法務省関係

検察庁のその他の職員

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)90頁ないし91頁には,「第4節 その他の職員」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。
   
   検察庁に検察技官が置かれる(庁法第28条第1項)。検察技官は捜査等の検察事務に関しては科学的知識を活用するために,その技術を担当するものとして庁法において創設せられた機関であって,検察官の指揮を受けて,通信,採証等の技術を掌る(同条第3項)ものである。もっとも,検察事務官には捜査の権限があるのに反し,検察技官は,事務上の補助機関であり,捜査の権限を有しない。
   最高検察庁に検事総長秘書官が置かれる(庁法第26条第1項)。検事総長秘書官は,検事総長の命を受けて機密に関する事務を掌る(同条第3項)。
   検察庁の職員としては,庁法上その職務が明定されている検察官,検事総長秘書官,検察事務官及び検察技官のほかに,事務員,技能員,庁務員等の職員があり,上司の命により検察庁における各般の事務の補助をしている。事務員,技能員,庁務員等が捜査に関する権限を有しないことは,いうまでもない。

検察制度の本質

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)7頁ないし9頁には,「第3節 検察制度の本質」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 社会の秩序を破った者を処罰することは,人間社会の成立とともに始まったといわれる。古代の社会における秩序を乱す行為は,殺人,傷害,窃盗などであったが, これに対する処罰は,民事,刑事の分化もなく,私人間, あるいは,その属する家や部族の間の復仇や自力救済に放任され,家や部族内のものについては,家長や部族の長の手に委ねられていた。その後,部族間の争闘の歴史を経て,部族等の上位社会としての国家が成立すると, 国家は部族問の紛争はもとより社会間の紛争にも介入するようになり,国家権力の強大化とともに犯罪者に刑罰を科することは, 「国家刑罰権」 として,国家の手に収められた。
   このようにして,封建国家や絶対王制国家においては,全ての国家作用がそうであったように,刑罰権も領主や王の絶対権力に基づいて行使された。
   
2 古来,法は正義を理念とし,裁判は公正を生命とするといわれながらも,領主や王が全権力を掌握し人民に対し生殺与奪の自由をもっていた以上,刑罰を科すについての法や裁判は,領主や王の恋意を覆い隠す装飾にすぎない場合もあり,人民の権利や自由に対する制度的な保障ではなかった。すなわち, そこには権力分立の観念はなく,全ての官吏は領主,国王の部下,代官であり,裁判官と行政官の職分の区別もなかった。
   したがって, 当時の刑事裁判手続は,裁判官(官憲)の掌中に収められ,裁判官が自ら犯人を捜して捕え,何らの訴えなしに職権をもって自ら審理を開始し,必要があれば拷問を用いるなど,一方的な秘密審理によって行なわれた(糺問手続の形式)。
   
3 しかし, 自由民権思想の発展,高揚は,領主や王の絶対権力を否定し,国家の統治権は立法,行政, 司法の三権に分立され,法による統治の時代をもたらした。かくして, これまで国王の代官・部下として社会の秩序を維持し公共の利益を図るために司法と行政の両機能を果してきた裁判所は, 司法の機能のみを担うこととし, 自ら進んで犯罪者に対して刑罰権を行使するという行政の機能を他に譲ることとなった(注1)。そして,裁判所は,紛争上対立する当事者から訴が提起された場合に,はじめて法律を基準とし, その適用によって判定を与えることに専念することとなった(弾劾手続の形式) (注2)。
(注1) 司法と行政の区別
   司法とは,「法の適用によって当事者間の具体的な法律上の争訟を解決する国家作用をいう」 とされているが,行政とは,「国家作用のうち,立法と司法とを除いた残余の国家機能をいう」 とされ,行政については,積極的な定義付けができないとする見解が有力である。
(注2)  糺問手統(糺問主義)と弾劾手続(弾劾主義)
   糺問主義(手続) とは,刑事訴訟手続上の基本的な脈理で, (イ)訴訟の開始が,訴えによらず,裁判所の職権による主義,(ロ)訴訟が開始された後,訴訟の主体として,裁判所・被告人の2面関係しかなく,裁判所・訴追者・被告人の3面関係ではない訴訟の形式を意味する。 これに対して,弾劾主義(手続) とは,(イ)刑訴法上,裁判機関以外の者の訴えを待って訴訟を開始する主義,(ロ)その場合,訴えを提起した者が当事者となるのが通例であるから,裁判所と積極・消極の両当事者の3主体によって構成される訴訟の形式を意味する。したがって,不告不理の原則は,弾劾主義の本質的内容をなすものといえる。
   
4 このようにして,刑事裁判手続は,訴訟手続の形式による公開審理によって行われるようになった。 ところで,刑事裁判手続が訴訟手続(弾劾手続)の形式で行われるためには,必然に,原告にあたる訴追者がなければならない。これを被害者や一般民衆の手に委ねる(私人訴追主義) と,訴追が私憤等によって左右されて偏ぱなものとなる場合があって適切ではない。訴追は,本来,冷静な合理的処置として行われなければならないこと,また,偶然的,恣意的でなく一定方針で画一的に行われる必要があること,訴追は司法権と行政権の接点にあるものであることなどを考えると, その権限は,公正な立場にある一定の国家機関をして分担せしめることが適切・妥当である (国家訴追主義)。
   
5 以上のように,国家の統治権を三権に分立し,人権を保障し,社会の平和を保持して公共の利益を図るためには,公益の代表として,刑事について公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求するなどの機能を担う機関が必要であり,欠くことができない。 ここに検察制度が誕生した理由がある。
   したがって,検察制度は,三権分立,特に司法権の独立という国家の体制を維持,発展させるために創設されたものであり, それに奉仕するものである。この意味において,検察制度の発展によって, 司法の独立の原則もまた確立せられたものであるといってよい。

検察制度の沿革

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)3頁ないし7頁には,「第2節 検察制度の沿革」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 裁判と刑罰の制度は人間社会の成立に始まっているが,現在のような訴追権(公訴権)を独占行使する機関としての検察制度は,近代に始まるといってよい。
   現在の検察制度に類似したものとしては,唐の御使台や, これを継受した我が王朝時代の弾正台があった。 これらは,官吏監察の制度で,風俗を粛正し, 内外の非違を弾奏することを職務としていた。いずれも,独占的訴追機関ではないが,犯罪を糺弾する職責をもっていた点で,一種の検察機関といえるものであった。それが時代の下がるに伴い,検非違使,奉行の制度となり,検察は警察及び裁判と一体として行われるに至って検察制度と目すべきものは姿を消した。 ところが,明治初頭の律令法制の一部復活により,明治2年5月22日,弾正台が設けられ,行政警察と犯罪の糾弾をあわせ行ったが, 明治4年7月9日, 司法省の設置とともに廃止された。
   
2 さて, 明治初期,我が国の法制度は, フランス法の継受によって樹立されたが,検察制度もまたフランス法の継受によった。
   フランスにおいては,13世紀ころから国王(国庫)の利益を代表し擁護する 「国王の代官」の制度が設けられていた。 この「代官」は王の財源となっていた罰金や財産没収の執行にあたったが, 王権が強大になるとともにその権限を拡大し, 国家や社会の公益の擁護に任ずるようになり,16世紀の半ばころから,裁判所に附置されて一般人民からの告訴,告発を受け, 犯罪の捜査を行い,裁判所に犯人の処罰を申し立て,刑を執行するほか,公益の代表者として民事訴訟に立ち会い, また, 司法行政事務を監督する権限を有していた。
ところが, フランス大革命(1789年)により旧体制は崩壊し,刑事裁判手続は,イギリス法を模倣して創設され,従来の糺問手続が廃されて弾劾手続(8頁注2参照〉が採られた上, 陪審制度(起訴陪審,審理陪審) も設けられた。 これによって, 旧来の「国王の代官」 もその姿を消すに至った。
   しかし,革命による刑事手続,殊に起訴すべきか否かを陪審員によって決する起訴陪審の制度は, その使命を果たし得ず, その結果,犯罪の訴追は著しく活発を欠き,全フランスに盗賊が思うままに跳梁し,社会の秩序と平和を乱した。かくて,「国王の代官」が想起され,革命9年(1801年)雨月7日の法律は, 地方その他の一部勢力や偏見から超越してその職務を遂行すべき公訴官一「政府(人民)の代官」一が創設され,これが近代的な検察官制度の始まりだとされている。
   これによって,刑事訴追の公益上の必要と被告人の立場を保護する自由主義的要求とが調和されるに至り,その後数次の改正を経て,1808年11月27日公布の治罪法に,kって, 「検察官」制度が確立され,国家は,検察官をして公訴を提起せしめ,栽判所をしてそれを審判せしめることになった。フランス治罪法は,やがてヨーロッパ諸国,アメリカ,東洋にと継受されていった。
   
3 我が国に検察官がはじめて設けられたのは,明治5年8月3日太政官達「司法職務定制」においてである。同定制では「検事ハ法憲及人民ノ権利ヲ保護シ良ヲ扶ケ悪ヲ除キ裁判ノ当否ヲ監スルノ職トス」 とし,「検事ハ裁判ヲ求ムルノ権アリテ裁判ヲ為スノ権ナシ」,「聴訟ニハ検事必ス連班シ検事出席セサレハ判事独リ裁判スルコトヲ得ス」 と規定されている。
   しかし, 当時, フランス法制を十分に継受しておらず,検察官の公訴によらないで裁判所が職権で審判を開始する場合もあり, 国家訴追主義と糺問主誰が並行して行われていた。その後, 明治11年6月10日司法省達「自今訟廷内ノ犯罪及審問上ヨリ発覚スル本件附帯ノ犯罪ヲ除ク外ハ総テ検事ノ公訴ニ因リ処断スル義卜可相心得,此旨相達候事」によって,国家訴追主義, 不告不理の原則(9頁,11頁参照)が認められ,それが明治13年7月17日制定の治罪法(太政官布告第37号)において, はじめて体系的包括的に規定された。その後我が国の法制はドイツ法制を継受し,いわゆる旧々刑事訴訟法(明治23年11月1日施行),旧刑事訴訟法(大正13年1月1日施行)と改正され, 国家訴追主義, 不告不理の原則が確立された。
   一方,司法職務定制による検察制度は,検事職制章程司法警察規則(明治7年1月28日,太政官達第14号),司法省検事職制章程(明治8年5月8日,司法省達第10号),司法省職制章程並検事職制章程(明治10年3月2日,太政官布告第32号),各省使職制並事務章程(明治13年12月2日,太政官布告第60号),裁判所官制(明治19年5月4日,勅令第40号)と改正を経て,明治23年2月10日公布,同年11月1日施行の裁判所構成法により,近代的な制度として完備されるに至った。
   以来,裁判所構成法は, 旧々刑訴時代,旧刑訴時代を通じ,約60年にわたって,検察組織の基本法として, その使命を果たしてきた。
   裁判所構成法によると,検事局が各裁判所に「附置」せられ,「検事局ニ相応ナル員数ノ検事ヲ置ク」ものとされるが,検事は,「裁判所ニ対シ独立」であって,一人一人が単独官庁として「刑事ニ付公訴ヲ起シ其ノ取扱上必要ナル手続ヲ為シ法律ノ正当ナル適用ヲ請求シ及判決ノ適当ニ執行セラレルヤヲ監視シ又民事ニ於テモ必要ナリト認ムルトキハ通知ヲ求メ其ノ意見ヲ述フルコトヲ得又裁判所二属シ若ハ之ニ関ル司法行政事件ニ付公益ノ代表者トシテ法律上其職権二属スル監督事務ヲ行フ」 ものとされ,また,検事一体の原則を規定するなど,現在の検察官の性格は, ほぼ裁判所構成法によって確立せられたということができる。
   
4 昭和20年8月の太平洋戦争の終結により,我が国は,民主主義国家として再生の一歩を踏み出すこととなり, これに伴って,司法制度も根本的に改革せられることになった。その結果,これまで司法大臣の行政監督権のもとにあった裁判所は, その監督権から離れて独立することとなり,昭和22年4月16日,法律第59号及び第61号をもって,新たに裁判所法及び検察庁法が公布され,裁判所法の附則によって裁判所構成法が廃止されることになり, 日本国憲法の施行の日である昭和22年5月3日から,新しい裁判所法及び検察庁法が施行された。そして,昭和23年7月10日,法律第131号をもって,新たに刑事訴訟法(以下「刑訴法」 という。)が公布(施行,昭和24年1月1日)され,現在の検察庁及び検察官が誕生したのである。

検察庁法の意義と法源

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)1頁ないし3頁には,「第1節 検察庁法の意義及び法源」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察庁の組織と機構(注1) ,並びに検察官その他の検察庁職員の資格と権限を定めた法体系の全体を実質的意義における検察庁法という。
   その重要な部分は,「検察庁法」 (昭和22年法律第61号)に規定されているが, これに尽きるわけではなく,刑事訴訟法をはじめとして種々の法令に規定されている。これに対して,形式的意義における検察庁法とは,上記法典のことをいう。
   
2 形式的意義における検察庁法(以下「庁法」 という。)は,昭和21年11月3日, 日本国憲法が公布されたことに伴い,憲法の要請に従って立案審議され,昭和22年4月16日に公布,同年5月3日, 日本国憲法の施行と同時に施行されたものである(庁法第33条)。
   その後,庁法は,昭和22年12月17日法律第195号による改正(司法省から法務庁への機構改革に伴うもの),昭和23年5月1日法律第31号による改正(第23条を改め,検察官の適格に関する定時審査制度を設けるとともに,検察官の罷免事由を拡大したもの),昭和23年12月21日法律第260号による改正(家庭栽判所の新設等に伴うもの),昭和24年5月31日法律第138号による改正(法務庁から法務府への機構改革に伴うもの),昭和25年4月14日法律第96号による改正(裁判所法の一部改正に伴うもの),昭和27年7月31日法律第268号による改正(法務府から法務省への機構改革に伴うもの),昭和36年6月2日法律第111号による改正(国家行政組織法の一部改正に伴うもの) ,昭和44年5月16法律第33号による改正(行政機関の職員の定員に関する法律の制定に伴うもの),昭和46年12月31日法律第130号による改正(沖縄の復帰に伴うもの),昭和58年12月2日法津第78号による改正(国家行政組織法の一部改正に伴う関係法律の整理によるもの),平成11年7月16日法律第102号,同年12月22日法律第160号による改正(内閣法の一部改正に伴う関係法律の盤理によるもの) ,平成16年3月31日日法律第8号による改正(裁判所の研修所の組織改変に伴うもの)及び平成17年7月15日法律第83号による改正(学校教育法の一部改正に伴うもの)を経て,現在に至っている。
   
3 庁法には, その規定すべき事項を他の法令等によることとしているものがある。すなわち,
   第2条第3項による「最高検察庁の位置並びに最高検察庁以外の検察庁の名称及び位置を定める政令(昭和2年5月3日政令第35号)」
   第2条第4項による「各高等裁判所支部に対応して各高等検察庁支部を設置する庁令(昭和23年2月21日法務庁令第15号)」及び「地方検察庁支部設置規則(昭和22年5月3日司法省令第42号)」
   第6条第2項による「刑事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)の第191条ないし第194条」
   第18条第1,2項等による「検察庁法施行令(昭和22年5月3日政令第34号)」及び「検察庁法施行令第3条の規定による地方検察庁を指定する告示(昭和22年6月6日司法省告示第31号)」
   第18条第3項による「検察官特別考試令(昭和25年12月11日政令第349号)」
   第21条による「検察官の俸給等に関する法律(昭和23年7月1日法律第76号)」
   第23条第8項による「検察官適格審査会令(昭和23年9月16日政令第292号)」
   第32条による「検察庁事務章程(昭和60年4月6日法務省訓令第1)(以下「章程」 という。)」 (注2)
   等であり, これらは庁法の規定を補充して庁法と一体をなしているものである。
   
4 国家公務員法と庁法の関係
   国家公務員法は,一般職に属する全ての国家公務員に適用されるから,一般職の国家公務員に属する検察官その他の検察庁職員は同法の適用を受ける(国家公務員法第2条第1,4,5項)が,同法附則第13条が「一般職に属する職員に関し,その職務と責任の特殊性に基いて,この法律の特例を要する場合においては,別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については,政令)を以て, これを規定することができる。」 と定めている。そして,同附則に基づき,庁法は, 一定の事項につき 「検察官の職務と責任の特殊性に基いて,同法(注・国家公務員法)の特例を定めた。」 (第32条の2) ものであるから,庁法に特別の規定のない限りは国家公務員法の適用がある。その意味で,国家公務員法と庁法とは一般法と特別法の関係に立っている。
(注1) 組織と機構
   組織には,機構的要素(組織の単位である機関の設置,権限,所掌事務,各機関相互の関係等),人的要素及び物的要衆があるが,人的・物的要素については,公務員制度,財政・会計制度あるいは公物・営造物制度等として,別個に取り扱われるのが通常で,行政組織といえば,専ら機構的要素の面を取り上げるのが普通である。
(注2) 事務章程及び事務細則
   庁法は,「検察庁の組織と機構並びに検察官その他の検察庁職員の資格と権限」を定めているが,検察庁の事務が適正, 円滑に処理されるためには,なお,検察庁の事務運営の基本通則,すなわち,その内部の事務分配及び執務の基準に関する細目の規定が必要である。庁法は, これらの事項について,法務大臣の定めるところに委任している (庁法第32条)。この委任に基づいて法務大臣が定めているのが「検察庁事務章程」をはじめとした各種の規程等の数多くの訓令であり,これらが,実質的な意味における事務章程である。 しかし,実質的な意味における事務章程は,検察庁の事務運営の基本的通則を定めたものであるから,さらに,各庁の実情に応じた細則を定める必要がある。そこで,章程第30条は, 「検察庁の長は,この章程に定めるもののほか,その庁の事務に関し,事務細則を定めることができる。ただし,区検察庁の事務細則は,検事正が定める。」 ものとした。これらの事務細則において定めうる事項は,実質的な意味における章程において規定すべき事項の全般にわたることができるし, また,必ずしも「細則」 という名称を用いる必要はない。

検察権と管轄

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)35頁ないし48頁には,「第4節 検察権と管轄」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 裁判権行使の権限は各裁判所に分配され,裁判所は管轄区域内において,その管轄に属する事項(管轄事項)について裁判権を行使する権限を持つ。この権限の分配のことを管轄といい,管轄事項による管轄の定め方として事物管轄, 土地管轄及び審級管轄がある (注1)。
   検察権の行使は, この裁判所の管轄との関係で制約を受ける。すなわち庁法第5条は,「検察官は, いずれかの検察庁に属し,他の法令に特別の定めのある場合を除いて, その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において, その裁判所の管轄に屈する事項について前条に規定する職務を行う」 と規定しているとおり,他の法令に特別の定めがある場合(例えば,逃亡犯罪人引渡法第32条)を除いて,所属検察庁が対応している裁判所の管轄区域と管轄事項に関する制限に従うこととされている。例えば,東京地方裁判所に対して公訴を提起することができるのは,東京地方検察庁の検察官に限られ,東京簡易裁判所に対して公訴を提起することができるのは東京区検察庁の検察官に限られる(注2)。

(注1)(1) 審級管轄とは,事件の第一審をどの裁判所が受け持ち, これに対する上訴をどの裁判所が受け特つかの定めをいう.すなわち,刑事事件の第一審は,地方裁判所及び簡易裁判所が管轄し,これらの裁判所の判決に対する控訴や, これらの裁判所の決定に対する抗告は, 高等裁判所が管轄する(裁判所法第16条第1号,2号)。高等裁判所が第二審
としてした判決や,高等裁判所が例外的に第一審としてした判決に対する上告は,最高裁判所が管轄するなどである。
(2) 事物管轄とは,事件の軽重や性質による第一審の管轄の分配をいう。
   第一審を受け持つ裁判所が,それぞれどのような種類の事件を審理・裁判するかの定めのことである事物管幅の定めを表にすると, 次のようになる。

簡易裁判所① 罰金以下の刑に当たる罪の事件
② 選択刑として罰金が定められている罪の事件
③ 常習賭博罪,賭博開場等図利罪,横領罪,盗品譲受け等罪の事件
裁判所法第33条第1項第2号
地方裁判所④ ①及び⑤に当たるもの以外の全ての事件裁判所法第24条第2号
高等裁判所⑤ 内乱罪の事件裁判所法第16条第4号

