検察権の意義及び内容

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   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)10頁ないし20頁には,「第1節 検察権の意義及び内容」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察官が公益の代表者として持つ全ての権限,つまり庁法第4条及び第6条に規定する事務(注1)を行う権限を広義の検察権という。すなわち, (1)刑事について,公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求し,かつ,裁判の執行を監督し, (2)裁判所の権限に属するその他の事項についても,職務上必要と認めるときは,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べ, (3)公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行い, (4)いかなる犯罪についても捜査をする権限(注2)が, これである。
   しかし,通常は, これを狭義に解し,刑事について, (1)公訴を行い,(2)裁判所に法の正当な適用を請求し, (3)裁判の執行を監督し, (4)いかなる犯罪についても捜査をする権限を検察権という。
(注1) 検察事務と検察行政事務
   検察庁における事務のうち,庁法第4条及び第6条に規定する検察官固有の事務を検察事務と呼ぶ。これに対し,検察庁における検察事務以外の事務を検察行政事務と呼ぶ。検察行政事務には,検察事務の運営上, 当然これに随伴し検察事務遂行のため必要な間接的補助的行政事務(総務,会計,文書など)や,検察庁の長による統括事務がある。
(注2)第6条は,捜査権を創設的に規定したものではなく,確認的に規定したものと解される (後記3Ⅳ参照)。
   
2 刑罰権実現過程における検察権の重要性
   国家は,社会の秩序を維持する手段としての刑罰権を持つが, これを行使すべきかどうかを国家機関である検察官の判断に委ねている。検察官には, その判断の前提として,犯罪の捜査をする権限が認められる。
   検察官は,捜査の結果に基づき,国家として刑罰権を行使すべき場合かどうかを判断する。もし,検察官が消極に判断したときは,原則として刑罰権が行使されることはない。検察官が積極に判断したときは, まず検察官によって刑罰権の行使についての発議(起訴)が行われる。 これを受けて裁判所は,不告不理の原則(「不告」すなわち訴えがなければ,「不理」すなわち審理できないという原則。つまり裁判所は検察官からの公訴提起のない事件について審理・裁判をすることは許されないとの原則)の下に,刑罰権の有無及び限度を判定し刑罰権の内容を具体化する。最後に,検察官は裁判所によって具体化された刑罰権の内容の実現を指揮するという過程をたどるのである。
   このように,刑罰権実現の過程において,検察権の占める地位は,極めて重要である。したがって,検察権は,司法権そのものではなく,刑罰権の行使という国家目的を追求する一つの行政作用に属するが,これを行使する検察官の責任は重いといわなければならない。
   
3 検察権(狭義)の内容
I 刑事について公訴を行う権限(庁法第4条)
   検察官は,国家の刑事訴追機関として,公訴を提起すべきかどうかを判断し,起訴, 又は不起訴処分をする (注1,2,3)。起訴した場合においては,原告として,公訴の維持,遂行に当たり,特別の必要あるときは,公訴の取消し(刑訴法第257条)をする。
(注1)わが国の刑訴法は, 「公訴は,検察官がこれを行う。」 (刑訴法第247条)として,国家訴追主披・起訴独占主義を採り,また,「犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができる。」 (刑訴法第248条) として,起訴便宜主義を採ることを明らかにしている。
(注2) 検察官の少年事件の家裁送致(少年法第42条)は,裁判所の裁判を求める行為であるから,公訴を行う権限に包含されるものと解される。
(注3) 公訴権の行使に伴う裁量権の範囲については, いわゆるチッソ水俣病補償請求関係傷害事件について,弁護人の公訴権濫用の主張に対する次の判示が注目される。
   「検察官は,現行法制の下では,公訴の提起をするかしないかについて広範な裁量権を認められているのであって,公訴の提起が検察官の裁量権の逸脱によるものであったからといって直ちに無効となるものでないことは明らかである。たしかに,右の裁量権の行使については種々の考慮事項が刑訴法に列挙されていること (刑訴法第248条),検察官は公益の代表者として公訴権を行使すべきものとされていること (検察庁法第4条),さらに,刑訴法上の権限は公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ誠実にこれを行使すべく濫用にわたってはならないものとされていること (刑訴法第1条,刑訴規則第1条第2項)などを総合して考えると,検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできないが,それはたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するように極限的な場合に限られるものというべきである」
