業務を依頼せざるを得なくなりますところ,進行中の事件の引継ぎは容易ではありません。
また,懲戒を受けた弁護士の信用は大きく失墜しますし,業務停止期間が終了しても,いったん他の弁護士に依頼した元の依頼者が再度依頼するとは限らず,また,失墜した信用の回復は容易ではありません(最高裁平成19年12月18日決定における裁判官田原睦夫の補足意見参照)。
そのため,懲戒処分としての業務停止は,非常に重い処分であるといえます。
イ 弁護士法人が業務停止を受けた場合の影響の大きさについては,msnニュースの「アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み 懲戒の段階によって影響は断然変わってくる」が参考になります。
(4) 1か月を超える期間の業務停止処分を受けた弁護士又は弁護士法人は,依頼者が委任契約の継続を求める場合であっても,委任契約を全部解除しなければなりません(被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)第二の一)。
(5)ア 1か月を超える期間の業務停止処分を受けた弁護士又は弁護士法人は,所属弁護士会に対し,戸籍謄本等請求用紙を返還しなければなりません(弁護士につき戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則7条1項,弁護士法人につき同規則7条2項)。
イ 戸籍謄本等請求用紙とは,弁護士が,戸籍法及び住民基本台帳法並びにこれらに基づき定められた政省令の規定に基づき弁護士の業務に関する戸籍謄本,住民票の写し等の交付の請求に使用する用紙であって,日弁連が作成したものをいいます(戸籍謄本等請求用紙の使用及び管理に関する規則2条)。
個人事務所の場合、業務停止命令で良い顧客が減り、貧すれば鈍するで客筋が悪くなり、メンタルダウンや収益低下が起き悪循環に陥るということもあります。課徴金以外にも業務改善命令や新規契約停止を追加する手もありそうですね。 https://t.co/RrGlqgFAIH
— 古家野 彰平 (@shoheikoyanolaw) February 7, 2021
3 退会命令
(1) 退会命令とは,対象弁護士をその所属弁護士会から一方的に退会させる懲戒処分をいいます。
(2) 退会命令を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時からその所属弁護士会を当然に退会して弁護士たる身分を失います。
ただし,除名と異なり,弁護士資格を失うわけではありません。
(3)ア 退会命令を受けた弁護士は,法的には,改めて入会を希望する弁護士会を通じて弁護士登録の請求をすることができます。
しかし,「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」(弁護士法12条1項柱書)に該当するかどうかが特に審査され,当該おそれがあると判断された場合,入会しようとする弁護士会から日弁連への登録請求の進達を拒絶されることがあります。
イ 弁護士会の入会審査については,「弁護士登録制度」を参照してください。
(4) 懲戒処分としての退会命令は,弁護士生命を事実上終わらせる可能性があるぐらい,重い処分です。
4 除名
(1) 除名とは,対象弁護士の弁護士たる身分を一方的に失わせる懲戒処分をいいます。
(2) 除名処分を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時からその所属弁護士会を当然に退会して弁護士たる身分を失い,かつ,処分の告知を受けた日から3年間,弁護士資格を失います(弁護士法7条3号)。
(3) 除名された弁護士は,告知の日から3年が経過するまでの間,弁護士登録の請求をすることができません。
また,告知の日から3年が経過してから弁護士登録の請求をした場合,「弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者」(弁護士法12条1項柱書)に該当するかどうかが特に審査され,当該おそれがあると判断された場合,入会しようとする弁護士会から日弁連への登録請求の進達を拒絶されることがあります。
(4) 懲戒処分としての退会命令は,弁護士生命を事実上終わらせる可能性が極めて高い,重い処分です。
5 弁護士の懲戒処分に関する日弁連副会長の説明
・ 井元義久 日弁連副会長は,法曹制度検討会(第4回)(平成14年5月14日実施分)において以下のとおり説明しています。
懲戒処分というのがどういうものであるかということを御理解いただくために、若干申し述べさせていただきます。まず、資料3をごらんいただきます。懲戒処分につきましては、4つの種類がございまして、まず軽い順番からいきますと「戒告」、次に2年以内の「業務停止」、更に「退会命令」、「除名」という4段階になっております。これは要するに、非行が軽いという順番でこういう具合に懲戒処分がなされるということでございます。退会命令と除名というのは、弁護士会は強制加入団体でございますから、弁護士会に加入しないと弁護士活動はできないということは御承知のとおりだと思いますが、退会命令と除名の違いというのは、「綱紀・懲戒制度に関する資料」の資料3に書いておりますので、ごらんいただければ幸いでございます。