   なお,独占禁止法違反事件件のうち犯則事件に該当する罪については,土地管轄を有する地方裁判所に加えて, 当骸地方裁判所を管轄する高等裁判所所在地の地方裁判所及び東京地方裁判所も併わせて管轄を有し(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第84条の4),法定刑が罰金のみである法人のみが起訴される場合であっても,地方裁判所が第一審裁判所である(同法第84条の3)。
   ところで,例えば,過失致死罪には罰金刑しかない(刑法210条)ので,簡易裁判所だけが事物管轄を持ち,常習累犯窃盗罪は,3年以上の懲役と定められている (盗犯等ノ防止及処分二関スル法律3条)ので,地方裁判所だけが事物管轄を持つ。 このように一つの裁判所だけが管轄を持つことを専属管轄という。
(3) 土地管轄とは,事件の土地的関係による第一審の管轄の分配である。
   各裁判所は, それぞれ管轄区域を持っており,その管轄区域内に犯罪地又は被告人の住所・居所・現在地がある事件について土地管轄を有する(刑訴法2条1項)。例えば,札幌市に住居を有する新が東京都千代出区内で窃盗を働いたとすれば, この事件の土地管轄は,札幌地方裁判所,札幌簡易栽判所,東京地方裁判所及び東京簡易裁判所の4つの裁判所にある。また,仮にこの者が逮捕され,代用刑事施設としての八王子警察署留置施設に勾留された場合において,公訴提起の時点でもなお同所に勾留されていたとすれば,その者の「現在地」である同留置施股を管鞘区域内にもつ八王子簡易裁判所もまた士地管轄を持つ。したがって,この5つの裁判所のいずれにこの事件を起訴しても適法である。
(注2) 区検察庁検察官が地方裁判所に提起した公訴の効力について
   判例「ところで右起訴状の記載によれば,本件公訴は福岡区検察庁検察官事務取扱検事○○○○が福岡地方裁判所に提起したものであることが明白である。およそ公訴は検察官がこれを行うものではあるが(刑事訴訟法第247条),検察官はいずれかの検察庁に属しその属する検索庁に対応する裁判所の管轄区域内においてその裁判所の管轄に属する事項について刑事につき公訴を行いその他法令によりその権限に属させた事項を行うのであって(検察庁法第5条,第4条),いまこれを本件の場合についてみれば,福岡区検察庁検察官は福岡簡易裁判所に公訴を行うのであって福岡地方裁判所に公訴を提起することはできないのである。換言すれば福岡地方裁判所に公訴提起することのできるのは福岡地方検察庁検察官でなければならないのである。
しかるところ本件公訴は検事○○○○が福岡区検察庁検察官の資格において福岡地方裁判所にこれを提起したものであるから違法というの外なく結局公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときに該るから刑事訴訟法第338条第4号によりこれを棄却すべきである」 (福岡地判昭和33年9月13日一審刑集1巻9号1379頁)
   なお,本件においては,公判立会検察官が起訴状訂正の申立をし,「起訴状中福岡区検察庁とあるのを福岡地方検察庁に,又検察官事務取扱検察官検事とあるのを単に検察官検事に」と訂正方を申し立て,「福岡地方検察庁検察官検事が福岡地方裁判所に公訴を提起したものである」旨主張したが,裁判所は「起訴状の記載自体余りに明確に過ぎて誤記と認める余地はなく,且つその事項は本件公訴の有効無効にかかわる実質的に重要な部分に属し,これを右申立の如く訂正を許すときは,その意味内容,法的効果を全部的に変改することとなるから,到底単なる誤記を以ってしては,これが訂正は許されないというべく, 又その申立理由を訴訟条件追完の意味に解するとしても. このような起訴状の重大な暇疵については,法的安全の要請からこれを認めるべきものではない」 として訂正申立を認めない立場に立っていることに注意すべきである。
   ただし,「横浜地方検察庁川崎支部検察官事務取扱検察官副検事○○○○」として横浜地方裁判所川崎支部に公訴提起すべきところ,誤って「検察官事務取扱」の表示を脱落して同支部に公訴提起した場合については,裁判所は,川崎区検察庁の検察官は横浜地方検察庁検事正の訓令により同庁川崎支部検察官の事務を必要に応じて取り扱うことができる権限を有し
ていたと認定した上, 「この程度の暇疵は公訴提起を無効ならしめる程の重大な暇疵とは認められない。」 (東京高判昭和45年7月18日高検速報1816頁) と判示していることも,併せて注意すべきである。
   
2 裁判所の管轄事項については,「裁判所法」第7条(最高裁判所),第16条(高等裁判所),第24条(地方裁判所),第33条(簡易裁判所),「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」第84条の3等により定められている (35頁注1参照)。
   これらは, 固有の法定管轄であるが,管轄の修正(刑訴法第3条ないし第11条)(注)があったときは, それによることになる。
(注) 例えば,同一人が恐喝罪と賭博罪とを犯した場合,恐喝罪の事物管轄は地方裁判所にあり,賭博罪は,その刑が罰金又は科料に限られているから,簡易裁判所に事物管轄がある。しかし,この2つの事件は,「1人が数罪を犯した」 ものとして関連事件とされ(刑訴法第9条第1項第1号),上級の裁判所,つまり地方裁判所が賭博罪を併せて管轄することができる (刑訴法第3条)。また,大阪に住む甲と名古屋に住む乙が一緒になって,東京で殺人罪を犯した場合,犯罪地である東京の地方裁判所に甲, 乙2人について土地管轄があることはいうまでもないが, この場合の甲の事件と乙の事件とは,やはり関連事件とされ(刑訴法第9条第1項第2号), 甲の住居地である大阪の裁判所で乙の事件をも一緒に審理することもできれば, 乙の住居地である名古屋の裁判所で甲の事件をも一緒に審理することもできる(刑訴法第6条)。
   
3 裁判所の管轄区域は,裁判所が職務行為を行うことができる地域としての意味を持つが, これについては, 「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」により定められている。そして,原則として,検察官はその所属する検察庁に対応する裁判所の管轄区域内においてのみ職務を行うことができる。ただし,刑訴法第12条は,「裁判所は,事実発見のため必要があるときは,管轄区域外で職務を行うことができる。」と規定し,裁判所は,事件処理のため必要がある場合に限り,その限度で管轄区域外においても職務を行うことができる。 この場合, 当該裁判所に対応する検察庁に所属する検察官は, その職務を管轄区域外で行うことができるか否かについての直接の規定はない。しかし,裁判所の行う押収・捜索・検証・証人尋問について,その訴訟の当事者である検察官には立会や尋問の権限があるのであり(刑訴法第113,142,157条),その証人尋問等が当該裁判所の管轄区域外で行われるからといって,当事者である検察官にその管轄区域外での証人尋問等の職務執行を認めないとすることは,刑訴法第12条の「事実発見のため」 という目的をも否定することになりかねなく,その当をえないことは明らかである。 したがって, 当該裁判所が管轄区域外において職務を行うときには,その裁判所に対応する検察庁に所属する検察官は,その有する権限の範囲において,その職務を管轄区域外で行うことができると解する。これに対し, 当該押収・捜索・検証・証人尋問を行う土地を管轄する裁判所に対応する検察庁の検察官は,庁法第12条による事務移転(「事務取扱」が発令される。)を受けない限り, これらの行為に関与することはできない(注)。
(注) 例えば, A地方裁判所に係属する公判事件の証人等間がB地方裁判所の管轄区域内で行われる場合を考えれば, その証人尋問がA地方裁判所自身又はその受命裁判官によってなされるときは,B地方裁判所に対応するB地方検察庁の検察官がA地方裁判所に対応するA地方検察庁の検察官から尋問立会方の嘱託を受けたとしても, これに応じて立会して袖肋することはできない。けだし,それは, B地方検察庁の検察官にとって対応裁判所の管轄に属しない事項だからである。これに対して, その証人尋問がA地方裁判所の嘱託によりB地方裁判所によって行われるものであるならば,B地方検察庁の検察官はこれに立会できる。
以上が管轄についての原則である。
   
4 捜査の場合の例外
(1) 捜査に関し庁法第6条第1項は, 「検察官はいかなる犯罪についても捜査することができる。」 と規定し,捜査についての事物管轄の制限を解除している。捜査は,その性質上, これを完結してみなければ,いかなる罪名に当たる犯罪であるか明らかにならないことが多いので,事物管轄の制限を置くことは,いたずらに検察官の捜査を制限することになり, その意味がないからである。
   例えば,窃盗として送致された事件を捜査した結果,常習累犯窃盗と判明したり, あるいは,業務上過失致死として送致されてきた事件を捜査の結果,過失致死にすぎないことが判明した場合である。常習累犯窃盗については,地方裁判所でしか裁判できないし,過失致死については,簡易裁判所でしか裁判できないことになっているから,常習累犯窃盗は地方検察庁の検察官が,過失致死は区検察庁の検察官がそれぞれ起訴することになる。 しかし,窃盗であるか常習累犯窃盗であるか, また業務上過失致死であるか過失致死であるかは,実際に捜査が終わってみなければわからない場合が多い。このため,捜査について,事物管轄の制限が及ぶものとした場合には,結果としては管轄のない事件について職務を行ったことになるなどの不都合が生ずるのである。
   このように,捜査については,事物管轄の制限を受けないので, 区検察庁の検察官も,地方裁判所の事物管轄に属する事件の捜査をすることができる。 しかし,区検察庁の検察官はこれを地方裁判所に対して起訴することはできないから,最終処理の前に管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に移送する必要がある(注1)。
(2) これに対し,犯罪捜査に関する管轄区域の制限は,庁法第6条によって解除されない。 この点について,検察官の犯罪捜査権は,第6条によってはじめて認められたものであるから,その前条である第5条の制限は受けず, したがって,犯罪捜査については全く管轄の制限を受けない,とする考え方がないわけではない。しかし,検察官の犯罪捜査権は第4条にそもそもの根拠があり,第6条はそれを確認するとともに,事物管轄の制限を解いたものであることは,既に述べたとおりである。また,庁法の前身である裁判所構成法も, 「検事局ノ管轄区域ハ其ノ附置セラレタル裁判所ノ管轄区域二同シ」 (第6条第4項)と規定し,検察官の犯罪捜査権について管轄区域の制限を認めていたものであり,庁法制定当時は検察官の捜査権を縮少しようという考え方があったことなどを考えると,庁法が検察官の犯罪捜査権について,管轄区域の制限を全く置かなかったと解することはできない(注2)。
   しかし,犯罪捜査の性質上,管轄区域外で職務を行うことを全く認めないとすることはできない。そこで,刑訴法第195条は,「捜査のため必要があるときは,管轄区域外で職務を行うことができる」 と規定し,管轄区域外での捜査を認めている。
   「捜査のため必要があるとき」 とは,本来当該検察官が捜査することができる事件がある場合に, その捜査の必要上管轄区域外で捜査活動することを認めた趣旨と解される。すなわち, 当該検察官所属の検察庁において有効に捜査に着手された事件が存在していること,換言すれば,その管轄区域内において着手(認知) された事件が存在していることが必要と考えられる。例えば,東京地方検察庁検事が,大阪に出張中,たまたま,その面前で傷害事件を目撃したという場合には,東京地方検察庁の管轄区域における事件の認知がなく,有効にその事件の捜査に着手していないといえるから,東京地方検察庁にその事件は存在していないことになり, したがって, その事件について,その東京地方検察庁検事が,加害者を取り調べるなどの捜査活動を大阪で行うことは許されない。
(3) ところで,捜査の開始時には土地管轄は明らかでないことが多いし,また,捜査の目的からいっても,土地管轄がなくても捜査を進める必要のある場合がある。 この場合に捜査をすることは土地管轄がない事件について捜査を行うことになるが,捜査の発展的流動的性格を考慮すれば,その捜査は適法・有効であると考えるのが相当である (刑訴法第258条参照)。このような場合は必要な捜査を遂げた上,管轄検察庁の検察官に事件を送致しなければならない(注3,4,5)。
(注1) 現行犯人逮捕手続書の末尾記戦の送致先検察官が地方検察庁検察官であるのに区検察庁検察官においてこれを受理,処理することの適否について
   判例「所論現行犯人逮捕手続書の末尾には,丸の内警察署司法蕃察員が被告人をその関係書類と共に東京地方検察庁検察官に送致した旨記載されているに拘らず,次欄において東京区検察庁検察事務官がこれを受領した旨記載せられ, 更に記録による本件を同検察庁において処理していることは所論のとおりである。 しかしながら本件については東京地方検察庁及び東京区検察庁の各検察官が共にその処理権限を有するので,たとえ司法警察員からの送致先が前者になっていたとて, それに拘らず後者においてこれを受領し,その処理をするのに何等の妨げもないものというべきである。
   而も右逮捕手続書その他一件記録に微するも,東京地方検察庁において本件を受理した形跡は毫も窺われないので,所論移送手続の問題を生ずる余地はないのである」 (東京高判昭和29年10月13日最高裁刑事判例要旨集8巻10号723頁)
(注2) 裁判所構成法上,検事の捜査処分をなしうる地域について「裁判所構成第6条第3項ニ於テ検事局ノ管轄区域ヲ定メタルヲ以テ検事カ捜査処分ヲ行フニ付テモ此区域ニ局限セラレ管轄区域外ニ於テハ之カ処分ヲ為スノ職権ヲ有セサルモノト解スルヲ妥当トスル」 (大判大正5年6月2日大審院判決抄録65巻8688頁)
(注3) 「所論は,東京地方検察庁の検察官が富山県に住所を有する被告人等に対し捜査を開始したのは違法か少くとも捜査権の濫用であるというのであるが,検察官は検察庁法第6条により当該事件の管轄にかかわらず捜査をなし得るのであるから(公訴提起が当該事件の管轄裁判所に対応する検察庁の検察官からその管轄裁判所に対しなされる必要があることはもちろんである。),東京地方検察庁の検察官が本件につき捜査を開始したことは何ら違法ではなく,又捜査権の濫用ということもできない。論旨は理由がない。」 (東京高判昭和39年10月28日高裁速報1262)
(注4) 現行法上,検察官の捜査処分をなし得る地域について
   事例的に説明すると,例えば, (1)東京地方検察庁の甲検察官が,東京から大阪に向かって進行中の列車に乗車中,列車が浜松市付近を走行中に車内で発生した傷害事件を目撃した。甲検察官はその加害者を取り調べて被疑者調書を作成できるか。 (2)伊丹空港から羽田空港に向かって飛行中の航空機内において詐欺の被害にあった被害者が,千葉地方検察庁の乙検察官に被害の申告をしてきた。この場合, 乙検察官はこの被害者を取り調べて供述調書を作成できるか, というような問題が生じる。
   捜査段階においては,検察官は,いかなる犯罪をも捜査できる (庁法第6条)ので,事物管轄は考える必要がないが,同条によっても管轄区域の制限は解除されていないから,管轄区域の制限に抵触するか,制限に抵触したとしても刑訴法第195条の「捜査のため必要がある」場合に該当し例外的に管轄区域外でも捜査活動ができる場合かどうか検討することが必要である。また, 土地管轄の制限もあるが, これについては,本文で述べたように,捜査の発展的流動的性格を考慮して柔軟に考えて良い場合かどうかを検討しなければならないこともある。
   (1)については,東京地方検察庁の甲検察官の浜松市付近における捜査活動の可否が問題であるから,管絡区域外での捜査活動が例外的に許される 場合かどうかを検肘することになる。刑訴法第195条の「捜査のため必要がある」といえるためには, 当該検察官所属の検察庁にその事件が存在することが必要であるところ,本件の傷害事件は管轄区域外においてはじめて認知されたものであって未だ東京地検の事件として存在していない。 したがって,同条の適用はなく,甲検察官の浜松市付近での取調べは許されない。 (2)について,乙検察官は,その所属する千葉地方検察庁の管轄区域内で捜査を行おうとしているのであるから,管轄区域の制限に抵触しないことは明らかである。本件詐欺事件は,その犯罪地が千葉地方検察庁の管轄区域内ではなく,被疑者の住所・居所・現在地が同区域内にあるかどうか明らかでないから,千葉地方検察庁に対応する千葉地方裁判所に土地管轄があるかどうか疑問となるが,法は,検察庁が対応裁判所の土地管轄に属さない事件を捜査することを予定しているものと解されるので,千葉地方検察庁の検察官が,必要と認めて捜査に着手することができ,被害者の取調べも許される。
   土地管轄についてたとえ対応する裁判所の土地管轄に属しない事件についても捜査できることは,(ア)庁法第5条が「その属する検察庁の対応す裁判所の管轄区域内において」と規定し,「対応する裁判所の土地管轄に属する事項について」とは規定していないこと,(イ)刑訴法第258条は,「検察官は,事件がその所属検察庁の対応する裁判所の管轄に属しないものと思料するときは,書類及び証拠物とともにその事件を管轄裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。」と規定し,検察官が対応裁判所の管轄に属しない事件を捜査することがあることを予定していることなどから明らかである。ただ捜査の結果起訴を相当とするときは,庁法第5条の制限が完全にかぶってくるので,刑訴法第258条により管轄裁判所に対応する検察庁に事件を移送しなければならないのは当然である。
(注5) 国外における捜査について(検察官が外国において外国人を取り調べて作成した供述調書の証拠能力)
   判例「そもそも,検察官面前調書がその証拠能力を認められる理由は,検察官が裁判官に準じた資格で任用され,適正な取調べを行うことが期待される点にある。したがって,検察官がその職務執行行為として人を取り調べ,その供述を録取した場合に, その書面を検察官面前調書として証拠能力を認めることができるのであって,たとえ検察官の身分を有する者であっても, その職務執行行為に関係なく人の供述を聞きこれを録取した場合には, その書面に検察官面前調書としての証拠能力を認めることはできない。そこで,本件においては,検察官の身分を有する○○○○(以下「甲」という。)が米国内において,外国人○○○○(以下「W」という。)の供述を聞きこれを録取した行為は,検察官の職務執行行為としてこれを是認することができるかどうか判定しなければ,W調書(1)(2)の証拠能力を判断することはできない。この点につき按ずるに, 甲検察官の右行為は,被告人に対する国家公務員法違反の嫌疑によりその捜査を行ううえに最も重要な証拠となるWを直接取り調べた際になされたことは, 甲証言により明らかである。 したがって,右行為は任意捜査の範囲に風する。ところで,捜査は,任意捜査であると強制捜査であるとを問わず,刑事訴訟法上の行為であるから,刑事訴訟法の適用がない地域においてはこれを行うことができない。元来刑事訴訟法は原則としてわが国の領土全部に適用されるいわゆる属地主義に立ち,したがって,外国の領土においてほしいままに捜査を行うことはできない建前であるから,弁護人所論のような日米犯罪人引渡条約等による犯罪人引渡し,訴訟共助等の国際的司法共助が必要とされるのであって,弁護人引用の検察庁法,刑事訴訟法の各関係条文は,弁謹人所論のように国内の問題を規定したに過ぎないわけである。 しかし,一国が他国に承認を得れば, その他国内において, そこの主権を侵害することなく, 自国の或る種の権能を行使することができることは, 国際法上容認されているものというべく,本件のような捜査権の行使について考えれば, わが検察官が任意捜査として米国内において,人を取り調べるためには,米国の承認を得る必要があるが,その承認を得ればその承認された限度において,わが刑事訴訟法の規定に準拠して人を取り調べその供述を録取することができると解するのが相当である。また, この場合米国の承認は事柄の性質上米国政府又は駐日米国大使が米国を代表してわが駐米大使又はわが政府に対してなされれば, それで十分であると解するのが相当である。そこで,本件においては,甲検察官が米国内において,Wを取り調べるため,米国の承認があったかどうかをみるに,・・・甲証言,第12回公判調書中証人○○○○の供述記載及び在米日本国大使館参事官○○○(以下「乙」 という。)作成の回答書によれば, その後甲検察官の発意に基づき,昭和29年8月下旬法務省は外務省に対しWを取り調べるため東京地方検察庁甲検察官を法務省刑事局○○公安課長とともに渡米させたいので米国政府の同意取り付け方を要請したところ, 当時外務省国際協力局第3諜長の職にあった乙が在日米同大使館担当官に右の趣旨を伝え,米国政府の同意方を要請した結果, 同年9月上旬右担当官から米国政府は右両名が渡米しWを取り綱ぺることに同意する旨の回答があったので, これを法務省に伝達し,右両名は通常の手続にしたがって米国政府の入国査証を受けて渡米したこと,甲検察官は,さきに認定した日時,場所において,Wを取り調べるにあたり,米国側の協力を得たことを認めることができる。
   されば, 甲検察官が, 国際法上適法に任意捜査として,米国内において,Wを取り調べるについて米国の承認があったものと解するに十分である。
   したがって,米国の承認を得てなされた甲検察官の右行為は,国内法上憲法秩序に抵触しない以上,これに検察官の職務執行行為としての効力を認めることができる。そこで,甲検察官の取調べにおいて作成されたW調書(1)(2)は検察官面前訓書として証拠能力を認めることができる。」(東京地判昭和36年5月13日下級刑集3巻5,6号469頁)
   
