検察庁の支部


      七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)

54頁ないし59頁には,「第3節 検察庁の支部」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 法務大臣は,必要と認めるときは,高等裁判所,地方裁判所又は家庭裁判所の支部にそれぞれ対応して,高等検察庁又は地方検察庁の支部を設けることができる (庁法第2条第4項)。 したがって,裁判所の支部がないのに,検察庁の支部だけを設けることは許されない。逆に,法務大臣が必要と認めなければ,裁判所の支部が設けられても,検察庁の支部を設けなくてもよいわけである(もっとも,現実には,裁判所の支部のある場合には,例外なく検察庁の支部が設けられている。)。
検察庁の支部は,裁判所の支部と対応関係があるから,裁判所の支部の管轄区域に応じて管轄区域が定まり,裁判所の支部に配分された裁判事務の範囲に応じて支部勤務検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まることとなる。
   ここで注意すべきことは,裁判所の支部が当該裁判所の事務の一部を取り扱わせるため設けられるものとされる(裁判所法第22条第1項,第31条第1項,第31条の5)のと同様,検察庁の支部も「当該検察庁の事務の一部を取り扱わせる」 (庁法第2条第4項)ものであることである。
   すなわち,支部を設け,対応裁判所支部の管轄区域等に応じて,検察事務を行わせるのは,単にその検察庁の中での事務の分配にすぎないのである。 したがって,支部の検察官が対応裁判所支部に配分された裁判事務の範囲を超えて訴訟行為をしても, それが当該裁判所(支部ではなくて)の管轄権の範囲内に属することであれば,違法とはならない。例えば,東京地方検察庁立川支部勤務の検察官が,東京都区内に居住する被疑者が同区内で犯した犯罪について東京地方裁判所立川支部(管轄区域は,東京都のうち区部を除いた区域)に公訴を提起し, あるいは, 同裁判所支部に管轄権のある事件について同支部にでなく,東京地方裁判所にいきなり公訴を提起したとしても,管轄違い又は公訴棄却の言渡し(刑訴法第329条,第338条)を受けることはない(注1,2,3)。 もっとも, このような取り扱いをすることは,違法ではないというものの,事務の分配を乱すことになるのであるから,前者の場合には,東京地方検察庁(本庁)検察官に移送の上, 同検察官において公訴を提起し,後者の場合には,対応する東京地方裁判所立川支部に公訴を提起することが妥当なことはいうまでもない。
   なお,支部に取り扱わせることができる事務は, 「当該検察庁の事務の一部」 という文言からして, 当然,検察事務と検察行政事務とを含むものである。
   
2 次に,検察庁の支部を設けることは,法務大臣の権限とされており,これまで,省令で個々の支部の設置が定められている。すなわち,昭和23年法務庁令第1号「各高等裁判所支部に対応して各高等検察庁支部を設置する庁令」及び昭和22年司法省令第42号『地方検察庁支部設置規則」がそれである。 これらによれば,高等検察庁支部は,名古屋高等検察庁金沢支部,広島高等検察庁岡山支部,同松江支部,福岡高等検察庁宮崎支部, 同那覇支部及び仙台高等検察庁秋田支部の6となっており,地方検察庁支部は,東京地方検察庁立川支部をはじめとして203となっている。
   ところで,各地方検察庁支部勤務検察官の訴訟上の職務範囲は,対応する裁判所支部の権限(事務分配)に応じて定まり地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則上で地方裁判所の支部は, 「上訴事件及び行政事件訴訟に関する事務を除いて,地方裁判所の権限に属する事務を取り扱う」こと (同規則第1条第2項),また,家庭裁判所の支部は,「家庭裁判所の権限に属する事務を取り扱う」 こと (同規則第2条第2項)が原則であり,ただ,地方裁判所又は家庭裁判所は, 「当該地方裁判所支部(又は家庭裁判所支部)において取り扱う事務の一部を,当該地方裁判所(当該家庭裁判所)において取り扱い又は当該地方裁判所(当該家庭裁判所)の他の支部で取り扱うことができる。」 (同規則第3条第1,2項)とされる。すなわち,裁判所支部に対する事務の分配は各地家裁の権限に委譲されている。その結果,各地家裁支部は,合議事件及び少年に関する事件を取り扱うのを原則とし,ただ,合議事件又は少年に関する事件を取り扱わない支部を定めるには,各地家裁の裁判官会議において,各庁の個別事情(合議事件の処理についての支障の有無・程度,裁判官の配置状況,交通事情の変化等)を考臘して決することになっている。このようにして地方検察庁の各支部配置検察官の訴訟上の職務範囲も,対応する各地家裁の権限によって決せられることになっている。
   