(最決昭和55年12月17日最高刑集34巻7号672頁)。
Ⅱ 刑事について裁判所に法の正当な適用を請求する権限(庁法第4条)
   保釈請求に対する決定に当たって意見を述べ,公判手続において事実及び法律の適用についての意見を陳述(論告・求刑) し,違法又は不当な裁判に対して上訴し,再審を請求し,非常上告をするなどの検察官の権限が, これに当たる。
   もとより,検察官は,単に原告官であるにとどまらず,公益の代表者であるから,法の正当な適用を求めることは, その義務である。検察官が,被告人の利益のためにも上訴し, あるいは,非常上告をし,場合によっては,無罪又は公訴棄却の諭告をすることがあり得るのも,この理由による。
Ⅲ 刑事について裁判の執行を監督する権限(庁法第4条)
   刑事事件における裁判が正当に執行されるように指揮監督することであって, 勾引状,勾留状等の執行を指揮し, あるいは,刑を言い渡した裁判の執行を指揮するなどの検察官の権限がこれに当たる。
lV 犯罪について捜査する権限(庁法第4,6条)
   検察官は, あらゆる犯罪について捜査する権限を有する。 これは,公訴権を独占する検察官がその権限行使の適正を期するため当然必要とされるものである。捜査権は,公訴権とは別個の重要な権限である が,究極においては,公訴権のために存在するものである。 ところで,庁法第4条,第5条,第6条の配列や,庁法第14条に「第4条及び第6条に規定する検察官の事務」 と規定されているところをみると,捜査権は第4条の検察事務とは別個の権限のようにもみえる。しかし,犯罪の捜査は,第4条にいわゆる「公訴を行う」 ことの必然的な前提であるので,犯罪捜査権は, 「公訴を行う」権限の中に当然含まれている, あるいは, 「公訴を行う」権限の必然的な前提として同条に規定されていると解される。 したがって,捜査権は第4条に根拠があり,第6条はそれを確認するとともに,第5条の事物管轄の制限を解いているものと解するのが相当である(第4節4参照) (注)。
   検察官の犯罪捜査権について,刑訴法第191条第1項は, 「検察官は,必要と認めるときは, 自ら犯罪を捜査することができる」 と規定し,捜査権限としては無定量に与えられているが,その実行は一応任意的とされている。 これに対して,刑訴法第189条第2項は,「司法警察職員は,犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとする」 と規定し,警察法第2条第1項は,「警察は ,・・・犯罪の予防,鎮圧及び捜査・・・に当ることをもってその責務とする」 と規定して,第一次捜査責任が司法警察職員にあることを示している。
   このように,現在の法制上,検察官の捜査責任は,司法警察職員のそれに比して,第二次的なものとされている。 しかし, これは,飽くまでも捜査についての責任の問題であって,権限の問題ではない。よく第一次捜査権は警察にあって,検察官は第二次捜査権しか有しない,というように言われているが,正確とはいえない。検察官の捜査権限自体が第二次的なものとされているのではない。捜査が司法警察職員によって行われることは,捜査の合目的性の見地から当然であるが,司法警察職員が行わない, あるいは行い得ない捜査を検察官が行うのも当然であり,また,捜査の法的抑制の見地から,検察官が司法警察職員の捜査を積極的,消極的に規制することが必要である。 こうした意味から,検察官の捜査権が司法警察職員のそれよりも広く認められるのである (被疑者の勾留請求,起訴前の証人尋問の請求の権限など)。こうして,検察官と司法警察職員の関係は,基本的には協力関係である (刑訴法第192条)が,検察官は司法警察職員に対して, 一 定の限度で指示及び指揮をすることができる (刑訴法第193条)とされているのである。
(注) 裁判所構成法第6条は,「検事ハ刑事二付公訴ヲ起シ其ノ取扱上必嬰ナル手続ヲ為シ・・・」 と規定し,検察官の捜査権は「其ノ取扱上必要ナル手続ヲ為」すことに含まれていると解されていた。
   
4 検察権(広義)の内容
   広義の検察権には,前記3の権限に加え, 次の権限が含まれる。
I 裁判所の権限に属するその他の事項について,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べる権限(庁法第4条)
   検察官は,公益の代表者として,裁判所の行う法の適用,実現については,刑事に限らず,広く関心を払い,相携えて法の支配の実現に努めなければならない。この意味において,検察官は,必要に応じ,刑事以外の事項についても,裁判所に対して,通知を求めたり,意見を述べたりする権限を有する。