5 検察庁の職員の相互補助
   検察官,検察事務官はもとより全ての検察庁の職員は, いずれかの検察庁に属して,本来, その庁の事務とされている事務を取り扱うのが原則である。 しかし,検察庁において取り扱う事務の特殊性に鑑み,庁法第31条は「検察庁の職員は,他の検察庁の職員と各自の取り扱うべき事務について互いに必要な補助をする。 」と規定し,他の庁の職員のために事務を補助することができるものとした。 日常,検察庁間に行われている嘱託の制度は, この補助の一形態である。
   他の検察庁の職員を捕助する事務は,他の検察庁の事務ではなくて,補助する職員の属する検察庁の事務である。 したがって,補助しようとする事務が検察事務であれば,庁法第5条(捜査については,第6条)の管轄の制限を受けることになる。例えば,証人尋問がA地方裁判所自ら又はその受命裁判官によってB地方裁判所において行われることになった場合, A地方裁判所に対応するA地方検察庁の検察官から,B地方裁判所に対応するB地方検察庁の検察官に対して尋問立会の嘱託があったとしても,B地方検察庁の検察官はこれに応じて立会うことはできない。
なぜならば,この吸託は,B地方検察庁に対応する裁判所(B地方裁判所)の管轄に属しない事項だからである。 しかしながら,証人尋問がA地方裁判所からの嘱託によりB地方裁判所によって行われることになった場合,A地方裁判所に対応するA地方検察庁の検察官から,B地方検察庁の検察官に対して尋問立会の嘱託があったときは,B地方検察庁の検察官はこれに応じて立会うことができる。なぜならば,この嘱託は,B地方検察庁に対応する裁判所(B地方裁判所)の管轄に属する事項だからである。また,嘱託されて捜査するときも, 原則として嘱託を受け た検察庁の管轄区域内でしか捜査をなし得ない。

検察庁の機構

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)59頁ないし69頁には,「第4節 検察庁の機構」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 全体としての検察庁は最高検察庁, 高等検察庁,地方検察庁及び区検察庁の四種類の検察庁によって構成される。
   最高検察庁の長である検事総長は,最高検察庁における検察事務につ いての統括事務と間接的補助行政事務からなる検察行政事務(職員に対 する指揮監督を除く。以下同じ。)を掌理する(庁法第7条第1項前段,第1条第1項)とともに,最高検察庁及びその他の検察庁の職員全てを指揮監督する(庁法第7条第1項後段)ものであり,高等検察庁の長である検事長は,その庁の検察行政事務を掌理するとともに,その庁並び にその庁に対応する裁判所の管轄区域内に在る地方検察庁及び区検察庁 の職員を指揮監督する(庁法第8条)ものであり,地方検察庁の長である検事正は,その庁の検察行政事務を掌理するとともに,その庁及びその庁に対応する裁判所の管轄区域内に在る区検察庁の職員を指揮監督する(庁法第9条第2項)ものであるとし,検事総長,検事長及び検事正に,それぞれ所属する庁及び下級検察庁の職員を指揮監督する権限を与えている。こうして,全体としての検察庁は,最高検察庁を頂点とし,区検察庁を底辺としての一個のピラミッド型の機構となっている。

2 それぞれの検察庁の機構は,庁の長として,最高検察庁には検事総長が,高等検察庁には検事長が,地方検察庁には検事正が置かれることは述べたとおりである。区検察庁においては,上席検察官,及び上席検察官の置かれていない区検察庁の検察官(検察官が二人以上あるときは,検事正の指定する検察官)が,その庁の長であり(章程第1条) ,長で
ある検察官は,その庁の検察行政事務を掌理し,かつその庁の職員を指揮監督する(庁法第10条第2項)。上席検察官は,二人以上の検事又は検事及び副検事が属している区検察庁に置かれ,検事をもって充てられる(庁法第10条第1項)。
   したがって,区検察庁の長となる者を,場合を分けて見てみると,次のとおりである。
(1) 複数の検事が勤務する庁  その中の一人の検事
(2) 複数の検事と一人の副検事が勤務する庁  検事の中の一人の検事
(3) 複数の検事と複数の副検事が勤務する庁  検事の中の一人の検事
(4) 一人の検事と一人の副検事が勤務する庁  その一人の検事
(5) 一人の検事と複数の副検事が勤務する庁  その一人の検事
(6) 一人の検事が勤務する庁  その一人の検事
(7) 一人の副検事が勤務する庁  その一人の副検事
(8) 複数の副検事が勤務する庁 その中の検事正が指定する一人
   なお,検察官事務取扱検察事務官(庁法附則第36条)しか置かれていない区検察庁においては,その検察事務官が庁務を掌理し,職員を指揮監督する。

3 ところで,長がその取り扱うべき行政事務を全て取り扱うことは不可能であり,その一部を長以外の者に取り扱わせることが行われる。その方法としては,権限委任と内部委任の二つがある。権限委任の場合にあっては,受任者は,委任の範囲に従って,受任者の名において権限を行使することとなり, 内部委任の場合にあっては,受任者は,委任者の名において事務を処理することとなる。 このような関係から,権限委任については,法令に特別の定めがある場合にのみ, これを行うことができるものとされる。庁法第11条は「検事総長,検事長又は検事正は, その指揮監督する検察官に,第7条第1項,第8条又は第9条第2項に規定する事務の一部を取り扱わせることができる。」 と規定し,権限委任の根拠規定を置いた。 したがって,権限委任を認められるのは,検事総長,検事長及び検事正に限られ,区検察庁の長は他の検察官に権限委任をすることは許されない。 もっとも, 区検察庁の長であっても, その他の検察庁の長であっても, 内部委任をすることができることはいうまでもない。
   また,庁法第11条とは別個に,法務大臣は,庁法第14条の指揮監督権に基づき,章程第2条,第3条,第6条において,一般的な権限委任を定めている。

4 庁の次長たる職として,最高検察庁に次長検事(庁法第7条第2項)が,高等検察庁及び地方検察庁に次席検事(章程第2条)が置かれる。
   区検察庁には次長たる職はない。次長検事は,検事総長を補佐し,また,検事総長に事故のあるとき,又は検事総長が欠けたときは, その職務を行うこととされており (庁法第7条第2項) , 次席検事は, その庁の長を助けて庁務を整理し, また, その命を受けてその庁及び管内下級検察庁の職員を指揮監督するものとされている(章程第2条第2項)。すなわち,庁の次長の職務を行う権限は,庁の次長の固有の権限ではなく,庁の長の権限に由来し, その補助機関たる地位において職務を行うものである。 したがって,庁の次長は庁の長の個々の命令に服従すべきは当然であるが,補助機関としての職務の執行が,常に個々の命令によることを必要とするものではなく,特に命令のあったときにおいてこれに従うほか,一般的に補助機関として与えられた職務を執行すべきものである。
   なお,「その庁」には支部を含み,次席検事は, その庁の支部長に対して命による指揮監督を行うことができる。

5 検察庁の支部(庁法第2条第4項)の長として,支部長が置かれる(章程第3条第1項)。支部長は,その属する庁の長の命を受け,支部に関する庁務を掌理し,支部の職員を指揮監督する(章程第3条第2項)。すなわち,支部長は,検事長又は検事正の補助機関であって,検事長又は検事正は,支部長が支部に関して庁務の掌理権及び職員の指揮監督権を持つからといって, 自らその支部に関して有する庁務の掌理権及び職員の指揮監督権を失うものではない。支部長の権限は, 当該支部の庁務の掌理と支部勤務職員の指揮監督の範囲に限られる。例えば,地方検察庁の支部長の場合, その権限は,当然には,この支部に併置された区検察庁その他の支部管内区検察庁の事務に及ぶものではない。

6 職務代行
   最高検察庁において,検事総長に事故のあるとき,又は検事総長が欠けたときは,次長検事がその職務を行う(庁法第7条第2項)。検事総長及び次長検事が欠けたときは,あらかじめ検事総長の定めた順序により,その庁の検事が臨時に検事総長の職務を行う(庁法第13条第1項,章程第4条第1項~3項。庁法では法務大臣の定めた順序によることとされているが,法務大臣は事務章程によりその権限を検事総長に委任している。)。高等検察庁又は章程の別表第1に掲げる地方検察庁において,その庁の長に事故のあるとき,又はその庁の長が欠けたときは,その庁の次席検事が,次席検事もまた事故のあるとき,又は欠けたときは,あらかじめその庁の長の定めた順序により,その庁の他の検事が臨時にその庁の長の職務を行う (庁法第13条第1項,章程第4条第2項)。章程の別表第1に掲げる地方検察庁を除く地方検察庁において,検事正に事故のあるとき,又は検事正が欠けたときは, その庁の次席検事が,検事正及び次席検事に事故のあるとき,又は検事正及び次席検事が欠けたと きは,その庁の三席検事が,三席検事もまた事故のあるとき,又は欠けたときは,あらかじめ検事正の定めた順序により,その庁の他の検事が,臨時に検事正の職務を行う (章程第4条第3項)。区検察庁の長に事故のあるとき,又は欠けたときは,検事正の指定する検察官(検察官事務取扱検察事務官を含む。)が臨時にその職務を行う(庁法第13条第2項。事故のあるときとは,執務することが療養の妨げとなるような病気中,容易に連絡をとりがたいような出張中等,一般的にその意思を事務運営に反映し得ない場合をいうのであり,欠けたときとは, その地位について任命された者がない場合である。 ここにいう 「事故」の範囲については問題がある。一般的に, 自宅療養をしながら執務しても差支えない程度の病気のような場合にはこれに該当しないと考えられるが,執務可能といっても,その時機を失すると庁の事務運営に支障を生ずる場合もあり得るので,単に抽象的に執務の能否のみを基準にすることはできず,具体的な事情に即して判断されなければならない。また,職務代行は,代理と同じ観念であって,いわゆる代決(注)と異なるから,直接検察庁の長の名を用いて職務を執行することはできず,検察庁の長の代理たる名義を明らかにしてしなければならない。
(注) 代決と権限委任
   代決とは,行政官庁(検察行政事務についていえば検察庁の長のことを意味する)の擢限をその補助機関が,事務処理上の便宜のために当該行政官庁の名において行使することをいう。権限委任の場合も,補助機関が行政官庁の名において権限を行使するが, この場合は権限の委任を受けた補助機関が, 自己の権限としてこれを行使する点で異なる。

7 章程の別表第1に掲げられている最高検察庁,高等検察庁,地方検察庁及び区検察庁に部が置かれる(章程第5条)。部は,検察官の行う事務(検察事務と検察行政事務) を統括するところであって,検察庁の一分区である。したがって, それは,数名の検察官を主体とし, これを補佐する検察事務官その他の職員の集合体であって,部を置くということは,一方において検察官相互の間における事務分担の態様を定めるとともに,他方において,同種の事務を担当する機構を設けたことにほかならない。部の所管事務は,部において行われる検察官の事務であり,もとより検察事務を主としているが,検察行政事務も含んでいる。部(臨時の部を除く。)に部長が置かれ(章程第6条第1項),部長は,部の所管事務を総括する。既に述べたように,検察官は, それぞれ独任制の官庁であるところから,検察組織の全体は,個々の検察官を単位として,これを指揮監督権によって統合しつつ,順次下から上へ積み上げた形態をとっており,検事総長の椎限を各検察官が分準するという形態をとっていない。 したがって,部の所管事務も,個々の検察官の権限に属する事務を総合したものであるから,部長がこれを「掌理」するという用語を避け,「総括」 という用語を用いたのである。総括とは, 事務運営の矛盾衝突を防ぎ,有機的統一を図る作用を意味する。最高検察庁の部長は,検察官を除くその余の部の職員を, 高等検察庁,地方検察庁及び区検察庁の部長は, その部の職員全部を指揮監督する(章程第6条第2,3項)。けだし,最高検察庁においては, 検察官各自が, それぞれ,直接検事総長を補佐する建前をとっていることによる。 したがって,最高検察庁の部長は, その部に属する検察官中の上席者として,部の所管事務の総括を行うにすぎない.
   なお, 部長は, それぞれ, その庁の長の補助機関として職務を行い,その権限は, その庁の長に由来するのであるが, それは, その庁の長からの直接の命令のみを受け, その他の者から命令は受けないという意味を含んでいるものではない。

8 最高検察庁,高等検察庁及び地方検察庁に1名以上の係検事が置かれる(章程第7条第1項)。係検事の種類及び担当事務の範囲は,別に定められる(同条第2項,平成27年3月17日法務省刑総訓第1号法務大臣訓令「係検事に関する規程」)。係検事は,検察機能の効率的発揮という観点から設けられたもので,担当事務の範囲に属する事項につき,案件の処理,法令の整備解釈, 資料の収集整備その他諸般の調査研究及び関係機関との連絡協調に当たる(章程第7条第3項)。

9 庁の長,次長検事, 次席検事,支部長,部長を除いた個々の検察官の検察事務官以下の職員に対する指揮監督は,庁法第4条及び第6条に規定する検察事務については,個々の検察官の固有の権限に属し, ただ,上司の指揮監督に服する。 これに反し,庁法第11条に基づいて取り扱う検察行政本務については,上司の補助機関として指揮監督するのである。
   そして, この指揮監督は,検察庁における組織機構に従って行わなければならないから,個々の検察官は, その事務の分担に応じ, その分担する事務を補佐ないし補助する検察事務官以下の職員を指揮監督するものとされているのである。 (章程第8条)。

10 最高検察庁,高等検察庁及び地方検察庁に事務局が置かれる(章程第9条第1項)。事務局は,区検察庁には置かれないし,部の置かれた庁においても,部に属するのではなく,直接検察庁に置かれるものである。
   事務局の所管事務は,事務局に置かれた課の所管事務に従う(同条第2項)。 したがって,それは事務局に置かれた課の所管事務の総和に事務局内各課の間の調整に関する事務を加えたものである。 このような形態がとられたのは,検察事務官,検察技官については, その組織の基本を課に置き,実質的には,むしろ初めに課があり, その課のうちの数個をまとめて事務局とするという考え方に由来するのである。
   事務局には,事務局長が置かれ,検察事務官のうちから任命される(章程第11条第1項)。したがって,現に副検事である者を事務局長に任命しようとする場合には, いったんその者を検察事務官に任用した上,事務局長を命ずることとなる。事務局長は,上司の補助機関として,事務局の所管事務を総括し,事務局の職員を指揮監督する(同条第2項)。したがって,事務局長は,個々具体的な案件について, 上司から特命を受けて事務を処理するのは格別,一般的に事務局に屈しない部門(例えば捜査・公判部門や検務部門)の所管班務の全部又は一部を総括したり,それらの部門の職員の勤怠その他の行状を監督することは許されない。
   東京, 大阪, 名古屋,広島,福岡,仙台及び札幌の各高等検察庁並びに東京,横浜, さいたま,千葉, 大阪,京都,神戸, 名古屋,広島,福岡,仙台及び札幌の各地方検察庁には,事務局次長が置かれ,検察事務官の中から任命される(章程第12条第1項)。事務局次長は,事務局長を助けて事務局の所管事務を整理する(同条第2項)。

11 検察庁及びその支部には,課が置かれる(章程第10条第1項ないし第5及び7項)。課は,事務局や部のある検察庁においては,事務局又は部に置かれる,事務局や部のない検察庁及び支部においては,直接検察庁に置かれる。なお,課に準ずるものとして室がある。地方検察庁には,東京地方検察庁を除いて,すべて監査室がある(高等検察庁においては,検察監査官, 東京地方検察庁においては,監査諜がある。 )。章程上の室としては, この監査室のほか最高検察庁に情報システム管理室があるのみである。課又は室の内部において, 更に職員相互間の事務の分担を定め,同種の事務を担当する者を統括する機榊として係がある(同条第6項)。係の数, 名称及び所管事務は,庁の長(区検察庁の係については,検事正)が. 法務大臣の承認を得て定める(同条第6項)。課及び室に課長又は室長が置かれ,検察事務官又は検察技官のうちから任命される(章程第13条第1項本文)。ただし,監査室長には事務局長が任命される(同条項ただし書)。課長又は室長は,上司の命を受け,課又は質の所管事務を総括し,その職員を指揮監督する(同条第2項)。係長については,章程において規定していないが,係に係長が置かれることは当然で,その任命や職務権限については,各庁の執務規程において定められている。

12 最高検察庁及び高等検察庁の事務局及び部に,専門職が置かれる。専門職は,検察事務官又は検察技官の中から任命され,上司の命を受け,通訳,翻訳,採証,電信等の専門的事務をつかさどる(章程第14条)。

13 高等検察庁の総務部に検察監査官が置かれる。検察監査官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は監査専門官その他の検察事務官を指揮監督して,事務監査に関する事務をつかさどる(章程第15条)。

14 高等検察庁の総務部に監査専門官が置かれる。監査専門感は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は他の検察事務官を指揮して,事務監査に関する事務をつかさどる(章程第16条)。

15 地方検察庁及び章程別表第8の2に掲げる地方検察庁支部に検察広報官が(章程別表第1に掲げる地方検察庁においては総務部に)置かれる。検察広報官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は他の検察事務官を指揮監督して,広報活動に関する事務をつかさどる(章程第16条の2)。

16 東京地方検察庁及び大阪地方検察庁に情報解析監理官が置かれる。情報解説監理官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は情報解析官その他の検察事務官を指揮監督して,情報解析に関する事務をつかさどる(章程第16条の3)。

17 東京地方検察庁及び大阪地方検察庁に情報解析官が置かれる。情報解析官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は他の検察事務官を指揮して, 情報解析に関する事務をつかさどる (章程16条の4)。

18 地方検察庁に検務監理官が(章程別表第1に掲げる地方検察庁においては総務部に)置かれる。検務監理官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,統括検務官,検務専門官その他の検察事務官を指導監督して,検務に関する事務をつかさどる(章程第17条)。

19 地方検察庁, 地方検察庁支部及び区検察庁に統括検務官が置かれる。ただし,章程別表第1に掲げる地方検察庁(高松地方検察庁を除く。)においては総務部に, 同表に掲げる区検察庁においては,総務部及び道路交通部に置かれる。統括検務官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は検務専門官その他の検察事務官を指揮監督して,検務に関する事務をつかさどる。なお,章程別表第9左欄に掲げる検察庁に置かれる統括検務官は,上記の事務のほかに同表右欄に掲げる事務を行う (章程第18条)。

20 地方検察庁,地方検察庁支部及び区検察庁に検務専門官が置かれる。ただし,章程別表第1に掲げる地方検察庁においては総務部に, 同表に掲げる区検察庁においては,総務部及び道路交通部に置かれる。検務専門官は,検察事務官の中から任命され, 上司の命を受け, 自ら又は他の検察事務官を指揮監督して,検務に関する事務をつかさどる。なお,章程別表第9左欄に掲げる検察庁に置かれる検務専門官は,上記の事務のほかに同表右欄に掲げる事務を行う(章程第19条)。

21 地方検察庁及び章程別表第9の2に掲げる地方検察庁支部に首席捜査官が置かれる.首席捜査官は,検察事務官の中から任命され, 上司の命を受け,次席捜査官,統括捜査官,主任捜査官及びその他の検察事務官の一般執務について指導監督(注)し, 次席捜査官,統括捜査官,主任捜査官及びその他の検察事務官を指揮して,捜査及び公判に関する事務をつかさどる(章程第20条)。

22 章程別表第10に掲げる地方検察庁に次席捜査官が置かれる。次席捜査官は,検察事務官の中から任命され,首席捜査官を助けて,統括捜査官,主任捜査官及びその他の検察事務官の一般執務について指導監督し統括捜査官,主任捜査官及びその他の検察事務官を指揮して,捜査及び公判に関する事務をつかさどる(章程第21条)。

23 地方検察庁,地方検察庁支部及び区検察庁に統括捜査官が置かれる。統括捜査官は,検察事務官の名から任命され,上司の命を受け,主任捜査官その他の検察事務官の一般執務について指導監督し,自ら又は主任捜査官その他の検察事務官を指揮して,捜査及び公判に関する事務をつかさどる(章程第22条)。

24 地方検察庁,地方検察庁支部及び区検察庁に主任捜査官が置かれる。主任捜査官は,検察事務官の中から任命され,上司の命を受け,自ら又は他の検察事務官を指揮して,捜査及び公判に関する事務をつかさどる(章程第23条)。

(注) 一般執務についての指導監督
   一般執務について指導監督するというのは,それら捜査官の行う事務が適正かつ能率的に処理されているかどうかを査閲し, 必要に応じて適当な指導を行うとともに,その事務が適正かつ能率的に処理されるための諸施策を企画,立案し,かつ, 実施することや,それら捜査官の勤怠や執務の態度, 行状等に留意し,必要があれば注意を与えるなどの措置をとることをいうものと解されている。