3 高等裁判所支部に対する事務分配は, 当該高等裁判所の裁判官会議で定められている(下級裁判所事務処理規則第6条参照)。
   それによると,名古屋高等裁判所金沢支部は,福井,金沢,富山各地方裁判所の管轄区域を,広島高等裁判所岡山支部は,岡山地方裁判所の管轄区域を,同高等裁判所松江支部は,鳥取,松江各地方裁判所の管轄区域を,福岡高等裁判所宮崎支部は,大分地方裁判所中佐伯支部及び鹿児島,宮崎各地方裁判所の管轄区域を, 同高等裁判所那覇支部は那覇地方裁判所の管轄区域を,仙台高等裁判所秋田支部は,秋田地方裁判所,山形地方裁判所中鶴岡,酒田各支部及び青森地方裁判所中五所川原,弘前各支部の管轄区域を管轄区域としている。
   
(注1) 地方裁判所の支部と土地管轄について
   判例「論旨は,本件は宇都宮地方裁判所栃木支部で審判すべきものであったのに宇都宮地方裁判所のいわゆる本庁でこれを審判したのは不法に管納を認めたものだというのである。 しかしながら,地方裁判所の支部は,地方裁判所の事務の一部を取り扱うためその地方裁判所の管轄区域内に設けられるもので(裁判所法第31条第1項),要するにその地方裁判所の一部であるにすぎず,いわゆる本庁と別個独立な裁判所なのではない。従って, ある事件をその地方裁判所の本庁において審判するか支部において群判するかは,同一裁判所内の事務の配分の問題であるに止まり,訴訟法にいう管轄の問題とはならないのである。本件についてこれを見ると,本件
はその犯罪地も被告人らの住所居所も栃木県内であるから,起訴当時の被告人らの現在地の問題を云々するまでもなく宇都宮地方裁判所の管轄に属するものであること明らかである。 しからばこれを宇都宮地方裁判所の本庁で審判したからといってなんら不法に管轄を認めたものとはいえず,その他原審の訴訟手続に管轄に関する規定に違背した点は認められないから,論旨は理由がない。」(東京高判昭和27年4月24日高裁刑集5巻5号666頁)
(注2)前同
   判例「(前略)地方裁判所の支部は地方裁判所の事務の一部を取扱うためその地方裁判所の管轄区域内に設けられるものであることは裁判所法第31条第1項の明定するところであって,要するにその地方裁判所の一部に過ぎない。換言すれば本庁と別個独立な裁判所であるのではない。従って或事件をその地方裁判所の本庁で審判するか支部で審判するかは, 同一裁判所内の事務配分問題であり訴訟法にいう管轄問題とはならないのである。本件についてこれを見るにその犯罪地も被告人等の住居も福島県内であるから元来福島地方裁判所の管轄に属するものであること洵に明らかである。従ってこれを福島地方栽判所の本庁で審判したからといって何等不法に管轄を認めたものとはいえず,その他記録を調査するも原審の訴訟手続に管轄に関する規定に違背した点は毫も認められない。」 (仙台高判昭和29年12月22日最高裁刑事判例要旨集9巻3号182頁)
(注3)地方裁判所支部で審理判決された事件についてその審理に関与しない同支部の本庁である地方検察庁の検察官がなした控訴申立の適否について
   判例「弁護人○○○○の答弁書における検察官の本件控斫の申立は不適法であるとの主張について按ずるに,検察庁法第5条の規定によれば,検察官はいずれかの検察庁に属し,その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において,その裁判所の管轄に属する事項について, 同法第4条に規定する職務を行うものであるところ,地方検察庁の支部は同法第2条第4項により明らかなように,地方検察庁に属する事務の一部を取扱うために置かれたものであって,同法及び刑事訴訟法中にその管轄を制限した規定はないので,汎く地方検察庁に属する事件につきこれを取扱う権限を有すると同時に本庁と独立の管轄権を有するものでないこと言を俟たない。 しかも検察官は上下を通じ公益上一体の機関として設けられたものであるから.上訴権者としての検察官は必ずしも原審における当該事件に関与した者に限られないこともまた明白である。それ故地方裁判所支部において審理判決された事件については,その審理に関与した同支部に対応する地方検察庁支部に属する検察官でない他の検察官であっても,該支部の本庁である地方検察庁に属する検察官である限り, 当然にこれに対し適法に控訴の申立をなし得るものと解すべきであって,本庁の検察官が本庁の一部に過ぎない支部において審理判決された事件について,支部の検察官事務取扱としてではなく,本庁の検察官たる資格において控訴の申立をなすことに何等違法とすべき理由は存しない。これを本件についてみるに本件は熊本地方裁判所八代支部において審理判決され,従ってこれに関与しなかった熊本地方検察庁検察官○○○○が同地方検察庁八代支部の検察官事務取扱としてではなく,本庁の検察官の資格において,控訴の申立をなしたものであること所輪のとおりではあるが, 前に説示したところによりこれを違法というを得ないこと自ずから明白である。所諭は採用することはできない。」(福岡高判昭和31年3月24日高裁刑集9巻3号211頁)


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