   この権限を手続上明らかにしたものとしては,人事訴訟法第23条第1 ,2項,非訟事件手続法第40条等がある。
Ⅱ 公益の代表者として,他の法令がその権限に属させた事務を行う権限(庁法第4条)
   各種の法令において,数多くの権限が検察官に属せしめられている。
   他の法令が検察官の権限に属させた事務としては,次のようなものが挙げられる。
(1) 民法上の権限
① 後見開始の審判,保佐開始の審判又は補助開始の審判の舗求権,それらの取消請求権(第7,10,11,13,14,15,17,18条)
② 不在者の財産の管理に関する処分請求権,その取消請求権(第25条)
③ 不在者の財産の管理人改任請求権(第26条)
④ 不在者の財産の管理人に対する財産目録調製命令請求権(第27条)
⑤ 不適法婚の取消請求権(第744条)
⑥ 親権喪失の審判,親権停止の審判又は親権による管理権喪失の審判講求権(第834条,834条の2,835条)
⑦ 後見人の解任請求(第846条,任意後見契約に関する法律第8条)
⑧ 推定相続人の廃除確定前に相続が開始した場合の遺産管理処分請求権,家庭裁判所が選任した管理人に対する財産目録調製命令請求権(第895条)
⑨ 相続の承認,放棄期間の伸長請求権(第915条)
⑩ 相続財産の保存に関する処分請求権,家庭裁判所が選任した場合の遺産管理人に対する財産目録調製命令請求権(第918,926,940条)
⑪ 財産分離の請求があった相続財産について家庭裁判所が選任した管理人に対する財産目録調製命令請求権(第943,950条)
⑫ 相続財産法人の相続財産管理人選任請求権,同管理人に対する財産目録調製命令請求権(第952,953条)
⑬ 相続人捜索の公齋請求権(第958条)
(2) 民事訴訟法上の権限
   過料の裁判及び控訴濫用に対する金銭納付の裁判の執行命令権(第189条,303条)
(3) 人事訴訟法上の権限
① 婚姻の無効・取消しの訴え,離婚の訴え,協議上の離婚の無効,取消しの訴え,婚姻関係の存否の確認の訴え,嫡出否認の訴え,認知の訴え,認知の無効・取消しの訴え,父を定めることを目的とする訴え,実親子関係の存否の確認の訴え,養子縁組の無効・取消しの訴え,離縁の訴え,協議上の離縁の無効・取消しの訴え,養親子関係の存否の確認の訴えの相手方となる権限(第2,12条)
② 人事訴訟期日における事実の主張,証拠の申出をする権限(第23条)
(4) 非訟事件手統法上の権限
① 意見陳述・手続の期日立会権及び事件・手続の期日の通知を受ける権限(第40条)
② 裁判所その他の官庁等から検察官の請求によって裁判すべき場合が生じたことの通知を受ける権限(第41条)
③ 過料事件につき意見陳述権及び過料の裁判に対する即時抗告権(異議申立権を含む。)(第120条,122条)
④ 過料の裁判の執行命令権(第121条)
(5) 家事事件手続法上の権限
   裁判所その他の官庁等から検察官の申立てによって審判すべき場合が生じたことの通知を受ける権限(第48条)
(6) 人身保護法上の権限
   拘束者に対する命令を発した旨の通告を受ける権限・審問期日に立ち会う権限(第13条)
(7) 公職選挙法上の権限
① 組織的選挙運動管理者等,親族・秘書等の選挙犯罪による当選無効の訴の提起権(第210条,211条)
② 選挙関係訴訟における立会権(第218条)
(8)  弁護士法上の権限
   弁護士会又は日本弁誰士連合会の資格審査会・懲戒委員会・綱紀委員会の委員となる権限,解散した弁謹士会の清算人の選任・解任請求権(第43条の4,43条の5,52,66条の2,70条の3,外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措極法第38,56,58条)
(9) 公証人法上の権限
① 公正証書の原本の閲覧請求権(第44条)
② 公証人に対する懲戒としての過料の執行命令権(第84条)
(10) 刑事補償法上の権限
   刑事補償の請求に関し裁判所に意見を述べる権限(第14条)
(11) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律上の権限
   刑事施設を巡視する権限(第11条)
(12) 少年院法上の権限
   少年院を巡視する権限(第12条)
(13) 少年鑑別所法上の権限
   少年鑑別所を巡視する権限(第11条)
(14) 更生保護法上の権限
① 執行猶予の取消しに関し保護観察所の長から申出を受ける権限(第79条)
② 更生緊急保謹の要否に関し保護観察所の長に意見を述べる権限(第86条)
(15) 恩赦法上の権限
   判決原本に恩赦を付記する権限(第14条)
(16) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律上の権限
   公正取引委員会事務局の職員となる権限(第35条)
(17) 総合法律支援法上の権限