検察官の種類等

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)70頁ないし76頁には「第1節 検察官の種類等」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察官には,検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事の五種類がある(庁法第3条)。 これらは, いずれも官名であり,検察官というのは, この五つの官名の総称である。また,訴訟法上は,官名の総称たる 「検察官」 も官名であるとされている (注1)。
   「官」 とは,素朴な職務の分類, 内容を表示し,一つの地位として身分的性格を有するものであり,官に任命することは,原則として, その任官者に割り当てる職務と責任を明らかにしてはいない。 したがって,官にある者に対し,その職務内容を明らかにし,その職務を執行することを命ずる 「補職」が必要である (注2)。
   検察官のうち検事総長と次長検事とは,各1名しかあり得ず,その意味において,官と職とが合体しているいわゆる一官一職の官職であるから,任官行為さえあれば,改めて補職行為を要しない。言い換えれば,任官により執行すべき朧務も決まってしまうのである。 これに対して,検事長,検事及び副検事は,それぞれ複数存在するから,任官行為のほかに補職行為を要することになる。
   一方,検察官には級名があり ,総事総長,次長検事及び各検事長は一級とし,検事は一級又は二級とし,副検事は二級とされる(庁法第15条)。
   これは,庁法制定当時施行されていた「官吏任用叙級令(昭和21年勅令第190号)」による叙級制度の名残りであり, 実質的には,庁法第19条,第9条第1項とあいまって, 検事総長,次長検事,検事長,検事正となるためには, 一定の経験年数ないし経歴をするとしているところに意味がある。
(注1) 「検察官といふ用語は検察庁法第3条第4条に規定する通り検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事等刑事について公訴を行ひ裁判所に法の正当な適用を請求し且つ裁判の執行を監督する等所謂検察事務を行う官吏の総称であるから之を官名と認めることが出来る。従って公判調書に検察官の官氏名を記載するには『検察官何某』と記載すれば足るものと解すべく(昭和23年12月24日最高裁判所判決,判例集2巻14号1908頁及同月21日同裁判所判決は判例集2巻14号1843頁参照) , しかし,実務上,起訴状等には○○検察庁「検察官検事」□□□□と記戦し,刑訴法上の権限があることを表示するとともに, 庁法上の地位の区別も明示している。
(注2) 現在の国家公務員制度においては,職階制の採用に伴って, 「官」は原則としてなくなったが,検察官については, その職務と責任の特殊性から,官と職の制度を存統させている(国家公務員法附則第13,昭和27年人事院規則6-3職階制の適用除外第1条)。
   
2 任免及び補職
   検事総長, 次長検事及び検事長の任免は, 内閣が行い, 天皇がこれを認証する (庁法第15条第1項)。認証とは,任免そのものを行うことではなく , 内閣の行う任免が真正なものであることを確認し,かつ,公に表明することである。 このように,任免について天皇の認証を要するものとされている公務員のことを,ふつう認証官と呼んでいるが,別に認証官という官名があるわけではない。
   検事及び副検事の任免権者については,庁法に規定がないから, 国家公務員法上の一般原則に従い,法務大臣である (国家公務員法第55条。なお,検事及び副検事については, 同条の任命権の委任はなされていない。)。
   検事長,検事,副検事の補職権者は法務大臣とされる(庁法第16条第1項)。
   副検事は,区検察庁の検察官の職にしか補せられない(同条第2項)。
   すなわち, 副検事は,原則として, 区検察庁の検察官としての職務しか執行することができない。庁法第18条で定めるように, 副検事の任命資格は,検事のそれよりも緩やかなものとされており, そのことと対応して,原則として,比較的軽微な事件のみを取り扱う区検察庁の検察官の職務を行うべきものとされているからである。 しかし副検事も, 庁法第12条に基づき検察庁の長から区検察庁以外の検察庁の検察官としての職務の取扱いを命ぜられた場合には, 区検察庁以外の検察庁の検察官としての職務を執行することが許される (注1,2,3)。
   以上の補職行為があって,検察官の属する庁(庁法第5条)が定まる。高等検察庁又は地方検察庁の支部に勤務すべき検事は, その支部の属する当該高等検察庁又は地方検察庁の検事の中から, 法務大臣が命ずるものとされている (庁法第17条)。
   
(注1) 副検事の地方検察庁検察官事務取扱について
   判例「原則として検察官は, その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において,その裁判所の管轄に属する事項について公訴権を行使する(第5条)。そして「副検事は, 区検察庁の検察官の職のみにこれを補するものとする」(第16条第2頃)と定められているから,副検事はその属する区検察庁の対応する簡易裁判所(第2条)の管轄区域内において,その裁判所の管轄に属する事項について公訴榧を行使することになるわけである。
   しかしながら,かかる裁判所との対応関係は,原則として通常の場合に関するものであって, 同法又は他の法令に特別の定ある場合には固より種々の例外を生ずることが,すでに予め想定されているのである(第5条参照)。そこで, 同法第12条は,かかる例外の場合として,「検事総長,検事長又は検事正は,その指揮監督する検察官の事務を, 自ら取扱い,又はその指揮監督する他の検察官に取り扱わせることができる」旨を規定している。思うにこれは,検察官同一体の原則の下に,機に臨み変に応ずる幅と融通性を与えたものである。
   所論の検察庁事務章程第13条(現行の検察庁事務章程(昭34.4.1施行法務省訓令第1号では削除されている)は,さらにこの趣旨を具体化する意味において, 「地方検察庁の検察官に差支えがあるときは,検事正は,その庁の検察官の事務を, 随時その庁の所在地の区検察官に取扱わせることができる」 と定めたものである。それ故,検事正は地方検察庁の検察官の事務を,随時当該地方検索庁の所在地の区検察庁の検察官(副検事たると検事たるの区別を問うことなく)に取り扱うことができるものと解すべきを相当とし,何等疑義を挟む余地はないと言うべきである。副検事は,区検察庁の検察官の職のみに補せられるのであるが(第16条第2項),前記第12条の場合においては例外として地方検察庁の検察官の事務をも取り扱うことを得るものと言わなければならない。」(最判昭和24年4月7日最高刑集3巻4号474頁)
(注2) 副検事が地方検察庁支部の検察官事務取扱としてなした地方裁判所に対する公訴提起の効力について
   判例「検察庁法第16条第2項には副検事は区検察庁の検察官のみに補する旨規定されてあるのに本件が横浜地方検察庁横須賀支部事務取扱副検事○○○○により原審たる横浜地方裁判所横須賀支部に起訴されたこと所論のとおりである。然し,元来検事正はその指揮監督する検察官の事務を他の検察官に取扱わせることができるものなることは検察庁法第12条,第13条により明らかであり, 而して検察庁事務章程第13条(旧章程)に地方検察庁の検察官に差支えがあるときは検事正はその庁の検察官の事務を随時その庁所在地の区検察庁の検察官に取扱わせることができる旨定めているのは,検察庁法第32条に基き同法第12条所定の前記職務移転権限行使の一般的方法を規定したものであって,一種の委任命令に属し,決して同法の法意を踰越するものではなく,従って,右副検事による本件起訴は所論の如き違法のものではない。諭旨は理由がない。」(東京高判昭和28年1月27日東高判時報3巻1号17頁,その他最判昭和29年11月16日最高裁判所裁判集100号511頁)
(注3)副検事が地方検察庁支部の公判立会をすることについて
   判例「検察庁事務章程13条(旧章程)によれば,地方検察庁の検察官に差支えがあるときは,検事正はその庁の検察官の事務を随時その庁の所在地の区検察庁の検察官に取扱わせることができるのであるから, 区検察庁の検察官たる副検事と雖も,上司の命令があるときは適法に地方検察庁の検察官の事務を取扱うことができるものと解す。」(東京高判昭和31年4月14日高裁刑集9巻3号305頁)
   
3 資格要件
   検事総長,次長検事,検事長及び検事正に任命されるには, 一級の検事であることを要し (庁法第15条,第9条), 一級の検察官の任命及び叙級は,庁法第19条所定の資格を有する者について行う。
   二級の検事に任命されるためには,庁法第18条第1項,第3項所定の資格を有しなければならない。同条項の資格要件は,
(一) 司法修習生の修習を終えた者
(二) 裁判官の職にあった者
(三) 3年以上政令で定める大学(学校教育法による大学で大学院の附置されているもの及び大学令による大学(庁法施行令第1条))において法律学の教授又は准教授の職にあった者
(四) 3年以上副検事の職にあって, 政令で定める考試(検察官特別考試)を経た者
(検察官特別考試については,検察官特別考試令(昭和25年政令第349号)に定められている。)
とされている。
   副検事に任命されるためには,庁法第18条第2項の定める資格を有しなければならない。同条項の資格要件は,
(一) 二級の検事の任命資格を有する者
(二) 司法試験(第二次試験)に合格した者で,検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経たもの
(三) 3年以上政令で定める二級官吏その他の公務員の職にあった者で,検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経たもの
   「政令で定める二級官吏その他の公務員は次のとおり (庁法施行令第2条第1項)。
(1) 一般職の職貝の給与に関する法律(以下「給与法」 という)別表第四公安職俸給表(二)の職務の級二級以上又は給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上の検察事務官(公安職俸給表(二)の職務の級二級の検察事務官については, 庁法第36条の規定に基づき区検察庁の検察官の事務を取り扱う者に限る。)
(2) 給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上,同法別表第四公安職俸給表(一)の職務の級四級以上又は同表公安職俸給表(二)の職務の級三級以上の法務事務官又は法務教官
(3) 地方更生保議委貝会の委員
(4) 給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上の入国審査官
(5) 給与法別表第四公安職俸給表(一)の職務の級四級以上の入国警備官
(6) 裁判所調査官
(7) 裁判所職員臨時措置法において準用する給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上の栽判所事務官,裁判所書記官,裁判所書記官補,家庭裁判所調査官,家庭裁判所調査官補,司法研修所教官又は裁判所職員総合研修所教官
(8) 学校教育法による大学で大学院の附置されていないものにおける法律学の教授たる文部科学教官
(9) 警部以上の警察官
(10) 司法蕃察員として職務を行う国家公務員であって,給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上,同法別表第四公安職俸給表(一)の職務の四級以上若しくは同表公安職俸給表(二)の職務の級三級以上又はこれらに準ずる職務の級にあるもの
(11) 警務官たる三等陸尉, 三等海尉又は三等空尉以上の自衛官
(12) 沖縄法令の規定による一級検察補佐職, 一級法務職,一級法制職, 一級裁判所書記職又は三級以上の警察職
(13) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の規定に違反する事件の審査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある内閣府事務官であって,給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上のもの
(14) 国税通則法第11章の規定に基づく犯則事件の調査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある財務事務官であって,給与法別表第三税務職俸給表の職務の級三級以上のもの
(15) 金融商品取引法第9章の規定(他の法律において準用する場合を含む。)に基づく犯則事件の調査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある内閣府事務官,又は財務事務官であって,給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上のもの
(16) 関税法第11章の規定(他の法律において準用する場合を含む。)に基づく犯則事件の調査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある財務事務官であって,給与法別表第一行政職俸給法(一)の職務の級三級以上のもの
(副検事の選考については,検察官・公証人特別任用等審査会令(平成15年政令第477号)に定められている。)とされている。

4 検察官の任命については,以上のとおり,厳重な資格が定められている上,全体を通じて,任命の欠格事由がある。すなわち,他の法律によって官職に就くことができない者(国家公務員法第38条)はむろんのこと,さらに,禁鋼以上の刑に処せられた者(ただし,刑法第34条の2第1項,恩赦法第9,10条参照)又は弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者(ただし,裁判官弾劾裁判法第38条参照)も,検察官に任命することができない(庁法第20条)。
   一般に,国家公務員について,欠格事由が生じた場合には,その者は,当然に失職する(国家公務員法第76条)。検察官については,明文はないが,任官後,欠格事由が発生すれば,当然官を失うものと解すべきである。

* 検察庁法19条1項は以下のとおりです。
一級の検察官の任命及び叙級は、次の各号に掲げる資格のいずれかを有する者についてこれを行う。
一 八年以上二級の検事、判事補、簡易裁判所判事又は弁護士の職に在つた者
二 最高裁判所長官、最高裁判所判事、高等裁判所長官又は判事の職に在つた者
三 前条第一項第一号又は第三号の資格を得た後八年以上法務省の事務次官、最高裁判所事務総長若しくは裁判所調査官又は二級以上の法務事務官、法務教官、裁判所事務官、司法研修所教官若しくは裁判所職員総合研修所教官の職に在つた者
四 前条第一項第一号又は第三号の資格を有し一年以上一級官吏の職に在つた者

検察官の身分保障

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)77頁ないし84頁には,「第2節 検察官の身分保障」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。なお,別の場所の脚注に言及している部分は削りました。)。

1 既に述べたように,検察権は, 司法権と密接不可分な関係にあり, 司法権の適正な実現のためには,検察権が公正妥当に行使されることが不可欠の前提となる。 したがって, 司法権の独立を確保するためには,検察権の立法権及び他の行政権からの独立が担保されなければならない。
   そのため,庁法は,一面において,個々の検察官をそれぞれ独立の官庁とするとともに,法務大臣の検察官に対する指揮監督権をも制限し,他面において,検察官の身分保障を一般の国家公務員のそれ(注)に比して厚いものとして,検察官の独立性を担保しているのである。けだし,いかに個々の検察官を独立の官庁とし,法務大臣の指揮監督椎を制限したとしても,内閣ないし法務大臣が自由に検察官を罷免したり, あるいは,検察官に対して身分上不利益な処分を行ったりすることができるものとするならば,検察権の独立の担保は,有名無実に帰するであろう。
この意味において,検察官の独任制官庁及び法務大臣の指揮監督権の制限と,検察官の身分保障とは,検察権の独立を担保するための不可欠の前提であるというべきものである。
   その身分保障の内容は,検察官は,懲戒処分については一般の国家公務員と全く同様に国家公務員法の適用を受けるが,分限処分については,一定の場合を除いて,原則として, その意思に反して,官を失い,職務を停止され, 又は俸給を減額されることがない(庁法第25条)ことである。このように,検察官に対して一般の国家公務員と比べて特に厚い身分保障が認められているのは,検察権の公正妥当な行使を担保するためであり, 一方,検察官は,個々の国民の権利義務に重大な影響を及ぼすところの検察権を,専ら自己の判断と責任において行使することを委ねられているのであるから,検察官は, 自己の判断の誤りによって,国家,国民に重大な損害を与える結果を招いたり,検察の公正を疑わしめる結果を招いたりしたような場合には,漫然,身分保障の上に安住することなく,検察官としての良心に従い,潔く出所進退を決しなければならないのは当然である。

(注) 一般の国家公務員の身分保障とは,国家公務員が意に反してみだりにその官職を失ったり,あるいは官職の保有に基づく各種の権利をみだりに制限ないし剥奪されることがない制度をいう。一般の国家公務員も国民全体の奉仕者として,行政事務を能率的かつ公正に執行する責務を負うものとして。安心して職務に精励できるように一定の事由に該当する場合以外はその地位やそれに伴う利益を保障しようとするものである。
   そして国家公務員に対し身分上の不利益を与える制度として,懲戒処分と分限処分とがある。懲戒処分の種類には, (1)免職,(2)停職,(3)減給,(4)戒告(国家公務員法第82条)があり,分限処分の種類には, (1)免職, (2)降任,(3)休職(同法第75条第1項)がある。同じく免職といっても,懲戒処分としての免職と分限処分としての免職があるので,両者の相違が問題になるが,前者は公務秩序の維持という観点に立ってのもので,倫理的な非難の要素を含んでいるのに対し,後者は公務の能率的な運営という観点に立つもので,倫理的な非難の要素は含んでいない。検察庁職員のうち検察事務官は, 一般職(同法第2条第2項)であるから,上記懲戒処分,分限処分の両規定の適用がある。これに対し,検察官は一般職(同項)ではあるが,分限処分については庁法に規定(第23条,第24条)があるので,国家公務員法の適用は排除され(第1章第1節4参照),同法の分限処分の規定は適用されない。 しかしながら, 同法の懲戒処分の規定は排除されていない(庁法第25条ただし書,32条の2,国家公務員法附則第13条)ので,同規定の適用はある。
   なお裁判官は特別職(国家公務員法第2条第3項第13号)であり, 国家公務員法の規定は原則として適用されない(同条第5項)。したがって,上記懲戒処分,分限処分のいずれの規定も適用されない。

2 検察官に対する懲戒処分
   懲戒処分は,特別権力関係における規律の保持のために認められる制裁であるが,国と国家公務員との間に成立する特別権力関係における懲戒処分については,国家公務員法第82条から第85条までに規定されており, この規定は,国家公務員である検察官についても, そのまま適用がある。
   国家公務員の懲戒権者は,任命権者であり (国家公務員法第84条第1項),懲戒の原因は,(1)国家公務員法若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反したこと, (2)職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったこと, (3)国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があったこと, である(同法第82条)。また,懲戒処分の種類は,次の四つである (同条)。
(ア) 免職
(イ) 停職1 日以上1年以下の期間職務に従事せしめられず,かつ, その期間中給与を支給されない(同法第83条,人事院規則12-0「職員の懲戒」第2条参照)。
(ウ) 減給1年以下の期間,俸給月額の5分の1以下に相当する額を給与から減ぜられる (「職員の懲戒」第3条参照)。
(エ) 戒告 (「職員の懲戒」第4条参照)。
   なお,戒告に似た名前のものとして「訓告」があるが, これは懲戒処分の一種ではなく,職務上の義務違反が懲戒処分に付する程度に達しない場合に,指揮監督権に基づいて,その義務違反者の職務履行の改善向上に資するために行われる監督上の措置にすぎない。