いずれの処分がなされた場合でも、日弁連の機関誌『自由と正義』に毎月掲載されます。したがいまして、会員には少なくとも全員に周知徹底されておるということでございます。業務停止以上になりますと、弁護士会から最高裁、最高検などを含め、弁護士会のある地域の地方裁判所及びその支部、地方検察庁及びその支部、簡易裁判所、区検察庁、都道府県、そういうところ全部に懲戒された弁護士の氏名、住所、生年月日、それから懲戒の種類、内容、業務停止になりました場合はその期間、こういうものがすべて通知される仕組みになっておりまして、更に記者会見が行われて公表されます。ときどき新聞に載っているのは、この記者会見をされた結果でございまして、これは弁護士会が積極的にそのような外部公表をしているということでございます。
それから、更に懲戒された弁護士への執行といたしましては、弁護士会が担当副会長、あるいは事務職員がその弁護士の事務所に行きまして、弁護士の看板をはずす。それからバッチの返還をさせる。更に看板が撤去できない場合は、白紙を看板の上に張ってくるということをしております。そして、弁護士は現在受任している事件、これもすべて辞任しなければいけない。更に顧問会社との契約は即時解約しなければいけないというような極めて厳しい処分だということになっております。この辺を十分御理解くださいまして、今回の綱紀・懲戒問題の制度設計については、お考えいただければ弁護士会としては幸いだと考えております。
6 第二東京弁護士会の名簿登録拒否事由
第二東京弁護士会は,「各種法律相談,弁護士紹介等担当者名簿に関する規則」6条に基づき,以下の事項に該当する会員については,名簿への登録を拒否しているみたいです(二弁フロンティア2018年7月号の「弁護士保険とリーガル・アクセス・センター~その期待と課題,今後の展望~」末尾26頁及び27頁)。
① 当会または日弁連の懲戒委員会で審査中
② 戒告処分から3年を経過していない
③ 業務停止明けから5年を経過していない
④ 過去20年間に戒告1回以上+業務停止1回以上、または過去20年に戒告3回以上
⑤ 退会命令または除名の懲戒処分を受けたことがある
⑥ 会費免除中(出産・育児を理由とするものを除く)
⑦ 過去3年に会費滞納額が6か月分以上に達したことがある
⑧ 非弁提携の疑いで是正指導を受けてから1年を経過していない
⑨ 会立件により綱紀委員会で調査中
⑩ 法テラスの契約締結拒絶期間中
⑪ 倫理研修の未履修による措置を受け、措置の期間中
⑫ 市民窓口への苦情が一定期間中に一定回数を超え事情聴取の対象となり、事情聴取の結果名簿への登録拒否が相当と認められた会員
など。
7 関連記事その他
(1)ア 普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は従前,司法審査の対象外でしたが(最高裁大法廷昭和35年10月19日判決),最高裁大法廷令和2年11月25日判決によって司法審査の対象となりました。
イ 政党が党員に対してした処分は,一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,裁判所の審判権は及びません(最高裁昭和63年12月20日判決)。
(2) 自由と正義2018年12月号64頁に載ってある,大阪弁護士会の業務停止3月(平成30年9月12日発効)の「処分の理由の要旨」は以下のとおりです(「【弁護士】◯◯ ◯◯ 大阪:業務停止3月」(リンク先の記事は実名です。)参照)。
① 被懲戒者は、懲戒請求者株式会社AからB株式会社の懲戒請求者A社らに対する所有権移転登記手続等を求める訴訟等への対応につき受任し、2014年12月5日に成立した訴訟上の和解に基づきB社に支払うために懲戒請求者A社から合計6460万円の送金を受けたが、B社が代理人弁護士を解任していたため、上記和解の条項にのっとって支払をすることができず、上記金6460万円を預かったままとなっていたところ、2015年7月17日に懲戒請求者A社が被懲戒者に対し一切の委任契約の解除を申し入れ、被懲戒者がこれに同意した後、明確な報酬合意がないにもかかわらず、弁護士報酬等との相殺を一方的に主張して上記6460万円を懲戒請求者A社に返還しなかった。
② 被懲戒者は、C株式会社が懲戒請求者A社に対して提起した訴訟において、C社の要請に応じて、被懲戒者が懲戒請求者A社の代理人として活動してきた経過や職務上知り得た事実をかなり詳細に記載した陳述書を2016年10月26日付けで作成し、C社はこれを証拠として裁判所に提出した。
③ 被懲戒者の上記①の行為は弁護士職務基本規程第45条に、上記②の行為は同規程第23条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 弁護士の懲戒処分と取消訴訟
・ 弁護士の業務停止処分に関する取扱い
・ 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)
・ 弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
遺言執行者をした後に特定の相続人の代理人をすれば原則として懲戒されますが,
私が代理人として関与した懲戒請求の場合,破産管財人をした後に非免責債権に関して破産者の訴訟代理人をした兵庫県弁護士会副会長経験者は日弁連懲戒委員会の全員一致で懲戒されませんでした。https://t.co/qE20MMGBxJ— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) October 3, 2019
とのことだそうです。ということは主張の当否など全く考えずクレーマーのお気持ちを通すために安易に紛議調停を進めて相談受付としての責任を放棄するのが市民相談窓口であるという理解になる。ダメなもの、通らないものを通らないというアドバイスをするのも立派な専門家のアドバイスのはずだが。
— ひなた荘の管理人(弁護士) (@shinobuhome) June 29, 2022