   検事総長の推薦する検察官1名が日本司法支援センターに置かれた審査委員会の委員となる権限(第29条)
(18) 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法上の権限
   日本国の法令による罪にかかる事件以外の刑事事件についての協力に関する権限(第18,19条)
(19) 日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法上の権限
   上記(18)に同じ(第10,11条)
(20) 宗教法人法上の権限
   宗教法人に対する解散命令の請求権,意見陳述権,即時抗告をする権限(第81条)
(21) 各法律によって設立され解散した法人の清算人の選任請求権・解任請求権
   地方独立行政法人法(第92条,93条),マンションの建替え等の円滑化に関する法律(第39条の2,39条の3),特定非営利活動促進法(第31条の6,31条の7),密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(第102条の2,102条の3) ,更生保護事業法(第31条の5,31条の6),政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律(第10条の4,10条の5),広域臨海環境整備センター法(第30条の2,30条の3),農住組合法(第76条の2,76条の3) ,森林組合法(第99条の3,99条の4),職員団体等に対する法人格の付与に関する法律(第31,32条),公有地の拡大の推進に関する法律(第22条の4,222条の5),勤労者財産形成促進法(第7条の27の2,7条の27の3) ,地方道路公社法(第35条の2,35条の3),都市再開発法(第46条の2,46条の3),職業能力開発促進法(第41条の4,41条の5),船員災害防止活動の促進に関する法律(第52条の2,52条の3),地方住宅供給公社法(第37条の2,37条の3),労働災害防止団体法(第33条の2,33条の3) ,漁業災害補償法(第57条の2,57条の3),建物の区分所有等に関する法律(第55条の4,55条の5),農業信用保証保険法(第50条の2,50条の3) ,商工会法(第53条の2,53条の3),たばこ耕作組合法(第50条の2,50条の3) ,国民健康保険法(第32条の5, 32条の6),土地区画整理法(第46条の2,46条の3),商工会議所法(第61条の2,61条の3),信用保証協会法(第28条の2,28条の3),漁船損害等補償法(第58条の2,58条の3),中小漁業融資保証法(第60条の2,60条の3),社会福祉法(第46条の6,46条の7),宗教法人法(第49条),税理士法(第49条の12の4,49条の12の5),港湾法(第10条の4,10条の5),中小企業等協同組合法(第82条の14の2,82条の14の3),土地改良法(第68条) ,私立学校法(第50条の5,50条の6),金融商品取引法(第100条の9,100条の10),損害保険料率算出団体に関する法律(第14条の7,14条の8),医療法(第56条の4,56条の5),水産業協同組合法(第85条の3,85条の4),農業協同組合法(第72条の37,72条の38),農業保険法(第76条,77条),農村負債整理組合法(第23条の4,23条の5),健康保険法施行令(第59条の4,59条の5),地方自治法(第260条の25,260条の26)
   以上のほか,法令上,検事総長のみに認められた権限として, 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」違反事件につき,公正取引委員会から告発を受理する権限(同法第74条),東京高等検察庁検事長及び同検察庁の検察官のみに認められた権限として, 「逃亡犯罪人引渡法による逃亡犯罪人の拘禁及びその引渡しについての審査請求等に関する諸権限, 「国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律」による引渡犯罪人の拘禁及びその引渡しについての審査請求等に関する諸権限,検事正のみに認められた権限として,「司法警察職員等指定応急措置法」,「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件」, 「麻薬及び向精神薬取締法」, 「漁業法」, 「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」による特別司法警察職員の指名に関する協議を行う権限,東京地方検察庁検事正及び同検察庁の検察官のみに認められた権限として, 「国際受刑者移送法」による受入移送に関する審査請求,受入収容状の執行指揮等に関する権限,地方検察庁の検事のみに認められた権限として, 「検察審査会法」による検察審査委員選定のくじに立ち会う権限(同法第13条)がある。

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