3 懲戒処分以外の理由による,検察官に対する不利益処分
(1) 免官
   検察官は,原則として,意思に反して官を失うことがない(庁法第25条本文)。
   なお, ここでいう 「官」 とは, 「検察官」たる地位を意味するのか,それとも, 「検事総長」, 「次長検事」, 「検事長」, 「検事」又は「副検事」たる地位を意味するのかについての問題が,昭和26年,具体的な問題となって現われた。時の大橘武夫法務総裁が木内曽益次長検事を本人の承諾を得ることなく札幌高等検察庁検事長へ転任せしめようとした, いわゆる木内問題がこれである。このとき, 当時の大橘法務総裁や佐藤達夫法制意見長官は, 「庁法第25条の規定は検察官相互の転官において適用のあるものではない」旨の見解を示した(昭和26年3月7日,参議院法務委員会)。 しかし,既に述べたとおり,検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事はそれぞれ官であり,検察官は検事総長以下の官名の総称であって,庁法第25条の「官」を「検察官」と限定する法文解釈上の理由はないし, また,同条の「官」を「検察官」 と解するならば,例えば,時の法務大臣が,庁法第14条の規定に反して直接行った具体的事件に関する指揮に従わなかったという隠された原因によって,極端な場合,検事長を副検事に転任させるというようなこともあり得るわけであって,庁法が検察権の独立を担保せしめようとした検察官の身分保障は, ほとんど有名無実に帰すことになる。 したがって,庁法第25条の「官」は,検事総長以下のそれぞれの官であるとしか解し得ない。
   例外的に,検察官がその意思に反して官を失うのは,
(ア) 任命の欠格事由が生じたとき
(イ) 検事総長は年齢が65年に達した時,その他の検察官は年齢が63年に達した時(定年)(庁法第22条)
(ウ) 検察官適格審査会の議決に基づく罷免(庁法第23条)
   の三つの場合である。
   ちなみに,一般の国家公務員がその意思に反して離職せしめられるのは,(ア)欠格事由が発生した場合の失職(国家公務員法第76条) ,(イ)勤務実績がよくない場合,心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合,その他官職に必要な適格性を欠く場合,あるいは,官制もしくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員(注1)を生じた場合の免職(同法第78条)の分限処分による場合である。
   検察官の適格審査制度(庁法第23条)は,検察官の職務と責任の特殊性から,検察官の身分を一般の国家公務員のそれに比して手厚く保障するために,庁法によって設けられた制度である。すなわち,検察官が「心身の故障,職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないとき」 (国家公務員法第78条第1号から第3号までと同様,検察官としての一般的適格性を欠く場合と解すべきであって,検察官に, たまたま懲戒の対象となる非行等があっても,そのことのゆえに直ちに適格審査による罷免の対象となることはなく,その非行等を通じてその検察官の客観的,一般的適格性の欠如が認められるような場合に初めて適格審査による罷免の対象になるものと解すべきであろう。)は,内閣が任命権者である検事総長,次長検事及び検事長については,検察官適格審盃会の議決及び法務大臣の勧告を経て, 内閣が免官することができ,法務大臣が任命権者である検事及び副検事については,検察官適格審査会の議決を経て,法務大臣が免官することができる(庁法第23条第1項) とされている。検察官が検察官適格審査会の審査に付されるのは,
(ア) 全ての検察官が3年ごとに審査に付される一定時審査
(イ) 法務大臣の請求により特定の検察官が随時審査に付される一請求による審査
(ウ) 審査会の職権により特定の検察官が随時審査に付される-職権による審査
   の三つの場合である (同条第2項)。検察官適格審査会の組織,権限その他については,庁法第23条第3項ないし第7項,及び第8項に基づく検察官適格審査会令(昭和23年政令第292号)に定められている。
(2) 休職
   検察官は,原則として,意思に反して職務を停止されることがない(庁法第25条本文)。
   ここでいう 「職務」 とは,一般的な検察官の聯務ではなくて,補職せられたその具体的な職務をいうのであって,検察事務及び検察行政事務のいずれをも含む。また, 「職務の停止」は,国家公務員法における「休職」 (同法第79条)に当たる。 したがって,検察官は, 同法に基づく 「休職」を命ぜられることはない。また前記検察官適格審査制度では,検察官が,その職務を執るに適しないと認める場合に免官はできるが, その検察官の職務を停止することはできない。
   例外的に,検察官がその意思に反して職務を停止されるのは,剰員により欠位を待たされる場合(庁法第24条)である。
   剰員が生ずる場合は,一官一職である検事総長や次長検事については考えられないが,検事長,検事又は副検事については,検察庁の廃止,定員の削減等の事由によることがあり得る。このような場合には,法務大臣は,剰員となった検察官に俸給の半額を給して,欠位を待たせることができる (庁法第24条)。 この措置により,その検察官は,検事長,検事又は副検事という官を失うことはないが,執行すべき具体的職務を有しないこととなるから,実質的には,減俸を伴う休職を命ぜられたのと同様の結果となる(国家公務員法第79条,一般職の職員の給与等に関する法律第23条参照)。同様の場合に,一般の国家公務員においては,職員を免職することができるものとしている (国家公務員法第78条第4号)。
   ちなみに,一般の国家公務員においては,心身の故障のため,長期の休養を要する場合又は刑事事件に関し起訴された場合に,意思に反して休職させられることがある(国家公務員法第79条)。
(3) 減俸
   検察官は,原則として,意思に反して俸給を減額されることがない(庁法第25条本文)。
   検察官の受ける俸給については, 「検察官の俸給等に関する法律」(昭和23年法律第76号)で定められている (庁法第21条)。庁法第25条にいう 「俸給を減額」 とは,特定の検察官の俸給を減額することをいい,検察官一般の俸給の減額を含まないと解される。 したがって,検察官の俸給を一律に減額する法律の改正は適法であるが, その法律を特定の検察官に適用することとなれば,特定の検察官の俸給が減額されることとなるから, その範囲では,法改正は効力を生じないこととなる。また, 「減額」 とは,名目上の減額をいうものと考える。ただし,平価切下げのように,国全体の貨幣価値の名目的切下げの場合は,減額は当たらない。
   例外的に,検察官がその意思に反して俸給を減額されるのは,剰員により俸給の半額のみを給せられる場合(庁法第24条)である。ちなみに,一般の国家公務員においては,(1)降任に伴う降給(国家公務員法第78条), (2)休職に伴う減給(同法第80条第4項及び一般職の職員の給与等に関する法律第23条), (3)勤務しないことによる減給(同法第15条)等の場合がある(注2)。
(注1) 過員(剰員)
   組織体において一定の地位の定員又は定数が定められている場合, その地位を占める人の数が, その定められた定員又は定数を超える状態になったとき,その超えた部分の人員をいう。
(注2) 裁判官と検察官の身分保障の比較
   裁判官と検察官を比較すると,①裁判官の身分保障は窓法(第78条)によって保障されているのに対し,検察官の身分保障は法律(庁法第25条)によって保障されており,したがって保障の基礎に強弱の差異があること,②裁判官の報酬は憲法(第79条第6項,第80条第2項。具体的には裁判所法第51条,裁判官の報酬等に関する法律)によって保障され,憲法改正の手続によらなければ減額することはできないのに対し,検察官の俸給は法律(庁法第25条。具体的には検察官の俸給等に関する法祁)によって保障されているので,法律改正の手統によれば減額することができる(ただし,限界があることについては本文3(3)参照) こと,③裁判官は裁判官弾劾法に基づく罷免の裁判による場合は別として,裁判官分限法により回復の困難な心身の故障のため職務を執ることができないと裁判された場合に罷免されることはあるが,懲戒処分によって罷免されることはない(憲法第78条,裁判所法第48条,裁判官分限法第1条,第2条)のに対し,検察官は心身の故障,職務上の非能率その他の事由により職務を執るに適しないときは検察官適格審査会の議決等を経て罷免されることがあり,罷免事由が広いほか,懲戒処分によっても罷免されることがある(庁法第23条第1項,第25条ただし書,国家公務員法第82条) ことなどの点において,身分保障上の相違がある。
   しかしながら,法律の改正によって検察官の身分保障を不利益に変更するという事態は,現実の問題として,およそ想定することが困難なので検察官の身分保障は極めて強いものということができる。 これが,検察官の身分保障は我判官に準ずるということの実質的意味である。

検察権の意義及び内容

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)10頁ないし20頁には,「第1節 検察権の意義及び内容」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察官が公益の代表者として持つ全ての権限,つまり庁法第4条及び第6条に規定する事務(注1)を行う権限を広義の検察権という。すなわち, (1)刑事について,公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求し,かつ,裁判の執行を監督し, (2)裁判所の権限に属するその他の事項についても,職務上必要と認めるときは,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べ, (3)公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行い, (4)いかなる犯罪についても捜査をする権限(注2)が, これである。
   しかし,通常は, これを狭義に解し,刑事について, (1)公訴を行い,(2)裁判所に法の正当な適用を請求し, (3)裁判の執行を監督し, (4)いかなる犯罪についても捜査をする権限を検察権という。
(注1) 検察事務と検察行政事務
   検察庁における事務のうち,庁法第4条及び第6条に規定する検察官固有の事務を検察事務と呼ぶ。これに対し,検察庁における検察事務以外の事務を検察行政事務と呼ぶ。検察行政事務には,検察事務の運営上, 当然これに随伴し検察事務遂行のため必要な間接的補助的行政事務(総務,会計,文書など)や,検察庁の長による統括事務がある。
(注2)第6条は,捜査権を創設的に規定したものではなく,確認的に規定したものと解される (後記3Ⅳ参照)。
   
2 刑罰権実現過程における検察権の重要性
   国家は,社会の秩序を維持する手段としての刑罰権を持つが, これを行使すべきかどうかを国家機関である検察官の判断に委ねている。検察官には, その判断の前提として,犯罪の捜査をする権限が認められる。
   検察官は,捜査の結果に基づき,国家として刑罰権を行使すべき場合かどうかを判断する。もし,検察官が消極に判断したときは,原則として刑罰権が行使されることはない。検察官が積極に判断したときは, まず検察官によって刑罰権の行使についての発議(起訴)が行われる。 これを受けて裁判所は,不告不理の原則(「不告」すなわち訴えがなければ,「不理」すなわち審理できないという原則。つまり裁判所は検察官からの公訴提起のない事件について審理・裁判をすることは許されないとの原則)の下に,刑罰権の有無及び限度を判定し刑罰権の内容を具体化する。最後に,検察官は裁判所によって具体化された刑罰権の内容の実現を指揮するという過程をたどるのである。
   このように,刑罰権実現の過程において,検察権の占める地位は,極めて重要である。したがって,検察権は,司法権そのものではなく,刑罰権の行使という国家目的を追求する一つの行政作用に属するが,これを行使する検察官の責任は重いといわなければならない。
   
3 検察権(狭義)の内容
I 刑事について公訴を行う権限(庁法第4条)
   検察官は,国家の刑事訴追機関として,公訴を提起すべきかどうかを判断し,起訴, 又は不起訴処分をする (注1,2,3)。起訴した場合においては,原告として,公訴の維持,遂行に当たり,特別の必要あるときは,公訴の取消し(刑訴法第257条)をする。
(注1)わが国の刑訴法は, 「公訴は,検察官がこれを行う。」 (刑訴法第247条)として,国家訴追主披・起訴独占主義を採り,また,「犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができる。」 (刑訴法第248条) として,起訴便宜主義を採ることを明らかにしている。
(注2) 検察官の少年事件の家裁送致(少年法第42条)は,裁判所の裁判を求める行為であるから,公訴を行う権限に包含されるものと解される。
(注3) 公訴権の行使に伴う裁量権の範囲については, いわゆるチッソ水俣病補償請求関係傷害事件について,弁護人の公訴権濫用の主張に対する次の判示が注目される。
   「検察官は,現行法制の下では,公訴の提起をするかしないかについて広範な裁量権を認められているのであって,公訴の提起が検察官の裁量権の逸脱によるものであったからといって直ちに無効となるものでないことは明らかである。たしかに,右の裁量権の行使については種々の考慮事項が刑訴法に列挙されていること (刑訴法第248条),検察官は公益の代表者として公訴権を行使すべきものとされていること (検察庁法第4条),さらに,刑訴法上の権限は公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ誠実にこれを行使すべく濫用にわたってはならないものとされていること (刑訴法第1条,刑訴規則第1条第2項)などを総合して考えると,検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできないが,それはたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するように極限的な場合に限られるものというべきである」
(最決昭和55年12月17日最高刑集34巻7号672頁)。
Ⅱ 刑事について裁判所に法の正当な適用を請求する権限(庁法第4条)
   保釈請求に対する決定に当たって意見を述べ,公判手続において事実及び法律の適用についての意見を陳述(論告・求刑) し,違法又は不当な裁判に対して上訴し,再審を請求し,非常上告をするなどの検察官の権限が, これに当たる。
   もとより,検察官は,単に原告官であるにとどまらず,公益の代表者であるから,法の正当な適用を求めることは, その義務である。検察官が,被告人の利益のためにも上訴し, あるいは,非常上告をし,場合によっては,無罪又は公訴棄却の諭告をすることがあり得るのも,この理由による。
Ⅲ 刑事について裁判の執行を監督する権限(庁法第4条)
   刑事事件における裁判が正当に執行されるように指揮監督することであって, 勾引状,勾留状等の執行を指揮し, あるいは,刑を言い渡した裁判の執行を指揮するなどの検察官の権限がこれに当たる。
lV 犯罪について捜査する権限(庁法第4,6条)
   検察官は, あらゆる犯罪について捜査する権限を有する。 これは,公訴権を独占する検察官がその権限行使の適正を期するため当然必要とされるものである。捜査権は,公訴権とは別個の重要な権限である が,究極においては,公訴権のために存在するものである。 ところで,庁法第4条,第5条,第6条の配列や,庁法第14条に「第4条及び第6条に規定する検察官の事務」 と規定されているところをみると,捜査権は第4条の検察事務とは別個の権限のようにもみえる。しかし,犯罪の捜査は,第4条にいわゆる「公訴を行う」 ことの必然的な前提であるので,犯罪捜査権は, 「公訴を行う」権限の中に当然含まれている, あるいは, 「公訴を行う」権限の必然的な前提として同条に規定されていると解される。 したがって,捜査権は第4条に根拠があり,第6条はそれを確認するとともに,第5条の事物管轄の制限を解いているものと解するのが相当である(第4節4参照) (注)。
   検察官の犯罪捜査権について,刑訴法第191条第1項は, 「検察官は,必要と認めるときは, 自ら犯罪を捜査することができる」 と規定し,捜査権限としては無定量に与えられているが,その実行は一応任意的とされている。 これに対して,刑訴法第189条第2項は,「司法警察職員は,犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとする」 と規定し,警察法第2条第1項は,「警察は ,・・・犯罪の予防,鎮圧及び捜査・・・に当ることをもってその責務とする」 と規定して,第一次捜査責任が司法警察職員にあることを示している。
   このように,現在の法制上,検察官の捜査責任は,司法警察職員のそれに比して,第二次的なものとされている。 しかし, これは,飽くまでも捜査についての責任の問題であって,権限の問題ではない。よく第一次捜査権は警察にあって,検察官は第二次捜査権しか有しない,というように言われているが,正確とはいえない。検察官の捜査権限自体が第二次的なものとされているのではない。捜査が司法警察職員によって行われることは,捜査の合目的性の見地から当然であるが,司法警察職員が行わない, あるいは行い得ない捜査を検察官が行うのも当然であり,また,捜査の法的抑制の見地から,検察官が司法警察職員の捜査を積極的,消極的に規制することが必要である。 こうした意味から,検察官の捜査権が司法警察職員のそれよりも広く認められるのである (被疑者の勾留請求,起訴前の証人尋問の請求の権限など)。こうして,検察官と司法警察職員の関係は,基本的には協力関係である (刑訴法第192条)が,検察官は司法警察職員に対して, 一 定の限度で指示及び指揮をすることができる (刑訴法第193条)とされているのである。
(注) 裁判所構成法第6条は,「検事ハ刑事二付公訴ヲ起シ其ノ取扱上必嬰ナル手続ヲ為シ・・・」 と規定し,検察官の捜査権は「其ノ取扱上必要ナル手続ヲ為」すことに含まれていると解されていた。
   
4 検察権(広義)の内容
   広義の検察権には,前記3の権限に加え, 次の権限が含まれる。
I 裁判所の権限に属するその他の事項について,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べる権限(庁法第4条)
   検察官は,公益の代表者として,裁判所の行う法の適用,実現については,刑事に限らず,広く関心を払い,相携えて法の支配の実現に努めなければならない。この意味において,検察官は,必要に応じ,刑事以外の事項についても,裁判所に対して,通知を求めたり,意見を述べたりする権限を有する。
   この権限を手続上明らかにしたものとしては,人事訴訟法第23条第1 ,2項,非訟事件手続法第40条等がある。
Ⅱ 公益の代表者として,他の法令がその権限に属させた事務を行う権限(庁法第4条)
   各種の法令において,数多くの権限が検察官に属せしめられている。
   他の法令が検察官の権限に属させた事務としては,次のようなものが挙げられる。
(1) 民法上の権限
① 後見開始の審判,保佐開始の審判又は補助開始の審判の舗求権,それらの取消請求権(第7,10,11,13,14,15,17,18条)
② 不在者の財産の管理に関する処分請求権,その取消請求権(第25条)
③ 不在者の財産の管理人改任請求権(第26条)
④ 不在者の財産の管理人に対する財産目録調製命令請求権(第27条)
⑤ 不適法婚の取消請求権(第744条)
⑥ 親権喪失の審判,親権停止の審判又は親権による管理権喪失の審判講求権(第834条,834条の2,835条)
⑦ 後見人の解任請求(第846条,任意後見契約に関する法律第8条)
⑧ 推定相続人の廃除確定前に相続が開始した場合の遺産管理処分請求権,家庭裁判所が選任した管理人に対する財産目録調製命令請求権(第895条)
⑨ 相続の承認,放棄期間の伸長請求権(第915条)
⑩ 相続財産の保存に関する処分請求権,家庭裁判所が選任した場合の遺産管理人に対する財産目録調製命令請求権(第918,926,940条)
⑪ 財産分離の請求があった相続財産について家庭裁判所が選任した管理人に対する財産目録調製命令請求権(第943,950条)
⑫ 相続財産法人の相続財産管理人選任請求権,同管理人に対する財産目録調製命令請求権(第952,953条)
⑬ 相続人捜索の公齋請求権(第958条)
(2) 民事訴訟法上の権限
   過料の裁判及び控訴濫用に対する金銭納付の裁判の執行命令権(第189条,303条)
(3) 人事訴訟法上の権限
① 婚姻の無効・取消しの訴え,離婚の訴え,協議上の離婚の無効,取消しの訴え,婚姻関係の存否の確認の訴え,嫡出否認の訴え,認知の訴え,認知の無効・取消しの訴え,父を定めることを目的とする訴え,実親子関係の存否の確認の訴え,養子縁組の無効・取消しの訴え,離縁の訴え,協議上の離縁の無効・取消しの訴え,養親子関係の存否の確認の訴えの相手方となる権限(第2,12条)
② 人事訴訟期日における事実の主張,証拠の申出をする権限(第23条)
(4) 非訟事件手統法上の権限
① 意見陳述・手続の期日立会権及び事件・手続の期日の通知を受ける権限(第40条)
② 裁判所その他の官庁等から検察官の請求によって裁判すべき場合が生じたことの通知を受ける権限(第41条)
③ 過料事件につき意見陳述権及び過料の裁判に対する即時抗告権(異議申立権を含む。)(第120条,122条)
④ 過料の裁判の執行命令権(第121条)
(5) 家事事件手続法上の権限
   裁判所その他の官庁等から検察官の申立てによって審判すべき場合が生じたことの通知を受ける権限(第48条)
(6) 人身保護法上の権限
   拘束者に対する命令を発した旨の通告を受ける権限・審問期日に立ち会う権限(第13条)
(7) 公職選挙法上の権限
① 組織的選挙運動管理者等,親族・秘書等の選挙犯罪による当選無効の訴の提起権(第210条,211条)
② 選挙関係訴訟における立会権(第218条)
(8)  弁護士法上の権限
   弁護士会又は日本弁誰士連合会の資格審査会・懲戒委員会・綱紀委員会の委員となる権限,解散した弁護士会の清算人の選任・解任請求権(第43条の4,43条の5,52,66条の2,70条の3,外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法第38,56,58条)
(9) 公証人法上の権限
① 公正証書の原本の閲覧請求権(第44条)
② 公証人に対する懲戒としての過料の執行命令権(第84条)
(10) 刑事補償法上の権限
   刑事補償の請求に関し裁判所に意見を述べる権限(第14条)
(11) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律上の権限
   刑事施設を巡視する権限(第11条)
(12) 少年院法上の権限
   少年院を巡視する権限(第12条)
(13) 少年鑑別所法上の権限
   少年鑑別所を巡視する権限(第11条)
(14) 更生保護法上の権限
① 執行猶予の取消しに関し保護観察所の長から申出を受ける権限(第79条)
② 更生緊急保護の要否に関し保護観察所の長に意見を述べる権限(第86条)
(15) 恩赦法上の権限
   判決原本に恩赦を付記する権限(第14条)
(16) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律上の権限
   公正取引委員会事務局の職員となる権限(第35条)
(17) 総合法律支援法上の権限
   検事総長の推薦する検察官1名が日本司法支援センターに置かれた審査委員会の委員となる権限(第29条)
(18) 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法上の権限
   日本国の法令による罪にかかる事件以外の刑事事件についての協力に関する権限(第18,19条)
(19) 日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法上の権限
   上記(18)に同じ(第10,11条)
(20) 宗教法人法上の権限
   宗教法人に対する解散命令の請求権,意見陳述権,即時抗告をする権限(第81条)
(21) 各法律によって設立され解散した法人の清算人の選任請求権・解任請求権
   地方独立行政法人法(第92条,93条),マンションの建替え等の円滑化に関する法律(第39条の2,39条の3),特定非営利活動促進法(第31条の6,31条の7),密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(第102条の2,102条の3) ,更生保護事業法(第31条の5,31条の6),政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律(第10条の4,10条の5),広域臨海環境整備センター法(第30条の2,30条の3),農住組合法(第76条の2,76条の3) ,森林組合法(第99条の3,99条の4),職員団体等に対する法人格の付与に関する法律(第31,32条),公有地の拡大の推進に関する法律(第22条の4,222条の5),勤労者財産形成促進法(第7条の27の2,7条の27の3) ,地方道路公社法(第35条の2,35条の3),都市再開発法(第46条の2,46条の3),職業能力開発促進法(第41条の4,41条の5),船員災害防止活動の促進に関する法律(第52条の2,52条の3),地方住宅供給公社法(第37条の2,37条の3),労働災害防止団体法(第33条の2,33条の3) ,漁業災害補償法(第57条の2,57条の3),建物の区分所有等に関する法律(第55条の4,55条の5),農業信用保証保険法(第50条の2,50条の3) ,商工会法(第53条の2,53条の3),たばこ耕作組合法(第50条の2,50条の3) ,国民健康保険法(第32条の5, 32条の6),土地区画整理法(第46条の2,46条の3),商工会議所法(第61条の2,61条の3),信用保証協会法(第28条の2,28条の3),漁船損害等補償法(第58条の2,58条の3),中小漁業融資保証法(第60条の2,60条の3),社会福祉法(第46条の6,46条の7),宗教法人法(第49条),税理士法(第49条の12の4,49条の12の5),港湾法(第10条の4,10条の5),中小企業等協同組合法(第82条の14の2,82条の14の3),土地改良法(第68条) ,私立学校法(第50条の5,50条の6),金融商品取引法(第100条の9,100条の10),損害保険料率算出団体に関する法律(第14条の7,14条の8),医療法(第56条の4,56条の5),水産業協同組合法(第85条の3,85条の4),農業協同組合法(第72条の37,72条の38),農業保険法(第76条,77条),農村負債整理組合法(第23条の4,23条の5),健康保険法施行令(第59条の4,59条の5),地方自治法(第260条の25,260条の26)
   以上のほか,法令上,検事総長のみに認められた権限として, 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」違反事件につき,公正取引委員会から告発を受理する権限(同法第74条),東京高等検察庁検事長及び同検察庁の検察官のみに認められた権限として, 「逃亡犯罪人引渡法による逃亡犯罪人の拘禁及びその引渡しについての審査請求等に関する諸権限, 「国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律」による引渡犯罪人の拘禁及びその引渡しについての審査請求等に関する諸権限,検事正のみに認められた権限として,「司法警察職員等指定応急措置法」,「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件」, 「麻薬及び向精神薬取締法」, 「漁業法」, 「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」による特別司法警察職員の指名に関する協議を行う権限,東京地方検察庁検事正及び同検察庁の検察官のみに認められた権限として, 「国際受刑者移送法」による受入移送に関する審査請求,受入収容状の執行指揮等に関する権限,地方検察庁の検事のみに認められた権限として, 「検察審査会法」による検察審査委員選定のくじに立ち会う権限(同法第13条)がある。

検察庁の支部

      七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)54頁ないし59頁には,「第3節 検察庁の支部」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 法務大臣は,必要と認めるときは,高等裁判所,地方裁判所又は家庭裁判所の支部にそれぞれ対応して,高等検察庁又は地方検察庁の支部を設けることができる (庁法第2条第4項)。 したがって,裁判所の支部がないのに,検察庁の支部だけを設けることは許されない。逆に,法務大臣が必要と認めなければ,裁判所の支部が設けられても,検察庁の支部を設けなくてもよいわけである(もっとも,現実には,裁判所の支部のある場合には,例外なく検察庁の支部が設けられている。)。
検察庁の支部は,裁判所の支部と対応関係があるから,裁判所の支部の管轄区域に応じて管轄区域が定まり,裁判所の支部に配分された裁判事務の範囲に応じて支部勤務検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まることとなる。
   ここで注意すべきことは,裁判所の支部が当該裁判所の事務の一部を取り扱わせるため設けられるものとされる(裁判所法第22条第1項,第31条第1項,第31条の5)のと同様,検察庁の支部も「当該検察庁の事務の一部を取り扱わせる」 (庁法第2条第4項)ものであることである。
   すなわち,支部を設け,対応裁判所支部の管轄区域等に応じて,検察事務を行わせるのは,単にその検察庁の中での事務の分配にすぎないのである。 したがって,支部の検察官が対応裁判所支部に配分された裁判事務の範囲を超えて訴訟行為をしても, それが当該裁判所(支部ではなくて)の管轄権の範囲内に属することであれば,違法とはならない。例えば,東京地方検察庁立川支部勤務の検察官が,東京都区内に居住する被疑者が同区内で犯した犯罪について東京地方裁判所立川支部(管轄区域は,東京都のうち区部を除いた区域)に公訴を提起し, あるいは, 同裁判所支部に管轄権のある事件について同支部にでなく,東京地方裁判所にいきなり公訴を提起したとしても,管轄違い又は公訴棄却の言渡し(刑訴法第329条,第338条)を受けることはない(注1,2,3)。 もっとも, このような取り扱いをすることは,違法ではないというものの,事務の分配を乱すことになるのであるから,前者の場合には,東京地方検察庁(本庁)検察官に移送の上, 同検察官において公訴を提起し,後者の場合には,対応する東京地方裁判所立川支部に公訴を提起することが妥当なことはいうまでもない。
   なお,支部に取り扱わせることができる事務は, 「当該検察庁の事務の一部」 という文言からして, 当然,検察事務と検察行政事務とを含むものである。
   
2 次に,検察庁の支部を設けることは,法務大臣の権限とされており,これまで,省令で個々の支部の設置が定められている。すなわち,昭和23年法務庁令第1号「各高等裁判所支部に対応して各高等検察庁支部を設置する庁令」及び昭和22年司法省令第42号『地方検察庁支部設置規則」がそれである。 これらによれば,高等検察庁支部は,名古屋高等検察庁金沢支部,広島高等検察庁岡山支部,同松江支部,福岡高等検察庁宮崎支部, 同那覇支部及び仙台高等検察庁秋田支部の6となっており,地方検察庁支部は,東京地方検察庁立川支部をはじめとして203となっている。
   ところで,各地方検察庁支部勤務検察官の訴訟上の職務範囲は,対応する裁判所支部の権限(事務分配)に応じて定まり地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則上で地方裁判所の支部は, 「上訴事件及び行政事件訴訟に関する事務を除いて,地方裁判所の権限に属する事務を取り扱う」こと (同規則第1条第2項),また,家庭裁判所の支部は,「家庭裁判所の権限に属する事務を取り扱う」 こと (同規則第2条第2項)が原則であり,ただ,地方裁判所又は家庭裁判所は, 「当該地方裁判所支部(又は家庭裁判所支部)において取り扱う事務の一部を,当該地方裁判所(当該家庭裁判所)において取り扱い又は当該地方裁判所(当該家庭裁判所)の他の支部で取り扱うことができる。」 (同規則第3条第1,2項)とされる。すなわち,裁判所支部に対する事務の分配は各地家裁の権限に委譲されている。その結果,各地家裁支部は,合議事件及び少年に関する事件を取り扱うのを原則とし,ただ,合議事件又は少年に関する事件を取り扱わない支部を定めるには,各地家裁の裁判官会議において,各庁の個別事情(合議事件の処理についての支障の有無・程度,裁判官の配置状況,交通事情の変化等)を考臘して決することになっている。このようにして地方検察庁の各支部配置検察官の訴訟上の職務範囲も,対応する各地家裁の権限によって決せられることになっている。
   
3 高等裁判所支部に対する事務分配は, 当該高等裁判所の裁判官会議で定められている(下級裁判所事務処理規則第6条参照)。
   それによると,名古屋高等裁判所金沢支部は,福井,金沢,富山各地方裁判所の管轄区域を,広島高等裁判所岡山支部は,岡山地方裁判所の管轄区域を,同高等裁判所松江支部は,鳥取,松江各地方裁判所の管轄区域を,福岡高等裁判所宮崎支部は,大分地方裁判所中佐伯支部及び鹿児島,宮崎各地方裁判所の管轄区域を, 同高等裁判所那覇支部は那覇地方裁判所の管轄区域を,仙台高等裁判所秋田支部は,秋田地方裁判所,山形地方裁判所中鶴岡,酒田各支部及び青森地方裁判所中五所川原,弘前各支部の管轄区域を管轄区域としている。
   
(注1) 地方裁判所の支部と土地管轄について
   判例「論旨は,本件は宇都宮地方裁判所栃木支部で審判すべきものであったのに宇都宮地方裁判所のいわゆる本庁でこれを審判したのは不法に管納を認めたものだというのである。 しかしながら,地方裁判所の支部は,地方裁判所の事務の一部を取り扱うためその地方裁判所の管轄区域内に設けられるもので(裁判所法第31条第1項),要するにその地方裁判所の一部であるにすぎず,いわゆる本庁と別個独立な裁判所なのではない。従って, ある事件をその地方裁判所の本庁において審判するか支部において群判するかは,同一裁判所内の事務の配分の問題であるに止まり,訴訟法にいう管轄の問題とはならないのである。本件についてこれを見ると,本件
はその犯罪地も被告人らの住所居所も栃木県内であるから,起訴当時の被告人らの現在地の問題を云々するまでもなく宇都宮地方裁判所の管轄に属するものであること明らかである。 しからばこれを宇都宮地方裁判所の本庁で審判したからといってなんら不法に管轄を認めたものとはいえず,その他原審の訴訟手続に管轄に関する規定に違背した点は認められないから,論旨は理由がない。」(東京高判昭和27年4月24日高裁刑集5巻5号666頁)
(注2)前同
   判例「(前略)地方裁判所の支部は地方裁判所の事務の一部を取扱うためその地方裁判所の管轄区域内に設けられるものであることは裁判所法第31条第1項の明定するところであって,要するにその地方裁判所の一部に過ぎない。換言すれば本庁と別個独立な裁判所であるのではない。従って或事件をその地方裁判所の本庁で審判するか支部で審判するかは, 同一裁判所内の事務配分問題であり訴訟法にいう管轄問題とはならないのである。本件についてこれを見るにその犯罪地も被告人等の住居も福島県内であるから元来福島地方裁判所の管轄に属するものであること洵に明らかである。従ってこれを福島地方栽判所の本庁で審判したからといって何等不法に管轄を認めたものとはいえず,その他記録を調査するも原審の訴訟手続に管轄に関する規定に違背した点は毫も認められない。」 (仙台高判昭和29年12月22日最高裁刑事判例要旨集9巻3号182頁)
(注3)地方裁判所支部で審理判決された事件についてその審理に関与しない同支部の本庁である地方検察庁の検察官がなした控訴申立の適否について
   判例「弁護人○○○○の答弁書における検察官の本件控斫の申立は不適法であるとの主張について按ずるに,検察庁法第5条の規定によれば,検察官はいずれかの検察庁に属し,その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において,その裁判所の管轄に属する事項について, 同法第4条に規定する職務を行うものであるところ,地方検察庁の支部は同法第2条第4項により明らかなように,地方検察庁に属する事務の一部を取扱うために置かれたものであって,同法及び刑事訴訟法中にその管轄を制限した規定はないので,汎く地方検察庁に属する事件につきこれを取扱う権限を有すると同時に本庁と独立の管轄権を有するものでないこと言を俟たない。 しかも検察官は上下を通じ公益上一体の機関として設けられたものであるから.上訴権者としての検察官は必ずしも原審における当該事件に関与した者に限られないこともまた明白である。それ故地方裁判所支部において審理判決された事件については,その審理に関与した同支部に対応する地方検察庁支部に属する検察官でない他の検察官であっても,該支部の本庁である地方検察庁に属する検察官である限り, 当然にこれに対し適法に控訴の申立をなし得るものと解すべきであって,本庁の検察官が本庁の一部に過ぎない支部において審理判決された事件について,支部の検察官事務取扱としてではなく,本庁の検察官たる資格において控訴の申立をなすことに何等違法とすべき理由は存しない。これを本件についてみるに本件は熊本地方裁判所八代支部において審理判決され,従ってこれに関与しなかった熊本地方検察庁検察官○○○○が同地方検察庁八代支部の検察官事務取扱としてではなく,本庁の検察官の資格において,控訴の申立をなしたものであること所輪のとおりではあるが, 前に説示したところによりこれを違法というを得ないこと自ずから明白である。所諭は採用することはできない。」(福岡高判昭和31年3月24日高裁刑集9巻3号211頁)

検察庁の種類,位置,名称

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)53頁及び54頁には,「第2節 検察庁の種類,位置,名称」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察庁は,最高検察庁, 高等検察庁,地方検察庁,区検察庁の四種とされている (庁法第1条第2項)。
   最高検察庁は最高裁判所に対応し,高等検察庁はそれぞれの高等裁判所に対応し,地方検察庁はそれぞれの地方裁判所に対応し,区検察庁はそれぞれの簡易裁判所に対応して置かれる (庁法第2条第1項)。地方検察庁はまた, それぞれの家庭裁判所に対応するものとされる (庁法第2条第2項)。
   最高検察庁,高等検察庁,地方検察庁及び区検察庁は, それぞれ最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所及び簡易裁判所の数だけ置かれ,一つの区検察庁は,一つの対応する簡易裁判所の管轄区域に応じて管轄区域が定まり, その簡易裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まる。一つの地方検察庁は,一つの対応する地方裁判所の管轄区域に応じて管轄区域が定まり,その地方裁判所並びにこれと所在地及び管轄区域を同じくして設置されている家庭裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まる。一つの高等検察庁は,一つの対応する高等裁判所の管轄区域に応じて管轄区域が定まり,その高等裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まる。また最高検察庁は,最高裁判所が憲法上一つしか存在しないので,一つであり,全国を管轄区域とし,最高裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まるのである。
   
2 最高検察庁以外の検察庁は,対応する裁判所がいずれも複数存在することに伴って複数存在することとなるから, それぞれ名称をつけて識別する必要がある。 また,最高検察庁を含めて,全ての検察庁の位置を定め,広く国民に知らせておくことは,検察庁における事務が国民の権利・義務と密接な関係があることから必要である。
   庁法第2条第3項は, これらの事項を定めることを政令に委任している。 この委任に基づいて制定されているのが,昭和22年政令第35号「最高検察庁の位置並びに最高検察庁以外の検察庁の名称及び位置を定める政令」である。この政令では,最高検察庁の位置を東京都と定めるほか,各高等検察庁,地方検察庁, 区検察庁の名称,位置及び対応裁判所を別
表として規定している。
   これによれば,高等検察庁は,東京高等検察庁をはじめとして,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌,高松の8庁であり,地方検察庁は,東京地方検察庁をはじめとして,各都道府県庁所在地に一庁ずつ及び函館,旭川,釧路の3庁合計50庁であり,区検察庁の数は,東京区検察庁をはじめとして合計438庁となっている。

検察庁の意義

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)49頁ないし53頁には,「第1節 検察庁の意義」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察庁は,検察官の行う事務を統括するところである (庁法第1条第1項)。
   一般の行政機関の場合には,前章第3節において述べたとおり,一つの官庁を中心に, これを補助する多数の職員が集まって,一つの役所ないし官署を形成しているのに対し,検察庁では,庁法第4条及び第6条の検察事務に関する限り,一人一人の検察官が独任制官庁であり,しかも,検察庁には複数の検察官がいる場合が多いのであるから,多数の官庁が一つの役所の内に存在する形となっている。ここに「官庁」 とは,例えば,内閣,各省大臣,各省の外局たる庁の長官のように,国家のため意思決定をし,かつ, これを外部に表示する国家機関のことをいう。
   そこで検察庁の場合は,複数の官庁(検察官)が,それぞれ複数の補助者(検察事務官等)を指揮して国家意思を決定表示しているところの役所ないし官署であるといえる。 しかし,検察官が独任制官庁であるからといって,それぞれの検察官が全体としての統一を欠いたまま事務を行うことは,検察権が行政権の一作用であるという本質からして,許されない。そのため,検察官の権限行使について,相互の間の矛盾衝突を防ぎ,全体が有機的な一つの組織体として運営されることが必要である。
   すなわち,検察事務を総合的にすべ(統)つつ,しめくくる(括) ことが行われなければならないのであって,その統括をするところが必要である。
   庁法は,その統括するところを検察庁と定めているが, 「検察庁」という官署が統括するということはありえないから,統括する主体は,庁法第7条ないし第10条に定める各検察庁の長である検察官(章程第1条)である。

2 統括事務(ひいては,その手段としての指揮監督の事務も)は,検察行政事務である。 この統括事務及び検察事務の運営上当然これに随伴し検察事務遂行のため必要な間接的補助的な行政事務である総務・文書・会計等の事務などの検察行政事務は,例えば,庁法第7条第1項が「検事総長は,最高検察庁の長として,庁務を準理し,且つ,全ての検察庁の職員を指揮監督する。」 と規定するように,各検察庁の長の事務である。各検察庁の長以外の検察庁聯員(検察官・検察事務官等)の検察行政事務についての権限は,一般行政機関と同様に,長である検察官の権限を分掌したものにすぎない。
   庁法第1条第1項の「検察官の行う事務」は,検察事務と検察行政事務との両者を含む。前者は庁法第4条及び第6条に定める事務であり,後者は庁法第7条から第10条までに定める事務とその他の行政事務である。庁法は,検察事務のみを表現するのに「第4条及び第6条に規定する検察官の事務」 (庁法第14条) という文言を用いており,検察事務及び検察行政事務の双方を含む場合は「検察官の事務」 (庁法第12条及び附則第36条)の文言を用いている。 「検察官の事務」 と 「検察官の行う事務」は同義に解される(注1,2)。

(注1) 検察事務の種類
   検察事務は,検察官が自ら行う本来の事務とそれに付随する事務(検務事務) とに分けられる。それを種類別にみてみると,
(1)捜査,公判の本来の検察事務は,個々の検察官が独立して, 自ら決定,管理及び実施までしていて, この部門については,個々の検察官を中心とし,検事正,次席検事,部長のルートが,その上司として指揮監督機関となっており,部下の検察事務官は検察官の個々的な補佐官ないし執行官として(庁法第27条第3項後段),事実上の事務の手助けにあたっている。
(2)検察事務のうち,本来の検察事務に比較し付随的で類型化され集合処理し得る事務があり,事件,証拠品,令状,執行,徴収,犯歴,記録,統計等に種類別にまとめられている。これは総務部若しくは検務部門の業務として,ある程度の組織体系をもって動いており,検務事務と呼ばれる。
   検務事務は,その組織の長である検察官(例えば,総務部長,検務主任)の権限を根源とし,検察事務官をもって組成する下部組織の検務監理官,統括検務宮,検務専門官,検祭事務官によって補助されるものであるから,検務事務の実施にあたる第一線職員に対する指揮監督は,一般の行政事務におけると同質である。ただ,検務事務の組織の頂点にある検察官に対する上司の指揮監督は,検察事務におけるそれによることとなる。
(注2)事務章程において,検察庁の事務の細目として,取り上げられている事務
(1)事務監査
   検事総長,検事長及び検事正は, 自庁及び管内下級検察庁の事務監査を行い, 又はその指定する職員にこれを行わせなければならない(章程第24条第1項)。
   事務監査の対象となる事務は,検察事務であると検察行政事務であるとを問わず, また,検察官が自ら行う事務であると検察事務官によって行われる事務であるとを問わず,いやしくも検察庁において行われる事務の全般にわたる。 もっとも,個々の事務監査にあたって,その対象を限定して監査を行うことが差支えないことはいうまでもない。また,監査の目的は,独り不正ないし不当な事務処理の指摘及びその是正にとどまらず,事務処理の適正,能率化のための方途の検討,指導にもわたる。
   事務監査は, どの検察庁についても,少なくとも1年に1回の自庁監査又は上級庁による監査のいずれか一つが行われるように配慮しなくてはならないものとされている(同条第2項)。
(2)請訓,報告等
   法務大臣に対して請訓若しくは報告をするとき,又は重要な事項に関して上申するときには,上司においてもそれらに関して了知して時宜に応じて適切な指揮監督あるいは意見具申を行う必要があるから,別段の例規がある場合を除いて,全て上司を経由すべきものとされている(章程第26条第1項)。 もっとも,緊急の事項については,例外的に,直接法務大臣に請訓,報告又は上申を行い,速やかに上司にその旨を報告すれば足りるものとされている(同条第2項)。
(3)中央官庁等と往復文書
   検察庁と中央官庁,在外公館又は外国官庁との問における往復文書は,別段の例規のあるものを除き,法務大臣を経由しなければならない(章程第27条)。
   法務大臣の所管下にある検察庁と中央官庁等との間の交渉について法務大臣が了知していないために生ずる不都合を防ごうというのが主たる趣旨であるが, さらに,在外公館については, その所管大臣である外務大臣を経由して交渉するのが適当と考えられるし,外国官庁との交渉については,国際慣行上外務大臣を経由して行うのが妥当であることも考慮されている。 この趣旨からするときは, 中央官庁,在外公館又は外国官庁から直接検察庁に対して照会があった鳩合には,おおむね,法務大臣を経由して照会されたい旨を申し添えて,一応返戻するのが妥当であろう。
(4)宿直
   地方検察庁においては,法務大臣が指定する庁及び支部を除き,検察官又は検察事務官が事件の捜査処理等のための宿直勤務をしなければならない(章程第28条第1項)。また,検察庁においては,法務大臣が指定する庁又は支部を除き,検察事務官が庁舎,設備等の保全及び文書の収受等のための宿直勤務をしなければならない(伺粂第2項)。前者が事件当直,後者が行政当直と呼ばれるものである。検察庁の長は,やむを得ない場合には,検察事務官以外の繊員に行政当直をさせることができる。ただし,区検察庁については,検事正がこの措置を採る(同条第3項)。宿直勤務に関する事項は,検察庁の長(ただし,区検察庁については検事正)が定めることとされている(同条第4項)。
   
3 以上要するに,庁法第1条第1項は, 「検察庁は,検察事務及び検察行政事務がその長によって統括されるところである。」 ということを定めたものである。
   その事務のうち検察事務については,検察官がその固有の権限に基づいて行うのであり, ただ,検察権の本質上,権限を行使するに当たって上司の指揮監督を受けるのである。 これに反し,検察行政事務については,その庁の長の権限に由来するのであって,その命の下に行われるのが当然であり,統括という表現が適当であるかどうか疑問の余地なしとしないが,検察庁において最も重要な,かつ, 中心的な事務は個々の検察官による検察事務であるから,検察事務と検察行政事務とを一括して,統括するという表現を用いたものと考えられる。
   なお,検察庁が国家行政組織法上いかなる種類の行政機関であるかについて,従来議論のあったところであるが,昭和58年法律第77号「国家行政組織法の一部を改正する法律」によって同法第8条の3 (「特別の機関」の設置)が追加されたので,検察庁は,法務省設置法第4条第7号,第14条等により, 「検察に関すること」を処理するために設置された「特別の機関」であるということができる。

検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)27頁ないし35頁には,「第3節 検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察権は,前節で述べたように, 司法権の独立に準じて,他の力に左右されることなく,公正に行使されなければならない。また,検察権は,その内容,すなわち,捜査,公訴の提起,遂行等の個々の行為が,国家刑罰権の実現という目的を持ち,最初の行為から次の行為へと発展していく段階的な発展的過程を形成するものであるから,迅速・的確に行使されなければならない。
   したがって,検察権行使の権限は,検察事務を遂行するために必要な範囲の, それを委ねるにふさわしい資格のある者に与えられ,かつ,その者が独立して行使する必要がある(例えば,法廷での訴訟行為が,上司の了解がない限り有効に行使できないものとしたら,公訴の遂行は事実上不可能である。)。そのため,検察権は,個々の検察官に属し,検察事務については,個々の検察官が自ら国家意思を決定表示する権限を有するとされる。庁法第4条は, 「検察官は, ・・・事務を行う。」,庁法第6条は「検察官は,・・・捜査することができる。」と主語を「検察官」として規定し,検察権を行使する主体が検察官であることを示している。これは,個々の検察官がこれら各条に定める事務を取り扱う独立の官庁であるとし,検察官が独任制官庁であることを明らかにするものである(注1)。
   検察官は,後に見るように,検察官同一体の原則によって,その上司の指揮監督に服するのではあるが,飽くまで一人一人が独立の官庁として検察事務に関する権限を行使するのであるから,仮に上司の決裁を受けないで捜査を開始したり,上司が不起訴処分に付するように指揮したのに, これを起訴したりしても, その捜査や起訴が違法,無効となることはない(ただし,上司の指揮監督に反した場合,それが国家公務員法上の懲戒処分の理由(同法第82条)になり得ることは別論である。 )。また,起訴状等に決裁印,庁印がなくても,起訴等の効力は左右されない。
   しかし, その反面,上司の指揮により, 自己の信ずるところと異なる処理をしたとしても,上司の命令によったものであるといって責任を回避することは許されないのである。すなわち,前記のとおり,検察権は他の力に左右されることなく公正に行使されなくてはならないのであるから,その行使機関である検察官は,裁判官における憲法第76条第3項のような明文の規定はないけれども,その良心と,法令に従って事務を処理すべきであり(検察官の独立), 自己の良心を曲げて事務を処理したとするならば,職務に関する責任の意織に欠けているとの非難を甘受しなくてはならない。

2 一般の行政組織は,内閣を最上級官庁とし,その権限を受けて各省大臣という上級官庁があり,その権限を受けて外周, 内部部局,施設等機関,地方支分部局,現業行政機関等の下級級官庁が存在する(国家行政組織法第2条第1項,第3条第2・3項,第5条第1項,第7条,第8条の2,第9条,第20条等参照)。すなわち,一般行政機関においては,内閣,各省大臣を頂点とし, その一人の長が権限の全てを持ち,その権限を例えば,局長,課長,係長というように,次々と分掌していく形をとっているので, あたかもその組織は上下に階層をなす統一的なピラミッド型を構成している。 したがって,一般の行政組織は,本来,権限の主体が一個であるところの単体であり,権限や主体が複数の検察官であるところの検察の組織とは本質的に異なる。

3 しかし,検察権も行政権の一部であるから,検察権の行使についても国の正しい行政意思が統一的に反映される必要があるとともに,検察権の行使が全国的に均斉になされることは, ことが国民の基本的権利義務に関する事柄であるだけに,極めて重要であるといわなければならない。このような要請を満たす上に,最も適切な方策の一つとして認められているのが,検察官同一体の原則である。
   この同一体の原則の法律的根拠としては, (1)庁法第7条第1項中の検事総長による「すべての検察庁の職員」に対する指揮監督権, (2)第8条中の検事長による「その庁並びにその庁の対応する裁判所の管轄区域内に在る地方検察庁及び区検察庁の職員に対する指揮監督権, (3)第9条第2項中の検事正による「その庁及びその庁の対応する裁判所の管轄区域内に在る区検察庁の職員」に対する指揮監督権, (4)第10条第2項中の上席検察官,指定副検事又は一人の検事若しくは副検事こよる「その庁の職員」に対する指挿監督権, (5)第12条の検事総長,検事長又は検事正が「その指揮監督する検察官の事務を, 自ら取り扱い又はその指揮監督する他の検察官に取り扱わせることができる」権限(事務引取移転権,なお「指揮監督する検察官の事務を自ら取り扱う」 ことを事務引取権,「指揮監督する他の検察官に取り扱わせる」ことを事務移転権という。)に関する各規定を挙げることができる。
   これらの規定から明らかなように,検察官同一体の原則は,それぞれ独立の官庁である全国の検察官が,検事総長を頂点とし,検事総長,検事長及び検事正の指揮監督権(注2,3)によって結合されたビ‘ラミッド型の機能上の機構を形成していること,及び独立の官庁である一人の検察官の事務を検事総長,検事長及び検事正の有する事務引取移転権を媒介として,別個の官庁である他の検察官が取り扱うことができ,しかも,一つの官庁が事務を処理したのと同様の法律効果が与えられることをその内容としている(注4,5,6)。

4 このように,検察官は,検察権行使について上司の指揮監督を受ける地位に置かれているが, これは,個々の検察官が検察権行使の意思決定機関であるという原則を否定するものではない。上司の指揮監督下にあっても,個々の検察権行使の権限と責任は,一人一人の検察官にあることはいうまでもない。
   同じように,検察官の独立性(注7) も上司の指揮監督権を否定するものではない。 この両者は, ともに検察権の本質そのものから導き出されるところのものであり,相互に対立するものではなく,上司の指揮監督権も検察官の独立性と調和するものでなければならない。
   例えば,捜査中の事件の起訴・不起訴についてや第一審事件の判決に対する控訴の要否について,主任検察官の意見と上司の見解とが異なる場合,主任検察官は良心を捨てても上司の指揮に従わねばならないか,飽くまでも良心に従って上司の指揮に服従しないことができるかという問題がある。 もとより,上司の指揮が法令に違背するものであれば, その指揮に従わなくてもよいことは当然であるが,その場合も, それ以外の場合にも,主任検察官は, 自己の信ずるところとそのよって来たるゆえんについて,十分上司に意見を述べ,上司もまた,主任検察官の意見を否とする理由を虚心に説明し,相互の意見調整を図ることによって解決されるべきものである。なぜなら, 主任検察官も上司も,検察権の行使が適正であることを期しているのであるから,意見調整をなし得ないことはないはずだからである。仮に,意見調整をなし得なかったとすれば, それは,上司・主任検察官のいずれか,あるいは両者ともその資格に欠けているものといわねばならないのである(注8)。
   このようにして,検察官は,庁法第4条及び第6条に規定する事務については,上司の指揮監督の下に,独任制官庁として,その固有の権限に基づいてその職務を行うものである。

5 検察官が職務を遂行するための補助機関として,検察庁には検察事務官・検察技官が置かれ(庁法第27,28条),検察官は,検察庁の組織機構に従ってその検察官の分担する事務を補佐・補助する職員を指揮監督する (章程第8条)のである。

(注1)ここにいう官庁とは,行政法用語を正しく使えば「行政官庁」のことで「国家のために意思決定をし,かつ, これを外部に表示し得る国家機関」のことをいい,例えば,国士交通大臣,税務署長といった行政処分の権限を持つ,対外的責任者だけを意味する。国土交通省,税務署といった,行政官庁なども包含する人的・物的設俄の全体(官署) とは区別される。
(注2) 指揮監督権の意義
   一般に指揮監督権については, 「上級機関が下級機関の権限の行使を指揮し,その適法性と合目的性を保陣するためにする作用を監督の権限という。行政機関は, 内閣を最高とし, その下に,上級機関が下級機関の権限の行使を監督することによって,行政の統一を期していると定義されている。また,指揮監督の方法,手段としては,(1)監視権(上級機関が下級機関の権限行使の状況を知るために,報告を徴したり,書類帳簿等を査閲したり, 自ら又は職員を派遺して実地に事務を視察したりする様限),(2)許認可権(一定の事項について下級機関は上級機関の許可又は認可を受けるべきものとする場合の権限),(3)訓令権(訓令とは,上級機関が下級機関の権限行使を指揮するために発する命令をいい,その訓令を発する権限。狭義において指揮権ともいう。訓令は具体的事項について発せられる場合もあり,抽象的,一般的事項について発せられる場合もある。), (4)取消,停止権(下級機関の違法又は不当な行為を取消し,又は停止する権限),(5)代執行権(上級機関が監督権の内容として,下級機関の権限に属する事務を自ら代わって行うことをいう), (6)罷免権(上級機関の命令に服さない下級機関は,職務上の義務違反を理由として罷免される。), (7)権限争議の裁定権(上級機関は,本来,下級機関の所掌事務の総体をその所掌事務とするのであるから,権限争議についての裁定権は,本来その上級機関の権限に属する。)があるとされている。
   しかし,検察事務は,独立官庁たる個々の検察官固有の権限に基づくものであって,検察行政事務のように,庁の長の権限に由来し, その委任を受けもしくはその補助として行うものではないから,検察事務に側する限り,上記の指揮監督権を,そのまま肯定することはできない。
   すなわち,検察事務においては,個々の検察官が主体であって,上司の指揮監督権は部下の事務の統括を内容とするもので補助的なものだとされる。
(注3) 検察事務に関する上司の指揮監督の方法,手段
   その指揮監督の方法,手段として,次のようなものを挙げることができる。
(ア)監視権(進行管理権)
   部下の権限行使や職務遂行状況を観察し,必要があればその状況を報告せしめ,適宜これを点検するなどの方法により,職務進行過程を統制する権限である。事件の捜査もしくは公判の過程において, 中問報告を求めたり記録を検討したり,また,未済事件の状況を調べたりするのは,この権限の発動である。
(イ)審査権
   部下の職務執行が適正妥当であるかどうかを検討する権限である。事前審査権と事後審査権に分けられる。事前審査は,いわゆる決裁の前提として行使されるし,事後審査は主として監査により実行される。
(ウ)承認権
   監督権者は自ら決定を行わないが, 決定を内容とする提案に対して承認もしくは拒否する権限である。検察官が起訴もしくは不起訴の提案をし,監督権者が審査権に基づいて内容を審査し,提案が妥当であれば承認し,妥当でなければ承認を拒否するものである。
(エ)調整権
   同種の権限相互間もしくは異なった上下の権限の間の関連調整を計り,有機的組織体としての活動を行わしめる権限である。例えば,個々の検察官の起訴・不起訴の不均衡を是正したり,求刑の高低を調整して個人差を少なくし,組織としての一体性を保つなどがこの適例である。
(オ)命令権
   一定の基準その他の規範を示してこれに従うことを要求する権限。例えば,執務細則を制定して遵守を要求するとか,一定の犯罪の起訴基準や求刑基準を定めて従わしめるなどの基準制定権と,一定の事件を検察官に割り当てて,捜査処理せしめるとか等である。
   この命令権は,(ア)ないし(エ)の指揮監督のために存在するものである。
(注4)事務引取移転権は,①事件処理に関する意見が検事正と担当検察官とで食い違ったため,検事正が当該事件を引き取って処理したり,他の検察官に処理させたりする場合,②個々の検察官の職務の繁閑,能力等を考慮したりする, いわゆる「事件の割替え」, ③担当検察官が退官したり,転勤したときのいわゆる「事件の引継ぎ」,④公判担当検察官に事故があったときの, いわゆる「臨時立会」,⑤公判関与検察官以外の検察官による上訴の申立て,⑥大事件が発生したとき等に,他の検察庁の検察官の事務を応援させる,いわゆる「事務取扱」 ,⑦検事の不足をカバーするために行われる副検事による地方検察庁検察官の事務取扱などに活用されており,検察運営の上で,事実上大きな潤滑油的な役割を果たしている。
(注5)事務引取移転権の特異性
   個々の検察官に具体的にどのような検察事務を配分するかは,指揮監督権に基づく検察行政事務であり,その具体的配分は,検察庁事務章程により部制等の機構(章程第5条,第7条,「係検事に関する規程」)によってある程度定められ, さらに捜査,公判等の事務においては,個々の事件の配分(配点)によって定まる。また,検察官は,その所属検察庁を異にすることによって,検察事務の管轄を異にする。 しかしながら,事務引取移転権によって検事総長,検事長又は検事正は,①部下検察官に配点されている事件を自ら引き取って処理できるのみならず,②例えば,刑事部の検察官に公判立会事務を取り扱わせるなど,機構を超えた検察事務の配分ができ,③一人の検察官に配点した事件を他の検察官に取り扱わせることができ,④さらに,一つの検察庁の検察官に他の庁の検察官の事務を取り扱わせることもできる。一般行政機関において,組織法令上一つの下級行政機関の事務とされたことを組織法令上分掌権限のない他の下級行政機関に取り扱わせたりするようなことが,上級機関にとって許されないのに比して,検察庁における事務引取移転権の存在は, きわめて特色のあるものといえる。
(注6)検察官同一体の原則という用語は,検察官は,全ての面で相互に協力するものであるという精神的な意味で使われることも多い。
(注7)検察権の独立と検察官の独立
   検察権の独立と検察官の独立とは,権限に着目するか,その権限を行使する機関に着目するかの相違によるもので,前者は,検察権が行政権の一部でありながら他の行政権から独立した性格を持っていることをいい(詳細は第2章第2節参照),後者は,検察官は検察官同一体の原則により上司の指揮監督を受けるので,裁判官のような完全な職務上の独立性(憲法第76条第3項)は認められないが, 「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ, この憲法及び法律にのみ拘束される。」(同項) との精神は検察官にも要請されることをいう。究極的には社会正義と真実の追及という検察に課せられた使命達成のための基本的な理念であり,観点の相違ということに帰着する。
(注8)意見調整の努力にもかかわらず,上司と主任検察官の意見が一致しない場合,主任検察官は上司に対して事務引取移転権の発動を求めるのが相当であるとするのが一般である。上司がその事件を自ら処理し, あるいは他の検祭官に処理させることによって上司の指揮監督権と部下検察官の良心との矛盾が解決されるとするのである。次に,事務引取移転権の発動が上司から拒否された場合については,その上司の命令に服しないことが,懲戒事由とならないとする考え, 消極的不服従のみ懲戒事由にならないとする考え,およそ不服従は懲戒事由になるので良心を守るためには主任検察官は辞職すべきであるとの考えがある。
   しかしながら,上司の承認すらも得られない意見を固守し,それを容れられないからといって安易に事務引取移転権の発動を求めたり,官を辞したりすることは, 良心の持ち方として正しいとは思われない。 ここでいう良心とは,かたくなな個人的信念等をいうのではなく,検察官として正しい検察権の行使をする心・態度のことである。 したがって, 良心に忠実であればあるほど,飽くまでも上司との意見の調整に努めて,最も適正なものに到達し,それの実現を図ることが,良心に従うことであると考える。

*1 平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF6頁)。
   検察官はたとえ新任検事であったとしても、一応独任官庁ということになっておりますので、それなりの裁量権を行使しつつ、自分の責任と判断において実施をするということになっております。しかし,これも一定の裁量の枠内のことであって、枠を超えると行政機関としてチェックを受けるのは同じであって、過大視すべきではないと思っています。
*2 以下の記事も参照して下さい。
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 検察官同一体の原則

検察事務官

目次
第1 検察事務官に関する「七訂版 検察庁法」の記載
1 (見出しなし。)
2 検察事務官の職務
3 検察官事務取扱検察事務官
第2 検察事務官向けの法務総合研究所の研修教材
第3 関連記事その他


第1 検察事務官に関する「七訂版 検察庁法」の記載 
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)84頁ないし90頁には,「第3節 検察事務官」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。なお,別の場所の脚注に言及している部分は削りました。)。

1 検察庁には検察事務官が置かれる(庁法第27条第1項)。検察事務官の制度は,庁法の制定によって創設されたものである。庁法施行前,すなわち,裁判所構成法の時代において同法が定めていた検事の補助機関は,検事局に補職された裁判所書記(検事局書記)であった(裁判所構成法第8,85条)。検事局書記は,検察行政事務に関しては検事局の長等の命令に服して検察行政上の文書の往復,諸表の作成等の職務に従い,検察事務に関しては検事の命令に服して検事の聴取書・訊問調書の作成(旧刑事訴訟法第56,136,139条)等の聯務に従い,それらの事務の補助を任務としていたが,原則として,捜査の権限はなかった。捜査に関しては, 旧刑事訴訟法第251条,大正12年勅令第528号「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等二関スル件」第2条により,検事正が特に指名した地方裁判所検事局及び区裁判所検事局の書記が司法警察官の職務を, 同じく指名にかかる雇員が司法警察吏の職務を行うことができるにすぎなかった。検事局に検事直属の捜査権限を持つ職員を置く制度は, 昭和21年12月11日勅令第600号「検察補佐官の設置に関する件」によって,検察補佐官が設けられたのに始まる。
   庁法を制定し,現行検察制度を樹立するに際して,従来の実績に鑑みても,検察官の補助機関として,従前の検事局書記の機能を営むものと検察補佐官の機能を営むものを必要とされたのは,当然である。そこで,両者を別個の機関として設けることも考えられたが,両者の権限をそれぞれ拡大して,従来の検事局書記と検察補佐官の両者の行う事務をあわせ行う機関を創設することは,その地位の向上をもたらすものであり,率務能率の向上にも資するものと考えられて,検察事務官の制度が誕生したものである。こうして,庁法施行の際「現に書記長若しくは裁判所書記の職に在って検事局に属する者又は検察補佐官の職に在る者は,別に辞令を発せられないときは,現に受ける号俸を以て検察事務官に任ぜられ」(庁法附則第41条)たのである。


2 検察事務官の職務
(1) 検察事務官は,上官の命を受けて検察庁の事務を掌る(庁法第27条第3項前段)。
   「上官」とは,検察官たる上司のほか検察事務官又は検察技官たる上司をも含む。
   「命を受けて」とは,その者の行う職務に関する権限が, その者の固有の権限ではなく, その者に対して職務執行上の命令をすることができる上司の権限に由来しており,その上司の補助機関たる地位において職務を行うものであることを意味している。したがって,検察事務官は,上司の個々の命令に服従すべきことはもちろんであるが,そのような個々の命令を待つまでもなく,一般的に上司の補助機関として,与えられた事務を処理すべき職責を有するのである。
   「検察庁の事務」とは,庁法第27条第3項後段において検察事務官の捜査に関する職務を別に規定しているから,捜査は含まないし, また,検察事務官の職務からは検察官が自ら行うべき検察事務(例えば,公判立会など)が除かれることは事柄の性質上当然であるから, これらを除いたところの検察事務及び検察行政事務である。すなわち,検察官の行う事務の円滑な処理のために必要とされる各般の事務である。
   これを要するに,検察事務官は, まず,職務命令をなし得る上司の補助機関として,検察官の行う事務の円滑な処理のために必要とされる各般の総務,文書,会計事務等(検察行政事務),公判立会検察官の補助事務等(本来の検察事務)並びに事件の受理・処理等の記帳・整理,裁判の執行,罰金等の徴収,記録の保存,犯歴票の作成・保管,証拠品の受理・保管・処分,恩赦等事務(検務事務)を処理するものということができる。
(2) 検察事務官は,検察官を補佐し,又はその指揮を受けて,捜査を行う(庁法第27条第3項後段)。
   検察事務官は検察官の行う捜査について,個々の指揮を待つまでもなく一般的に検察官を補佐するとともに,検察官の指揮によって自ら捜査を行うのである(刑訴法第191条第2項,第195条参照)。このことは,検察事務官が検察庁のいずれの部局・課に所属しているかによって変わることはない(章程第10条第9項参照,ただし,個々の検察官の指揮は,その事務の分担に応じ,その分担する事務を補佐・補助する検察事務官以下の職員を指揮する(章程第8条)ものとされており,組織上のルートを無視した指揮はできない。)。
   したがって,検察事務官が捜査を行うには,全て検察官の指揮を受けてしなければならないのであって,独立して事件を取り扱うことはできない(注1)。そのため,検察事務官には, 司法瞥察職員に対する指示・指揮の権限(刑訴法第193条),逮捕状謂求の権限(刑訴法第199条) ,勾留請求の権限(刑訴法第204,205,211,216条) ,証人尋問請求の権限(刑訴法第226,227条) ,告訴・告発を受理する権限(刑訴法第241条) ,事件の送致を受ける権限(刑訴法第246条)等は認められておらず, この点司法警察員よりもやや弱いが, 司法巡査よりはやや強く,例えば,差押,捜索,及び検証等の令状請求の権限(刑訴法第218条),押収物に関する処分の権限(刑訴法第222条第1項ただし書) ,鑑定留置及び鑑定処分許可の請求の権限(刑訴法第224,225条)等を有している。
   検察事務官の職務の執行は,直接国民の権利義務に影響を及ぼすことが多い。したがって,検察事務官が庁外で職務を執行する場合には,検察事務官の証票を携帯し,関係者の請求があったときは, これを示してその官氏名を明らかにしなければならないものとされる(章程第25条第1項)。この証票の様式は,平成10年6月8日法務省訓令第3号「検察事務官証票規程」によって定められている(同条第2項)。


3 検察官事務取扱検察事務官
   「法務大臣は, 当分の間,検察官が足りないため,必要と認めるときは,区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができる」(庁法附則第36条)。いうまでもなく,区検察庁においても,検察官の事務は,本来の検察官が取り扱うことが原則であるが,事務量の累増に見合う検察官の増員が困難な実情に鑑みて,比較的軽微な事件のみを取り扱うものとされている区検察庁に限り,暫定的(注2)に検察事務官が検察官の事務を取り扱うことができるものとされているのである。
   「検察官の事務」には,検察事務と検察行政事務とを含む。したがって,区検察庁の検察事務官がその庁の検察官事務取扱を命ぜられたときは,捜査,公訴の提起,維持その他庁法第4条及び第6条に規定された事務を検察官と同一の権限をもって処理し得るのみならず(注3,4,5,6) , その区検察庁に検察官が配置されていない場合における庁務の掌理,職員の監督その他の行政事務をも取り扱うことができるのである。
   検察官事務取扱検察事務官は, 「その庁」,すなわち,所属区検察庁の検察官の事務のみを取り扱い得るのであるから,庁法第12条の事務引取移転権をもってしても,地方検察庁以上の検察庁の検察官の事務を取り扱わせることはできないし,所属区検察庁以外の区検察庁の検察官の事務を取り扱わせることもできない。
   もっとも,検察官は,捜査に関して事物管轄の制限を受けないから,検察官事務取扱検察事務官が,区検察庁で, 区検察庁検察官事務取扱検察事務官の資格において,いわゆる地方事件について弁解録取書を作成したり,告訴を受理したりすることは許される。例えば,殺人などいわゆる地方事件であっても,区検察庁で逮捕並びに勾留の手続を行うことができ, その場合には,その手続の一環として区検察庁の検察官事務取扱検察事務官が弁解録取書を作成できる。しかし,地方検察庁で受理した事件については,区検察庁の職員がその資格において地方検察庁の事務を取り扱うことができないのは, もちろんである。


(注1) 検察事務官による被疑者等の取調べと調書の作成について
   判例「地方検察庁の検察事務官は,検察官の指揮下において捜査する限り,たとい補助者であっても,地方裁判所の合議事件につき,被疑者その他の者を取調べ,その聴取書を作成する権限を有するものと解するを相当とする。」(最判昭和28年3月13日最高刑集7巻3号529頁)
(注2) 庁法第36条の「検察官の事務」の範囲と「当分の間」について
   判例「所謂検察官の事務に関し,検察庁法及び刑訴法その他関係法令において,刑訴法第247条所定の公訴の提起手続を除外すべき何等の規定がないから, これを包含するものと解すべく,従って,所謂検察庁法第36条に定められた,検察官の事務についても同様に解するを相当とし, また同法条に所謂, 「当分の間」というのは同法その他関係法令によって, これが改廃変更せられるまでの間の趣旨と解すべきであるから,所論のように,単に検察庁法施行後既に3年を経過したとの事由によって,失効したものと解するは妥当ではない。」(束京高判昭和25年8月14日最高裁刑事判例要旨集5巻6号407頁)
(注3) 検察官事務取扱検察事務官の権限について
   判例「改正前の検察庁法第36条によれば,法務総裁は当分の間検察官が足りないため必要と認めるときは区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができたのであって,本件の起訴は右の法律により検察官の事務を取り扱うことのできた区検察庁の検祭事務宮によってなされたものと認められるから刑訴247条等に違反する無効のものではない。」(最決昭和28年7月14日最高刑集7巻7号1529頁)
(注4) 検察官事務取扱検察事務官作成の供述調書の表示について
   判例「…所論は,第一審判決が証拠として採用した検察官作成の供述調書について違法がありとし, これを理由として憲法第31条違反及び東京高等裁判所判例違反を主張する。しかし検察庁法第36条により検察官の事務取扱を命ぜられた検察事務官は,検察官としての権能を有するものであるから,検察官事務取扱検察事務官の作成した供述調書は,結局検察官作成の供述調書にほかならない。従って本件において第一審判決が,所論指摘のように証拠の挙示において,単に『検察官作成の……供述調書』と表示したことは不正確たるを免れないが, このことをもって直ちに違法ということはできない。結局所論違憲の主張は前提を欠くことに帰し採用のかぎりでない。」(最判昭和31年6月19日最高刑集10巻6号853頁)
(注5) 検察官事務取扱検察事務官の告訴の受理について
   判例「検察庁法第36条によれば,法務総裁は当分の間検察官が足りないため必要と認めるときは,区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができると規定しているので,大津区検察庁検察事務官○○○○(以下「甲」とする。)が大津区検察庁検察事務官の地位において大津区検察庁検察官の事務を取り扱った場合ならば, それは大津区検察官の資格において行動したのであるから甲の告訴受理は検察官による告訴の受理となる。従って本件供述調書による告訴の受理は適法と言わねばならない。しかるに同供述調書をみるに冒頭に大津地方検察庁において左の通り陳述したと記載し末尾に大津地方検察庁検察事務官甲と署名捺印されているのである。これによれば本件については甲は大津地方検察庁の検察事務官として検察庁法第27条第2項の本来の検察事務官の職務を行なったものといわねばならない。すなわち検事の補助者として捜査をしたにすぎないこととなるのである。従って本件供述調書は検察官事務取扱甲の作成せるものでなく,検察事務官甲が作成したものとみるべきである。」(大阪高判昭和26年2月5日高裁刑集4巻2号100頁)
(注6) 検察官事務取扱検察事務官が簡易裁判所に公訴を提起し,同裁判所の公判に立会することについて
   判例「法務大臣によって区検察庁の検察官の事務を取り扱うことができるものとされた検察事務官は,区検察庁の検察官の事務に関する限りに於ては, これに対応する簡易栽判所に公訴を提起することができるし,同裁判所の公判廷に出席することもできるといわなければならない。本件で横須賀区検察庁検察官事務取扱検察事務官○○○○が横須賀簡易裁判所に公訴を提起し,その公判廷に出席しているのは,右検察庁法第36条に由来する正当な手続であり,所論のように同法第32条及び検察庁事務章程に基くものではなく,従って右手続が検察庁内部の規則に基いて刑事訴訟法及び刑事訴訟規則を無視した違法のものであるとはいえないこと明らかであるし,原審判決書に検察官の官氏名を記載するに代えて検察官事務取扱検察事務官○○○○と記載してあることも違法なものではない。」(東京高判昭和31年7月7日東京高等裁判所判決時報7巻7号279頁)


第2 検察事務官向けの法務総合研究所の研修教材
・ 事件事務解説
・ 執行事務解説
・ 証拠品事務解説
・ 徴収事務解説
・ 記録事務解説
・ 犯歴事務解説
・ 刑事手続概要
・ 関係機関概要
・ 検務事務入門
・ 文書事務解説
・ 会計事務解説
・ 立会事務

第3 関連記事その他

1 検察事務官の職場としては,①捜査・公判部門,②検務部門及び③事務局部門があります(法務省HPの「検察事務官の幅広い職場と仕事」参照)。
2 外部HPに「検察庁法36条の問題点について-副検事制に関連して-」が載っています。
3 東北大学HPの「裁判官の学びと職務」(令和5年11月22日に東北大学法科大学院で行われた、法科大学院学生を対象とした47期の井上泰士の講演原稿に大幅に加筆したもの)には以下の記載があります。
検察事務官に至っては、明確に検察官の部下ですから、これまた軍隊風に言いますと曹長以下の下士官みたいなものです(副検事は准士官、特任検事は旧海軍の特務士官でしょうか。この比喩がすぐに分かる人は相当な近現代史マニアと思いますが。)。
4 以下の記事も参照してください。
・ 法務総合研究所
・ 法務省の定員に関する訓令及び通達
・ 副検事制度が創設された経緯

検察権の独立(行政権,立法権との関係)

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)20頁ないし27頁には,「第2節 検察権の独立(行政権,立法権との関係)」として以下の記載があります(別の場所の脚注に言及している部分は削りました。)。

1 検察権は,国家刑罰権の実現等の国家目的を追求して行使されるもので, その本質は行政権の一作用であり, 司法権と明白に区別される。しかし,検察権の行使は,公益の代表者として個々の事件について法の正当な適用実現を目的とするものであって, 司法権と密接な関係を持ち, 司法作用に重大な影馨を及ぼすものである。
   このことは,例えば,起訴・不起訴が外部からの影響-特に政治的な圧力-によって左右される場合を考えれば明瞭である。不告不理の原則の下においては,裁判所は,起訴されない事件を審判するわけにはいかないし,起訴された事件は必ず審判しなければならないのであるから,司法権の行使は検察権の行使にかかっている。この場合,司法権が確固として独立していても,検察権の行使が公正を欠くならば, 司法権の行使も不公正なものとならざるをえない。司法権独立の主眼は, 司法権の行使を政治的影響から自由にするところにあるといってよい。したがって,検察権が政治的影響のままに行使されるならば,それはまさしく政治的司法を現出し, 司法権の独立は名のみになるといっても過言ではない。検察権と司法権は, まさに車の両輪であり, そのいずれの公正を欠いても刑事司法の健全な運営は期しがたい。
   このように,検察権は行政権の一作用でありながら, 司法権と密接な関係を持つのであり,刑事司法の公正を期するためには,検察権についても司法権独立の精神を能う限り推及されなければならない。したがって,検察権は,法の拘束・支配の下において,それを行使する者の良心に従って,独立して行使されることが要請される。
   この検察権の独立を担保するものとしては,庁法上①法務大臣の検察事務に対する指揮監督権の制限(庁法第14条) ,②検察官の独任官庁制(庁法第1,4,5条),③検察官の身分保障(庁法第22条ないし第25条)の制度がある。

2 しかし,既に見たように,検察権は,行政権の一部をなすものであり,行政権は,内閣に属し(憲法第65条),内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負う (憲法第66条第3項, 内閣法第1条第2項)。そして,内閣を組織する各大臣は,主任の大臣として,行政事務を分担管理する (内閣法第3条第1項,国家行政組織法第5条第1項)のであり,法務大臣は,法務省の長(法務省設置法第2条第2項) として, 「検察に関すること」 (同法第4条第7号)を含む法務省の所管事務を分担管理し, これについて責任を負う。 これが組織法における原則(責任政治の原則)である。 したがって,行政権の一部である検察権の行使についても,内閣は国会に対して連帯して責任を負うものであり,検察権も,内閣法,国家行政組織法,法務省設置法等の諸規定に基づいて,法務大臣の指揮監督の下に行使されるのが原則である。
   なお, ここに「指揮」 とは,おおむね事前において,職務上の命令をすることを意味し, 「監督」とは,おおむね事後において,職務執行が適法か否か,相当か否かを査察し,必要があるときは是正の措置を命ずることを意味する。
   この責任政治の原則からする要請と,検察権独立の要請は,相互に対立して排斥するのではなく,調和することが必要である。検察権の独立は, 司法権の独立のように他からの一切の影響を排除しようとするものとは異なり,他からの不当な影響を排除しようというものである。それは,正しい統一的な国家意思が, 司法に反映するように検察権が行使されなければならないための要請であり, もとより検察の独善を容認するものではないからである。

3 法務大臣の指揮監督権の制限(庁法第14条)
   これは責任政治の原則と調和させつつ,法務大臣の指揮監督権の行使に一定の制限を加えて,検察権の独立を図ろうとした制度である。
   すなわち,法務大臣は,検察全般に対する指揮監督権を持つが,議院内閣制の下においては,その指揮監督が,例えば,政党の利害等によって左右されるなどして,検察の公正な運用が失われ, あるいは失われるおそれがあるので,法務大臣の指揮監督権の行使が制限されなければならない。そこで,庁法第14条は, 「法務大臣は,第4条及び第6条に規定する検察官の事務に関し,検察官を一般に指揮監督できる。ただし,個々の事件の取調べ又は処分については,検事総長のみを指揮することができる」 と規定し,検察事務に関する指揮監督権の行使を制限している。検察事務以外の事務についての指揮監督は組織法上の原則によるわけであって,総務,会計,人事等に関する事務や,犯罪の防止その他刑事政策上の諸施策に関する事務についての法務大臣の指揮監督権の行使は制約を受けない。
   すなわち,捜査,公訴の提起・遂行などの検察事務に関しては,法務大臣は,検察官を「一般」に指揮監督することができるが,検察官の行う 「個々の事件の取調べ又は処分」については検事総長のみを指揮することができるにとどまる。 「一般に」 とは, 「一般的に」 ということで,「具体的に」 と相対する概念であり,例えば,検察事務処理についての一般的方針や基準を訓示したり,法令の行政解釈を示したり,個々の具体的事件について報告を求めたりすることである。 「取調べ」 というのは,被疑者,参考人の取調べだけを指すのではなく,捜査の方法,順序等も含み, 「処分」 というのは,起訴,不起訴の処分のほか,公判の遂行及び刑の執行はもちろんのこと,刑罰権の実現のために検察官が行う捜査以外の一切の検察事務の処理とその方法,順序を含むものである。
   すなわち,法務大臣は,個々具体的事件に関する検察事務については,捜査の着手から刑の執行に至るまで,直接個々の検察官を指揮することは許されず,検事総長のみを指揮することができる。言い換えれば,法務大臣は,具体的事件に関しては,検事総長が持っている部下検察官に対する指揮監督権を媒介としてのみ,個々の検察官の行う検察事務に干渉することができるのである。
   ところで, これを形式論理的に見ると, たとえ検事総長を通じてにせよ,具体的事件について法務大臣に指揮権を認める以上は, それが検事総長を通じてのみ行われようが,直接,個々の検察官に対して行われようが,個々の検察官が検事総長の指揮監督に服しているからには,結局は同じことだともいうことができる。 しかし,実際の運用を考えてみると,検事総長は,法律的には法務大臣の指揮監督に服するものであるが,全国の検察官を指揮監督し検察権を代表する者として,不当な法務大臣の指揮に対しては, それが不当であることを説得して法務大臣の翻意を求める等の事実上の措置がとられることが期待され, これによって法務大臣の不当な指揮が防止されるのである。このように庁法第14条は,法務大臣と検事総長の識見により,運用の実際において妥当な結果が導かれることを期待しているのである。

4 以上のように法務大臣が具体的事件について検事総長を指揮し得る権限を,俗に「指揮権」 と呼んでいる。この指揮権の発動については,昭和29年4月の造船疑獄事件に関して行われたそれが有名であり, また,一般にはそれが唯一の例であるかのようにいわれているが,必ずしもそうではない。まず,特に重要な事件については,捜査の着手又は起訴・不起訴の処分について,法務大臣の指揮を受けるべきことが一般的に定められ(処分請訓規程,破壊活動防止法違反事件請訓規程), これに当たる場合には, 具体的事件について,検事総長から法務大臣に対して請訓が行われ,これに応えて法務大臣が指揮することとなっている。また,検事総長は,将来政治問題化することが予想されるような事件については,国会における検察権の代表である法務大臣に対して,積極的に報告を行うこともあると考えるが,そのような際,特に法務大臣の指揮を仰ぐこともあると考えられる。いずれにせよ,法務大臣は,検事総長の請訓により,請訓どおりの指揮を行うのが例であると思われるが, 明らかに諭訓を否決する指揮が行われたのが,造船疑獄事件のそれである (同事件では,検事総長から法務大臣に対し, 自民党幹事長佐藤栄作氏に対する逮捕請求許可の請訓があった。)。法務大臣が,検事総長の理を尽くした請訓にもかかわらず不当な指揮を維持するならば,それは,検察全体の代表者としての検事総長が,政党内閣の代表者としての法務大臣と正面から対立することとなり,いずれの判断が正当であるかが広く国民の批判にさらされ,結局は,健全な国民の声によって,検察権の適正な行使が担保されることとなることも,庁法第14条の期待しているところと解される。

5 以上は, 内閣と検察の関係について見たのであるが,検察権の独立のためには,立法権ないし国会からの抑制も制限されなければならない。
   すなわち,国会の衆参両議院は, それぞれ国政に関する調査権を持ち,その調査のため証人の出頭,証言及び記録の提出を求めることができる(憲法第62条)のであって,検察権も行政権の一部として,検察行政事務はもとより,検察事務についても,国政調査権の対象となり得るものといわなければならない。 しかし,既に述べたように,検察権が司法権と密接不可分な関係にあるところから,検察権の行使について国政調査を行うことにより,ひいては, 司法権自体の行使に重大な影響を及ぼす場合があり得る。そのような場合には, 司法権の独立を脅かすという意味において,検察権の行使に関する調査が許されないことになるというべきである(注)。例えば,現に裁判所に係属中で,事実関係につき当事者間に争いのある事件について,裁判上の立証がまだなされていない段階であるのに,検察官を証人として喚問し,捜査の内容,将来裁判所に提出すべき証拠の内容等を証言させるようなことがあれば,国政調査という名前の下に実質的に裁判が行われ,検察官の公訴維持は困難となり,裁判所には予断を与え, 「司法権の独立」が脅かされることになるから,許されないといわねばならないし,証人として喚問された検察官は出頭をも拒むことができると考える。
(注) いわゆる日商岩井不正事件について,国政調査権は, 「検察権との併行調査は,原則として許されるが, 司法権の独立ないし刑事司法の公正に触れる危険性があると認められる場合には制限される」 (東京地判昭和55年7月24日判時982号2頁) との判断が示されている。

6 検察に対する国政調査権の行使が制限される場合には,議院における証言及び書類の提出を,職務上の秘密に関するものとして拒むことが許されることが多いと思われる。
   すなわち,各議院等は, 「証人が公務員である場合又は公務員であった場合……その者が知り得た事実について,本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは, 当該公務所又は監督庁の承認がなければ,証言又は書類の提出を求めることができない」 (議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律第5条第1項)ものとされ,その公務所又はその監督庁が承認を拒んだ場合,議院等において承認拒否の理由を受諾できないものと認めれば「その証言又は書類の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができ」 (同条第3項前段) ,要求後10日以内にその声明があれば,証言又は書類の提出をする必要がない(同項後段)。ここでいう 「職務上の秘密」は, 「職務上知り得た秘密」 よりも狭い概念で,職務上知り得た他人の秘密を含まず,職務自体の秘密をいうものと解されている。しかし秘密という概念は, ある事項を秘匿しておく利益と, これを公にする利益とを比較して,前者の方が大きい場合にだけ秘匿することが認められる相対的なものであるから,それぞれの調査の目的等により,秘密の範囲が動いてくることとなる。 したがって,検察における職務上の秘密の範囲や事項を一律にいうことは困難であるが,一般的には,現在及び将来における捜査や公訴の維持に支障をきたすような事項がこれに当たることになろう。

7  国政調査権と検察の職務上の秘密とが正面から対立したものとしては,造船疑獄事件にからんで衆議院決算委員会が検察官等を証人として喚問し,捜査の経過,不起訴となった財界,政界人の氏名,被疑事実の一部及び資料,起訴された事実について証拠の一部等の証言を求め, 同検察官等が職務上の秘密であるとして一部の証言を拒否し, 同委員会は拒否事項について法務大臣の承認を求め,法務大臣はその一部について承認をし,大部分については承認を拒否してその理由を疎明したが, 同委員会は内閣声明を要求し, 内閣は法務大臣の承認拒否を支持して声明した事例がある。その内閣声明は,次のとおりである。
「衆議院決算委員会から, さきに法務大臣の疎明した検事総長佐藤藤佐及び東京地方検察庁検事正馬場義統の証言及び書類の提出の承認を拒否した理由につき,これを受諾することができないとして内閣声明の要求があった。
   よって, 内閣は,右要求につき慎重に検討審識した結果,法務大臣がその承認を拒否した証言及び書類の提出を現段階において行うことは,機密の保持を本旨とする検察運営に重大なる障碍をきたすのみならず, いわゆる造船疑獄事件として起訴せられ,近く公判において事実審理の開始せられんとする商法違反(特別背任)被告事件,政治資金規正法違反被告事件,贈収賄被告事件の公訴の維持に著しい支障を生ぜしめ,他面裁判所に予断を与え裁判の公平を阻害する虞なしとせず,かくては犯罪を防あつして国家の治安,社会の秩序を維持し,公共の福祉を擁護せんとする検察の目的を達成することが困難となるのみならず,他面裁判の公平を確保して,司法権の公正なる運用を期することができなくなる虞があるのであるから,右証言等の承認をすることは国家の重大な利益に悪影響を及ぼすものと認める。
右声明する。
昭和29年12月3日             内閣 」
   この声明は, 司法権の独立の侵害と重大な職務上の秘密との両面を証言拒否の理由としており,検察権と国政調査権との関係を明らかにしたものと考える。

*1 衆議院HPに,衆議院議員山田長司君提出国会の国政調査権と検察権との関係に関する質問に対する答弁書(昭和40年3月30日付)が載っています。
*2 「検察庁法14条に基づく法務大臣の指揮権」も参照してください。